以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の一実施の形態にかかるニードルバルブは、流入口と流出口を有する弁本体内の弁室に傾斜面を有する弁座を設け、この弁座に離接するニードルによって流量制御を行うニードルバルブにおいて、前記ニードルは、前記傾斜面に対し離接するOリングを有し、前記Oリングは、エラストマー中にカーボンナノファイバーを含む炭素繊維複合材料で形成され、前記Oリングのつぶし率を11%以下に設定したことを特徴とする。
図1は、本発明の一実施形態にかかるニードルバルブVの縦断面図である。ニードルバルブVの弁本体1には、流入口2と、流出口3と、流入口2から流出口3への流路に設けた弁室4と、弁室4と連通する軸装穴5と、が設けられている。弁室4には、流入口2に開口して装着された環状の弁座6と、弁座6を弁室4内に固定する筒体13と、弁座6に離接するニードル7と、が配置されている。ニードル7は、弁座6に着座する円錐状のテーパ部7aと、テーパ部7aよりも大きい外径を有するフランジ部7bと、テーパ部7aとフランジ部7bとの間に形成された環状の溝からなる外周溝10と、外周溝10に装着されたOリング9と、フランジ部7bからテーパ部7aとは反対方向へ延びる軸部8と、軸部8の端部に設けられた軸部8よりも大きい外径を有する係合片16と、を有している。弁本体1の軸装穴5には、筒体13の弁座6と対向する側に保持体14と、筒状のブッシュ17と、筒体13と保持体14との間に配置したガイド体31と、係合片16と保持体14との間に配置されたスプリング15と、軸部8の端部に当接してブッシュ17の内壁内を移動可能な軸受け30と、が設けられている。ブッシュ17は、環状の断熱プレート32内に装着され、ブッシュ17と断熱プレート32には、ブッシュ17の内部から外部へ連通する連通孔32a,17aが設けられている。
弁本体1には断熱プレート32及びブッシュ17を介してアクチュエータ20が取り付けられている。アクチュエータ20は、筐体20a内にネジ固定された直動型電動モータ18を有する。直動型電動モータ18は、図示しないロータと、ネジ部が形成された出力軸(スクリューシャフト)19と、ロータの回転力を出力軸19に伝達する図示しない回転伝達機構などから成り、このロータの回転力は、出力軸19によって直線運動に変換され、この出力軸19が軸方向に摺動するように構成されている。
ニードルバルブVは、流体、特に水系流体及び油系流体の流量制御に優れている。水系流体としては、例えば、清水、工業用水、温水、熱水、ボイラー給水、蒸気、重水など、あるいは、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、フッ化ナトリウムなどの中性塩類水溶液などを挙げることができる。また、油系流体としては、例えば、一般鉱物油、ガソリン、重油、灯油、ナフサ、タール、原油、燃料油、軽油、動植物油、作動油、絶縁油などを挙げることができる。
図2は、図1におけるニードルバルブの開弁状態を示した部分拡大断面図である。図3は、図1におけるニードルバルブの閉弁状態を示した部分拡大断面図である。図4は、Oリングのつぶし率を説明する模式図である。弁座6は、弁室4の流入口2側に設けた段部1bにシールリング21を介して装着されており、この弁座6の流入口2側の開口部である弁口6bと、上方(流入口2から弁室4へ向かう方向)に向って拡がる傾斜面6aと、弁口6bと傾斜面6aとを連結する角部である縮径部6cと、が形成されている。なお、本例では金属製の弁座6を採用しているが、樹脂製、或はその他材料から成るものでもよく、実施に応じて任意に採用することができる。勿論、その他の構成部品も同様に実施に応じて任意に採用することができる。
ニードル7の先端の外周部は先端に向けて縮径する円錐状のテーパ部7aが形成され、テーパ部7aの上方位置すなわちテーパ部7aとフランジ7bとの間には外周溝10が設けてあり、着座時にこのニードル7と弁座6との間を密封するOリング9が装着されている。この外周溝10には、外周溝10のテーパ部7a側を下方に向けて傾斜するように拡げて空隙部10aが形成され、且つ、この外周溝10におけるOリング9が当接する面を円弧面10bが形成され、この円弧面10bの半径をOリング9の半径と略一致させている。この外周溝10の構造によって、弁微開状態における流体圧の影響を軽減させ、所謂ブローアウト現象の発生を防ぐ機能が発揮される。
ニードル7は、ガイド体31と、円盤状の保持体14と、を組み合わせて形成される貫通孔31aによって軸部8が案内される。筒体13と保持体14は、軸部8の周囲にダストシール33、ガイド体31及びOリング11を装着するための取付溝12を形成する。なお、筒体13、ガイド体31、及び保持体14は、樹脂製とすることができる。ニードル7は、弁本体1に組み付けられる前に、軸部8に筒体13とダストシール部材33とガイド体31とOリング11とを介して保持体14を組付け、さらに、この保持体14の上部に、スプリング15の一端を取り付け、このスプリング15の他端を軸部8に設けた係合片16によって圧縮しながら係止させて、ニードルユニット23として組み立てることができる。
弁本体1は、弁室4内の段部1b上に弁座6を載置し、ニードルユニット23を弁室4と連通形成した軸装穴5から弁本体1に装入して弁座6の上面に位置させた後、軸装穴5からブッシュ17を装入して保持体14の上面に位置させ、軸受け30をブッシュ17内に装入して軸部8の押し下げることで、ニードル7を介して弁座6を調芯することができる。本実施の形態では、ニードル7のテーパ部7aにおける最大径を有する拡径部7cが、弁座6の傾斜面6a下方の縮径部6cの一部を押圧しながら調芯することができる。弁座6の調芯の完了後、ボルト等の取付部品を用いて、アクチュエータ20の筐体20aが断熱プレート32を介して弁本体1に固定されると、ブッシュ17を介して軸装体である筒体13と保持体14が押圧され、弁座6も弁本体1に固定される。従って、本実施の形態ではアクチュエータ20の設置が完了したとき、ニードル7の軸芯oと弁座6の軸芯oとが一致した状態となる。
ニードル7は、直動型電動モータ18の出力軸19の先端19aが軸受け30を介してニードル7の軸部8の端部を押圧している。また、ニードル7は、スプリング15の付勢力によって常時軸受け30を押圧している。即ち、ニードル7の昇降動が直ちに直動型電動モータ18の駆動に追随可能となり、弁の開度を正確に制御することができる。
