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JP2012100538A - モルトエキス中に含まれる、マスキング成分並びに色素成分の分離技術 - Google Patents

モルトエキス中に含まれる、マスキング成分並びに色素成分の分離技術 Download PDF

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JP2012100538A JP2010244167A JP2010244167A JP2012100538A JP 2012100538 A JP2012100538 A JP 2012100538A JP 2010244167 A JP2010244167 A JP 2010244167A JP 2010244167 A JP2010244167 A JP 2010244167A JP 2012100538 A JP2012100538 A JP 2012100538A
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Keiri Cho
慧利 張
Takatoshi Koda
隆俊 香田
Kenta Kurihara
健太 栗原
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Abstract

【課題】食品素材に由来する特有の不快味、不快臭や、加熱調理や保存時に発生するレトルト臭、劣化臭などを顕著にマスキングし、飲食品の風味改善を図る。また、本発明は、モルトエキス中に含まれるマスキング成分及び色素成分を効率的に分離可能な方法を提供し、マスキング成分と同時に、着色対象となる可食性製品の呈味に影響を与えない茶系の天然色素を提供する。
【解決手段】麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液、またはその処理液を、吸着樹脂に通液させ、当該モルトエキス中に含まれるマスキング成分及び色素成分を分離する。マスキング成分は、吸着樹脂に上記モルトエキス原液、またはその処理液を通液させた後、10〜90v/v%のアルコール水溶液を用いて該樹脂から脱離することにより得られる。
【選択図】なし

Description

本発明は、モルトエキス中に含まれるマスキング成分に着目した発明であり、麦芽を水抽出して得られるモルトエキスからマスキング成分を分離する技術に関する。本発明で得られるマスキング成分は、可食性製品の不快味や不快臭を低減し、素材本来の風味を改善するマスキング剤として利用可能である。本発明はまた、マスキング成分が分離されたモルトエキスを色素として利用することに着目した発明であり、対象となる可食性製品の呈味に影響を与えない天然の茶系色素に関する発明である。
食品素材が本来有する風味や調味料の風味など、飲食品をはじめとした可食性製品にとって風味が消費者の嗜好に与える影響は大きい。しかし、食品素材によっては、タンパクや畜肉、魚肉、ビタミン、コラーゲン、ミルク等の各種素材に由来する特有の不快味や不快臭を呈し、飲食品に好ましくない風味を与える原因となっている。また、食酢や酸味料等は特有の酸味を有し、使用目的に応じて爽やかな酸味を付与することが可能であるが、酸味付与を目的としない飲食品や、酸味が苦手な人においては、その刺激や味は望まれないものであった。更に、飲食品はその製造工程において、レトルト殺菌等の加熱殺菌工程を経て調製される場合が多く、加熱殺菌により食品本来の風味が変化し、いわゆる加熱臭、レトルト臭と呼ばれる不快臭が飲食品に影響を与えることが問題とされていた。
各種飲食品の不快臭や不快味を低減するマスキング素材として、従来から、乳清ミネラル(特許文献1)、グルコン酸ナトリウムなどのグルコン酸の非毒性塩(特許文献2)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(特許文献3)などが知られている。しかし、例えばグルコン酸ナトリウムなどのグルコン酸の非毒性塩によるマスキングは、うま味を増すことにより相対的に酸味を減少させることにより得られる効果であるため、マスキング効果が不十分となるなど、高いマスキング効果を有する素材が求められていた。更に従来のマスキング素材は、不快臭といった臭いのマスキングには多少効果を有するものの、当該飲食品を喫食した際に舌で感じる不快味については到底マスキングすることができず、特に味覚で認知される不快味をマスキング可能な素材が切望されていた。
