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JP2013190712A - 光学レンズの製造方法 - Google Patents

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JP2013190712A JP2012058130A JP2012058130A JP2013190712A JP 2013190712 A JP2013190712 A JP 2013190712A JP 2012058130 A JP2012058130 A JP 2012058130A JP 2012058130 A JP2012058130 A JP 2012058130A JP 2013190712 A JP2013190712 A JP 2013190712A
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Akira Shimada
明 島田
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Abstract

【課題】厚膜でありながらも膜厚分布が均等なハードコート膜をレンズ基材上に形成することが可能な光学レンズの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】塗布液中にレンズ基材を浸漬する浸漬工程(S21)と、塗布液からレンズ基材が露出を開始してから完全に露出するまでの間に、引き上げ速度を減速する期間を設けて当該塗布液中から当該レンズ基材を引き上げる引き上げ工程(S22)と、レンズ基材の表面に塗布された塗布液を硬化処理してハードコート膜を形成する硬化処理工程(S24)と、ハードコート膜が所定膜厚となるまで、浸漬工程(S21)〜硬化処理工程(S24,S24’)を複数回繰り返すことを判断する判断工程(S23)とを備えた光学レンズの製造方法である。
【選択図】図1

Description

本発明は、光学レンズの製造方法に関し、特にはディッピング法によって厚膜化したハードコート膜の形成が可能な光学レンズの製造方法に関する。
眼鏡のユーザーにとって、レンズ表面にキズが入るリスクは常に付いて回る問題である。レンズへのキズは何らかの物体の衝突や摩擦によって生じるものが多数であり、それを防ぐ目的で、多くの眼鏡レンズには有機のハードコート膜と無機の反射防止膜が施されている。このうちハードコート膜は、レンズ基材よりも硬い膜であり、キズを防止する作用を持つほか、その上の反射防止膜との密着性を持たせる中間層としての作用も担っている。また、反射防止膜は、ハードコート膜よりもさらに硬度の高い無機の多層膜が用いられることが多く、反射光の映り込みを防ぐ従来の作用に加えて、キズを防止する作用が付加されるようになってきた。
ところで、レンズ基材上にハードコート膜を形成する際には、ディッピング法、スピン法、スプレー法といった塗布方法が一般的に用いられている。ディッピング法は、ハードコート液にプラスチックレンズを浸漬させたのちに引き上げていく手法である。スピン法はハードコート液をプラスチックレンズ上に滴下しつつ、プラスチックレンズを回転させることにより、ハードコート膜を均一に塗り広げる手法である。スプレー法は、スプレーノズルからハードコート液をプラスチックレンズに噴射して塗布する手法である。
このうち特にディッピング法は、最も簡便な方法であり、引き上げ速度を10〜1000mm/minの範囲で調整することにより、均一性の良好なハードコート膜が形成されるとしている(下記特許文献1参照)。
特開2000−189884号公報(例えば段落0035参照)
しかしながら、以上のようなディッピング法によって形成されるハードコート膜の膜厚は、2〜3μm程度でしかなく、さらに膜厚の大きいハードコート膜を形成することが困難であった。これに対して、スピン法では数μm〜数10μm、スプレー法では数10μm〜数100μmの膜厚のハードコート膜を形成することが可能ではあるが、膜厚分布の管理が難しいという問題があった。
そこで本発明は、厚膜でありながらも膜厚分布が均等なハードコート膜をレンズ基材上に形成することが可能な光学レンズの製造方法を提供することを目的とする。
このような目的を達成するための本発明は、塗布液中にレンズ基材を浸漬する浸漬工程と、この塗布液から前記レンズ基材が露出を開始してから完全に露出するまでの間に、引き上げ速度を減速する期間を設けて当該塗布液中から当該レンズ基材を引き上げる引き上げ工程と、レンズ基材の表面に塗布された塗布液を硬化処理してハードコート膜を形成する硬化処理工程と、ハードコート膜が所定膜厚となるまで、以上の浸漬工程〜引き上げ工程〜硬化処理工程を複数回繰り返すことを判断する判断工程とを備えて光学レンズの製造方法である。
このような製造方法によれば、塗布液からレンズ基材を引き上げる際に、引き上げ速度を減速させる期間を設けた引き上げ工程を行うことにより、後の実施例で説明するように、ハードコート膜の膜厚のレンズ面内における均一性が確保されることがわかった。そして、塗布液の硬化処理工程を挟んで、このような引き上げを繰り返し行うことで、面内均一性の高いハードコート膜が重ね塗りされ、膜厚の均一性の高いハードコート膜を厚膜化することが可能になる。
以上のような浸漬工程〜硬化処理工程は、レンズ基材のレンズ面を略垂直に保持した状態で行われる。
また繰り返し行われる引き上げ工程では、レンズ基材の周縁に設定した同一の一端部を上端として当該レンズ基材を引き上げる。これにより、レンズ基材を保持する保持具からの液だれが防止され、レンズ基材の周縁にまでわたる全面において、膜厚の均一なハードコート膜が得られる。
さらに、各引き上げ工程では、塗布液からレンズ基材が露出を開始した直後、および当該レンズ基材が露出を終了する直前の少なくとも一方において、当該レンズ基材の引き上げ速度を一定にする。これにより、後の実施例で説明するように、ハードコート膜の膜厚のレンズ面内における面内均一性を高めることができる。
