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JP2014521106A - 電子線回折データの収集・処理方法 - Google Patents

電子線回折データの収集・処理方法 Download PDF

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JP2014521106A JP2014521819A JP2014521819A JP2014521106A JP 2014521106 A JP2014521106 A JP 2014521106A JP 2014521819 A JP2014521819 A JP 2014521819A JP 2014521819 A JP2014521819 A JP 2014521819A JP 2014521106 A JP2014521106 A JP 2014521106A
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Abstract

電子線回折を用い、結晶性、ナノ結晶性及び非晶質無機、有機及び有機金属化合物からPDFを得る方法。

Description

[優先権の主張]
本出願は、2011年7月21日に出願された米国特許仮出願第61/510,280号及び2012年4月19日に出願された米国特許仮出願第61/635,685号に対する優先権を主張するものであり、これら仮出願の全内容は、完全に本明細書に援用される。
[連邦支援研究に関する記述]
本発明は、政府の支援による、エネルギー省基礎エネルギー科学局によるアカウントDE−AC02−98CH10886及び米国科学財団による助成金第DMR−07号の下に行われたものである。米国政府は、本発明に特定の権利を有する。
本発明の主題は、特に、全散乱電子線回折データ等の電子線回折データの収集・処理方法に関する。
ナノ構造バルク材料及びナノ多孔質材料等の非晶質及びナノ結晶材料は、結晶性バルク材料とは異なる性質を有する。このことは、無機化合物、有機又は有機金属材料、及び金属有機錯体にも当てはまる。これらの例として、金属ナノ粒子及びナノ材料;有機顔料(色は結晶子サイズに依存し得る);有機半導体(光学及び電気的性質は結晶性に依存する);及び医薬化合物(ナノ結晶及び非晶質材料は、一般に高い溶解度と生体利用効率を示す(Kim等、2008、Yu、2001))が挙げられる。数種の医薬品有効成分(active pharmaceutical ingredient (API))が、結晶化抑制剤の存在下、低温ミリング、溶融押出、噴霧乾燥、又は急速沈降等の技術により、ナノ結晶又は非晶質粉末として工業的に生産されている(Prasad等、2010)。更に、APIのうちの数種は全く結晶化できないため、非晶質の形態で生産され流通される。
これらの非晶質又はナノ結晶材料の性質は、それらの合成又は処理条件に強く依存する。通常、単一の「非晶質状態」というものは存在せず、同一の化学組成を有するが処理履歴の異なる材料においては、ナノスケールにおける実質的な構造上の差異がある。実際、同一の分子系における異なる「非晶質」バッチの分析データにバラツキがあることが、DSC、IR及びラマンデータに反映される。
これらの材料を特徴づける方法が必要とされているにもかかわらず、ナノ材料のサイズ、即ち構造的干渉性の範囲が小さい場合(例えば10nm未満)、
例えばリートベルト法(Rietveld、1969;Young、1993)等の従来の粉末回折技術によっては、通常、信頼性のある構造情報を得ることができない(Billinge&Levin、2007;Palosz等、2002)。X線及び中性子線粉末回折データの原子対相関関数(pair distribution function (PDF))解析は、このような状況におけるナノ構造決定に対する強力な方法である。近年、モデリングの改良もあいまって、2D検出器を用いた高速データ収集法の進展により、このアプローチが多数の様々な化学研究に広く適用可能となっている。ここ20年の間に、X線回折(x−ray diffraction:XRD)及び中性子回折(neutron diffraction:ND)は、構造的難易度の高い物質からPDFデータを得るための主要なプローブとなっている。
PDF解析は、数十年にわたり、無機液体及びガラスの研究における標準的なツールとされている(Warren 1969、Klug&Alexander、1974、Wagner 1978、Waseda、1980、Wright 1985、Barnes等 2003)。近年、PDF法は、短波長(熱外)中性子及び高エネルギーX線を用いたナノ構造材料の研究に広く適用されている(Egami&Billinge、2003;Billinge&Kanatzidis、2004;Billinge 2008;Young&Goodwin、2011)。PDF法は、C60(Egami,and Billinge 2003)、医薬材料(Billinge等、2010、Dykne等、2011)、有機顔料(Schmidt、2010)、有機金属化合物(Petkov&Billinge、2002)、及び金属有機錯体(Wolf等、2012)等の分子化合物にはうまく適用されている。
PDF解析用の粉末ダイアグラムは、通常、スパレーション中性子源又はシンクロトロンX線源を用いて記録される。一般に、X線実験データからは、短波長源(Mo又はAgアノード)を用いた場合にのみ、特徴識別に十分な質のPDFが得られる(例えば、Dykne等、2011参照)。この実験構成は実験室内で実現可能であるが、このような装置は極めて稀である。従って、このような装置的要因が、PDF法を一般的な特性解析ツールとして広く利用することに対しての障壁となっている。電子を用いたPDF実験にはこのような制約はなく、透過型電子顕微鏡(TEM)は多くの実験室で利用可能である。更に、TEMは、測定パラメーターに関して自由度が高い。操作者は、カメラ長を容易に変更でき、必要に応じて種々のQレンジや電子の波長を設定することができる。更に、操作者は、撮像と回折モードを容易に切り替えることができ、試料のどの領域から回折パターンを記録するかを選択することができる。これらの可能性のため、電子線回折データのPDF解析は、X線や中性子回折データのPDF解析に対する有力な代替法である。
電子線回折(electron diffraction:ED)は、ナノ単結晶の構造特性解析に長く用いられている(Dorset 1995)。多重散乱の寄与が大きいため、EDは、アブイニシオ構造解析手法としては殆ど用いられておらず、主に、粉末X線解析(Gorelik等、2010)、NMR(Lotsch等、2007)、や計算手法(Voigt−Martin、1995)等の他の構造法の組み合わせに基づいた構造解析を支援するものであった。近年、3D電子線解析手法の発展とともに、有機材料のアブイニシオ構造解析が可能となった(Kolb等、2010;Gorelik等、2012)。
粉末電子線回折(リングパターンが得られる)は通常、構造特徴識別に用いられる(Labar、2004;Moeck&Rouvimov、2009)。リング内での強度変化は、ナノ結晶の組織解析にも用いることができるが(Gemmi等、2011)、 通常、リングは方位角で積分され、1D回折プロファイルとされる。電子顕微鏡において定量的信頼性の高い粉末回折強度が得られることは非常にまれであり、文献においても粉末電子線回折データの定量的な構造解析は数例あるのみであり、それらはすべて無機化合物のものである(Weirich等、2000、Kim等、2009、Luo等、2011)。これには多数の理由があり、電子の動力学的に回折しようとする強い傾向、少量の物質から良好な粉末平均を得ることの難しさ、及び電子ビームの試料にダメージを与える性質などが挙げられる。粉末電子線回折データを用いた有機化合物に対するリートベルト精密化は、これまでになされていない。
電子を定量的構造研究に用いることの制約として、電子が物質と相互作用することがある。生じる散乱においては多重散乱が重要なものとなり、一般に、動力学的散乱理論を用い定量的な解釈をすることが必要とされ(Cowley、2004)、X線結晶学で用いられる単純な運動学的散乱理論(Warren、1990)やPDF解析(Warren、1990;Debye、1915)は、厳密には有用ではない。このことは、試料の体積が十分に小さく(例えば、通常厚さが数nm)、電子が試料から出るまでの間に多重散乱の起きる確率が高くない場合、又は、例えば非晶質材料からの散乱や結晶の晶帯軸から離れた散乱等、試料からの散乱の非干渉性が高い場合には回避できる。後者の場合には、かなりの多重散乱が起こり得るが、通常、十分に非干渉的であり、多重散乱をバックグラウンドとみなし差し引くことができ、得られる干渉性信号は運動学的に取り扱うことができる。このことは、急成長中の分野である電子線結晶学において利用されており、先行研究におけるガラスからの電子線回折において実証されている(例えば、Moss等、1969;Hirotsu等、2003;Norenberg等、1999参照)が、これらの研究において、ePDFの定量的モデリングは試みられていない。この点において、小さなナノ粒子の研究は特に好適なものであり得る。試料は通常薄く、その厚さはグリッド上に薄く分散するナノ粒子の直径が限度となる。また、通常、ナノ粒子構造は、ブラッグピークを大きく広げてしまう有限サイズ効果、及び表面及びバルク緩和によるナノ粒子構造の低い対称性のため、結晶よりも干渉性が低い。幸運にも、PDF法を用いて非常に有益な研究を行うことができる小さなナノ粒子は通常、これらの近似的条件をまさに満たすものである。
電子ビームと有機、有機金属、又は金属有機錯体である試料との相互作用は試料にダメージを与えることがあり、また測定しようとしている構造を変えてしまうこともある。本明細書に説明される方法において、ビームの強度は、得られるPDFの信頼性を変えることのないように較正することができる。
本開示の例示的実施形態は、多数の研究室にある標準的な透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて定量的信頼性を有するPDFを得るための方法、装置、及びコンピューター可読媒体を提供する。例えば、得られる電子PDF(ePDFs)を、PDFgui(Farrow等、2007)等のPDF精密化プログラムを用いてモデル化し局所的構造に関する定量的構造情報を抽出することができる。X線PDF(xPDF)及び中性子線PDF(nPDF)による研究は、シンクロトロンからの強X線及び中性子線源を利用する必要がある(により達成される)。それに対して、通常TEMは既に常用されているナノ粒子特性解析法の一部である(Wang等、2000;Won等、2006)。これらのことは、ナノ構造特性解析用のPDF法のより広い用途への適用に対して門戸を開いている。従って、本開示の例示的実施形態においては、ナノ粒子から、バルク物質のリートベルト精密化により得られる情報とほぼ同等な定量的構造情報を、余分な手間を殆どかけずに容易に取得可能となる。本開示の実施形態においては、試料を典型的に表すとは言い難い小さな領域から情報を得るのではなく、多数のナノ粒子から平均信号を得ることにより高分解能TEMを補完することができる。
実空間像及び構造解析に適した回折データを物質の同一場所から同時に得ることができるということは大きな利点であり、試料の特性解析のためのより完全な情報が得られる。ePDFにおいて必要とされる物質の量は、xPDFやnPDF測定における量に比べて少なく、これは時として、薄膜を研究できるということと共に、大きな利点である。物質に関して可能な限り多くの情報が必要である場合、ePDF研究をxPDF及びnPDF研究と組み合わせて行い、これらのプローブの相補性を利用することが望ましい。