図3に示すように、ニードル7の外周溝10に取り付けられたOリング9は、フランジ7bの下面が弁座6の上面に当接した閉弁時において、弁座6の環状の傾斜面6aに対して押しつぶされるように接触して流路を液密に閉鎖することができる。Oリング9は、平坦な傾斜面6aに対して面接触し、角部である縮径部6cには接触することなく流路を閉鎖することができる。Oリング9は、エラストマー中にカーボンナノファイバーを含む炭素繊維複合材料で形成される。カーボンナノファイバーを含む炭素繊維複合材料を用いることで、Oリング9の剛性を向上させることができ、Oリング9のつぶし率が小さくても優れたシール性を有することができる。このように、Oリング9のつぶし率を小さくすることで、Oリング9が弁座6の傾斜面6aから離接する瞬間における優れた微小流量制御特性を得ることができる。一般にOリングのつぶし率を高くするとシール性は向上するが、一方で前記ヒステリシスは悪くなり、ニードルバルブが本来的に有する優れた流量特性を損なってしまう。本発明においては、炭素繊維複合材料を用いたOリングのつぶし率を11%以下という従来技術に比べ低めに設定することで、シール性を落とすことなく優れた流量特性を得ることができる。より詳細には、剛性の高いOリング9を用いることによって、開弁動作時においてOリング9が弁座6から離れた直後の微小流量と、閉弁動作時においてOリング9が弁座6に接触する直前の微小流量との差を小さくすることができる。
Oリング9に用いられる炭素繊維複合材料の50%伸び時の応力及び25℃における貯蔵弾性率が高くなると、ニードルバルブVにおける微小流量制御特性が改善される傾向があることを見いだした。
Oリング9に用いられる炭素繊維複合材料は、50%伸び時の応力が7.0MPa以上であることができる。炭素繊維複合材料の50%伸び時の応力は、具体的には、7.0MPa以上、30.0MPa以下とすることができる。50%伸び時の応力が7.0MPa以上の炭素繊維複合材料のOリング9を用いることでニードルバルブVにおける微小流量特性が改善され、また、50%伸び時の応力が30.0MPa以下であれば成形性に支障を来すことなく高い剛性を有するOリング9を得ることができる。特に、炭素繊維複合材料は、50%伸び時の応力が8.0MPa以上、22.0MPa以下とすることができる。
また、Oリング9に用いられる炭素繊維複合材料は、25℃における貯蔵弾性率が60MPa以上であることができる。炭素繊維複合材料の25℃における貯蔵弾性率は、具体的には、60MPa以上、250MPa以下とすることができる。25℃における貯蔵弾性率が60MPa以上、特に70MPa以上の炭素繊維複合材料のOリング9を用いることがニードルバルブVにおける微小流量特性の改善には好ましく、また、250MPa以下、特に200MPa以下であれば成形性に支障を来すことなく高い剛性を有するOリング9を得ることができる。
さらに、Oリング9に用いられる炭素繊維複合材料は、JIS K6262に基づいて、圧縮率25%、175℃、22時間の条件で測定した圧縮永久ひずみが10.0%以下であることができる。カーボンナノファイバーを配合することによって炭素繊維複合材料の圧縮永久ひずみは大きくなる傾向があるが、嵩密度の低いカーボンナノファイバーを用いることによって炭素繊維複合材料の圧縮永久ひずみを小さくすることができる。圧縮永久ひずみの小さい炭素繊維複合材料を用いたOリング9は、ニードルバルブVにおける長期的に安定した流量制御性を得ることができる。炭素繊維複合材料の圧縮永久ひずみは、具体的には、1.0%以上、10.0%以下であることができる。炭素繊維複合材料の圧縮永久ひずみが10.0%を超える場合には、製品寿命まで安定した流量制御性を得ることができない可能性が高い。圧縮永久ひずみが1.0%以上、10.0%以下の炭素繊維複合材料のOリング9を用いることでニードルバルブVにおける長期的に安定した流量特性が得ることができる。さらに、炭素繊維複合材料は、1.0%以上、9.0%以下であることができ、特に、炭素繊維複合材料は、1.0%以上、7.0%以下であることができる。ここで、ゴムにおいて最も一般的な物性測定である常態物性値として、硬さ、伸び、引張強さ、引張応力、引裂き強さ等がある。特にシール性の大小を示すには引張応力(σ)を評価するのが良い。そこで、本発明においては、ニードルバルブのような低変形時の応力を示す値としてσ50を用いるのが適している。
また、超微小変形時の応力を示す貯蔵弾性率E’を用いることで、σ50と合わせて、ニードルバルブ用のOリングを評価するのが適している。
本実施の形態において、傾斜面6aの傾斜角度は、約45度に設定している。これにより、ニードルバルブVのOリング9のつぶし率は、閉弁時において、11%以下に設定されている。具体的には、Oリング9のつぶし率は、3%より大きく、11%以下とすることができる。また、Oリング9のつぶし率が3%より大きければ閉弁時における流体の微小漏れを確実に防止し、11%以下であればOリングの寿命をほとんど低下することなく微小流量制御が可能である。特に、Oリングのつぶし率は、8%以上、10%以下とすることができる。なお、本発明において、傾斜面6aの傾斜角度は、ニードル7の軸部8の軸芯oに直交する仮想平面cに対する傾斜面6aの角度であり、また、つぶし率kは、図4に示すように、その圧縮前すなわち開弁時における線径をa、圧縮後すなわち閉弁時における線径をbとして、下記式(1)で表わされる。
k=100×(a−b)/a・・・(1)
上述のような高い剛性を有するOリング9を採用することによって、Oリングに当接する弁座6の傾斜面6aは、ニードル7の軸部8の軸芯oに直交する仮想平面cに対する傾斜角度を大きく設定して、Oリングを傾斜面に面接触させることにより、Oリング自体の損傷を防止することができる。本実施の形態において、傾斜面6aの傾斜角度は、45度であるが、35度〜55度であることができ、特に40度〜50度であることができる。
なお、後述する図13に示す従来のニードルバルブV’においては、傾斜面6a’の傾斜角度は約30度であった。これにより、ニードルバルブV’のOリングのつぶし率は、閉弁時において18%〜20%程度となっていた。
また、Oリング9のつぶし率は、以下のような方法で調整することができる。
1.ニードル7のフランジ部7bと弁座6との当接位置を変更する。
2.直動型電動モータ18の出力軸19における先端19aの位置を変更する。
3.弁座6の傾斜面6aの形状(例えば角度)を変更する。
4.ニードル7の外周溝10の形状(例えば深さ)を変更する。
5.Oリング9の太さを変更する。
次に、Oリング9を形成する炭素繊維複合材料及びその製造方法について説明する。
