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JP2015040315A - 熱処理による寸法変化が少なく異方性の小さな金型用の合金工具鋼 - Google Patents

熱処理による寸法変化が少なく異方性の小さな金型用の合金工具鋼 Download PDF

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JP2015040315A JP2013170705A JP2013170705A JP2015040315A JP 2015040315 A JP2015040315 A JP 2015040315A JP 2013170705 A JP2013170705 A JP 2013170705A JP 2013170705 A JP2013170705 A JP 2013170705A JP 2015040315 A JP2015040315 A JP 2015040315A
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前田 雅人
Masahito Maeda
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Sanyo Special Steel Co Ltd
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Abstract

【課題】 焼入焼戻しの際に寸法変化の異方性の小さい性質を有する金型用の合金工具鋼を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.35〜0.95%、Si:0.60〜1.20%、Mn:0.1%〜0.6%、Cr:7.0〜13.0%、(Mo+W/2)0.5〜2.0%、V:1.2%以下からなり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼で、該鋼の焼戻温度510〜530℃における圧延方向の寸法変化状態を示す値をAおよび圧延方向に対する垂直方向の寸法変化状態を示す値をBとするとき、A=0.39C−0.54Si+0.17Crからなり、かつ、B=0.36C+0.54Si−0.05Crからなり、A:1.13〜2.10、かつ、B:0.09〜0.43であり、寸法変化率が−0.05%〜+0.05%である熱処理による寸法変化が少なく異方性の小さな金型用の合金工具鋼。
【選択図】 なし

Description

本発明は、合金工具鋼、詳しくは焼入焼戻しの際に熱処理による寸法変化(以下、特に断らない限り、単に「寸法変化」という。)の異方性が小さい性質を有する金型用の合金工具鋼に関する。
金型の製作は、焼なまし状態の素材を粗加工し、さらに必要硬さを得るために焼入焼戻し処理を行って製作される。その焼入焼戻しに伴って粗加工された材料中で組織変化が起こり寸法変化が生じる。また、素材の採取方向によって焼入焼戻し後の寸法変化の異方性があると粗加工時のサイズを決め難く、そこで寸法不足を避けるために粗加工時のサイズを大きくせざるを得ず、仕上加工する時に、多くの部分を切削して金型として作製している。そこで金型の製造コストや製造時間を低減するために、焼戻し後の寸法変化が小さく等方的であることが望まれる。
上記した要望に応えるべく、必要な硬さが得られる温度で、寸法変化の小さい鋼種が発明されている。しかし、一般的には、500℃程度まで焼戻しされているので、ピーク硬さが得られないだけでなく、その後にPVDなどの表面処理を行う際に、処理時に500℃以上に加熱されるため、焼戻しが進み、寸法変化が起きる。そのために、一般的にピーク硬さが得られる焼戻温度域(520〜530℃)における寸法変化が小さく、素材の採取方向による寸法変化の異方性の少ない鋼材が求められる。
そこで、このような鋼材として、化学成分およびCr偏析に注目した、炭化物分散による低寸法変化の工具鋼が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この鋼材は寸法変化が圧延方向のみで、垂直方向への寸法変化は考慮されておらず、垂直方向の線熱膨張率が0.1%以下になるかどうかが判らないので、垂直方向は粗加工をして、仕上加工時に削り取る量を多く設定する必要がある。
さらに、他の鋼材として、Ni、AlおよびCuを添加し金属間化合物の析出を利用して焼戻し時の膨張を抑えている鋼が開発されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、金属間化合物が増えると脆化しやすくなり、金型の廃却要因の一つである大割れが起こりやすくなり、この鋼材では寸法変化が小さいことによる切削コスト低減の効果が限定的になってしまう。