本開示の例示的実施形態は、定量的精密化が可能なePDFを得ることができる電子線回折(ED)データを数種のナノ粒子系から収集するために利用、実施、活用することができ、これは標準的なPDFモデリングソフトウェアを用いて成功裏にモデル化できる。このことは、本開示の例示的実施形態が、ナノ粒子の研究に対して実行可能な潜在的に有力な技法であることを示している。
更なる分析方法が、米国特許出願第12/802,064,13/310,683、61/500,787、61/525,602、61/563,258、及び61/510,280にも記載されており、それらの全内容を参照することにより、本明細書に援用される。
本開示の一態様は、電子線回折を用いた、試料の原子対相関関数の決定方法である。この方法において、試料は電子ビームで露光される。試料によって、電子はビームから散乱し、散乱した電子は検出されて試料の回折パターンが生成される。試料又は電子ビームを操作し、試料の電子ビームに対する露光を制限する。試料の電子ビームに対する露光を制限することにより、試料に対するダメージを減らすことができる。最後に、信号を解析し試料の原子対相関関数を決定する。
本態様の一実施形態において、試料は薄膜であってもよい。他の実施形態において、試料物質の任意の一部分は、電子線量を臨界電子線量より低く保ち露光される。例えば、臨界電子線量は、ブラッグ強度の減衰が37%(約1/e)未満となる電子線量としてもよい。他の実施形態において、電子線量は、ブラッグ強度の減衰が5%未満となる値よりも低く保たれる。また、臨界電子線量は、PDFにおける、近接ピークではないピークの高さの変化が37%未満となる電子線量としてもよい。他の実施形態において、電子線量は、PDFにおける、近接ピークではないピークの高さの変化が5%未満となる値よりも低く保たれる。また、臨界電子線量は、PDFにおける、近接ピークではないピークの高さの変化が5%未満となる電子線量としてもよい。他の実施形態において、信号は、低電圧電子顕微鏡によって得られたものであってもよい。電子顕微鏡は、例えば80kV未満、50kV未満、10kV未満又は5kV未満の電圧で動作してもよい。他の実施形態において、信号は、例えばSTEMユニットを搭載した透過型電子顕微鏡によって得られたものであってもよい。更なる実施形態において、回折パターンは、二次元画像として記録される。更なる実施形態において、電子ビームは試料を透過し検出器の隅又は中心に衝突するものであってもよく、又は検出器に衝突しなくてもよい。回折パターンは、透過及び反射配置のいずれによって得られたものでもよい。
他の実施形態において、本方法は、適切に正規化された方位角積分による画像解析を含んでもよい。この実施形態において、回折パターンは二次元画像として記録され、中心ビームの位置が記録される。次いで、画像は、中心ビーム位置の周りで方位角積分され、独立変数xの関数である積分強度が得られる。独立変数xは、Q、S、2θ、又は当業者に公知の任意の有用な独立変数であってもよい。バックグラウンド強度も方位角積分し、独立変数の関数としてのバックグラウンドを得てもよく、このバックグラウンド強度を積分強度から差し引いてもよい。バックグラウンドの減算は、方位角積分工程以前の未処理画像に対して行うことも可能であり、これが好ましい場合もある。強度がQの関数として得られると、強度収差が補正され、i(x)が得られる。必要に応じ、i(x)を更に正規化しF(Q)を得てもよい。次いで、F(Q)をフーリエ変換し対相関関数を得てもよい。
他の実施形態において、試料は有機物質であり、例えば、医薬品有効成分、有機顔料、有機染料、有機高分子物質、有機半導体、又は有機液晶であってもよい。
他の実施形態において、試料は有機金属物質であり、例えば、医薬品有効成分又は触媒であってもよい。他の実施形態において、試料は金属有機錯体であり、例えば、レーキ顔料、金属含有有機染料、又は高分子金属有機物質であってもよい。
他の態様において、本開示は、有機又は有機金属試料における1以上の実質的な未露光領域から電子線回折データを収集する方法について説明する。有機又は有機金属試料は、医薬組成物及び/又は医薬品有効成分を含む。本方法において、試料は、試料と交差する位置における直径がDである電子ビームで照射され、試料から電子線回折データが収集される。この手順は、試料の他の領域において繰り返してもよい。
一実施形態において、直径DSAの制限視野絞りを試料と検出器との間に挿入してもよい。DはDSAよりも大きくてもよい。本実施形態の更なる態様においては、D又はDSAは、試料内の物理的特徴のサイズに応じて選択してもよい。例えば、DSAは、信号が試料の一領域のみから収集されるように選択してもよい。他の実施形態において、電子ビームは、平行ビームであっても集束ビームであってもよい。他の実施形態において、集光絞りが電子線源と試料との間に挿入されていてもよい。他の実施形態において、Dは、数ナノメートル程度に小さくてもよい。詳細には、Dは10nm、5nm、2nm、又は1nmであってもよい。
他の態様において、本開示は、有機又は有機金属物質に関する一つ以上の原子対相関関数の決定方法について説明する。本態様の一実施形態において、試料における数個の領域が識別される。電子線回折信号は、各々の領域から得られ、各領域からの信号は分類される。識別された特異的構造形態の数を求め、各特異的構造形態に関するPDFも求められる。
本態様の一実施形態において、信号は、試料の電子顕微鏡画像の目視検査に基づいて分類してもよい。
他の実施形態において、信号は、回折パターンの目視検査に基づいて分類してもよい。他の実施形態において、識別された構造タイプの数及び種類は、全回折パターンの組を全体として調べることによって求めてもよい。更に他の実施形態において、得られた信号は、回折パターンが試料から生じたものなのか基板から生じたものなのかによって分類してもよい。また、試料が銅メッシュを有する穴あき炭素グリッドに支持されている場合、信号は、回折パターンの全体又は一部が、物質から生じているのか、炭素フィルムから生じているのか、又は銅グリッドから生じているのかに応じて分類してもよい。
他の態様において、本開示は、電子線回折を用いた試料の原子対相関関数の決定方法である。本方法において、試料は電子ビームで露光される。試料において電子はビームから散乱し、散乱した電子は検出されて試料の回折パターンが生成される。最後に、信号を解析し試料の原子対相関関数を決定する。
本態様の一実施形態において、試料は薄膜であってもよく、又は電子の散乱が低減されるように調整された厚さを有するものであってもよい。他の実施形態において、信号は、低電圧電子顕微鏡によって得られたものであってもよい。電子顕微鏡は、例えば80kV未満、50kV未満、10kV未満又は5kV未満の電圧で動作してもよい。他の実施形態において、信号は、例えばSTEMユニットを搭載した透過型電子顕微鏡によって得られたものであってもよい。更なる実施形態において、回折パターンは、二次元画像として記録される。更なる実施形態において、電子ビームは試料を透過し検出器の隅又は中心に衝突するものであってもよく、又は検出器に衝突しなくてもよい。回折パターンは、透過及び反射配置のいずれによって得られたものでもよい。
他の実施形態において、本方法は、適切に正規化された方位角積分による画像解析を含んでもよい。この実施形態において、回折パターンは二次元画像として記録され、中心ビームの位置が記録される。次いで、画像は、中心ビーム位置の周りで方位角積分され、独立変数xの関数である積分強度が得られる。独立変数xは、Q、S、2θ、又は当業者に公知の任意の有用な独立変数であってもよい。バックグラウンド強度も方位角積分し、独立変数の関数としてのバックグラウンドを得てもよく、このバックグラウンド強度を積分強度から差し引いてもよい。バックグラウンドの減算は、方位角積分工程以前の未処理画像に対して行うことも可能であり、これが好ましい場合もある。強度がQの関数として得られると、強度収差が補正され、i(x)が得られる。必要に応じ、i(x)を更に正規化しF(Q)を得てもよい。次いで、F(Q)をフーリエ変換し対相関関数を得てもよい。
他の態様において、本開示は、本明細書に開示された方法に従って試料の原子対相関関数を生成するための命令を含んだ非一時的コンピューターアクセス可能媒体について説明する。本態様の一実施形態において、試料は、電子の散乱が低減されるようにサイズが調整されていてもよい。
他の態様において、本開示は、本明細書に開示された方法に従って試料の原子対相関関数を生成するためのシステムについて説明する。このシステムは、本明細書に開示された方法に従って試料の原子対相関関数を生成するための命令を含んだ非一時的コンピューターアクセス可能媒体を含む。本態様の一実施形態において、試料は、電子の散乱が低減されるようにサイズが調整されていてもよい。
正規化されたX線及び電子線形状因子の比較を示す。 2.7nmAuフィルムのTEM及びEDデータを示す。 電子線及びX線回折によって測定した、AuフィルムのRSFとPDFを示す。 100nmAuナノ粒子のTEM及びEDデータを示す。 電子線及びX線回折によって測定した、100nmAuナノ粒子のRSFとPDFを示す。 NaClフィルムのTEM及びEDデータを示す。 電子線及びX線回折によって測定した、NaClフィルムのRSFとPDFを示す。 HgSナノ粒子のTEM及びEDデータを示す。 電子線回折によって測定した、HgSナノ粒子のRSFとPDFを示す。 (a)塩素化銅フタロシアニン(CuPcCl)の化学構造、(b)銅フタロシアニン(CuPc)の化学構造、及び(c)キナクリドン(QA)の化学構造を示す。 MoOのナノ回折パターン、及び有効カメラ長に対する回折レンズ電流のグラフを示す。 CuPcClからのTEM及びSTEM電子線回折データの取得を説明する。 CuPcCl試料からの電子線回折パターンの擬似カラー画像を示す。 CuPcClの電子線回折及びX線回折データの比較を示す。 β−CuPcの電子線及びX線回折データの比較を示す。 ePDF(1608)とβ−CuPcの既知の結晶構造について計算したPDF(1604)との比較を示す。 γ−QAの電子線及びX線回折データの比較を示す。 ePDF(1808)とγ−QAの既知の結晶構造について計算したPDF(1804)との比較を示す。 本明細書に記載の方法を実施可能な例示的計算装置のブロック図を示す。
無機非晶質材料の構造特性解析は、対相関関数(PDF)を用いて行うことができる。PDF G(r)は、原子間距離rにおいて原子の対が見出される確率を示し、個々の原子の散乱能で重み付けされたものである。このアプローチは、非晶質及びナノ構造有機物質に等しく適用可能であり、このことは最近実証されている(Bates等、2006、Billinge等 2010、Dykne等 2011)。ここで分子結晶の場合、PDFプロファイルは、異なる分子間における原子間距離のみならず分子間距離をも含む。
PDFは、粉末回折データから、適切な正規化及び補正を行い換算散乱関数F(Q)を得た後に得ることができる(Warren 1969、Egami&Billinge 2003、Farrow&Billinge 2009)。
ここで、Qは散乱ベクトルの大きさである。
弾性散乱の場合、
である。
PDFは、原子構造とも関係付けられ、例えば、
である。
ここで、このモデルにおいては、rij離間した原子i及びjの対について和をとる。
