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JP2014012890A - 耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管およびその製造方法 - Google Patents

耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.15〜0.50%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.01%以下、Cr:0.1〜1.7%、Mo:0.4〜1.1%、V:0.01〜0.12%、Nb:0.01〜0.08%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0005〜0.0030%を含む組成を有し、偏析部のMn、Mo、Crの偏析度が、それぞれ1.5以下である継目無鋼管。継目無鋼管に1100℃超〜1300℃の範囲の温度T(℃)で一定時間加熱保持し、その後、冷却する偏析低減処理を施し、ついで、焼入れ処理を1回以上施したのち、焼戻処理を施す継目無鋼管の製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、油井用として好適な低合金高強度継目無鋼管およびその製造方法に係り、とくに硫化水素を含むサワー環境下における耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)の改善に関する。なお、ここでいう「高強度」とは、110ksi級の強度、すなわち降伏強さが758MPa以上862MPa以下の強度を有する場合をいうものとする。
近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇という観点から、従来、省みられなかったような深度が深い油田や、硫化水素等を含む、いわゆるサワー環境下にある厳しい腐食環境の油田やガス田等の開発が盛んになっている。このような環境下で使用される油井用鋼管には、高強度で、かつ優れた耐食性(耐サワー性)を兼ね備えた材質を有することが要求される。
このような要求に対して、例えば、特許文献1には、耐硫化物応力割れ性に優れた高強度継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献1に記載された技術は、C:0.20%超〜0.50%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1.5%、Nb:0.005〜0.50%、Ti:0.005〜0.50%、B:0.0001〜0.01%、Al:0.005〜0.50%、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Ca:0.01%以下を含有する組成のビレットを、熱間で穿孔し、ついで、断面圧縮率が40%以上で、仕上り温度:800〜1050℃の仕上圧延を施し、その後、850〜1100℃の温度域の温度T(℃)で時間t(h)の再加熱を行って、(T+273)(21+logt)が23500〜26000となるようにしてから直接焼入れを行い、Ac1変態点以下で焼戻する高強度継目無鋼管の製造方法である。特許文献1に記載された技術によれば、省プロセスでありながら、従来と同等以上の性能を確保できるとしている。特許文献1に記載された技術では、仕上げ圧延と直接焼入れ処理の間で再結晶処理としての再加熱処理を行うことにより、結晶粒の微細化が可能となり、高強度であっても、良好な靭性と耐硫化物応力割れ性が得られるとしている。
また、特許文献2には、耐硫化物割れ性に優れた高強度油井用鋼材の製造方法が記載されている。特許文献2に記載された技術は、C:0.10〜0.25%、Si:0.5%以下、Mn:0.5%以下、Mo:0.8〜2.5%、Al:0.005〜0.1%、Ti:0.005〜0.1%でNの3.4倍以上、Nb:0.01〜0.1%、N:0.01%以下、B:0.0005〜0.0050%を含有する鋼を素材とし、該素材を1150℃以上に加熱したのち、熱間加工を施し、Ar3点+50℃以上の温度で仕上加工を完了したのち、ただちにAr3点以上の温度から急冷する焼入れ処理を行って、660〜720℃の温度で焼戻する高強度油井用鋼材の製造方法である。これにより、降伏強度110ksi以上の高強度と優れた耐SSC性を両立させることができるとしている。
また、特許文献3には、耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井用鋼材の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された技術は、C:0.15〜0.30%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.10〜1.0%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1.0%、Al:0.003〜0.08%、N:0.008%以下、B:0.0005〜0.010%、Ca+O:0.008%以下を含み、さらにTi、Nb、Zr、Vのうちの1種または2種以上を含有する鋼材を用いて熱間加工により製管後、冷却することなくそのまま直接焼入れ、若しくはAc3変態点以上の温度に保持した後焼入れし、ついでAc1変態点以下で焼戻する耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井用鋼材の製造方法である。これにより、製造プロセスを簡略化し、安価に耐SSC性に優れた高強度の油井用鋼管を安定して製造できるとしている。
また、特許文献4には、C:0.15〜0.35%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.025%以下、S:0.004%以下、sol.Al:0.001〜0.1%、Ca:0.0005〜0.005%を含有し、Ca系非金属介在物の組成が、CaSとCaOとの合計が50質量%以上であり、CaとAlとの複合酸化物が50質量%未満であり、かつ鋼の硬さがHRCで21〜30の範囲内で、鋼の硬さおよびCaOとCaSの合計量X(質量%)が、特定の関係を満足する耐硫化物応力割れ性(耐SSC性)に優れた油井管用鋼が記載されている。特許文献4に記載された技術では、耐SSC性に害のあるCaとAlとの複合酸化物を低減して無害のCaSとCaOへの反応を促進することにより、耐SSC性が向上した油井用鋼となるとしている。
