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JP2013115412A - 記憶素子、記憶装置 - Google Patents

記憶素子、記憶装置 Download PDF

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JP2013115412A JP2011263507A JP2011263507A JP2013115412A JP 2013115412 A JP2013115412 A JP 2013115412A JP 2011263507 A JP2011263507 A JP 2011263507A JP 2011263507 A JP2011263507 A JP 2011263507A JP 2013115412 A JP2013115412 A JP 2013115412A
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Kazuaki Yamane
一陽 山根
Masakatsu Hosomi
政功 細見
Hiroyuki Omori
広之 大森
Kazuhiro Bessho
和宏 別所
Yutaka Higo
豊 肥後
Tetsuya Asayama
徹哉 浅山
Hiroyuki Uchida
裕行 内田
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Abstract

【課題】熱安定性の情報書き込み方向に対する非対称性をすくなくし特性バランスに優れた記憶素子を実現する。
【解決手段】記憶素子は、膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される記憶層と、上記記憶層に記憶された情報の基準となる膜面に垂直な磁化を有する磁化固定層と、上記記憶層と上記磁化固定層の間に設けられる非磁性体による中間層とを有する層構造を備える。そして上記層構造の積層方向に電流を流すことで記憶層の磁化の向きが変化して、記憶層に対して情報の記録が行われる。この場合に、磁化固定層を少なくとも2層の強磁性層とCrを含む非磁性層とを有する積層フェリピン構造とする。
【選択図】図3

Description

本開示は、複数の磁性層を有し、スピントルク磁化反転を利用して記録を行う記憶素子及び記憶装置に関する。
特開2003−17782号公報 米国特許第6256223号明細書 特開2008−227388号公報
Physical Review B, 54, 9353(1996) Journal of Magnetism and Magnetic Materials, 159, L1(1996) Nature Materials., 5, 210(2006) Physical Review Letters, 67, 3598(1991)
モバイル端末から大容量サーバに至るまで、各種情報機器の飛躍的な発展に伴い、これを構成するメモリやロジックなどの素子においても高集積化、高速化、低消費電力化など、さらなる高性能化が追求されている。特に半導体不揮発性メモリの進歩は著しく、大容量ファイルメモリとしてのフラッシュメモリは、ハードディスクドライブを駆逐する勢いで普及が進んでいる。一方、コードストレージ用さらにはワーキングメモリへの展開を睨み、現在一般に用いられているNORフラッシュメモリ、DRAMなどを置き換えるべくFeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)、MRAM(Magnetic Random Access Memory)、PCRAM(Phase-Change Random Access Memory)などの開発が進められている。これらのうち一部はすでに実用化されている。
なかでもMRAMは、磁性体の磁化方向によりデータ記憶を行うために高速かつほぼ無限(1015回以上)の書換えが可能であり、すでに産業オートメーションや航空機などの分野で使用されている。MRAMはその高速動作と信頼性から、今後コードストレージやワーキングメモリへの展開が期待されているものの、現実には低消費電力化、大容量化に課題を有している。これはMRAMの記録原理、すなわち配線から発生する電流磁界により磁化を反転させるという方式に起因する本質的な課題である。
この問題を解決するための一つの方法として、電流磁界によらない記録、すなわち磁化反転方式が検討されている。なかでもスピントルク磁化反転に関する研究は活発である(例えば、特許文献1、2、3、非特許文献1、2参照)。
スピントルク磁化反転の記憶素子は、MRAMと同じくMTJ(Magnetic Tunnel Junction)により構成されている場合が多い。
この構成は、ある方向に固定された磁性層を通過するスピン偏極電子が、他の自由な(方向を固定されない)磁性層に進入する際にその磁性層にトルクを与えること(これをスピントランスファトルクとも呼ぶ)を利用したもので、あるしきい値以上の電流を流せば自由磁性層が反転する。0/1の書換えは電流の極性を変えることにより行う。
この反転のための電流の絶対値は0.1μm程度のスケールの素子で1mA以下である。しかもこの電流値が素子体積に比例して減少するため、スケーリングが可能である。さらに、MRAMで必要であった記録用電流磁界発生用のワード線が不要であるため、セル構造が単純になるという利点もある。
以下、スピントルク磁化反転を利用したMRAMを、ST−MRAM(Spin Torque-Magnetic Random Access Memory)と呼ぶ。スピントルク磁化反転は、またスピン注入磁化反転と呼ばれることもある。高速かつ書換え回数がほぼ無限大であるというMRAMの利点を保ったまま、低消費電力化、大容量化を可能とする不揮発メモリとして、ST−MRAMに大きな期待が寄せられている。
ところでMRAMの場合は、記憶素子とは別に書き込み配線(ワード線やビット線)を設けて、書き込み配線に電流を流して発生する電流磁界により、情報の書き込み(記録)を行っている。そのため、書き込み配線に、書き込みに必要となる電流量を充分に流すことができる。
一方、ST−MRAMにおいては、記憶素子に流す電流によりスピントルク磁化反転を行い、記憶層の磁化の向きを反転させる必要がある。
そして、このように記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタに流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさに制限される。
このため、選択トランジスタの飽和電流以下の電流で書き込みを行う必要があり、トランジスタの飽和電流は微細化に伴って低下することが知られているため、ST−MRAMの微細化のためには、スピントランスファの効率を改善して、記憶素子に流す電流を低減させる必要がある。
また、読み出し信号を大きくするためには、大きな磁気抵抗変化率を確保する必要があり、そのためには上述のようなMTJ構造を採用すること、すなわち記憶層に接している中間層をトンネル絶縁層(トンネルバリア層)とした記憶素子の構成にすることが効果的である。
