JP2011162067A - 減衰力制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】 電気モータの過大な発熱が抑えられるように、電気式ショックアブソーバの減衰力を制御すること。
【解決手段】 H式と、R式と、P式に、電気モータ40の発熱量の総和を表すQ式を加え、これらの4個の式に基づいて、電気モータ40の発熱量の総和が最小となるように各輪要求減衰力を演算する。このように演算された各輪要求減衰力に基づいて各電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力を制御する。これにより、電気モータ40の発熱量の総和が最小となり、電気モータ40の過大な発熱が抑えられる。
【選択図】 図5
【解決手段】 H式と、R式と、P式に、電気モータ40の発熱量の総和を表すQ式を加え、これらの4個の式に基づいて、電気モータ40の発熱量の総和が最小となるように各輪要求減衰力を演算する。このように演算された各輪要求減衰力に基づいて各電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力を制御する。これにより、電気モータ40の発熱量の総和が最小となり、電気モータ40の過大な発熱が抑えられる。
【選択図】 図5
Description
本発明は、電気モータを有する減衰力発生装置(ショックアブソーバ)に適用され、減衰力発生装置により発生される減衰力を制御する減衰力制御装置に関する。
電気モータを有するショックアブソーバ(電気式ショックアブソーバ)が知られている。電気式ショックアブソーバは、車両のバネ上部材(車体側)の各輪位置(各車輪が取り付けられる位置)と、その各輪位置に対応する車輪に連結されたバネ下部材(車輪側)との間にサスペンションスプリングと並列的にそれぞれ設けられ、バネ上部材とバネ下部材との間の相対的な振動を電気モータが回転することにより発生する抵抗力によって減衰する。
特許文献1は、ラックアンドピニオン機構により車輪の上下変位を電気モータの回転に変換する変換機構を有する電気式ショックアブソーバを開示している。この電気式ショックアブソーバにより発生される減衰力は、車体に対する車輪の上下動位置を検出するストロークセンサの検出信号に基づいて、モータ駆動部のブリッジ回路を流れる電流をPWM制御することにより制御される。
電気式ショックアブソーバにより発生される減衰力の大きさは、電気モータに流れる電流の大きさに比例する。したがって、大きな減衰力を発生するためには電気モータに大電流を流す必要がある。この場合、電気モータの発熱によって、電気モータ自身や、電気モータの周辺に配置される機器に熱害が及ぶおそれがある。
本発明は、上記問題に対処するためになされたものであり、電気モータを有する減衰力発生装置の減衰力を制御する減衰力制御装置において、電気モータの過大な発熱が抑えられるように、減衰力を制御することを目的とする。
本発明は、車両のバネ上部材の各輪位置とその各輪位置に対応する車輪に連結されたバネ下部材との間にそれぞれ設けられ、バネ上部材とバネ下部材との間に生じる相対的な振動によって回転する電気モータを有し、前記電気モータが回転することにより前記相対的な振動に対する減衰力を発生する減衰力発生装置に適用され、前記減衰力発生装置により発生される減衰力を制御する減衰力制御装置において、バネ上部材のヒーブ運動を抑制するようにヒーブ方向に作用する減衰力であるヒーブ要求減衰力と、バネ上部材のロール運動を抑制するようにロール方向に作用する減衰力であるロール要求減衰力と、バネ上部材のピッチ運動を抑制するようにピッチ方向に作用する減衰力であるピッチ要求減衰力とを演算するモード要求減衰力演算手段と、前記ヒーブ要求減衰力とそれぞれの前記減衰力発生装置により発生される減衰力である各輪減衰力との関係を表すヒーブ−各輪減衰力関係式と、前記ロール要求減衰力と前記各輪減衰力との関係を表すロール−各輪減衰力関係式と、前記ピッチ要求減衰力と前記各輪減衰力との関係を表すピッチ−各輪減衰力関係式と、それぞれの前記減衰力発生装置の前記電気モータの発熱量の総和を表す式とに基づいて、前記発熱量の総和が最も小さくなるように、前記各輪減衰力の目標値である各輪要求減衰力を演算する各輪要求減衰力演算手段と、前記各輪要求減衰力演算手段により演算された前記各輪要求減衰力に基づいてそれぞれの前記減衰力発生装置により発生される減衰力を制御する制御手段と、を備える減衰力制御装置とすることにある。
本発明によれば、各輪要求減衰力演算手段により演算された各輪要求減衰力に基づいて、バネ上部材の各輪位置とその各輪位置に対応するバネ下部材との間にそれぞれ設けられる減衰力発生装置により発生される減衰力が制御される。ここで、バネ上部材の各輪位置(各車輪が取り付けられる位置)は、右前輪位置、左前輪位置、右後輪位置および左後輪位置の4位置であるから、求めるべき各輪要求減衰力の個数は4個である。また、バネ上部材の3方向(ヒーブ方向、ロール方向、ピッチ方向)への運動に基づいて、各方向に作用させるべき要求減衰力を演算した場合、得られる要求減衰力の個数は、ヒーブ要求減衰力、ロール要求減衰力およびピッチ要求減衰力の3個である。したがって、この3個の要求減衰力と各減衰力発生装置により発生される各輪減衰力とにより表される3個の関係式(ヒーブ−各輪減衰力関係式、ロール−各輪減衰力関係式、ピッチ−各輪減衰力関係式)が導かれる。しかし、求めるべき各輪要求減衰力の個数は4個であるから、これら3個の関係式から4個の各輪要求減衰力を全て求めることはできない。4個の各輪要求減衰力を全て求めるためには、各輪減衰力に関連する他の制約条件を表す式を上記3個の関係式に加えなければならない。