また、特許文献5には、C:0.15〜0.35%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、sol.Al:0.001〜0.1%以下、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0〜1.0%、N:0.0070%以下、V:0〜0.15%、B:0〜0.0030%、Ti:0〜A%、ここでA=3.4×N(%),さらにNb:0.005〜0.012%を含む組成のビレットに、熱間で穿孔、圧延を行い、最終圧延温度900〜1100℃の条件で製管して継目無鋼管とし、Ar3点以上の温度域に保持したまま焼入れし、焼戻しをする、強度バラツキが小さく、オーステナイト粒度がASTM規格No.6以上の微細組織を有する継目無鋼管の製造方法が記載されている。特許文献5に記載された技術では、鋼の組成および最終圧延温度を調整することにより、微細組織が得られ、強度ばらつきが小さくなるとしている。
特開平08−311551号公報 特開2000−313919号公報 特開2001−172739号公報 特開2002−60893号公報 特開2000−219914号公報
しかしながら、耐SSC性に及ぼす各種要因は極めて複雑であり、110ksi級の高強度鋼管において安定して、耐SSC性を確保するための条件は明確になっていないのが現状である。例えば、特許文献1、2に記載された技術でも、偏析が原因でSSC試験で破断する場合があり、優れた耐SSC性を安定して確保できていないという問題があった。
また、特許文献3に記載された技術では、安定して降伏強さ110ksi以上の強度を安定して確保できないうえ、耐SSC性向上に有利な介在物形状を有する介在物を形成するための具体的条件が明確になっていないという問題がある。また、特許文献3に記載された技術によっても、SSC試験で破断する場合があり、安定して優れた耐SSC性を確保できていないという問題もある。
また、特許文献4に記載された技術では、耐SSC性向上に有利な介在物を形成するための具体的な条件が明確になっておらず、また、特許文献5に記載された技術では、継目無鋼管造管時の最終圧延温度を低温とする必要があり、生産性が低下するという問題がある。
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、油井用として好適な、降伏強さ:110ksi級の高強度を有し、さらにサワー環境下における耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)に優れた、低合金高強度継目無鋼管およびその製造方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう「耐硫化物応力腐食割れ性に優れた」とは、NACE TM0177 Method Aの規定に準拠した、HSが飽和した0.5%酢酸+5.0%食塩水溶液(液温:24℃)中での定荷重試験を実施し、降伏強さの90%の負荷応力で負荷時間:720時間を超えて、割れが生じない場合をいうものとする。
本発明者らは、上記した目的を達成するため、継目無鋼管の強度と耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、油井用の継目無鋼管として、所望の高強度と優れた耐硫化物応力腐食割れ性とを両立させるには、Moを1.1%以下程度まで低減し、さらに適正量のCr、V、Nb、Bを必須含有したうえで、さらに、所定条件を満足する偏析低減処理を施したのち、焼入れ焼戻処理を施すことが必要であることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.15〜0.50%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.01%以下、Cr:0.1〜1.7%、Mo:0.4〜1.1%、V:0.01〜0.12%、Nb:0.01〜0.08%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0005〜0.0030%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ次(1)式
Mn偏析度=(IMnmax/(IMnave‥‥(1)
(ここで、(IMnmax:EPMAにより測定した偏析部のMn強度の最大値、(IMnave:EPMAにより測定した正常部のMn強度の平均値)
で定義されるMn偏析度、次(2)式
Mo偏析度=(IMomax/(IMoave‥‥(2)
(ここで、(IMomax:EPMAにより測定した偏析部のMo強度の最大値、(IMoave:EPMAにより測定した正常部のMo強度の平均値)
で定義されるMo偏析度、
次(3)式
Cr偏析度=(ICrmax/(ICrave‥‥(3)
(ここで、(ICrmax:EPMAにより測定した偏析部のCr強度の最大値、(ICrave:EPMAにより測定した正常部のCr強度の平均値)
で定義されるCr偏析度が、それぞれ1.5以下であることを特徴とする耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする低合金高強度継目無鋼管。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、W:2.0%以下を含有することを特徴とする低合金高強度継目無鋼管。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.005%を含有することを特徴とする低合金高強度継目無鋼管。
(5)質量%で、C:0.15〜0.50%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.3〜1.0%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.01%以下、Cr:0.1〜1.7%、Mo:0.4〜1.1%、V:0.01〜0.12%、Nb:0.01〜0.08%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0005〜0.0030%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する継目無鋼管に、1100℃超〜1300℃の範囲の温度T(℃)で、かつ次(4)式