また判断工程は、引き上げ工程と硬化処理工程との間に行われ、この判断工程においてハードコート膜が所定膜厚となったと判断された後の硬化処理工程では、塗布液を完全に硬化させるために前回までとは異なる条件での硬化処理を行う。
以上説明したように本発明の光学レンズの製造方法によれば、厚膜でありながらも膜厚分布が均等なハードコート膜をレンズ基材上に形成することが可能となる。
本発明に係る光学レンズの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。 本発明に係る光学レンズの製造方法の一実施形態を説明するための模式図(その1)である。 本発明に係る光学レンズの製造方法の一実施形態を説明するための模式図(その2)である。 レンズ基材の引き上げ速度の例を示すグラフである。 実施形態で作製される光学レンズの断面模式図である。
以下、本発明に係る光学レンズの製造方法の一実施形態を、図面に基づいて説明する。尚、本実施形態においては、本発明をレンズ基材上にハードコート膜を形成する手順に適用した構成を説明するが、本発明の適用がこれに限定されることはなく、レンズ基材上に各種の光学膜(例えばハードコート膜)をある程度に厚膜化して形成する場合に広く適用可能である。
図1は、本発明に係る光学レンズの製造方法の一実施形態を示すフローチャートであり、図2、図3は本発明に係る光学レンズの製造方法の一実施形態を説明するための模式図である。先ず、図1のフローチャートに沿って、図2、図3を参照しつつ、実施形態の光学レンズの製造方法を説明する。
≪プライマー層の形成(S1)≫
先ずレンズ基材の表面にプライマー層を形成する(S1)。ここではレンズ基材として、以下に示すプラスチック材料で構成されたプラスチックレンズを用いる。このようなレンズ基材上に設けるプライマー層は、レンズ基材における耐衝撃性を確保すると共に、次にレンズ基材上に設けるハードコート膜とレンズ基材との間の密着性を確保するためのものである。またプライマー層は、レンズ基材を比較的高屈折率材料より構成する場合は、光学特性に影響を及ぼさない材料で構成されれば良い。
このようなプライマー層の形成方法としては、ディッピング法やスピンコート法、スプレー法等により塗布した後、加熱や光線照射等により硬化して形成することができる。
[レンズ基材]
レンズ基材を構成するプラスチック材料としては、以下の材料を用いることができる。例えばメチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリチオウレタン、スルフィド結合を有するモノマーの単独重合体、スルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体、ポリジスルフィドと一種以上の他のモノマーとをモノマー成分とする共重合体等である。また、レンズ基材の材料として、屈折率が1.6以上程度の比較的高屈折率な材料を用いても良い。
尚、このようなプライマー層形成工程は、必要に応じて行えば良く、必要ない場合には省略しても良い。
≪ハードコート膜の形成(S2)≫
次にレンズ基材の表面に、プライマー層を介してハードコート膜を形成する(S2)。ハードコート膜の形成は、通常、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法等の塗布法が適用されるが、ここではディッピング法によるハードコート膜の形成を行い、次の手順でハードコート膜を形成する。
<浸漬工程(S21)>
まず、塗布液中にレンズ基材を浸漬する浸漬工程(S21)を行う。ここで用いる塗布液は、以降で詳細に説明するように、ハードコート膜を形成するための形成材料を含むハードコート液である。ここでは図2に示すように、この塗布液L中に、レンズ基材1の全体を完全に浸漬し、レンズ基材1の全体が塗布液Lの液面PLよりも下となるようにする。この際、塗布液L中のレンズ基材1は、例えば液面PLに対してレンズ面1aが略垂直となるように保持されていることとする。
以上のようなレンズ基材1の保持は、レンズ基材1をその外周部分で挟持する保持部材3によって行われる。この保持部材3は、例えばレンズ基材1の外周の3箇所に、ほぼ均等な間隔を設けて配置され、この3箇所においてレンズ基材1を保持している。ここでの図示は省略したが、これらの保持部材3は、塗布液Lの液面に対して保持部材3を上下動可能なアームに固定され、このアームの上下動によって保持部材3に保持されたレンズ基材1の塗布液Lへの浸漬と引き上げが自在に行われる構成となっている。
またレンズ基材1は、このような保持部材3への固定により、レンズ基材1の周縁の一端部が上端P1となり、反対側の一端部が下端P2となるように保持される。そして、レンズ基材1の下端P2付近が1つの保持部材3で保持され、このレンズ基材1の両側が2つの保持部材3で保持された状態となっている。レンズ基材1の両側を保持する保持部材3は、レンズ基材1の中央に設定されたレンズ領域Aを外した位置、すなわちレンズ領域Aを垂直方向に延設した領域の外側において、レンズ基材1を保持していることとする。これにより、保持部材3からの液だれの影響がレンズ領域Aに及ばない構成となっている。
[塗布液]
塗布液L(すなわちハードコート液)は、有機ケイ素化合物、いわゆるシランカップリング材や有機エポキシ材といった有機高分子を主剤とし、さらにレンズ基材1との屈折率を合わせる目的で、酸化スズやジルコニアなどの金属酸化物を含有している。このような塗布液Lは、例えば酸化スズゾルあるいはジルコニアゾルに、有機ケイ素化合物を1種以上と、さらに他の金属酸化物や触媒を含む。
例えば塗布液(ハードコート液)として酸化スズゾルを用いた場合、この塗布液には、さらに他の金属酸化物、有機ケイ素化合物、さらにはレンズ基材上に塗布した塗布液の硬化反応を促進するための硬化触媒、レンズ基材への塗布時の濡れ性を向上させ平滑性を向上させるための有機溶剤や界面活性剤(レベリング剤)を含有させることもできる。さらに、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等もハードコート膜の物性に影響を与えない限り添加することができる。このような塗布液Lに含有させる各材料は、以下の通りである。