このことは、逆に言えば、各輪減衰力に関する制約条件を任意に設定できることを意味する。本発明では、各減衰力発生装置に用いられる電気モータの発熱量の総和を最小にするという制約条件を、上記3個の関係式に加える。電気モータの発熱量は電気モータの仕事率であり、電気モータの仕事率は電気モータが出力する力に依存するから、各電気モータの発熱量は、その電気モータを有する減衰力発生装置により発生される各輪減衰力を用いて表すことができる。よって、各減衰力発生装置の各電気モータの発熱量の総和を表す式は、各輪減衰力により表される。
したがって、ヒーブ−各輪減衰力関係式と、ロール−各輪減衰力関係式と、ピッチ−各輪減衰力関係式と、電気モータの発熱量の総和を表す式とに基づいて、上記総和が最小となるように、全ての各輪要求減衰力を演算することができる。このように演算された各輪要求減衰力に基づいて、電気モータの発熱量の総和が最小となるように各減衰力発生装置を駆動制御することにより、電気モータの過大な発熱を抑えることができる。
本発明において、ヒーブ要求減衰力、ロール要求減衰力およびピッチ要求減衰力の演算手法は、バネ上部材の各モード方向(ヒーブ方向、ロール方向、ピッチ方向)への運動を抑制することができる適切な要求減衰力(例えば、バネ上部材のヒーブ方向、ロール方向、ピッチ方向への振動がより早く減衰されるようなヒーブ要求減衰力、ロール要求減衰力、ピッチ要求減衰力)が演算されるのであれば、どのような手法でもよい。例えば、バネ上部材のヒーブ方向、ロール方向およびピッチ方向にそれぞれスカイフック理論を適用することにより、各モード方向へのバネ上部材の運動の速度に応じて各要求減衰力を演算してもよい。また、車両の4輪モデルにより表される振動系にH∞制御理論(特に非線形H∞制御理論)を適用することにより、各要求減衰力を演算してもよい。
また、それぞれの前記減衰力発生装置の前記電気モータの発熱量の総和を表す式は、それぞれの前記電気モータを流れる電流と前記電気モータに印加される電圧との積の絶対値の総和により表されるものであるとよい。電気モータの発熱量はその電気モータの電力と同義である。よって、各電気モータに流れる電流と印加される電圧との積の絶対値の総和により、各電気モータの発熱量の総和が表される。
また、電気モータに流れる電流は、その電気モータが発生する力、すなわち減衰力発生装置により発生される減衰力を、その電気モータのトルク定数で除した値により表すことができる。電気モータに印加される電圧は、その電気モータの回転角速度とトルク定数との積により表すことができる。したがって、電気モータの発熱量は、減衰力発生装置により発生される減衰力とその電気モータの回転角速度の積により表すことができる。つまり、それぞれの前記減衰力発生装置の前記電気モータの発熱量の総和を表す式は、それぞれの前記減衰力発生装置により発生される各輪減衰力と、その前記電気モータの回転角速度の積の絶対値の総和により、表すことができる。
以下、本発明の一実施形態に係る減衰力制御装置を含むサスペンション装置について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係るサスペンション装置のシステム構成の概略図である。
このサスペンション装置は、車体Bの各輪位置(右前輪位置、左前輪位置、右後輪位置、左後輪位置)と、その各輪位置に対応する各車輪(右前輪WFR,左前輪WFL,右後輪WRR,左後輪WRL)に接続されたバネ下部材との間にそれぞれ設けられる4組のサスペンション本体10FR,10FL,10RR,10RLと、各サスペンション本体10FR,10FL,10RR,10RLに含まれる各電気式ショックアブソーバ30(右前輪電気式ショックアブソーバ30FR、左前輪電気式ショックアブソーバ30FL、右後輪電気式ショックアブソーバ30RR、左後輪電気式ショックアブソーバ30RL)により発生される減衰力を制御するサスペンションECU50とを備える。サスペンションECU50が本発明の減衰力制御装置である。以下、4組のサスペンション本体10FR,10FL,10RR,10RL、車輪WFR,WFL,WRR,WRLおよび電気式ショックアブソーバ30FR,30FL,30RR,30RLについては、特に前後左右を区別する場合を除いて、単にサスペンション本体10、車輪Wおよび電気式ショックアブソーバ30と総称する。
図2は、サスペンション本体10の概略図である。図2に示されるように、サスペンション本体10は、並列的に配置されたコイルスプリング20および電気式ショックアブソーバ30を備える。コイルスプリング20は、車輪Wに連結されるロアアームLAと車体Bとの間に設けられ、路面から受ける衝撃を吸収し乗り心地を高めるとともに車体Bを弾性的に支持する。コイルスプリング20の上部側、つまり車体B側の部材を「バネ上部材」と呼び、コイルスプリング20の下部側、つまり車輪W側の部材を「バネ下部材」と呼ぶ。したがって、コイルスプリング20および電気式ショックアブソーバ30は、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に設けられていることになる。電気式ショックアブソーバ30は、コイルスプリング20の上下振動、すなわちバネ上部材とバネ下部材との間の相対振動に対する減衰力を発生する。
電気式ショックアブソーバ30は、同軸状に配置されるアウタシリンダ31およびインナシリンダ32と、インナシリンダ32の内側に設けられるボールネジ機構35と、ボールネジ機構35の動作によりロータ(図示略)が回されることで誘導起電力を発生する電気モータ40とを備える。本実施形態においては、電気モータ40はDCブラシ付モータである。
アウタシリンダ31は有底円筒状に形成され、底面部分にてロアアームLAに接続される。インナシリンダ32はアウタシリンダ31の内周側に配置される。インナシリンダ32は、アウタシリンダ31内にて軸方向に移動可能となるように、アウタシリンダ31の内周側に取り付けられた軸受33,34により支持される。