(T+273)×(15+log(t/60))≧ 21600 ‥‥(4)
(ここで、T:加熱温度(℃)、 t:加熱保持時間(min))
を満足するように時間t(min)間加熱保持し、その後、冷却する偏析低減処理を施し、ついで、焼入れ処理を1回以上施したのち、焼戻処理を施すこと、あるいは焼入れ処理を施したのち焼戻処理を施す焼入れ−焼戻処理を1回以上施すことを特徴とする耐硫化物応力腐食割れ性に優れた低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
(6)(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
(7)(5)または(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、W:2.0%以下を含有することを特徴とする低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.005%を含有することを特徴とする低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
(9)(6)ないし(8)のいずれかにおいて、前記焼入れ処理が、加熱温度:Ac3変態点〜1100℃に加熱し急冷する処理であり、前記焼戻処理が、加熱温度:Ac1変態点以下に加熱する処理であることを特徴とする低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
本発明によれば、降伏強さ:110ksi級の高強度と、さらに硫化水素を含む厳しい腐食環境下における優れた耐硫化物応力腐食割れ性とを兼備する高強度継目無鋼管を容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
丸鋳片(ビレット)における断面組織を模式的に示す説明図である。 連鋳ブルーム鋳片を熱間圧延加工してビレットとした場合の断面組織を模式的に示す説明図である。
まず、本発明鋼管の組成限定理由について説明する。以下、とくに断わらないかぎり質量%は単に%で記す。
C:0.15〜0.50%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有し所望の高強度を確保するために重要な元素である。また、Cは、焼入れ性を向上させる元素であり、焼戻マルテンサイト相を主相とする組織の形成に寄与する。このような効果を得るためには、0.15%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超える含有は、焼戻時に、水素のトラップサイトとして作用する炭化物を多量に析出させ、鋼中への過剰な拡散性水素の侵入を阻止できなくなるとともに、焼入れ時の割れを抑制できなくなる。このため、Cは0.15〜0.50%に限定した。なお、好ましくは0.20〜0.30%である。
Si:0.1〜1.0%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中に固溶して鋼の強度を増加させ、焼戻時の急激な軟化を抑制する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、粗大な酸化物系介在物を形成し、強い水素トラップサイトとして作用するとともに、有効元素の固溶量低下を招く。このため、Siは0.1〜1.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.20〜0.30%である。
Mn:0.3〜1.0%
Mnは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させるとともに、Sと結合しMnSとしてSを固定して、Sによる粒界脆化を防止する作用を有する元素であり、本発明では0.3%以上の含有を必要とする。一方、1.0%を超える含有は、粒界に析出するセメンタイトが粗大化し耐硫化物応力腐食割れ性を低下させる。このため、Mnは0.3〜1.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.4〜0.8%である。
P:0.015%以下
Pは、固溶状態では粒界等に偏析し、粒界脆化割れ等を引き起こす傾向を示し、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、0.015%までは許容できる。このようなことから、Pは0.015%以下に限定した。なお、好ましくは0.013%以下である。
S:0.005%以下
Sは、鋼中ではほとんどが硫化物系介在物として存在し、延性、靭性や、耐硫化物応力腐食割れ性等の耐食性を低下する。一部は固溶状態で存在する場合があるが、その場合には粒界等に偏析し、粒界脆化割れ等を引き起こす傾向を示す。このため、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、過剰な低減は精錬コストを高騰させる。このようなことから、本発明では、Sは、その悪影響が許容できる0.005%以下に限定した。
Al:0.01〜0.1%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合しAlNを形成してオーステナイト結晶粒の微細化に寄与する。このような効果を得るために、Alは0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超えて含有すると、酸化物系介在物が増加し靭性が低下する。このため、Alは0.01〜0.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.07%である。
N:0.01%以下
Nは、Ti、Nb、Al等の窒化物形成元素と結合しMN型の析出物を形成する。しかし、これらの析出物は粗大な析出物となり、耐SSC性を低下させる。このため、Nはできるだけ低減することが好ましく、Nは0.01%以下に限定した。なお、少量のMN型析出物は、鋼素材等の加熱時に、結晶粒の粗大化を抑制する効果を有するため、Nは0.003%程度以上含有することが好ましい。
Cr:0.1〜1.7%
