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JP2014235798A - 非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池 - Google Patents

非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池 Download PDF

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春樹 岡田
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Akikazu Matsumoto
晃和 松本
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光史 野殿
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Abstract

【課題】安定品質で供給可能であり、電池性能を損なうことなく導電助剤の分散性が良好な電極用スラリー組成物が得られる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池の提供。【解決手段】本発明の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂は、バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に、前記バインダ樹脂として用いられ、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものであり、かつ、前記溶媒に溶解して濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、式(a):50msec≰T2−mid≰250msec、および式(b):10%≰F−mid≰30%を満足する。【選択図】なし

Description

本発明は、非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池に関する。
二次電池は、ノート型パソコンや携帯電話等、弱電の民生機器用途、ハイブリッド車や電気自動車等の蓄電池として用いられている。これらの用途において、二次電池としては、高いエネルギー密度を有することから、非水電解質二次電池(以下、「非水二次電池」ともいう。)の一種であるリチウムイオン二次電池が多用されている。
一般に、非水二次電池の電極としては、金属箔等の集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備えるものが用いられており、合剤層には活物質等がバインダ樹脂によって保持されている。かかる電極は、通常、以下のようにして製造される。すなわち、バインダ樹脂、活物質、液体媒体(溶媒)および必要に応じて導電助剤等を混練して、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「電極用スラリー組成物」ともいう。)を調製する。この電極用スラリー組成物を転写ロール等で集電体の片面又は両面に塗工し、液体媒体を乾燥除去して合剤層を形成し、その後、必要に応じてロールプレス機等で圧縮成形して電極を得る。液体媒体としては、活物質や導電助剤等を分散し、バインダ樹脂を溶解するものが用いられる。
従来、非水二次電池電極用のバインダ樹脂としては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系樹脂が用いられている。PVDFは、電極用スラリー組成物としたときにレオロジー特性(チキソ性)が良い、正負極において電気化学的に安定である等の長所を有していることから汎用されている。
しかし、電極を製造するに際しては、PVDF等のバインダ樹脂をN―メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶媒に溶解して用いるため、乾燥時の溶媒回収コスト、環境に対して負荷が高いなどの問題が顕在化している。
そのため最近では、有機溶媒を水へ置き換える試みがなされており、負極においてはPVDFを水に分散させてラテックス状態として用いることが多い。また、負極用のバインダ樹脂として、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)ラテックス等の水分散系バインダ樹脂や、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)が用いられることもある。
しかし、PVDFやSBRは、結着力が低い問題がある。そのためPVDFやSBRをバインダ樹脂として用いた場合、非水二次電池の容量、レート特性、サイクル特性等の電池性能の向上が困難であった。
電子の移動の容易さに影響されるレート特性の向上には、例えば、導電助剤の増量が効果的であることが知られている。
また、これまで負極には活物質として黒鉛材料が用いられていたが、近年の非水二次電池の高容量化を背景に、シリコンやスズなどの酸化物や合金などの微粒子を黒鉛材料と混合して用いたり、前記微粒子を単独で使用したりする試みがなされている。ところが、これらの方法では電極内の導電パスが減少しやすかった。そこで、電極内での電子伝導性を確保するために、電極用スラリー組成物に導電助剤を添加することが必要となっている。
しかし、電極用スラリー組成物中の導電助剤の分散性が劣ると、電子の移動が妨げられ、結果としてレート特性などの電池性能が低下することが懸念される。
このような問題に対し、改質された導電助剤を使用する方法や、分散性を改良する添加剤や樹脂を使用する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、水系電極ペースト中の導電助剤の分散性を改良するために、親水化された導電助剤を使用する方法が開示されている。特許文献2には、塩基性官能基を有する有機色素などの特定構造の誘導体と、塩基性官能基を有する樹脂とを併用する方法が開示されている。
一方、CMCは天然物由来なため、供給ロット毎の品質が安定しにくく、その結果、得られる電極の品質も安定しにくい等の問題がある。
そのため、安定品質で供給可能な非天然物で水溶性のバインダ樹脂が望まれる。
加えて、バインダ樹脂には、高い電池性能も併せ持つことも要求される。
このような問題に対し、バインダ樹脂としてN−ビニルアセトアミド単位を有する重合体が報告されている。
例えば、特許文献3には、バインダ樹脂として、ポリN−ビニルアセトアミドと、エチレンオキサイド(EO)およびプロピレンオキサイド(PO)の共重合体とを含む樹脂成分が開示されている。このバインダ樹脂によれば、結着性、低温から室温環境下での電池性能、リチウムイオンの伝導性に優れるとしている。
特開2011−86378号公報 特開2010−129528号公報 特開2002−117860号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、導電助剤が本来有する疎水性表面によるパーコレーション構造が損なわれ、結果として電池性能に悪影響を及ぼす恐れがあった。
特許文献2に記載の方法では、電極合剤の結着性や合剤層の集電体への密着性を保持するためには別途バインダ樹脂が必要であり、結果として電池の質量エネルギー密度が低下し、電池性能が低下する可能性があった。
特許文献3に記載の樹脂成分の場合、EO鎖あるいはPO鎖が電解液組成に類似した分子構造のため、EOおよびPOの共重合体が電解液へ溶出する場合があり、電池性能へ悪影響を及ぼすことが懸念される。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、安定品質で供給可能であり、電池性能を損なうことなく導電助剤の分散性が良好な電極用スラリー組成物が得られる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
本発明者は、種々検討の結果、以下の知見を得た。
電極用スラリー組成物中のバインダ樹脂および導電助剤の濃度と同程度に調製した、バインダ樹脂、導電助剤および溶媒を混合した評価用スラリー組成物について、水素核のパルスNMRを測定すると、時間に対して磁化が減衰する緩和曲線(自由誘導減衰(FID)曲線)が得られる。このFID曲線から得られる緩和時間はスピン−スピン緩和時間(T2)である。FID曲線は、評価用スラリー組成物中の水素原子の運動性が比較的高い成分、運動性が比較的低い成分、運動性が中間の成分の3成分に由来する緩和曲線が重なったものであり、FID曲線を非線形最小二乗法で解析することで、上記3成分に由来する3つの緩和曲線に分離することができる。すなわち、FID曲線は3つの緩和曲線の和で近似することができる。この3つの緩和曲線からそれぞれ得られるT2のうち、2番目に速いT2(T2−mid)、およびT2−midである水素原子の割合(F−mid)が適正な範囲にあるとき、前記評価用スラリー組成物における導電助剤の分散性が良好となることを見出した。そこで、T2−midおよびF−midを規定することで、電極用スラリー組成物中の導電助剤の分散性が良好となり、その結果、導電助剤の偏在が少なく均一性に優れた合剤層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
<1> バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に、前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、下記条件(i)、(ii)を満たす、非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
条件(i):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を前記溶媒に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、下記式(a)、(b)を満足する。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
(式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
条件(ii):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。
<2> ハロゲン元素を含まない、<1>に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
<3> <1>または<2>に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物。
<4> 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、前記合剤層が、<1>または<2>に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質および導電助剤を含有する、非水電解質二次電池用電極。
<5> 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、前記合剤層が、<3>に記載の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を集電体に塗工し、乾燥させて得られるものである、非水電解質二次電池用電極。