このように中間層としてトンネル絶縁層を用いた場合には、トンネル絶縁層が絶縁破壊することを防ぐために、記憶素子に流す電流量に制限が生じる。すなわち記憶素子の繰り返し書き込みに対する信頼性の確保の観点からも、スピントルク磁化反転に必要な電流を抑制しなくてはならない。
なお、スピントルク磁化反転に必要な電流は、また、反転電流、記録電流などと呼ばれることがある。
また一方で、ST−MRAMは不揮発メモリであるから、電流によって書き込まれた情報を安定に記憶する必要がある。つまり、記憶層の磁化の熱揺らぎに対する安定性(熱安定性)を確保する必要がある。
記憶層の熱安定性が確保されていないと、反転した磁化の向きが、熱(動作環境における温度)により再反転する場合があり、書き込みエラーとなってしまう。
ST−MRAMにおける記憶素子は、従来のMRAMと比較して、スケーリングにおいて有利、すなわち記憶層の体積を小さくすることが可能であるという利点があることを記録電流値の観点で上述した。しかしながら、体積が小さくなることは、他の特性が同一であるならば、熱安定性を低下させる方向にある。
ST−MRAMの大容量化を進めた場合、記憶素子の体積は一層小さくなるので、熱安定性の確保は重要な課題となる。
そのため、ST−MRAMにおける記憶素子において、熱安定性は非常に重要な特性であり、体積を減少させてもこの熱安定性が確保されるように設計する必要がある。
すなわち、ST−MRAMが不揮発メモリとして存在し得るためには、スピントルク磁化反転に必要な反転電流をトランジスタの飽和電流やトンネルバリアが破壊される電流以下に減らし、また、書き込まれた情報を保持するための熱安定性を確保する必要がある。
そこで本開示では、熱安定性の情報書き込み方向に対する非対称性を少なくし、情報保持能力である熱安定性を充分に確保できるST−MRAMとしての記憶素子を提供することを目的とする。
本開示の記憶素子は、膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される記憶層と、上記記憶層に記憶された情報の基準となる、膜面に垂直な磁化を有する磁化固定層と、上記記憶層と上記磁化固定層の間に設けられる非磁性体による中間層とを有する層構造を備え、上記層構造の積層方向に電流を流すことで上記記憶層の磁化の向きが変化して、上記記憶層に対して情報の記録が行われる。加えて 上記磁化固定層が少なくとも2層の強磁性層と非磁性層とを有する積層フェリピン構造とされ、上記非磁性層はCrを含むようにする。
また、本開示の記憶装置は、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶素子と、互いに交差する2種類の配線とを備え、記憶素子は上記の構成の記憶素子であり、2種類の配線の間に記憶素子が配置され、二種類の配線を通じて、記憶素子に積層方向の電流が流れる。
上記の本開示の記憶素子によれば、情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶層を有し、この記憶層に対して、中間層を介して磁化固定層が設けられており、積層方向に流れる電流に伴って発生するスピントルク磁化反転を利用して記憶層の磁化を反転させることにより情報の記録が行われるので、積層方向に電流を流すことで情報の記録を行うことができる。このとき、記憶層が垂直磁化膜であることにより、記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる書き込み電流値を低減することができる。
垂直磁化膜を記憶層に用いた構造は、反転電流の低減と熱安定性の確保を両立させる観点で好適である。例えば非特許文献3によれば、Co/Ni多層膜などの垂直磁化膜を記憶層に用いることにより、反転電流の低減と熱安定性の確保を両立できる可能性が示唆されている。
一方で、界面磁気異方性を有する垂直磁化磁性材料は磁化固定層に用いることも有望である。特に、大きな読み出し信号を与えるために、中間層(トンネルバリア層)の下にCoもしくはFeを含む磁性材料を積層させたものが好適となる。そして磁化固定層として、2層以上の強磁性層と非磁性層から成る積層フェリピン構造を用いる場合がある。
磁化固定層を積層フェリピン構造にすることによれば、熱安定性の情報書き込み方向に対する非対称性を容易にキャンセルできることや、スピントルクに対する安定性を向上出来る。磁化固定層に要求される特徴は、構成する磁性層が同じ場合、積層フェリ結合強度が大きいことである。
ここで、界面磁気異方性を起源とする垂直磁気異方性材料をトンネルバリア下に配置する構成で大きな積層フェリ結合強度を得るには、積層フェリピン結合強度を高める材料を選択する一方で、垂直磁気異方性を高める非磁性層を選択することが重要である。そこで非磁性層はCrを含むようにする。
そして強固な積層フェリ結合を有する磁化固定層により、熱安定性の情報書き込み方向に対する非対称性の少ないST−MRAMが実現可能となる。
また、本開示の記憶装置の構成によれば、2種類の配線を通じて、記憶素子に積層方向の電流が流れ、スピントランスファが起こることにより、2種類の配線を通じて記憶素子の積層方向に電流を流してスピントルク磁化反転による情報の記録を行うことができる。
また、上記記憶層の熱安定性は十分かつ、情報書き込み方向に対して対称性を保つことができるため、記憶素子に記録された情報を安定に保持し、かつ記憶装置の微細化、信頼性の向上、低消費電力化を実現することが可能になる。
本開示によれば、強固な積層フェリ結合を有する磁化固定層により、熱安定性の情報書き込み方向に対する非対称性の少なくなるため、情報保持能力である熱安定性を充分に確保して、特性バランスに優れた記憶素子を構成することができる。
これにより、動作エラーをなくして、記憶素子の動作マージンを充分に得ることができる。従って、安定して動作する、信頼性の高いメモリを実現することができる。
また、書き込み電流を低減して、記憶素子に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
従って、記憶装置全体の消費電力を低減することが可能になる。
本開示の実施の形態の記憶装置の説明図である。 実施の形態の記憶装置の断面図である。 実施の形態の記憶素子の構造の説明図である。 実験試料の記憶素子の説明図である。 実験における試料1,2の磁気光学カー効果測定結果を示す図である。 実験資料の積層フェリ結合磁界の測定結果を示す図である。 実施の形態の磁気ヘッド適用例の説明図である。
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。
<1.実施の形態の記憶装置の構成>
<2.実施の形態の記憶素子の概要>
<3.実施の形態の具体的構成>
<4.実験>
<5.変形例>
<1.実施の形態の記憶装置の構成>

まず、本開示の実施の形態となる記憶装置の構成について説明する。
実施の形態の記憶装置の模式図を、図1及び図2に示す。図1は斜視図、図2は断面図である。