Crは、焼入れ性の増加を介して、鋼の強度の増加に寄与するとともに、耐食性を向上させる元素である。また、Crは、焼戻時にCと結合し、MC系、MC系、M23C系等の炭化物を形成し、とくにMC系炭化物は焼戻軟化抵抗を向上させ、焼戻による強度変化を少なくして、強度調整を容易にする。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とする。一方、1.7%を超えて含有すると、多量のMC系炭化物、M23C系炭化物を形成し、水素のトラップサイトとして作用し耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。このため、Crは0.1〜1.7%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜1.5%、さらに好ましくは0.9〜1.5%である。
Mo:0.40〜1.1%
Moは、炭化物を形成し析出硬化により強度の増加に寄与するとともに、固溶して、旧オーステナイト粒界に偏析して更なる耐硫化物応力腐食割れ性の向上に寄与する。また、Moは、腐食生成物を緻密化し、さらに割れの起点となるピット等の生成・成長を抑制する作用を有する。このような効果を得るためには、0.40%以上の含有を必要とする。一方、1.1%を超える含有は、針状のMC型析出物や、場合によってはLaves相(FeMo)を形成し耐硫化物応力割れ性を低下させる。このため、Moは0.40〜1.1%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.6〜1.1%である。
V:0.01〜0.12%
Vは、炭化物あるいは窒化物を形成し、鋼の強化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.12%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、Vは0.01〜0.12%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.08%である。
Nb:0.01〜0.08%
Nbは、オーステナイト(γ)温度域での再結晶を遅延させ、γ粒の微細化に寄与し、マルテンサイトの下部組織(例えばパケット、ブロック、ラス)の微細化に極めて有効に作用するとともに、炭化物を形成し鋼を強化する作用を有する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.08%を超える含有は、粗大な析出物(NbC、NbN)の析出を促進し、耐硫化物応力腐食割れ性の低下を招く。このため、Nbは0.01〜0.08%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.02〜0.06%である。ここで、パケットとは、平行に並んだ同じ晶癖面を持つラスの集団から成る領域と定義され、ブロックは、平行でかつ同じ方位のラスの集団から成る。
Ti:0.005〜0.03%
Tiは、炭化物あるいは窒化物を形成し、鋼の強化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.005%以上含有することを必要とする。一方、0.03%を超える含有は、鋳造時に粗大なTiNの形成が促進され、その後の加熱でも固溶しないため、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性の低下を招く。このため、Tiは0.005〜0.03%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.02%である。
B:0.0005〜0.003%
Bは、微量の含有で焼入れ性向上に寄与する元素であり、本発明では0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.003%を超えて多量に含有しても、効果が飽和するかあるいはFe−B硼化物の形成により、逆に所望の効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。なお、0.003%を超えて含有すると、MoB、FeB等の粗大な硼化物の形成を促進し、熱延時に割れを発生しやすくする。このため、Bは0.0005〜0.003%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.001〜0.003%である。
以上の成分が基本であるが、基本の組成に加えてさらに、必要に応じて、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種、および/または、W:2.0%以下、および/または、Ca:0.001〜0.005%を選択して含有してもよい。
Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種
Cu、Niはいずれも、鋼の強度を増加させるとともに、靭性、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
Cuは、鋼の強度を増加させるとともに、靭性、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。とくに、厳しい耐硫化物応力腐食割れ性が要求される場合には、極めて重要な元素となる。含有した場合、緻密な腐食生成物が形成され、さらに割れの起点となるピットの生成・成長が抑制されて、耐硫化物応力腐食割れ性が顕著に向上するため、本発明では0.03%以上含有することが望ましい。一方、1.0%を超えて含有しても効果が飽和するうえ、コストの高騰を招く。このため、含有する場合にはCuは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、さらに好ましくは、0.03〜0.10%である。
Niは、Cuと同様に、鋼の強度を増加させるとともに、靭性、耐食性を向上させる作用を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果を得るためには、0.03%以上含有することが望ましいが、1.0%を超えて含有しても効果が飽和するうえ、コストの高騰を招く。このため、含有する場合には、Niは1.0%以下に限定することが好ましい。なお、さらに好ましくは、0.03〜0.25%である。
W:2.0%以下