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、エラストマー中にカーボンナノファイバーを含む。
本発明の一実施の形態に用いるカーボンナノファイバーは、平均直径(繊維径)が9nm〜110nmであることができ、さらに9nm〜20nmもしくは平均直径が60nm〜110nmであることができる。このようなカーボンナノファイバーは、その平均直径が比較的細いため、比表面積が大きく、マトリックスであるエラストマーとの表面反応性が向上し、エラストマー中におけるカーボンナノファイバーの分散不良を改善しやすい傾向がある。カーボンナノファイバーは、直径が9nm以上ではカーボンナノファイバーによってマトリックス材料を囲むように形成された微小セル構造が小さすぎず適度な柔軟性を有すると予測され、逆に110nm以下では微小セル構造が大きすぎず耐摩耗性の効果を有すると予測される。カーボンナノファイバーによって形成される微小セル構造は、カーボンナノファイバーが3次元に張り巡らされた網目構造によってマトリックス材料を囲むように形成されることができる。平均直径が60nm〜110nmのカーボンナノファイバーは、さらに70nm〜100nmであることができる。また、カーボンナノファイバーは、その表面のエラストマーとの反応性を向上させるために、公知の活性化処理を施すことができる。カーボンナノファイバーの平均直径は、電子顕微鏡による観察によって計測することができる。なお、本発明の詳細な説明においてカーボンナノファイバーの平均直径及び平均長さは、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノファイバーのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。炭素繊維複合材料の圧縮永久ひずみを小さくするために、カーボンナノファイバーの嵩密度を30〜120kg/m3とすることができ、さらに、カーボンナノファイバーの嵩密度を40〜110kg/m3とすることができ、特に、カーボンナノファイバーの嵩密度を14〜100kg/m3とすることができる。
カーボンナノファイバーは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面(グラフェンシート)を巻いて筒状にした形状を有するいわゆる多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)であり、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
カーボンナノファイバーは、気相成長法によって得ることができる。気相成長法は、触媒気相合成法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:CCVD)とも呼ばれ、炭化水素等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させて未処理のカーボンナノファイバーを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアーガスとともに高温例えば400℃〜1000℃の反応温度に設定された反応炉に導入し、浮遊状態あるいは反応炉壁にカーボンナノファイバーを生成させる浮遊流動反応法(Floating Reaction Method)や、あらかじめアルミナ、酸化マグネシウム等のセラミックス上に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させてカーボンナノファイバーを基板上に生成させる触媒担持反応法(Substrate Reaction Method)等を用いることができる。例えば、平均直径が9nm〜20nmのカーボンナノファイバーは触媒担持反応法によって得ることができ、平均直径が60nm〜110nmのカーボンナノファイバーは浮遊流動反応法によって得ることができる。カーボンナノファイバーの直径は、例えば金属含有粒子の大きさや反応時間などで調節することができる。
本発明の一実施の形態に用いるエラストマーは、カーボンナノファイバーを含むことによって所望の剛性が得られるエラストマーから適宜選択して用いることができる。このようなエラストマーとしては、例えば、3元系の含フッ素エラストマーなどを挙げることができる。3元系の含フッ素エラストマーは、分子中にフッ素原子を含むフッ化ビニリデン系の合成ゴムであり、3元系フッ素ゴムとも呼ばれ、例えば、フッ化ビニリデン(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−テトラフルオロエチレン(TFE)3元共重合体(VDF−HFP−TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)−パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(FMVE)−テトラフルオロエチレン(TFE)3元共重合体(VDF−HFP−TFE)などが挙げられる。3元系の含フッ素エラストマーとしては、例えば、デュポン社製の商品名バイトン、ダイキン工業社製の商品名ダイエル、ソルベイソレクシス社製の商品名テクノフロンなどをあげることができる。以下の説明では、3元系の含フッ素エラストマーをFKMと省略する場合がある。3元系の含フッ素エラストマーは、重量平均分子量が好ましくは50,000〜300,000であることができる。3元系の含フッ素エラストマーの分子量がこの範囲であると、3元系の含フッ素エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、3元系の含フッ素エラストマーはカーボンナノファイバーを分散させるために良好な弾性を有することができる。3元系の含フッ素エラストマーは、粘性を有しているので凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、さらに弾性を有することによってカーボンナノファイバー同士を分離することができる。3元系の含フッ素エラストマーの重量平均分子量が50,000より小さいと、3元系の含フッ素エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけても弾性が小さいためカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる傾向がある。