原子iの散乱因子又は形状因子はf(Q)であり、<f(Q)>は、試料内の原子について平均した散乱振幅である。上記の例示的等式において、散乱因子をQ=0において求めており、X線の場合、散乱因子は原子の原子番号とすることができる。二重和は、試料中の全原子についてとる。多成分系においては、S(Q)は原子の濃度cによって記すことができる。
電子をプローブとする場合、散乱を運動学的に取り扱える場合には上記の式はそのまま同じであるが、形状因子は電子に対応するものf(s)でなければならず、これは原子の電子ポテンシャル分布のフーリエ変換である。電子に関する文献においては、散乱における従属変数としてのQの代わりにs=sinθ/λが慣例的に用いられる。同一の原子において、電子形状因子f(s)は、電子密度のフーリエ変換であるX線形状因子f(s)とは異なるがこれらには関連性がある。f(s)とf(s)との間の有用な関係として、
があり、mは電子の質量、eは電子の電荷であり、hはプランク定数、Zは原子番号である。この例示的な式は、s=0におけるf(s)の明確な値を与えるものではないが、f(0)は、外挿又は、例えば、
を用いることにより計算できる。ここで、<r>は原子の電子殻の2乗平均半径である。図1は、例えば、AuのX線及び電子線形状因子f(s)とf(s)との比較を示す。
単結晶EDにおいて、結晶の厚さが例えば300〜400Åよりも大きい場合、データ整理は、電子の干渉性多重散乱成分の存在に対応した動力学的回折理論に基づいて行うのが好ましい。この厚さの限度は、電子のエネルギーに依存するものであるが、重い元素の存在下においては、上記の数値よりも低くなり得る。粉末電子線回折の場合、動力学的散乱効果を回避するためには、試料中の結晶子の平均厚さは、数100Å未満であることが好ましい(Cowley、1995)。干渉性多重散乱は、ブラッグピークの相対強度を、運動学的構造因子による値から変化させ得る。また、パターンに、対称性からは許されないピークが現れ易くなる。非干渉性多重散乱は、EDパターンにおいて高いバックグラウンドとして観察され得るが、ブラッグピークの相対強度には影響を及ぼさない。従って、可干渉性の低い構造の場合、動力学的散乱効果は通常さほど重要ではない。
本開示の例示的実施形態を利用する例示的な実施及び/又は実験において、試料は、例えば、ナノサイズの試料であり、例えば薄膜、独立したナノ粒子及び/又は構造コヒーレンス長の非常に短い、ボールミルにかけられた集塊である。試料は、20〜40Åの範囲の相関長を有し得る。これらの例示的なケースにおいて、多重散乱によって過度の収差が運動学的回折パターンに導入され、信頼性の高いPDFが得られる。
[非ビーム感応性試料に対するデータ収集及び解析手順例]
厚さ2.7nmのAuフィルムの低解像度TEM画像を図2(a)に示す。この画像においてフィルムは均一であり特徴のないものであるが、フィルムの端部領域が選択されており、このフィルム端部が視覚的手掛かりとなるようになっている。図2(b)に、試料の同様な領域からのEDパターンを示す。透過配置におけるシェラー粉末回折リングによる一連の同心円が観察される。欠落ビーム停止領域をマスクした後に、ソフトウェアパッケージFit2D29を用いて2D−ED画像を読み込み積分し、図2(c)の1D粉末回折パターンとする。
既知格子パラメータの標準物からのEDパターンを用い、検出器座標から散乱角への変換を補正してもよい。解析ソフトウェアにおいては、このことを用いて、試料と検出器間の有効距離を最適化でき、検出器上でのシェラーリングの中心を見つけることができ、また検出器と散乱ビームの直交性のずれ等の収差を補正できる。プログラムで使用される代表的標準物は、Al、CeO、LaB、NaCl、及びSiである。しかしながら、例示的な電子線回折実験においては、良好な粉末平均を得るためにナノ試料を用いるのが好ましい。従って、直径が〜100nmの金ナノ粒子を用いることができ、格子パラメータとして文献値4.0782Åを用いることができる。一般に、試料と検出器との間の距離は、顕微鏡で用いられる磁気レンズのセッティングに依存する。電子のエネルギーは、はっきりと分かっているが(例えば200keV、この場合λ=0.025079Åとなる)、できるだけ正確な結果を得るためには、電子の波長を標準的な方法を用いて補正するのが好ましい。これらの補正量が分かると、これらは修正され、修正値は試料データを変換するために用いることができる。この観点から、試料は、カメラ長や焦点などの条件が等しい状況下を標準として測定するのが好ましい。試料をスキャンして視野を変えると、得られる回折パターンの中心の検出器上での位置に小さい変動が生じ得る。従って、Au較正時のカメラ長を維持しながら、各回折パターンに対してそれぞれ較正操作を行いリングの中心を決定するのが好ましい。
図2(b)に示す2Dパターン内のリングを周方向に積分することによって得られた1D−EDパターンの例を図2(c)に示す。このデータをさらに処理することによりPDFが得られる。未処理データに補正を加えることによって、実験の影響を考慮することができる(Egami&Billinge、2003)。データは正規化され、<f(Q)>で割られ、全散乱構造関数S(Q)を得ることができる。フーリエ変換の核は、例えば換算構造関数F(Q)=Q[S(Q)−1]である。プログラム(例えばPDFgetE)を用いこれらの工程を実行することができ、図3(a)に示す金ナノ粒子のF(Q)が得られる。PDFは、例えば式1に従いF(Q)のフーリエ変換として直接得ることができる。この工程も、例えばPDFgetE等のプログラムを用いて実行することができる。得られた金ナノ粒子のePDFを図3(c)に示す。
一旦例示的ePDFが得られると、これらを、例えば既存のPDFモデリングプログラムを用いてモデル化することができる。ここでは、PDFgui (Farrow and Juhas、2007)を用い得る。本例で用いた構造モデルは、バルク金のfcc構造である。精密化変数としては、立方格子パラメータ及び等方性原子変位パラメータ、更にはED測定における有限な分解能によるPDFピーク強度の低下を考慮する項がある。
金及びNaClのEDデータから得られた例示的結果は、X線シンクロトロン源における標準的な方法(Chupas等、2007)を用いて収集されたX線由来PDF(xPDF)から得られた同様な結果と比較することができる。この例の場合、ブルックヘブン国立研究所(BNL)の国立シンクロトロン光源(NSLS)におけるビームラインX7Bを用いた。データ処理については、他所で詳細に説明してある(Egami&Billinge 2003)。2Dイメージプレート画像を、例えばFit2D(Hammersley、1998)を用いて積分し、1D粉末パターンを得る。これらを、例えばPDFgetX2(Qiu等、2004)を用いて更に処理し、F(Q)及びX線G(r)を得ることができる。比較のため、PDFは、ePDFの場合と同じQmax値を用いて計算した。AuとNaClの場合、それぞれQmax=15.25及び13.6Å−1である。xPDFは、PDFgui(Farrow等、2007)を用い、ePDFの場合と同じモデルを用いてフィッティングを行った。
[ビーム感応性物質に対するデータ収集及び解析手順例]
本開示はまた、粉末電子線回折データをビーム感応性物質及びデータ処理における特定の点から収集しこれらの化合物のPDFを生成する方法を提供する。
図10に代表的な3種の有機化合物、(a)塩素化銅フタロシアニン(CuPcCl)、(b)銅フタロシアニン(CuPc)及び(c)キナクリドン(QA)、を示す。CuPcClは、異性体と塩素化度の異なる分子の混合物であり、平均で15個のCl原子を有する。
第1の化合物CuPcClは、HRTEMイメージングにおいてよく用いられる参照材料である。この化合物は、化学組成CuC32Cl16−x(xは約15)を有し、国際カラーインデックスにC.I.ピグメントグリーン7として登録されている。この物質の利点は、ビームに対して非感応なことである。第2の化合物CuPc(ビーム感応性物質の例)は、化学組成CuC3216を有し、そのβ型(C.I.ピグメントブルー15:3)を用いた。第3の化合物QAは、C2012という化学組成を有する純粋な有機化合物であり、この化合物もビームに対する感応性を有する。QAとしてはγ型(C.I.ピグメントバイオレット19)を用いた。
CuPcClは深緑の濃淡を有し、β−CuPcは標準的な青であり、γ−QAは青みがかった赤い濃淡を示す。これら3種の化合物の全ては、工業的に大量に生産されており、カラーラッカー、コーティング、プラスティック、印刷インク及び画家用の絵具の顔料として用いられている。これらの化合物は、有機LEDや光起電力システム等の光電子デバイスに用い得る有機半導体でもある。β−CuPc及びγ−QAの結晶構造は、X線単結晶構造解析によって知ることができる。
これらの化合物の電子線回折データは、STEMユニットと300kVで動作する電界放出銃とを搭載した透過型電子顕微鏡TECNAI F30を用いて収集した。回折データは、1k GATAN CCDカメラ上に記録された。回折パターンは、380mmのカメラ長で収集された。データのQ範囲を広げるため、中心(透過)ビームをCCD領域の隅に維持した。他の実施形態において、電子線回折データは、当業者に公知の任意の適切な方法によって収集してもよい。例えば、電子線回折データは、標準的な透過型電子顕微鏡、低電圧電子顕微鏡、又はSTEMユニットを搭載した走査型電子顕微鏡によって収集してもよい。
電子と研究対象である物質との衝突による非弾性散乱は、その物質にエネルギーを与える。このエネルギーは別の手段によって解放され(分子の熱振動又は個々の分子の励起に変換され)、最終的にはイオン化や分子構造の再編成(例えば結合解裂や架橋塊の形成)を生じ得る。電子線結晶学において、ビームダメージは通常、電子照射による物質の結晶性の喪失として観察される。ビームダメージは、分子構造の再編成を生じ得るため、低結晶性及び非晶質有機物質のおいても考慮すべき重要な事項である。本開示の一実施形態においては、ビームダメージを低減し、ダメージを受けてない物質のPDFの定量的決定を可能にする。
蓄積されたビームダメージの影響は、結晶格子の変質によって定量化することもできるが、これは回折パターン中に明確なブラッグピークが現れる物質においてのみ可能である。結晶性物質の臨界電子線量の概算値を、直接非晶質状態の値に変換できるのかは明らかでない。PDF解析は、局所構造及び分子充填に対して感応性があり、有機物質における蓄積された照射損傷の影響の研究に対する究極のツールであろう。
電子線照射下における有機物質の安定性を改善するためには数種の方法(冷却、電荷移動及び熱伝達の向上)があるが、最も基本的な解決策は、入射電子ビームの強度を大幅に低減することである。照射レベルを低減することにより生じてしまう考慮すべき事柄は、検出器において適切な計数統計データを得る必要があるということである。現在、多くのTEM研究は、CCDカメラ又はイメージプレート上に記録される。最近、CMOSテクノロジーによって作られたTEM用検出器が市場に登場した。この検出器は優れた感度を有し、ビーム感応性物質からの回折データの取得等の低照射レベルにおけるTEM研究に対する高い潜在性を有している。従って、本開示は、有機又は有機金属物質の電子ビームに対する露光を制限することにより、該物質へのダメージを減らす方法について説明する。
本開示においては、結晶性の低い3種の有機試料を用いた。これらの全ての物質からの回折パターンには、シャープなブラッグ状ピークが現れ、これは、これらの物質が多少の結晶性を有し、完全な非晶質ではないことを示している。
