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JP2013221208A - コネクタ用めっき端子 - Google Patents

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JP2013221208A JP2012095407A JP2012095407A JP2013221208A JP 2013221208 A JP2013221208 A JP 2013221208A JP 2012095407 A JP2012095407 A JP 2012095407A JP 2012095407 A JP2012095407 A JP 2012095407A JP 2013221208 A JP2013221208 A JP 2013221208A
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Abstract

【課題】大電流を印加することができるコネクタ用めっき端子であって、良好な挿抜性および耐磨耗性と、耐熱性つまり加熱環境での使用による接触抵抗値の上昇の抑制とが達成されたコネクタ用めっき端子を安価で提供すること。
【解決手段】銅又は銅合金よりなる母材の表面が銀めっき層により覆われ、銀めっき層の表面がスズめっき層により覆われたコネクタ用めっき端子とする。または、このコネクタ用めっき端子を150℃以上の温度で加熱して、スズめっき層を銀−スズ合金としたコネクタ用めっき端子とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、コネクタ用めっき端子に関し、さらに詳しくは銀めっき層を備えたコネクタ用めっき端子に関するものである。
近年、ハイブリッドカーや、電気自動車等で高出力モータが使用されるようになっている。通電量が大きい高出力モータ用の端子等では、コネクタ端子に大電流が流れるので、端子部での発熱量が大きくなる。また、電流容量に合わせて端子も大きくなるため、挿入力が大きくなり、挿入時の端子表面へのダメージも大きくなる。
従来、自動車の電気部品等を接続するコネクタ端子としては、一般に、銅又は銅合金などの母材の表面にスズめっきなどのめっきが施されたものが用いられていた。しかし、従来のスズめっき端子は、このような大電流で使用される場合には、耐熱性が不十分であり、挿抜も困難である。そこで、大電流が使用されるコネクタ端子として、スズめっき端子の代わりに銀めっき端子が用いられる。銀は電気抵抗値が低く、通電時の温度上昇が低く抑えられるとともに、高い融点を有し、発熱が生じる環境でも好適に使用することができる。また、銀めっきは、耐腐食性も非常に高い。
しかし、銀めっき層の中を銅原子が拡散しやすいため、銅又は銅合金の端子母材表面に銀めっきが施された場合には、銅成分が銀めっき表面に達し、酸化された銅成分が電気抵抗の増大を引き起こすという問題がある。また、銀は再結晶によって結晶粒が粗大化しやすい性質があり、銀めっきを施した端子を高温環境下で使用すると、結晶粒の成長による硬度の低下や端子の挿抜力の増大、摩擦係数の上昇という問題が発生する。
上記の問題の解決を図るため、例えば特許文献1では、銅成分の拡散の抑制のために結晶粒径の大きい軟質銀めっき層を下層とし、挿抜性と耐磨耗性の向上のために結晶粒径の小さい硬質銀めっき層を上層とした、2層の銀めっきを端子表面に形成することを開示している。
一方、特許文献2においては、最表面の銀微結晶の結晶粒径を大きくし、さらにある程度の厚さを有する平滑な銀めっき層を下層として存在させることを開示している。ここで、下層として用いられる平滑な銀めっき層とは、結晶粒径の小さい硬質銀めっき層であると考えられる。
特開2008−169408号公報 特開2008−88493号公報
