JP2012228275A - 減脂大豆蛋白素材およびその製造法 - Google Patents
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Abstract
有機溶媒に頼ることなく含脂大豆から脂質を効率的に分離し、これによって脂質が低減された減脂大豆蛋白素材を提供すること、さらには、脂質が濃縮された新たな大豆素材を提供することを課題とする。
【解決手段】 乾物あたりの蛋白質及び炭水化物の総含量が80重量%以上であり、植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)100gに対して200mg以上、LCI値が40%以下であることを特徴とする減脂大豆蛋白素材や、乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、乾物あたりの脂質含量が乾物あたりの蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が60%以上であることを特徴とする大豆乳化組成物を提供する。
【選択図】なし
Description
またさらに解乳化剤や蛋白質分解酵素により豆乳を解乳化させ豆乳から脂質を分離する方法(特許文献3、非特許文献1)や、アスコルビン酸ナトリウムや塩化ナトリウム等の塩類の添加によりオイルボディを凝集させる方法(特許文献4,5,6)等が開示されている。
また特許文献7、8では大豆に加水して磨砕した後、磨砕物を豆乳とオカラに分離する前後いずれかで加熱処理を行い、得られた豆乳を高遠心力で遠心分離することによって脂質がある程度低下した豆乳とオイルボディとに分画している。
豆乳を解乳化させる特許文献3などの方法も製品に解乳化剤の風味が出やすく、乳化が強固に形成された蛋白質と脂質との相互作用については、解乳化剤をもってしても脂質の分離は限定的なものとなる。
豆乳に塩を添加する特許文献4〜6の方法では塩濃度が高くなることによりナトリウム量が増え、また塩そのものの風味が製品に付与されてしまい、これを低減するためには蛋白質を不溶化し、水洗浄を行うか透析などの処理を行う必要があり、大量の水を使用することで環境負荷が高くなってしまう。また大豆本来の持つ風味が損なわれるとともに、整腸作用のある少糖類や、生理機能があるイソフラボン類の減少を招く。
特許文献7、8の方法は大豆中の脂質の大部分を豆乳に移行させてから、加熱処理と高遠心力で脂質を分離する方法であるが、やはり一旦豆乳に抽出されエマルジョン化された脂質を効率よく分離することは困難であり、クロロホルム/メタノールの混合溶媒で抽出される抽出物(中性脂質及び極性脂質)の低減は、限定的である。
このようにいずれの方法も、豆乳からの脂質の分離効率は低く十分とはいえなかった。
かかる状況に鑑み、本発明はヘキサン等の有機溶媒に頼ることなく含脂大豆から脂質を効率的に分離し、これによって中性脂質のみならず極性脂質も低減された、減脂豆乳をはじめとする新規な減脂大豆加工素材を提供すること、さらには、中性脂質及び極性脂質が濃縮された新たな大豆素材を提供することを課題とする。
以降の本明細書に於いては、特に断りない限り、脂質とはクロロホルム/メタノールの混合溶媒で抽出された、中性脂質及び極性脂質から成る総脂質を指す。
そこで本発明者らはさらに鋭意検討を行う中で、本発明者らは一般に大豆素材の原料として用いられている低変性(通常NSI 90以上)の大豆を用いるのではなく、NSIが特定の範囲になるまで予め変性処理を施した加工大豆を使用することを試みた。従来の技術常識では大豆を水抽出すると脂質の多くがエマルジョン化されて水溶性画分側に移行すると考えられた。ところが該加工大豆を原料として水に懸濁させて遠心分離して水溶性画分と不溶性画分とに分離すると、意外にも極性脂質も含めた脂質の大半が水溶性画分である豆乳側でなく、不溶性画分(食物繊維)側に濃縮された。そして不溶性画分の成分組成が従来になく新規であり、かつ飲食品への利用に適した風味及び物性を有する有用な大豆乳化組成物として用いることができることを見出した。一方で、水溶性画分の方も極性脂質を含めた脂質が有意に低減され、組成も新規であり、有機溶媒による脱脂工程を経ない、飲食品への利用に適した風味と、残存油脂による経時的な風味劣化の少ない特徴を有する減脂豆乳等の大豆蛋白素材として提供が可能であることを見出した。
本発明は以上の知見に基づき完成されたものであり、これによって上記課題を解決するに到った。
(1)乾物あたりの蛋白質及び炭水化物の総含量が80重量%以上であり、植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)100gに対して200mg以上、LCI値が40%以下であることを特徴とする、減脂大豆蛋白素材、
(2)減脂大豆蛋白素材の乾物あたりの蛋白質含量が30〜99重量%である、(1)記載の減脂大豆蛋白素材、
(3)減脂大豆蛋白素材の乾物あたりの灰分含量が15重量%以下である、(1)又は(2)記載の減脂大豆蛋白素材、
(4)減脂大豆蛋白素材の乾物あたりの食物繊維含量が3重量%以下である、(1)〜(3)いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材、
(5)減脂大豆蛋白素材が減脂豆乳である、(1)又は(2)記載の減脂大豆蛋白素材、
(6)減脂大豆蛋白素材が分離大豆蛋白である、(1)又は(2)記載の減脂大豆蛋白素材、
(7)植物ステロールのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して230mg以上である、(1)〜(6)いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材、