図1に示すように、実施の形態の記憶装置は、互いに直交する2種類のアドレス配線(例えばワード線とビット線)の交点付近に、磁化状態で情報を保持することができるST−MRAMによる記憶素子3が配置されて成る。
即ち、シリコン基板等の半導体基体10の素子分離層2により分離された部分に、各記憶装置を選択するための選択用トランジスタを構成する、ドレイン領域8、ソース領域7、並びにゲート電極1が、それぞれ形成されている。このうち、ゲート電極1は、図中前後方向に延びる一方のアドレス配線(ワード線)を兼ねている。
ドレイン領域8は、図1中左右の選択用トランジスタに共通して形成されており、このドレイン領域8には、配線9が接続されている。
そして、ソース領域7と、上方に配置された、図1中左右方向に延びるビット線6との間に、スピントルク磁化反転により磁化の向きが反転する記憶層を有する記憶素子3が配置されている。この記憶素子3は、例えば磁気トンネル接合素子(MTJ素子)により構成される。
図2に示すように、記憶素子3は2つの磁性層15、17を有する。この2層の磁性層15、17のうち、一方の磁性層を磁化M15の向きが固定された磁化固定層15として、他方の磁性層を磁化M17の向きが変化する磁化自由層即ち記憶層17とする。
また、記憶素子3は、ビット線6と、ソース領域7とに、それぞれ上下のコンタクト層4を介して接続されている。
これにより、2種類のアドレス配線1、6を通じて、記憶素子3に上下方向の電流を流して、スピントルク磁化反転により記憶層17の磁化M17の向きを反転させることができる。
このような記憶装置では、選択トランジスタの飽和電流以下の電流で書き込みを行う必要があり、トランジスタの飽和電流は微細化に伴って低下することが知られているため、記憶装置の微細化のためには、スピントランスファの効率を改善して、記憶素子3に流す電流を低減させることが好適である。
また、読み出し信号を大きくするためには、大きな磁気抵抗変化率を確保する必要があり、そのためには上述のようなMTJ構造を採用すること、すなわち2層の磁性層15、17の間に中間層をトンネル絶縁層(トンネルバリア層)とした記憶素子3の構成にすることが効果的である。
このように中間層としてトンネル絶縁層を用いた場合には、トンネル絶縁層が絶縁破壊することを防ぐために、記憶素子3に流す電流量に制限が生じる。すなわち記憶素子3の繰り返し書き込みに対する信頼性の確保の観点からも、スピントルク磁化反転に必要な電流を抑制することが好ましい。なお、スピントルク磁化反転に必要な電流は、反転電流、記憶電流などと呼ばれることがある。
また記憶装置は不揮発メモリ装置であるから、電流によって書き込まれた情報を安定に記憶する必要がある。つまり、記憶層の磁化の熱揺らぎに対する安定性(熱安定性)を確保する必要がある。
記憶層の熱安定性が確保されていないと、反転した磁化の向きが、熱(動作環境における温度)により再反転する場合があり、書き込みエラーとなってしまう。
本記憶装置における記憶素子3(ST−MRAM)は、従来のMRAMと比較して、スケーリングにおいて有利、すなわち体積を小さくすることは可能であるが、体積が小さくなることは、他の特性が同一であるならば、熱安定性を低下させる方向にある。
ST−MRAMの大容量化を進めた場合、記憶素子3の体積は一層小さくなるので、熱安定性の確保は重要な課題となる。
そのため、ST−MRAMにおける記憶素子3において、熱安定性は非常に重要な特性であり、体積を減少させてもこの熱安定性が確保されるように設計する必要がある。
<2.実施の形態の記憶素子の概要>

次に実施の形態となる記憶素子の概要について説明する。
実施の形態の記憶素子3は、前述したスピントルク磁化反転により、記憶層の磁化の向きを反転させて、情報の記録を行うものである。
記憶層は、強磁性層を含む磁性体により構成され、情報を磁性体の磁化状態(磁化の向き)により保持するものである。
記憶素子3は、例えば図3Aに一例を示す層構造とされ、少なくとも2つの強磁性体層としての記憶層17、磁化固定層15を備え、またその2つの磁性層の間の中間層16を備える。
また、図3Bのように少なくとも2つの強磁性体層としての磁化固定層15U、15L、および記録層17を備え、また3つの磁性層の間に中間層16U、16Lを備えても良い。
記憶層17は、膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される。
磁化固定層15は、記憶層17に記憶された情報の基準となる膜面に垂直な磁化を有する。
中間層16は、非磁性体であって、記憶層17と磁化固定層15の間に設けられる。
そして記憶層17、中間層16、磁化固定層15を有する層構造の積層方向にスピン偏極した電子を注入することにより、記憶層17の磁化の向きが変化して、記憶層17に対して情報の記録が行われる。
ここでスピントルク磁化反転について簡単に説明する。
電子は2種類のスピン角運動量をもつ。仮にこれを上向き、下向きと定義する。非磁性体内部では両者が同数であり、強磁性体内部では両者の数に差がある。ST−MRAMを構成する2層の強磁性体である磁化固定層15及び記憶層17において、互いの磁気モーメントの向きが反方向状態のときに、電子を磁化固定層15から記憶層17への移動させた場合について考える。
磁化固定層15は、高い保磁力のために磁気モーメントの向きが固定された固定磁性層である。
磁化固定層15を通過した電子はスピン偏極、すなわち上向きと下向きの数に差が生じる。非磁性層である中間層16の厚さが充分に薄く構成されていると、磁化固定層15の通過によるスピン偏極が緩和して通常の非磁性体における非偏極(上向きと下向きが同数)状態になる前に他方の磁性体、すなわち記憶層17に電子が達する。
記憶層17では、スピン偏極度の符号が逆になっていることにより、系のエネルギーを下げるために一部の電子は反転、すなわちスピン角運動量の向きをかえさせられる。このとき、系の全角運動量は保存されなくてはならないため、向きを変えた電子による角運動量変化の合計と等価な反作用が記憶層17の磁気モーメントにも与えられる。
電流すなわち単位時間に通過する電子の数が少ない場合には、向きを変える電子の総数も少ないために記憶層17の磁気モーメントに発生する角運動量変化も小さいが、電流が増えると多くの角運動量変化を単位時間内に与えることができる。
角運動量の時間変化はトルクであり、トルクがあるしきい値を超えると記憶層17の磁気モーメントは歳差運動を開始し、その一軸異方性により180度回転したところで安定となる。すなわち反方向状態から同方向状態への反転が起こる。
磁化が同方向状態にあるとき、電流を逆に記憶層17から磁化固定層15へ電子を送る向きに流すと、今度は磁化固定層15で反射される際にスピン反転した電子が記憶層17に進入する際にトルクを与え、反方向状態へと磁気モーメントを反転させることができる。ただしこの際、反転を起こすのに必要な電流量は、反方向状態から同方向状態へと反転させる場合よりも多くなる。
