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JP2011073907A - ジルコニア焼結体及びその製造方法 - Google Patents

ジルコニア焼結体及びその製造方法 Download PDF

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JP2011073907A JP2009225658A JP2009225658A JP2011073907A JP 2011073907 A JP2011073907 A JP 2011073907A JP 2009225658 A JP2009225658 A JP 2009225658A JP 2009225658 A JP2009225658 A JP 2009225658A JP 2011073907 A JP2011073907 A JP 2011073907A
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Abstract

【課題】強度、透光性及び耐水熱劣化性がともに優れるがゆえに、特に歯科用材料に適したジルコニア焼結体を提供する。
【解決手段】3〜5.5モル%のイットリアを含むジルコニア焼結体であって、(1)見掛け気孔率が1%以下であり、(2)厚さ0.2mmの薄片サンプルにおいて2mm×2mmのエリア内で気孔径10μm以上の気孔が30個以下であり、(3)平均結晶粒径が0.2〜1μmであることを特徴とするジルコニア焼結体及びその製造方法に係る。
【選択図】なし

Description

本発明は、ジルコニア焼結体及びその製造方法に関する。より詳しくは、義歯、歯列矯正用ブラケット等の歯科用材料に適したジルコニア焼結体とその製造方法に関する。
安定剤としてYを少量固溶させたジルコニア焼結体(以下「Y−TZP」と略記する。)は高強度かつ高靭性であることから、切断工具、ダイス、ノズル、ベアリンゲ等の構造用材料のほか、歯科材料等の生体材料として広く利用されている。特に、歯科材料として利用する場合、高強度及び高靭性という機械的特性のみならず、審美的観点から透光性及び色調という光学的特性も要求される。
Y−TZPの高強度化という機械的特性のみに焦点を当てた検討・研究は従来からなされている。Y−TZPにおける高強度機構は、焼結体中に含まれる正方晶相ジルコニアが応力によって単斜晶相にマルテンサイト型転移することに起因する。Y濃度が2〜3モル%の一般的なY−TZPの常圧焼結においては、焼結体中に粗大な気孔が残存し、焼結体の破壊強度は粗大気孔の大きさによって影響され、粗大気孔が残存する常圧焼結体の3点曲げ強度は1200MPa程度である。また、このような組成領域にある焼結体はほとんど透光性がないために歯科用途には利用できない。このような気孔を強制的に排除するために、熱間等方圧プレス(以下「HIP」と略記する。)又はホットプレスを用いた高強度化と透光化の検討がなされているが、性能面で不十分であるばかりでなく、高圧焼結法固有の課題、すなわちコストの問題があり、事実上の利用が不可能な状況にある。ホットプレス法ではCAD−CAMにより素地加工した圧粉体を焼結できない等の欠点があり、事実上歯科用途には利用できない。また、機械的強度がピークにあるY量が2〜3モル%の領域では、水熱劣化(高温の飽和水蒸気中で熱処理したとき正方晶から単斜晶への相転移に伴う強度劣化:非特許文献1参照)による問題が残されており、機械的強度、耐水熱劣化性及び透光性の三条件を満足できるジルコニア焼結体に関する報告は見当たらない。
非特許文献2では、HIP加圧焼結法によって作製されたイットリア濃度2〜3モル%ジルコニア焼結体の3点曲げ強度において、常圧焼結体よりも高強度化が図られている。しかし、最高強度としては1700MPa程度、あるいはその値を超えるものも見られるが、通常のHIP処理であるため、透光性は十分なものではない。
また、特許文献1によれば、イットリア濃度2〜4モル%ジルコニア焼結体(相対密度95%以上)の一次焼結体を作製した後、50MPa以上の圧力かつ1200〜1600℃でHIP処理することにより、1700MPa以上の高強度と所定の透光性とを兼ね備えたジルコニア焼結体が報告されている。ところが、その実施例を見る限りでは、一次焼結又はHIP処理の温度のいずれかが1400℃を超え、また作製したジルコニア焼結体のY濃度は2〜3モル%に限定されている。このような組成領域及び温度条件では容易に水熱劣化を起こし、実用に供することは困難である。