(8)植物ステロールのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して400mg以上である、(1)〜(7)記載の減脂大豆蛋白素材、
(9)LCI値が38%以下である、(1)〜(8)いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材、
(10)全蛋白質あたりのリポキシゲナーゼ蛋白質が1%以下である、(1)〜(9)いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材、
(11)イソフラボン類が乾物あたり0.1重量%以上である、(1)〜(3)いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材、
(12)有機溶媒で脂質が抽出されておらず、NSIが20〜77の範囲に加工された含脂大豆を用い、
1)該含脂大豆に加水して懸濁液を調製する工程、
2)該懸濁液を固液分離し、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させ除去し、蛋白質及び糖質を含む水溶性画分を回収する工程、
を含むことを特徴とする、請求項1記載の減脂大豆蛋白素材の製造法、および
(13)上記(12)記載の製造法で得られる減脂豆乳から、大豆ホエー成分を除去し、蛋白質を濃縮することを特徴とする、分離大豆蛋白の製造法、
である。
一方、本発明の大豆乳化組成物によれば、大豆の中性脂質と共に極性脂質を豊富に含み、食品素材として青臭味がなく大豆らしいコクのある風味に優れた新規な大豆乳化組成物を提供することができる。
また本発明の減脂大豆蛋白素材もしくは大豆乳化組成物の製造法によれば、ヘキサン等の有機溶媒を使用することなく簡易な操作で効率的に脂質を多く含む大豆から脂質が低減された減脂豆乳等の減脂大豆蛋白素材もしくは脂質が濃縮された大豆乳化組成物を分離し、提供することが可能となる。
本発明の大豆乳化組成物は、大豆を由来とし、蛋白質のうち、グリシニンやβ−コングリシニン以外の脂質親和性蛋白質(あるいは別の指標としてリポキシゲナーゼ蛋白質)の割合が特に高く、中性脂質及び極性脂質を多く含む乳化組成物であり、乾物あたりの蛋白質含量が25重量%以上、乾物あたりの脂質含量(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)が乾物あたりの蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値が60%以上であることを特徴とする。以下、本発明の大豆乳化組成物及びその製造法について説明する。
一般に脂質含量はエーテル抽出法で測定されるが、本発明の大豆乳化組成物中には中性脂質の他にエーテルで抽出されにくい極性脂質も多く含まれるため、本発明における脂質含量は、得られる大豆乳化組成物を凍結乾燥後、クロロホルム:メタノールが2:1(体積比)の混合溶媒を用い、常圧沸点において30分間抽出された抽出物量を総脂質量として、脂質含量を算出した値とする。溶媒抽出装置としてはFOSS社製の「ソックステック」を用いることができる。すなわち本発明における脂質含量は、クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物含量としての総脂質含量をいうものとする。なお上記の測定法は「クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出法」と称するものとする。
本発明の大豆乳化組成物の蛋白質含量は乾物あたり25重量%以上、好ましくは30重量%以上である。また蛋白質含量の上限は限定されないが、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
本発明における蛋白質含量はケルダール法により窒素量として測定し、該窒素量に6.25の窒素換算係数を乗じて求めるものとする。
本発明における大豆乳化組成物等の蛋白質の各成分組成はSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析することができる。
界面活性剤であるSDSと還元剤であるメルカプトエタノールの作用によって蛋白質分子間の疎水性相互作用、水素結合、分子間のジスルフィド結合が切断され、マイナスに帯電した蛋白質分子は固有の分子量に従った電気泳動距離を示ことにより、蛋白質に特徴的な泳動パターンを呈する。電気泳動後に色素であるクマシーブリリアントブルー(CBB)にてSDSゲルを染色した後に、デンシトメーターを用い、全蛋白質のバンドの濃さに対する各種蛋白質分子に相当するバンドの濃さが占める割合を算出する方法により求めることができる。
本発明の大豆乳化組成物は、一般に大豆中のオイルボディにはほとんど含まれないリポキシゲナーゼ蛋白質が特定量以上含まれることが大きな特徴であり、大豆乳化組成物中の全蛋白質あたり少なくとも4%以上含有し、好ましくは5%以上含有するものである。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではリポキシゲナーゼ蛋白質は可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明ではリポキシゲナーゼ蛋白質が原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
蛋白質中におけるリポキシゲナーゼ蛋白質の割合が高まることによって油脂の乳化状態が安定化されるばかりでなく、グロブリン蛋白質を主体とした通常の大豆蛋白質組成では得られない滑らかな物性の食感を得ることができ、また素材にコクのある風味が付与される。