ボールネジ機構35は、電気モータ40のロータと一体的に回転するボールネジ36と、ボールネジ36に形成された雄ネジ部分37に螺合する雌ネジ部分38を有するボールネジナット39とを備える。ボールネジナット39は、図示しない回り止めによりその回転運動が規制されている。したがって、ボールネジナット39がボールネジ36の軸方向に沿って直線運動した場合、その直線運動がボールネジ36の回転運動に変換される。逆に、ボールネジ36が回転運動した場合、その回転運動がボールネジナット39の直線運動に変換される。
ボールネジナット39の下端は、アウタシリンダ31の底面から立設されたナット支持筒31aに固着される。このような連結構造からわかるように、ボールネジナット39およびアウタシリンダ31は、ロアアームLAを介して車輪側、つまりバネ下部材側に連結される。
インナシリンダ32の上端は取付プレート41に固定される。取付プレート41は、電気モータ40を収容するモータケーシング42の下部に固定される。また取付プレート41の中央には貫通孔43が形成されており、この貫通孔43にボールネジ36が挿通される。ボールネジ36は、モータケーシング42内にて電気モータ40のロータに連結されるとともに、インナシリンダ32内に配設された軸受44により回転可能に支持される。
電気モータ40には取付ブラケット46が連結される。取付ブラケット46の上面には、車体Bに連結された弾性材料からなるアッパーサポート26が取り付けられる。このような連結構造からわかるように、電気モータ40、電気モータ40のロータに連結されたボールネジ36、取付プレート41およびモータケーシング42を介して電気モータ40に連結されたインナシリンダ32は、アッパーサポート26を介して車体B側、つまりバネ上部材側に連結される。コイルスプリング20は、バネ下部材(ロアアームLA)に連結されるアウタシリンダ31の外周面に設けられた環状のリテーナ45と、バネ上部材(車体B)に連結される取付ブラケット46との間に介装される。
このような構成の電気式ショックアブソーバ30において、車両の走行中に車輪W(バネ下部材側)が車体B(バネ上部材側)に対して上下動、つまり相対振動したときは、バネ上部材側に取り付けられたインナシリンダ32に対してバネ下部材側に取り付けられたアウタシリンダ31が軸方向に相対移動する。アウタシリンダ31の軸方向相対移動によりコイルスプリング20が伸縮する。コイルスプリング20の伸縮により、路面からバネ上部材が受ける衝撃が吸収されて乗り心地が高められる。また、上記相対振動により、バネ上部材側に取り付けられたボールネジ36に対してバネ下部材側に取り付けられたボールネジナット39がボールネジ36の軸方向に沿って相対移動する。ボールネジナット39の軸方向相対移動によりボールネジ36が回転する。ボールネジ36の回転により電気モータ40のロータも回転する。このように、電気モータ40は、バネ上部材とバネ下部材との間の相対振動によって回転する。
電気モータ40が回転した場合、電気モータ40のロータに設けられた電磁コイル(図示略)は、ステータに設けられた永久磁石(図示略)から発生する磁束を横切ることによって誘導起電力を発生する。誘導起電力により、後述する駆動回路100を介して発電電流が電気モータ40の電磁コイルに流れる。この発電電流により、電気モータ40のロータは、その回転を停止する方向に作用する抵抗力を受ける。斯かる抵抗力が減衰力として作用する。つまり、電気モータ40が回転することにより、バネ上部材とバネ下部材との間に生じる相対的な振動に対する減衰力が発生する。
また、図1に示されるように、サスペンションECU50は車体B側に搭載されている。サスペンションECU50には、各バネ上加速度センサ61,各バネ下加速度センサ62,各ストロークセンサ63,ロール角加速度センサ64,ピッチ角加速度センサ65および各モータ回転角センサ66が接続される。バネ上加速度センサ61は、バネ上部材の各輪位置に配置されており、バネ上部材の各輪位置での上下方向に沿った加速度(各輪バネ上加速度)GBを検出する。バネ下加速度センサ62は、バネ上部材の各輪位置に対応する各車輪に連結されたバネ下部材に取り付けられており、各バネ下部材の上下方向に沿った加速度(各輪バネ下加速度)GWを検出する。バネ上加速度センサ61およびバネ下加速度センサ62は、例えば上方向に向かう加速度を正の加速度として検出し、下方向に向かう加速度を負の加速度として検出する。
ストロークセンサ63は、各電気式ショックアブソーバ30の近傍に取り付けられており、各電気式ショックアブソーバ30の基準長さからの伸縮量(各輪ストローク変位量)XSを検出する。ストロークセンサ63は、例えば基準長さからの伸び量を正の変位量として検出し、基準長さからの縮み量を負の変位量として検出する。ロール角加速度センサ64は、バネ上部材の重心点回りにおけるロール方向の回転角加速度δθ_Rを検出する。ピッチ角加速度センサ65は、バネ上部材の重心点回りにおけるピッチ方向の回転角加速度δθ_Pを検出する。ロール角加速度センサ64は、例えば車両後方からみて右回り方向への角加速度を正の角加速度として検出し、左回り方向への角加速度を負の角加速度として検出する。ピッチ角加速度センサ65は、例えば車両右側方から見て右回り方向への角加速度を正の角加速度として検出し、左回り方向への角加速度を負の角加速度として検出する。モータ回転角センサ66は、電気式ショックアブソーバ30の電気モータ40の基準回転位置からの回転角φを検出する。モータ回転角センサ66は、例えば基準回転位置から一方へ回転した場合にその回転角を正の角度として検出し、他方へ回転した場合にその回転角を負の角度として検出する。