<6> <4>または<5>に記載の非水電解質二次電池用電極を備える、非水電解質二次電池。
本発明によれば、安定品質で供給可能であり、電池性能を損なうことなく導電助剤の分散性が良好な電極用スラリー組成物が得られる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池を提供できる。
パルスNMRにより測定される評価用スラリー組成物のCPMG法で得られた自由誘導減衰曲線と、該自由誘導減衰曲線より分離される3つの緩和曲線の一例を示すスペクトルである。 T2−long、T2−mid、T2−shortに相当する部分を模式的に示す模式図である。 N−ビニルピロリドン単位の分子模型を示す斜視図である。 アクリル酸ナトリウム単位の分子模型を示す斜視図である。 N−ビニルホルムアミド単位の分子模型を示す斜視図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において「水溶性」とは、バインダ樹脂が水に溶解することを意味し、具体的には25℃の水100gに対する溶解度(すなわち、25℃において水100gに対して溶解する限度)が0.1g以上のことをいう。
また、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、「(メタ)アリル」は、アリルとメタリルの総称である。
≪非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂≫
本発明の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂(以下、単に「バインダ樹脂」ともいう。)は、バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「電極用スラリー組成物」ともいう。)に、前記バインダ樹脂として用いられるものである。
本発明のバインダ樹脂は、下記条件(i)、(ii)を満たすものである。以下、順に説明する。
条件(i):
当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を前記溶媒(すなわち、電極用スラリー組成物に用いる溶媒)に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤(すなわち、電極用スラリー組成物に用いる導電助剤)0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、下記式(a)、(b)を満足する。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
(式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
バインダ樹脂溶液の濃度が3質量%であれば、非水電解質二次電池用電極(以下、単に「電極」ともいう。)の製造に用いられる電極用スラリー組成物中のバインダ樹脂溶液における30℃でのゼロずり粘度が、概ね100mPa・sec以上となる。この場合、電極用スラリー組成物を集電体上に容易に塗工することが可能であり、集電体に塗工された電極用スラリー組成物が液ダレするなどの問題が生じにくい。30℃でのゼロずり粘度が100mPa・secを下回る場合は、集電体に塗工された電極用スラリー組成物が液ダレするなどの問題が発生する。
30℃でのゼロずり粘度は10000mPa・sec以下であることが好ましい。30℃でのゼロずり粘度が10000mPa・secを上回る場合は、電極用スラリー組成物の流動性が低下するため、集電体への塗工性が劣ったり、得られた合剤層にかすれが生じたりするなどの問題が懸念される。
30℃でのゼロずり粘度を100〜10000mPa・secとするためには、バインダ樹脂に含まれる重合体(以下、「重合体(A)」という。)の平均分子量や前記溶媒に対する溶解度、バインダ樹脂溶液の濃度を調節すればよい。
例えば、ある重合体(A−α)を用いた場合に、30℃でのゼロずり粘度が100mPa・secを下回ったときは、以下の方法(1)〜(4)の少なくとも1つを採用すれば30℃でのゼロずり粘度が高くなる傾向にあるが、これらの方法に限定されない。
方法(1):その重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(2):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が高い重合体に置き換える。
方法(3):その重合体(A−α)よりも平均分子量が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(4):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも平均分子量が高い重合体に置き換える。
一方、30℃でのゼロずり粘度が10000mPa・secを上回ったときは、以下の方法(5)〜(8)の少なくとも1つを採用すれば30℃でのゼロずり粘度が低くなる傾向にあるが、これらの方法に限定されない。
方法(5):その重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が低い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(6):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が低い重合体に置き換える。
方法(7):その重合体(A−α)よりも平均分子量が低い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(8):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも平均分子量が低い重合体に置き換える。
ゼロずり粘度は、ずり速度がゼロ、つまり静止状態での粘度を表し、バインダ樹脂溶液の粘性を表す重要な物性量の1つである。ゼロずり粘度は、温度と分子量に依存することが知られている。
ゼロずり粘度の測定は、直径60mm、コーン角2°のスチール製コーンプレートを装備したレオメーターを用いて行う。測定条件は、温度30℃、ずり速度を0.03sec−1から1000sec−1へ変化させて、ずり速度の対数として等間隔に45点以上の粘度を測定する。
ゼロずり粘度は、種々のずり速度において測定された粘度を、下記式(c)で表されるCrossの式により最小二乗法でのカーブフィッティング解析を行うことで求められる。
η=η+(η−η)/(1+k×D) ・・・(c)
(式中、「D」はずり速度(単位:sec−1)であり、「η」はゼロずり粘度(単位:Pa・sec)であり、「η」はずり速度Dにおける粘度(単位:Pa・sec)であり、「η」はずり速度が無限大のときの粘度であり、kとnは定数を表す。)
前記バインダ樹脂溶液10gに対して、前記導電助剤が0.5gという添加量は、電極用スラリー組成物中の導電助剤の含有濃度として平均的な値である。つまり上記のパルスNMR測定で測定される値は、電極用スラリー組成物中での導電助剤の分散状態を反映したものといえる。
バインダ樹脂を前記溶媒に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤0.5gとを混合した評価用スラリー組成物の調製は、例えば以下の操作で行う。
まず、所定の大きさの容器に導電助剤を0.5g加えた後、バインダ樹脂溶液10gを加える。そして、前記容器に所定の大きさの撹拌子を入れ、室温(25℃)にて撹拌し、評価用スラリー組成物を得る。
評価用スラリー組成物をパルスNMRで測定して得られるスピン−スピン緩和時間(T2)は、評価用スラリー組成物に含まれる水素原子の分子運動性を反映しており、前記導電助剤の分散性の程度を表す指標となる。
T2の測定には、パルス核磁気共鳴装置を用いる。例えば10mmφのNMRサンプル管の管底から約4cmに達するまで評価用スラリー組成物を入れ、30℃に加温した試料セルにセットする。測定条件は、測定核を水素核とし、測定周波数25MHz、パルス幅を2.5μsec、パルス間隔を2.0msec、積算回数64回、パルスシーケンスをCPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法とし、自由誘導減衰(FID)曲線を得る。
評価用スラリー組成物をパルスNMRによる測定対象とし、CPMG法で得られたFID曲線の一例を図1に示す。
図1に示すように、評価用スラリー組成物をパルスNMRで測定すると、時間に対して磁化が減衰する緩和曲線(FID曲線)が得られる。このFID曲線から得られる緩和時間はスピン−スピン緩和時間(T2)である。FID曲線は、評価用スラリー中の水素原子の運動性が比較的高い成分、運動性が比較的低い成分、運動性が中間の成分に由来する緩和曲線が重なったものである。FID曲線を非線形最小二乗法で解析することで、具体的には下記式(d)で表される多成分カーブフィッティングにより解析することで、上記3成分に由来する3つの緩和曲線に分離することができる。すなわち、FID曲線は3つの緩和曲線の和で近似することができる。
M(t)=F−long×exp(−1/2×(t/T2−long))+F−mid×exp(−1/2×(t/T2−mid))+F−short×exp(−1/2×(t/T2−short)) ・・・(d)
式中、「T2−long」はFID曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が1番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間(T2)である。すなわち、「T2−long」は3つの緩和曲線からそれぞれ得られるT2のうち、1番目に速いT2のことである。
「T2−mid」は前記緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間である。すなわち、「T2−mid」は3つの緩和曲線からそれぞれ得られるT2のうち、2番目に速いT2のことである。
「T2−short」は前記緩和が3番目に速い(1番遅い)緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間である。すなわち、「T2−short」は3つの緩和曲線からそれぞれ得られるT2のうち、1番遅いT2のことである。
「F−long」はT2−longである水素原子の割合(T2−long存在比)を表す。
「F−mid」はT2−midである水素原子の割合(T2−midの存在比)を表す。
「F−short」はT2−shortである水素原子の割合(T2−shortの存在比)を表す。
「M」は信号(磁化)である。
「t」は測定時間である。
緩和曲線の求め方を以下に示す。
まず、待ち時間500msec〜1000msecの間を選択し、非線形最小二乗法によりカーブフィッティングを行う。
次に、待ち時間100msec〜500msecの間を選択し、非線形最小二乗法によりカーブフィッティングを行う。
最後に、待ち時間0msec〜100msecの間を選択し、非線形最小二乗法によりカーブフィッティングを行う。
上記条件で、3つの緩和曲線を求める。
評価用スラリー組成物に含まれる水素原子には、前記バインダ樹脂に由来する水素原子と、前記溶媒に由来する水素原子の2種類が存在するが、一般的にバインダ樹脂に由来する水素原子のT2の値は、1msecより短いことが知られている。一方、評価用スラリー組成物のパルスNMR測定から求められる3種類のT2は、いずれも1msec以上であるため、T2−long、T2−mid、T2−shortは、すべて前記溶媒の水素原子に由来する運動性を観測していると考えられる。