ビームダメージの第一の検査として、一連の回折パターンを、試料上の反射強度が連続した減衰を示す同一位置から収集した。臨界電子線量を、強度減衰プロットから見積もった。PDF解析用の回折データの収集の際、電子線量率は、ブラッグ強度の減衰が5%未満となるようにした(正確な値は実験セットアップ毎に後に示す)。照射条件を臨界電子線量よりも大幅に低く設定することは、得られるPDFが、研究している物質の本来の構造に対する良い評価尺度であることを保証するために必須である。
[制限視野電子線回折(SAED)VSナノ回折]
本開示の一実施形態である制限視野電子線回折(SAED)において、試料は、特定の直径Dを有する平行ビームで照射される。試料上における有効径がDSAである制限視野絞りが試料と検出器との間に挿入される。入射ビームを平行に保ち且つ明確な回折配置を得るために、Dは通常大きく保たれるが、DSAは試料の特徴物のサイズ(例えば結晶サイズ)に応じて選択される。この配置において、試料の照射領域(つまりビームダメージを被る領域)は広いが、実際に回折データ収集のために用いられる領域DSAはそのうちの小さい部分に過ぎない。それにもかかわらず、Dが既知の場合、ステージをDよりも大きく移動し、新しい回折パターンを新規(未露光)領域から収集できる。この古典的SAED配置は、回折レンズの設定を変更することができず、試料内の特徴物が比較的小さい場合に使用することができる。
ビーム感応性物質の場合は、入射ビームを集束させて照射領域の直径Dを小さくすることによりSAED配置を変更してもよい。好ましい実施形態において、回折情報のための制限領域は、照射された同一領域(D=DSA)から収集される。これらの条件下では、制限視野絞りを用いる必要は無い。種々の集光レンズの設定と集光絞りのサイズを組み合わせることによって、試料上において任意のビームサイズを得ることができ、原理的にはビームサイズを数ナノメートルまで小さくできる。従って、この回折配置はナノ回折と呼ばれる。しかしながら、結晶性の低い物質から良い統計且つ適切な粉末平均を有する回折パターンを収集するためには、実際の領域は数百ナノメーター以上であることに留意しなければならない。
回折パターンの解析における重要な工程は、検出器ユニットからの回折画像を、Q又は当業者に公知の他の適切な独立変数に変換することである。このためには、電子の波長及び有効カメラ長が既知である必要がある。図11にこの変換を行うための方法の一つを示す。通常、電子線回折カメラ長は、特定の照射条件(集光レンズ電流の状態)において、既知の標準物質を用いて校正される。図11において、標準物質はMoOである。これらの照射条件において、回折パターンは、回折レンズを用いて集光される。ナノ回折用に照射領域を選択することは、照射条件、従ってビームの集束、を自在に変更することを意味する。結果として、図11(a)の対応回折パターンが、非標準レンズセッティングにおいて得られ、この場合、合焦はされていない。回折パターンを補足的に合焦すると、図11(b)に示すように回折パターンの回転及び収縮・膨張が生じる。回転は、粉末(リング)パターンとは関連性が無いが、収縮・膨張は有効カメラ長を変化させるため、考慮する必要がある。
この補足的合焦化を補償するためには以下の方法がある。既知の標準物質に対して、回折パターンの組を種々のビーム集束を用いて収集する。各パターンは、回折レンズを用いて集光される。次いで、パターン上の面間距離を測定し、有効カメラ長を計算する。図11(c)に示すように、有効カメラ長を回折レンズ電流値に対してプロットした場合、線形傾向を示す。測定データに対する線形フィッティングを、任意のナノ回折パターンに対する校正曲線として使用できる。本手順を用いたカメラ長決定の最終的な精度は、統計的特性を有し通常2%よりも良い。
本開示において、データはTEMモードにおいて中程度の倍率15000倍で取得された。図12(a)に示すように、ビームサイズは直径1μmに設定された。ユーセントリック高さの調整やビームサイズの選択等、必要とされるアラインメントが終了した後、適度に低いビーム照射レベルを選択した。ビームの強度は、試料の照射安定度によって規定される。理想的には、試料が許容する臨界電子線量は、PDF解析用に回折データを収集する前に、上述のようにして見積もっておくべきである。この手順を行った後、測定中のCuPcClに対する電子線量率のレベルを15e/Å・sに保つことを決定し、β−CuPc及びγ−QAに対しては0.7e/Å・sに保つことを決定した。入射ビームをわずかに集束させると、回折パターンの補足的な合焦化が必要であった。有効カメラ長は、図11(c)の較正プロットを用い415mm(公称380mm)と決定された。
ステージはグリッド内で機械的に1μm刻みで移動した。各ステージ位置において、まず1秒の露光時間で電子線回折パターンを記録し、その領域の画像を得た。この操作は、当業者には公知の方法によって容易に自動化でき、高品質データが数分で得られる。
各試料から、合計で50組の回折・画像を収集した。このアプローチにおいては、ビームダメージを最小にしつつ計数統計を最大とするのみならず、粉末統計(積分回折パターンを得るために平均される結晶子の数)を無理なく増加させる。これらの組は、それぞれの画像に基づいて(i)物質からの回折パターン、(ii)炭素フィルムのみからの回折パターン、及び(iii)銅グリッド部を含む回折パターンに分類される。炭素フィルムからのパターンは平均化されバックグラウンドの評価に用いられる。銅反射を有するパターンは廃棄される。物質からの回折パターンの全ては足し合わされ、同様に全てのバックグラウンド回折パターンも足し合わされ、これら積算画像は更なる処理に用いられる。他の実施形態において、回折・画像の組は、当業者には明らかな様々な他の特徴に関して更に分類されてもよい。例えば、試料において外観の異なる領域からの回折パターンは、別々に分類してもよく、一種の試料における複数の構造型の同定が可能となる。他の実施形態において、複数の構造型の存在は、回折パターン自身の比較によって検出してもよい。この比較は、当業者には公知の統計的識別手法を更に含んでもよい。
[STEM/ナノ回折]
本開示の他の実施形態において、走査型透過電子顕微鏡(STEM)イメージングとナノ回折を組み合わせることにより、特に軟質な照射セットアップを実現できる。高角度散乱暗視野(high−angle annular dark field:HAADF)検出器を備えたSTEMは、有効電子線量を低く保ちつつ、試料の超高コントラスト画像を得ることを可能にする。ナノ回折モードにおける電子線回折パターンは、STEM画像内の試料の特定の領域から記録される。この方法は、不均質な試料にとって特に有用である。
別の用途(自動回折トモグラフィ(automated diffraction tomography、ADT))のために開発された自動取得モジュール(Kolb等、2007;Kolb等、2008)を用いると、回折モードにおいてSTEM画像内で選択された特定の領域を走査できる可能性がある。我々は、このモジュールを用いてPDF研究用のデータを得た。図3(b)に示すように、走査領域のサイズは一辺の長さが1μmの正方形に設定され、ナノ回折用のビームサイズは100nmに保たれた。従って、1μmの正方形内で、重なり合いの無い10×10の電子線回折パターンが収集できた。CuPcClの場合の電子線量率は10e/Å・s、β−CuPc及びγ−QAについては0.3e/Å・sであり、これはTEMモードにおける線量率よりも低い。TEMにおけるデータ収集に関し、一つの回折パターンに対する露光は1秒であった。バックグラウンド評価用の回折パターンは、粒子を含まない隣接領域から収集した。
[電子線回折用データ整理]
好ましい実施形態において、回折パターンは、中心ビームを検出器の隅に移動した状態で記録してもよい。Kolb等(2007)に記載のようして中心ビームの勾配を解析することにより、パターンの中心点を求めた。パターンの中心点を求めた後、計数統計を改善することにより信号対雑音比を向上し且つ粉末平均を改善するために、上述のように試料の他の数個の部分からのパターンを平均する。平均化されたパターンを方位角積分し、一定のQ値のビン毎にその範囲内にある2D画素の数によって正規化した。この積分手順は自家製プログラムによって行い、積分強度vsQが得られた。電子線回折パターンにおいて多くの場合観察され通常2%未満である楕円歪は無視した。同じ手順を、穴あき支持炭素フィルムから記録した、バックグラウンド評価用の回折パターンにも適用した。
[X線回折]
電子線回折パターンとの比較のため、CuPcCl、CuPc、及びQA試料のX線粉末回折データを、Ge(111)モノクロメーターとシリコンストリップ検出器DECTRIS MYTHEN 1Kとを搭載したSTOE Stadi−P回折計を用いて透過配置で測定した。試料はガラス毛細管に封入し、粉末平均を向上させるため、測定中にガラス毛細管を回転させた。データは、2θが2°から130°の範囲(Qmaxが7.39Å−1に相当)において、Cu−Kα1線(λ=1.5406Å)を用いて記録した。ステップサイズは0.01°であり、0.5°検出器ステップ毎の計数時間が100秒であるため、試料毎の合計計数時間は8時間であった。バックグラウンドは、同じ実験条件のもと、空の毛細管の測定により求めた。
[PDFの取得]
本実施形態において、PDFは、自作プログラムPDFgetEを用いて積分1D回折パターンから得た。このプログラムは、バックグラウンド強度を減算し、試料の吸収、非干渉性多重散乱、及び非弾性散乱等に起因するデータの強度収差を補正する。このプログラムは、試料の平均電子形状因子及び入射フラックスによってデータを正規化し、適切に正規化された構造関数S(Q)を得て更にはF(Q)を得る。最後に、プログラムは、式1のフーリエ変換を行いPDFを得る。バックグラウンド強度はスケール可能であり、またユーザーは、Qmax(フーリエ変換において用いられるデータ範囲におけるQの最大値)を、このデータを用いて最良のPDFが得られるように変更できる。このプログラムを将来一般公開することを検討している。
[モデリング]
PDFは構造モデルから計算でき、測定されたPDFと計算されたPDFとの良いフィッティングが得られるようにモデルパラメータを更新して最適化するのが一般的である。このことのために広く用いられているプログラムは、PDFguiである。β−CuPc試料について、PDFを文献における単結晶データからPDFguiを用いて計算した。PDFguiは、分子系の構造を精密化するためのものではないため、構造精密化は行わなかった。しかしながら、特定のプロファイルパラメータを調整し、一致度を改善した。調製したパラメータは、スケールファクターQdamp(測定の有限分解能の影響を考慮)及びSrat(カットオフrcut未満の低いrにおいてPDFピークを鋭利にする因子)である。これは、分子系において見られる、分子内原子対からのPDFピークは、分子間相関によるピークよりも大幅に鋭利になる傾向があるという効果を模倣したものである。
[実施例]
以下に説明する本開示の例示的実施形態においては、広く利用可能な電子顕微鏡を用いて定量的精密化が可能なPDFを得ることができることを実証する。粉末回折においては、XRD、ND、又はED等のプローブ手法にかかわらず、良好な粉末平均を得ることが重要である。これは、NDにおいては大きい体積の試料を用いることにより達成され、XRDにおいては試料を回転させることにより達成される。しかしながら、EDにおいては、構成上の制限のため、これらの方法は困難であり、試料の調製により達成しなければならない。最新のTEMには、試料を振動させる機能を備えたものもあり、この機能は良好な粉末平均の取得を容易にしている。しかしながら、本開示の例示的実施形態によると、多くの大学にある単純なTEMを用いて良好なePDFを提供することができる。