銀表面の摩擦係数はスズなどの金属と比較して高い。よって、銀めっき端子では、上記のような2層構造をとったとしても、端子の挿入力が高くなってしまうという問題がある。
また、上記のように、端子表面の銀めっき層を2層構造とし、それぞれを結晶粒径の大きい軟質銀めっき層又は結晶粒径の小さい硬質銀めっき層とした場合に、加熱を受けない環境下での使用においては、各層の寄与によって、耐摩耗性、耐食性などが付与される。しかしながら、銀を加熱すると、再結晶による結晶粒の成長が容易に起こる。よって、大電流印加時のような加熱環境下で、上記のような銀めっき端子を使用すると、軟質銀めっき層において深刻となる表面抵抗値の上昇や、摩擦係数の上昇による挿抜性及び耐磨耗性の低下という問題が発生する。つまり、上記のような銀めっき端子では、大電流用端子として十分に高い耐熱性が達成されない。
また、銀は高価な金属であるので、めっき層全体を銀めっきで構成することにより、端子の製造コストも上昇する。
本発明が解決しようとする課題は、大電流を印加することができるコネクタ用めっき端子であって、良好な挿抜性および耐磨耗性が達成され、かつ加熱環境下での表面抵抗値上昇の抑制によって高い耐熱性を有するコネクタ用めっき端子を安価で提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明にかかるコネクタ用めっき端子は、銅又は銅合金よりなる母材の表面が銀めっき層により覆われ、前記銀めっき層の表面がスズめっき層により覆われていることを要旨とする。
ここで、前記銀めっき層は、ビッカース硬さが150以上の硬質銀よりなることが好適である。
また、前記スズめっき層の厚さが0.1μmを超え、かつ1.0μm未満であると良い。
また、本発明にかかる別のコネクタ用めっき端子は、銅又は銅合金よりなる母材の表面を銀めっき層によって覆い、前記銀めっき層の表面をスズめっき層により覆った後、150℃以上の温度で加熱することにより、前記スズめっき層を銀−スズ合金としたことを要旨とする。
上記発明にかかる母材の表面が銀めっき層により覆われ、銀めっき層の表面がスズめっき層により覆われたコネクタ用めっき端子によると、銀めっき層の表面が、軟らかく、潤滑作用を有するスズめっき層によって覆われているため、めっき端子の最表面における摩擦係数が低く、挿抜性及び耐摩耗性に優れる。
また、大電流印加時など、高温環境で使用した際には、スズめっき層が銀−スズ合金層となる。この合金層が、母材の銅原子や、銀めっき層に含まれる場合のあるアンチモン等の添加物原子がめっき端子の最表層に拡散してくることを防止する。これにより、銅やアンチモン等が表面で酸化され、コネクタ用めっき端子の表面抵抗値を上昇させることが防止される。また、銀−スズ合金は非常に硬い特性を有し、摩擦係数が低く抑えられる。これらの機構により、コネクタ用めっき端子に、高い耐熱性が付与される。
さらに、めっき層の一部が安価なスズによって形成されるので、めっき層全体を高価な銀によって形成する場合よりも、コネクタ用めっき端子の製造コストが削減される。
ここで、前記銀めっき層が、ビッカース硬さが150以上の硬質銀よりなる場合には、硬い銀めっき層の上に軟らかいスズめっき層が形成される構成となり、摩擦係数の低下による端子挿抜性の向上が一層図られる。また、硬質銀めっき層においては結晶粒が非常に緻密に形成されるため、耐食性も向上される。
また、前記スズめっき層の厚さが0.1μmを超え、かつ1.0μm未満であると、スズめっき層の存在によってもたらされる摩擦係数の低下による端子の挿抜性と耐摩耗性の向上が効果的に達成される。
上記発明にかかる母材の表面を銀めっき層とスズめっき層とにより覆った後、150℃以上の温度で加熱することにより、前記スズめっき層の少なくとも一部を銀−スズ合金としたコネクタ用めっき端子によると、この合金自体の特性により、低い摩擦係数が達成されるとともに、さらに大電流の印加等によって、コネクタ用めっき端子が加熱された際に、母材の銅原子がめっき端子の最表層に拡散してくることが防止される。これにより、銅が表面で酸化され、コネクタ用めっき端子の表面抵抗値や摩擦係数を上昇させることが防止される。