特許文献2〜4には、HIP等の加圧焼結法によって作製されたイットリア濃度2〜4モル%のジルコニアとアルミナ等の酸化物との複合焼結体が2000MPa以上の高強度を示すことが開示されている。しかし、アルミナはジルコニア焼結体中に分散・析出した組織構造となっており、分散したアルミナがジルコニアの屈折率とは大幅に異なること及びアルミナが六方晶系の結晶構造に属することを考慮すれば、当該セラミックスでは透光性は得られ難い。比較例として、アルミナ等の酸化物を含まないイットリア濃度2〜4モル%ジルコニアが示されているが、非特許文献1と同様に原理的にも透光性はほとんど認められない。
特許文献5には、特許文献2〜4と同様にイットリア濃度2〜4モル%ジルコニアとアルミナとの複合焼結体では2000MPa以上の高強度を示すことが開示されている。比較例として、アルミナ等の酸化物を含まないイットリア濃度2〜4モル%ジルコニアの強度として最高平均強度1854MPaが記載されているものの、非特許文献1と同様に透光性は十分なものではない。
透光性及び色調を備えた焼結体とするため、アルゴン雰囲気のHIPで黒色化した焼結体を大気中で加熱酸化する方法がある(非特許文献3)。しかし、再酸化した場合、焼結体強度が低下するという問題がある。
一方、ある程度の透光性を有するものとしてイットリアを含むジルコニアからなる歯列矯正ブラケットが開示されている(特許文献6〜8)。いずれも酸素混合ガス雰囲気でのHIPを用いており、強度が1620MPa以下であるが、透光性の点ではなお不十分である。また、高い機械的強度と透光性を両立させることを目的とした手法が特許文献1及び特許文献9に開示されているが、HIP処理することが前提条件であり、得られたジルコニア焼結体(0.5mm)における全光線透過率は40〜50%程度である(一般的に全光線透過率は積分球を使って材料内部を伝搬できる光量全部を検出するので、試料の垂直方向から入射光を入れ、透過した直線性の高い光のみを計測する一般的な透過率がより厳しい数値となる。)。先行文献の一部に透過率(直線透過率)を記述した例がみられるが、同一厚さ(0.5mm)の試料において7〜12%程度であり、この数値から実施例に記載のセラミックスの光伝送損失を次式から計算することができる。
α=(1/L) x 10 log (P0/Pi) 式(1)
(ここで、α:光伝送損失、L(試料長さ)、P0(入射パワー)、Pi(出射パワー))
上記式に基づいて計算した結果、前記先行文献のα値は23〜18/mmという数値となる。この値は、後述する本発明のHIPを用いないジルコニア焼結体のそれに比べても、非常に特性の劣ったものと判断できる。
このように、高強度と審美的観点での透光性及び色調を兼ね備えたY−TZPは得られていない。特に、イットリア濃度2〜4モル%ジルコニアにアルミナ等の酸化物を1重量%以上、実質的には10重量%以上複合化することなく、機械的強度、透光性及び耐水熱劣化を満足できる焼結体は得られていない。
特に、歯科用途の材料においては現在特段の法的な規制はないが、口内使用であるがゆえにジルコニア焼結体が常に水と体温に晒されるため、長期使用時の特性劣化を想定する必要がある。また、ジルコニア焼結体は高温の飽和水蒸気中で処理したときに強度劣化を起こすことが知られている。このため、ジルコニア焼結体固有の問題点と歯科用材料の使用環境を鑑みれば、耐水熱劣化性も備えたジルコニア焼結体の開発が必要となる。近年、Y−TZPの用途として歯科材料が登場し、義歯材料、歯列矯正ブラケット等として検討又は利用され始めている。義歯作製方法の一つとして焼結体をCAD−CAMシステムによって所望の形状に加工する方法があり、この焼結体をミルブランクと称している。前記の通り、この焼結体には歯の噛み合せに耐える十分な高強度とともに、審美性として自然歯に近い透光性(透明感)が要求されるものの、現在用いられているY−TZPは1200MPa程度の強度と光をほとんど透過しない白色の焼結体、あるいは非常に透光性の低い焼結体である。この点において、ミルブランクとして、高強度及び透光性に加え、前記のような耐水熱劣化性を改善する必要がある。特に、歯科材料として、歯列矯正ブラケットにおいては、より高強度かつ透光性に優れ、かつ、耐水熱劣化性に優れた焼結体の開発が望まれている。
特開2008−50247号公報 特開昭60−86073号公報 特開昭60−226457号公報 特開昭60−235762号公報 特開平3−80153号公報 特開平3−170148号公報 特開平08−117248号公報 特開平11−276504号公報 特開2008−222450号公報