[金属酸化物]
金属酸化物としては、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、シリコン(Si)、セリウム(Ce)、鉄(Fe)、インジウム(In)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)等の金属のうちの1種以上の酸化物、複合酸化物が挙げられる。
これらの金属酸化物は、溶媒に分散させた状態で、塗布液に対して添加されていることとする。金属酸化物を分散させる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等公知の原料を用いることができる。
[有機ケイ素化合物]
有機ケイ素化合物としては、アミノ系、イソシアネート系、エポキシ系、アクリル系、ビニル系、メタクリル系、スチリル系、ウレイド系、メルカプト系のシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を用いる場合に好適である。例えば、下記一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物、および下記一般式(2)で表わされる有機ケイ素化合物及びそれらの加水分解物の中から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
(RSi(OR4-n・・・一般式(1)
一般式(1)において、Rは官能基(アミノ基・イソシアネート基・エポキシ基・アクリル基・ビニル基・メタクリル基・スチリル基・ウレイド基・メルカプト基)を有する1価の炭素数3〜20の炭化水素基であり、例えばγ−アミノプロピル基、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、N−フェニル−γ−アミノプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基、γ−グリシドキシプロピル基、β−エポキシシクロヘキシルエチル基、γ−アクリロキシプロピル基、ビニル基、γ−メタクリロキシプロピル基、p−スチリル基、γ−ウレイドプロピル基、γ−メルカプトプロピル基などが挙げられる。
また一般式(1)においてRは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、又は炭素数2〜10のアシル基である。前記Rの炭素数1〜8のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基などが挙げられ、アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられ、アシル基としては、例えばアセチル基などが挙げられる。
一般式(1)において、nは1又は2の整数を示し、Rが複数ある場合には複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
一般式(1)で表わされる有機ケイ素化合物の具体例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルジメトキシメチルシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルジエトキシメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルジメトキシメチルシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルトリエトキシシラン、β−エポキシシクロヘキシルエチルジエトキシメチルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジエトキシメチルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジエトキシメチルシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルジメトキシメチルシラン、p−スチリルトリエトキシシラン、p−スチリルジエトキシメチルシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルジメトキシメチルシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。
Figure 2013190712
上記一般式(2)において、R及びRは、それぞれ炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数2〜4のアシル基であり、同一でも異なっていてもよく、R及びRは、それぞれ官能基を有するもしくは有しない炭素数1〜5の1価の炭化水素基であり、同一でも異なっていてもよい。
及びRのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などが挙げられ、炭素数2〜4のアシル基としては、例えばアセチル基などが挙げられる。
及びRの炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜5のアルキル基及び炭素数2〜5のアルケニル基などが挙げられる。これらは直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などが挙げられ、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基などが挙げられる。
前記炭化水素基の官能基としては、例えば、ハロゲン原子、グリシドキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、(メタ)アクリロイルオキシ基などが挙げられる。