特許第3365624号公報 特許第4487257号公報
本発明の課題は、焼入焼戻しの際の寸法変化が小さく、かつ、異方性の小さい性質を有する合金工具鋼を提供することである。
上記の課題を解決するための本発明の手段は、質量%で、C:0.35〜0.95%、Si:0.60〜1.20%、Mn:0.1〜0.6%、Cr:7.0〜13.0%、(Mo+W/2)0.5〜2.0%、V:1.2%以下からなり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼で、該鋼の焼戻温度510〜530℃における圧延方向の寸法変化状態を示す値をAおよび圧延方向に対する垂直方向の寸法変化状態を示す値をBとするとき、A=0.39C−0.54Si+0.17Crからなり、かつ、B=0.36C+0.54Si−0.05Crからなり、A:1.13〜2.10、かつ、B:0.09〜0.43であり、寸法変化率が−0.05%〜+0.05%であることを特徴とする熱処理による寸法変化が少なく、かつ、寸法変化の異方性の小さな金型用の合金工具鋼である。
以上の手段とすることで、本願の金型用の合金工具鋼は、圧延方向とこの方向に対する垂直方向の焼入焼戻しの際の熱処理による寸法変化率が−0.05%〜+0.05%内である異方性の小さな等方的な性質を有しており、したがって、この合金工具鋼を用いて金型を製造するとき、粗加工時の寸法を必要以上に大きく取らずに済むので材料費が節減でき、また仕上げ加工の加工費も低減できるので、寸法精度に優れた金型を低コストで製造できる極めて優れた効果を奏する。
本発明における焼入焼戻しの際の寸法変化の挙動を示す原理図である。
本発明の実施の形態について、表および図を参照して説明する。先ず、最初に本発明に係る鋼の化学成分の成分範囲を限定した理由およびこれらの化学成分の組合せからなる式であるAおよびBの値を限定した理由について説明する。なお、これらにおいて、%は質量%を示すものとする。
C:0.35〜0.95%
Cは、寸法変化に影響するセメンタイトの析出反応、残留オーステナイトのマルテンサイト化や二次炭化物の析出反応に対して寄与する元素である。また、固溶強化による硬さを向上させるとともに焼入性を高める元素である。その効果を得るためには、Cは0.35%以上必要である。一方、Cは0.95%より多く含有されると粗大な1次炭化物を形成し、寸法変化の異方性が大きくなる。そこで、Cは0.35〜0.95%とする。
Si:0.60〜1.20%
Siは、寸法変化に影響するセメンタイトの析出反応、および、二次炭化物の析出反応に対して寄与する元素である。また、焼入性および基地の硬さを得るために必要な元素である。その効果を得るためには、Siは0.60%以上必要である。一方、Siは1.20%より多く含有されると靱性および加工性が悪化する。そこで、Siは0.60〜1.20%とする。
Mn:0.1〜0.6%
Mnは、脱酸剤として必要な元素で、また焼入性を得るために必要な元素である。その効果を得るためには、Mnは0.1%以上必要である。しかし、Mnは0.6%より多すぎると、マトリックスを脆化させ、靱性を悪化する。そこで、Mnは0.6%以下とする。
Cr:7.0〜13.0%
Crは、寸法変化に影響するセメンタイトの析出反応、および、残留オーステナイトのマルテンサイト化や二次炭化物の析出反応に対して寄与する元素である。また、焼入性を高めるとともに、炭化物を形成するのに必要な元素である。その効果を得るためには、Crは7.0%以上必要である。一方、Crは13.0%より多く含有されると、粗大な炭化物を形成して偏析し、寸法変化の異方性が大きくなる。そこで、Crは7.0〜13.0%とする。
(Mo+W/2):0.5〜2.0%、
Moの質量とWの半分の質量の合計量、つまり(Mo+W/2)は、硬質炭化物を形成し、硬さ、耐摩耗性を向上させるとともに、焼入性および焼戻し軟化抵抗性を高める元素である。その効果を得るためには、(Mo+W/2)は0.5%以上必要である。一方、(Mo+W/2)は粗大な炭化物および炭化物偏析を形成し寸法変化の異方性が大きくなる。そこで、(Mo+W/2)は0.5〜2.0%とする。
V:1.2%以下
Vは、鋼材中に炭化バナジウムとして微細に分散して析出し、この微細に分散して析出した炭化バナジウムが他の炭化物の析出起点となり、炭化物偏析を抑制する働きを有する元素であるため添加しても良い。しかし、Vは1.2%より多く含有されると、炭化バナジウム自体が粗大な炭化物および炭化物偏析を形成して、寸法変化の異方性が大きくなる。そこで、Vは1.2%以下とする。