山下勲、津久間孝次, "3mol%Y2O3-ZrO2セラミックスにおける相分離と水熱劣化", 日本セラミックス協会学術論文誌,vol.113, pp530-33 (2005).−43頁(1986) Ceramics Bulletin 第64巻、310頁(1985) ジルコニアセラミックス8、宗宮重行、吉村昌弘編、内田老鶴圃、33−43頁(1986)
従って、本発明の主な目的は、強度、透光性及び耐水熱劣化性がともに優れるがゆえに、特に歯科用材料に適したジルコニア焼結体を提供することにある。
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成と特定の製造方法を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記のジルコニア焼結体及びその製造方法に係る。
1. 3〜5.5モル%のイットリアを含むジルコニア焼結体であって、(1)見掛け気孔率が1%以下であり、(2)厚さ0.2mmの薄片サンプルにおいて2mm×2mmのエリア内で気孔径10μm以上の気孔が30個以下であり、(3)平均結晶粒径が0.2〜1.5μmであることを特徴とするジルコニア焼結体。
2. 試料厚さ3.0mmにおける波長400〜700nmの範囲の透過率が7%以上である、前記項1に記載のジルコニア焼結体。
3. 3点曲げ強度が800〜1500MPaである、前記項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
4. 結晶相が、(1)3モル%以下のイットリアを含む正方晶系蛍石型結晶相40〜100体積%及び(2)5モル%以上のイットリアを含む立方晶系蛍石型結晶相0〜60体積%を含む、前記項1〜3のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
5. ジルコニア焼結体を180℃で5時間の水熱処理を施した後の粉末X線回折における(単斜晶相の最強ピーク)/(正方晶相の最強ピーク)の比率が1以下である、前記項1〜4のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
6. アルミニウム成分及びマグネシウム成分の少なくとも1種を酸化物換算で0.5重量%の範囲内で含む、前記項1〜5のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
7. 前記項1〜6のいずれかに記載のジルコニア焼結体を含む歯科用材料。
8. 前記項1〜6のいずれかに記載のジルコニア焼結体を含む歯列矯正ブラケット。
9. イットリアを含有するジルコニア焼結体を製造する方法であって、
(1)イットリウム及びジルコニウムを含有し、かつ、平均一次粒子径10〜100nm及びBET比表面積3〜30m/gである原料粉末又はその造粒物を成形することにより圧粉体を得る第1工程、
(2)前記圧粉体を10〜10−4Paの真空雰囲気下又は酸素濃度50%以上の酸素含有雰囲気下において大気圧以下で1300〜1600℃で焼成する第2工程
を含むジルコニア焼結体の製造方法。
10. 原料粉末が、安定剤として3〜5.5モル%のイットリアを含むジルコニアの粉末であり、その純度が99%以上である、前記項9に記載の製造方法。
11. 圧粉体が、(1)平均気孔径0.02〜0.3μmであり、(2)最大気孔径10μm以下であり、(3)全気孔容積に対して気孔径5μm以上の気孔が占める容積割合が5%以下である、前記項9又は10に記載の製造方法。
12. 原料粉末が、さらに酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムの少なくとも1種を0.5重量%の範囲内で含む、前記項9〜11のいずれかに記載の製造方法。
13. 前記項9〜12のいずれかの製造方法により得られるジルコニア焼結体。
本発明のジルコニア焼結体は、強度、透光性及び耐水熱劣化性がともに優れるがゆえに、歯科用材料をはじめとして、これらの特性が要求される用途を中心に幅広い用途に用いることができる。また、本発明の製造方法によれば、所定の圧粉体を特定の焼成雰囲気で焼成することから、HIP等の高圧下での処理を必要とすることなく、残留気孔数を極限まで減らすことができる。その結果、上記のような高い強度、透光性及び耐水熱劣化性をとも兼ね備えたジルコニア焼結体を得ることができる。