本発明にかかるコネクタ用めっき端子の表面構成を示す図であり、(a)は母材の表面に銀めっき層とスズめっき層が形成された構成を示し、(b)は銀−スズ合金層が形成された構成を示している。 (a)は、銅母材に硬質銀めっきを形成し、その上にスズめっきを形成しためっき部材を150℃で放置した後のFIB−SIM像であり、(b)は銅母材にAgSnめっきを施し、150℃で放置した後のFIB−SIM像である。 上記150℃で放置後のめっき部材について、深さ分解ESCAで得られた銀とスズの分布量を最表面からの深さの関数としてプロットしたグラフである。
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明にかかる第一のコネクタ用めっき端子(以下、単にめっき端子又は端子ということもある)は、図1(a)に示したように、銅又は銅合金からなる母材1の表面が、銀めっき層2により被覆され、さらにその表面がスズめっき層3により被覆されているものである。
母材1は、コネクタ用端子の基材として用いられるものであり、銅又は銅合金から形成されている。また、母材1の表面には、ニッケル等よりなる下地めっき層が形成されていてもよい。その場合、母材1からめっき層への銅原子の拡散が、強固に防止される。
母材1の上に銀めっき層2を形成することで、めっき端子の電気抵抗が低く抑えられ、大電流を印加することが可能となる。この銀めっき層2は、好ましくは、硬質銀めっき層より形成されるとよい。硬いめっき層の上に軟らかいめっき層が形成された場合に、最表面での摩擦係数が低減される傾向があり、硬い銀めっき層2の上に軟らかいスズめっき層3が形成された状態において、スズめっき層3の表面での摩擦係数が効果的に低減されるからである。更に好ましくは、この銀めっき層2は、ビッカース硬さが150以上であるとよい。
一般に、ビッカース硬さが100あるいは150以上の銀めっき層が硬質銀めっき層と称され、ビッカース硬さが100あるいは150未満の銀めっき層が軟質銀めっき層と称される。また、銀微結晶の結晶粒径と、硬さの間には強い相関があり、概ね粒径0・2μm以下の場合が硬質銀、それ以上の場合が軟質銀となる。硬質銀と軟質銀は、電気めっきの電流密度等、製膜条件を制御することによっても作り分けることができるが、アンチモン、セレン等の元素をめっき液に添加することで、結晶粒径の小さい硬質銀めっき層を効率的に得ることができる。これらの添加元素が銀微結晶の結晶成長を抑制するからである。
銀めっき層2の膜厚は特に限定されるものではないが、薄すぎると、上記のような効果が十分に発揮されず、厚すぎると、コストの増大を招く。1〜30μmの範囲内とすることが好適である。
銀めっき層2の表面は、スズめっき層3によって覆われる。スズは非常に軟らかい金属であり、表面に生じた酸化物が摩擦によって容易に剥離するので、固体潤滑剤として作用する。よって、最表面に銀めっき層2が露出している場合に比べ、銀めっき層2の上にスズめっき層3を形成することで、めっき端子表面の摩擦係数が低下し、良好な挿抜性が得られる。
スズめっき層3の厚さとしては、0.1μm超かつ1.0μm未満とすることが好適である。スズめっき層3の厚さが0.1μm以下であると、上記のようなスズめっき層3の存在による摩擦係数の低減の効果が得られにくい。一方、スズめっき層3の厚さが1.0μm以上であると、スズの接点特性が強く現れるようになる。例えば、下層に銀めっき層2を形成しても、スズめっき層3の表面における摩擦係数の低減という、銀めっき層2の存在による効果が発揮され難くなり、摩擦係数が上昇してしまう。スズめっき層3の存在による効果と、その下の銀めっき層2の存在による効果がバランス良く享受され、効果的に最表面での摩擦係数が低減されるという点において、スズめっき層3の厚さが0.5μm程度である場合が最も好適である。