一方、モルトエキスは、麦芽又はこれを焙煎したものから抽出した麦芽汁を濃縮、糖化させたものであり、麦芽本来の風味やモルトエキス特有の風味を利用して、炭酸飲料に対するビール風味の香味付け(特許文献4)やパンの風味、食感改良(特許文献5)等に使用されてきた。しかし、モルトエキスは、それ自体が麦芽に由来する特有の苦味を有しており、当該モルトエキスから可食性製品のマスキング素材が得られることについて、何ら検討されてこなかった。
また、モルトエキスは使用する麦芽の種類や焙煎度等を調整することにより、茶系天然色素としての利用が期待できる。しかし、従来から汎用されているモルトエキスは、麦芽本来の風味やモルトエキス特有の風味付けを主目的として食品に利用されてきたため、着色料用途などの他目的で添加した場合にも、食品本来の風味に影響を与えてしまうといった課題を抱えていた。また、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5未満である、低い色価を有するモルトエキスを用いて可食性製品を所望の色に着色するためには、添加量の増加が必要となり、必然と食品に与える風味の影響が大きくなってしまう。一方、麦芽の種類、焙煎度等を調整して製造された濃い茶色を呈するモルトエキスは、少量の添加量で食品を所望の色に着色することが可能である。しかし、当該モルトエキスを用いた場合も、焙煎時に増加する呈味物質が食品の風味に新たな風味を付与してしまうといった課題を抱えていた。更には、着色用途に利用可能なモルトエキスは、可食性製品の呈味をマスキングする作用も有しており、可食性製品の呈味が低減されてしまうといった課題も抱えていた。
特許文献6には、穀類を加水分解して得られる糖化液を多孔性樹脂層に通液することを特徴とする、水飴の風味改良方法が、特許文献7には、吸着剤を用いて麦汁、麦芽アルコール飲料から雑味成分の少なくとも一部を吸着除去することを特徴とする麦芽アルコール飲料の製法が開示されている。
しかし、特許文献6及び7のいずれの特許文献にも、麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上と、高い色価を有するモルトエキスに由来するマスキング成分に着目して、当該マスキング成分を分離することについて何ら検討されていない。例えば、特許文献6に開示されている対象原料は穀類を加水分解して得られる糖化液であり、麦芽を水抽出して得られる、高分子のメイラード化合物を含有する本願発明のモルトエキスとは原料自体が異なる。特許文献7の実施例には、麦芽アルコール飲料をイオン交換樹脂や合成吸着樹脂等に吸着させた例が開示されているが、一般的な麦芽アルコール飲料の500nmにおける吸光度を基に算出した色価は0.01〜0.02程度である。
更に、本願発明は、上記メイラード化合物を合成吸着樹脂に吸着させることなく、色素成分として利用する技術である一方、特許文献6及び7に開示された技術は、穀類の加水分解物、麦芽アルコール飲料中のメイラード反応生成物を吸着樹脂に吸着させて除去する技術であり、本願発明に相反する。
特開2008−54667号公報 国際公開第00/48475号パンフレット 特開2002−65177号公報 特開2003−250503号公報 特開2001−120163号公報 特開2004−173551号公報 国際公開第02/004593号パンフレット
本発明は、例えば、タンパクや畜肉、魚肉、ビタミン、コラーゲン、ミルク等の各種食品素材に由来する特有の不快味、不快臭や、加熱調理や保存時に発生する加熱臭、レトルト臭、劣化臭などを顕著にマスキングし、飲食品の風味改善が望める、マスキング剤を提供することを目的とする。特に、従来のマスキング素材は不快臭に効果を奏するものが多く、味覚で認知される不快味に対するマスキング効果が低いことが課題とされていた。本発明では、かかる不快味に対しても顕著なマスキング効果を有するマスキング剤を提供する。更には、素材の種類に限定されず、汎用性が高いマスキング剤や、酸乳飲料や食酢、漬物の酸味や辛味などの刺激味を低減することが可能なマスキング剤を提供することを目的とする。