また、3元系の含フッ素エラストマーの重量平均分子量が300,000より大きいと、3元系の含フッ素エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる傾向がある。本実施の形態に用いるFKMは、フッ素含有量が64質量%〜71質量%、ムーニー粘度(ML1+4121℃)の中心値が25〜65またはムーニー粘度(ML1+4100℃)の中心値が25〜70、比重が1.7〜2.0g/cm3であることができる。フッ素含有量が64質量%以上であると耐熱性に優れ、フッ素含有量が71質量%以下であれば耐アルカリ性、耐酸性、耐塩素性などの耐薬品性に優れる。また、ムーニー粘度(ML1+4121℃)の中心値が25以上またはムーニー粘度(ML1+4100℃)の中心値が25以上であると引張強さ(TS)や圧縮永久ひずみ(CS)などの基本要求性能を有することができ、ムーニー粘度(ML1+4121℃)の中心値が65以下またはムーニー粘度(ML1+4100℃)の中心値が70以下であれば適度な粘度を有するので加工することができる。
カーボンナノファイバー以外の充填剤としては、エラストマーの充填剤として用いることのできるカーボンブラック、シリカ、クレー、タルクなどから少なくともひとつを選択することができる。カーボンブラックは、平均粒径が10nm〜300nmであることができる。シリカ、タルク及びクレーは、平均粒径が5nm〜50nmであることができる。充填剤をエラストマーに配合することによって、エラストマーのマトリックス領域を充填剤によって微小サイズに分割することができ、その微小サイズに分割されたマトリックス領域はカーボンナノファイバーによって補強すればよいので、充填剤を配合することでカーボンナノファイバーの配合量を少なくすることができる。充填剤は、カーボンナノファイバーの配合量に合わせて、エラストマー100質量部に対し、0質量部〜50質量部を含むことができる。
カーボンナノファイバーは、エラストマー100質量部に対し、5質量部〜40質量部を配合することができ、特に10質量部〜20質量部を配合することができる。カーボンナノファイバーは、特に平均直径が9nm〜20nmのカーボンナノファイバーを用いた場合には5質量部以上または平均直径が60nm〜110nmのカーボンナノファイバーを用いた場合には10質量部以上をエラストマーへ配合することによって、ナノサイズのセル構造を形成することができると考えられる。また、カーボンナノファイバーが40質量部以下の配合量であれば、破断伸び(Eb)が比較的高いので加工性に優れるともとに動的シール部材を部品へ装着しやすい傾向がある。ここで、「質量部」は、特に指定しない限り「phr」を示し、「phr」は、parts per hundred of resin or rubberの省略形であって、ゴム等に対する添加剤等の外掛百分率を表すものである。
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、カーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る工程を含むことができる。一般に、エラストマー中に凝集しやすいカーボンナノファイバーを解して分散することは容易ではない。以下に説明するように、エラストマーとカーボンナノファイバーとの特性を利用して製造することができる。本発明の一実施形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法について説明する。
2本ロールのオープンロールにおける第1のロールと第2のロールとは、所定の間隔、例えば0.5mm〜1.5mmの間隔で配置され、回転速度V1,V2で回転する。まず、第1のロールに巻き付けられたエラストマーの素練りを行ない、エラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。素練りによって生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
次に、第1のロールに巻き付けられたエラストマーのバンクに、カーボンナノファイバー及び必要に応じて充填剤を投入し、混練する。この混練におけるエラストマーの温度は、例えば100℃〜200℃であることができ、さらに150℃〜200℃であることができる。このように、後で説明する薄通しに比べて比較的高温でエラストマーとカーボンナノファイバーとが混練されることでカーボンナノファイバーの隙間にエラストマーが侵入しやすくなると考えられる。エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
さらに、第1のロールと第2のロールとのロール間隔を、例えば0.5mm以下、より好ましくは0〜0.5mmの間隔に設定し、混合物をオープンロールに投入して薄通しを1回〜複数回行なう。薄通しの回数は、例えば1回〜10回程度行なうことができる。第1のロールの表面速度をV1、第2のロールの表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることができ、さらに1.05〜1.2であることができる。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。このように狭いロール間から押し出された炭素繊維複合材料は、エラストマーの弾性による復元力で大きく変形し、その際にエラストマーと共にカーボンナノファイバーが大きく移動する。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を例えば0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の比較的低い温度に設定して行われ、エラストマーの実測温度も0〜50℃に調整されることができる。このようにして得られた剪断力により、エラストマーに高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバーがエラストマー分子に1本ずつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー中に分散される。特に、エラストマーは、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバーを容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料を得ることができる。なお、薄通しして得られた炭素繊維複合材料は、さらにロールで圧延されて所定厚さのシート状に分出しすることができる。