A:1.13〜2.10、ただし、A=0.39C−0.54Si+0.17Cr(以下、この式を「A式」という。)とする。
Aは、焼戻温度の510〜530℃における圧延方向の寸法変化状態を表す値である。図1に示すように、焼戻温度510℃〜530℃は、膨張傾向となる温度域であり、かつピーク硬さが得られる温度域である。すなわち510℃および530℃での寸法変化率が共に寸法変化率が−0.05〜+0.05%の範囲内に入る必要がある。この温度域での寸法変化は、焼戻し時に起こるセメンタイトの析出反応、および、残留オーステナイトのマルテンサイト化や二次炭化物の析出反応が足し合わされたものである。Cは、焼入れ時および残留オーステナイトのマルテンサイト化時に結晶格子を広げて膨張を起こし、またセメンタイトの析出反応や二次炭化物の析出反応を促進する。Siは、セメンタイト析出の抑制および二次炭化物析出の抑制をする。Crはセメンタイト析出を抑制し、残留オーステナイトのマルテンサイト化や二次炭化物の析出反応を促進する。これら成分の影響に加え、垂直方向の膨張や収縮が圧延方向の寸法変化に影響する。これら成分の影響と垂直方向の寸法変化の影響を考慮すると、圧延方向の寸法変化状態はAで表すことが出来、Aが1.13未満であると、焼戻温度が510℃のときの圧延方向の寸法変化率は−0.05%よりさらに−側へ大きな数値の%となる。一方、Aが2.10を超えると、焼戻温度が530℃のときの圧延方向の寸法変化率は+0.05%よりさらに+側へ大きな数値の%となる。そこで、圧延方向の寸法変化率を−0.05〜+0.05%とするために、Aは1.13〜2.10とする。
B:0.09〜0.43、ただし、B=0.36C+0.54Si−0.05Cr(以下、この式を「B式」という。)とする。
Bは、Aと同様に、焼戻し時に起こるセメンタイトの析出反応、および、残留オーステナイトのマルテンサイト化や二次炭化物の析出反応へのC、Si、Crの影響と圧延方向への膨張収縮からの影響を考慮した、焼戻温度510℃〜530℃における垂直方向の寸法変化状態を表した値であり、Bが0.09未満であると、焼戻温度が530℃のときの垂直方向の寸法変化率は+0.05%よりさらに+側への大きな数値の%となる。一方、Bが0.43を超えると、焼戻温度が510℃のときの垂直方向の寸法変化率は−0.05%よりさらに−側への大きな数値の%となる。そこで、垂直方向の寸法変化率を−0.05〜+0.05%とするために、Bは0.09〜0.43とする。
焼入焼戻しの際の寸法変化の挙動の原理図を図1として示す。
本発明における金型用の合金工具鋼は、焼入れ後には、マルテンサイトに残留オーステナイトが混じった組織となる。この合金工具鋼では、主体となっているマルテンサイト組織中に固溶するCによって、結晶格子が押し広げられて膨張する。そこで、焼戻温度を上げてゆくと、縦軸に焼入れ直前の寸法を標準とした寸法変化率をとり、横軸に焼戻温度をとってグラフを図1に示す。この図1のグラフにおいて、横軸の(A)域では、セメンタイトが析出して鋼の寸法変化が収縮する傾向となって、グラフは焼戻温度の上昇に連れて右下がりになっている。一方、横軸の(B)域では、焼入れ時に発生していた残留オーステナイトのマルテンサイト化する量が焼戻温度の上昇に連れて多くなり、また二次炭化物の析出も生じることで、膨張傾向が発生して、グラフは温度上昇に連れて急激な右上がりとなっている。
ところで、これらのグラフに見られる鋼の反応としては、(A)域ではSiおよびCrによってセメンタイトの析出が抑制され、(B)域ではC、SiおよびCrによって残留オーステナイトのマルテンサイト化および二次炭化物の析出が促進されることが定性的に知られている。本発明における510℃〜530℃の寸法変化は、焼入れ時のマルテンサイト化による膨張も含め、(A)域および(B)域での反応が足し合わされた状態となって生じている。また、これらの反応による寸法変化量は、鋼素材中の炭化物に影響される。炭化物が一方向に偏って存在すると、炭化物は寸法変化を殆ど起こさないため、その方向への膨張や収縮が抑制される。そのため、鋼素材の圧延方向あるいは垂直方向による寸法変化の異方性が生じる。
そこで、発明者は寸法変化に及ぼす諸因子の影響を詳細に調査して考究した結果、本発明の請求項に示す合金成分範囲内の鋼材であれば、鋼中のC、Si、Crの含有量により寸法変化を制御できることを発見した。また、鋼素材中の炭化物の分布は、主に炭化物形成元素であるC、Crの含有量の影響を受けており、これらの元素の含有量により寸法変化の異方性が制御できることを発見した。これらの知見を基にして鋭意開発を進めた結果、本発明の請求項に示す合金成分および式Aおよび式Bを満たすことで、鋼素材の向きに関係なく、510℃〜530℃における寸法変化を小さく抑えられることを見出した。