銀めっき層2の表面が薄いスズめっき層3によって覆われている効果は、更に、めっき端子が加熱環境下で使用された場合にも発揮される。大電流用端子においては、電流印加による端子の温度上昇が大きくなる場合がある。
このような場合に、銅又は銅合金よりなる母材1の表面上に、銀めっき層2しか形成されていないと、銀は高温環境下で容易に再結晶による結晶粒の成長を起こすので、めっき層の軟化による摩擦係数の増大が起こってしまう。当初の銀めっき層2を硬質銀めっき層として形成した場合でも、加熱環境に晒されることで、硬質銀の軟化が起こってしまう。また、銀めっき層2の中を銅原子が拡散するうえ、銀めっき層2がアンチモン等が添加された硬質銀よりなる場合には、そのアンチモン等の添加元素も拡散によって最表面に濃縮される。めっき層最表面に到達した銅やアンチモン等が酸化されることで、表面の接触抵抗値が上昇してしまう。
一方、図1(a)のように、銀めっき層2の表面が薄いスズめっき層3で覆われている場合には、加熱環境下での使用に伴う摩擦係数の増大及び接触抵抗値の上昇が大幅に抑制される。これは、加熱によってスズめっき層3が下層の銀めっき層2の一部と合金化反応を起こし、銀−スズ合金が形成されるためである。
加熱によってこのような銀−スズ合金化反応が進行した状態の端子の構成を示すのが図1(b)であり、これは、本発明にかかる第二のコネクタ用めっき端子に対応するものである。本構成においては、銅又は銅合金あるいはそれらにニッケル下地めっきが施された材料よりなる母材1の表面に、銀めっき層2が形成され、その上に銀−スズめっき層4が形成されている。
銀−スズ合金は非常に硬い合金であり、銀−スズ合金層4の表面は、低い摩擦係数を示す。
さらに、銀−スズ合金層4が一旦形成されれば、さらに高温になる条件でめっき端子を使用したとしても、硬く緻密な銀−スズ合金層4の存在によって、母材を構成する銅原子がめっき端子の最表面に拡散することが阻止される。さらに、アンチモン等の添加元素が銀めっき層2に含まれていた場合にも、その添加元素がめっき端子の最表面に拡散することが阻止される。その結果、めっき端子表面に銅や添加元素の酸化物が形成され、めっき端子表面の接触抵抗値を上昇させることが防止される。
このように、本発明にかかるめっき端子によれば、銀めっき層2の上にスズめっき層3が形成された状態においても、スズめっき層3が銀−スズ合金層4に変換された状態においても、それぞれ異なる機構によって、低い摩擦係数が達成される。これにより、高い挿抜性と、耐摩耗性が達成される。また、加熱環境での使用に伴う表面の接触抵抗値の上昇も低く抑えられる。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
[実施例]
清浄な銅基板の表面に、電気めっき法によって、硬質銀めっき膜を形成した。膜厚はめっき時間によって制御し、8μmとした。さらにその表面に、電気めっき法によって、スズめっき膜を形成した。膜厚はめっき時間によって制御し、0.1μm、0.5μm、1.0μmの3とおりのものをそれぞれ形成した。
硬質銀めっき層については、アトテック社製アルガルックス64を用いて形成した。めっき浴の組成は、シアン化銀40g/L、シアン化ナトリウム120g/L、炭酸ナトリウム15g/L、光沢剤4ml/L、硬化剤15ml/Lであった。めっき条件は、電流密度2ASD、浴温25度とし、6分程度めっきすると約8μmのめっきが形成された(めっき速度は約1.3μm/分)。スズめっき層については、レイボルド社400浴を使用して形成した。つまり、MST−酸:50ml/L、MST−錫:400ml/L、MST−400:60ml/Lの割合で建浴した。50℃での析出速度は、電流密度1ASDで0.5μm/分程度であった。すなわち電流密度1ASDで1分程度めっきを行うと0.5μmのめっきが形成された。