また、サスペンションECU50には、各電気式ショックアブソーバ30毎に設けられた右前輪駆動回路100FR,左前輪駆動回路100FL,右後輪駆動回路100RR,左後輪駆動回路100RL(これらを総称する場合は駆動回路100と呼ぶ)に電気的に接続される。各電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力は、駆動回路100を介してサスペンションECU50により制御される。各駆動回路100は車載バッテリなどの蓄電装置110に電気的に接続される。
サスペンションECU50はマイクロコンピュータを主要部として備える。そして、駆動回路100のスイッチング制御により電気モータ40に流れる電流量を調整することにより、電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力を制御する。各駆動回路100のスイッチング制御は各々独立に行われる。
図3は、駆動回路100の回路図である。図中において、Rmは電気モータ40の内部抵抗、Lはモータインダクタンスを表す。これらは図において電気モータ40の表示記号の外に表されている。駆動回路100は、バネ上部材とバネ下部材との間の相対振動により電気モータ40がボールネジ機構35を介して回されたとき、電気モータ40で発生した誘導起電力により電気モータ40の端子間(第1端子t1と第2端子t2との間)に発電電流が流れることを許容する回路である。また、駆動回路100は、電気モータ40の誘導起電力(誘起電圧)が大きいときには、発電電流の一部を蓄電装置110に流して蓄電装置110を充電する回路でもある。
駆動回路100は、電気モータ40の第1端子t1に電気的に接続された配線L1と、電気モータ40の第2端子t2に電気的に接続された配線L2と、配線L1上のa点と配線L2上のb点とを結ぶ配線abと、配線L1上のc点と配線L2上のd点とを結ぶ配線cdとを備える。
配線abには第1ダイオードD1および第2ダイオードD2が設けられる。第1ダイオードD1はb点と配線abの中間点であるe点との間に、第2ダイオードはa点とe点との間に設けられる。第1ダイオードD1は、e点からb点に向かう方向に流れる電流を許容しb点からe点に向かう方向に流れる電流を阻止する。第2ダイオードD2は、e点からa点に向かう方向に流れる電流を許容しa点からe点に向かう方向に流れる電流を阻止する。
配線cdには、c点側から順に、第1スイッチング素子SW1,第1抵抗器R1,第2抵抗器R2,第2スイッチング素子SW2が設けられる。第1抵抗器R1,第2抵抗器R2は減衰力を設定する固定抵抗器である。第1スイッチング素子SW1,第2スイッチング素子SW2は、電気モータ40に流れる電流の調整器である。第1スイッチング素子SW1および第2スイッチング素子SW2として、本実施形態においてはMOS−FETが用いられるが、他のスイッチング素子を使用することもできる。第1スイッチング素子SW1,第2スイッチング素子SW2のゲートはサスペンションECU50に接続されている。そして、サスペンションECU50からのPWM(Pulse Width Modulation)制御信号により設定されるデューティ比および周期にしたがってこれらのスイッチング素子がオンオフ作動する。なお、本明細書におけるデューティ比とは、オンディーティ比、つまり、パルス信号のオン時間とオフ時間とを足し合わせた時間に対するパルス信号のオン時間の比を表す。
配線abと配線cdは、配線ab上のe点と配線cd上のf点とを結ぶ配線efにより接続される。f点は、配線cdのうち第1抵抗器R1が取り付けられている位置と第2抵抗器R2が取り付けられている位置との間に位置する。したがって配線cf上には第1スイッチング素子SW1と第1抵抗器R1が、配線df上には第2スイッチング素子SW2と第2抵抗器R2が取り付けられていることになる。配線efには電流センサ111が設けられる。電流センサ111は、電気モータ40に流れる電流を検出して、通電方向を示す情報を含めた測定値(実電流値)ixを表す検出信号をサスペンションECU50に出力する。
配線cfのうち第1スイッチング素子SW1が取り付けられている位置と第1抵抗器R1が取り付けられている位置との間のg点からは、配線giが分岐している。この配線giは、車載電源バッテリとして設けられた蓄電装置110への充電路である。また、配線dfのうち第2スイッチング素子SW2が取り付けられている位置と第2抵抗器R2が取り付けられている位置との間のh点からは、配線hiが分岐している。この配線hiも配線giと同様に、蓄電装置110への充電路である。配線giと配線hiはi点にて合流する。i点は、蓄電装置110の正極jと配線ijにより電気的に接続される。配線ijが主充電路である。また、f点と蓄電装置110の負極kはグランドラインkfにより接続される。なお、蓄電装置110には車両内に設けられた各種の電気負荷が接続される。
配線giには、g点からi点に向かう方向に流れる電流を許容しi点からg点に向かう方向に流れる電流を阻止する第3ダイオードD3が設けられる。配線hiには、h点からi点に向かう方向に流れる電流を許容しi点からh点に向かう方向に流れる電流を阻止する第4ダイオードD4が設けられる。これらのダイオードD3,D4により、駆動回路100から蓄電装置110への充電が許容され、蓄電装置110から駆動回路100への放電が阻止される。
次に、駆動回路100の動作について説明する。バネ上部材とバネ下部材との間の相対振動によりボールネジ機構35を介して電気モータ40のロータが回されたとき、電気モータ40はロータの回転方向に応じた向きに誘導起電力を発生する。例えば、バネ下部材とバネ上部材が接近して電気式ショックアブソーバ30が圧縮される圧縮動作時に、電気モータ40の第1端子t1が高電位となり第2端子t2が低電位となる。逆に、バネ下部材とバネ上部材が離れて電気式ショックアブソーバ30が伸ばされる伸張動作時に、電気モータ40の第2端子t2が高電位となり第1端子t1が低電位となる。