本発明はまた、着色対象となる可食性製品の呈味に影響を与えないモルトエキス、具体的には、茶系天然色素としての利用が可能なモルトエキスを提供することを目的とする。
本発明者らはモルトエキスについて各種検討を行ったところ、麦芽を水抽出物して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上、好ましくは10以上であるモルトエキスに着目し、当該モルトエキス中に、着色用途として利用可能な色素成分、並びにマスキング剤として利用可能な、マスキング成分が含まれることを見出した。色価の上限は特にないが、着色用途を考慮すると、5〜100の色価の範囲であることが望ましい。
そして、麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上であるモルトエキス原液、又はその処理液を吸着樹脂に通液させた後、10〜90v/v%のアルコール水溶液を用いて、該樹脂から脱離して得られた抽出液に含まれる成分が、可食性製品の不快味や不快臭に対して顕著なマスキング効果を奏することを見出して本発明に至った。更に、本発明者らは、本方法によりモルトエキスからマスキング成分を分離することができ、麦芽を水抽出して得られるモルトエキス原液若しくはその処理液を吸着樹脂に通液して得られる回収液(通過液)が、対象となる可食性製品の呈味に影響を与えることなく可食性製品を茶色に着色可能な、茶系天然色素として利用できることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したものであり、以下の態様を有する;
項1.麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液またはその処理液を、吸着樹脂に通液させることを特徴とする、モルトエキスに含まれる、マスキング成分及び色素成分を分離する方法。
項2.吸着樹脂が、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂である、項1に記載の分離方法。
項3.麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液またはその処理液を、吸着樹脂に通液後、10〜90v/v%のアルコール水溶液を用いて該樹脂からマスキング成分を脱離する方法。
項4.麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液またはその処理液を、吸着樹脂に通液した回収液(通過液)から色素成分を得る方法。
項5.項3に記載の方法によって得られるマスキング成分を含有する、可食性製品の不快臭及び/又は不快味のマスキング剤。
項6.項3に記載の方法によって得られるマスキング成分を、可食性製品に添加することを特徴とする、可食性製品の不快味及び/又は不快臭のマスキング方法。
項7.項4に記載の方法によって得られる色素成分を含有する、茶系天然色素。
本発明により、タンパクや畜肉、魚肉、ビタミン、コラーゲン、ミルク等の食品素材に由来する特有の不快味、不快臭や、加熱調理や保存時に発生するレトルト臭、劣化臭などの不快臭を顕著にマスキングし、可食性製品の風味改善を図れるマスキング剤を提供することが可能となった。特に、本発明のマスキング剤は、味覚で認知される不快味に対するマスキング効果が顕著に高い。更に、本発明のマスキング剤は不快味のマスキング効果に加えて、酸乳飲料や食酢、漬物の酸味や辛味に由来する刺激味の低減効果にも優れる。これにより、酸味や辛味を呈する素材や調味料を用いた場合であっても、まろやかな呈味を有する可食性製品を提供することが可能である。
また、本発明の分離方法によれば、麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液、またはその処理液中に含まれる色素成分及びマスキング成分を効果的、効率的に分離することが可能である。
具体的には、上記モルトエキス原液又はその処理液を吸着樹脂に通液することにより、マスキング成分を吸着樹脂に吸着させ、効果的に分離することが可能である。一方で、通過液(回収液)から、マスキング成分が除去された色素成分を得ることができ、当該色素成分を含有する本発明の茶系天然色素は、着色対象となる可食性製品の呈味に影響を与えることなく、着色することが可能であるため、極めて汎用性が高い。