種々の照射源を区別するため、本開示においては、電子線回折データからのPDFに対しては「ePDF」という呼称(X線データの場合は「xPDF」、中性子線データの場合は「nPDF」という呼称)を用い、電子線回折データからのF(Q)に対しては「eF(Q)」という呼称(X線データの場合は「xF(Q)」、中性子線データの場合は「nF(Q)」という呼称)を用いる。
CuPcCl(Hostaperm(登録商標)Green GNX)、β−CuPc (Hostaperm(登録商標)Blue B2G)及びγ−QA(Hostaperm(登録商標)Red E3B)は、Clariant GmbH、Frankfurtから得た。使用されるこれら三種の試料の全ては、工業的に生産されたナノ結晶粉末であった。ePDFは一般に、ナノ結晶物質の解析用途に適しているため、試料はそのまま用いた。CuPcCl、β−CuPc及びγ−QAのTEM試料は、粉末を超音波浴内でn−ヘキサン中に懸濁することにより調製した。一滴の懸濁液を、炭素被覆穴あき銅グリッドに載置し空気中で乾燥した。
上述のように、ePDFはナノ物質にとって好適なものであり得る。物質のナノ粒子は通常単結晶である。従って、小体積のナノ試料であっても、良好な粉末平均を得るのに十分な数のランダムに配向した粒子を含み得る。バルク物質をボールミルにかけてED用のナノ粒子を得ることもできる。しかしながら、ボールミリングは誘起応力や結晶へのダメージを生じ得る。このダメージは、ED測定を行う前に試料をアニールすることにより回復できる。実験者は注意深く、多重散乱が生じるのを防止するのに十分な薄い試料の層を得るのが好ましい。試料はエタノール又はアセトン中に懸濁してもよく、スポイト又はピペットを用いて穴あき炭素グリッド上に試料の薄膜を得ることができる。EDにおいて薄い領域を選択する他のアプローチとして、粒子クラスターの端部に合焦するというアプローチがあるが、端部は試料の典型を示すものではないという恐れがある。非弾性散乱成分は、例えばオメガフィルターを用いて排除することができ、これによりPDF解析におけるデータの質を向上することができる。しかしながら、フィルタリング無しでも有用なPDFを得ることができる。
達成可能なQmaxは、通常、動作エネルギー、カメラ長、検出器の寸法、及び顕微鏡の直径によって決定される。しかしながら、CCDカメラを搭載した多くの電子顕微鏡の構成において、達成可能なQmaxは、約17から18Åに制限される。より高いQmaxを用いることの利点は、ePDFに帰結するより良い実空間分解能にある。利用可能なQmaxは、電子のエネルギー、顕微鏡の直径及び顕微鏡カラムの直径によって制限され得る。
[実施例1:金フィルム]
図2(a)は、本実施例で解析した金フィルムのTEM画像を示す。例えば、図2(b)に、Auフィルムからの回折パターンのCCD画像を示す。リングは滑らかで均一であり、良好な粉末平均が得られることを示唆している。図2(c)に示す得られた積分IDパターンは滑らかであり良好な統計を示している。このことは更に、図3(a)に示すF(Q)関数において実証されている。この統計は、図3(b)に示す、X線データから導かれるF(Q)よりも良好である。これら2つの換算構造関数は、ピーク位置と強度に関して同等であり、この例示的場合においてはED実験における散乱が運動学的であることを示唆している。EDデータにおける分解能はX線データに比べ低く、散乱における特徴がQの増加に伴いより早く減衰している。このことは、試料における実際の差異を反映しているものと思われる。低い分解能は、試料又は測定の影響であり得る。図3(c)と(d)を比べると、例示的ePDFピークは対応するxPDFピークよりも広いが、例示的ePDFとxPDFとに高い類似性があることがわかる。このことは、厚さ2:7nmの多結晶Auフィルムの場合、EDから運動学的PDFが得られることを示している。スパッタリングによる金フィルムは、バルクと同様に、金fcc構造を有するが、より不規則的であり、構造干渉性はナノメーターの範囲である。
EDデータは、標準的なCCDカメラを用いて得たものであり、非弾性散乱電子のフィルタリングは行わなかった。これは多くの研究室TEMにおける標準的なセットアップであるため、データ収集用の直接的なプロトコルであり得る。非弾性散乱電子による高いバックグラウンドのため、得られたPDFは、エネルギーフィルターを通した電子を用いて測定したPDFよりも質が低いことが予想される。イメージプレート検出器を用いた場合、検出器の固有ノイズが低く、検出器技術におけるダイナミックレンジがより良いため、より質の高い電子線回折データが収集されることが予想される。従って、図3(c)に示す得られた例示的PDFは、特化した装置を使用すること無く得ることができる基準となる。例えば図3(a)において明らかなように、得られたF(Q)は、使用可能な最大Qレンジ18Å−1まで優れた信号対雑音を示している。
表Iにモデルフィッティングの例示的結果を示す。構造モデルとして、空間群Fm−3mのバルク金fcc構造を用いた。ED測定の固有Q空間分解能の補正ができず、装置の分解能とePDFにおける粒子サイズの影響とを分離出来ないため、ePDFからナノ粒子のサイズを測定することはできなかった。例示的ePDFに対するフィッティングの質は、例えばxPDF NPデータに対するフィッティングの質と同等であった。NPデータセットに対するフィッティングは、対応するバルク物質に対するフィッティングに比べ、一致因子Rが劣り得る(Masadeh等、2007;Tian等、2011)。これは、例えばNP表面における緩和、試料全体における結合距離の緩和(Jadzinsky等、2007)、平面欠陥、及び非球形粒子形状等、PDFguiモデルにおいて考慮されていない、NPにおける構造変化によるもののためであり得る。従って、xPDFデータに対しては、若干劣るが許容範囲内のR=0.20が得られる。よって、AuのNP ePDFに対するフィッティングにおいても、同等なR=0.17が得られることが期待される。上述のように歪が生じ得ることにもかかわらず、例示的ePDFは、定量的なPDFの精密化を試みるのに十分な高い質を有する。これは、2つのデータセットにおける構造パラメータを精密化した値がほぼ同等であること(例えば表I参照)によって裏付けられている。
[実施例2:金ナノ粒子]
Au NPにおける運動学的散乱のサイズの限界を調べるため、データを例えば大きな100nmAuナノ粒子から収集してもよい。例えば図4(a)に試料のTEM画像を示す。黒い点は、炭素グリッド上に支持された金ナノ粒子である。この試料からのEDパターンの例示的CCD画像を図4(b)に示し、この画像の積分1D回折パターンを図4(c)に示す。不完全な粉末平均のため、若干の粒状性がこのED画像において観察される。これは、運動学的散乱領域においても、相対ブラッグピーク強度に影響を及ぼし得る。
大きなNPと薄いAuフィルムからの積分1D回折パターン(例えば図4(c)と2(c))を比較すると類似した特徴がみられるが、NPの場合、あたかもデータにおけるデバイ・ワーラー因子(DWF)が小さいかのように、高いQ値まで散乱強度振幅が存在する。これは、例えば図5(a)に示す、このデータセットからの換算構造関数F(Q)においても観察できる。比較のために、X線データセットから得られた換算構造関数も、例えば図5(b)に示す。高いQにおける特徴の増大度は高く、これはこの試料における著しい干渉性多重散乱のためであり得る。NPから得られたePDFは、金薄膜及び金NPのxPDFにおけるピークと比べて鋭利なピークを有する。
観察された差異にはかまわず、モデルを100nmAuナノ粒子層のePDFに対して精密化し、精密化された構造モデルパラメータが影響を受ける度合いを見ることができる。構造の精密化により、xPDFフィッティングと同等の質のフィッティングR=0.24(例えば表I参照)が得られる。精密化された値も同等であり得るが、例えば不自然に鋭利化されたピークのため、ePDFデータに対するフィッティングにおいては小さいADPは除く。この例示的な場合において、動力学的散乱は、F(Q)にほぼ正確な相対振幅の特徴を生じるということは幾分注目に値する。但し、これらは非常に高いQにまで存在する。金は、構造因子が1又は0でありうるので、特別である。
[実施例3:塩化ナトリウムフィルム]
より複雑な構造因子が、本開示の例示的実施形態を用いて研究するNaClフィルム等の、高周波熱蒸発法によって得られる二元系化合物から得られる。図6(a)の試料のTEM画像は、例えば、試料はナノスケールグレインを含み、そのいくつかは立方体形状であり他は特定の形状を持たないことを示している。図6(b)における対応するEDパターンは、そこそこ均質なリングを示しているが、不完全な粉末平均による斑点が見られる。図6(c)は積分EDパターンを示す。F(Q)及びこのデータセットから得られる例示的ePDFを図7(a)及び7(b)にそれぞれ示す。比較のため、NaClバルク結晶試料から得られたxPDFを図7(c)に示す。
データのバルクNaClモデルに対するフィッティングを図7(b)及び(c)に示し、結果は表IIに示す。ePDFとxPDFは、定性的には非常に似ており、xPDFにおける特徴は例示的ePDFにおいて認識可能である。特に、隣接したピークの相対強度は、ePDFとxPDFとにおいて類似しており、運動学的散乱を示唆している。例示的ePDFにおけるピークの振幅は、rの増加に伴いより早く減衰しており、これは恐らく装置の分解能の影響と思われる電子線回折パターンにおける特徴の広さによるものである。岩塩構造のPDFに対するフィッティングの例示的結果を、例えば表IIと図7(b)及び(c)に示す。例示的ePDFに対するフィッティングの全体的な質は、バルクNaClのxPDFに対するものよりも劣る。精密化された格子定数は、実験的な不確定性の範囲内で一致する。精密化された熱パラメータはX線データから測定した熱パラメータよりも小さい。X線及び電子線データは室温で測定したため、このことは真の効果とは考えられず、ナノ粒子状試料における静的構造不規則性がバルクNaClに比べて小さいということは信じがたい。従って、これはデータにおける多重散乱の影響と考えられる。ePDFから精密化されたADPは、実際の試料のADPよりも低い範囲を示しうる。多重散乱が無視できる場合、これらは正確であり得るが、多重散乱の存在下における熱運動を過小評価している可能性がある。
[実施例4:黒色硫化第二水銀]
構成要素の原子番号が異なる場合の試料の例示的ePDFの性能を評価するために、β−HgS(黒色)について考察する。試料の例示的TEM画像を図8(a)に示す。黒色HgS試料は、良好な粉末平均を示し、これは図8(b)において明らかである。しかしながら、測定の統計は劣るものである。これは、試料による吸収のためと思われる。HgS−PDFにおける低rにおける収差は別として、構造モデルのデータに対する良好なフィッティングが得られる(図9(b))。統計の品位の低さのため、小さなQmax=9Åを用いた。Hgは通常強い散乱体であるため、散乱信号が弱いことの理由は明らかではない。例えば、これは、物質の不規則性が高く、弱い干渉性信号しか生じない、又は試料が厚過ぎて十分な透過がなかったためと考えられる。この試料の例示的な精密化結果を、表IIIに示す。

[実施例5:塩素化銅フタロシアニン(CuPcCl、ピグメントグリーン7)]