特に、本発明では、圧粉体中の気孔径分布を精密制御する場合には、残留気孔をより効果的に減少させて所望のジルコニア焼結体を製造することができる。ちなみに、一般的なHIP処理を用いたジルコニア焼結体の作製では、HIPによる強制圧力印加により気孔等の欠陥を低減できるので、HIP処理前の焼結体の組織制御は必要とはならない。
さらに、本発明の焼結温度は1300〜1600℃の温度範囲であるが、一般的な部分安定化ジルコニア焼結体では1350℃以上の温度で焼結した場合に著しい水熱劣化を生じることが報告されている(中山享他、“イットリア安定化ジルコニア -1- B-Al-SiOを添加したY−TZPの熱安定性”, 品川技報告, (38) pp43-48 (1995/03))。ところが、本発明のプロセスで得られるジルコニア焼結体は、180℃×5時間飽和水蒸気中でのオートクレーブ処理を行った場合でも、X線回折パターンにおける単斜晶/正方晶の回折ピーク比が1.00以下である。その結果として、本発明では、水熱劣化に伴う強度変化(水熱処理後の強度/焼結直後の強度)が0.80以上という優れたジルコニア焼結体を提供することができる。ちなみに、汎用されているイットリア2〜3モル%添加ジルコニア焼結体では高強度が得られ易いものの、本発明に記載された条件又はそれ以上の過酷な条件でオートクレーブ処理すると極端な強度劣化ないしは材料の崩壊を起こすので、材料の長期使用という観点では問題を残したままである。
また、ジルコニア焼結体において、特許文献8に記載された温度でHIP処理すれば透光性は得られるが、このような透光性は十分なものとは言えない。本発明(真空あるいは常圧焼結)で得られたジルコニア焼結体は、HIP処理したジルコニアより優れた透光性を示す。前記の式(1)に記載されたα値に関して、先願特許ではHIPを用いてジルコニア焼結体を作製しているが、ジルコニアの表面反射ロス(組成により若干異なるが、屈折率n=2.2とすれば片面14.1%、両面28.2%の反射ロス)があることを考慮してもその値は23〜18に達している。本発明では試料厚さを3mmとして透過率を測定したが、α値は3.8〜2.7程度となりHIP法よりさらに優れた透光性を示す。
本発明において、CIP処理により得られた圧粉体中の気孔径分布を示す。 本発明品と従来技術で作製した3.3モル%Y添加ジルコニア焼結体(厚さ200μmの薄片試料)を透過型電子顕微鏡で観察した結果(写真)を示す。 図3は、本発明品及び従来品に対して白色LEDを照射したときの状態(外観)を示す。 本発明の透光性ジルコニア焼結体を作製するのに適した焼結装置の概略図である。 本発明の透光性ジルコニア焼結体を作製するのに適した焼結装置の概略図である。 本発明の透光性ジルコニア焼結体を作製するのに適した焼結装置の概略図である。
1 ヒーター
2 ロータリーポンプ
3 流量計
4 ガスボンベ
5 試料台
6 サンプル
7 断熱材
8 フランジ
9 焼成炉
10 ターボ分子ポンプ
11 真空チャンバー
12 配管
13 バルブ
1.ジルコニア焼結体
本発明のジルコニア焼結体は、3〜5.5モル%のイットリアを含むジルコニア焼結体であって、(1)見掛け気孔率が1%以下であり、(2)厚さ0.2mmの薄片サンプルにおいて2mm×2mmのエリア内で気孔径10μm以上の気孔が30個以下であり、(3)平均結晶粒径が0.2〜1.5μmであることを特徴とする。
本発明のジルコニア焼結体は、3〜5.5モル%のイットリアを含むものに限定される。イットリアは安定剤として基本的にはジルコニア焼結体中において固溶して存在している。イットリア含有量を3〜5.5モル%、より好ましくは3〜5モル%にすることにより、優れた強度、透光性及び耐水熱劣化性を発揮することができる。安定剤が2〜3モル%の範囲で機械的強度のピークとなることから一般的な構造材料はこの組成範囲のジルコニア焼結体が利用されているが、光学的特性が十分なジルコニア焼結体の作製が困難であるという技術的課題がある。また、3モル%未満のイットリア含有量では水熱劣化の問題が発生し、高い湿度又は水中でジルコニア焼結体を長時間使用した場合に強度が劣化するおそれがある。他方、イットリア含有量が3モル%を超える場合は極端な強度低下が生じることが報告されているが、物質(組成)固有の物性と理解され、その強度特性の改善に関する報告例が見当たらない状況にある。これに対し、本発明では、イットリア濃度が3モル%以上であっても、焼結体材料内部に存在する組織欠陥(主に残留気孔)のサイズと量を低減させることにより、従来の概念にはない高い強度を実現しただけでなく、透光性と耐水熱劣化性も大幅に改善したところに大きな特徴がある。