本発明は、原料として、麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上、好ましくは10以上、更に好ましくは20以上のモルトエキス原液、またはその処理液を用いる。本発明において、「500nmにおける吸光度を基に算出した色価」とは、モルトエキスを含有する水溶液の500nmにおける吸光度を測定し、該吸光度を10w/v%溶液の吸光度に換算した数値である。
当該モルトエキスは、麦芽自体の焙煎度を高める方法、ミュンヘン麦芽、ロースト麦芽、チョコレート麦芽及びカラメル麦芽等を麦芽原料として用いる方法、又はUF膜等を用いてモルトエキスの濃縮を繰り返す方法などを適宜選択することにより得ることができる。一方、原料として、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5未満であるモルトエキスを用いた場合は、同様の吸着樹脂処理を用いても、本発明のようにマスキング成分及び色素成分を得ることが困難である。
本発明で用いるモルトエキスは、麦芽を水抽出して得られるモルトエキスであり、具体的には、麦芽又はこれを焙煎したものに対して0.5〜100倍量、好ましくは5〜20倍量の水を用いて、室温〜100℃で30分間〜15時間、麦芽を浸漬し、必要に応じて攪拌することにより抽出、糖化されたモルトエキスを得ることができる。このようにして得られるモルトエキス原液は通常シロップ状であり、本発明では当該シロップ状のモルトエキス原液をそのまま、もしくは水で希釈した処理液に対して吸着樹脂処理を行うことができる。なお、モルトエキス原液もしくは当該モルトエキス原液を希釈した処理液を乾燥した粉末品のモルトエキスを使用する場合は、再度、水に溶解した溶液(モルトエキス処理液)に対して吸着樹脂処理を行うことができる。なお、本発明は、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液に含まれる色素成分及びマスキング成分に着目した発明であるため、原料として、色価が5以上のモルトエキスを用いていれば、吸着樹脂に通液させる際のモルトエキス処理液の色価は5未満であっても構わない。
吸着樹脂は、イオン交換基を持たない各種合成吸着樹脂を使用することができる。特に制限されないが、具体的には、スチレン−ジビニルベンゼン系またはアクリル系の合成吸着樹脂を使用することができる。商業的に入手可能なスチレン−ジビニルベンゼン系の合成吸着樹脂としては、ダイヤイオンHP10、ダイヤイオンHP20、ダイヤイオンHP21、ダイヤイオンHP40、及びダイヤイオンHP50;セパビーズSP70、セパビーズSP2MG、セパビーズSP207、セパビーズSP700、セパビーズSP825、セパビーズSP850(以上、商標、三菱化学(株)製);アンバーライトXAD−4;デュオライトS874、デュオライトS876(以上、商標、Rohm&Haas社製)が例示される。アクリル系の合成吸着樹脂としてはアンバーライトXAD−7、アンバーライトXAD−8、アンバーライトXAD−2000;デュオライトS877(以上、商標、Rohm&Haas社製)を例示することができる。
使用される合成吸着樹脂としては、好ましくはスチレン−ジビニルベンゼン系の多孔質重合体を使用した合成吸着樹脂である。吸着樹脂は、制限はされないが、比表面積として650〜700m/gを有していることが好ましい。また、細孔径30〜110Åの樹脂を用いることが好ましい。
モルトエキス原液またはその処理液の、合成吸着樹脂への通液速度は、好ましくはSV1〜2の範囲である。かくして通液させた溶液(通過液)は、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液、またはその処理液に含まれるマスキング成分が合成吸着樹脂に吸着され、効果的に除去されている。更に、本吸着処理工程を経た通過液は、モルトエキス特有の香味も効果的に除去されており、当該溶液に含まれる色素成分を茶系天然色素として食品に利用することによって、可食性食品の呈味に影響を与えることなく、目的とする色調に食品を着色することが可能となった。好ましくは、当該通過液を濃縮した濃縮液、もしくは通過液を粉末化した粉末を本発明の茶系天然色素として好適に使用できる。その他、ペースト品などその使用形態は問わない。