本発明の大豆乳化組成物は、蛋白質の種類の中では脂質親和性蛋白質(Lipophilic Proteins)が一般の大豆素材より多く含まれることが特徴である。脂質親和性蛋白質は、大豆の主要な酸沈殿性大豆蛋白質の内、グリシニン(7Sグロブリン)とβ−コングリシニン(11Sグロブリン)以外のマイナーな酸沈殿性大豆蛋白質群をいい、レシチンや糖脂質などの極性脂質を多く随伴するものである。以下、単に「LP」と略記することがある。
LPは雑多な蛋白質が混在したものであるが故、各々の蛋白質を全て特定し、LPの含量を厳密に測定することは困難であるが、下記LCI(Lipophilic Proteins Content Index)値を求めることにより推定することができる。これによれば、大豆乳化組成物中の蛋白質のLCI値は通常60%以上であり、好ましくは63%以上、より好ましくは65%以上である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではLPは可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明ではLPが原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
蛋白質中におけるLPの割合が高まることによって油脂の乳化状態が安定化されるばかりでなく、グロブリン蛋白質を主体とした通常の大豆蛋白質組成では得られない滑らかな物性の食感を得ることができ、また素材にコクのある風味が付与される。
(a) 各蛋白質中の主要な蛋白質として、7Sはαサブユニット及びα'サブユニット(α+α')、11Sは酸性サブユニット(AS)、LPは34kDa蛋白質及びリポキシゲナーゼ蛋白質(P34+Lx)を選択し、SDS−PAGEにより選択された各蛋白質の染色比率を求める。電気泳動は表1の条件で行うことが出来る。
(b) X(%)=(P34+Lx)/{(P34+Lx)+(α+α')+AS}×100(%)を求める。
(c) 低変性脱脂大豆から調製された分離大豆蛋白のLP含量を加熱殺菌前に上記方法1、2の分画法により測定すると凡そ38%となることから、X=38(%)となるよう(P34+Lx)に補正係数k*=6を掛ける。
(d) すなわち、以下の式によりLP推定含量(Lipophilic Proteins Content Index、以下「LCI」と略する。)を算出する。
本発明の大豆乳化組成物は通常生クリーム様の性状であり、通常の乾物(dry matter)は20〜30重量%程度であるが、特に限定されるものではない。すなわち加水により低粘度の液状としたものや、濃縮加工されてより高粘度のクリーム状としたものであってもよく、また粉末加工されて粉末状としたものであってもよい。
本発明の大豆乳化組成物は、例えば水溶性窒素指数(Nitrogen Solubility Index、以下「NSI」と称する。)が20〜77、好ましくは20〜70、乾物あたりの脂質含量が15重量%以上の全脂大豆などの含脂大豆に対して、加水して懸濁液を調製する工程の後、該懸濁液を固液分離し、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させて、蛋白質及び糖質を含む水溶性画分を除去し、不溶性画分を回収することにより得ることができる。以下、該製造態様について示す。
大豆乳化組成物の原料である大豆としては、全脂大豆あるいは部分脱脂大豆等の含脂大豆を用いる。部分脱脂大豆としては、全脂大豆を圧搾抽出等の物理的な抽出処理により部分的に脱脂したものが挙げられる。一般に全脂大豆中には脂質が乾物あたり約20〜30重量%程度含まれ、特殊な大豆品種については脂質が30重量%以上のものもあり、特に限定されないが、用いる含脂大豆としては、少なくとも脂質を15重量以上、好ましくは20重量%以上含むものが適当である。原料の形態は、半割れ大豆、グリッツ、粉末の形状でありうる。過度に脱脂され脂質含量が少なすぎると本発明の脂質に富む大豆乳化組成物を得ることが困難となる。特にヘキサン等の有機溶媒で抽出され、中性脂質の含量が1重量%以下となった脱脂大豆は、大豆の良い風味が損なわれ好ましくない。したがって本発明は大豆から有機溶媒を用いない脱脂技術としても特徴を有する。
そのような加工大豆は、加熱処理やアルコール処理等の加工処理を行って得られる。加工処理の手段は特に限定されないが、例えば乾熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、マイクロ波処理等による加熱処理や、含水エタノール処理、高圧処理、およびこれらの組み合わせ等が利用できる。
例えば過熱水蒸気による加熱処理を行う場合、その処理条件は製造環境にも影響されるため一概に言えないが、おおよそ120〜250℃の過熱水蒸気を用いて5〜10分の間で加工大豆のNSIが上記範囲となるように処理条件を適宜選択すれば良く、加工処理に特段の困難は要しない。簡便には、NSIが上記範囲に加工された市販の大豆を用いることもできる。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を重量%として表したものをNSIとする。
水抽出は含脂大豆に対して3〜20重量倍、好ましくは4〜15重量倍程度の加水をし、含脂大豆を懸濁させて行われる。加水倍率は高い方が水溶性成分の抽出率が高まり、分離を良くすることができるが、高すぎると濃縮が必要となりコストがかかる。また、抽出処理を2回以上繰り返すと水溶性成分の抽出率をより高めることができる。