上記一般式(2)において、Yは炭素数2〜20の2価の炭化水素基であり、炭素数2〜10のアルキレン基及びアルキリデン基が好ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、エチリデン基、プロピリデン基などが挙げられる。一般式(2)において、a及びbは、それぞれ0又は1の整数を示し、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよいし、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
上記一般式(2)で表わされる有機ケイ素化合物の具体例としては、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリエトキシシリル)オクタンなどが挙げられ、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)エタンが好ましい。
以上の材料のうち、本実施形態における光学レンズの製造方法のハードコート液に用いる有機ケイ素化合物としては、エポキシ系、アクリル系、ビニル系、メタクリル系のシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上含むことが望ましい。また他の有機ケイ素化合物として、アミノ系、イソシアネート系のシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上含むことが望ましい。
これらの化合物の中でも、下記一般式(3)で表わされるアミノ基を有する有機ケイ素化合物及びそれらの加水分解物の中から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
(R)nSi(OR4-n・・・一般式(3)
上記一般式(3)において、Rはアミノ基を有する1価の炭素数1〜20の炭化水素基であり、例えば、γ−アミノプロピル基、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピル基、N−フェニル−γ−アミノプロピル基などが挙げられる。一般式(3)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、又は炭素数2〜10のアシル基であり、これら各基の例としては、前記Rと同様の例が挙げられる。また一般式(3)において、nは1又は2の整数を示し、Rが複数ある場合には複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、複数のORはたがいに同一でも異なっていてもよい。
上記一般式(3)で表わされる有機ケイ素化合物の具体例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ―アミノプロピルジエトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルジエトキシメチルシランなどのアミノ系のシランカップリング剤が挙げられる。
これらの中でも、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、γ−アミノプロピルジエトキシメチルシランが好ましく、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシランがさらに好ましい。
また、下記一般式(4)で表わされるイソシアネート基を有する有機ケイ素化合物及びそれらの加水分解物の中から選ばれる少なくとも1種以上を用いることが望ましい。
(RSi(OR104-n・・・一般式(4)
上記一般式(4)において、Rはイソシアネート基を有する1価の炭素数1〜20の炭化水素基であり、例えば、イソシアネートメチル基、α−イソシアネートエチル基、β−イソシアネートエチル基、α−イソシアネートプロピル基、β−イソシアネートプロピル基、γ−イソシアネートプロピル基などが挙げられる。
上記一般式(4)において、R10は炭素数1〜8のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、又は炭素数2〜10のアシル基であり、これら各基の例としては、前記Rと同様の例が挙げられる。
また一般式(4)において、nは1又は2の整数を示し、Rが複数ある場合には複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよく、複数のOR10はたがいに同一でも異なっていてもよい。
上記一般式(4)で表わされる化合物の例としては、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルジエトキシメチルシランなどのイソシアネート系シランカップリング剤が挙げられ、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリアルコキシシランが好ましい。
以上のような有機ケイ素化合物は、溶媒に分散もしくは溶解させた状態で、塗布液に対して添加されていることとする。このような溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ダイアセトンアルコール、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等を用いることが望ましい。
[硬化触媒]
硬化触媒としては、特に限定されないが、アリルアミン、エチルアミンなどのアミン類、またルイス酸やルイス塩基を含む各種酸や塩基、例えば有機カルボン酸、クロム酸、次亜塩素酸、ホウ酸、過塩素酸、臭素酸、亜セレン酸、チオ硫酸、オルトケイ酸、チオシアン酸、亜硝酸、アルミン酸、炭酸などを有する塩又は金属塩、さらにジルコニウム、チタニウムを有する金属アルコキシド又はこれらの金属キレート化合物などが挙げられる。
<引き上げ工程(S22)>
次に、塗布液L中からレンズ基材1を引き上げる引き上げ工程(S22)を行う。ここでは、塗布液Lからレンズ基材1が露出を開始してから完全に露出するまでの間に、レンズ基材1の引き上げ速度を減速する期間を設けるところが特徴的である。