より具体的には、オープンロールでエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。次に、エラストマーに強い剪断力が作用すると、エラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。本実施の形態によれば、薄通しで炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、エラストマーの弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。エラストマーとカーボンナノチューブとの混合前、混合中、あるいは薄通し後の分出しされた炭素繊維複合材料に、架橋剤を混合することができ、架橋して架橋体の炭素繊維複合材料とすることができる。FKMの架橋は、ポリアミン加硫、ポリオール加硫、パーオキサイド加硫によって行うことができるが、耐薬品性に優れたパーオキサイド加硫を用いることができる。架橋剤は、例えばカーボンナノファイバーをエラストマーへ混合する前、カーボンナノファイバーと一緒、あるいはカーボンナノファイバーとエラストマーを混合した後に投入することができ、例えばスコーチ防止のために架橋剤は薄通し後の未架橋の炭素繊維複合材料に配合することができる。
Oリングは、炭素繊維複合材料を一般に採用されるゴムの成形加工例えば、プレス成形法、射出成形法、押出成形法などによって所望の形状例えば無端状に成形することで得ることができる。Oリングは、加硫された炭素繊維複合材料によって形成することができ、例えばプレス成形において一次加硫した後、熱オーブンなどで二次加硫することができる。
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤、受酸剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、混合の過程の適切な時期にエラストマーに投入することができる。
炭素繊維複合材料は、エラストマーとしてFKMを用いた場合、未架橋体において、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核が1Hで測定した、特性緩和時間(T2’HE/150℃)が500〜1200μ秒であることができ、さらに500〜1300μ秒であることができ、特に500〜1100μ秒であることができる。なお、特性緩和時間(T2’HE)における「HE」は、後述するソリッドエコー法の「SE」と区別するために用いた表記である。ハーンエコー法による特性緩和時間(T2’HE)は、FKMの分子運動性を示す尺度であって、多成分系の平均的緩和時間を表す。したがって、特性緩和時間(T2’HE)は、ハーンエコー法によって検出された複数の緩和時間の平均値であり、「1/T2’HE=fa/T2a+fb/T2b+fc/T2c・・・」と表すことができる。カーボンナノファイバーが分散した炭素繊維複合材料は、マトリックスであるFKM分子をカーボンナノファイバーが拘束する力を表すと言え、(T2’HE/150℃)がFKM単体に比べてカーボンナノファイバーの配合量に応じて小さくなる。したがって、カーボンナノファイバーを混合した炭素繊維複合材料であっても、カーボンナノファイバーが均一に分散していない場合にはFKM分子を全体に拘束しにくいため、150℃におけるハーンエコー法による特性緩和時間(T2’HE/150℃)がFKM単体と大きく変わらないと考えられる。
炭素繊維複合材料は、エラストマーとしてFKMを用いた場合、未架橋体において、パルス法NMRを用いてソリッドエコー法によって150℃、観測核が1Hで測定した、特性緩和時間(T2’SE/150℃)が10〜700μ秒であることができ、さらに特性緩和時間(T2’SE/150℃)が10〜500μ秒であることができ、特性緩和時間(T2’SE/150℃)が10〜200μ秒であることができる。ソリッドエコー法による特性緩和時間(T2’SE)は、カーボンナノファイバーによる磁場の不均一性を示す尺度であって、多成分系の平均的緩和時間を表す。したがって、特性緩和時間(T2’SE)は、ハーンエコー法によって検出された複数の緩和時間の平均値であり、「1/T2’SE=fa/T2a+fb/T2b+fc/T2c・・・」と表すことができる。カーボンナノファイバーが分散した炭素繊維複合材料は、カーボンナノファイバーが均一に分散することで磁場の不均一性が起こり、150℃におけるソリッドエコー法による特性緩和時間(T2’SE/150℃)がFKM単体に比べてカーボンナノファイバーの配合量に応じて小さくなる。また、カーボンナノファイバーを混合した炭素繊維複合材料であっても、カーボンナノファイバーが均一に分散していない場合には磁場の不均一性があまり導入されず、したがって150℃におけるソリッドエコー法による特性緩和時間(T2’SE/150℃)がFKM単体とほとんど変わらないと考えられる。
また、カーボンナノファイバーの周囲には、エラストマーの一部が混練中に分子鎖切断され、それによって生成されたフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面をアタックして吸着したエラストマー分子の凝集体と考えられる界面相が形成される。界面相は、例えばエラストマーとカーボンブラックとを混練した際にカーボンブラックの周囲に形成されるバウンドラバーに類似するものと考えられる。このような界面相は、カーボンナノファイバーを被覆して保護し、また、カーボンナノファイバーを所定量以上配合することで界面相同士が連鎖した界面相に囲まれてナノメートルサイズに分割されたエラストマーの小さなセルを形成すると推定される。このような小さなセルが炭素繊維複合材料の全体にほぼ均質に形成されることで、単に2つの材料を複合したことによる効果を超えた効果を期待することができる。
上記のように、本発明の一実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)サンプルの作製