Wは、炭化物を形成し鋼の強化に寄与するとともに、固溶して、旧オーステナイト粒界に偏析して耐硫化物応力腐食割れ性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、0.03%以上含有することが望ましいが、2.0%を超える含有は、耐硫化物応力腐食割れ性を低下させる。このため、Wは2.0%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.05〜0.50%である。
Ca:0.001〜0.005%
Caは、展伸した硫化物系介在物を粒状の介在物とする、いわゆる介在物の形態を制御する作用を有し、この介在物の形態制御を介して、延性、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる効果を有する元素であり、必要に応じて含有できる。このような効果は、0.001%以上の含有で顕著となるが、0.005%を超える含有は、非金属介在物が増加し、かえって延性、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。このため、含有する場合には、Caは0.001〜0.005%の範囲に限定することが好ましい。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
つぎに本発明継目無鋼管は、上記した組成を有し、かつ焼戻マルテンサイト相を主相とし、旧オーステナイト粒が粒度番号で8.5以上である組織を有する。
多量の合金元素を含有することなく、比較的低い合金元素含有量で、110ksi級の高強度を確保するために、本発明鋼管では、マルテンサイト相組織とするが、所望の靭性、延性さらには耐硫化物応力腐食割れ性の確保の観点から、これらマルテンサイト相を焼戻した焼戻マルテンサイト相を主相とする組織とする。ここでいう「主相」とは、焼戻マルテンサイト相単相、あるいは、焼戻マルテンサイト相に加えて、特性に影響しない範囲である、体積%で5%未満の第二相を含む組織とする。第二相が、5%以上となると、強度、さらには靭性、延性等の特性が低下する。なお、第二相としては、ベイナイト、パーライト、フェライトあるいはそれらの混合相等が例示できる。したがって、「焼戻マルテンサイト相を主相とする組織」とは、体積%で95%以上の焼戻マルテンサイト相を含む組織を意味する。
また、本発明継目無鋼管では、旧オーステナイト(γ)粒が粒度番号で8.5以上である細粒組織とする。なお、旧γ粒の粒度番号は、JIS G 0551の規定に準拠して測定した値を用いるものとする。旧γ粒が粒度番号で8.5未満では、γ相から変態で生成するマルテンサイト相の下部組織が粗大化し、所望の耐硫化物応力腐食割れ性を確保できなくなる。
つぎに、本発明継目無鋼管の好ましい製造方法について説明する。
本発明では、通常の継目無鋼管の製造工程を基本の製造工程とし、該基本の製造工程のうちの少なくとも1工程で、偏析低減の方策を施し、偏析の低減を図る。
まず、基本の製造工程について説明する。
上記した組成を有する継目無鋼管を出発素材とする。
出発素材である継目無鋼管の製造方法は、常用の方法がいずれも適用でき、とくに限定する必要はない。上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、通常公知の連続鋳造法でビレット等の鋳片とする。なお、ブルーム形状の鋳片をさら加熱し、該鋳片に圧延等の熱間加工を施し、ビレット形状の鋼片とすることが好ましい。また、連続鋳造法に代えて、造塊−分塊法で鋼管素材としてもなんら問題はない。
得られた鋳片を、好ましくは1100〜1300℃の範囲の温度に加熱し、通常のマンネスマン−プラグミル方式、あるいはマンネスマン−マンドレルミル方式の製造工程を用いて熱間加工し造管して、所定寸法の継目無鋼管とする。なお、プレス方式による熱間押出で継目無鋼管を製造してもよい。
得られた継目無鋼管は、ついで、焼入れ処理を施される。焼入れ処理を施された継目無鋼管は、引続き、焼戻処理を施される。
焼入れ処理は、Ac3変態点以上の領域、すなわちオーステナイト域に加熱し保持したのち、冷却する処理とする。焼入れ処理は、マルテンサイト組織を得ることができる方法、手段であればとくに限定されないが、オーステナイト域に加熱保持後、水冷却する方法(水焼入れ)を基本とすることが好ましい。水焼入れ方法としては、水槽に浸漬する方法(どぶ付け法)、シャワー方式で水をかける方法、あるいは水槽内で鋼管を回転させる方法、水槽内でシャワー式の圧力水をかける方法等が、例示される。なお、5〜10mm以下程度の薄肉材で、マルテンサイト組織を確保することが可能であれば、放冷、衝風冷却としてもよい。
本発明における焼入れ処理は、Ac3変態点以上1000℃以下、好ましくはAc3変態点以上940℃以下の焼入れ温度に再加熱したのち、該焼入れ温度からMs変態点以下、好ましくは100℃以下の温度域まで急冷(水冷)する処理とすることが好ましい。これにより、微細なγ相から変態した微細な下部組織を有するマルテンサイト相を主相とする組織とすることができる。焼入れ加熱温度が、Ac3変態点未満では、オーステナイト単相域に加熱することができず、その後の冷却で十分なマルテンサイト組織とすることができないため、所望の高強度を確保できなくなる。このため、焼入れ処理の加熱温度はAc3変態点以上に限定する。なお、焼入れ温度を1000℃を超えて高温とすると、組織の粗大化を招き、靭性および耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。
また、焼入れ加熱温度からの冷却は、好ましくは2℃/s以上の水冷とし、Ms変態点以下、好ましくは100℃以下の温度域まで行うことが好ましい。これにより、十分な焼入れ組織(95体積%以上のマルテンサイト組織)を得ることができる。また、焼入れ温度における保持時間は、5min以上、好ましくは10min以下とすることが好ましい。
なお、焼入れ処理は1回以上繰返すことが好ましい。繰返し焼入れ処理を施すことにより、組織が微細化し、所望の高強度、高靭性、さらには耐硫化物応力腐食割れ性を兼備させることができる。また、焼入れ処理は連続して繰返して行い、焼戻処理を行うQQT処理としても、あるいは焼入れ処理と焼戻処理を繰返して行うQTQT処理としてもよい。
焼入れ処理を施された継目無鋼管は、引続き、焼戻処理を施される。
本発明では焼戻処理は、過剰な転位を減少させ組織の安定化を図り、所望の高強度と更なる優れた耐硫化物応力腐食割れ性とを兼備させるために行う。