つまり図3に示すように、この引き上げ工程(S22)では、レンズ基材1のレンズ面1aを、塗布液Lの液面PLに対して略垂直に保った状態で、この塗布液L中からレンズ基材1を引き上げる。この際、レンズ基材1の上端P1が塗布液Lの液面PLに達した時点から、レンズ基材1の下端P2が塗布液Lの液面PLに達するまでを、引き上げ期間とすると、この引き上げ期間中に、レンズ基材1を塗布液Lから引き上げる速度を減速する減速期間を設けるのである。このような減速期間は、少なくとも引き上げ期間における中間部に設けられる。
また引き上げ期間のうち、上述した減速期間以外の期間では、一定速度での引き上げを行う定速期間とする。この定速期間は、引き上げ期間中において、塗布液Lからレンズ基材1が露出を開始した直後、およびレンズ基材1が露出を終了する直前の少なくとも一方に設けられる。
図4には、一例として、直径75mmのレンズ基材1を用いた場合においての、引き上げ期間中におけるレンズ基材1の上端P1から液面PLまでの距離(レンズ上端からの距離)と、引き上げ速度との関係のグラフを示す。このグラフには、上述した引き上げ期間中(レンズ上端からの距離0mm〜75mm)の引き上げ速度の条件を、2例示した。
ここで示すように、引き上げ期間中における引き上げ速度は、引き上げ速度条件1のように、引き上げ期間中において、前半を引き上げ速度を一定とした定速期間とし、中盤を引き上げ速度を減速させた減速期間とし、後半を引き上げ速度を一定とした定速期間としても良い。また、引き上げ速度条件2のように、引き上げ期間中において、前半を引き上げ速度を減速させた減速期間とし、後半を引き上げ速度を一定とした定速期間としても良い。また、ここでの図示は省略したが、さらに別の引き上げ速度条件として、引き上げ期間中において、前半を引き上げ速度を一定とした定速期間とし、後半を引き上げ速度を減速させた減速期間としても良い。
尚、以降に説明するように、上述した引き上げ工程(S22)は、複数回繰り返し行われるが、各引き上げ工程(S22)では、毎回、レンズ基材1を同一の上端Pから引き上げるようにする。このため、引き上げ工程(S22)の繰り返しにおいては、レンズ基材1をレンズ面1a内で回転させたり上下反転させることはない。つまり、塗布液Lからレンズ基材1を引き上げる際に、レンズ基材1において最も早く液面PLに達する部分は、保持部材3に保持させた状態においてのレンズ基材1の上端P1であり、引き上げ工程(S22)の繰り返しにおいて、上端P1がレンズ基材1の周縁で移動することはない。同様に、塗布液Lからレンズ基材1を引き上げる際に、レンズ基材1において最も遅く液面PLに達する部分は、保持部材3に保持させた状態においてのレンズ基材1の下端P2であり、引き上げ工程(S22)の繰り返しにおいて、上端P1がレンズ基材1の周縁で移動することはない。
尚、この引き上げ工程(S22)では、レンズ面1aに塗布された塗布液が、レンズ基材1の下端P2近くを保持する保持部材3から流れ落ち、余分な塗布液が除去される構成となっている。
<判断工程(S23)>
次に、先の引き上げ工程(S22)を行った回数が、規定のn回に達したか否かを判断する判断工程(S23)を行う。この判断工程では、引き上げ工程(S22)の繰り返し回数により、この引き上げ工程(S22)を経て形成される光学膜、すなわちハードコート膜が、所定の膜厚となったか否かを間接的に判断する。このため、1回の引き上げ工程(S22)を経て形成されるハードコート膜の膜厚を予め調べておき、形成したいハードコート膜の合計膜厚を所定膜厚とし、この所定膜厚に達するまでの繰り返し回数(n回)を規定の回数として得ておく。尚、この繰り返し回数(n回)は、浸漬法によるハードコート膜の成膜回数でもある。
例えば、1回の引き上げ工程(S22)を経て形成されるハードコート膜が2μmであって、合計膜厚20μmのハードコート膜を形成したい場合であれば、繰り返し回数n=10回とすればよい。
以上のような判断工程(S23)において、n回に達していない(No)と判断された場合には、第1の加工処理工程(S24)に進む。一方、n回に達している(Yes)と判断された場合には、第2の加工処理工程(S24’)に進む。
<第1の硬化処理工程(S24)>
第1の硬化処理工程(S24)では、先の引き上げ工程(S22)によってレンズ基材1の表面に塗布された塗布液Lを硬化処理することにより、光学膜としてハードコート膜を形成する。この硬化処理は、ハードコート膜の主剤として用いられている樹脂によって適切な処理を行えば良い。例えば熱硬化性樹脂を用いた場合であれば、加熱による硬化処理を行い、光硬化性樹脂を用いた場合であれば、光照射と必要に応じて加熱を加えた硬化処理を行えば良い。ただし、本第1の硬化処理工程(S24)では、塗布液Lを完全に硬化させず、次の浸漬工程(S21)の際に、ハードコート液によって溶解しない程度の硬化を行うこととする。
また第1の硬化処理工程(S24)中においては、前の引き上げ工程(S22)と同様に、塗布液Lの液面PLに対してレンズ面1aが略垂直となるように保持する。この際、前の引き上げ工程(S22)においてレンズ基材1の上端P1と下端P2とが、レンズ基材1の周縁で移動することはなく、上下関係は維持される。
以上のような浸漬工程(S21)〜引き上げ工程(S22)〜第1の硬化処理工程(S24)により、ディッピング法(浸漬法)による第1層目のハードコート膜の形成が行われる。
このような第1の硬化処理工程(S24)の後には、先に説明した浸漬工程(S21)に戻る。そして、上述した判断工程(S23)において、繰り返し回数nに達した(Yes)と判断されるまで、第1の硬化処理工程(S24)〜浸漬工程(S21)〜引き上げ工程(S22)を繰り返し行う。これにより、複数層のハードコート膜の形成を行う。
<第2の硬化処理工程(S24’)>