したがって、圧縮動作時には、c点,f点,e点,b点を通って第1端子t1から第2端子t2に発電電流が流れる第1接続回路cfebが形成される。また伸張動作時には、d点,f点,e点,a点を通って第2端子t2から第1端子t1に発電電流が流れる第2接続回路dfeaが形成される。つまり、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作と伸張動作とで発電電流の流れる回路が異なる。この例では、配線cfに設けられた第1抵抗器R1が第1接続回路cfebを流れる発電電流に対する抵抗であり、配線dfに設けられた第2抵抗器R2が第2接続回路dfeaを流れる発電電流に対する抵抗である。また、配線cf上に設けられた第1スイッチング素子SW1が第1接続回路cfebに流れる発電電流の大きさ(通電量)を調整する電流調整器であり、配線df上に設けられた第2スイッチング素子SW2が第2接続回路dfeaに流れる発電電流の大きさ(通電量)を調整する電流調整器である。
第1接続回路cfebまたは第2接続回路dfeaを通って発電電流が電気モータ40に流れることにより、電気モータ40に発電ブレーキが作用する。この発電ブレーキによりボールネジ36の回転が抑制される。つまりバネ上部材とバネ下部材との間の相対振動を減衰する減衰力が発生する。電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作に対する減衰力は、第1抵抗器R1の抵抗値と第1スイッチング素子SW1のデューティ比によって第1接続回路cfebを通って電気モータ40に流れる発電電流の大きさを調整することにより制御される。一方、伸張動作に対する減衰力は、第2抵抗器R2の抵抗値と第2スイッチング素子SW2のデューティ比によって第2接続回路dfeaを通って電気モータ40に流れる発電電流の大きさを調整することにより制御される。なお、各電気式ショックアブソーバ30の減衰力の制御は、各駆動回路100のスイッチング制御を行うことにより各々独立して行われる。
電気モータ40で発生する誘導起電力は、モータ回転速度が大きいほど大きい。そして、誘導起電力(誘起電圧)が蓄電装置110の出力電圧(蓄電電圧)を越えると、電気モータ40で発電された電力の一部が蓄電装置110に回生される。例えば、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作時に第1接続回路cfebを流れる発電電流が配線cf上のg点で2方向に分流し、一方はそのまま第1接続回路cfebを流れ、他方は配線giを流れる。そして、配線giを流れた発電電流により蓄電装置110が充電される。また、電気式ショックアブソーバ30の伸張動作時に第2接続回路dfeaを流れる発電電流が配線df上のh点で2方向に分流し、一方はそのまま第2接続回路dfeaを流れ、他方は配線hiを流れる。そして、配線hiを流れた発電電流により蓄電装置110が充電される。
図4は、サスペンションECU50の内部機能および、サスペンションECUと各センサおよび各駆動回路100との接続関係を示すブロック図である。図に示されるように、サスペンションECU50には各センサ61,62,63,64,65,66が接続される。サスペンションECU50は、各センサから入力された信号に基づいて、各電気式ショックアブソーバ30が発生すべき減衰力の目標値である各輪要求減衰力を演算し、演算した各輪要求減衰力に応じたフィードバック制御信号を各対応する駆動回路100に出力する。
図4からわかるように、サスペンションECU50は、状態量演算部51、モード要求減衰力演算部52(モード要求減衰力演算手段)、各輪要求減衰力演算部53(各輪要求減衰力演算手段)、電流制御部54(制御手段)を有する。
状態量演算部51は、各バネ上加速度センサ61から各輪バネ上加速度GB_iを入力する。ここで、各輪バネ上加速度を表す符号Gb_iの添え字iは、バネ上部材の各輪位置を表す。したがって、添え字iは、右前輪位置fr、左前輪位置fl、右後輪位置rr、左後輪位置rlのいずれかである。つまり、状態量演算部51は、各バネ上加速度センサ61から、右前輪位置におけるバネ上加速度Gb_fr、左前輪位置におけるバネ上加速度Gb_fl、右後輪位置におけるバネ上加速度Gb_rr、左後輪位置におけるバネ上加速度Gb_rlを、それぞれ入力する。以下の説明においても添え字iの役割は同じである。
また、状態量演算部51は、入力した各輪バネ上加速度GB_iを時間積分することにより、各輪位置におけるバネ上部材の上下方向に沿った速度(各輪バネ上速度)VB_iを演算する。さらに、演算した各輪バネ上速度VB_iを時間積分することにより、各輪位置におけるバネ上部材の基準位置からの上下方向に沿った変位量(各輪バネ上変位量)XB_iを演算する。
また、状態量演算部51は、各バネ下加速度センサ62から各輪バネ下加速度GW_iを入力し、これを時間積分することにより、各バネ下部材の上下方向に沿った速度(各輪バネ下速度)VW_iを演算する。さらに、各輪バネ下速度VW_iを時間積分することにより、各バネ下部材の基準位置からの上下方向に沿った変位量(各輪バネ下変位量)XW_iを演算する。
また、状態量演算部51は、各ストロークセンサ63から各輪ストローク変位量XS_iを入力し、これを時間微分することにより、各電気式ショックアブソーバ30のストロークの変位速度(各輪ストローク速度)VS_iを演算する。なお、各輪ストローク変位量XS_iは各輪位置におけるバネ上部材とバネ下部材との間の相対変位量を表し、各輪ストローク速度VS_iは各輪位置におけるバネ上部材とバネ下部材との間の相対速度を表す。