このようにして作成しためっき部材における銀めっき層の硬度の目安として、集束イオンビーム−走査イオン顕微鏡(FIB−SIM)を用いて銀めっき層を構成する銀微結晶の粒径を確認した。スズめっき層を形成する直前のめっき部材の断面についてFIB−SIM像を取得した後、銀めっき層中のある長さの直線が横切る微結晶を計数し、その長さを微粒子の個数で割ることで、銀微結晶の平均粒径を算出したところ、銀微結晶の平均粒径は0.16μmであった。この粒径は、硬質銀の粒径として典型的なものであり、実施例のめっき部材において、銀めっき層は硬質銀めっき層よりなることが確認された。
[比較例1]
実施例1において、硬質銀めっき層の表面にスズめっき層を形成せずに、銅基板の上に硬質銀めっき層を形成した状態のものを、比較例1にかかるめっき部材とした。
[比較例2]
清浄な銅基板の表面に、電気めっき法によって、AgSnの組成を有する膜厚8μmの合金めっき層を形成した。これを比較例2にかかるめっき部材とした。この際、大和化成製AgSn合金めっき液(商品名:ダインシスター)を利用した。Ag濃度を35g/L、温度を25℃、電流密度を1ASDとし、0.3μm/分の析出速度でめっきを行った。
[試験方法]
(荷重−抵抗特性の評価)
端子接点部における接触抵抗と、加熱環境下での使用に伴う接触抵抗値の上昇の程度を見積もるため、荷重−抵抗特性の評価を行った。各実施例及び比較例1にかかるめっき部材について、接触抵抗を四端子法によって測定した。この際、開放電圧を20mV、通電電流を10mA、荷重印加速度を0.1mm/min.とし、0〜40Nの荷重を増加させる方向と減少させる方向に印加した。電極は、一方を平板とし、一方を半径3mmのエンボス形状とした。この荷重−抵抗特性の評価を、作成直後のめっき部材に対して行った。次いで、めっき部材を大気中150℃で120時間放置し(以下、この条件を「高温放置」と称する場合がある)、放置後の試料に対しても室温に放冷後、同様に荷重−抵抗特性の評価を行った。さらに、荷重10Nにおける接触抵抗値に着目し、初期状態(高温放置前)から高温放置後に上昇した値を、抵抗上昇値とした。ここで、一般的な大電流用端子において、接点部に加えられる荷重の近似値として、10Nとの荷重が評価基準として選定されている。
(摩擦係数の評価)
端子の挿抜性の指標として、各実施例及び比較例1にかかるめっき部材について、動摩擦係数を評価した。つまり、平板状にしためっき部材と半径3mmのエンボス状にしためっき部材を鉛直方向に接触させて保持し、ピエゾアクチュエータを用いて鉛直方向に5Nの荷重を印加しながら、10mm/min.の速度でエンボス状のめっき部材を水平方向に引張り、ロードセルを使用して接点部に働く摩擦力を測定した。摩擦力を荷重で割った値を摩擦係数とした。
(高温放置後のスズめっき層の組成変化の評価)
本発明のスズめっき層が、高温放置によってどのように変化するのかを調べるための測定を行った。実施例(スズ層の厚さ:0.5μm)及び比較例2にかかるめっき部材を大気中150℃で120時間放置し、断面方向からFIB−SIM観察を行った。また、Arイオンスパッタリングを使用したX線光電子分光(XPS、ESCA)により、層内部の化学組成を調べた。つまり、Sn3d5/2のピーク強度と、Ag3dのピーク強度の比から、スズと銀の原子数比を求めた。さらに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いたX線分光による元素分析及び電子線回折によっても、化学組成の分析を行った。
[試験結果及び考察]
(荷重−抵抗特性の評価)
表1に、各実施例と比較例1のめっき部材について、荷重10Nで計測した高温放置前後の接触抵抗値とその上昇値を示す。
まず、初期(高温放置前)の荷重−抵抗特性を比較すると、スズめっき層が形成されている場合と、形成されていない場合とで、またスズめっき層の厚さによって、その値に大きな差はない。