磁気モーメントの同方向状態から反方向状態への反転は直感的な理解が困難であるが、磁化固定層15が固定されているために磁気モーメントが反転できず、系全体の角運動量を保存するために記憶層17が反転する、と考えてもよい。このように、0/1の記録は、磁化固定層15から記憶層17の方向またはその逆向きに、それぞれの極性に対応する、あるしきい値以上の電流を流すことによって行われる。
情報の読み出しは、従来型のMRAMと同様、磁気抵抗効果を用いて行われる。すなわち上述の記録の場合と同様に膜面垂直方向に電流を流す。そして、記憶層17の磁気モーメントが、磁化固定層15の磁気モーメントに対して同方向であるか反方向であるかに従い、素子の示す電気抵抗が変化する現象を利用する。
磁化固定層15と記憶層17の間の中間層16として用いる材料は金属でも絶縁体でも構わないが、より高い読み出し信号(抵抗の変化率)が得られ、かつより低い電流によって記録が可能とされるのは、中間層として絶縁体を用いた場合である。このときの素子を強磁性トンネル接合(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)と呼ぶ。
スピントルク磁化反転によって、磁性層の磁化の向きを反転させるときに、必要となる電流の閾値Icは、磁性層の磁化容易軸が面内方向であるか、垂直方向であるかによって異なる。
本実施の形態の記憶素子は垂直磁化型であるが、従前の面内磁化型の記憶素子の場合における磁性層の磁化の向きを反転させる反転電流をIc_paraとする。
同方向から逆方向に反転させる場合、
Ic_para=(A・α・Ms・V/g(0)/P)(Hk+2πMs)
となり、逆方向から同方向に反転させる場合、
Ic_para=−(A・α・Ms・V/g(π)/P)(Hk+2πMs)
となる。
なお、同方向、逆方向とは、磁化固定層の磁化方向を基準としてみた記憶層の磁化方向である。平行、反平行とも呼ばれる。
一方、本例のような垂直磁化型の記憶素子の反転電流をIc_perpとすると、同方向から逆方向に反転させる場合、
Ic_perp=(A・α・Ms・V/g(0)/P)(Hk−4πMs)
となり、逆方向から同方向に反転させる場合、
Ic_perp=−(A・α・Ms・V/g(π)/P)(Hk−4πMs)
となる。
ただし、Aは定数、αはダンピング定数、Msは飽和磁化、Vは素子体積、Pはスピン分極率、g(0)、g(π)はそれぞれ同方向時、逆方向時にスピントルクが相手の磁性層に伝達される効率に対応する係数、Hkは磁気異方性である。
上記各式において、垂直磁化型の場合の(Hk−4πMs)と面内磁化型の場合の(Hk+2πMs)とを比較すると、垂直磁化型が低記憶電流化により適していることが理解できる。
ここで、反転電流Ic0は熱安定性の指標Δとの関係で表すと次の(数1)により表される。
Figure 2013115412

但しeは電子の電荷、ηはスピン注入効率、バー付きのhは換算プランク定数、αはダンピング定数、kBはボルツマン定数、Tは温度である。
本実施の形態では、磁化状態により情報を保持することができる磁性層(記憶層17)と、磁化の向きが固定された磁化固定層15とを有する記憶素子を構成する。
メモリとして存在し得るためには、書き込まれた情報を保持することができなければならない。情報を保持する能力の指標として、熱安定性の指標Δ(=KV/kBT)の値で判断される。このΔは(数2)により表される。
Figure 2013115412

ここで、Hkは実効的な異方性磁界、kBはボルツマン定数、Tは温度、Msは飽和磁化量、Vは記憶層の体積、Kは異方性エネルギーである。
実効的な異方性磁界Hkには、形状磁気異方性、誘導磁気異方性、結晶磁気異方性等の影響が取り込まれており、単磁区の一斉回転モデルを仮定した場合、これは保磁力と同等となる。
熱安定性の指標Δと電流の閾値Icとは、トレードオフの関係になることが多い。そのため、メモリ特性を維持するには、これらの両立が課題となることが多い。
記憶層の磁化状態を変化させる電流の閾値は、実際には、例えば記憶層17の厚さが2nmであり、平面パターンが直径100nm円形のTMR素子において、百〜数百μA程度である。
これに対して、電流磁場により磁化反転を行う通常のMRAMでは、書き込み電流が数mA以上必要となる。
従って、ST−MRAMの場合には、上述のように書き込み電流の閾値が充分に小さくなるため、集積回路の消費電力を低減させるために有効であることが分かる。
また、通常のMRAMで必要とされる、電流磁界発生用の配線が不要となるため、集積度においても通常のMRAMに比較して有利である。
そして、スピントルク磁化反転を行う場合には、記憶素子に直接電流を流して情報の書き込み(記録)を行うことから、書き込みを行うメモリセルを選択するために、記憶素子を選択トランジスタと接続してメモリセルを構成する。
この場合、記憶素子に流れる電流は、選択トランジスタで流すことが可能な電流(選択トランジスタの飽和電流)の大きさによって制限される。
記録電流を低減させるためには、上述のように垂直磁化型を採用することが望ましい。また垂直磁化膜は一般に面内磁化膜よりも高い磁気異方性を持たせることが可能であるため、上述のΔを大きく保つ点でも好ましい。
垂直異方性を有する磁性材料には希土類−遷移金属合金(TbCoFeなど)、金属多層膜(Co/Pd多層膜など)、規則合金(FePtなど)、酸化物と磁性金属の間の界面異方性の利用(Co/MgOなど)等いくつかの種類があるが、希土類−遷移金属合金は加熱により拡散、結晶化すると垂直磁気異方性を失うため、ST−MRAM用材料としては好ましくない。
また金属多層膜も加熱により拡散し、垂直磁気異方性が劣化することが知られており、さらに垂直磁気異方性が発現するのは面心立方の(111)配向となっている場合であるため、MgOやそれに隣接して配置するFe、CoFe、CoFeBなどの高分極率層に要求される(001)配向を実現させることが困難となる。L10規則合金は高温でも安定であり、かつ(001)配向時に垂直磁気異方性を示すことから、上述のような問題は起こらないものの、製造時に500℃以上の十分に高い温度で加熱する、あるいは製造後に500℃以上の高温で熱処理を行うことで原子を規則配列させる必要があり、トンネルバリア等積層膜の他の部分における好ましくない拡散や界面粗さの増大を引き起こす可能性がある。
これに対し、界面磁気異方性を利用した材料、すなわちトンネルバリアであるMgO上にCo系あるいはFe系材料を積層させたものは上記いずれの問題も起こり難く、このためST−MRAMの記憶層材料として有望視されている。
一方で、界面磁気異方性を有する垂直磁化磁性材料は磁化固定層15に用いることも有望である。特に、大きな読み出し信号を与えるために、トンネルバリアである中間層(例えばMgO層)下に、CoもしくはFeを含む磁性材料を積層させたものが有望である。
磁化固定層15の構造は単層でも、2層以上の強磁性層と非磁性層から成る積層フェリピン構造を用いても良いが、通常、2層の強磁性層と非磁性層(Ru)から成る積層フェリピン構造を用いる場合が多い。
磁化固定層15を積層フェリピン構造にすることのメリットは、熱安定性の情報書き込み方向に対する非対称性を容易にキャンセルできることや、スピントルクに対する安定性を向上できることが挙げられる。