また、状態量演算部51は、ロール角加速度センサ64からロール角加速度δθ_Rを入力し、このロール角加速度δθ_Rを時間積分することにより、バネ上部材の重心点回りにおけるロール方向の回転角速度であるロール角速度ωθ_Rを演算する。さらに状態量演算部51は、ピッチ角加速度センサ65からピッチ角加速度δθ_Pを入力し、このピッチ角加速度δθ_Pを時間積分することにより、バネ上部材の重心点回りにおけるピッチ方向の回転角速度であるピッチ角速度ωθ_Pを演算する。
また、状態量演算部51は、各モータ回転角センサ66から各電気モータ40の回転角φiを入力し、この回転角φiを時間微分することにより、各電気モータ40の回転角速度ωiを演算する。
モード要求減衰力演算部52は、ヒーブ要求減衰力Freq_H、ロール要求減衰力Freq_Rおよびピッチ要求減衰力Freq_Pを演算する。ヒーブ要求減衰力Freq_Hは、バネ上部材のヒーブ運動を抑制するようにバネ上部材の重心点に上下方向に作用させるべき減衰力の目標値である。ロール要求減衰力Freq_Rは、バネ上部材の重心点回りのロール運動を抑制するようにバネ上部材のロール方向に作用させるべき減衰力の目標値である。ピッチ要求減衰力Freq_Pは、バネ上部材の重心点回りのピッチ運動を抑制するようにバネ上部材のピッチ方向に作用させるべき減衰力の目標値である。本明細書では、これらの要求減衰力をまとめてモード要求減衰力と呼ぶ。
各モード要求減衰力は、様々な手法により演算することができる。例えば、ヒーブ方向、ロール方向およびピッチ方向にそれぞれスカイフック理論を適用することにより、各モード要求減衰力を演算することができる。ヒーブ方向にスカイフック理論を適用した場合、ヒーブ要求減衰力Freq_Hは、バネ上部材の重心位置における上下方向に沿った速度であるヒーブ速度VHに予め設定されているゲインCHを乗じることにより演算することができる。したがって、モード要求減衰力演算部52は、状態量演算部51にて演算された各輪バネ上速度VB_iを入力するとともに、例えば下記(1)式によりヒーブ速度VHを演算し、さらに下記(2)式によりヒーブ要求減衰力Freq_Hを演算する。なお、(1)式においては、計算を簡単にするため、バネ上部材の左右方向の重心位置をバネ上部材の左右幅の中間位置、バネ上部材の前後方向の重心位置を車両のホイールベースの中間位置としている。
上記(1)式において、Vb_frは右前輪位置におけるバネ上速度(右前輪バネ上速度)、Vb_flは左前輪位置におけるバネ上速度(左前輪バネ上速度)、Vb_rrは右後輪位置におけるバネ上速度(右後輪バネ上速度)、Vb_rlは左後輪位置におけるバネ上速度(左後輪バネ上速度)である。
また、ロール方向にスカイフック理論を適用した場合、ロール要求減衰力Freq_Rは、ロール角速度ωθ_Rに予め設定されているゲインCRを乗じることにより演算することができる。したがって、モード要求減衰力演算部52は、状態量演算部51にて演算されたロール角速度ωθ_Rを入力するとともに、下記(3)式によりロール要求減衰力Freq_Rを演算する。
また、ピッチ方向にスカイフック理論を適用した場合、ピッチ要求減衰力Freq_Pは、ピッチ角速度ωθ_Pに予め設定されているゲインCPを乗じることにより演算することができる。したがって、モード要求減衰力演算部52は、状態量演算部51にて演算されたピッチ角速度ωθ_Pを入力するとともに、下記(4)式によりピッチ要求減衰力Freq_Pを演算する。
なお、各モード要求減衰力は、上記したスカイフック理論を各モード方向に適用する手法以外の手法により演算されてもよい。例えば車両の4輪モデルに非線形H∞制御理論を適用することにより、各モード要求減衰力を演算してもよい。各モード振動(ヒーブ振動、ロール振動、ピッチ振動)を抑制するために必要なモード要求減衰力の演算手法として、様々な手法が適宜採用され得る。
各輪要求減衰力演算部53は各輪要求減衰力Freq_i、つまり、右前輪電気式ショックアブソーバ30FRより発生される減衰力の目標値である右前輪要求減衰力Freq_frと、左前輪電気式ショックアブソーバ30FLにより発生される減衰力の目標値である左前輪要求減衰力Freq_flと、右後輪電気式ショックアブソーバ30RRにより発生される減衰力の目標値である右後輪要求減衰力Freq_rrと、左後輪電気式ショックアブソーバ30RLにより発生される減衰力の目標値である左後輪要求減衰力Freq_rlとを演算する。本実施形態では、各輪要求減衰力Freq_iを演算するにあたり、下記に示すH式((5)式)、R式((6)式)、P式((7)式)が用いられる。
上記H式、R式、P式において、Ffrは右前輪電気式ショックアブソーバ30FRにより発生される減衰力であり、Fflは左前輪電気式ショックアブソーバ30FLにより発生される減衰力であり、Frrは右後輪電気式ショックアブソーバ30RRにより発生される減衰力であり、Frlは左後輪電気式ショックアブソーバ30RLにより発生される減衰力である。本明細書では、これらの減衰力を各輪減衰力Fiと呼ぶ。
H式は、ヒーブ要求減衰力Freq_Hと各輪減衰力Fiとの力の釣り合いを表す関係式(ヒーブ−各輪減衰力関係式)である。ヒーブ要求減衰力Freq_Hはバネ上部材の重心点位置に上下方向に作用する力であるから、この力はバネ上部材の各輪位置に上下方向に作用する減衰力の和(Ffr+Ffl+Frr+Frl)として表される。
R式は、ロール要求減衰力Freq_Rと各輪減衰力Fiとの力の釣り合いを表す関係式(ロール−各輪減衰力関係式)である。ロール要求減衰力Freq_Rはバネ上部材にロール方向に作用する力であるから、この力は、例えばバネ上部材の右輪側に作用する減衰力の和と左輪側に作用する減衰力の和との差((Ffr+Frr)−(Ffl+Frl))として表される。
P式は、ピッチ要求減衰力Freq_Pと各輪減衰力Fiとの力の釣り合いを表す関係式(ピッチ−各輪減衰力関係式)である。ピッチ要求減衰力Freq_Pはバネ上部材にピッチ方向に作用する力であるから、この力は、例えばバネ上部材の前輪側に作用する減衰力の和と後輪側に作用する減衰力の和との差((Ffr+Ffl)−(Frr+Frl))として表される。