焼戻温度は、630〜730℃の範囲の温度とすることが好ましい。焼戻温度が上記した範囲を低く外れると、転位等の水素トラップサイトが増加し、耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。一方、焼戻温度が上記した範囲を高く外れると、組織の軟化が著しくなり、所望の高強度を確保できなくなるうえ、針状のM2C型析出物が増加し、耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。なお、焼戻処理は、上記した範囲内の温度で、10min以上保持したのち、好ましくは空冷以上の冷却速度で、好ましくは室温まで冷却する処理とすることが好ましい。なお、焼戻温度での保持時間が、10min未満では、所望の組織の均一化が達成できない。なお、好ましくは、20min以上である。焼戻保持時間が長すぎると、Laves相(Fe2Mo)が析出する。
なお、焼戻処理後に、管の曲り取りや真円度確保のために、冷間あるいは熱間でサイザー等による矯正工程を施してもよい。矯正工程は、(焼戻温度−50℃)より高い温度の熱間で行うことが加工歪を残存させないという観点から好ましい。また矯正工程は、焼入れ処理の前に、実施してもよい。さらに矯正工程では、熱間又は冷間で、圧延等を行って積極的に塑性変形を付加してもよい。塑性変形を付加することにより、その後の焼入れ処理の加熱時に組織の更なる微細化が達成できるとともに、さらには管の寸法精度向上が期待できる。
本発明では、上記した基本の製造工程に加えてさらに、偏析低減処理を施す。偏析低減処理としては、つぎに示す方策とすることが好ましい。本発明では、これらの方策のうちの少なくとも1つの方策を実施し、偏析部において、所定値以下の偏析度に調整する。
まず、鋼管素材であるビレットにおける偏析量低減について説明する。
鋳込み方向に直交する断面で組織を観察すると、丸ビレットでは、鋳片表面から、柱状晶領域(デンドライト)と、等軸晶領域と、中央偏析領域とが観察できる(図1)。柱状晶領域では、柱状晶が偏析元素を鋳片内側領域に吐き出すように成長しており、デンドライトの枝の部分に若干程度ミクロな偏析が残ることがあるが、この領域自体では偏析が少なく基本的には清浄な領域である。また、等軸晶領域では、個々の結晶が、自らの外側に偏析元素を吐き出しながら形成されるため、偏析元素が比較的均一に分散され、強い偏析の形成は認められない。したがって、鋳片での偏析度の低減は、上記した中央偏析領域や、セミマクロ領域での偏析を、一様に分散させて、鋳片断面積単位で、偏析度を小さくすることにある。なお、連鋳ブルーム鋳片を熱間圧延加工によりビレットとした場合の断面組織は図2のようになる。
このようなことから、鋳片における偏析量の低減の方策としては、(1)薄肉または小径の鋳片を使用すること、(2)連続鋳造時の鋳型で、あるいはさらに連続鋳造時の鋳片に電磁撹拌(EMS)を付与すること、(3)鋳込時に形成された中央偏析領域を物理的に除去すること、が挙げられる。
(1)薄肉または小径の鋳片を使用すること
薄肉または小径の鋳片を使用することにより、鋳片の断面積が小さくなり、総偏析量を低減することができる。丸ビレットであれば、直径180mm以下の丸鋳片を使用することが好ましい。直径180mm以下であれば、偏析総量が少なくなり、問題が顕在化しない。直径180mm超の場合には、偏析低減処理を必要とする。なお、ブルームから、熱間圧延によって丸ビレットとする場合にも、直径180mm以下のビレットとすれば偏析量は問題ない程度に少なくなる。
(2)連続鋳造時に電磁撹拌(EMS)を付与すること
連続鋳造時に、鋳型や鋳片に電磁撹拌(EMS)を付与すると、柱状晶領域が少なくなり、等軸晶領域が増加する。等軸晶領域が増加することにより、中央偏析領域、セミマクロ偏析領域が減少し、偏析元素の分散が一様化され、鋳片の偏析度が低減する。特に、偏析度低減には、連続鋳造中の鋳片にEMSを付与する、いわゆるストランドEMSとすることが好ましい。
なお、偏析度低減のために必要な、等軸晶領域の増加の程度は、柱状晶領域と等軸晶領域の境界から内側の面積が、全体の断面積の1/4以上とすることが好ましい。この面積の計算は、つぎのように簡略して算出することができる。丸ビレットの場合は、等軸晶領域がほぼ同心円状であるため、等軸晶領域と柱状晶領域の境界を、中心からの距離で4箇所以上測定して、その平均値を半径として近似し、面積を計算すればよい。圧延ビレットの場合は、等軸晶領域が楕円状になる傾向があるため、例えば、連鋳ブルーム鋳片を熱間圧延によって丸ビレットとする場合には、等軸晶領域の短軸方向と長軸方向の判別を行い、π×(短軸)×(長軸)で楕円面積を計算して、全体の断面積に対する比を計算すればよい。
なお、偏析度低減のために付与するEMSの程度は、装置構成によって、種々異なる点があり、とくに具体的に限定することができないが、例えば、付与する電流値で比較すれば、20%程度以上の増加を必要とする。EMSの付与は、ブルーム形状であっても、ビレット形状であっても、偏析度軽減には有効である。
(3)鋳込時に形成された中央偏析領域を物理的に除去すること
工業的には鋳造時に中心偏析領域を完全に消滅させることは難しいため、鋳片の偏析度を低減する方法として偏析度が高い中心偏析領域を、物理的に除去することが考えられる。除去は機械加工によることが好ましい。なお、中央偏析領域の中心位置は、軸心位置と完全一致するわけではなくて、数mm単位で変化する場合がある。このため、機械加工で中央偏析領域を除去するためには、φ5mm以上の穴あけとすることが必要となる。なお、ハンドリングや歩留の低下を勘案すると、最大はφ15mm程度の穴あけに留めることが好ましい。
また、ブルームを熱間圧延によりビレットとするに際して、中央偏析領域で切断あるいは溶断して、熱間圧延によりビレットとしてもよい。切断あるいは溶断で、中央偏析領域がなくなり、中央偏析領域を物理的に除去したことになる。
また、上記した鋳片あるいは鋼片での偏析低減処理に加えてあるいは上記した鋳片あるいは鋼片での偏析低減処理を施すことなく、鋳片あるいは鋼片を加熱し、熱間圧延を介して継目無鋼管とする工程のいずれかで、偏析低減のために、(4)偏析低減熱処理を施すこと、が好ましい。
(4)偏析低減熱処理を施すこと
偏析元素を拡散させ、偏析を低減するために、偏析低減熱処理を施す。
偏析低減熱処理は、熱間加工後、高温状態にあるときに施しても、一度、室温まで冷却したのちに施してもいずれでもよい。