本発明で得られた茶系天然色素の可食性製品への添加量は、目的とする色調によって適宜調整することが可能である。一例として、色価を5に設定した時の添加量として、可食性製品中、通常0.04〜3質量%、好ましくは0.2〜2質量%の範囲で適宜選択調整することができる。
本発明では、上記通液処理後、10〜90v/v%、好ましくは30〜70v/v%、更に好ましくは50〜60v/v%のアルコール水溶液を用いて、該樹脂に吸着したマスキング成分を脱離させる。アルコール水溶液として用いられるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコールを例示することができる。好ましくは、エタノールである。アルコール水溶液の使用量は適宜調整することが可能であるが、好ましくは、モルトエキス原液またはその処理液に対して2〜10倍量、更に好ましくは3〜4倍量使用することができる。アルコール濃度が90v/v%より高いアルコール水溶液、若しくは10v/v%未満のアルコール水溶液や水を用いると、目的とするマスキング効果が得られない。なお、本発明では、吸着樹脂にモルトエキス原液またはその処理液を通液させた後、アルコール水溶液を用いる前に、水で吸着樹脂を洗浄する工程を含むことが好ましい。
本発明は、かくして得られた抽出液に含まれる成分が、可食性製品の不快味や不快臭に対して顕著なマスキング効果を奏することを見出して至った発明である。詳細は不明であるが、マスキング効果を奏する成分は、分子量が約2,000〜50,000の範囲であると考えられる。本発明では、当該抽出液をそのままマスキング剤として使用可能である。好ましくは、抽出液を濃縮した濃縮液、もしくは抽出液を粉末化した粉末を本発明のマスキング剤として好適に使用できる。その他、ペースト品などその使用形態は問わない。
例えば本発明のマスキング剤は、得られた抽出液(アルコール溶出液)をロータリーエバポレーターで減圧下に40〜60℃で濃縮することで、液体タイプのマスキング剤を得ることができる。粉末タイプのマスキング剤は、得られた抽出液(アルコール溶出液)を、そのまま或いは抽出液にデキストリン、乳糖、トレハロース等の賦形剤を加えて混合した後、スプレードライやフリーズドライにて粉末化することにより得ることができる。
本発明は麦芽を水抽出して得られるモルトエキスを原料としているため、通常であれば脂溶性成分は除去され、水溶性成分が抽出してくると考慮されるが、本発明では意外にも、脂溶性成分の吸着効果が高い吸着樹脂を用いることにより、上記モルトエキスに由来するマスキング成分を分離できることを見出した発明である。
かくして得られたマスキング剤は、各種不快味や不快臭に対して顕著なマスキング効果を有する。
例えば、ミルクや大豆タンパクなどのタンパクや、ペプチドなどのタンパク分解物に由来する不快味、畜肉、魚肉特有の不快味、ビタミンやミネラル、コラーゲンなどの機能性素材が有する不快味、果汁・野菜汁特有の不快臭など、各種素材が有する不快味や不快臭に対して顕著なマスキング効果を奏する。また、食酢や酸味料を含有した飲料、ドレッシングやマヨネーズ等の調味料、食酢、酸乳、漬物等の酸味を有する可食性製品に対する酸味低減効果や、唐辛子などの香辛料を含有した可食性製品に対する辛味低減効果といった刺激味の低減効果も奏し、可食性製品の呈味をまろやかにすることも可能である。
更に、本発明のマスキング剤は、飲食品製造時の加熱調理、加熱殺菌工程によって発生する加熱臭やレトルト臭をも改善することが可能である。例えば、牛乳、脱脂粉乳などの乳製品は、加熱調理や加熱殺菌工程によって不快臭を発生し、更に不快味を呈することがあるが、本発明のマスキング剤を用いることにより、当該不快臭や不快味を顕著にマスキングすることが可能である。レトルト臭は、レトルト殺菌、例えば121℃で20〜30分間といった過酷な殺菌条件で飲食品を殺菌した際に発生する特有の不快臭であるが、本発明のマスキング剤はレトルト臭に対しても高いマスキング効果を奏する。更に、本発明のマスキング剤は、調理後の飲食品の保存時に生じる劣化臭をマスキングする効果にも優れる。