水抽出後、含脂大豆の懸濁液を遠心分離、濾過等により固液分離する。この際、中性脂質のみならず極性脂質も含めた大部分の脂質を水抽出物中に溶出させず、不溶化した蛋白質や食物繊維質の方に移行させ沈殿側(不溶性画分)として回収することが重要である。具体的には含脂大豆の脂質の70重量%以上を沈殿側に移行させる。また抽出の際に上清側にも少量の脂質が溶出するが、豆乳中の脂質のように微細にエマルション化されたものではなく、15,000×g以下、あるいは5,000×g程度以下の遠心分離によっても容易に浮上させ分離することができ、この点で遠心分離機を使用するのが好ましい。なお遠心分離機は使用する設備によっては10万×g以上の超遠心分離を使用することも可能であるし、本発明の場合は超遠心分離機を用いなくとも実施が可能である。
また水抽出の際あるいは水抽出後に解乳化剤を添加して豆乳からの脂質の分離を促進させることも可能であり、解乳化剤は特に限定されないが例えば特許文献2に開示されている解乳化剤を使用すればよい。ただし本発明の場合は解乳化剤を用いなくとも実施が可能である。
得られた不溶性画分が食物繊維を含む場合、例えば上記(3)又は(1)及び(3)の画分である場合、必要により加水し、高圧ホモゲナイザーあるいはジェットクッカー加熱機等による均質化した後、該均質化液をさらに固液分離して上清を回収する工程を経ることにより、食物繊維(オカラ)を除去することもでき、コクのある風味がより濃縮された大豆乳化組成物を得ることができる。該均質化の前後いずれかにおいて必要により加熱処理工程、アルカリ処理工程等を付加することにより蛋白質をより抽出しやすくすることもできる。この場合、乾物あたりの食物繊維含量は10重量%以下であり、5重量%以下がより好ましい。なお、本発明において食物繊維含量は、「五訂増補日本食品標準成分表」(文部科学省、2005)に準じ、酵素−重量法(プロスキー変法)により測定することができる。
本発明の大豆乳化組成物は、脂質(中性脂質及び極性脂質)及び蛋白質が特定の範囲で含まれ、蛋白質のうち特にLP含量が高く、必要により繊維質も含まれる乳化組成物であり、大豆が本来有する自然な美味しさが濃縮されており、従来の問題とされていた青臭味や収斂味、渋味等の不快味がないか非常に少なく、非常にコクのある風味を有し、様々な食品へ使用する食材として利用できる。
通常の大豆粉や分離大豆蛋白に水、油脂を加えて本大豆乳化組成物と類似の組成の乳化組成物にすることは可能であるが、リポキシゲナーゼ蛋白質含量あるいはLCI値を同等にすることは困難である。そのためか本技術により調製された大豆乳化組成物はこのような組み立て製品に比べて格段に風味が良好であり、食品素材としての利用適性が高いことに特徴を有する。
本発明の減脂豆乳等の減脂大豆蛋白素材は、上記の大豆乳化組成物と同一の技術的思想から見出されたもので、大豆乳化組成物とは対応する技術的関係にある。大豆を由来とし、グリシニン及びβ−コングリシニンを主体とする蛋白質を主な構成成分とし、豆乳の場合は糖質、灰分などの水溶性成分も比較的多く含まれる。一方で、食物繊維質は除去され、脂質は中性脂質と極性脂質が共に低減され、リポキシゲナーゼ蛋白質等のLPの含量も少ないものである。豆乳以外の大豆蛋白素材としては、該豆乳を原料としてさらに蛋白質の純度を高めた大豆蛋白素材が挙げられ、典型的には豆乳から糖質、灰分等の水溶性成分を除去して蛋白質の純度を高めた分離大豆蛋白や、上記豆乳あるいは分離大豆蛋白の蛋白質をさらに分画してグリシニンあるいはβ−コングリシニンの純度を高めた分画大豆蛋白が挙げられる。これらの分離大豆蛋白や分画大豆蛋白の製造は公知の方法で製造することが可能である。
本減脂豆乳等の減脂大豆蛋白素材は含脂大豆を原料としているにもかかわらず、ヘキサン等の有機溶媒を用いて脱脂された脱脂大豆から水抽出して得た脱脂豆乳や分離大豆蛋白とは蛋白質含量が同等であり、具体的には、乾物あたりの蛋白質含量は少なくとも30重量%以上であり、好ましくは50重量%以上の高蛋白質含量である。ただし、その他の成分組成については従来の脱脂豆乳等の減脂大豆蛋白素材とは顕著に相違する。
以下、本発明の減脂豆乳等の減脂大豆蛋白素材及びその製造法について説明する。
本発明の減脂大豆蛋白素材は糖質及び蛋白質が乾物の大部分を占める主成分であり、炭水化物(乾物から脂質、蛋白質及び灰分を除いたもの)の含量は、蛋白質との総含量で表すと乾物あたり80重量%以上、好ましくは85重量%以上である。乾物の残成分は灰分と微量の脂質からほぼ構成され、灰分は乾物当たり通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下である。食物繊維は炭水化物に含まれるものの、本発明の減脂大豆蛋白素材は食物繊維質が除去されているので、乾物当たり3重量%以下、好ましくは2重量%以下の微量である。
本発明の減脂大豆蛋白素材の蛋白質含量は乾物あたりで30〜99重量%の範囲となりうる。ここで蛋白質含量は大豆乳化組成物と同様に、ケルダール法により窒素量として測定し、該窒素量に6.25の窒素換算係数を乗じて求めるものとする。大豆蛋白素材が豆乳の場合、通常は下限が乾物あたり45重量%以上、あるいは50重量%以上、あるいは55重量%以上であり、上限が70重量%以下、あるいは65重量%以下でありうる。蛋白質の分画や他の成分の添加など、加工方法によっては30重量%以上45重量%未満の範囲にもなりうる。また大豆蛋白素材が豆乳をさらに精製して蛋白質純度を高めた分離大豆蛋白の場合は、下限が70重量%超、あるいは80重量%以上であり、上限は99重量%以下、あるいは95重量%以下でありうる。