しかし、前記溶媒は前記バインダ樹脂を溶解しているため、前記溶媒の運動性は、相互作用した前記バインダ樹脂の運動性の影響を含んでいると考えられる。
ここで、図2に、評価用スラリー組成物におけるT2−long、T2−mid、T2−shortに相当する部分を模式的に示す。なお、図2において、符号Lは導電助剤と相互作用していないバインダ樹脂溶液であり、符号Mは導電助剤の表面に吸着したバインダ樹脂溶液であり、符号Sは導電助剤の凝集体(粗大粒子)の隙間に入り込んだバインダ樹脂溶液であり、符号Dは導電助剤である。
T2−longは、導電助剤Dに吸着しておらず(相互作用しておらず)、導電助剤Dの影響を大きく受けていないバインダ樹脂溶液Lの溶媒の運動性を表している。
T2−midは、導電助剤Dの表面に吸着したバインダ樹脂溶液Mの溶媒の運動性を表している。
T2−shortは、導電助剤Dの凝集体の隙間に入り込んだバインダ樹脂溶液Sの溶媒の運動性を表している。
そのため、導電助剤の分散性に大きく関係しているのは、中間の運動性を持つ成分のT2−midとF−midであると考えられる。よって、本発明においては、評価用スラリー組成物が下記式(a)、(b)を満足することを特徴とする。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
T2−midが50msecを下回ると、導電助剤と、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液との相互作用が強くなる。その結果、電極用スラリー組成物を塗工する際のせん断に対して充分な粒子構造の変形がなされず、塗工ムラや数mmの大きさの空隙の形成を引き起こす。一方、T2−midが250msecを上回ると、導電助剤と、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液との相互作用が弱くなる。その結果、導電助剤の経時的な沈降が発生し、電極用スラリー組成物が不均質な状態となる。T2−midが上記式(a)の範囲内であれば、上述した問題が発生しにくくなるが、電極用スラリー組成物の均質性(すなわち、導電助剤の分散性)が向上する点で、T2−midは200msec以下であることが好ましい。
F−midが10%を下回ると、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液の量が少ないために、導電助剤の粗大粒子が生じやすくなる。その結果、導電助剤の分散性が低下し、電極用スラリー組成物が不均質となる。一方、F−midが30%を上回ると、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液の量が多くなり、電極用スラリー組成物を塗工する際のせん断に対して、バインダ樹脂溶液だけが変形し、導電助剤の粒子構造は変形しにくい。その結果、塗工ムラや数mmの大きさの空隙が形成しやすくなる。
T2−midおよびF−midの値は、バインダ樹脂に含まれる重合体(A)の構成単位の双極子モーメントの方向とその大きさ、構成単位の組成、平均分子量、構成単位がイオン性の場合はイオン性%などにより調節できる。
例えば、ある重合体(A−β1)を用いた場合に、T2−midが50msecを下回ったときは、導電助剤と、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液との相互作用を弱めれば、T2−midを大きくすることができる。具体的には、以下の方法(9)〜(15)の少なくとも1つを採用すればT2−midが大きくなる傾向にあるが、これらの方法に限定されない。
方法(9):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントの方向よりも、重合体の主鎖に垂直で、かつ重合体の主鎖へ向かう方向の双極子モーメントを持つ構成単位(以下、構成単位(X)という。)からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(10):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、構成単位(X)の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(11):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントよりも、小さな双極子モーメントを持つ構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(12):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、それらの構成単位が持つ双極子モーメントより小さな双極子モーメントを持つ構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(13):その重合体(A−β1)よりも平均分子量が低い重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(14):その重合体(A−β1)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その構成単位よりもイオン性%の値が小さい構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(15):その重合体(A−β1)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、その構成単位よりもイオン性%の値が小さい構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
なお、「イオン性%」とは、電子の電荷を100%とした場合の構成単位のイオン性の指標であり、構成単位の双極子モーメントμ(単位:デバイ)と、イオン結合を構成する原子間距離r(単位:Å)から、下記式(e)より算出できる。
イオン性%=(μ×3.34×10−30/r×10−10)×100/1.6×10−19 ・・・(e)
例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムを単量体とする構成単位のイオン性%は、それぞれ86%、47%、63%である。
以下に、分子軌道法、分子力学法、密度汎関数法などの計算化学を用いて構成単位の双極子モーメントμの大きさと方向を求める方法の一例を示す。なお、以下の例では、富士通株式会社製の「SCIGRESS」を用いて双極子モーメントμの大きさと方向を求めているが、上述した計算方法を実行できるソフトウェアを用いて、下記と同じ内容の計算を行い、双極子モーメントμの大きさと方向を求めてもよい。
まず初めに、構成単位の安定構造(ローカルミニマム構造)を決定する。Workspaceに、単量体構造を作図した後、重合反応性のビニル基の炭素−炭素二重結合を単結合に変更し、それぞれの炭素に水素原子を結合させて飽和構造とし、構成単位とする。この構成単位を選択し、MM2法による分子構造の最適化計算で、比較的エネルギー安定な構造とする。さらに、PM3法による分子構造の最適化計算で、ローカルミニマム構造を決定する。
次に、構成単位の最安定構造(グローバルミニマム構造)を決定する。構成単位の分子構造に存在する単結合やイオン結合からなる二面体角を、「二面体角探索ラベルの自動作成」機能を用いて、−120°〜120°の範囲で、ステップ数2に設定し、MM2法でのCONFLEXにより立体配座を変化させて、最安定構造に近い立体配座を持つ分子構造を計算する。そして、この立体配座を基にして、semiempirical PM3法により立体配座の最適化を行い、構成単位のグローバルミニマム構造を決定する。
最後に、最安定構造の双極子モーメントμを表示させ、双極子モーメントμの大きさと方向を求める。
一方、ある重合体(A−β2)を用いた場合に、T2−midが250msecを上回ったときは、導電助剤と、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液との相互作用を強めれば、T2−midを小さくすることができる。具体的には、以下の方法(16)〜(22)の少なくとも1つを採用すればT2−midが小さくなる傾向にあるが、これらの方法に限定されない。
方法(16):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントの方向よりも、重合体の主鎖に垂直で、かつ重合体の主鎖とは反対へ向かう方向の双極子モーメントを持つ構成単位(以下、構成単位(Y)という。)からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(17):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、構成単位(Y)の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(18):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントよりも、大きな双極子モーメントを持つ構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(19):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、それらの構成単位が持つ双極子モーメントより大きな双極子モーメントを持つ構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(20):その重合体(A−β2)よりも平均分子量が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(21):その重合体(A−β2)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その構成単位よりもイオン性%の値が大きい構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(22):その重合体(A−β2)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、その構成単位よりもイオン性%の値が大きい構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
また、例えば、ある重合体(A−γ1)を用いた場合に、F−midが10%を下回ったときは、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液の量を増やせば、F−midを大きくすることができる。具体的には、その重合体(A−γ1)よりも平均分子量が低い重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−γ1)を該重合体に置き換える、などの方法を採用すればよいが、この方法に限定されない。
一方、ある重合体(A−γ2)を用いた場合に、F−midが30%を上回ったときは、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液の量を減らせば、F−midを小さくすることができる。具体的には、その重合体(A−γ2)よりも平均分子量が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−γ2)を該重合体に置き換える、などの方法を採用すればよいが、この方法に限定されない。