高温放置後には、スズめっき層が存在する場合も、存在しない場合も、それぞれの初期値に比べて接触抵抗値が上昇している。しかしながら、スズめっき層が存在する場合には、いずれの膜厚においても、スズめっき層が存在しない場合と比較して、高温放置後の接触抵抗値が小さくなっている。
その結果、スズめっき層が存在することによって、いずれの層厚においても、高温放置による抵抗上昇値が低く抑えられている。しかし、スズめっき層の厚みが3とおりの場合を比較すると、スズめっき層が0.5μmの場合にとりわけ高温放置による接触抵抗の上昇値が小さくなっている。
自動車用大電流端子の高温放置による抵抗上昇値としては、5mΩ以下に抑えることが望ましい。上記の結果では、スズめっき層の厚さが0.5μmの場合にのみ、この条件を満たしている。
(摩擦係数の評価)
表2に、各実施例と比較例1のめっき部材について、高温放置の前後で摩擦係数を測定した結果を示す。
まず、初期(高温放置前)の摩擦係数を比較すると、スズめっき層の厚みが0.5μm以上の場合に、スズめっき層が形成されない場合に比べ、その値が小さくなっている。
高温放置を経ると、スズめっき層が形成されている場合にも、されていない場合にも摩擦係数は初期値よりも上昇している。しかしながら、スズめっき層の厚さが0.5μm以上である場合には、摩擦係数は、スズめっき層が形成されていない場合の半分の値である0.3に抑えられ、摩擦係数が低い状態が維持されている。
スズめっき層の厚さを1.0μmまで厚くしても、初期及び高温放置後における摩擦係数の低減の効果は飽和している。
(高温放置後のスズめっき層の組成変化の評価)
スズめっき層の厚さが0.5μmであるめっき部材を高温放置した後の断面のFIB−SIM像を図2(a)に示す。これを見ると、粒径1μm程度の微結晶よりなる厚い下層と、粒径0.5〜1μm程度の微結晶が緻密に形成された厚さ1μm程度の上層の2層よりなることが分かる。下層は、高温放置によって結晶成長し、軟化した硬質銀めっき層であると考えられる。
一方、上層の方は、図2(b)のAgSnめっき層(比較例2)を高温放置した場合のFIB−SIM像と非常によく似ている。つまり、丸みを帯びた粒径0.5〜1μm程度の微結晶が緻密に形成され、隣接する粒子間で高い画像コントラストを有する点において両者は共通している。これより、実施例にかかるめっき部材を高温放置した際に、上層にAgSnに近い組成を有する銀−スズ合金が形成されている可能性が考えられる。
この上層の組成は、深さ分解ESCAでの組成分析によって、更に明確になった。図3に、最表面からの深さに対する銀及びスズの存在量を全含有元素に対する割合で示す。
この結果を見ると、検出深さ6nmよりも深い領域では、銀とスズの原子数比が、4:1〜5:1となっている。つまり、上層において、AgSn〜AgSnの組成を有する合金が形成されていることが明らかになった。これは、上記のFIB−SIM像に基づく考察結果とも一致する。なお、比較例2のめっき部材を高温放置したものについても、同様に深さ分解ESCAの測定を行い、銀とスズの原子数比が4:1で検出されることを確認した。
最表層からの深さが4nmより浅い領域においては、組成比はAg:Sn=4:1よりもSnが多くなってはいるが、最表層においても、Agが存在している。これより、スズめっき層は、高温放置により、全体が硬質銀めっき層を形成していた銀と合金化反応を起こし、銀−スズ合金を形成していることが分かる。つまり、高温放置後のめっき層に、純スズ層は残っていない。
また、この合金層内において、銅原子は不純物程度の量しか観測されなかった。つまり、高温放置による合金層内への銅原子の拡散は起こっていないと考えられる。また、アンチモン元素は検出限界の範囲内で検出されず、硬質銀めっき層からのアンチモンの拡散も起こっていないことが分かる。