本発明の減脂大豆蛋白素材は、一般に水溶性で抽出されやすいリポキシゲナーゼ蛋白質が極めて少ないことも大きな特徴であり、減脂大豆蛋白素材中の全蛋白質あたり1%以下であり、好ましくは0.5%以下である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではリポキシゲナーゼ蛋白質は可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明ではリポキシゲナーゼ蛋白質が原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
減脂大豆蛋白素材の蛋白質中におけるリポキシゲナーゼ蛋白質の割合が極めて少ないことによって、脂質の含有量を極めて低レベルに保つ豆乳を得ることがきるという利点がある。
本発明の減脂大豆蛋白素材は、蛋白質の種類の中ではLPが一般の大豆素材よりも含量が少ないことが特徴である。
LPの含量は大豆乳化組成物の場合と同様にLCI値として推定することができるが、これによれば、減脂大豆蛋白素材中の蛋白質のLCI値は通常40%以下、より好ましくは38%以下、さらに好ましくは36%以下である。
通常の未変性(NSI 90以上)の大豆を原料とした場合ではLPは可溶性の状態で存在するため、水抽出すると水溶性画分側へ抽出される。一方、本発明ではLPが原料大豆中において加熱処理によって失活され不溶化しているため、不溶性画分側に残る。
減脂大豆蛋白素材の蛋白質中におけるLPの割合が低いことによって脂質の含有量を極めて低レベルに保つ豆乳を得ることがきるという利点がある。
本発明の減脂豆乳等の減脂大豆蛋白素材は、原料である大豆粉の脂質含量/蛋白質含量の比よりも低い値しか脂質が含まれず、中性脂質と共に極性脂質の含量も低いことが特徴である。なおここでいう脂質とは原料となる大豆に由来する総脂質(中性脂質及び極性脂質)をいう。これに対し、一般の減脂豆乳は大豆をヘキサンで脱脂した脱脂大豆を水抽出して得られるが、その減脂豆乳は極性脂質が除去されておらずなお多く含まれる。
すなわち、本発明の減脂豆乳等の減脂大豆蛋白素材は、脂質含量が蛋白質含量に対して10重量%未満、好ましくは9重量%未満、より好ましくは8重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは4重量%以下であり、3重量%以下とすることも可能である。すなわち蛋白質よりも中性脂質と極性脂質を含めた総脂質が極めて少ないことが1つの重要な特徴である。この脂質含量はクロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量で示される。通常の有機溶剤を用いて脱脂された脱脂大豆から抽出した脱脂豆乳も中性脂質は殆ど含まれないが、極性脂質が一部抽出されるため、蛋白質に対する脂質含量はおよそ5〜6重量%である。すなわち本発明の減脂大豆蛋白素材は通常の有機溶剤を使用している脱脂豆乳と同等以上に油脂、特に極性脂質が低減されたものである。
さらにまた乾物あたりでの脂質含量も5重量%以下、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1.5重量%以下である。
本発明の減脂大豆蛋白素材は、植物ステロールの脂質に対する含量が通常の脱脂豆乳よりも格段に高いことが特徴である。
植物ステロールは大豆種子中に0.3重量%程度含まれ、主にシトステロール、カンペステロール、スチグマステロール等が含まれる。これら大豆に含まれる植物ステロールは極性が低いため、一般的にヘキサンなどの有機溶媒で大豆油を抽出をする場合には大豆油側に大部分移行してしまい、大豆油が精製される過程で除去される。そのため脱脂大豆には植物ステロールは非常に微量である。
一方、本発明の減脂大豆蛋白素材においては、中性脂質と極性脂質が共に含量が低いにもかかわらず、脂質と親和性が高く水に不溶の植物ステロールであるカンペステロールとスチグマステロールが特に多く残存することを見出した。このように減脂大豆蛋白素材中の脂質に対する植物ステロールの含量を上げることは別途に添加する方法以外では極めて難しく、本発明では脂質を殆ど含むことなく植物ステロールを多く含有する大豆蛋白素材を提供できる利点を有する。
これらカンペステロール及びスチグマステロールの含有量の和は、ヘキサン等の有機溶媒で脱脂された脱脂大豆を原料に調製された減脂大豆蛋白素材では、脂質100g当たり40〜50mg程度であるのに対し、本発明の減脂大豆蛋白素材では脂質100g当たりで少なくとも200mg以上という高含量であり、好ましくは230mg以上、より好ましくは400mg以上、さらに好ましくは450mg以上、さらに好ましくは500mg以上も含まれる。
例えば財団法人日本食品分析センターのステロール定量法(第11014761号−別添分析法フローチャート参照)に準じて分析することができる。具体的には試料1.2gを採取し、1mol/Lの水酸化カリウムのエタノール溶液50mlに分散し、ケン化を行い、水150mlとジエチルエーテル100mlを加え、エーテル層に不ケン化物を抽出し、さらにジエチルエーテルを50mlを2回加えて抽出する。抽出された不ケン化物のジエチルエーテル層を水洗し、脱水ろ過し、溶媒を揮発除去する。その後、カラムクロマトグラフィー(シリカカートリッジカラム)にて抽出物をジエチルエーテル:ヘキサン(8:92)溶液10mlで洗浄し、ジエチルエーテル:ヘキサン(20:80)溶液25mlにて溶出させる。その液に内部標準として5α―コレスタン0.5mgを加え、溶媒を揮発除去する。この試料にヘキサン5mlを加え、ガスクロマトグラフ法(水素炎イオン検出器)によって目的の植物ステロールを検出する。ガスクロマトグラフ法の条件は、以下の通りで行うことができる。
機 種 :GC-2010[株式会社島津製作所]
検出器 :FID
カラム :DB-1[J&W SCIENTIFIC] φ0.25mm×15m、膜厚0.25μm
温 度 :試料注入口290℃、検出器290℃