密閉式混練機ブラベンダーに、3元系含フッ素ゴム(表1〜5では「FKM−1」、「FKM−2」、「FKM−3」、「FKM−4」、「FKM−5」で示した)を投入し素練り後、表1、2に示す所定量のカーボンナノファイバー(表1,2,4,5では「CNT−1」、「CNT−2」、「CNT−3」、「CNT−4」、「CNT−5」で示した)及びカーボンブラック(表1〜5では「MT」で示した)を3元系含フッ素ゴムに投入しチャンバー温度150℃〜200℃で混練りの後、第1の混練工程を行いロールから取り出した。さらに、その混合物をオープンロール(ロール温度10℃〜20℃、ロール間隔0.3mm)に巻きつけ、薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られたゴム組成物を投入し、分出しした。分出ししたシートを120℃、2分間圧縮成形して厚さ1mmの未架橋体のサンプルを得た。さらに、薄通しして得られた未架橋体のサンプルに表1〜5に示した量のパーオキサイド(表1〜5では「PO」で示した)、トリアリルイソシアヌレート(表1〜5では「TAIC」で示した)、酸化亜鉛(表1〜5では「ZnO」で示した)及び可塑剤(サンプル7,15,16,19)を加えて分出ししたシートをプレス加硫(170℃/10分)、二次加硫(200℃/24時間)で成形して厚さ1mmのシート状の架橋体のサンプル1〜19を得た。サンプル1は具体的な配合が不明の従来品のOリングと同等のゴム組成物であり、サンプル2〜8は炭素繊維複合材料であり、サンプル9はカーボンブラックで補強していない3元系含フッ素ゴムであり、サンプル10〜12はカーボンブラックの量を変化させたゴム組成物であり、サンプル13〜19は嵩密度の低いカーボンナノファイバーで補強することで圧縮永久ひずみを改善したゴム組成物である。
表1〜5において、「FKM−1」は、フッ素含有量が67質量%、ムーニー粘度(ML1+10121℃)の中心値が65、比重が1.86g/cm3の3元系FKMであり、「FKM−2」は、フッ素含有量が66質量%、ムーニー粘度(ML1+10121℃)の中心値が53、比重が1.83g/cm3の3元系FKMであり、「FKM−3」は、フッ素含有量が70質量%、ムーニー粘度(ML1+10121℃)の中心値が48、比重が1.90g/cm3の3元系FKMであり、「FKM−4」は、フッ素含有量が64質量%、ムーニー粘度(ML1+10121℃)の中心値が54、比重が1.78g/cm3の3元系FKMであり、「FKM−5」は、フッ素含有量が64質量%、ムーニー粘度(ML1+10121℃)の中心値が65、比重が1.79g/cm3の3元系FKMであった。表1〜5において、「MT」は、算術平均直径が約200nmのMTグレードのカーボンブラックであった。表1,2において、「CNT−1」は触媒担持反応法(Substrate Reaction Method)によって製造された平均直径15nm、頻度最大直径18nm、剛直度指数4.8、ラマンピーク比(D/G)1.7、窒素吸着比表面積260m2/gの多層カーボンナノファイバーであり、「CNT−2」は浮遊流動反応法によって製造した後、不活性ガス雰囲気の過熱炉内において2800℃で熱処理して黒鉛化した平均直径87nm、頻度最大直径90nm、剛直度指数9.9、平均長さ9.1μm、表面の酸素濃度2.1atm%、ラマンピーク比(D/G)0.11、窒素吸着比表面積25m2/g多層カーボンナノファイバーであり、「CNT−3」は平均直径15.3nm、剛直度指数4.4の多層カーボンナノファイバーであり、「CNT−4」は平均直径18.6nm、剛直度指数3.1、嵩密度130〜150kg/m3の多層カーボンナノファイバーであり、「CNT−5」は平均直径18.6nm、剛直度指数3.1、嵩密度45〜95kg/m3の多層カーボンナノファイバーであった。
(2)常態物性、貯蔵弾性率等の測定
常態物性として、サンプル1〜19について、室温における硬度、引張強さ、破断伸び、50%及び100%モジュラス及び破壊エネルギーを測定した。
ゴム硬度(表1〜5において「Hs(JIS−A)」で示した。)は、JIS K 6253に基づいて測定した。
引張強さ(表1〜5において「TS(MPa)」で示した。)、破断伸び(表1〜5において「Eb(%)」で示した。)、50%伸び時の応力(表1〜5において「σ50(MPa)」で示した。)、100%伸び時の応力(表1〜5において「σ100(MPa)」で示した。)及び破壊エネルギー(表1〜5において「破壊E(J)」で示した。)は、JIS3号形もしくは6号形のダンベル形状に切り出した試験片について、島津製作所社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い測定した。なお、「σ50」及び「σ100」は、「50%モジュラス(M50)」及び「100%モジュラス(M100)」と呼ばれることがある。
サンプル1〜19について、測定温度が25℃における貯蔵弾性率を測定した。貯蔵弾性率(表1〜5において「E’(25℃)(MPa)」で示した)は、短冊形(40×1×2(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度−100〜300℃、動的ひずみ±0.05%、周波数1HzでJIS K6394に基づいて動的粘弾性試験を行い測定した。
パーオキサイドを配合せずに得られた無架橋体のサンプル2〜4及び9〜12について、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は、150℃であった。
サンプル13〜19について、JIS K6262に基づいて、圧縮率25%、175℃、22時間の条件で圧縮永久ひずみ試験を行い、圧縮永久ひずみ(表4,5において「CS(%)」で示した)を測定した。
表1、2、4、5から、サンプル2〜18によれば、従来品のサンプル1に比べて、50%伸び時の応力と貯蔵弾性率が大きく向上した。また、表3から、サンプル9〜12は、MTグレードのカーボンブラックを50phrまで増やしてもサンプル2〜18における50%伸び時の応力と貯蔵弾性率には及ばないことが確認された。さらに、表4,5から、サンプル13〜18は、サンプル1、5、7に比べて、圧縮永久ひずみを低くすることができた。
(3)ニードルバルブの流量特性の測定
前記(1)で作成したサンプル3、4、6、7及び13〜19の炭素繊維複合材料を用いてOリングを作製した。図13に示す従来のキッツ社製の電動比例制御ニードルバルブ(サイズ1/2B)と、サンプル1、3、4、6、7及び13〜19のOリングを組みつけた図1〜4に示すキッツ社製の電動比例制御ニードルバルブ(サイズ1/2B)について、弁の開度が0%〜100%におけるCv値を測定した。図1〜4に示す実施例のニードルバルブVの弁座6の傾斜面6aの角度が45度であるのに対し、図13に示す比較例(従来)のニードルバルブV’の弁座6’の傾斜面6a’の角度が30度であった。そして、図1〜4に示す実施例のニードルバルブVのOリング9が傾斜面6aに当接して押しつぶされるのに対し、図13に示す比較例のニードルバルブV’のOリング9’は拡径部6c’に当接して押しつぶされるように構成していた。実施例1〜4、6〜11及び比較例2、4におけるOリングのつぶし率は9.0%であり、比較例1におけるOリングのつぶし率は17.7%であった。図1〜4のニードルバルブV及び図13のニードルバルブV’における上記以外の構成は、同様であった。流体は、水道水を用いた。