上述した判断工程(S23)において、繰り返し回数nに達した(Yes)と判断された場合の第2の硬化処理工程(S24’)では、第1の硬化処理工程(S24)とは異なる処理条件での硬化処理を行う。ここでは、先の引き上げ工程(S22)によってレンズ基材1の表面に塗布された塗布液Lを硬化処理すると共に、既に形成されている下層のハードコート膜を含む全てのハードコート膜を完全に硬化させる条件での硬化処理を行う。
このため、本第2の硬化処理工程(S24’)では、例えばハードコート膜の主剤として用いられている樹脂が熱硬化性樹脂である場合、第1の硬化処理(S24)よりも高温・長時間の少なくとも一方の処理条件での加熱処理を行う。また、光硬化性樹脂であれば、第1の硬化処理(S24)よりも、光照射量を増やしたり、必要に応じて行う加熱を高温にしたり、処理時間を長時間とした硬化処理を行えば良い。
このような第2の硬化処理工程(S24’)の一例として、例えば2段階での硬化処理が行なわれる。
第1段階では、前の引き上げ工程(S22)と同様に、塗布液Lの液面PLに対してレンズ面1aが略垂直となるように保持し、レンズ基材1の上端P1と下端P2との上下関係を維持する。つまり、浸漬工程(S21)〜第2の硬化処理(S24’)の第1段階までの間、レンズ基材1は上下反転されることはなく、1回目の浸漬工程(S21)で設定された上端P1と下端P2との上下関係が維持されるのである。この第1段階においては、流動性がなくなる程度に塗布液Lを硬化させれば良く、第1硬化処理工程(S24)と同程度の処理条件での硬化処理を行えば良い。
その後の第2段階では、最後に塗布された塗布液Lと共に、既に形成されている下層のハードコート膜を含む全てのハードコート膜を完全に硬化させるために、光照射量を増やしたり加熱温度を高温にして、追加の硬化処理を行う。この際、レンズ基材1のレンズ面1aを垂直に維持する必要はなく、レンズ基材1を保持部材3から取り外して平置きしても良い。
以上により、複数回の引き上げ工程を繰り返すディッピング法(浸漬法)によって、厚膜化されたハードコート膜(光学膜)を形成する。
≪反射防止膜の形成S3≫
次に、ハードコート膜の上に反射防止膜を形成する(S3)。ここで形成する反射防止膜は、無機材料、有機材料いずれであっても良い。レンズ基材1を高屈折率材料とする場合はその光学特性に影響を及ぼさない材料であればよい。
このような反射防止膜の形成方法は、無機材料を用いる場合であれば真空蒸着法等によって形成し、有機材料を用いる場合であればディッピング法、スピンコーティング法等により塗布した後、加熱や光線照射等によって硬化して形成することができる。
以上のようにして、図5に示すように、レンズ基材1上に、プライマー層11、ハードコート膜13、および反射防止膜15をこの順に設けた光学レンズ17が得られる。
≪実施形態の製造方法の効果≫
以上のような製造方法によれば、浸漬法を適用したハードコート膜13の形成(S2)において、レンズ基材1を塗布液Lから引き上げる引き上げ工程(S22)を行う際、引き上げ期間中に引き上げ速度を減速させる期間を設けたことにより、後の実施例で説明するように、レンズ面1a内で均一な膜厚のハードコート膜13が得られることがわかった。そして、第1の硬化処理工程(S24)を挟んで、このような引き上げ工程(S22)を繰り返し行うことで、面内均一性の高いハードコート膜13が重ね塗りされ、膜厚の均一性の高いハードコート膜13を厚膜化することが可能になる。
これにより、厚膜でありながらも膜厚分布が均等なハードコート膜13をレンズ基材1上に形成することが可能となる。この結果、膜厚の大きなハードコート膜13によって、光学レンズ17の耐擦傷性能の向上を図ることが可能になる。しかも、このハードコート膜13は、膜厚が大きいにもかかわらず、膜厚の面内均一性が良好であるため、干渉縞を発生させることもない。
また繰り返し行われる引き上げ工程(S22)では、レンズ基材1の周縁に設定した同一の一端部を上端P1として塗布液Lからレンズ基材1を引き上げる。これにより、レンズ基材1を保持する保持部材3からの液だれが防止され、レンズ基材1の周縁にまでわたる全面において、膜厚の均一なハードコート膜13が得られる。また、繰り返しの工程において、レンズ基材1を上下反転させるプロセスを含まないため、保持部材3での保持による不均一化や発塵も回避することができる。
さらに、各引き上げ工程(S22)では、塗布液Lからレンズ基材1が露出を開始した直後(引き上げ期間の前半)、およびレンズ基材1が露出を終了する直前(引き上げ期間の後半)の少なくとも一方において、レンズ基材の引き上げ速度を一定とした定速期間を設けた場合、後の実施例で説明するように、ハードコート膜13の膜厚の面内均一性を高めることができる。
また引き上げ工程(S22)が所定の回数n回行われた、つまりハードコート膜13が所定の膜厚となったと判断された後の第2の硬化処理工程(S24’)では、塗布液を完全に硬化させるために第1の処理工程(S24)とは異なる条件での硬化処理を行うようにしている。これにより、第1の硬化処理工程(S24)では、ハードコート膜を完全に硬化させず、第2の硬化処理工程(S24’)において、それ以前に繰り返しで塗布された全層のハードコート膜13間での架橋反応が進み、繰り返しの塗布層間での境目のないハードコート膜13を形成することができる。
尚、上述した実施形態においては、レンズ基材1上にハードコート膜13を形成する場合に本発明を適用した手順を説明した。しかしながら、本発明は、ハードコート膜13の形成への適用に限定されることはなく、ディッピング法による成膜が可能な光学膜の形成に広く適用可能である。例えば、反射防止膜15を有機材料によって形成する場合にも適用可能である。この場合、屈折率の異なる材料を含む複数種類の塗布液を用意し、1回の浸漬工程〜硬化処理工程毎に塗布液を交換し、各硬化処理工程において塗布液を完全に硬化させ、所定回数の繰り返しを行ったところで処理を終了すれば良い。これにより、レンズ面内において膜厚の均一性が確保された反射防止膜15をディッピング法によって形成することができる。
≪ハードコート液(塗布液)の作製≫