カラム240℃→3℃/min昇温→280℃
試料導入系:スプリット(スプリット比 1:30)
ガス流量 :ヘリウム(キャリアーガス)2.3ml/min
ヘリウム(メイクアップガス)30ml/min
ガス圧力 :水素40ml/min、空気400ml/min
本発明の減脂大豆蛋白素材は、イソフラボン類の含量が比較的高いことも特徴である。具体的には乾物あたりの含量が0.10重量%以上であるのが好ましい。なお、イソフラボン類の含量は、「大豆イソフラボン食品 品質規格基準(公示 No.50、見直し改訂版)」(財団法人日本健康・栄養食品協会、2009年3月6日発行)に記載される分析法に従い定量することができる。本発明においてはイソフラボン類の含量は配糖体としての当量を表す。
本発明の減脂大豆蛋白素材が減脂豆乳で、性状が液体の場合、乾物(dry matter)は通常3〜20重量%程度であるが、特に限定されるものではない。すなわち加水して低粘度の液状としたものや、減圧濃縮や凍結濃縮等の濃縮加工により高粘度化したものであってもよく、また噴霧乾燥や凍結乾燥等の粉末加工により粉末状としたものであってもよい。
本発明の減脂豆乳や他の大豆蛋白素材の製造法は、乾物あたりの脂質含量が15重量%以上の含脂大豆に対して、加水して懸濁液を調製する工程の後、該懸濁液を固液分離して不溶性画分を除去し、水溶性画分を回収する方法であって、さらに原料大豆としてNSIが20〜77、好ましくは20〜70の含脂大豆を用い、中性脂質と極性脂質を不溶性画分側に移行させて上記組成の減脂豆乳を得ることを特徴とするものである。
原料大豆は上記大豆乳化組成物の製造で使用するものと同様に加工したものを用いることができる。過度に脱脂され脂質含有量が少なすぎると本発明の脂質が少ない一方で植物ステロールを多く含む減脂豆乳を得ることが困難となる。
原料大豆の加工において、NSIが高すぎると脂質と蛋白質の分離効率が低下し、減脂大豆蛋白素材の脂質含量が増加する傾向となり、また風味は青臭みが強くなる。
原料大豆からの水抽出も上記大豆乳化組成物の製造法と同様の温度条件、pH条件で行うことができる。また水抽出後の固液分離も上記同様に行うことができる。
得られた水溶性画分は、そのまま、あるいは必要に応じて濃縮工程、加熱殺菌工程、粉末化工程などを経て本発明の減脂豆乳とすることができる。
本発明の減脂豆乳からホエー蛋白質やオリゴ糖などの大豆ホエー成分を除去して蛋白質を濃縮し、必要により中和、殺菌、乾燥し粉末化するなどして、高蛋白質純度の分離大豆蛋白質を調製することができる。大豆ホエー成分を除去する方法としては公知の方法をいずれも利用でき、例えば最も一般的である減脂豆乳を等電点付近の酸性pH(pH4〜5程度)に調整し、蛋白質を等電点沈殿させ、遠心分離等により上清のホエーを除去して沈殿を回収する方法の他、膜分離によって比較的低分子のホエーを除去する方法等を適用できる。
本発明の減脂大豆蛋白素材は、ヘキサン等で脱脂した脱脂大豆から水抽出された減脂豆乳や分離大豆蛋白などと比べて、脂質特に極性脂質の含量が低く低カロリーであると共に、ヘキサン等の有機溶媒を使用しないため環境負荷が小さく、有機溶媒による変性を受けておらず風味も格段に優れている。また極性脂質と共にLPが少ないため酸化安定性が高く風味の経時的劣化も極めて少ないことが特長である。
これらの特徴を活かし、大豆蛋白素材が豆乳の場合は得られる水溶性画分を殺菌後そのまま減脂豆乳として利用できる。
また、乾燥して粉末状素材として利用する場合は、通常の豆乳粉末や粉末状大豆蛋白のように脂質が酸化することがなく風味の保存安定性が格段に優れる。
本発明の大豆素材の脂質の濃縮方法は、含脂大豆として乾物あたりの脂質含量が15重量%以上であってNSIが20〜77、好ましくは20〜70のものを用い、該含脂大豆を水に懸濁させて懸濁液を得、該懸濁液を固液分離して、蛋白質及び糖質を含む水溶性画分を除去し、中性脂質及び極性脂質が移行した不溶性画分を回収することを特徴とする。
具体的には、上記した大豆素材である大豆乳化組成物の製造態様において、水抽出工程後の固液分離により、不溶性画分を回収することにより、大豆素材の中性脂質及び極性脂質を濃縮することができる。別途に油脂を添加配合することなく、乾物あたりの脂質含量が蛋白質含量に対して100重量%以上、好ましくは100〜250重量%、より好ましくは120〜200重量%にまで高めることができ、含脂大豆からの脂質移行率を80%以上にすることができる。
これによって大豆素材に非常にコクのある風味を付与することができ、利用適性を広げることができる。
本発明の大豆素材の脂質の低減方法は、含脂大豆として乾物あたりの脂質含量が15重量%以上であってNSIが20〜77、好ましくは20〜70のものを用い、該含脂大豆を水に懸濁させて懸濁液を得、該懸濁液を固液分離して、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させて除去し、蛋白質及び糖質を含む水溶性画分を回収することを特徴とする。
具体的には、上記した大豆素材である減脂大豆蛋白素材の製造態様において、水抽出工程後の固液分離により、蛋白質及び糖質を移行させた水溶性画分を回収することにより、大豆素材の中性脂質及び極性脂質を低減することができる。具体的には、乾物あたりの脂質含量を5重量%以下にまで低減することができ、含脂大豆からの脂質移行率を10%以下にすることができる。
これによってヘキサン等の有機溶媒を用いて脱脂した脱脂大豆を使用しなくとも、脂質を低減した大豆素材を得ることができ、従来の脱脂豆乳や分離大豆蛋白の他、β−コングリシニンやグリシニン等の分画大豆蛋白の製造にも利用することができる。