図13は、TEM/ナノ回折モードを用いて得られたCuPcClからの積算電子線回折パターンを示す。直接ビームは、画像の左下隅にある。デバイ・シェラー粉末回折リングが、図13(a)における未処理データにおいて明確に観察されるが、垂直方向に対して約30度の方向に沿って歪が見られる。この収差は、電子線源のゴースト画像であり、図13(b)に示すバックグラウンドパターンにおいても観察される。図13(c)は、(a)のデータからバックグラウンドを差し引いた後のデータを示す。リングに沿った小さな強度変調があり、粉末平均が不十分であることを意味しているが、これは方位角積分により1Dプロファイルとした後には若干緩和される。
バックグラウンドを差し引いた画像の方位角積分により、図14(a)の曲線1404aが得られる。比較として、同じ試料からCuKα1X線を用いて収集したデータを、図14(a)の曲線1402aに示す。電子線回折データの分解能はX線データの分解能よりもはるかに低いが、同じ全体的な特徴が見てとれるが、これらは電子線回折データにおいて大幅に広くなっている。このことは、PDF研究においては通常、好適なトレードオフとなる。現在、X線PDF測定において選択される方法は、低分解能であるが高スループットな高速取得PDF(rapid acquisition PDF:RAPDF)モードである。
Q空間分解能の低さによる主な影響は、高r領域におけるPDFピークの消失であるが、多くの場合このような領域は、モデリング又は特徴識別によって解析される範囲を超えた領域である。電子線回折データにおいては、 低いQにおいても減衰が見られる。これは、透過ビームの中心にある領域の過露光によるものであり、物質からの回折パターンとバックグラウンドの「空」のパターンとの両方において、検出器の画素が飽和している。これらの過露光領域における減算により、強度が0である領域が生じる。ここで、これは得られるPDFに過度の悪影響を及ぼさない。
当業者に公知であり本明細書で説明した方法により図14(a)のデータを処理すると、図14(b)におけるF(Q)曲線1404b(電子)及び1402b(X線)が生成される。電子線及びX線曲線の分解能は異なるが、これらが同一の特徴を含むことが見てとれる。また、X線測定の限界もみてとれる。即ち、データは8時間にわたり収集したが、高Q領域における統計は極めて悪く、データを5Å−1という非常に低い値で打ち切る必要があった。一方、電子データは、非常に短い時間で測定したにもかかわらず(回折パターン毎に1秒の露光、このデータにおいては、37パターンを平均した)、曲線1408bに示すように、高Q領域において非常に良好な統計を示した。曲線1408bにおいては、同一のTEM/ナノ回折データを8Å−1までプロットしてある。曲線1406bは、上述のSTEMナノ回折アプローチを用いて得られた他のeF(Q)である。ここでも、特徴の位置及び相対振幅は良く再現されており、実際、このモードにおいて、測定のQ空間分解能はTEM/ナノ回折データよりも若干高いことが分かった。TEM及びSTEMナノ回折の両者において、CuPcCl試料から定量的信頼性のあるF(Q)関数が得られていることは明らかである。
最後に、14(b)に示すデータセットから得たPDFを図14(c)にプロットする。曲線1404c(ePDF)及び1402c(xPDF)は、同一のQmax5Å−1を用いて処理したものであるため、直接比較することができる。これらは、互いをよく再現している。これらの曲線は、高r領域における重なり合いをはっきりとさせるようにスケールされている。このスケーリングによって、低rピークの振幅がePDFとxPDFとにおいて異なるものになっている。これは、それぞれの手法の分解能の違いによるものであり、PDFの本質的な欠陥ではない。
eF(Q)の統計は高いQの値まで良好であるため、図14(b)の曲線1406b及び1408bから生成された図14(b)の曲線1406c及び1408cに示すように、より高いQmax8Å−1用いてePDFを得ることができる。これらは、低QmaxPDF(曲線1402c及び1404c)と同じ特徴をすべて有するが、ピークはより鋭利であり、低Q−PDFには見られない特徴を分解可能である。
上述のことは、有機物質から、定量的信頼性のあるPDFを得ることができることを実証している。
[実施例6: 銅フタロシアニン(CuPc、ピグメントブルー15:3)]
β−CuPc化合物の結果を図15に示す。この場合、試料のビーム感応性のため、実験とデータ解析はより困難であった。図15(a)に、TEM/ナノ回折モードで得られた、バックグラウンドを差し引いた後の回折パターンを、挿入図として示した。粉末リングは滑らかであるが、若干ムラがあり、これは試料が幾分結晶性を有することを示している。
図15(a)の曲線は、1D積分されF(Q)に変換されたデータを示している。ここで、eF(Q)(曲線1504a)及び実験X線から得られたxF(Q)(曲線曲線1502a)を比較のために示している。X線曲線の主要な特徴はeF(Q)において再現されている。X線パターンの統計は非常に悪く、特にQmax5Å−1に近づくほど悪化する。上にずらして示された曲線1508aの電子線データは、最大測定Qレンジ7.7Å−1まで延びている。データの特徴は全域にわたり明瞭であり、良好な統計のもと測定された。このことは、この広い範囲におけるフーリエ変換によってより良い実空間分解能を有するPDFを得ることの可能性を提示している。
得られたPDFを図15(b)に示す。曲線1504bは、曲線1502bとして示すxPDFと同一のQmax用いて変換したePDFである。先の場合と同様に、高r領域における良好な一致をはっきりとさせるようにePDFをスケールし、その結果xPDFにおいては低rピークが抑えられているが、全ての特徴はよく再現されている。測定におけるQ分解能の低さによるePDFの振幅の減衰が速いことは別として、これらの特徴は、位置と相対強度に関して良く再現されている。Qmax=7.7Å−1を用いて得られたePDF(曲線1508b)において、特徴はより鋭利でありはっきりと分解されており、優れたCuPcのPDFである。
図16は、TEM/ナノ回折データからQmax7.7Å−1を用いて得られたβ−CuPcの最良のePDF(曲線1608)と単結晶データから決定した結晶構造のモデルから計算したPDF(曲線1604;Brown、1968)との比較を示す。特に、構造パラメータの変更を伴うデータの真の「フィッティング」は行っていないことを考慮すると、曲線の特徴は非常によく再現されていると言える。むしろ、PDFは、スケールファクターを考慮したパラメータやモデルから計算されており、Qmaxの影響や分解能減衰を計算されたPDFに適用し全体としてのより良い一致を得た。この演習の目的は、データの定量的フィッティングを得ることではなく(これは、分子固体のフィッティング用のフィッティングプログラムPDFguiにおける制限のため現時点では不可能である)、電子線回折データから得たePDFが、物質の既知の構造から計算されたPDFを良く再現することを示すことである。
[実施例7: キナクリドン(QA、ピグメントバイオレット19)]
キナクリドンは、ビーム感応性である純粋な有機化合物の例である。しかしながら、我々は、このアプローチによって、上述のCuPc相に対して示したのと同等の高い質を有するePDFが生成されることを実証する。平均化されバックグラウンドを差し引いたγ−QAの電子線回折パターンは、β−CuPcのパターンと似ており、ムラの有る粉末リングであった。図17(a)は、TEM/ナノ回折データからのeF(Q)(曲線1704a及び1708a)を示し、X線F(Q)(曲線1702a)の上にプロットしてある。電子線データの分解能の低さは別として、非常に良い一致が得られた。これは、図17(b)に示すように、データをフーリエ変換してPDFとした場合にも明らかである。この例はePDFが純粋な有機化合物に対しても可能であることを示している。
図18は、γ−QAのePDF(曲線1808)と既知の結晶構造から計算したPDF(曲線1804;Paulus等、1989)との比較を示す。ここで、構造モデルはデータとフィットしていないが、2本の曲線の特徴は非常によく再現されており、これは、我々が用いた電子線回折アプローチによって定量的信頼性のあるPDFが得られることの更なる立証となっている。
[種々の電子線回折データ記録方法によって得られるPDFの比較]
構造に対する電子ビーム誘起損傷の影響を最小にするための最良の方法は、データを新鮮な未露光領域から得ることである。これは、露光毎にステージを制御し移動させる又はビームをシフトすることにより達成できる。機械的制御によるステージの移動は、比較的大きな移動に対してはより効率的であり、TEMモードにおける大きな照射スポットと組み合わせて使用するのが最良である。ビームサイズが大きいと、より多くの粒子含まれ、回折データの粉末平均が向上する。回折実験の配置を適切に保つために大きなビームサイズが必要である場合、対象領域を制限するSA(selected area:制限視野)絞りを用いたSAED(selected area electron diffraction)を用いることができるが、試料の小さい特徴物(SA絞り内に含まれる特徴物)は区別しなければならない。この回折配置を用いる場合、SA絞り内に含まれてはいないが露光中に照射される領域は、データ収集に使うべきではないということに留意すべきである。ナノ回折配置においては、全ての照射領域がデータ収集に用いられる。ステージを移動させて電子線回折データを収集することは実験的に容易であり、一般に、統計的に平均されたより良い回折データが得られるはずである。
ビームシフトは、短いシフト距離に対して使用可能である。これは、STEM撮像モードと組み合わせるのが最も有効である。STEM/ナノ回折の組み合わせは、より精巧な実験となり、ビームシフトを制御する専用取得モジュールが必要となる。回折データはより小さい領域において平均されるため、統計は一般に、大きなビームサイズを用いるTEM/ステージシフトアプローチに比べて劣る。しかしながら、STEM画像内の既知の位置において回折データが収集されるため、不均一な試料を解析できる。
[PDF決定用の種々の電子線回折セットアップの比較]
我々の実験は、STEM/ナノ回折における細かい走査よりも、TEM/ナノ回折モードで実現される大きなビームサイズを用いた方が、良いデータの統計(計数統計と粉末平均の両者)を遥かに容易に得ることができることを示している。STEM/ナノ回折モードにおいて高品質PDFが得られたCuPcClにおいて示したように、STEM/ナノ回折における細かい走査も機能する。しかしながら、十分に良く平均されたデータを得るためには、STEM/ナノ回折モードにおいて非常に多くの平均化を行わなければならない。試料の特定の領域をSTEM画像のサンプリングのために選択可能であるため、STEM/ナノ回折は、不均一なビーム感応性試料に対しては、相変わらず魅力のあるものである。更に、均一な真に非晶質性の試料は等方的であり、多くの平均化は必要としない。多くの場合、TEM/ナノ回折又はSAEDモードは、ePDF用の高品質データを得るために十分でありより直接的なものである。
PDF解析用の電子線回折データは、非TEM実験セットアップを用いて収集することもできる。透過モードの電子線回折実験用の専用カメラのアイディアは、前世紀の半ばには非常に普及していた。数種のカメラが作られ、多結晶物質の構造解析に用いられた。残念なことに、このような電子線回折カメラの市販品は現在入手できないが、近年の電子線結晶学の発展からして、この状況は近い将来変わるものと思われる。反射配置において得られた電子線回折データからは、バルクの情報は得られないが、このデータは表面領域近傍の構造特徴の情報を有している。原理上、この種のデータもPDF解析に用いることができる。電子のかすり入射また低エネルギー電子を用いたPDF解析は、既に無機金ナノ粒子に対して実証されている。同様な研究が、例えば有機ナノ粒子又は非晶質又はナノ結晶性有機フィルムについても可能なはずである。