冷蔵庫中の温度条件5℃の雰囲気下において、第1の容器内に、金属酸化物を含む材料として粒子状の酸化スズ(SnO)を含む材料を投入した。この材料としては、日産化学工業株式会社製の商品名HIS−30MHを、メタノールに30重量%分散させたゾル状の材料(酸化スズゾル)を用いた。
この第1の容器内の酸化スズゾル中に、有機ケイ素化合物を添加した。有機ケイ素化合物として、γ-GPS(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名KBM403)を添加して撹拌を開始し、撹拌を続けた。さらに第1の容器に10-3規定の塩酸を滴下し、5℃の冷蔵庫内で撹拌を続けた。
次に、レベリング溶液を作製した。この際、冷蔵庫中の温度条件5℃の雰囲気下で、第2の容器内において、レベリング剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名Y7006)を溶剤(メトキシプロパノールプロピレングリコールモノメチルエーテル:PGM)で希釈、撹拌してレベリング溶液とし、5℃の冷蔵庫内で保存した。
第1の容器内の酸化スズゾルを2日間撹拌したところで、この第1の容器内にPGMを続けて投入し、さらに1日間撹拌を続けた。この後、第1の容器内に、第2の容器内のレベリング溶液を投入し、その後硬化剤(アルミニウムアセチルアセトネート、株式会社同仁化学研究所製、商品名ドータイトAl-AA)を入れてさらに撹拌を続けた。以上の材料を、適切な時間(例えば3〜14日間、本例では8日間)かけて徐々に加水分解し、塗布液としてハードコート液を作製した。
以上のようにして作製したハードコート液における各材料の混合比率(重量%)は、以下のようである。
酸化スズゾル:45.54%、γ-GPS:15.0%、塩酸(10-3規定):2.4%、水:3.45%、レベリング剤:0.06%、PGM:33.3%、硬化剤:0.25%。
<作製したハードコート液の評価>
このハードコート液の液評価を行った結果、比重は1.1、粘度は3.0mPa・s、屈折率は1.59であった。
≪ハードコート膜の形成≫
以上のようにして作製したハードコート液を用い、繰り返し回数n=1回の浸漬法によりハードコート膜を形成した。ここでは、レンズ基材としてプラスチックレンズ(HOYA株式会社製、屈折率1.67、レンズ度数S−4.00、レンズ直径75mm)を用いた。
ハードコート液からのレンズ基材の引き上げ工程においての引き上げ速度は、引き上げ速度条件1〜3の3条件で行った。このうち引き上げ速度条件1,2は、図4を用いて説明した条件と同様であり、引き上げ期間内に減速期間を設けている。これに対して引き上げ速度条件3は、引き上げ期間内の引き上げ速度を360mm/minの一定である。下記表1には、ここで採用した引き上げ速度条件1〜3の引き上げ期間中における、レンズ基材1の上端P1から液面PLまでの各距離(レンズ上端からの距離)毎の引き上げ速度の設定値を示す。
Figure 2013190712
引き上げ工程後の硬化処理工程では、レンズ基材を略垂直の状態に保ち、加熱温度105℃で1時間の熱硬化処理を行った。
<形成したハードコート膜の評価>
1.ハードコート膜厚測定
1層のハードコート膜が形成されたレンズ基材に対して、反射スペクトルを分光光度計(オリンパス製USPM−RU)にて測定し、測定された反射スペクトルとハードコート膜の屈折率から、ハードコート膜の膜厚を算出した。ここでは膜厚分布を確認するために、引き上げ工程においてのレンズ基材の上部、中心、下部の3点で膜厚を測定した。レンズ基材の上部は、レンズの中心から上方向に30mmの位置とし、レンズ下部は、レンズの中心から下方向に30mmの位置とした。
2.干渉縞
ハードコート膜が形成されたレンズの凹面側を上向きにし、レンズ面から50cm離間させた位置に、三波長型蛍光灯を設置した状態で、前方上方斜め45度の角度からレンズ面の凹面を眺めると、干渉縞を明瞭に観察することが可能であり、この状態で干渉縞の本数を数えた。
以上の結果を下記表2に示す。
Figure 2013190712
表2に示されるように、ハードコート液(塗布液)からレンズ基材を引き上げる引き上げ工程において、引き上げ期間内に減速期間を設けた引き上げ速度条件1,2を採用して形成されたハードコート膜の膜厚は、引き上げ方向の各部における膜厚が均一であることが確認された。また、干渉縞の発生も見られなかった。
これに対して、引き上げ期間内の引き上げ速度を一定とした引き上げ速度条件3を採用して形成されたハードコート膜のも膜厚は、引き上げ方向の下部で大きく膜厚のばらつきが大きいことが確認された。また、膜厚のばらつきにより、9本の干渉縞の発生が見られた。
≪光学レンズの作製≫
実施例1,2および比較例1〜4として、以上のようにして作製したハードコート液を用い、先に図1のフローチャートを用いて説明した手順にしたがって光学レンズを作製した。ここでは、レンズ基材としてプラスチックレンズ(HOYA株式会社製、屈折率1.67、レンズ度数S−4.00、レンズ直径75mm)を用いた。
[プライマー層の形成(S1)]
実施例1,2および比較例1〜4において、ディッピング法を採用してプライマー層の形成を行った。プライマー液として、株式会社ADEKA製商品名アデカボンタイターHUX−232をPGMにて6倍に希釈したものに、レべリング剤Y7006を0.06%添加したものを用いた。
[ハードコート膜の形成(S2)]
は、実施例1,2および比較例1〜4において、次のようにハードコート膜を形成した。
<浸漬工程(S21)>
実施例1,2および比較例1〜4において、先に作製したハードコート液を塗布液として用いた。
<引き上げ工程(S22)および判断工程(S23)>
実施例1…上記表1に示した引き上げ速度条件1、繰り返し回数n=8回、反転無し。
実施例2…上記表1に示した引き上げ速度条件2、繰り返し回数n=8回、反転無し。
比較例1…上記表1に示した引き上げ速度条件3、繰り返し回数n=2回、反転無し。
比較例2…上記表1に示した引き上げ速度条件3、繰り返し回数n=4回、反転無し。
比較例3…上記表1に示した引き上げ速度条件3、繰り返し回数n=8回、反転無し。