本発明のジルコニア焼結体では、本発明の効果を損なわない範囲内でその他の成分が含まれていても良い。例えば、ジルコニア焼結体を着色するために遷移元素、希土類元素等の少なくとも1種を1000ppm以下の範囲で含有していても良い。また、強度をより高めるためにアルミニウム単独又はアルミニウムとマグネシウムとの併用したとき酸化物換算で0.5重量%以下の範囲で含有していても良い。
本発明のジルコニア焼結体は、見掛け気孔率が1%以下、好ましくは0.5%以下である。見掛け気孔率が1%を超える場合は所定の機械的強度、透光性等が得られなくなるおそれがある。透過特性は材料内部に存在する組織欠陥、特に母材のジルコニアと屈折率差の最も大きな残留気孔量と密接な関係がある。理論的に透光性の良好な焼結体中に残存する気孔の量が少ないものほど透過率と機械的強度は高いので、本発明で作製できるジルコニア焼結体中の残留気孔量は先願特許のHIP法で作製されたものと同等又はそれ以下であるのと考えられる。
本発明のジルコニア焼結体は、厚さ0.2mmの薄片サンプルにおいて2mm×2mmのエリア内で気孔径10μm以上の気孔が30個以下、好ましくは10個以下である。2mm×2mmのエリア内において、気孔径10μm以上の気孔が30個を超える場合は所定の機械的強度と透光性を両立するジルコニア焼結体が得られ難くなる。
本発明のジルコニア焼結体の平均結晶粒径は0.2〜1.5μmであり、好ましくは0.2〜0.5μmである。この範囲内に規定することによって優れた機械的強度とともに透光性等を得ることができる。本発明のジルコニア焼結体では、前記のように気孔率及び気孔径10μm以上の気孔の気孔数を規定することによって、平均結晶粒径0.2〜1.5μmの範囲でも十分な強度を維持できるばかりでなく、組織欠陥を低減することにより透光性を高めることが可能となる。
本発明のジルコニア焼結体は、多結晶体である。その結晶相としては、(1)3モル%以下のイットリアを含む正方晶系蛍石型結晶相40〜100体積%及び(2)5モル%以上のイットリアを含む立方晶系蛍石型結晶相0〜60体積%を含むことが好ましい。ジルコニアの高強度機構は、応力印加による正方晶系蛍石型結晶相から単斜晶系への相転移に起因することから、高強度化のためには前記(1)の正方晶系蛍石型結晶相が所定量存在することが好ましい。特に、本発明のジルコニア焼結体では、実質的に(1)3モル%以下のイットリアを含む正方晶系蛍石型結晶相40〜100体積%及び(2)5モル%以上のイットリアを含む立方晶系蛍石型結晶相0〜60体積%からなることがより好ましい。すなわち、本発明のジルコニア焼結体は、実質的に前記(1)及び(2)の結晶相のみからなることがより望ましい。
また、本発明では、ジルコニアの色調は本来白色であることから、必要に応じてFe、Ni等の不純物を数1000重量ppm以下の範囲内で添加することにより象牙色又はその他の色に変えること可能である。さらに、他の遷移金元素又は希土類元素を適量添加することで自由に色調を調整することができる。
本発明のジルコニア焼結体は、その透光性に優れている。より具体的には、試料厚さ3.0mmにおける波長400〜700nmの範囲の透過率が7%以上、特に10%以上という性能を発揮することができる。前記の透過率の上限は特に制限されないが、通常は7〜15%であると自然歯に近い透光性となるのでより好ましい審美性が得られる。この理由は上記範囲のジルコニア焼結体の透光感が自然歯のそれに非常に近いためである。
なお、本発明においては、垂直透過光束(400〜700nm(ピーク570nm)の光、光束幅は直径1mmの円形)を照射し、試料がない状態との比をlog(対数)で表したものを光学濃度Dとし、透過率を1÷10×100より算出することとした。この理由は、従来の全光線透過率では光源(ランプ)の紫外〜赤外線における全波長に対する透過性を示すものであり、特に本発明の歯科用途には不適合な部分があるためである。すなわち、審美性は人間の目で感知できる可視光にて判定できることが最も好ましいと考えられることから、前記可視波長域の白色光にて測定する方法を採用している。
本発明のジルコニア焼結体は、3点曲げ強度が800〜1500MPa、好ましくは950〜1500MPaである。かかる強度を有することにより、歯科材料等として好適に用いることができる。