偏析低減熱処理は、1100℃超〜1300℃の範囲の温度T(℃)で、かつ次(4)式
(T+273)×(15+log(t/60))≧ 21600 ‥‥(4)
(ここで、T:加熱温度(℃)、t:加熱保持時間(min))
を満足するように時間t(min)間加熱保持し、その後、冷却する処理とする。
加熱温度T:1100℃超1300℃以下
加熱温度が1100℃以下では、偏析部のMn、Cr、Moを拡散させ、所定値以下とすることができない。一方、1300℃を超えて高温となると、結晶粒が粗大化し、所望の微細なマルテンサイト相とすることができなくなる。このようなことから、偏析低減熱処理の加熱温度は1100℃超1300℃以下に限定した。なお、好ましくは1150〜1250℃である。
偏析低減熱処理の加熱保持時間tは、次(4)式
(T+273)×(15+log(t/60))≧ 21600 ‥‥(4)
(ここで、T:加熱温度(℃)、t:加熱保持時間(min))
を満足する時間とする。偏析低減熱処理の加熱保持時間tが、(4)式を満足しない場合には、Mn、Cr、Moの拡散が不十分となり、偏析部のMn、Cr、Moを所定値以下に軽減できなくなる。このようなことから、偏析低減熱処理の加熱保持時間tを(4)式を満足するように調節することとした。なお、加熱保持後の冷却は、空冷あるいは水冷とする。
なお、偏析低減熱処理は、熱間圧延前のビレット、ブルームの加熱(鋳片加熱)や、焼入れ処理時の加熱を活用してもよい。
上記した偏析低減熱処理は、ブルームまたはビレット等の鋳片(鋼片)の状態で、行うことが好ましい。というのは、拡散のための高温での熱処理は、結晶粒の粗大化を同時にもたらすが、その後の熱間圧延で、結晶粒の細粒化が期待できるため、拡散による偏析の低減効果のみを期待できる。
また、上記した偏析低減熱処理は、熱間圧延後で焼入れ処理前あるいは焼入れ加熱時に行ってもよい。ただし、この場合には、結晶粒が粗大化するために、耐SSC性に悪影響を及ぼすことがある。そのため、焼入れ処理を、例えばQTQ、QQ処理のように、繰返し焼入れ処理とすることが好ましい。1回目の焼入れ処理(加熱)において、上記した偏析低減熱処理を行い、2回目の焼入れ処理(加熱)において、結晶粒の調整を行うようにしてもよい。
上記した製造方法を経て、得られた継目無鋼管は、上記した組成、組織を有し、さらに、偏析部において、次(1)式
Mn偏析度=(IMnmax/(IMnave‥‥(1)
(ここで、(IMnmax:EPMAにより測定した偏析部のMn強度の最大値、(IMnave:EPMAにより測定した正常部のMn強度の平均値)、
で定義されるMn偏析度、次(2)式
Mo偏析度=(IMomax/(IMoave‥‥(2)
(ここで、(IMomax:EPMAにより測定した偏析部のMo強度の最大値、(IMoave:EPMAにより測定した正常部のMo強度の平均値)
で定義されるMo偏析度、および
次(3)式
Cr偏析度=(ICrmax/(ICrave‥‥(3)
(ここで、(ICrmax:EPMAにより測定した偏析部のCr強度の最大値、(ICrave:EPMAにより測定した正常部のCr強度の平均値)
で定義されるCr偏析度が、それぞれ1.5以下である、偏析が軽減された継目無鋼管となる。各元素の偏析度がそれぞれ1.5以下であれば、厳しい腐食環境下においても、偏析部から硫化物応力腐食割れが発生する危険性は顕著に低減する。各元素の偏析度が小さいほど、均質となり、耐硫化物応力腐食割れ性は向上する。
なお、これら偏析度は、EPMAにより偏析部および正常部について、Mn、Mo、Cr強度を測定して、算出するものとする。EPMA(Electron Probe Micro−Analyzer)による測定に際しては、偏析部と正常部との位置の確認を行ったのち、各元素の特性X線(ビーム径:1μm)を少なくとも6.4mmの範囲について測定し、偏析部ではその最大値(Ix)maxを、正常部ではその平均値(Iaveを求めるものとする。
以下、実施例に基づいてさらに本発明について説明する。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳片(ビレット:200〜210mmφ)とした。これら鋳片を鋼管素材として、マンネスマン−プラグミル方式の製造工程を用いて熱間加工し造管して、表2に示す寸法の継目無鋼管としたのち、室温まで空冷した。ついで、熱間加工まま継目無鋼管に、表2に示す加熱温度T、加熱保持時間tで加熱保持し空冷する偏析低減処理を施し、ついで、表2に示す焼入れ加熱温度まで再加熱し、水冷する焼入れ処理Qと、引続き、表2に示す条件の焼戻処理Tを施した。なお、一部の鋼管では、偏析低減処理後に、表2に示す条件で塑性変形を付加する矯正処理を行った。
また、一部では、ビレットの片方の端部で、中心部に50mmφ×500mm深さの穴を形成したものを鋼管素材とし造管して継目無鋼管(鋼管No.29)とした。
得られた鋼管から、試験片を採取し、組織観察試験、偏析度調査試験、引張試験、腐食試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)組織観察試験
得られた鋼管から、組織観察用試験片を採取し、管長手方向に直交する断面(C断面)を研磨、腐食(腐食液:ナイタール液)して、光学顕微鏡(倍率:1000倍)および走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)で組織を観察し、撮像して、画像解析装置を用い、組織の種類およびその分率を測定した。
なお、旧γ粒界の現出は、ピクラール系腐食液を用いて腐食し、得られた組織を光学顕微鏡(倍率:400倍)で各3視野観察し、JIS G 0551の規定に準拠して、切断法を用いて旧γ粒の粒度番号を求めた。
(2)偏析度調査試験
得られた鋼管から、偏析度調査用試験片を採取し、管長手方向に直交する断面(C断面)を研磨、腐食(腐食液:ナイタール液)して、偏析部および正常部を特定した。なお、鋼管No.29では、ビレット状態で中心部に穴をあけた側から試験片を採取した。そして、偏析部および正常部について、EPMAを用いて、Mn、Mo、Crの特性X線強度分布を測定した。測定距離は6.4mmとした。得られた特性X線強度分布から、偏析部においては、その最大値(Ix)maxを、正常部ではその平均値(Iaveを求めた。これら測定値から(1)〜(3)式を用いて各元素の偏析度を算出した。
(3)引張試験