磁化固定層15に要求される特性は、構成する磁性層が同じ場合、積層フェリ結合強度が大きいことである。
従って、一般に 非磁性層としてRuが選択される理由は、2層の強磁性層の結合強度が大きいことである。
しかしながら、発明者が検討を重ねた結果、界面磁気異方性を起源とする垂直磁気異方性材料をトンネルバリア下に配置する構成で大きな積層フェリ結合強度を得るには、積層フェリ結合強度を高める材料を選択する一方で、垂直磁気異方性を高める非磁性層を選択することが重要であり、両者のバランスが優れた非磁性層を選択することにより、Ruより優れた非磁性層が存在することが判明した。
すなわち、磁化固定層15を垂直磁化膜の強磁性層/非磁性層/垂直磁化膜の強磁性層という積層フェリピン構造とし、かつ非磁性層にCrを用いる。例えばCr単層、或いはRu/Cr積層を用いる。また中間層16と接する側の強磁性層は、磁性材料として界面磁気異方性を起源とする垂直磁気異方性材料Co−Fe−Bを用いる。
これらにより、積層フェリ結合強度が高められる。
また本実施の形態では、記憶層17はCo−Fe−Bの垂直磁化膜である。
さらに、選択トランジスタの飽和電流値を考慮して、記憶層17と磁化固定層15との間の非磁性の中間層16として、絶縁体から成るトンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成する。
トンネル絶縁層を用いて磁気トンネル接合(MTJ)素子を構成することにより、非磁性導電層を用いて巨大磁気抵抗効果(GMR)素子を構成した場合と比較して、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができ、読み出し信号強度を大きくすることができるためである。
そして、特に、このトンネル絶縁層としての中間層16の材料として、酸化マグネシウム(MgO)を用いることにより、磁気抵抗変化率(MR比)を大きくすることができる。
また、一般に、スピントランスファの効率はMR比に依存し、MR比が大きいほど、スピントランスファの効率が向上し、磁化反転電流密度を低減することができる。
従って、トンネル絶縁層の材料として酸化マグネシウムを用い、同時に上記の記憶層17を用いることにより、スピントルク磁化反転による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
これにより、MR比(TMR比)を確保して、スピントルク磁化反転による書き込み閾値電流を低減することができ、少ない電流で情報の書き込み(記録)を行うことができる。また、読み出し信号強度を大きくすることができる。
このようにトンネル絶縁層を酸化マグネシウム(MgO)膜により形成する場合には、MgO膜が結晶化していて、001方向に結晶配向性を維持していることがより望ましい。
なお、本実施の形態において、記憶層17と磁化固定層15との間の中間層16(トンネル絶縁層)は、酸化マグネシウムから成る構成とする他にも、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、SiO2、Bi23、MgF2、CaF、SrTiO2、AlLaO3、Al−N−O等の各種の絶縁体、誘電体、半導体を用いて構成することもできる。
トンネル絶縁層の面積抵抗値は、スピントルク磁化反転により記憶層17の磁化の向きを反転させるために必要な電流密度を得る観点から、数十Ωμm2程度以下に制御する必要がある。
そして、MgO膜から成るトンネル絶縁層では、面積抵抗値を上述の範囲とするために、MgO膜の膜厚を1.5nm以下に設定する必要がある。
また、記憶層17に隣接してキャップ層18が配置される。このキャップ層18は例えばTa,Ru等が用いられるが、キャップ層18のうち、特に記憶層17に接する界面の層としては酸化物を用いてもよい。キャップ層18の酸化物としては、たとえばMgO、酸化アルミニウム、TiO2、SiO2、Bi23、SrTiO2、AlLaO3、Al−N−O等を用いることができる
また、記憶層17の磁化の向きを、小さい電流で容易に反転できるように、記憶素子を小さくすることが望ましい。
従って、好ましくは、記憶素子の面積を0.01μm2以下とする。
また記憶層17には、非磁性元素を添加することも可能である。
異種元素の添加により、拡散の防止による耐熱性の向上や磁気抵抗効果の増大、平坦化に伴う絶縁耐圧の増大などの効果が得られる。この場合の添加元素の材料としては、B、C、N、O、F、Mg、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Ge、Nb、Ru、Rh、Pd、Ag、Ta、Ir、Pt、Au、Zr、Hf、W、Mo、Re、Osまたはそれらの合金および酸化物を用いることができる。
なお、記憶層17は組成の異なる他の強磁性層を直接積層させることも可能である。また、強磁性層と軟磁性層とを積層させたり、複数層の強磁性層を軟磁性層や非磁性層を介して積層させたりすることも可能である。このように積層させた場合でも、本開示でいう効果が得られる。
特に複数層の強磁性層を非磁性層に介して積層させた構成としたときには、強磁性層の層間の相互作用の強さを調整することが可能になるため、磁化反転電流が大きくならないように抑制することが可能になるという効果が得られる。この場合の非磁性層の材料としては、Ru,Os,Re,Ir,Au,Ag,Cu,Al,Bi,Si,B,C,Cr,Ta,Pd,Pt,Zr,Hf,W,Mo,Nbまたはそれらの合金を用いることができる。
磁化固定層15及び記憶層17のそれぞれの膜厚は、0.5nm〜30nmであることが好ましい。
記憶素子のその他の構成は、スピントルク磁化反転により情報を記録する記憶素子の従来公知の構成と同様とすることができる。
磁化固定層15は、強磁性層のみにより、或いは反強磁性層と強磁性層の反強磁性結合を利用することにより、その磁化の向きが固定された構成とすることが出来る。
積層フェリピン構造の磁化固定層15を構成する強磁性層の材料としては、Co,CoFe,CoFeB等を用いることができる。また、非磁性層はCrを含むが、それ以外の材料としては、Ru,Re,Ir,Os等を用いることができる。
反強磁性層の材料としては、FeMn合金、PtMn合金、PtCrMn合金、NiMn合金、IrMn合金、NiO、Fe23等の磁性体を挙げることができる。
また、これらの磁性体に、Ag,Cu,Au,Al,Si,Bi,Ta,B,C,O,N,Pd,Pt,Zr,Ta,Hf,Ir,W,Mo,Nb等の非磁性元素を添加して、磁気特性を調整したり、その他の結晶構造や結晶性や物質の安定性等の各種物性を調整したりすることができる。
また、記憶素子3の膜構成は、記憶層17が磁化固定層15の下側に配置される構成でも問題ない。つまり図3Aとは記憶層17と磁化固定層15の位置が入れ替わった構造である。
<3.実施の形態の具体的構成>

続いて、実施の形態の具体的構成について説明する。
記憶装置の構成は先に図1,図2で述べたとおり、直交する2種類のアドレス配線1,6(例えばワード線とビット線)の交点付近に、磁化状態で情報を保持することができる記憶素子3が配置されるものである。