本発明のジルコニア焼結体は、耐熱水劣化性に優れている。前述したが、歯科用途の材料においては現在特段の法的な規制はないが、口腔内使用であるためにジルコニア焼結体が常に水と体温に晒されることから、長期使用時の特性劣化を想定する必要がある。耐熱水劣化性の具体的な評価基準はないが、本発明ではこの評価(加速テスト)を行う目的でジルコニア焼結体(特に、製造直後のジルコニア焼結体)を180℃で5時間の水熱処理を施した後の粉末X線回折における(単斜晶相の最強ピーク)/(正方晶相の最強ピーク)の比率により評価した。無論、水熱処理前後の鉱物相の変化がないことは強度変化を生じないことになるが、(単斜晶相の最強ピーク)/(正方晶相の最強ピーク)の比率が1以下、好ましくは0.8以下であると事実上支障がないものと考え(この値が1以上であると強度低下が著しいので)、この値を基準値とした。
次に、本発明の焼結体の用途について説明する。本発明のジルコニア焼結体は、歯科用材料として好適に用いることができる。特に透光性が要求される材料として最適である。より具体的には、オールセラミッククラウン(ブリッジ)、ポーセレンラミネートベニア、接着性ブリッジ、インレーやオンレー等の歯冠材料のほか、歯列矯正ブラケットの本体及びそれに用いる部品、インプラント材料等にも幅広く用いることができる。
審美歯科修復物として、代表的なものに金属焼付けポーセレンがあるが、金属アレルギーの問題や、金属色が反映して、歯肉部分が黒ずみ、審美性が低下する等の問題点がある。近年、金属に代わって強度が高く、色調が白色あるいは淡い黄色のセラミックであるアルミナ又はジルコニアをコア材として使用し、その上に透明性を持つガラスセラミック(ポーセレン)を焼き付けるオールセラミッククラウン(ブリッジ)が普及しつつある。この普及には、ジルコニアを用いた補綴物をCAD−CAMシステムで作製する方法が開発され、実用化されていることに大いに関係がある。作製法としては、補綴物骨格形状をCADに取り込み、その情報をミリング加工(CAM)ユニットに伝達して、ジルコニアからなるミルブランクを自動加工して精密形状を作り上げるものである。このようなシステムには、焼成していない圧粉体又は仮焼したミルブランクを用い、焼結収縮を計算した大きさで加工したものを焼結するものと、ミルブランクにHIP処理を施した焼結体そのものを用いて加工するものとが知られている。審美歯科修復物のコアセラミックスは靭性が金属に比べて低いため、金属より0.1〜0.3mmほど厚くすることが要求される。その場合、アルミナあるいはジルコニアの反射によって、歯冠全体の透明性を阻害し、所望の審美性を得られないことがある。そのため、高透光性を有したジルコニア焼結体が求められる。従来、3モル%Yを含むジルコニアの常圧焼結体が用いられており、強度は900〜1300MPa、厚さが薄い状態でも透過率は極めて低い状態にある。一方、強度並び透光性を向上させる手段の一つに焼結体をHIP処理する手法があり、強度は1500〜1850MPa、透過率は厚さ0.5mmの焼結体で40%程度を得ることができる。この組成範囲で作成されたジルコニア焼結体の強度は高くできるが、全光線透過率は40%程度が限界であり、また耐水熱劣化性が不十分である。HIP処理は常圧焼結法に比べて透過率を高めることができるが、HIP装置自体高額であること及びHIP処理のために製造工数が増えることのほか、HIP処理後の製品の強度が高いため、その後の加工に時間やコストが多くかかる等の短所がある。そのため、オーダーメイド製品である歯科用補綴物の製造では、HIP処理したジルコニア焼結体を利用しようとする場合、(HIP処理コストが高いため)一度に大量の焼結体ブロックを作製し、これをHIP処理している。HIP処理したブロックから歯型形状に加工することは容易でなく、加工コストが非常に高価となるために実際上利用することは困難である。また、圧粉体をCAD−CAMよりにニアネット成型後焼成した後、HIP処理すれば加工コストは安くなるが、患者への早期治療の観点で短納期が要求される当業界では少量でもHIP処理する必要があり、この場合はHIPコストの問題が残る。また、HIP処理した従来のジルコニア焼結体は、非HIP品のジルコニア焼結体より透光性は良いがユーザーニーズを十分満足できる審美性までには至っていないという根本的理由もあり、市場投入なされていない現実がある。
これに対し、本発明の焼結体はHIP処理を行わずに、透光性を得ることができるだけでなく、従来の常圧焼結法の強度低下(不十分)の問題、さらには耐水熱劣化性の問題を解消することができるので、前記のような各種の歯科用材料として最適であり、性能と経済性の両立により歯科材料の分野においてジルコニア焼結体の普及に大いに貢献できる。