[コンピューター解析]
図19は、本開示に係るシステムの例示的実施形態の例示的ブロック図を示す。例えば、本明細書で説明した本開示の例示的手順は、処理装置及び/又は計算装置102によって行うことができる。このような処理/計算装置102は、その全体又は一部が、例えばこれに限定するものではないが、コンピューター/プロセッサー104であるか、又はコンピューター/プロセッサー104を有するものであり、コンピューター/プロセッサー104は、例えば一台以上のマイクロプロセッサーを有し、コンピューターアクセス可能媒体(例えばRAM、ROM、ハードドライブ、又は他の記録装置)に記録された命令を使用する。
図10に示すように、例えばコンピューターアクセス可能媒体106(例えば上述のようにハードディスク、フロッピーディスク、メモリースティック、CD−ROM、RAM、ROM、又はこれらの集合)を設けてもよい(例えば、処理装置102と通信状態で)。コンピューターアクセス可能媒体106は、実行可能命令108を含むことができる。それに加え又は別法として、記録装置110を、コンピューターアクセス可能媒体106とは別に設けてもよく、これにより処理装置102に命令を提供することが可能となり、処理装置は、例えば特定の例示的手順、プロセス、上述の方法を実行するように構成される。
更に、例示的処理装置102は、入力/出力装置114を搭載する又は含むことができ、この入力/出力装置114は、例えば有線ネットワーク、無線ネットワーク、インターネット、イントラネット、データ収集プローブ、センサー等を含むことができる。図10に示すように、例示的処理装置102は例示的表示装置112と通信可能であり、本開示の特定の例示的実施例において、表示装置112は、例えば処理装置からの情報を出力し且つ処理装置に情報を入力するように構成されたタッチスクリーンであり得る。更に、例示的表示装置112及び/又は記録装置110は、データをユーザーがアクセス可能なフォーマット及び/又はユーザー可読フォーマットで表示及び/又は記録するために用いることができる。
前述のものは、単に本開示の原理を説明するものである。本明細書の教示に鑑み、上述の実施形態に対する種々の変更や改変は当業者には明らかである。従って、当業者が、本明細書には明確に示されておらず説明されているわけでもないが、本開示の原理を具現化し、本開示の精神及び範囲に含まれる数々のシステム、装置、及び手順を考案できることは言うまでも無い。更に、上に参照した全出版物及び参考文献の全体を、参照により本明細書に援用することができる。本明細書で説明した例示的手順は、ハードドライブ、RAM、ROM、リムーバブルディスク、CD−ROM、メモリースティック等の任意のコンピューターアクセス可能媒体に記録でき、処理装置及び/又は計算装置によって実行できることを理解されたい。処理装置及び/又は計算装置は、一台又は複数台のハードウェアプロセッサー、マイクロプロセッサー、ミニ、マクロ、メインフレーム等及び/又はこれらの組み合わせであってもよく及び/又はこれらを含んでいてもよい。更に、明細書、図面、請求の範囲を含む本開示で用いられた特定の用語は、例えば、これらに限定するものではないがデータや情報等の特定の事例において同義的に用いることができる。このような語及び/又はこれらの語と相互に同義な他の語は、本明細書において同義的に用いることができるが、そのような語の同義的使用が意図されていない事例も存在することを理解されたい。さらには、従来技術の知識が参照によって本明細書に明確に援用されていない場合、その全体を本明細書に明確に援用することができる。
以下にクレームされる特定の実施形態に加え、開示された主題は、以下にクレームされる従属特徴及び上に開示された特徴の任意の可能な組み合わせを有する他の実施形態にも関する。このように、従属項に提示されまた上に開示された特定の特徴は、開示された主題の範囲内において他の仕方によって互いに組み合わせることができ、開示された主題が、他の任意な可能な組み合わせを有する他の実施形態に特に関するものとして認識されるようにされている。したがって、開示された主題の特定の実施形態に対する上記説明は、図示と説明の目的で提示されたものである。網羅的であることを意図するものではなく、また開示された主題を開示された実施形態に限定することを意図するものではない。
開示された主題の方法及びシステムにおいて、本開示の主題の精神や範囲から逸脱すること無く種々の変更や改変を加えることができることは当業者には明らかである。従って、開示した主題は、添付の請求の範囲及びその均等物の範囲内での変更や改変を含むことが意図されている。
他の実施形態において、本方法は、適切に正規化された方位角積分による画像解析を含んでもよい。この実施形態において、回折パターンは二次元画像として記録され、中心ビームの位置が記録される。次いで、画像は、中心ビーム位置の周りで方位角積分され、独立変数xの関数である積分強度が得られる。独立変数xは、Q、S、2θ、又は当業者に公知の任意の有用な独立変数であってもよい。バックグラウンド強度も方位角積分し、独立変数の関数としてのバックグラウンドを得てもよく、このバックグラウンド強度を積分強度から差し引いてもよい。バックグラウンドの減算は、方位角積分工程以前の未処理画像に対して行うことも可能であり、これが好ましい場合もある。強度がの関数として得られると、強度収差が補正され、i(x)が得られる。必要に応じ、i(x)を更に正規化しF()を得てもよい。次いで、F()をフーリエ変換し対相関関数を得てもよい。
この態様における一つの実施形態では、試料の電子顕微鏡画像を目視検査した後に上記領域は識別される。他の実施形態では、上記回折パターンの目視検査に基づいて上記領域は識別される。
本態様の実施形態において、信号は、試料の電子顕微鏡画像の目視検査に基づいて分類してもよい。他の実施形態では、上記信号は画像を含む。
他の実施形態において、信号は、回折パターンの目視検査に基づいて分類してもよい。他の実施形態において、識別された構造タイプの数及び種類は、全回折パターンの組を全体として調べることによって求めてもよい。更に他の実施形態において、得られた信号は、回折パターンが試料から生じたものなのか基板から生じたものなのかによって分類してもよい。また、試料が銅メッシュを有する穴あき炭素グリッドに支持されている場合、信号は、回折パターンの全体又は一部が、物質から生じているのか、炭素フィルムから生じているのか、又は銅グリッドから生じているのかに応じて分類してもよい。他の実施形態では、上記試料はカーボンフィルム又はポリマーフィルムに支持されてもよい。
他の実施形態において、本方法は、適切に正規化された方位角積分による画像解析を含んでもよい。この実施形態において、回折パターンは二次元画像として記録され、中心ビームの位置が記録される。次いで、画像は、中心ビーム位置の周りで方位角積分され、独立変数xの関数である積分強度が得られる。独立変数xは、Q、S、2θ、又は当業者に公知の任意の有用な独立変数であってもよい。バックグラウンド強度も方位角積分し、独立変数の関数としてのバックグラウンドを得てもよく、このバックグラウンド強度を積分強度から差し引いてもよい。バックグラウンドの減算は、方位角積分工程以前の未処理画像に対して行うことも可能であり、これが好ましい場合もある。強度がの関数として得られると、強度収差が補正され、i(x)が得られる。必要に応じ、i(x)を更に正規化しF()を得てもよい。次いで、F()をフーリエ変換し対相関関数を得てもよい。この態様における一つの実施形態では、上記試料は、電子の散乱を減少するようにサイズ調整されてもよい。
別の用途(自動回折トモグラフィ(automated diffraction tomography、ADT))のために開発された自動取得モジュール(Kolb等、2007;Kolb等、2008)を用いると、回折モードにおいてSTEM画像内で選択された特定の領域を走査できる可能性がある。我々は、このモジュールを用いてPDF研究用のデータを得た。図12(b)に示すように、走査領域のサイズは一辺の長さが1μmの正方形に設定され、ナノ回折用のビームサイズは100nmに保たれた。従って、1μmの正方形内で、重なり合いの無い10×10の電子線回折パターンが収集できた。CuPcClの場合の電子線量率は10e/Å・s、β−CuPc及びγ−QAについては0.3e/Å・sであり、これはTEMモードにおける線量率よりも低い。TEMにおけるデータ収集に関し、一つの回折パターンに対する露光は1秒であった。バックグラウンド評価用の回折パターンは、粒子を含まない隣接領域から収集した。
[実施例1:金フィルム]
図2(a)は、本実施例で解析した金フィルムのTEM画像を示す。例えば、図2(b)に、Auフィルムからの回折パターンのCCD画像を示す。リングは滑らかで均一であり、良好な粉末平均が得られることを示唆している。図2(c)に示す得られた積分Dパターンは滑らかであり良好な統計を示している。このことは更に、図3(a)に示すF(Q)関数において実証されている。この統計は、図3(b)に示す、X線データから導かれるF(Q)よりも良好である。これら2つの換算構造関数は、ピーク位置と強度に関して同等であり、この例示的場合においてはED実験における散乱が運動学的であることを示唆している。EDデータにおける分解能はX線データに比べ低く、散乱における特徴がQの増加に伴いより早く減衰している。このことは、試料における実際の差異を反映しているものと思われる。低い分解能は、試料又は測定の影響であり得る。図3(c)と(d)を比べると、例示的ePDFピークは対応するxPDFピークよりも広いが、例示的ePDFとxPDFとに高い類似性があることがわかる。このことは、厚さ2.7nmの多結晶Auフィルムの場合、EDから運動学的PDFが得られることを示している。スパッタリングによる金フィルムは、バルクと同様に、金fcc構造を有するが、より不規則的であり、構造干渉性はナノメーターの範囲である。
図15(a)の曲線は、1D積分されF(Q)に変換されたデータを示している。ここで、eF(Q)(曲線1504a)及び実験X線から得られたxF(Q)(曲線1502a)を比較のために示している。X線曲線の主要な特徴はeF(Q)において再現されている。X線パターンの統計は非常に悪く、特にQmax5Å−1に近づくほど悪化する。上にずらして示された曲線1508aの電子線データは、最大測定Qレンジ7.7Å−1まで延びている。データの特徴は全域にわたり明瞭であり、良好な統計のもと測定された。このことは、この広い範囲におけるフーリエ変換によってより良い実空間分解能を有するPDFを得ることの可能性を提示している。
19に示すように、例えばコンピューターアクセス可能媒体106(例えば上述のようにハードディスク、フロッピーディスク、メモリースティック、CD−ROM、RAM、ROM、又はこれらの集合)を設けてもよい(例えば、処理装置102と通信状態で)。コンピューターアクセス可能媒体106は、実行可能命令108を含むことができる。それに加え又は別法として、記録装置110を、コンピューターアクセス可能媒体106とは別に設けてもよく、これにより処理装置102に命令を提供することが可能となり、処理装置は、例えば特定の例示的手順、プロセス、上述の方法を実行するように構成される。