そして2種類のアドレス配線1、6を通じて、記憶素子3に上下方向の電流を流して、スピントルク磁化反転により記憶層17の磁化の向きを反転させることができる。
図3A,図3Bは実施の形態の記憶素子3(ST−MRAM)の層構造の例を表している。
まず図3Aの構造として、記憶素子3は、下層側から順に、下地層14、磁化固定層15、中間層16、記憶層17、キャップ層18が積層されている。
この場合、スピン注入により磁化M17の向きが反転する記憶層17に対して、下層に磁化固定層15を設けている。
スピン注入型メモリにおいては、記憶層17の磁化M17と磁化固定層15の磁化M15の相対的な角度によって情報の「0」「1」を規定している。
記憶層17と磁化固定層15との間には、トンネルバリア層(トンネル絶縁層)となる中間層16が設けられ、記憶層17と磁化固定層15とにより、MTJ素子が構成されている。
記憶層17は、磁化M17の方向が層面垂直方向に自由に変化する磁気モーメントを有する強磁性体から構成されている。磁化固定層15は、磁化M15が膜面垂直方向に固定された磁気モーメントを有する強磁性体から構成されている。
情報の記憶は一軸異方性を有する記憶層15の磁化の向きにより行う。書込みは、膜面垂直方向に電流を印加し、スピントルク磁化反転を起こすことにより行う。このように、スピン注入により磁化の向きが反転する記憶層15に対して、下層に磁化固定層15が設けられ、記憶層17の記憶情報(磁化方向)の基準とされる。
本実施の形態では、記憶層17、磁化固定層15としてはCo−Fe−Bを用いる。
なお、記憶層17は、Co−Fe−B磁性層に加え、非磁性層が含まれていてもよい。例えばTa、V、Nb、Cr、W、Mo、Ti、Zr、Hfなどである。
磁化固定層15は情報の基準であるので、記録や読み出しによって磁化の方向が変化してはいけないが、必ずしも特定の方向に固定されている必要はなく、記憶層17よりも保磁力を大きくするか、膜厚を厚くするか、あるいは磁気ダンピング定数を大きくして記憶層17よりも動きにくくすればよい。
中間層16は、例えば酸化マグネシウム(MgO)層とされる。この場合には、磁気抵抗変化率(MR比)を高くすることができる。
このようにMR比を高くすることによって、スピン注入の効率を向上して、記憶層17の磁化M17の向きを反転させるために必要な電流密度を低減することができる。
なお中間層16は、酸化マグネシウムから成る構成とする他にも、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、SiO2、Bi23、MgF2、CaF、SrTiO2、AlLaO3、Al−N−O等の各種の絶縁体、誘電体、半導体を用いて構成することもできる。
下地層14およびキャップ層18としては、Ta、Ti、W、Ru等各種金属およびTiN等の導電性窒化物を用いることができる。また、下地層14およびキャップ層18は単層で用いても良いし、異なる材料を複数積層しても良い。
次に図3Bは、実施の形態としてデュアル構造の層構造の例である。
記憶素子3は、下層側から順に、下地層14、下部磁化固定層15L、下部中間層16L、記憶層17、上部中間層16U、上部磁化固定層15U、キャップ層18が積層されている。
即ち記憶層17に対し、上下に中間層16U、16Lを介して磁化固定層15U、15Lが設けられる。
このようなデュアル構造においては磁化固定層15U、15Lの磁化方向が変化しない(上部磁化固定層15Uの磁化M15Uと下部磁化固定層15Lの磁化M15Lが逆向きになっている)ことが必須である。
以上の図3A、図3Bの実施の形態においては、特に、記憶層17が受ける実効的な反磁界の大きさが記憶層17の飽和磁化量Msよりも小さくなるように、記憶素子3の記憶層17の組成が調整されている。
即ち、記憶層17の強磁性材料Co−Fe−B組成を選定し、記憶層17が受ける実効的な反磁界の大きさを低くして、記憶層17の飽和磁化量Msよりも小さくなるようにする。
これらの実施の形態の記憶素子3は、下地層14からキャップ層18までを真空装置内で連続的に形成して、その後エッチング等の加工により記憶素子3のパターンを形成することにより、製造することができる。
ここで、図3Aの記憶素子3は、磁化固定層15が少なくとも2層の強磁性層とCrを含む非磁性層とを有する積層フェリピン構造とされている。
また図3Bの記憶素子3は、磁化固定層15U、15Lの一方、又は両方が、2層の強磁性層とCrを含む非磁性層とを有する積層フェリピン構造とされている。
図3Cは磁化固定層15の積層フェリピン構造を示している。この場合、磁化固定層15は、下側から強磁性層15c、非磁性層15b、強磁性層15aとされた例で、非磁性層15bは、Cr単層の例である。
また図3Dの例も、下側から強磁性層15c、非磁性層15b、強磁性層15aとされた構造であるが、非磁性層15bが、Ru層とCr層が積層されている例である。
いずれの場合も、中間層16に接する側の強磁性層15aは、例えばCo−Fe−B磁性層とされる。
なお、デュアル構造の場合で下部磁化固定層15Lが積層フェリピン構造とされる場合は、図3C、図3Dと同様となる。上部磁化固定層15Uが積層フェリピン構造とされる場合は、図3C、図3Dの上下が反対になると考えればよい。
この図3C、図3Dのように、磁化固定層15が、垂直磁化膜/非磁性層(Cr単層又はRu/Cr積層)/界面磁気異方性を起源とする垂直磁気異方性材料Co−Fe−Bとすることにより、積層フェリ結合強度が高く、熱安定性の非対称性の少ない記録素子3を構成することができる。
非磁性層15bにCrを用いることはカップリング強度を高め、また強磁性層15aの垂直磁化に有利となる。
但し、カップリング強度のみを考えれば、Ruが有利である。そこで非磁性層15bをRu/Cr積層とすることは、垂直磁化に有利で、かつカップリング強度にも有利となる。
以上の本実施の形態によれば、記憶素子3の記憶層17が垂直磁化膜であるため、記憶層17の磁化M17の向きを反転させるために必要となる、書き込み電流量を低減することができる。
特に磁化固定層15を、2層の強磁性層とCrを含む非磁性層とを有する積層フェリピン構造とすること、より具体的には、垂直磁化膜/非磁性層(Cr単層又はRu/Cr積層)/界面磁気異方性を起源とする垂直磁気異方性材料Co−Fe−B垂直磁化膜とすることにより、積層フェリ結合強度が高く、熱安定性の非対称性の少ない記録素子3を構成することが出来る。
このように、情報保持能力である熱安定性を充分に確保することができるため、特性バランスに優れた記憶素子3を構成することができる。
これにより、動作エラーをなくして、記憶素子3の動作マージンを充分に得ることができ、記憶素子3を安定して動作させることができる。
従って、安定して動作する、信頼性の高いメモリを実現することができる。
また、書き込み電流を低減して、記憶素子3に書き込みを行う際の消費電力を低減することが可能になる。
従って、本実施の形態の記憶素子3によりメモリセルを構成した、メモリ全体の消費電力を低減することが可能になる。