比較例1は、従来品のOリング(サンプル1に相当する)を図13に示す従来品のニードルバルブV’に組みつけてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0%〜7%(横軸)に対するCv値(縦軸)を示す流量特性グラフを図5に示した。図5において、符号40で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号41で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
比較例2は、従来品のOリング(サンプル1に相当する)を図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図6に示した。図6において、符号50で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号51で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
図5において、比較例1の流量特性グラフは、弁の開度が0.5%〜2.0%の間で曲線40と曲線41との間隔が広く、ヒステリシスループで閉じられた面積が大きかったので、開弁動作時の微小流量と閉弁動作時の微小流量との差が大きく、正確に制御できていないことが判った。図6において、比較例2の流量特性グラフは、弁の開度が1.0%〜3.5%の間で曲線50と曲線51との間隔が広く、ヒステリシスループで閉じられた面積が大きかったので、開弁動作時の微小流量と閉弁動作時の微小流量との差が大きく、正確に制御できていないことが判った。この結果から、弁座の傾斜面の角度を30度から45度へ変更してOリングのつぶし率を17.7%から9.0%に変更しただけでは、ヒステリシスループで閉じられた面積を小さくすることはできないことが判った。
実施例1は、サンプル3のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図7に示した。図7において、符号42で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号43で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例2は、サンプル4のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図8に示した。図8において、符号44で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号45で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例3は、サンプル6のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図9に示した。図9において、符号46で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号47で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例4は、サンプル7のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図10に示した。図10において、符号48で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号49で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
図7〜図10において、本発明にかかるOリングを採用し、且つ、つぶし率を9.0%に変更した実施例1〜4のニードルバルブにおける流量特性グラフは、弁の開度が0.5%〜2.0%の間で開弁時の曲線42、44、46、48と閉弁時の曲線43、45、47、49、51との間隔が狭く、ヒステリシスループで閉じられた面積が小さかったので、開弁動作時の微小流量と閉弁動作時の微小流量との差が小さく、正確に制御できていることが判った。
また、図・表を示さないが、実施例1〜4及び比較例1,2とはバルブの呼び径(弁座口径)のサイズが異なる、キッツ社製の電動比例制御ニードルバルブ(サイズ3/4B)を用いて、サンプル1、3、4、6、7のOリングを組みつけてCv値を測定した。その結果、弁座の傾斜面の角度を30度から45度へ変更してOリングのつぶし率を18.5%から10.0%に変更しただけでは、比較例であるサンプル1ではヒステリシスループで閉じられた面積を小さくすることはできなかったが、本発明にかかるサンプル3,4,6,7のOリングを採用してつぶし率を10.0%に変更したところヒステリシスループで閉じられた面積が小さくなった。このように、ニードルバルブのサイズを1/2Bから3/4Bへ変更しても実施例1〜4と同様の結果が得られた。
そこで、実施例5及び比較例3として、サンプル7のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けて、つぶし率を変えたときのCv値を測定し、流量特性を評価した。実施例5は、Oリングのつぶし率を6.0%に設定し、弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図11に示した。比較例3は、Oリングのつぶし率を3.0%に設定し、弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図12に示した。図11及び図12において、符号52、54で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号53,55で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。図11に示すように、つぶし率を6.0%とした実施例5の流量特性グラフにおけるCv値は開度2.5%以下の範囲で多少不安定な要素も認められたが、ヒステリシスループで閉じられた面積を小さくすることができた。これに対し、図12に示すように、つぶし率を3.0%とした比較例3では開度0.0%すなわち閉弁時でも少量のリークが認められた。