本発明のマスキング剤の可食性製品に対する添加量は、対象とする可食性製品によっても適宜調整することが可能である。具体的には、可食性製品に対し、抽出成分が固体分として0.001〜0.5質量%、好ましくは0.005〜0.1質量%、更に好ましくは0.02〜0.05質量%である。マスキング剤を溶液形態で用いる際は、マスキング成分が上記固体分相当量となるよう用いることができる。
本発明はまた、可食性製品の不快味及び/又は不快臭を低減する方法を提供する。不快味及び/又は不快臭の低減方法は、麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液、またはその処理液を吸着樹脂に通液させた後、10〜90v/v%のアルコール水溶液を用いて該樹脂から脱離して得られた成分を可食性製品に添加することにより達成し得る。可食性製品に対する当該成分の添加量は固体分として0.001〜0.5質量%、好ましくは0.005〜0.1質量%、更に好ましくは0.02〜0.05質量%である。
本発明のマスキング剤が対象とする可食性製品には、飲食品のみならず、経口投与される医薬品、医薬部外品等も含む。本発明のマスキング剤は、これら可食性製品が有する不快味(苦味、エグ味など)のマスキング効果にも優れ、様々な分野への応用も可能である。
更に、本発明のマスキング剤は、可食性製品のマスキング効果のみならず、可食性製品が有する塩味の増強効果にも優れる。例えば、近年の健康嗜好に伴い、減塩された飲食品が種々開発されているが、消費者にとって塩味が低下した食品は物足りなさを感じることもあった。しかし、本発明のマスキング剤を用いることにより、塩味を呈する食品の塩味を増強させることが可能である。
以上のように、本発明は、麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキスに、茶系天然色素として利用可能な色素成分及びマスキング成分が含まれることに着目し、両者の分離に着目した発明であり、上記モルトエキスを原料とすることにより、低い製造コストで効率的に茶系天然色素及びマスキング成分の両成分を取得することが可能であり、産業上の利用可能性が非常に高い。
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは、「質量部」、「%」は「質量%」を意味するものとする。文中「*」印を付した製品は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印を付した商標は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
実験例1 茶系天然色素及びマスキング成分の分離
モルトエキス原液100gをイオン交換水400gに添加し、20%モルトエキス(処理液)を調製した。なお、当該モルトエキス原液は、麦芽を焙煎した後、5〜20倍量の水に、室温〜100℃で30分間〜15時間浸漬し、抽出した麦芽汁を糖化することによって調製した、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が20のモルトエキスである。
得られたモルトエキス処理液を濾布で濾過後、合成吸着樹脂(スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂、比表面積として650〜700m/g、孔径30〜110Åを有する樹脂を使用)100mLにSV=1、温度25℃の条件で通液した。通過液(回収液)を40〜50℃で減圧濃縮を行い、茶系天然色素(本発明品:500nmにおける吸光度を基に算出した色価が約20の色素)を得た。得られた茶系天然色素を用いて各種飲食品を着色した。
一方、モルトエキスを吸着処理に通液後、吸着樹脂の等量の水で洗浄後、60v/v%のエタノール水溶液200mLを用いて当該樹脂よりマスキング成分を溶出し、完全に溶媒を除去して粉末タイプのマスキング剤(本発明品)を得た。得られたマスキング剤(本発明品)を用いて各種飲食品のマスキング効果を確認した。
一方、比較のために、樹脂からの溶出に用いるアルコール溶液を95v/v%エタノール溶液に変更する以外は本発明品と同様にして、比較品を調製した。
実施例1 漬物のマスキング