また、各輪要求減衰力演算部53は、各輪要求減衰力Freq_iを演算するにあたり、上記H式、R式、P式に加え、下記に示すQ式((8)式)を用いる。
上記Q式において、Kfrは右前輪電気式ショックアブソーバ30FRの電気モータ40のトルク定数、Kflは左前輪電気式ショックアブソーバ30FLの電気モータ40のトルク定数、Krrは右後輪電気式ショックアブソーバ30RRの電気モータ40のトルク定数、Krlは左後輪電気式ショックアブソーバ30RLの電気モータ40のトルク定数である。また、ωfrは右前輪電気式ショックアブソーバ30FRの電気モータ40の回転角速度、ωflは左前輪電気式ショックアブソーバ30FLの電気モータ40の回転角速度、ωrrは右後輪電気式ショックアブソーバ30RRの電気モータ40の回転角速度、ωrlは左後輪電気式ショックアブソーバ30RLの電気モータ40の回転角速度である。
上記Q式の右辺第1項は,右前輪電気式ショックアブソーバ30FRが右前輪減衰力Ffrを発生しているときに、その電気モータ40に流れる電流(Ffr/Kfr)と印加される電圧(ωfrKfr)との積の絶対値である。右辺第2項は、左前輪電気式ショックアブソーバ30FLが左前輪減衰力Fflを発生しているときに、その電気モータ40に流れる電流(Ffl/Kfl)と印加される電圧(ωflKfl)との積の絶対値である。右辺第3項は、右後輪電気式ショックアブソーバ30RRが右後輪減衰力Frrを発生しているときに、その電気モータ40に流れる電流(Frr/Krr)と印加される電圧(ωrrKrr)との積の絶対値である。右辺第4項は、左後輪電気式ショックアブソーバ30RLが左後輪減衰力Frlを発生しているときに、その電気モータ40に流れる電流(Frl/Krl)と印加される電圧(ωrlKrl)との積の絶対値である。
つまり、Q式の右辺は、各電気式ショックアブソーバ30の電気モータ40の電力の総和を表す。電気モータ40の電力は電気モータ40の発熱量と同義であるので、Q式は、それぞれの電気式ショックアブソーバ30の電気モータ40の発熱量の総和を表す式と言える。
Q式は4個の各輪減衰力Fiを用いて表されている。このQ式にH,R,P式を代入することにより、Q式の右辺を3個のモード要求減衰力と、1個の各輪減衰力で表すことができる。
まず、H式の両辺とR式の両辺をそれぞれ加算することにより、以下に示すH+R式((10)式)を得る。
次いで、H式の両辺とP式の両辺をそれぞれ加算することにより、以下に示すH+P式((11)式)を得る。
さらに、R式の両辺とP式の両辺をそれぞれ加算することにより、以下に示すR+P式((12)式)を得る。
H+R式から、右前輪減衰力Ffrと右後輪減衰力Frrとの関係が、以下の(13)式のように導かれる。
H+P式から、右前輪減衰力Ffrと左前輪減衰力Fflとの関係が、以下の(14)式のように導かれる。
R+P式から、右前輪減衰力Ffrと左後輪減衰力Frlとの関係が、以下の(15)式のように導かれる。
各電気モータ40の回転角速度ωiは状態量演算部51にて演算される。また、各モード要求減衰力はモード要求減衰力演算部52にて演算される。したがって、(17)式中の未知数は右前輪減衰力Ffrのみである。つまり(17)式は右前輪減衰力Ffrについての関数である。
(17)式は、上述のように各電気モータ40の発熱量の総和を表す。発熱量が大きい場合、その熱により電気モータ40自身や、電気モータ40の周辺に配置された部品に悪影響を及ぼすおそれがある。したがって、発熱量は小さいほうがよい。このことを踏まえ、本実施形態では、(17)式の右辺の値が最小値となるような右前輪減衰力Ffrを探索する。具体的には、右前輪減衰力Ffrを所定の範囲内で変化させて(17)式に代入することにより左辺Wの値を求め、Wと右前輪減衰力Ffrとの関係を表すグラフを作成し、そのグラフからWが最も小さくなる右前輪減衰力Ffrを検索する。こうして探索された右前輪減衰力Ffrが、右前輪要求減衰力Freq_frに設定される。
(18)式の右辺第1項をA、第2項をB、第3項をC、第4項をDとした場合、右前輪減衰力Ffrを変化させていけば、A,B,C,Dの値も変化する。図5は、A,B,C,DおよびW(=A+B+C+D)の右前輪減衰力Ffrに対する変化特性を表すグラフである。このグラフからわかるように、Wは右前輪減衰力Ffrの大きさに応じて変化し、最小値を持つ。最小値Wminに対応する右前輪減衰力が、右前輪要求減衰力Freq_frに設定される。
また、設定された右前輪要求減衰力Freq_frを(13)式、(14)式、(15)式の右前輪減衰力Ffrに代入することにより得られる右後輪減衰力Frr、左前輪減衰力Ffl、左後輪減衰力Frlが、それぞれ右後輪要求減衰力Freq_rr、左前輪要求減衰力Freq_fl、左後輪要求減衰力Freq_rlに設定される。各輪要求減衰力演算部53はこのようにして各輪要求減衰力Freq_iを演算する。そして、演算した右前輪要求減衰力Freq_fr、左前輪要求減衰力Freq_fl、右後輪要求減衰力Freq_rr、左後輪要求減衰力Freq_rlを、電流制御部54に出力する。
電流制御部54は、各駆動回路100にフィードバック制御信号を出力することにより、各電気式ショックアブソーバ30の電気モータ40に流れる電流を制御する。図6は、電流制御部54が実行する電流制御ルーチンを表すフローチャートである。電流制御部54は、まず図6に示されるフローチャートのステップ(以下、ステップ番号をSと略記する)10にて、各駆動回路100の電流センサ111により検出される実電流値ix_iを読み込む。次いで、S20にて、各輪要求減衰力演算部53で演算された各輪要求減衰力Freq_iを読み込む。次に、S30にて、各電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力が各輪要求減衰力Freq_iとなるように、各輪要求減衰力Freq_iに基づいて各電気モータに流すべき電流の目標値である目標電流値i*_iを演算する。