2.ジルコニア焼結体の製造方法
本発明のジルコニア焼結体は、特に次の製造方法により好適に得ることができる。すなわち、イットリアを含有するジルコニア焼結体を製造する方法であって、
(1)イットリウム及びジルコニウムを含有し、かつ、平均一次粒子径10〜100nm及びBET比表面積3〜30m/gである原料粉末又はその造粒物を成形することにより圧粉体を得る第1工程、
(2)前記圧粉体を10〜10−4Paの真空雰囲気下又は酸素濃度50%以上の酸素含有雰囲気下において大気圧以下で1300〜1600℃で焼成する第2工程
を含むジルコニア焼結体の製造方法により好適に製造することができる。
第1工程
第1工程では、イットリウム及びジルコニウムを含有し、かつ、平均一次粒子径10〜100nm及びBET比表面積3〜30m/gである原料粉末又はその造粒物を成形することにより圧粉体を得る。
原料粉末の組成は、本発明のジルコニア焼結体の組成となるように調製すれば良い。例えば、各成分の供給源となる酸化物を用いることができる。上記酸化物としては、例えば、ZrO、Y等を使用することができる。本発明では、原料粉末として、安定剤として3〜5.5モル%(好ましくは3〜5モル%)のイットリアを含むジルコニア粉末(特に部分安定化ジルコニア粉末)を好適に用いることができる。
また、原料粉末には、必要に応じて、得られるジルコニア焼結体に着色するための成分(遷移元素、希土類元素等)等も適宜配合することができる。
さらに、原料粉末に1)酸化アルミニウム単独又は2)酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムを0.5重量%以下(好ましくは0.1〜0.5重量%)の範囲内で添加することもできる。上記範囲内で酸化アルミニウムAl等を添加することにより、優れた透光性を維持しつつ、より高い強度を得ることができる。なお、前記2)において、酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムを併用する場合の両者の割合は限定的ではないが、通常は重量比で酸化アルミニウム:酸化マグネシウム=1:10〜1:0程度とすれば良い。本発明では、酸化アルミニウム単独で添加することが好ましい。
ジルコニアに酸化アルミニウムAlを添加すると原料粉末の焼結性が向上し、より低温での焼結が可能となることから、焼結体の粒子サイズが小さくなり機械的強度が向上することは知られている。しかし、従来技術では、Alはほとんどジルコニアに固溶し難く、焼結体の粒界部に偏析しやすいので透光性に対しては弊害となり易い。本発明でもAlは焼結特性を向上させる同様の作用があるが、Al添加したジルコニア焼結体の透過率は無添加品と同程度にとどまる。これまでの技術常識によれば、前述のようにAlはジルコニア焼結体の粒界部に偏析するため、光学特性を低下するはずであるが、本発明においてはその兆候がほとんど認められない。HP法又はHIP法では高圧焼結により気孔等の欠陥を強制排除できるため、欠陥の排除が終われば焼結は短時間で終了される。一方、本発明においては気孔部を真空にするか、酸素を置換させ、温度を上昇・保持させることにより、焼結過程で徐々に材料内部の欠陥が除去される一方、添加されたAlがジルコニア焼結体(ジルコニアの粒子)中により均一に固溶できる条件ともなり得る。この場合、いったん固溶したAlが焼結の冷却過程でジルコニアの粒界部に偏析し難くなっているものと考えれば、本発明品のAl添加ジルコニア焼結体が従来のHIP法より優れた光学特性を示す理由になるが、現段階では科学的な解明はできていない。Phase Diagram for Ceramics (by The American Ceramics Society)のFigure 4378に示されているZrO-Al系状態図においてもジルコニア中へAlが1重量%以下程度の範囲で固溶が可能と考えられ、固溶したAlは冷却とともに固溶量が減少することになる。ジルコニア固体中のAlイオンの体積拡散係数は不明であるが、本発明に記載された焼結温度域におけるジルコニア中のAlイオンの拡散係数は粒界析出を顕著に起こすほど大きくなければ(Alが粒界近傍に偏析しない)十分な説明ができ、本発明品が同じAl濃度のHIPに比べ光学特性が優れているという点に合致する。ただし、本発明がAl添加効果を最大に発揮できるとしても過剰のAl(原理的に固溶できない量)の添加は避けなければならない。この観点において上記添加量は0.5重量%以下とすることが望ましい。無論、AlとMgOの併用、あるいはスピネル(MgAl)を添加しても同様の効果があるので、Al単独或いはAlとMgOの併用も本発明の範疇となる。