条件(ii):
当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。
本発明のバインダ樹脂が条件(ii)を満たせば、安定品質で供給可能となる。
ここで、本発明における「低分子化合物」とは、化学的な合成反応によって樹脂の構成単位となる化合物のことである。例えば、化学的な合成反応が重合反応の場合、「低分子化合物」とは、単量体のことである。このような「低分子化合物」の分子量は、通常、1000以下である。
以下、本発明のバインダ樹脂を構成する重合体の一例について、具体的に説明する。
(重合体(A))
重合体(A)は、本発明のバインダ樹脂に含まれる重合体であり、電解用スラリー組成物に適度な粘度を付与し、電解用スラリー組成物の安定性や電池性能を付与する。
上述したように、本発明では、バインダ樹脂を溶媒に溶解させて、濃度が3質量%となるバインダ樹脂溶液とし、導電助剤と混合した評価用スラリー組成物のT2緩和測定を行う。よって、バインダ樹脂には、電極用スラリー組成物の調製に用いられる溶媒に溶解したときに、少なくとも濃度が3質量%となる溶解性を有する必要がある。従って、バインダ樹脂を構成する重合体(A)自体も、電極用スラリー組成物の調製に用いられる溶媒に溶解したときに、少なくとも濃度が3質量%の溶液となる溶解性を有するものである。
重合体(A)は、キサンタンガム、マンナン等とそれらの塩である天然高分子化合物や、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等とそれらの塩である半合成高分子を除き、低分子化合物を原料として化学的に合成された高分子(以下、合成高分子という。)であればよく、特に限定されない。合成高分子は、天然物を原料とせず、供給ロット毎の品質が比較的安定するため好ましい。
重合体(A)は、酸性基および酸性基の塩の少なくとも一方を含む単量体(以下、単量体(a1)という。)に由来する構成単位を有していてもよい。酸性基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基などが挙げられる。酸性基の塩としては、酸性基のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩などが挙げられる。
アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。
アルカリ土類金属としては、例えばマグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。
置換アンモニウムとしては、例えば脂式アンモニウム類、環式飽和アンモニウム類、環式不飽和アンモニウム類などが挙げられる。
単量体(a1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(無水)イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、(無水)マレイン酸等のカルボキシ基含有モノビニル単量体およびその塩;(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含モノビニル単量体およびその塩;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン、ジフェニル((メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、3−クロロ−2−アシッド・ホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のリン酸基含有モノビニル単量体およびその塩などが挙げられる。
重合体(A)は、上記単量体(a1)を除く、ヒドロキシ基、エーテル結合、またはアミノ基を含む単量体(以下、単量体(a2)という。)に由来する構成単位を有していてもよい。
単量体(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシ−n−ブチル等のヒドロキシ基含有モノビニル単量体;(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸−1−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル結合含有モノビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニルカルバゾール等のアミノ基含有モノビニル単量体などが挙げられる。
なお、前記「ビニル単量体」は、ビニル基、またはビニル基のα位の炭素原子に結合した水素原子がメチル基で置換されたα−メチルビニル基を少なくとも1つ有する化合物である。
これら単量体(a1)、単量体(a2)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合体(A)中の単量体(a1)単位と単量体(a2)単位の合計含有率は、重合体(A)が水に溶解すれば特に限定されないが、重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計(100モル%)中、20モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上が特に好ましい。重合体(A)が、単量体(a1)単位と単量体(a2)単位を合計40モル%以上の含有率で含有するもの(単独重合体または共重合体)であれば、水への溶解性が特に向上し、集電体に対する密着性(結着性)等に優れた合剤層を形成できる。
単量体(a1)単位と単量体(a2)単位の合計含有率の上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。
単量体(a1)単位と単量体(a2)単位のそれぞれの含有率は特に限定されず、0〜100モル%の範囲で適宜設定できる。また、単量体(a1)単位および単量体(a2)単位以外の単位(任意単位)を重合体(A)に含有させる場合は、任意単位とのバランスを考慮して適宜設定できる。
前記の任意単位としては、任意単量体として単量体(a1)および単量体(a2)以外の重合性の官能基(例えば、ビニル基、α−メチルビニル基、アリル基等)を1つ有する単官能の単量体(以下、単量体(a3)という。)や、2つ以上有する多官能の単量体(以下、単量体(a4)という。)に由来する単位が挙げられる。特に、単量体(a4)を用いると、重合体(A)が架橋構造を有するものとなり、機械的特性等が向上する。
単量体(a3)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;メチルビニルケトン、イソプロピルメチルケトン等のビニルケトン類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−シアノアクリレート、ジシアノビニリデン、フマロニトリル等のシアン化ビニル単量体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;マレイミド、フェニルマレイミド等のマレイミド類;酢酸ビニルなどが挙げられる。
これら単量体(a3)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合体(A)中の単量体(a3)単位の含有率は、重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計(100モル%)中、0〜10モル%が好ましく、0.01〜5モル%がより好ましい。
単量体(a4)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
これら単量体(a4)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合体(A)中の単量体(a4)単位の含有率は、重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計(100モル%)中、0〜10モル%が好ましく、0.01〜5モル%がより好ましい。
重合体(A)は、公知の重合方法により、単量体(a1)または単量体(a2)を単独で重合したり、単量体(a1)および/または単量体(a2)と任意単量体(単量体(a3)や単量体(a4)など)とを重合したりすることで製造できる。これらの重合方法としては特に限定されず、単量体の種類及び生成する重合体の溶解性等に応じて、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等から選択される。
例えば、各単量体が水に可溶であり、かつ生成する重合体の水への親和性が高い場合には、水溶液重合を選択できる。水溶液重合は、単量体及び水溶性重合開始剤を水に溶解し、外部からの加熱や重合熱により重合体を得るものである。
また、各単量体の水への溶解度が小さい場合は、懸濁重合、乳化重合等を選択できる。乳化重合は、水中に単量体、乳化剤、水溶性の重合開始剤等を加え、撹拌下で加熱して重合体を得るものである。
また、重合に用いられる開始剤としては特に限定されないが、重合法に応じて、熱重合開始剤、光重合開始剤などから任意の開始剤を用いることができる。具体的にはアゾ化合物、過酸化物などが挙げられる。
また、重合系内には連鎖移動剤が存在していてもよい。
重合温度および時間は特に限定されないが、重合反応の進行、化合物の安定性、操作性の観点から、0〜200℃、0.1〜100時間が好ましい。
さらに、ろ過、遠心分離、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥及びこれらを組み合わせて水を除去することで、粉末状の重合体(A)が得られる。
重合体(A)の分子量は特に限定されないが、重合体(A)が水溶性の場合は、粘度平均分子量(Mv)として、1万〜2000万が好ましく、10万〜1500万がより好ましく、50万〜1000万が特に好ましい。粘度平均分子量(Mv)が上記下限値以上であると結着性がより高まり、上記上限値以下であると水溶性が高まり、併せて導電助剤の分散性がより良好となる。
粘度平均分子量(Mv)は、重合体(A)の水溶液の粘度から、ポリN−ビニルホルムアミド(以下、PNVFという。)を標準物質とした粘度換算分子量として算出される。粘度平均分子量の算出方法の例を以下に示す。
粘度平均分子量の算出方法:
重合体(A)の水溶液の還元粘度(ηsp/C)と、Hugginsの式(ηsp/C=[η]+K’[η]C)とから、固有粘度[η]を算出する。なお、上記式中の「C」は、重合体(A)の水溶液における重合体(A)の濃度(g/dL)である。重合体(A)の水溶液の還元粘度の測定方法は、後述のものである。
得られた固有粘度[η]、およびMark−Houwinkの式([η]=KMa)から、粘度平均分子量(式中の「M」)を算出する。
なお、1N食塩水において、PNVFのパラメータは、K=8.31×10−5、a=0.76、K’=0.31である。
還元粘度の測定方法:
まず、重合体(A)の濃度が0.1質量%となるように、1N食塩水に重合体(A)を溶解して、重合体(A)の水溶液を得る。得られた重合体(A)の水溶液について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t)を測定する。
別途、ブランクとして、1N食塩水について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t)を測定する。
得られた流下時間から、下記式(f)により還元粘度を算出する。
ηsp/C={(t/t)−1}/C ・・・(f)