従って、情報保持特性が優れた、安定して動作する信頼性の高いメモリを実現することができ、記憶素子3を備えたメモリにおいて、消費電力を低減することができる。
また、図3で説明した記憶素子3を備え、図1に示した構成の記憶装置は、記憶装置を製造する際に、一般の半導体MOS形成プロセスを適用できるという利点を有している。従って、本実施の形態のメモリを、汎用メモリとして適用することが可能になる。
<4.実験>

ここで、図3に示した本実施の形態の記憶素子3の構成において、試料を作製し、その特性を調べた。
実際の記憶装置には、図1に示したように、記憶素子3以外にもスイッチング用の半導体回路等が存在するが、ここでは、磁化固定層15の磁化反転特性を調べる目的で、磁化固定層のみを形成したウェハにより検討を行った。
厚さ0.725mmのシリコン基板上に、厚さ300nmの熱酸化膜を形成し、その上に図3Aに示した構成の記憶素子3の試料1〜試料6を形成した。
図4に試料1〜試料6の材料及び膜厚を示す。なお試料1は比較例とし、試料2〜試料6が本実施の形態に該当する。
比較例を含む全ての試料1〜試料6は、以下の構造は同様とした。
・下地層14:膜厚10nmのTa膜と膜厚25nmのRu膜の積層膜。
・磁化固定層15:強磁性層15cとして膜厚2nmのCoPt、非磁性層15bは0.8nm、強磁性層15aとして膜厚2nmのCoFeBの積層フェリピン構造。
・中間層(トンネル絶縁層)16:膜厚0.9nmの酸化マグネシウム膜。
・記憶層17:膜厚1.5nmのCoFeB層。
・キャップ層18:膜厚3nmのTa、膜厚3nmのRu、膜厚3nm/Taの積層構造。
試料1〜試料6において、磁化固定層15における非磁性層15bは、それぞれ図4B〜Gに示すようにした。
試料1:膜厚0.8nmのRu単層
試料2:膜厚0.05nmのRuと膜厚0.75nmのCrの積層構造
試料3:膜厚0.6nmのRuと膜厚0.2nmのCrの積層構造
試料4:膜厚0.4nmのRuと膜厚0.4nmのCrの積層構造
試料5:膜厚0.2nmのRuと膜厚0.6nmのCrの積層構造
試料6:膜厚0.8のCr単層
各試料において、磁化固定層15(強磁性層15a)、記憶層17のCo−Fe−B合金の組成は、(Co30%−Fe70%)80%−B20%(いずれも原子%)とした。
酸化マグネシウム(MgO)膜から成る中間層16は、RFマグネトロンスパッタ法を用いて成膜し、その他の膜はDCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
比較例であるRu単層の試料1、及び実施の形態の試料2の磁気光学カー効果の測定結果を図5A、図5Bに示す。
比較例(試料1)の積層フェリ結合磁界Hcouplingは3kOeであった。一方、実施の形態(試料2)の積層フェリ結合磁界Hcouplingは3.5kOeであった。
ここで、積層フェリ結合磁界Hcouplingは図示のように、積層フェリ結合が崩れる磁界で定義している。
試料1〜試料6について、積層フェリ結合磁界Hcouplingを図6に示す。
図6より、非磁性層15bをRu単層とした比較例の試料1と比べて、Ruの一部をCrに置き換えていき、Cr単層になるにつれて、積層フェリ結合磁界Hcouplingが増加していることが分かる。
上記非特許文献4により、Ru,Rhを用いることで強固な積層フェリ結合が得られることが知られている。これにより、一般的に、磁化固定層の非磁性層にはRuが用いられており、純粋な積層フェリ結合強度のみで考えればRuは非常に優れた積層フェリ結合を示す材料といえる。
しかしながら、界面磁気異方性を起源とする垂直磁気異方性材料Co−Fe−Bをトンネルバリア(中間層16)下に配する磁化固定層15では、Co−Fe−Bに垂直磁気異方性を付与する観点でCrを挿入することが有効に働くと考えられる。
すなわち、Cr/Co−Fe−B/MgOトンネルバリアといった構成の方が、Ru/Co−Fe−B/MgOトンネルバリアといった構成よりもCo−Fe−Bにより大きな垂直磁気異方性を付与できる。
そして、CrはRuほどではないが、比較的、大きな積層フェリ結合磁界を示す材料であるため、結合強度、垂直磁気異方性付与のバランスから、結果として、積層フェリ磁界が大きくなるものと考えられる。
さらに、CrはFeと積層することでより大きな積層フェリ結合が得られる。このことから界面磁気異方性を起源とする垂直磁気異方性材料Co−Fe−Bにおいて、CoとFeの比としては、Fe比率が高い方がさらに望ましい。
<5.変形例>

以上実施の形態について説明してきたが、本開示の技術は、上述の実施の形態で示した記憶素子3の層構成に限らず、様々な層構成を採用することが可能である。
例えば実施の形態では、記憶層17と磁化固定層15のCo−Fe−Bの組成を同一のものとしたが、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
また、実施の形態では、磁化固定層15中の強磁性層15a(Co−Fe−B層)は単層であったが、結合磁界を著しく低下させない範囲で、元素や酸化物を添加することも可能である。
添加する元素の例としては、Ta、Hf、Nb、Zr、Cr、Ti、V、W、酸化物としてはMgO、Al−O、SiO2が挙げられる。
また、下地層14やキャップ層18は、単一材料でも複数材料の積層構造でも良い。
なお本開示の記憶素子3の構造は、TMR(Tunneling Magneto Resistance)素子等の磁気抵抗効果素子の構成となるが、このTMR素子としての磁気抵抗効果素子は、上述の記憶装置のみならず、磁気ヘッド及びこの磁気ヘッドを搭載したハードディスクドライブ、集積回路チップ、さらにはパーソナルコンピュータ、携帯端末、携帯電話、磁気センサ機器をはじめとする各種電子機器、電気機器等に適用することが可能である。
一例として図7A、図7Bに、上記記憶素子3の構造の磁気抵抗効果素子101を複合型磁気ヘッド100に適用した例を示す。なお、図7Aは、複合型磁気ヘッド100について、その内部構造が分かるように一部を切り欠いて示した斜視図であり、図7Bは複合型磁気ヘッド100の断面図である。
複合型磁気ヘッド100は、ハードディスク装置等に用いられる磁気ヘッドであり、基板122上に、本開示の技術を適用した磁気抵抗効果型磁気ヘッドが形成されてなるとともに、当該磁気抵抗効果型磁気ヘッド上にインダクティブ型磁気ヘッドが積層形成されてなる。ここで、磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、再生用ヘッドとして動作するものであり、インダクティブ型磁気ヘッドは、記録用ヘッドとして動作する。すなわち、この複合型磁気ヘッド100は、再生用ヘッドと記録用ヘッドを複合して構成されている。
複合型磁気ヘッド100に搭載されている磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、いわゆるシールド型MRヘッドであり、基板122上に絶縁層123を介して形成された第1の磁気シールド125と、第1の磁気シールド125上に絶縁層123を介して形成された磁気抵抗効果素子101と、磁気抵抗効果素子101上に絶縁層123を介して形成された第2の磁気シールド127とを備えている。絶縁層123は、Al23やSiO2等のような絶縁材料からなる。