湿熱加熱処理によりNSI 59.4とした大豆粉3.5kgに対して4.5倍量、50℃の水を加えて懸濁液とし、保温しながら30分間攪拌し、水抽出した。このときのpHは6.7であった。3層分離方式の遠心分離を6,000×gにて連続的に行い、(1)浮上層・(2)中間層・(3)沈殿層に分離させた。そして浮上層と沈殿層を合わせた大豆乳化組成物を6.3kg、中間層として減脂豆乳12kgを回収した。各画分を凍結乾燥し、一般成分として乾物、並びに、乾物あたりの蛋白質(ケルダール法による)、脂質(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出法による)及び灰分を測定し、さらにSDS-PAGEによりリポキシゲナーゼ蛋白質含量、LPの含量の推定値としてLCI値の分析を行った。また大豆粉の乾物、蛋白質及び脂質の含量をそれぞれ100%とした場合に、各成分が減脂豆乳と大豆乳化組成物に何%移行したか、その移行率(%)を求めた(表2参照)。
リポキシゲナーゼ蛋白質は大豆乳化組成物の蛋白質中4%以上(6.2%)も含まれ、大豆粉よりも多く含まれる一方、減脂豆乳には蛋白質中1%以下(0.3%)とほとんど含まれていなかった。LCI値は大豆乳化組成物では60%以上(67%)と大豆粉の57%に比べて高くなった。
得られた減脂豆乳及び大豆乳化組成物を沸騰水浴中10分間加熱殺菌して風味を確認したところ、大豆乳化組成物は大豆らしいコクのある風味が濃縮されていた。また減脂豆乳は甘味が強く、共に従来の豆乳や減脂豆乳とは異なる良好な風味を有していた。
実施例1にて調製した大豆乳化組成物に対して0.5重量倍の加水を行い、さらに13MPaにて高圧ホモゲナイザーで均質化した後、該均質化液を蒸気直接吹き込み方式で142℃7秒間加熱処理し、連続式遠心分離機にて6,000×gにて不溶性の繊維質を分離除去し、上清画分を得、これを改めて大豆乳化組成物とした。凍結乾燥後、実施例1と同様に一般成分、リポキシゲナーゼ蛋白質含量、LCIの分析を行った(表3参照)。
加熱条件によりNSIを変えた3種類の大豆粉(NSI:59.5、66.8、94.9)各20gに対し、300gの水を加え、20%NaOHにてpH7.5に調整し、50℃にて30分攪拌抽出した。遠心分離機にて1,400×g、10分の分離を行い、クリーム層、中間層、沈殿層(オカラ)に分離した。さらにクリーム層と沈殿層を合わせて大豆乳化組成物とし、残りの中間層を豆乳とした。凍結乾燥後に実施例1と同様に各画分について一般成分の分析を行った(表4参照)。
一方、大豆蛋白質が未変性であるNSI 94.9(比較例1)の大豆粉を原料とした場合、中間層に全脂質のうち15%が移行してしまい、乾物あたりの脂質含量が8.1%となり、分離性が十分ではなかった。また比較例1の大豆乳化組成物は乾物あたりの蛋白質含量が25%に満たず(18%)、風味が青臭くコク味が感じられなかった。
市販の大豆乳化組成物「Soy Supreme Kreme」(サンオプタ社(SunOpta Grains and Foods Group)製)の乾物あたりの組成を分析したところ、次の通りであった。
蛋白質 32.0%
脂質 54.5%(蛋白質あたり170%)
炭水化物 10.4%
灰分 4.5%
食物繊維 5.7%
LCI値 49.6%
蛋白質あたりのリポキシゲナーゼ蛋白質含量 2%
この市販品は特許文献3(米国特許第6,548,102号公報)に記載される方法で製造されたものと推定され、必須の添加剤として解乳化剤が使用されているが、このように大豆乳化組成物の組成は本発明である実施例2の組成物とはLCI値又はリポキシゲナーゼ蛋白質含量において顕著に相違するものであった。すなわち本発明の大豆乳化組成物はLPの含量が従来品よりも有意に高いことが示された。本発明品と市販品の風味を比較すると、本発明品の風味が特にコクがあって特徴的であり良好であった。
実施例1,2及び比較例1で得られた大豆乳化組成物、及び、分析例1で用いた市販大豆乳化組成物の4点について、それぞれの風味(コク味、青臭味、収斂味)を比較し、相対評価を行った。評価結果を表5に示した。
実施例1と同様の方法で、原料形態、NSI、加水倍率、抽出温度、抽出時間及び抽出時のpHを表6に記載の条件に種々変更し、各種減脂豆乳(実施例5〜8、比較例2,3)を調製した。実施例7と比較例3のpHは苛性ソーダを加えて調整した。得られた各種減脂豆乳について、回収量、乾物濃度(%)、乾物当たりの蛋白質含量(%)、LCI値、蛋白質当たりの脂質(クロロホルム:メタノール=2:1の溶媒による抽出物)含量(%)、脂質100g当たりの植物ステロール含量(カンペステロール及びスチグマステロール含量の和)(mg)の分析データを表6にまとめた。なお、表6にはデータ比較のために同程度の製造スケールで調製した実施例1のデータも並べた。
比較例3は原料大豆のNSIが高いためか、脂質含量が蛋白質に対して極めて高くなり、大豆からの減脂が不良であることがわかる。これに対して実施例の減脂豆乳は高脂質含量の全脂大豆が原料であるにもかかわらず、何れも脂質含量が蛋白質に対して10%以下という低レベルであった。
比較例2と比較しても多くの実施例は脂質含量が同等以下であり、脂質に対する植物ステロール含量が高い値を示し、従来にない特徴的な組成を示した。また実施例のLCI値も比較例2と比べ総じて低かった。
なお、実施例5で得られた減脂豆乳中に含まれるイソフラボンの総含量を分析したところ、乾物あたり0.266%含まれていた。
特許文献1、2の方法で製造されていると推定される市販の分離大豆蛋白3品(スペシャルティ・プロテイン・プロデューサーズ社製)について、蛋白質含量、脂質含量、植物ステロール含量、LCI値を分析した。その分析値を以下に示した。
なお、「ECO−Ultra Gel SPI 6500」についてはイソフラボンの総含量を分析したところ、乾物あたり0.186%含まれていた。