(式中、Cは、重合体(A)の水溶液における重合体(A)の濃度(g/dL)である。)
一方、重合体(A)が非水溶性の場合は、ポリスチレンを標準物質とした、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などで測定される質量平均分子量(Mw)が1万〜1000万であることが好ましく、2万〜500万がより好ましく、2万〜200万が特に好ましい。質量平均分子量(Mw)が上記下限値以上であると結着性がより高まり、上記上限値以下であると有機溶媒への溶解性が高まり、併せて電極用スラリー組成物の分散性がより良好となる。
バインダ樹脂に含まれる重合体(A)は、1種でも2種以上でもよい。
また、本発明のバインダ樹脂は、ハロゲン元素を含まないことが好ましい。
ここで、「ハロゲン元素を含まない」とは、ハロゲン元素を含む重合体(例えば、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン、ポリペンタフルオロプロピレン等の含フッ素重合体など)が、バインダ樹脂100質量%中、50質量ppm未満であることを意味する。
バインダ樹脂がハロゲン元素を含む場合、このバインダ樹脂を用いて製造した電極を備えた非水電解質二次電池(以下、「非水二次電池」ともいう。)は、充放電時の電解質とバインダ樹脂との間の電気化学反応によりフッ素化水素などのハロゲン化水素が発生し、活物質などの腐食が懸念される。
バインダ樹脂がハロゲン元素を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
バインダ樹脂の形態としては、粉末状、水等の溶媒に溶解または分散したドープ状などが挙げられる。保管や流通時の安定性、経済性、取り扱い性の容易さの観点から、保管や流通時は粉末状が好ましい。
本発明のバインダ樹脂は、そのまま電極用スラリー組成物に用いてもよいし、非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂組成物として用いてもよい。以下、非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂組成物の一例について説明する。
非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂組成物(以下、単に「バインダ樹脂組成物」ともいう。)は、上述した本発明のバインダ樹脂を含有する。
バインダ樹脂組成物の形態としては、粉末状、水等の溶媒に溶解または分散したドープ状などが挙げられる。保管や流通時の安定性、経済性、取り扱い性の容易さの観点から、保管や流通時は粉末状が好ましい。
粉末状のバインダ樹脂組成物中の本発明のバインダ樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。バインダ樹脂の含有量が上記下限値以上であれば、本発明の効果が顕著に発揮される。
バインダ樹脂組成物は、電池性能に影響が出ない量であれば、必要に応じて本発明のバインダ樹脂以外のバインダ樹脂(他のバインダ樹脂)や、粘度調整剤、結着性向上剤、分散剤等の添加剤を含有してもよい。
他のバインダ樹脂としては、例えば酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)、アクリルゴム系ラテックスが挙げられる。
また、他のバインダ樹脂は、ハロゲン元素を含まないことが好ましい。
粘度調整剤は、バインダ樹脂の塗工性を向上させるものである。粘度調整剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系重合体およびこれらのアンモニウム塩;ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム等のポリ(メタ)アクリル酸塩;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル酸またはアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸、マレイン酸又はフマル酸とビニルアルコールの共重合体、変性ポリビニルアルコール、変性ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸が挙げられる。
粘度調整剤等の添加剤は、最終的には電極に残留するので、なるべく加えないことが望ましいが、加える場合には電気化学的安定性を有する添加剤を用いることが好ましい。
バインダ樹脂組成物が粘度調整剤等の添加剤を含有する場合、その含有量は、バインダ樹脂組成物を100質量%としたときに、50質量%以下が好ましい。ただし、電池性能をより高める観点から、添加剤の含有量は少ないほど好ましい。
バインダ樹脂組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、粉末状の本発明のバインダ樹脂と、必要に応じて粉末状の添加剤とを粉体混合したり、粉末状の本発明のバインダ樹脂と、必要に応じて粉末状の添加剤とを溶媒に分散したりすることで得られる。
以上説明した本発明のバインダ樹脂、および本発明のバインダ樹脂を含有するバインダ樹脂組成物は、上記条件(i)、(ii)を満たすので、安定品質で供給可能であり、電池性能を損なうことなく導電助剤の分散性が良好な電極用スラリー組成物が得られる。該電極用スラリー組成物は導電パスが良好であり、電池性能に優れ、かつ導電助剤の偏在が少なく均一性に優れた合剤層を備えた電極が得られる。
特に、バインダ樹脂がハロゲン原子を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
≪非水電解質二次電池電極用スラリー組成物≫
本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「電極用スラリー組成物」ともいう。)は、上述した本発明のバインダ樹脂または本発明のバインダ樹脂を含有するバインダ樹脂組成物と、活物質と、導電助剤と、溶媒とを含有するものである。
すなわち、本発明の電極用スラリー組成物は、バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物であって、下記条件(iii)、(iv)を満たす、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物である。
条件(iii):前記バインダ樹脂を前記溶媒に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、下記式(a)、(b)を満足する。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
(式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
条件(iv):前記バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。
本発明の電極用スラリー組成物に用いるバインダ樹脂は、上述した本発明のバインダ樹脂であり、ここでの詳細な説明は省略する。また、本発明の電極用スラリー組成物に用いるバインダ樹脂組成物は、上述した本発明のバインダ樹脂を含有するバインダ樹脂組成物であり、ここでの詳細な説明は省略する。
本発明の電極用スラリー組成物中のバインダ樹脂の含有量は、特に限定されないが、電極用スラリー組成物の総固形分(溶媒を除く全成分)中、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、当該電極用スラリー組成物を用いて形成される合剤層と集電体との密着性(結着性)がより高まる。10質量%以下であれば、活物質や導電助剤等を充分に含有できるため、電池性能が向上する。
本発明の電極用スラリー組成物に用いる活物質は、特に限定されず、当該電極用スラリー組成物を用いて製造する電極がどのような非水二次電池用であるかに応じて公知のものが使用できる。
例えばリチウムイオン二次電池の場合、正極の活物質(正極活物質)としては、負極の活物質(負極活物質)より高電位(金属リチウムに対し)であり、充放電時にリチウムイオンを吸脱できる物質が用いられる。
正極活物質の具体例としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン及びバナジウムから選ばれる少なくとも1種類以上の金属と、リチウムとを含有するリチウム含有金属複合酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリチエニレン及びその誘導体、ポリピリジンジイル及びその誘導体、ポリイソチアナフテニレン及びその誘導体等のポリアリーレンビニレン及びそれらの誘導体等の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子としては、有機溶媒に可溶なアニリン誘導体の重合体が好ましい。これら正極活物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
負極活物質としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭素材料;前記炭素材料とシリコン、錫、銀等の金属又はこれらの酸化物との複合物等が挙げられる。これら負極活物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
リチウムイオン二次電池においては、正極活物質としてリチウム含有金属複合酸化物を用い、負極活物質として黒鉛を用いることが好ましい。このような組み合わせとすることで、リチウムイオン二次電池の電圧を例えば4V以上に高められる。
本発明の電極用スラリー組成物中の活物質の含有量は、特に限定されないが、電極用スラリー組成物の総固形分(溶媒を除く全成分)中、80〜99.9質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましい。80質量%以上であれば、合剤層としての機能が充分に発揮される。99.9質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性が良好である。
本発明の電極用スラリー組成物は、導電助剤を含有する。導電助剤を含有することで、活物質同士や活物質と金属微粒子との電気的接触を向上させることができ、非水二次電池の放電レート特性等の電池性能をより高めることができる。
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、チャンネルブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。特にアセチレンブラックが好ましい。これらの導電助剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の電極用スラリー組成物中の導電助剤の含有量は、特に限定されないが、電極用スラリー組成物の総固形分(溶媒を除く全成分)中、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、電池性能がより高められる。10質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性が良好である。
本発明の電極用スラリー組成物に含まれる溶媒としては、少なくとも水を用いることが好ましいが、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。