更に、例示的処理装置102は、入力/出力装置114を搭載する又は含むことができ、この入力/出力装置114は、例えば有線ネットワーク、無線ネットワーク、インターネット、イントラネット、データ収集プローブ、センサー等を含むことができる。図19に示すように、例示的処理装置102は例示的表示装置112と通信可能であり、本開示の特定の例示的実施例において、表示装置112は、例えば処理装置からの情報を出力し且つ処理装置に情報を入力するように構成されたタッチスクリーンであり得る。更に、例示的表示装置112及び/又は記録装置110は、データをユーザーがアクセス可能なフォーマット及び/又はユーザー可読フォーマットで表示及び/又は記録するために用いることができる。

Claims (79)

  1. 試料の原子対相関関数を求める方法であって、当該方法は
    前記試料を電子ビームで露光し、当該試料において当該電子ビームから電子を散乱させることと、
    検出器で前記散乱電子を検出し、前記試料の回折パターンを得ることと、
    前記試料及び前記電子ビームのうちの少なくとも一つを操作して、当該試料の少なくとも一部分の当該電子ビームに対する露光を制限することと、
    前記回折パターンを解析し前記試料の原子対相関関数を求めることと、
    を含む。
  2. 前記試料が薄膜である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記試料の一部分における露光を制限することは、露光を臨界電子線量未満とすることを含む、請求項1に記載の方法。
  4. 前記臨界電子線量は、ブラッグ強度の減衰が37%未満となる線量である、請求項3に記載の方法。
  5. 前記臨界電子線量は、ブラッグ強度の減衰が5%未満となる線量である、請求項4に記載の方法。
  6. 前記臨界電子線量は、
    PDFにおける、近接ピークではないピークの高さの変化が37%未満となる線量である、請求項3に記載の方法。
  7. 前記臨界電子線量は、前記PDFにおける、近接ピークではないピークの高さの変化が5%未満となる線量である、請求項6に記載の方法。
  8. 前記回折パターンが、低電圧電子顕微鏡によって得られる、請求項1に記載の方法。
  9. 前記電子顕微鏡が、80kV未満の電圧で動作される、請求項8に記載の方法。
  10. 前記電子顕微鏡が、10kV未満の電圧で動作される、請求項8に記載の方法。
  11. 前記電子顕微鏡が、5kV未満の電圧で動作される、請求項8に記載の方法。
  12. 前記回折パターンは、透過型電子顕微鏡によって得られる、請求項1に記載の方法。
  13. 前記回折パターンは、STEMユニットを備えた透過型電子顕微鏡によって得られる、請求項1に記載の方法。
  14. 前記電子ビームの一部が前記試料を透過する、請求項1に記載の方法。
  15. 前記電子ビームが前記検出器の中心に衝突する、請求項14に記載の方法。
  16. 前記電子ビームが前記検出器の隅に衝突する、請求項14に記載の方法。
  17. 前記電子ビームが前記検出器に衝突しない、請求項14に記載の方法。
  18. 前記回折パターンは透過配置において得られる、請求項1に記載の方法。
  19. 前記回折パターンは反射配置において得られる、請求項1に記載の方法。
  20. 前記検出器に対する中心ビームの位置を記録することを更に含み、
    前記回折パターンは、電子線回折画像を含む、請求項1に記載の方法。
  21. 前記解析工程は、
    前記電子線回折画像を方位角積分し、積分により、積分強度を独立変数xの関数として生成することと、
    前記積分強度を前記試料における強度収差について補正し、i(x)を得ることと、を含む、請求項20に記載の方法。
  22. 前記独立変数xがQである、請求項21に記載の方法。
  23. 前記独立変数xがSである、請求項21に記載の方法。
  24. 前記独立変数xが2×θである、請求項21に記載の方法。
  25. バックグラウンド補正を加えることを更に含む、請求項21に記載の方法。
  26. i(x)を正規化しF(x)を得ることを更に含む、請求項21に記載の方法。
  27. F(x)をフーリエ変換し前記対相関関数を得ることを更に含む、請求項26に記載の方法。
  28. 前記試料が有機物質である、請求項1〜27のいずれか一つに記載の方法。
  29. 前記試料が医薬品有効成分である、請求項28に記載の方法。
  30. 前記試料が有機顔料である、請求項28に記載の方法。
  31. 前記試料が有機染料である、請求項28に記載の方法。
  32. 前記試料が有機高分子物質である、請求項28に記載の方法。
  33. 前記試料が有機半導体である、請求項28に記載の方法。
  34. 前記試料が有機液晶である、請求項28に記載の方法。
  35. 前記試料が有機金属物質である、請求項1〜27のいずれか一つに記載の方法。
  36. 前記試料が医薬品有効成分である、請求項1〜27のいずれかに記載の方法。
  37. 前記試料が有機金属触媒である、請求項36に記載の方法。
  38. 前記試料が金属有機錯体である、請求項1〜27のいずれか一つに記載の方法。
  39. 前記試料がレーキ顔料である、請求項38に記載の方法。
  40. 前記試料が金属含有有機染料である、請求項38に記載の方法。
  41. 前記試料が高分子金属有機物質である、請求項38に記載の方法。
  42. 有機又は有機金属試料における実質的に未露光な複数の領域から電子線回折データを収集する方法であって、当該方法は、
    (a)前記有機又は有機金属試料の一領域を、当該試料との交点において直径がDである電子ビームで照射することと、
    (b)前記試料の照射領域から、検出器によって電子線回折データを収集することと、
    (c)工程(a)〜(b)を、前記試料の未照射領域に対して繰り返すことと、
    を含む。
  43. 前記電子ビームは線源を有し、直径DSAの制限視野絞りが当該線源と前記試料との間に存在する、請求項42に記載の方法。
  44. 直径DSAの前記制限視野絞りは、前記試料と前記検出器との間に存在する請求項43に記載の方法。
  45. がDSAより大きい、請求項43に記載の方法。
  46. SAが、前記試料中の物理的又は化学的特徴のサイズに応じて選択される、請求項43に記載の方法。
  47. 前記電子ビームが平行ビームである、請求項42に記載の方法。
  48. が数ナノメーターである、請求項42に記載の方法。
  49. 物質に関する一つ以上の原子対相関関数を求める方法であり、当該方法は、
    (a)有機又は有機金属試料に対して、信号を得るための一つ以上の領域を同定することと、
    (b)前記試料を電子ビームで露光し、当該試料の回折パターンを得ることと、
    (c)各信号を分類スキームに従って分類することと、
    (d)検出された特異的構造形態の数を決定することと
    (e)同定された
    各構造形態に関するPDFを決定することと、を含む。
  50. 前記同定工程は、前記試料の電子顕微鏡画像の目視検査を含む、請求項49に記載の方法。
  51. 前記同定工程は、前記回折パターンの目視検査を含む、請求項49に記載の方法。
  52. 前記信号は、画像を更に含む、請求項49に記載の方法。
  53. 前記分類工程は、前記回折パターンが前記試料から生じているのか基板から生じているのかを決定することを含む、請求項49に記載の方法。
  54. 前記試料は、炭素フィルム又は高分子フィルム上に支持される、請求項49に記載の方法。
  55. 前記フィルムは、金属グリッド上に置かれ、更に、各信号の分類は、前記回折パターンの全て又は一部が、前記試料から生じているのか、前記炭素フィルムから生じているのか、又は前記金属グリッドから生じているのかを決定することを含む、請求項49に記載の方法。
  56. 前記分類工程は、前記回折パターンが特異的構造タイプを有するかを決定することを含み、更には、当該構造タイプは、全信号の組を全体として調べることにより決定される、請求項49に記載の方法。
  57. 試料の原子対相関関数を求める方法であって、当該方法は、
    前記試料を電子ビームで露光し、当該試料において当該電子ビームから電子を散乱させることと、
    検出器で前記散乱電子を検出し、前記試料の回折パターンを得ることと、
    前記回折パターンを解析し前記試料の原子対相関関数を求めることと、を含む。
  58. 前記試料が薄膜である、請求項57に記載の方法。
  59. 前記回折パターンが、低電圧電子顕微鏡によって得られる、請求項57に記載の方法。
  60. 前記電子顕微鏡が、80kV未満の電圧で動作される、請求項59に記載の方法。
  61. 前記電子顕微鏡が、10kV未満の電圧で動作される、請求項60に記載の方法。
  62. 前記電子顕微鏡が、5kV未満の電圧で動作される、請求項61に記載の方法。
  63. 前記回折パターンは、透過型電子顕微鏡によって得られる、請求項57に記載の方法。
  64. 前記回折パターンは、STEMユニットを備えた透過型電子顕微鏡によって得られる、請求項57に記載の方法。
  65. 前記回折パターンは透過配置において得られる、請求項57に記載の方法。
  66. 前記回折パターンは反射配置において得られる、請求項57に記載の方法。
  67. 前記検出器に対する中心ビームの位置を記録することを更に含み、
    前記回折パターンは、電子線回折画像を含む、請求項57に記載の方法。
  68. 前記解析工程は、
    前記電子線回折画像を方位角積分し、積分により、積分強度を独立変数xの関数として生成することと、
    前記積分強度を前記試料における強度収差について補正し、i(x)を得ることと、を含む、請求項67に記載の方法。
  69. 前記独立変数xがQである、請求項68に記載の方法。
  70. 前記独立変数xがSである、請求項68に記載の方法。
  71. 前記独立変数xが2×θである、請求項68に記載の方法。
  72. バックグラウンド補正を加えることを更に含む、請求項68に記載の方法。
  73. i(x)を正規化しF(x)を得ることを更に含む、請求項68に記載の方法。
  74. F(x)をフーリエ変換し前記対相関関数を得ることを更に含む、請求項73に記載の方法。
  75. 前記試料は、電子の散乱が低減されるように調整された厚さを有する、請求項57に記載の方法。
  76. 試料に関する原子対相関関数(PDF)を生成するための命令を含む非一時的コンピューターアクセス可能媒体であって、当該命令が計算装置で実行される際に、当該計算装置は、
    電子が供給された前記試料の少なくとも一部分から回折パターンを得ることと、
    前記回折パターンを解析することにより、前記試料に関するPDFを求めることと、を含む手順を実行する。
  77. 前記試料は、電子の散乱が低減されるように調整された厚さを有する、請求項76に記載の非一時的コンピューターアクセス可能媒体。
  78. 試料に関する原子対相関関数(PDF)を生成するシステムであって、当該システムは、
    命令を含む非一時的コンピューターアクセス可能媒体を含み、
    前記命令が計算装置で実行される際に、当該計算装置は、
    電子が供給された前記試料の少なくとも一部分から回折パターンを得ることと、
    前記回折パターンを解析することにより、前記試料に関するPDFを求めることと、を含む手順を実行するように構成されている。
  79. 前記試料は、電子の散乱が低減されるように調整された厚さを有する、請求項78に記載のシステム。
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