その後、電流制御部54は、S40にて、各駆動回路100の第1スイッチング素子SW1あるいは第2スイッチング素子SW2にPWM制御信号を送ってデューテュ比を調整することにより、実電流値ix_iが目標電流値i*_iと等しくなるように、目標電流値i*_iと実電流値ix_iとの偏差Δi(=i*_i−ix_i)に基づくフィードバック制御(例えば、PID制御)を行う。この場合、電流制御部54は、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作時であれば第1スイッチング素子SW1のデューティ比を調整することにより、電気式ショックアブソーバ30の伸張動作時であれば第2スイッチング素子SW2のデューティ比を調整することにより、実電流値ix_iが目標電流値i*_iと等しくなるように、対象となるスイッチング素子をデューティ制御する。このようなデューティ制御によって、各電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力が制御されるのである。
本実施形態によれば、H式と、R式と、P式に、電気モータ40の発熱量の総和を表すQ式を加え、これらの4個の式に基づいて、上記総和が最小となるように、各輪要求減衰力が演算される。このように演算された各輪要求減衰力に基づいて各減衰力発生装置により発生される減衰力を制御することにより、電気モータ40の発熱量の総和が最も小さくなる。このため電気モータ40の過大な発熱が抑えられる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定して解釈されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、バネ上部材の重心点をバネ上部材の中心点(トレッドの中間点およびホイールベースの中間点)と仮定して、(1)式やH,R,P式を求めていたが、重心点が中心点と異なる場合は、重心位置から前輪軸位置および後輪軸位置までの前後方向距離や、重心位置から左右輪位置までの左右方向距離を考慮して、(1)式やH,R,P式を求めてもよい。また、電気モータ40に発電電流を流すための回路として、図3に示すように電気式ショックアブソーバ30が伸びる場合と縮む場合とで異なる回路に発電電流が流れるように駆動回路を構成したが、伸びる場合と縮む場合とで同じ回路に発電電流が流れるように、より単純に駆動回路を構成してもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて変形可能である。
10…サスペンション本体、20…コイルスプリング、30…電気式ショックアブソーバ(減衰力発生装置)、40…電気モータ、50…サスペンションECU(減衰力制御装置)、51…状態量演算部、52…モード要求減衰力演算部(モード要求減衰力演算手段)、53…各輪要求減衰力演算部(各輪要求減衰力演算手段)、54…電流制御部(制御手段)、61…バネ上加速度センサ、62…バネ下加速度センサ、63…ストロークセンサ、64…ロール角加速度センサ、65…ピッチ角加速度センサ、66…モータ回転角センサ、100…駆動回路、Freq_H…ヒーブ要求減衰力、Freq_R…ロール要求減衰力、Freq_P…ピッチ要求減衰力、Freq_i…各輪要求減衰力、Freq_fr…右前輪要求減衰力、Freq_fl…左前輪要求減衰力、Freq_rr…右後輪要求減衰力、Freq_rl…左後輪要求減衰力
Claims (2)
- 車両のバネ上部材の各輪位置とその各輪位置に対応する車輪に連結されたバネ下部材との間にそれぞれ設けられ、バネ上部材とバネ下部材との間に生じる相対的な振動によって回転する電気モータを有し、前記電気モータが回転することにより前記相対的な振動に対する減衰力を発生する減衰力発生装置に適用され、前記減衰力発生装置により発生される減衰力を制御する減衰力制御装置において、
バネ上部材のヒーブ運動を抑制するようにヒーブ方向に作用する減衰力であるヒーブ要求減衰力と、バネ上部材のロール運動を抑制するようにロール方向に作用する減衰力であるロール要求減衰力と、バネ上部材のピッチ運動を抑制するようにピッチ方向に作用する減衰力であるピッチ要求減衰力とを演算するモード要求減衰力演算手段と、
前記ヒーブ要求減衰力とそれぞれの前記減衰力発生装置により発生される減衰力である各輪減衰力との関係を表すヒーブ−各輪減衰力関係式と、前記ロール要求減衰力と前記各輪減衰力との関係を表すロール−各輪減衰力関係式と、前記ピッチ要求減衰力と前記各輪減衰力との関係を表すピッチ−各輪減衰力関係式と、それぞれの前記減衰力発生装置の前記電気モータの発熱量の総和を表す式とに基づいて、前記発熱量の総和が最も小さくなるように、前記各輪減衰力の目標値である各輪要求減衰力を演算する各輪要求減衰力演算手段と、
前記各輪要求減衰力演算手段により演算された前記各輪要求減衰力に基づいてそれぞれの前記減衰力発生装置により発生される減衰力を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする、減衰力制御装置。 - 請求項1に記載の減衰力制御装置において、
それぞれの前記減衰力発生装置の前記電気モータの発熱量の総和を表す式は、それぞれの前記電気モータを流れる電流と前記電気モータに印加される電圧との積の絶対値の総和により表されることを特徴とする、減衰力制御装置。
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