表1の処方に従って漬物を調製した。具体的には、表1に示す各調味料を混合した調味液に刻み白菜漬、刻みダイコン漬、刻みネギ漬、刻みニンジン漬を添加し、漬物(実施例1)を調製した。一方、比較のために本発明のマスキング剤(本発明品)を添加しない以外は、実施例1と同様にして漬物(ブランク)を調製し、本発明品の代わりに比較品を用いて比較例1の漬物を調製した。
ブランク及び比較例1の漬物は大根や魚醤に由来する不快味、不快臭が強い漬物であったが、本発明品を添加することにより得られた実施例1の漬物は、大根や魚醤に由来する不快味や不快臭が顕著に低減され、まろやかな呈味を有する漬物であった。更に、実施例1の漬物は特有の酸味や刺激味も顕著にマスキングされており、食しやすい漬物であった。
実施例2 コラーゲンのマスキング
表2の処方に従ってコラーゲン飲料を調製した。具体的には、水を撹拌しながら表2に示す原料を加えた後、93℃まで加熱した。93℃に達した時点で加熱をやめ、蒸発水を補正し、ボトルに全満充填した。ボトルを2分間倒置後、冷却することによりコラーゲン飲料(実施例2)を調製した。一方、比較のために本発明のマスキング剤(本発明品)を添加しない以外は、実施例2と同様にして、コラーゲン飲料(ブランク)を調製し、本発明品の代わりに比較品を用いて比較例2のコラーゲン飲料を調製した。
注1)(株)ニッピ製「ニッピペプタイドPS−1」使用
ブランク及び比較例2のコラーゲン飲料は、コラーゲン特有の不快味が前面に押し出され、飲用し難い飲料であった。一方、本発明のマスキング剤(本発明品)を添加した実施例2のコラーゲン飲料は、コラーゲンを14%と高添加量含有しているにも関わらず、顕著にコラーゲン特有の不快味がマスキングされ、非常に飲用に優れたコラーゲン飲料であった。
実施例3 豆乳飲料のマスキング
表3の処方に従って豆乳飲料を調製した。具体的には、インスタントコーヒー、コーヒーエキス、砂糖、乳化剤、炭酸水素ナトリウムを50部の水に添加、混合後、豆乳と残りの水及びマスキング剤を加え、瞬間殺菌機にて120℃で30秒殺菌して容器に充填することにより、豆乳飲料(実施例3)を調製した。一方、比較のために本発明のマスキング剤(本発明品)を添加しない以外は、実施例3と同様にして、豆乳飲料(ブランク)を調製し、本発明品の代わりに比較品を用いて比較例3の豆乳飲料を調製した。
本発明のマスキング剤(本発明品)を添加することにより、ブランク及び比較例3に比べて顕著に豆乳臭が低減され、飲用しやすい豆乳飲料を得ることができた(実施例3)。
実施例4 黒酢飲料のマスキング
表4の処方に従って黒酢飲料を調製した。具体的には、エリスリトール、難消化性デキストリン、甘味料、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸を50部の水に添加して溶解させた後、純玄米黒酢、りんご5倍濃縮果汁、ハチミツ、香料及びマスキング剤を加え、瞬間殺菌機にて120℃で30秒間殺菌し、黒酢飲料(実施例4)を調製した。一方、比較のために本発明のマスキング剤(本発明品)を添加しない以外は、実施例4と同様にして、黒酢飲料(ブランク)を調製し、本発明品の代わりに比較品を用いて比較例4の黒酢飲料を調製した。
ブランク及び比較例4の黒酢飲料は、黒酢特有の酸味及び刺激味(酢かど)が強い飲料であった。一方、本発明のマスキング剤(本発明品)を添加した実施例4の黒酢飲料は、黒酢特有の酸味や刺激味(酢かど)が顕著に低減され、呈味がまろやかな飲用しやすい黒酢飲料であった。
実施例5:コーラ風飲料の着色
実験例1で得られた茶系天然色素(本発明品)を用いて、表5の処方に従ってコーラ風飲料を着色した。具体的には、50部の水に果糖ぶどう糖液糖、砂糖、リン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、本発明品(茶系天然色素)、及びコーラフレーバーを加えて溶解させた後、水で全量補正してから70℃20分間加熱殺菌し、コーラ風飲料(実施例5)を調製した。一方、比較のために本発明の茶系天然色素の代わりに、実験例1におけるモルトエキス原液(色価20)を用いる以外は、実施例5と同様にしてコーラ風飲料を着色した。
比較としてモルトエキス原液を用いて着色されたコーラ風飲料は、モルトエキス特有の香味が付与され、コーラ特有の風味を保持することができなかった。更には、モルトエキス中に含まれるマスキング成分により、コーラフレーバーのフレーバーリリースが低減し、コーラ特有の酸味にも欠けていた。