有機溶媒としては、バインダ樹脂を均一に溶解又は分散しやすいものが選択され、例えば、NMP、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)、グライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
混合溶媒の例としては、水とアルコール系溶媒との混合溶媒、水とNMPとエステル系溶媒との混合溶媒、水とNMPとグライム系溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
ただし、有機溶媒は環境への負荷が高いことから、溶媒としては水を単独で用いることが好ましい。
本発明の電極用スラリー組成物100質量%中の溶媒の含有量は、常温でバインダ樹脂が溶解した状態を保てる必要最低限の量であればよいが、5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。電極用スラリー組成物中の溶媒の含有量は、該電極用スラリー組成物を用いて合剤層を形成する際に、集電体に塗工しやすい粘度を勘案して決定される。
本発明の電極用スラリー組成物は、必要に応じて、バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒以外の成分(任意成分)を含有してもよい。
任意成分としては、例えば酸化防止剤、増粘剤等が挙げられる。
本発明の電極用スラリー組成物は、バインダ樹脂と、活物質と、導電助剤と、溶媒と、必要に応じて任意成分とを混練することにより製造できる。混練は公知の方法により実施できる。
スラリー調製時、本発明のバインダ樹脂は、粉末状のものをそのまま使用してもよく、活物質や導電助剤等と混合する前に予め、溶媒に溶解して樹脂溶液として用いてもよいであってもよい。
以上説明した本発明の電極用スラリー組成物は、本発明のバインダ樹脂または本発明のバインダ樹脂を含有するバインダ樹脂組成物を含むので、安定品質で供給可能であり、電池性能を損なうことなく導電助剤の分散性が良好である。よって、本発明の電極用スラリー組成物は導電パスが良好であり、電池性能に優れ、かつ導電助剤の偏在が少なく均一性に優れた合剤層を備えた電極が得られる。
特に、バインダ樹脂がハロゲン原子を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
≪非水電解質二次電池用電極≫
本発明の非水電解質二次電池用電極(以下、単に「電極」ともいう。)は、集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、前記合剤層が、上述した本発明のバインダ樹脂または本発明のバインダ樹脂組成物と、活物質と、導電助剤とを含有するものである。
集電体は、導電性を有する物質であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル等の金属が挙げられる。
集電体の形状は、目的とする電池の形態に応じて決定でき、例えば、薄膜状、網状、繊維状が挙げられ、中でも、薄膜状が好ましい。
集電体の厚みは、特に限定されないが、5〜30μmが好ましく、8〜25μmがより好ましい。
合剤層に用いるバインダ樹脂は、上述した本発明のバインダ樹脂であり、ここでの詳細な説明は省略する。また、合剤層に用いるバインダ樹脂組成物は、上述した本発明のバインダ樹脂を含有するバインダ樹脂組成物であり、ここでの詳細な説明は省略する。
合剤層中のバインダ樹脂の含有量は、特に限定されないが、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、上述した本発明の電極用スラリー組成物を用いて形成される合剤層と集電体との密着性(結着性)がより高まる。10質量%以下であれば、活物質や導電助剤等を充分に含有できるため、電池性能が向上する。
合剤層に用いる活物質としては、上述した本発明の電極用スラリー組成物の説明において、先に例示した活物質と同様のものが挙げられる。
合剤層中の活物質の含有量は、特に限定されないが、80〜99.9質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましい。80質量%以上であれば、合剤層としての機能が充分に発揮される。99.9質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性(結着性)が良好である。
合剤層に用いる導電助剤としては、上述した本発明の電極用スラリー組成物の説明において、先に例示した導電助剤と同様のものが挙げられる。これら導電助剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
合剤層中の導電助剤の含有量は、特に限定されないが、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、電池性能がより高められる。10質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性(結着性)が良好である。
合剤層は、上述した本発明の電極用スラリー組成物を集電体に塗工し、乾燥させることにより形成できる。
集電体が薄膜状または網状である場合、合剤層は、集電体の片面に設けられても両面に設けられてもよい。
電極用スラリー組成物の塗工方法は、集電体に電極用スラリー組成物を任意の厚みで塗布できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、刷毛塗り法等の方法が挙げられる。
塗工量は、形成しようとする合剤層の厚みに応じて適宜設定できる。
塗工した電極用スラリー組成物を乾燥して溶媒を除去することにより合剤層が形成される。
乾燥方法は、溶媒を除去できればよく、特に制限されない。例えば、電極用スラリー組成物が溶媒として水を含む場合は水の沸点以上に加熱する方法;電極用スラリー組成物が溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を含む場合は水および有機溶媒の沸点以上に加熱する方法;温風、熱風、または低湿風を吹き付ける方法;減圧条件下で溶媒を蒸発させる方法;(遠)赤外線や電子線等を照射する方法などが挙げられる。
乾燥後、必要に応じて、形成された合剤層を圧延してもよい。圧延を行うことで、合剤層の面積を広げ、かつ任意の厚みに調節できる。
圧延方法としては、例えば金型プレスやロールプレス等の方法が挙げられる。
なお、得られた電極を任意の寸法に切断してもよい。
合剤層の厚みは、活物質の種類に応じて適宜決定できるが、例えば20〜200μmが好ましく、30〜120μmがより好ましい。
本発明の電極は、非水二次電池の正極、負極のいずれにも使用できる。特に、リチウムイオン二次電池用の電極として好適である。
以上説明した本発明の電極は、本発明のバインダ樹脂または本発明のバインダ樹脂を含有するバインダ樹脂組成物を含む合剤層が集電体上に形成されているので、電池性能に優れる。また、該合剤層は、導電助剤の偏在が少なく均一性に優れる。
特に、バインダ樹脂がハロゲン原子を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
≪非水電解質二次電池≫
本発明の非水電解質二次電池(以下、「非水二次電池」ともいう。)は、上述した本発明の電極を備えるものである。
「非水二次電池」は、電解質として水を含まない非水電解質を用いたものであり、例えばリチウムイオン二次電池等が挙げられる。非水二次電池は、通常、電極(正極および負極)と、非水電解質と、セパレータとを備える。例えば、正極と負極とを透過性のセパレータ(例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン製の多孔性フィルム)を間に介して配置し、これに非水電解質を含浸させた非水二次電池;集電体の両面に合剤層が形成された負極/セパレータ/集電体の両面に合剤層が形成された正極/セパレータからなる積層体をロール状(渦巻状)に捲回した捲回体が、非水電解質と共に電池缶(有底の金属ケーシング)に収容された筒状の非水二次電池などが挙げられる。
非水電解質としては、有機溶媒に固体の電解質を溶解した電解液が挙げられる。
電解液の有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、NMP等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
固体の電解質は、非水二次電池や活物質の種類に応じて公知のものが利用できる。例えばリチウムイオン二次電池の場合、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO、LiBF、LiI、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、LiCHSO、LiCSO、Li(CFSON、Li[(COB等が挙げられる。
リチウムイオン二次電池の電解液としては、カーボネート類にLiPFを溶解したものが好ましい。
本発明の非水二次電池は、正極および負極のいずれか一方または両方に、本発明の電極が用いられている。
正極および負極のいずれか一方が本発明の非水二次電極である場合、他方の電極としては、公知のものが利用できる。
セパレータとしては、公知のものを使用することができる。例えば多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子から製造した多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができる。この他、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布を使用できるが、これらに限定されることはない。
本発明の非水二次電池の製造方法については特に制約はなく、公知の方法を採用できる。以下にリチウムイオン二次電池の製造方法の一例を説明する。
まず、正極と負極とをセパレータを介して対向させ、電池形状に応じて、渦巻き状に捲回する、または折るなどして電池容器に挿入し、予め負極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池容器の底部に溶接する。
次いで、電池容器に非水電解質を注入し、さらに予め正極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池の蓋に溶接し、蓋を絶縁性のガスケットを介して電池容器の上部に配置し、蓋と電池缶とが接した部分をかしめて密閉して、リチウムイオン二次電池とする。
電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
以上説明した本発明の非水二次電池は、本発明の電極を備えているので、電池性能に優れる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
「バインダ樹脂の製造」
<製造例1:重合体(A−1)の製造>
脱イオン水70質量部に対し、N−ビニルホルムアミド(NVF)22.5質量部、pH=9となるまで水酸化ナトリウム水溶液を加えたアクリル酸(アクリル酸ナトリウム(AANa))7.5質量部、酢酸ナトリウム0.8質量部を混合した単量体水溶液を、リン酸によりpH=6.3となるよう調節し、単量体調節液を得た。