TEMの元素分析、及び電子線回折については、結果の表示は省略する。しかし、TEMの元素分析においても、深さ分解ESCAの結果と同様に、実施例にかかるめっき部材を高温放置した際の上層がAgSnなる組成を有することが確認された。また、電子線回折においては、高温放置によって実施例にかかるめっき部材の上層に形成された物質について得られた回折パターンが、AgSnのものと一致した。
AgSnの組成を有する合金は、X線回折データベースに報告されている。また、Ag5Snの組成を有する合金相も状態相として存在することが報告されている。よって、実施例にかかるめっき部材を高温放置した際に、安定な銀−スズ合金層が形成されていると考えられる。
(まとめ)
実施例のうち厚さ0.5μmのスズめっき層が硬質銀めっき層の上に形成された場合と、比較例1のスズめっき層が形成されない硬質銀めっき層の場合とについて、測定された高温放置による接触抵抗上昇値及び高温放置前後の摩擦係数を、車載用大電流端子としての目標値とともに表3にまとめる。
このように、銀めっき層の上に厚さ0.5μmのスズめっき層が形成されていると、高温環境下で使用しても、接触抵抗値の上昇を抑えることができ、5mΩ以下との目標値が達成されている。これにより、高い耐熱性が達成される。
摩擦係数についても、銀めっき層の上に厚さ0.5μmのスズめっき層が形成されていることで、高温放置の前後を通じて、摩擦係数が低減されている。高温放置前後を通じて、0.5以下との大電流端子の目標値を達成している。これにより、初期又は高温放置後いずれの状態においても、良好な端子の挿抜性が達成される。
なお、スズの膜厚が0.1μm以下である場合には、高温放置時の接触抵抗値上昇の抑制、及び高温放置前後の摩擦係数の抑制についての効果は、スズの膜厚が0.1μm超である場合ほどに大きくはない。一方、スズの膜厚を1.0μm以上に増加させても、これらの効果が増強されるわけではない。
スズめっき層の形成による高温放置前の摩擦係数の低減は、硬い銀めっき層の上に軟らかいスズめっき層が形成されていることによるものと考えられる。一方で、高温放置後については、スズめっき層が全て銀−スズ合金となっていることが明らかになったので、これとは異なる機構で摩擦係数が低減されていることになる。つまり、銀−スズ合金自体が低い摩擦係数を有していると考えられる。
また、高温放置によって銀−スズ合金が形成されることで、この合金層が母材からの銅原子の拡散及び銀めっき層からのアンチモン等の添加元素の拡散を抑制していると考えられる。これにより、銀めっき層がスズめっき層に覆われていない場合に起こる、表面に拡散した銅及びアンチモン等の酸化物形成による高温放置後の接触抵抗値の上昇が回避されていると考えられる。
1 母材
2 銀めっき層
3 スズめっき層
4 銀−スズ合金層

Claims (4)

  1. 銅又は銅合金よりなる母材の表面が銀めっき層により覆われ、前記銀めっき層の表面がスズめっき層により覆われていることを特徴とするコネクタ用めっき端子。
  2. 前記銀めっき層は、ビッカース硬さが150以上の硬質銀よりなることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用めっき端子。
  3. 前記スズめっき層の厚さが0.1μmを超え、かつ1.0μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコネクタ用めっき端子。
  4. 銅又は銅合金よりなる母材の表面を銀めっき層によって覆い、前記銀めっき層の表面をスズめっき層により覆った後、150℃以上の温度で加熱することにより、前記スズめっき層を銀−スズ合金としたことを特徴とするコネクタ用めっき端子。
JP2012095407A 2012-04-19 2012-04-19 コネクタ用めっき端子 Expired - Fee Related JP5803793B2 (ja)

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