実施例6は、サンプル13のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図14に示した。図14において、符号57で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号58で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例7は、サンプル14のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図15に示した。図15において、符号59で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号60で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例8は、サンプル15のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図16に示した。図16において、符号61で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号62で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例9は、サンプル16のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図17に示した。図17において、符号63で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号64で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例10は、サンプル17のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図18に示した。図18において、符号65で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号66で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
実施例11は、サンプル18のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図19に示した。図19において、符号67で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号68で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
比較例4は、サンプル19のOリングを図1〜4に示すニードルバルブに組み付けてCv値を測定した。その結果として、微小流量特性を示す弁の開度0〜7%に対するCv値の流量特性グラフを図20に示した。図20において、符号69で示した曲線が閉弁状態(開度0%)から開弁状態(開度7%)までのニードル7を弁座6から上昇させたときの流量特性であり、符号70で示した曲線が開弁状態(開度7%)から閉弁状態(開度0%)までのニードル7を弁座6へ下降させたときの流量特性である。
図14〜図19において、本発明にかかる実施例のOリングを採用し、且つ、つぶし率を9.0%に変更した実施例6〜11のニードルバルブにおける流量特性グラフは、弁の開度が0.5%〜2.0%の間で開弁時の曲線57、59、61、63、65と閉弁時の曲線58、60、62、64、66、68との間隔が狭く、ヒステリシスループで閉じられた面積が小さかったので、開弁動作時の微小流量と閉弁動作時の微小流量との差が小さく、正確に制御できていることが判った。さらに、弁の開度が2.0%〜5.0%の間において曲線57〜68の傾斜がほぼ一定であり、弁の開度に応じて概ね比例して流量が制御されていることを示し、微小流量における比例制御性に優れることが判った。また、図20において、比較例4のニードルバルブでは、弁の開度が2.0%〜5.0%の間において曲線57〜68の傾斜がほぼ一定となったが、ヒステリシスループで閉じられた面積が大きくなった。
これらの効果を得るため、本発明にかかるOリングには、前述のCNT−5を含有するのが好ましく、これに前記MT,FKM−4を配合するのがより好ましい。また、CNT−1,2,3のいずれかを含有しつつ、MTと組み合わせることによる、粒状カーボン(カーボンブラック)と繊維状カーボン(カーボンナノファイバー)の複合もよい。
(4)耐液性試験
耐液性試験は、低温から高温まで幅広い温度範囲で使用でき、熱伝導性に優れたフッ素系流体であるパーフルオロポリエーテルを用いた。パーフルオロポリエーテルは、半導体製造装置のチャンバーの温度調節用の熱媒体として使用されているが、フッ素ゴム系のシール部材に対してパーフルオロポリエーテルが溶剤として作用し、シール部材を劣化させることがある。
耐液性試験(表6,7では「PFPEテスト」と示した)として、130℃のパーフルオロポリエーテルに103時間浸漬した後のサンプル13〜19の炭素繊維複合材料について、前記(2)と同様の条件で、硬度、引張強さ、破断伸び、50%及び100%モジュラスを測定した。その測定結果を表6、7に示した。
また、表1〜3における各測定結果に対する表6,7における各測定結果の差を計算し、表6,7にΔHs,ΔTS,ΔEb,Δσ50,Δσ100で示した。さらに、耐液性試験前のサンプル13〜19の炭素繊維複合材料に対する耐液性試験後のサンプル13〜19の炭素繊維複合材料の体積変化(表6,7では「ΔV」と示した)及び質量変化(表6,7では「ΔW」と示した)を測定し、表6,7に示した。
表6,7から、サンプル13〜18の炭素繊維複合材料は、耐液性試験後の50%伸び時の応力が8.0MPa以上であった。また、サンプル13〜18の炭素繊維複合材料は、耐液性試験の前後において体積変化率が2.5%以下であった。サンプル13〜19の炭素繊維複合材料は、耐液性試験の前後において質量変化率が3.2%以下であった。サンプル13〜18の炭素繊維複合材料は、耐液性試験の前後において50%伸び時の応力の変化率が±6.5%以内であった。サンプル13,14,16の炭素繊維複合材料は、耐液性試験の前後において50%伸び時の応力の変化率が負ではなかった。サンプル13〜18の炭素繊維複合材料は、耐液性試験によって劣化しにくく、しかもOリングとしてバルブに装着したときの微小流量制御性に優れていた。