得られた鋼管から、管軸方向が引張方向となるように、丸棒引張試験片(平行部6mmφ×G.L.25mm)を採取し、引張試験を実施し、降伏強さYS、引張強さTSを求めた。なお、降伏強さは0.7%伸びでの強度とした。
(4)腐食試験
得られた鋼管から、腐食試験片を10本採取し、NACE TM0177 Method Aの規定に準拠した、HSが飽和した0.5%酢酸+5.0%食塩水溶液(液温:24℃)中での定荷重試験を実施し、降伏強さの90%の負荷応力で、720時間、負荷したのち、試験片の割れの有無を観察し、耐硫化物応力腐食割れ性を評価した。なお、割れ観察は、倍率:10倍の投影機を使用した。なお、鋼管No.29では、ビレット状態で中心部に穴をあけた側から試験片を採取した。耐硫化物応力腐食割れ性の評価は、割れ発生率(=(割れが発生した試験片本数)/(全試験片数)×100(%))で行った。
得られた結果を表3に示す。
Figure 2014012890
Figure 2014012890
Figure 2014012890
本発明例はいずれも、所望の高強度(降伏強さ:758MPa以上)を有するとともに、割れ発生率が0%であり、所望の高強度と優れた耐硫化物応力腐食割れ性とを兼備する継目無鋼管となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、所望の組織、所望の偏析度を確保できず、所望の高強度、所望の優れた耐硫化物応力腐食割れ性を兼備することができていない。

Claims (9)

  1. 質量%で、
    C:0.15〜0.50%、 Si:0.1〜1.0%、
    Mn:0.3〜1.0%、 P:0.015%以下、
    S:0.005%以下、 Al:0.01〜0.10%、
    N:0.01%以下、 Cr:0.1〜1.7%、
    Mo:0.4〜1.1%、 V:0.01〜0.12%、
    Nb:0.01〜0.08%、 Ti:0.005〜0.03%、
    B:0.0005〜0.0030%
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ下記(1)式で定義されるMn偏析度、下記(2)式で定義されるMo偏析度、下記(3)式で定義されるCr偏析度が、それぞれ1.5以下であることを特徴とする耐硫化物応力腐食割れ性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管。

    Mn偏析度=(IMnmax/(IMnave‥‥(1)
    ここで、(IMnmax:EPMAにより測定した偏析部のMn強度の最大値、
    (IMnave:EPMAにより測定した正常部のMn強度の平均値
    Mo偏析度=(IMomax/(IMoave‥‥(2)
    ここで、(IMomax:EPMAにより測定した偏析部のMo強度の最大値、
    (IMoave:EPMAにより測定した正常部のMo強度の平均値
    Cr偏析度=(ICrmax/(ICrave‥‥(3)
    ここで、(ICrmax:EPMAにより測定した偏析部のCr強度の最大値、
    (ICrave:EPMAにより測定した正常部のCr強度の平均値
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の低合金高強度継目無鋼管。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、W:2.0%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の低合金高強度継目無鋼管。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.005%を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の低合金高強度継目無鋼管。
  5. 質量%で、
    C:0.15〜0.50%、 Si:0.1〜1.0%、
    Mn:0.3〜1.0%、 P:0.015%以下、
    S:0.005%以下、 Al:0.01〜0.10%、
    N:0.01%以下、 Cr:0.1〜1.7%、
    Mo:0.4〜1.1%、 V:0.01〜0.12%、
    Nb:0.01〜0.08%、 Ti:0.005〜0.03%、
    B:0.0005〜0.0030%
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する継目無鋼管に、1100℃超〜1300℃の範囲の温度T(℃)で、かつ下記(4)式を満足するように時間t(min)間加熱保持し、その後、冷却する偏析低減処理を施し、ついで、
    該継目無鋼管に、焼入れ処理を1回以上、施したのち、焼戻処理を施すこと、あるいは、焼入れ処理を施したのち焼戻処理を施す焼入れ−焼戻処理を1回以上施すことを特徴とする耐硫化物応力腐食割れ性に優れた低合金高強度継目無鋼管の製造方法。

    (T+273)×(15+log(t/60))≧ 21600 ‥‥(4)
    ここで、T:加熱温度(℃)、t:加熱保持時間(min)
  6. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする請求項5に記載の低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
  7. 前記組成に加えてさらに、質量%で、W:2.0%以下を含有することを特徴とする請求項5または6に記載の低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
  8. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.001〜0.005%を含有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
  9. 前記焼入れ処理が、加熱温度:Ac3変態点〜1100℃に加熱し急冷する処理であり、前記焼戻処理が、加熱温度:Ac1変態点以下に加熱する処理であることを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の低合金高強度継目無鋼管の製造方法。
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