この単量体調節液を5℃まで冷却した後、温度計を取り付けた断熱反応容器に入れ、15分間窒素曝気を行った。その後、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン](和光純薬工業株式会社製、「VA−057」)1500ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加し、さらに、分子量調整剤として、次亜リン酸ナトリウム200ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加した。次いで、t−ブチルハイドロパーオキサイド200ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加し、更に、亜硫酸水素ナトリウム200ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加することにより重合を行った。
内温がピークを超えた後さらに1時間熟成し、ゲルを取り出しミートチョッパーで粉砕した後、60℃で10時間乾燥し、得られた固体を粉砕して、粉末状の重合体を得た。これを重合体(A−1)とする。
得られた重合体(A−1)は、NVF単位75質量%と、AANa単位25質量%とからなる共重合体である。
なお、以下の方法により算出した重合体(A−1)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で175万であった。
粘度平均分子量の算出方法:
重合体(A−1)の水溶液の還元粘度(ηsp/C)と、Hugginsの式(ηsp/C=[η]+K’[η]C)とから、固有粘度[η]を算出した。なお、上記式中の「C」は、重合体(A−1)の水溶液における重合体の濃度(g/dL)である。重合体(A−1)の水溶液の還元粘度の測定方法は、後述のものである。
得られた固有粘度[η]、およびMark−Houwinkの式([η]=KMa)から、粘度平均分子量(式中の「M」)を算出した。
なお、1N食塩水において、PNVFのパラメータは、K=8.31×10−5、a=0.76、K’=0.31である。
還元粘度の測定方法:
まず、重合体(A−1)の濃度が0.1質量%となるように、1N食塩水に重合体を溶解して、重合体(A−1)の水溶液を得た。得られた重合体(A−1)の水溶液について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t)を測定した。
別途、ブランクとして、1N食塩水について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t)を測定した。
得られた流下時間から、下記式(f)により還元粘度を算出した。
ηsp/C={(t/t)−1}/C ・・・(f)
(式中、Cは、重合体(A−1)の水溶液における重合体(A−1)の濃度(g/dL)である。)
<製造例2:重合体(A−2)の製造>
脱イオン水70質量部に対し、NVFを21質量部、N−ビニルピロリドン(NVP)9質量部、酢酸ナトリウム0.8質量部を混合した単量体水溶液を、リン酸によりpH=6.3となるよう調節し、単量体調節液を得た。
以降は、分子量調整剤である次亜リン酸ナトリウムを無添加とした以外は、製造例1と同様の操作を行い、粉末状の重合体を得た。これを重合体(A−2)とする。
得られた重合体(A−2)は、NVF単位70質量%と、NVP単位30質量%とからなる共重合体である。
なお、重合体(A−1)と同様の方法により算出した、重合体(A−2)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で150万であった。
<製造例3:重合体(A−3)の製造>
分子量調整剤である次亜リン酸ナトリウムを無添加に変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、粉末状の重合体を得た。これを重合体(A−3)とする。
得られた重合体(A−3)は、NVF単位75質量%と、AANa単位25質量%とからなる共重合体である。
なお、重合体(A−1)と同様の方法により算出した、重合体(A−3)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で311万であった。
<製造例4:重合体(A−4)の製造>
脱イオン水70質量部に対し、NVFを30質量部混合した単量体水溶液を、リン酸によりpH=6.3となるよう調節し、単量体調節液を得た。
この単量体調節液を5℃まで冷却した後、温度計を取り付けた断熱反応容器に入れ、15分間窒素曝気を行った。その後、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン](和光純薬工業株式会社製、「VA−057」)10質量%水溶液を0.4質量部添加し、次いで、t−ブチルハイドロパーオキサイド10質量%水溶液および亜硫酸水素ナトリウム10質量%水溶液をそれぞれ0.1質量部添加して重合を行った。
内温がピークを超えた後さらに1時間熟成し、ゲルを取り出しミートチョッパーで粉砕した後、60℃で10時間乾燥し、得られた固体を粉砕して、粉末状のN−ビニルホルムアミド重合体を得た。これを重合体(A−4)とする。
得られた重合体(A−4)は、NVF単位100質量%からなる単独重合体である。
なお、重合体(A−1)と同様の方法により算出した、重合体(A−4)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で263万であった。
「実施例1〜3、比較例1〜3」
製造例1〜4で得た重合体(A−1)〜(A−4)を、それぞれバインダ樹脂として用いた。表1に、各例のバインダ樹脂100質量%中の、重合体の含有量(質量%)を示す。
各バインダ樹脂のT2−midおよびF−midと、導電助剤の分散性を下記の手順で測定した。これらの結果を表1に示す。
また、各バインダ樹脂を用いて負極用スラリー組成物を調製し、該負極用スラリー組成物を用いて製造した電極(負極)、および該電極(負極)を用いて製造した非水二次電池の各種特性を下記の手順で評価した。これらの結果を表1に示す。
(1)バインダ樹脂溶液の調製とゼロずり粘度の測定
各例のバインダ樹脂と溶媒である蒸留水とをガラス瓶に入れ、撹拌子で24時間撹拌して、濃度が3質量%となるバインダ樹脂溶液を調製した。
また、このバインダ樹脂溶液のゼロずり粘度は、以下の測定装置を用い、以下の測定条件で測定した。
測定装置として、直径60mm、コーン角2°のスチール製コーンプレートを装備したレオメーター(TA Instruments社製、「AR550型レオメーター」)を用いた。
測定条件として、温度30℃、ずり速度を0.03sec−1から1000sec−1へ変化させて、ずり速度の対数として等間隔に46点の粘度を測定した。
種々のずり速度において測定した粘度を、下記式(c)で表されるCrossの式により最小二乗法でのカーブフィッティング解析を行い、ゼロずり粘度を求めた。
η=η+(η−η)/(1+k×D) ・・・(c)
(式中、「D」はずり速度(単位:sec−1)であり、「η」はゼロずり粘度(単位:Pa・sec)であり、「η」はずり速度Dにおける粘度(単位:Pa・sec)であり、「η」はずり速度が無限大のときの粘度であり、kとnは定数を表す。)
(2)バインダ樹脂のT2−midおよびF−midの測定
直径50mm、高さ28mmの軟膏容器(馬野化学容器株式会社製、「UG軟膏壷No3−54」)に、導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)0.5gを計量した後、(1)で調製したバインダ樹脂溶液10gを加え、さらにポリプロピレンで被覆された直径4cmの撹拌子を入れた。この混合物を、室温(25℃)にて、撹拌子の回転数100rpmで15分間撹拌して、評価用スラリー組成物を調製した。
直径10mmφのNMRサンプル管に、評価用スラリー組成物を液高4cmまで入れ、バインダ樹脂のT2−midおよびF−midを、パルス核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製、「25MHzパルスNMR Mu−25」)を用いて、下記の測定条件で測定した。
測定条件:CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法にて、温度を30℃、積算回数を64回、サンプリング点数を1000点、パルス幅を2.5μsec、パルス間隔を2.0msec、パルス繰り返し時間10secで測定して自由誘導減衰(FID)曲線を得た。このFID曲線をベースライン補正した後、ワイブル関数を1として、非線形最小二乗法により3成分の緩和曲線に分解し、スピン−スピン緩和時間(T2)を求めた。そのうち2番目に速い緩和曲線に由来するT2−midと、このT2−midを持つ水素原子の割合であるF−midを求めた。
(3)導電助剤の分散性の評価
導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)0.5gに、(1)で調製したバインダ樹脂溶液を5g加え、自公転式攪拌機(Thinky製、「泡とり練太郎」)を用い、自転1000rpm、公転2000rpmの条件にて3分間混練した。このスラリー組成物に、さらに前記バインダ樹脂溶液を5g加え、自公転式攪拌機を用いて前記同様の条件で1分間混練して、分散性評価用のスラリー組成物を得た。
得られた分散性評価用のスラリー組成物を、銅箔(19cm×25cm、厚み20μm)上にドクターブレードを用いて塗工し、室温(25℃)にて1時間乾燥した。さらに真空乾燥機にて0.6kPa、60℃で12時間減圧乾燥し、膜厚が80μmの合剤層が集電体(銅箔)上に形成された分散性評価用の電極を得た。
得られた分散性評価用の電極の表面を目視にて確認し、以下の評価基準にて導電助剤の分散性を評価した。
◎:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が全く認められない。
○:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が1〜3個認められる。
△:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が4〜6個認められる。
×:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が7個以上認められる。
「◎」または「○」であることは、スラリー組成物中の導電助剤の分散性が良好であることを示す。
(4)負極用スラリー組成物の調製
導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)0.2gに、(1)で調製したバインダ樹脂溶液を2g加え、自公転式攪拌機(Thinky製、「泡とり練太郎」)を用い、自転1000rpm、公転2000rpmの条件にて3分間混練した。このスラリー組成物に、天然黒鉛系負極活物質(三菱化学株式会社製、「MPGC16」)10gと、(1)で調製したバインダ樹脂溶液2gとを加え、自公転式攪拌機を用いて前記同様の条件で3分間混練した。
次に、このスラリー組成物に、(1)で調製したバインダ樹脂溶液をさらに2.67g加え、自公転式攪拌機を用いて前記同様の条件で30秒間混練した。さらに、溶媒である蒸留水の添加と自公転式攪拌機による30秒間の混練(条件は、前記同様)を繰り返し、塗工可能な粘度に調整し、負極用スラリー組成物を得た。
(5)電極(負極)の製造
(4)で調製した負極用スラリー組成物を、銅箔(19cm×25cm、厚み20μm)上にドクターブレードを用いて塗工し、室温(25℃)にて1時間乾燥した。さらに真空乾燥機にて0.6kPa、60℃で12時間減圧乾燥し、膜厚が50μmの合剤層が集電体(銅箔)上に形成された電極(負極)を得た。さらにニップロールプレス(線圧:約150kgF/cm)にて100℃でプレスすることにより、電極密度が1.5g/cmの電極(負極)を得た。