以上のように、これらの市販品は本発明の減脂大豆蛋白素材とは全く組成の異なるものであった。
特許文献8は大豆種子から得られた豆乳を加熱し、遠心分離によりクリーム層を分離する技術が記載されている。そこで、この技術の追試を行い、得られる減脂豆乳について蛋白質含量、脂質含量、LCI値を分析した。
大豆種子40gを洗浄後、200mlビーカーに入れ、150mlの目盛りまで水を加え、冷蔵庫(4℃)にて一夜浸漬した。吸水大豆に水を加え総重量300gとし、ミキサーで2分間磨砕し、さらに2分間磨砕した。ブフナーロートにカット綿を広げ、上記磨砕物を吸引ろ過し、未加熱豆乳を得た。それを三角フラスコに移し、沸騰水中で加熱した。75℃達温後、75℃に保ちながら10分間加熱し、冷水で室温(25℃程度)まで冷却し、豆乳を得た。 次に豆乳を6,200×g、30分間遠心分離し、浮上画分(クリーム)を除いた。さらにクリームが混入しないようにその下の層である油分が少ないと考えられる豆乳を回収し、フリーズドライした。これを豆乳加熱75℃の減脂豆乳のサンプルとした。
さらに加熱温度だけ95℃にし、他の条件は同様に実施し、豆乳を回収した。これを豆乳加熱95℃の減脂豆乳のサンプルとした。得られたサンプルの分析値を以下に示した。
NSIを55に調整した大豆粉20kgに対し、300kgの水を加え、水酸化ナトリウム水溶液にてpH6.5に調整し、50℃にて30分攪拌抽出した。遠心分離機にて1,400×g、10分間の分離を行い、クリーム層、中間層、沈殿層(オカラ)に分離した。中間層である豆乳を乾物量12%に濃縮した後、塩酸を適量添加しpH4.5に調整した。更に遠心分離機にて3,000×g,15分間の分離を行い、沈殿を回収した。
分離された沈殿に対して乾物量18%になるよう加水し、水酸化ナトリウム水溶液を適量添加してpH7.5に調整した。加圧加熱殺菌後に噴霧乾燥して、分離大豆蛋白を調製した。
得られた分離大豆蛋白質の分析結果は、乾物量96.0%であり、乾物あたりでそれぞれ蛋白質82.1%,総脂質1.90%(蛋白質あたり2.31%),灰分6.57%、炭水化物5.43%であった。また、植物ステロールは乾物100gあたり10.7mg(脂質100gあたりでは564mg)、イソフラボンの総含量は乾物あたり0.301%であった。
得られた分離大豆蛋白の風味は、ヘキサンで脱脂された脱脂大豆から製造される市販の分離大豆蛋白と比較したところ、明らかに青臭味や渋味といった収斂味の少ない、優れたものであった。
実施例5で得られた本発明の減脂豆乳、ヘキサン脱脂された脱脂大豆から調製された比較例2の減脂豆乳、実施例9で得られた本発明の分離大豆蛋白(SPI)、分析例2の市販のSPI「GPF Meat SPI 6500」、ヘキサンで脱脂された脱脂大豆から製造される従来市販品のSPI「フジプロF」(不二製油(株)製)について、それぞれの風味を比較し、相対評価を行った。評価結果を以下に示した。
Claims (13)
- 乾物あたりの蛋白質及び炭水化物の総含量が80重量%以上であり、植物ステロールとしてのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質(クロロホルム/メタノール混合溶媒抽出物としての含量をいう。)100gに対して200mg以上、LCI値が40%以下であることを特徴とする、減脂大豆蛋白素材。
- 減脂大豆蛋白素材の乾物あたりの蛋白質含量が30〜99重量%である、請求項1記載の減脂大豆蛋白素材。
- 減脂大豆蛋白素材の乾物あたりの灰分含量が15重量%以下である、請求項1又は2記載の減脂大豆蛋白素材。
- 減脂大豆蛋白素材の乾物あたりの食物繊維含量が3重量%以下である、請求項1〜3いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材。
- 減脂大豆蛋白素材が減脂豆乳である、請求項1〜4いずれか記載の減脂大豆蛋白素材。
- 減脂大豆蛋白素材が分離大豆蛋白である、請求項1〜4いずれか記載の減脂大豆蛋白素材。
- 植物ステロールのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して230mg以上である、請求項1〜6いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材。
- 植物ステロールのカンペステロールおよびスチグマステロールの和が脂質100gに対して400mg以上である、請求項1〜7いずれか記載の減脂大豆蛋白素材。
- LCI値が38%以下である、請求項1〜8いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材。
- 全蛋白質あたりのリポキシゲナーゼ蛋白質が1%以下である、請求項1〜9いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材。
- イソフラボン類が乾物あたり0.1重量%以上である、請求項1〜10いずれか1項記載の減脂大豆蛋白素材。
- 有機溶媒で脂質が抽出されておらず、NSIが20〜77の範囲に加工された含脂大豆を用い、
1)該含脂大豆に加水して懸濁液を調製する工程、
2)該懸濁液を固液分離し、中性脂質及び極性脂質を不溶性画分に移行させ除去し、蛋白質及び糖質を含む水溶性画分を回収する工程、
を含むことを特徴とする、請求項1記載の減脂大豆蛋白素材の製造法。 - 請求項12記載の製造法で得られる減脂豆乳から、大豆ホエー成分を除去し、蛋白質を濃縮することを特徴とする、分離大豆蛋白の製造法。
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