第1の磁気シールド125は、磁気抵抗効果素子101の下層側を磁気的にシールドするためのものであり、Ni−Fe等のような軟磁性材からなる。この第1の磁気シールド125上に、絶縁層123を介して磁気抵抗効果素子101が形成されている。
磁気抵抗効果素子101は、この磁気抵抗効果型磁気ヘッドにおいて、磁気記録媒体からの磁気信号を検出する感磁素子として機能する。そして、この磁気抵抗効果素子101は、上述した記憶素子3と同様な膜構成とされる。
この磁気抵抗効果素子101は、略矩形状に形成されてなり、その一側面が磁気記録媒体対向面に露呈するようになされている。そして、この磁気抵抗効果素子101の両端にはバイアス層128,129が配されている。またバイアス層128,129と接続されている接続端子130,131が形成されている。接続端子130,131を介して磁気抵抗効果素子101にセンス電流が供給される。
さらにバイアス層128,129の上部には、絶縁層123を介して第2の磁気シールド層127が設けられている。
以上のような磁気抵抗効果型磁気ヘッドの上に積層形成されたインダクティブ型磁気ヘッドは、第2の磁気シールド127及び上層コア132によって構成される磁気コアと、当該磁気コアを巻回するように形成された薄膜コイル133とを備えている。
上層コア132は、第2の磁気シールド122と共に閉磁路を形成して、このインダクティブ型磁気ヘッドの磁気コアとなるものであり、Ni−Fe等のような軟磁性材からなる。ここで、第2の磁気シールド127及び上層コア132は、それらの前端部が磁気記録媒体対向面に露呈し、且つ、それらの後端部において第2の磁気シールド127及び上層コア132が互いに接するように形成されている。ここで、第2の磁気シールド127及び上層コア132の前端部は、磁気記録媒体対向面において、第2の磁気シールド127及び上層コア132が所定の間隙gをもって離間するように形成されている。
すなわち、この複合型磁気ヘッド100において、第2の磁気シールド127は、磁気抵抗効果素子126の上層側を磁気的にシールドするだけでなく、インダクティブ型磁気ヘッドの磁気コアも兼ねており、第2の磁気シールド127と上層コア132によってインダクティブ型磁気ヘッドの磁気コアが構成されている。そして間隙gが、インダクティブ型磁気ヘッドの記録用磁気ギャップとなる。
また、第2の磁気シールド127上には、絶縁層123に埋設された薄膜コイル133が形成されている。ここで、薄膜コイル133は、第2の磁気シールド127及び上層コア132からなる磁気コアを巻回するように形成されている。図示していないが、この薄膜コイル133の両端部は、外部に露呈するようになされ、薄膜コイル133の両端に形成された端子が、このインダクティブ型磁気ヘッドの外部接続用端子となる。すなわち、磁気記録媒体への磁気信号の記録時には、これらの外部接続用端子から薄膜コイル32に記録電流が供給されることとなる。
以上のような複合型磁気ヘッド21は、再生用ヘッドとして磁気抵抗効果型磁気ヘッドを搭載しているが、当該磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、磁気記録媒体からの磁気信号を検出する感磁素子として、本開示の技術を適用した磁気抵抗効果素子101を備えている。そして、本開示の技術を適用した磁気抵抗効果素子101は、上述したように非常に優れた特性を示すので、この磁気抵抗効果型磁気ヘッドは、磁気記録の更なる高記録密度化に対応することができる。
なお本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される記憶層と、
上記記憶層に記憶された情報の基準となる、膜面に垂直な磁化を有する磁化固定層と、
上記記憶層と上記磁化固定層の間に設けられる非磁性体による中間層と、
を有する層構造を備え、
上記層構造の積層方向に電流を流すことで上記記憶層の磁化の向きが変化して、上記記憶層に対して情報の記録が行われるとともに、
上記磁化固定層が少なくとも2層の強磁性層と非磁性層とを有する積層フェリピン構造とされ、上記非磁性層はCrを含む記憶素子。
(2)上記磁化固定層において上記中間層と接する上記強磁性層は、磁性材料としてCo−Fe−Bが用いられている上記(1)に記載の記憶素子。
(3)上記磁化固定層における上記非磁性層は、Crの単層である上記(1)又は(2)に記載の記憶素子。
(4)上記磁化固定層における上記非磁性層は、Ru層とCr層が積層されている上記(1)又は(2)に記載の記憶素子。
3 記憶素子、14 下地層、15 磁化固定層、15U 上部磁化固定層、15L 下部磁化固定層、15a,15c 強磁性層、15b 非磁性層、16 中間層、16U 上部中間層、16L 下部中間層、17 記憶層、18 キャップ層

Claims (5)

  1. 膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される記憶層と、
    上記記憶層に記憶された情報の基準となる、膜面に垂直な磁化を有する磁化固定層と、
    上記記憶層と上記磁化固定層の間に設けられる非磁性体による中間層と、
    を有する層構造を備え、
    上記層構造の積層方向に電流を流すことで上記記憶層の磁化の向きが変化して、上記記憶層に対して情報の記録が行われるとともに、
    上記磁化固定層が少なくとも2層の強磁性層と非磁性層とを有する積層フェリピン構造とされ、上記非磁性層はCrを含む記憶素子。
  2. 上記磁化固定層において上記中間層と接する上記強磁性層は、磁性材料としてCo−Fe−Bが用いられている請求項1に記載の記憶素子。
  3. 上記磁化固定層における上記非磁性層は、Crの単層である請求項1に記載の記憶素子。
  4. 上記磁化固定層における上記非磁性層は、Ru層とCr層が積層されている請求項1に記載の記憶素子。
  5. 情報を磁性体の磁化状態により保持する記憶素子と、
    互いに交差する2種類の配線とを備え、
    上記記憶素子は、
    膜面に垂直な磁化を有し、情報に対応して磁化の向きが変化される記憶層と、
    上記記憶層に記憶された情報の基準となる、膜面に垂直な磁化を有する磁化固定層と、
    上記記憶層と上記磁化固定層の間に設けられる非磁性体による中間層と、
    を有する層構造を備え、
    上記層構造の積層方向に電流を流すことで上記記憶層の磁化の向きが変化して、上記記憶層に対して情報の記録が行われるとともに、
    上記磁化固定層が少なくとも2層の強磁性層と非磁性層とを有する積層フェリピン構造とされ、上記非磁性層はCrを含む構成とされ、
    上記2種類の配線の間に上記記憶素子が配置され、
    上記2種類の配線を通じて、上記記憶素子に上記積層方向の電流が流れる記憶装置。
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