一方、本発明品を用いたコーラ風飲料は、目的とする濃茶色に着色され、かつ、モルトエキス特有の香味や、マスキング成分がコーラ風飲料の呈味に影響を与えることがなく、本来の呈味に優れたコーラ風飲料であった。
実施例6:コーヒーゼリーの着色
実験例1で得られた茶系天然色素(本発明品)を用いて、表6の処方に従ってコーヒーゼリーを着色した。具体的には、水と果糖ぶどう糖液糖を撹拌しながら、砂糖とゲル化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間撹拌溶解した。次いで、インスタントコーヒー及び本発明の茶系天然色素を添加し、重量を補正後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することによりコーヒーゼリーを調製した。
一方、比較のために本発明の茶系天然色素の代わりに、実験例1におけるモルトエキス原液(色価20)を用いる以外は、実施例6と同様にしてコーヒーゼリーを着色した。
注1)ゲルアップ※WM*使用
比較としてモルトエキス原液を用いて着色されたコーヒーゼリーは、モルトエキス特有の香味が付与され、コーヒー特有の風味を保持することができなかった。更には、モルトエキス中に含まれるマスキング成分により、コーヒーのフレーバーリリースやゼリーの呈味が低減してしまっていた。
一方、本発明品を用いたコーヒーゼリーは、目的とする濃茶色に着色され、かつ、モルトエキス特有の香味や、マスキング成分がコーヒーゼリーの呈味に影響を与えることがなく、コーヒー本来の呈味に優れていた。
本発明により、タンパクや畜肉、魚肉、ビタミン、コラーゲン、ミルク等の食品素材に由来する特有の不快味、不快臭や、加熱調理や保存時に発生するレトルト臭、劣化臭などの不快臭を顕著にマスキングし、可食性製品の風味改善を図れるマスキング剤を提供することが可能となった。特に、本発明のマスキング剤は、味覚で認知される不快味に対するマスキング効果が顕著に高い。更に、本発明のマスキング剤は不快味のマスキング効果に加えて、酸乳飲料や食酢、漬物の酸味や辛味に由来する刺激味の低減効果にも優れる。これにより、酸味や辛味を呈する素材や調味料を用いた場合であっても、まろやかな呈味を有する可食性製品を提供することが可能である。
また、本発明の分離方法によれば、マスキング成分が除去された茶系天然色素を提供することが可能である。本発明の茶系天然色素は、着色対象となる可食性製品の呈味に影響を与えることなく、着色することが可能であるため、極めて汎用性が高い。更に、本発明の分離方法によれば、低い製造コストで効率的に茶系天然色素及びマスキング成分の両者を取得することが可能であり、産業上の利用可能性が非常に高い。

Claims (7)

  1. 麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液、またはその処理液を、吸着樹脂に通液させることを特徴とする、モルトエキスに含まれる、マスキング成分及び色素成分を分離する方法。
  2. 吸着樹脂が、スチレン−ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂である、請求項1に記載の分離方法。
  3. 麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液またはその処理液を、吸着樹脂に通液後、10〜90v/v%のアルコール水溶液を用いて該樹脂からマスキング成分を脱離する方法。
  4. 麦芽を水抽出して得られる、500nmにおける吸光度を基に算出した色価が5以上のモルトエキス原液、またはその処理液を、吸着樹脂に通液した回収液(通過液)から色素成分を得る方法。
  5. 請求項3に記載の方法によって得られるマスキング成分を含有する、可食性製品の不快臭及び/又は不快味のマスキング剤。
  6. 請求項3に記載の方法によって得られるマスキング成分を、可食性製品に添加することを特徴とする、可食性製品の不快味及び/又は不快臭のマスキング方法。
  7. 請求項4に記載の方法によって得られる色素成分を含有する、茶系天然色素。
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