(6)合剤層の均一性の評価
断面試料作成装置(日本電子株式会社製、「SM−09010」)を用いて、前記(5)で製造した電極(負極)の垂直断面を切り出した後、その断面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「SU1510」)を用いて、合剤層の表面と、銅箔および合剤層の密着界面とが同時に観察できるような部分を、1000倍の視野で3箇所観察した。得られた画像のうち、合剤層表面から合剤層中央部へ向かって10μm×幅50μmの画像における導電助剤(アセチレンブラック)部分が占める面積の割合(SU)と、銅箔および合剤層の密着界面から合剤層中央部へ向かって10μm×幅50μmの画像における、導電助剤(アセチレンブラック)部分が占める面積の割合(SB)とを、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、「Image−Pro PLUS ver4.5.0」)により求め、以下のように評価した。
○:(SU/SB)−1の絶対値が0.2以下である。
×:(SU/SB)−1の絶対値が0.2より大きい。
「○」であることは、合剤層全体に均質に導電助剤が存在していることになり、塗料特性が良好であることを示す。
(7)非水二次電池(2016型コイン電池)の製造
市販の金属リチウム電極(正極)と、(5)で製造した電極(負極)とを、セパレータ(商品名:セルガード♯2400)を介して対向させた。非水電解質として、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(体積比)の混合物を溶媒とした1Mの六フッ化リン酸リチウム溶液を用いて、2016型コイン電池を製造した。
(8)非水二次電池の初期電池容量の測定
(7)で製造した2016型コイン電池の製造直後に、60℃で充放電レートを0.5Cとし、定電流法(電流密度:0.6mA/g−活物質)で3.0Vに充電したときの電池容量を測定し、その測定値を初期電池容量とした。
Figure 2014235798
表1の結果に示すとおり、各実施例、比較例で調製したバインダ樹脂溶液の30℃におけるゼロずり粘度は、いずれも100〜10000mPa・secであった。
重合体(A−1)または重合体(A−2)をバインダ樹脂とした場合(実施例1、2)と、重合体(A−1)と重合体(A−4)との混合物をバインダ樹脂とした場合(実施例3)は、T2−midの値が50〜250msecの範囲内であり、かつ、F−midの値が10〜30%の範囲内であり、導電助剤の分散性が良好であった。導電助剤の分散性が良好であるほど、電極用スラリー組成物の導電パスが発達し、電池性能が向上する。また、各実施例で得られた電極(負極)の合剤層の均一性も良好であり、該電極(負極)を用いた非水二次電池の初期電池容量も良好であった。
なお、実施例2においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−2)の構成単位であるNVP単位の分子模型を図3に示し、実施例1においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)の構成単位であるAANa単位の分子模型を図4に示す。
図3、4において、符号11は炭素原子であり、符号12は酸素原子であり、符号13は窒素原子であり、符号14はナトリウム原子であり、符号15は水素原子である。また、矢印Xは双極子モーメントの方向を示し、一点鎖線Yは重合体の主鎖を示す。
図3、4から明らかなように、NVP単位は、AANa単位と比較して、双極子モーメントの方向が重合体の主鎖に垂直で、かつ重合体の主鎖へ向かっていることから、実施例2のバインダ樹脂は実施例1のバインダ樹脂に比べて、T2−midの値が大きくなったと考えられる。
実施例3においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)と重合体(A−4)の混合物のうち、重合体(A−4)は、実施例1においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)よりも分子量が大きいことから、T2−midの値が小さくなると考えられる。その一方で、実施例3のバインダ樹脂は実施例1のバインダ樹脂に比べて、重合体(A−1)の構成単位であり、その構成単位が持つ双極子モーメントの方向が重合体の主鎖に垂直で、かつ重合体の主鎖と反対方向へ向かっているAANa単位の割合が少ない。よって、T2−midの値が大きくなると考えられる。結果として、これらの効果が相殺されて、実施例3のバインダ樹脂は実施例1のバインダ樹脂と比べて、T2−midの値に大きな変化がなかったと考えられる。
一方、重合体(A−3)または重合体(A−4)をバインダ樹脂とした場合(比較例1、2)、F−midの値が10%未満であり、導電助剤の分散性が不良であった。そのため、比較例1および2で得られた電極(負極)の合剤層は均一性に劣っていた。
比較例1においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−3)は、実施例1においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)と同じ共重合組成であるが、重合体(A−3)の分子量は重合体(A−1)よりも大きいため、F−midの値が10%を下回ったと考えられる。
比較例2においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−4)の構成単位であるNVF単位の分子模型を図5に示す。
図5において、符号11は炭素原子であり、符号12は酸素原子であり、符号13は窒素原子であり、符号15は水素原子である。また、矢印Xは双極子モーメントの方向を示し、一点鎖線Yは重合体の主鎖を示す。
図5から明らかなように、NVF単位は、実施例1においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)、および実施例2においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−2)の構成単位でもある。しかし、重合体(A−4)は、重合体(A−1)に含まれるAANa単位や、重合体(A−2)に含まれるNVP単位を含まないので、比較例2のバインダ樹脂は実施例1、2のバインダ樹脂に比べて、T2−midの値が大きくなったと考えられる。
重合体(A−1)と重合体(A−3)の混合物をバインダ樹脂とした場合(比較例3)、T2−midの値が250msecを上回り、さらにF−midの値も10%未満であり、導電助剤の分散性が不良であった。そのため、比較例3で得られた電極(負極)の合剤層は均一性に劣っていた。
比較例3においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)と重合体(A−3)の混合物のうち、重合体(A−3)は、実施例1においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)と同じ共重合組成である。重合体(A−3)の分子量は重合体(A−1)よりも大きいため、重合体(A−1)を併用しない場合(例えば比較例1)は、導電助剤と相互作用の強い重合体(A−3)が選択的に導電助剤と吸着し、T2−midおよびF−midの値が小さくなったと考えられる。しかし、比較例3のように重合体(A−1)を併用すると、分子量の小さい重合体(A−1)の存在により、導電助剤と吸着している重合体(A−3)の運動性が相乗的に高まったため、結果として、T2−midの値が大きくなったと考えられる。
本発明の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂によれば、導電助剤等と溶媒とを混合したときに、導電助剤の分散性が良好な電極用スラリー組成物が得られる。
本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物は、本発明の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を用いて得られるものであり、良好な導電助剤の分散性を有する。そのため本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物は導電パスが発達している。また本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を用いることで、集電体上に、均一性等が良好な合剤層が形成された非水電解質二次電池用電極が得られる。
本発明の非水電解質二次電池用電極は、合剤層の均一性等が良好である。そのため該電極を備えた非水電解質二次電池によれば、良好な電池性能が得られる。
11 炭素原子
12 酸素原子
13 窒素原子
14 ナトリウム原子
15 水素原子
X 双極子モーメントの方向
Y 重合体の主鎖

Claims (6)

  1. バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に、前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、
    下記条件(i)、(ii)を満たす、非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
    条件(i):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を前記溶媒に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、下記式(a)、(b)を満足する。
    50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
    10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
    (式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
    条件(ii):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。
  2. ハロゲン元素を含まない、請求項1に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
  3. 請求項1または2に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物。
  4. 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、
    前記合剤層が、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質および導電助剤を含有する、非水電解質二次電池用電極。
  5. 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、
    前記合剤層が、請求項3に記載の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を集電体に塗工し、乾燥させて得られるものである、非水電解質二次電池用電極。
  6. 請求項4または5に記載の非水電解質二次電池用電極を備える、非水電解質二次電池。
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