比較例4…上記表1に示した引き上げ速度条件3、繰り返し回数n=8回、反転あり。比較例4では、次の硬化処理工程(S24)の後、レンズ基材における上端P1と下端P2とを反転して次の浸漬工程(S21)に戻した。レンズ基材を反転させる際には、保持部材からレンズ基材を外し、次いでレンズ基材を反転させ、その後レンズ基材を保持部材に再固定させた。
<第1の硬化処理工程(S24)>
実施例1,2および比較例1〜4において、75℃で20分の熱硬化処理を行った。
<第2の硬化処理工程(S24’)>
実施例1,2および比較例1〜4において、105℃、1時間の熱硬化処理を行った。
[反射防止膜の形成(S3)]
実施例1,2および比較例1〜4において、真空蒸着法により、酸化シリコン(SiO)膜、および酸化タンタル(Ta)膜を交互に積層した反射防止膜を形成した。
<作製した光学レンズの評価>
1.ハードコート膜の膜厚測定
ハードコート膜を形成した後、反射防止膜を形成する前のハードコート膜までを形成したレンズ基材に対して、反射スペクトルを分光光度計(オリンパス製USPM−RU)にて測定し、測定されたスペクトルとハードコート膜の屈折率から膜厚を算出した。ここでは膜厚分布を確認するために、引き上げ工程においてのレンズ基材の上部、中心、下部の3点で膜厚を測定した。レンズ基材の上部は、レンズの中心から上方向に30mmの位置とし、レンズ下部は、レンズの中心から下方向に30mmの位置とした。
2.干渉縞
反射防止膜までを形成した光学レンズの凹面側を上向きにし、レンズ面から50cm離間させた位置に、三波長型蛍光灯を設置した状態で、前方上方斜め45度の角度からレンズ面の凹面を観察して干渉縞の本数を数えた。直径75mmのレンズ内で3本の干渉縞であれば目立ちにくく許容範囲とし、干渉縞3本以下を合格とした。
3.液だれ
干渉縞の評価と同じ要領で、レンズ面の凹面を観察することにより、液だれの有無を判断した。保持部材の痕からの液だれが3mm以上の長さで発生していた場合、判定を「不合格」とした。
以上1.〜3.の評価結果を下記記表3に示す。
Figure 2013190712
表3に示されるように、実施例1,2で形成したハードコート膜、すなわち引き上げ工程(S22)において、引き上げ期間内に減速期間を設けた引き上げ速度条件1,2を採用して形成されたハードコート膜は、引き上げ方向の各部における膜厚が均一であり、干渉縞の発生も見られなかった。これにより、引き上げ期間内に減速期間を設けた浸漬法による膜形成を繰り返す本発明の適用により、レンズ面内の膜厚分布が均一で、干渉縞の発生が抑制されたハードコート膜を、厚膜化して形成することが可能であることが確認された。
さらに、実施例1は、実施例2に比較して膜厚が小さかった。この結果から、浸漬法の繰り返し回数だけではなく、引き上げ工程における引き上げ速度条件の設定によっても、ハードコート膜の膜厚を制御可能であることが確認された。
しかも、実施例1,2で形成したハードコート膜、すなわち基板を反転させずに引き上げ工程(S22)を繰り返して形成されたハードコート膜には、液だれの発生もなかった。
これに対して、引き上げ期間中に減速期間を設けていない比較例1〜3(引き上げ速度一定、反転なし)では、レンズ基材の上下で膜厚の差が大きく、干渉縞を抑制することができていなかった。またこれらの比較例1〜3の結果から、引き上げ回数nの増加にしたがって、レンズ基材の上下で膜厚の差が拡大し、干渉縞も本数も増加することがわかる。したがって、液だれを生じさせることなく複数回のディッピングを繰り返す場合には、各引き上げ工程(S22)において期間内に減速期間を設けた引き上げを行うことで、膜厚分布の小さいハードコート膜を1層ずつ形成することが重要であることがわかる。
また比較例4(引き上げ速度一定、反転有り)では、レンズ基材の上下反転によって、膜厚分布が小さく、干渉縞を抑制することができるが、上下反転の過程において支持部材の痕から液だれが生じてしまった。なお、比較例4はひき上げ速度条件3(360mm/minの一定速度)を適用しており、引き上げ期間全体に要する時間が、実施例1,2の引き上げ速度条件1,2よりも短い。このため、膜厚分布は小さいものの、実施例1よりも膜厚が大きい結果となった。
1…レンズ基材、13…ハードコート膜、17…光学レンズ、L…塗布液

Claims (5)

  1. 塗布液中にレンズ基材を浸漬する浸漬工程と、
    前記塗布液から前記レンズ基材が露出を開始してから完全に露出するまでの間に、引き上げ速度を減速する期間を設けて当該塗布液中から当該レンズ基材を引き上げる引き上げ工程と、
    前記レンズ基材の表面に塗布された塗布液を硬化処理してハードコート膜を形成する硬化処理工程と、
    前記ハードコート膜が所定膜厚となるまで、前記浸漬工程、前記引き上げ工程、および前記硬化処理工程を複数回繰り返すことを判断する判断工程とを備えた
    光学レンズの製造方法。
  2. 前記浸漬工程、前記引き上げ工程、および前記硬化処理工程は、前記レンズ基材のレンズ面を略垂直に保持した状態で行われる
    請求項1記載の光学レンズの製造方法。
  3. 繰り返し行われる前記引き上げ工程では、前記レンズ基材の周縁に設定した同一の一端部を上端として当該レンズ基材を引き上げる
    請求項1または2に記載の光学レンズの製造方法。
  4. 前記引き上げ工程では、前記塗布液から前記レンズ基材が露出を開始した直後、および当該レンズ基材が露出を終了する直前の少なくとも一方において、当該レンズ基材の引き上げ速度を一定にする
    請求項1〜3の何れかに記載の光学レンズの製造方法。
  5. 前記判断工程は、前記引き上げ工程と前記硬化処理工程との間に行われ、
    前記判断工程においてハードコート膜が所定膜厚となったと判断された後の前記硬化処理工程では、前記塗布液を完全に硬化させるために前回までとは異なる条件での硬化処理を行う
    請求項1〜4の何れかに記載の光学レンズの製造方法。
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