表1に示す、化学成分を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、さらに式Aおよび式Bの値を有する、No.A〜Jの10種の発明鋼およびNo.K〜Vの12種の比較鋼である、各合金工具鋼の100kgを真空誘導溶解炉で溶製し、得られた鋼を1000℃〜1200℃の圧延温度で圧延して径60mmの鋼材とした後に焼なました。なお、表1において、各成分の値は質量%で示し、網かけで示す成分は本願の請求項における成分範囲を外れていることを示す。
Figure 2015040315
次いで、上記の圧延して焼なましを行った、発明鋼のNo.A〜Jの10種および比較鋼のNo.K〜Vの12種のそれぞれの鋼からなる径60mmの鋼材を50mmの長さで切り出して、熱処理前の圧延方向およびその垂直方向の寸法をマイクロメーターで測定した。この測定した長さを試験片の寸法変化を求めるための基準値とした。これらの試験片を1030℃で1時間加熱した後、窒素ガスによる冷却を行って焼入処理を行った。さらに、これらの試験片を510℃に1.5時間加熱して焼戻した後に空冷する熱処理、または530℃に1.5時間加熱して焼戻した後に空冷する熱処理の1回ずつ計2回の焼戻処理を行った。なお、これらの熱処理は試験片が酸化しないように真空熱処理炉を用いて行った。さらに、上記の熱処理後の試験片の圧延方向および垂直方向の長さをマイクロメーターで測定して、基準値に対する長さの変化割合である寸法変化率を求めた。
寸法変化率は、次式により求めた。すなわち、寸法変化率={(L1−L0)×100/L0}(%)、ただし、L0は焼入れ前の基準寸法、L1は焼戻し後の寸法を示す。表2に、これらの寸法変化率による評価結果を示す。
Figure 2015040315
本願の発明鋼を構成する元素が、表1において、化学成分の成分範囲が請求項で規定する範囲内のものであっても、式Aまたは式Bの値が請求項で規定する限定範囲から外れている比較鋼のNo.のものは、寸法変化率が−0.05%〜0.05%の範囲から外れている。例えば、表1の比較鋼のNo.Nは、化学成分は全て請求項の範囲内のものであるが、式Aの値は1.04であり、この値は請求項で規定する式Aの下限値の1.13よりも小さく、さらに式Bの値は0.44であり、この値は請求項で規定する式Bの上限値の0.43よりも大きく、これらの値は請求項で規定する値の範囲外である。したがって、表2において、No.Nは、510℃焼戻しでは、圧延方向で寸法変化率が−0.06%で、垂直方向で寸法変化率が−0.06%であり、これらの510℃焼戻しの値は請求項で規定する寸法変化率の範囲から外れている。しかし、530℃焼戻しでは、圧延方向で寸法変化率が−0.04%で、垂直方向で寸法変化率が−0.02%であり、これらの530℃焼戻しの値は請求項で規定する寸法変化率の範囲内である。
一方、本願の発明鋼を構成する元素が、表1における化学成分の成分範囲が請求項で規定する成分範囲から外れる比較鋼のNo.のものは、表2における寸法変化率が−0.05%〜0.05%の範囲から大きく外れている。また、比較鋼のNo.U、No.Vに関しては、表1において、式Aの値および式Bの値は請求項の範囲内の1.13≦A≦2.10を満足する1.26、0.18であり、さらに0.09≦B≦0.43を満足する0.24、0.27でありながら、530℃焼戻しにおいて、圧延方向の−0.01、−0.02から垂直方向の0.08、0.07となっており、したがって異方性が大きくなっている。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.35〜0.95%、Si:0.60〜1.20%、Mn:0.1%〜0.6%、Cr:7.0〜13.0%、(Mo+W/2)0.5〜2.0%、V:1.2%以下からなり、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼で、この鋼の焼戻温度510〜530℃における圧延方向の寸法変化状態を示す値をAおよび圧延方向に対する垂直方向の寸法変化状態を示す値をBとするとき、A=0.39C−0.54Si+0.17Crからなり、かつ、B=0.36C+0.54Si−0.05Crからなり、A:1.13〜2.10、かつ、B:0.09〜0.43であり、寸法変化率が−0.05%〜+0.05%であることを特徴とする熱処理による寸法変化が少なく異方性の小さな金型用の合金工具鋼。
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