原料粉末の平均一次粒子径10〜100nm及びBET比表面積3〜30m/gである。これらの範囲を外れる場合は、得られるジルコニア焼結体の機械的強度、透光性、耐水熱劣化性等のいずれかが劣ることがある。
原料粉末の調製(混合)は、公知又は市販の混合機等を使用すれば良く、乾式又は湿式のいずれであっても良い。湿式の場合は、例えばエタノール(工業用アルコールである変性タイプでも良い)、イソプロピルアルコール等のアルコール系有機溶剤を使用すれば良い。また、必要に応じて有機バインダー(アクリル樹脂系バインダー等の合成樹脂系バインダー)、分散剤等の公知の添加剤を適宜配合することもできる。
本発明では、イットリア含有量の異なる2種以上の原料粉末を混合して用いることができる。例えばイットリア3モル%と4モル%の二種類のジルコニア粉末の併用(すなわち、ケミカルポテンシャルの異なる原料を利用)することができる。これにより焼結はさらに促進され、目的のジルコニア焼結体を得ることがさらに容易になる。
第1工程では、圧粉体の成形に先立って、原料粉末を造粒することが望ましい。本発明では、1)合成樹脂系バインダーを一切利用せずに(バインダーフリー)原料粉末を造粒する方法又は2)合成樹脂系バインダーを使って原料粉末を造粒する方法により可塑性の高い造粒物(顆粒)を形成することにより、気孔径が小さく(かつ気孔径の大きな気孔が少なく)、その分布がシャープな圧粉体をより確実に成形することができる。
造粒方法は特に限定されず、攪拌造粒、転動造粒、スプレードライ等の公知の造粒方法を採用することができるが、特にa)原料粉末を含み、かつ、合成樹脂系バインダーを含まない(バインダーフリー)スラリー又はb)原料粉末及び合成樹脂系バインダーを含むスラリーをスプレードライ法により造粒物を好適に得ることができる。いずれの場合も、公知の造粒方法で使用されているような溶媒(例えば水、アルコール類等)を適宜用いることができる。
前記1)及び2)の場合における造粒物の平均粒径は限定的ではないが、通常は10〜100μm程度とすることが望ましい。スプレードライヤー等にてこれ以外のサイズの顆粒が発生した場合は篩にて分級し、除外すれば良い。合成樹脂系バインダーとしては、特に制限されないが、例えばアクリル系バインダーが挙げられる。アクリル系バインダーの種類は限定的ではなく、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、Acrylic acid alkyl methacrylic acid polyoxyalkylene glycol monoester acrylic acid copolymer resin solution等を好適に用いることができる。
原料粉末を成形する方法は特に限定されず、例えば一軸プレス(金型プレス)成形、冷間静水圧プレス法(CIP法)を採用することができる。例えば、1次成形として一軸プレス成形をした後にCIP法により圧粉体を好適に得ることができる。CIP成形の圧力は50〜500MPaの範囲とすれば良い。
成形する際は、用いる原料粉末の粒径、原料粉末の組成等に応じて適宜設定することができるが、圧粉体が(1)平均気孔径0.02〜0.3μmであり、(2)最大気孔径50μm以下であり、(3)全気孔容積に対して気孔径5μm以上の気孔が占める容積割合が5%以下(特に2%以下)となるように調整することが好ましい。これにより、高い機械的強度とともに優れた透光性及び耐熱水劣化性を有するジルコニア焼結体を得ることができる。
得られた圧粉体は、必要に応じて仮焼することもできる。特にバインダー等の有機物を含む場合はそれを除去するために仮焼(脱脂)することが好ましい。仮焼温度は限定的ではないが、通常は500〜1000℃とすれば良い。仮焼雰囲気は、例えば大気中、酸化性雰囲気等とすれば良い。
第2工程
第2工程では、前記圧粉体を10〜10−4Paの真空雰囲気下で1300〜1600℃で焼成する方法、あるいは酸素濃度50%以上の酸素含有雰囲気下(以下「高酸素雰囲気」ともいう。)において大気圧以下で1300〜1600℃で焼成する方法を実施する。これにより、本発明の焼結体を得ることができる。
焼成温度は、1300〜1600℃とし、ジルコニア中のY量に伴って適宜変動するが、特に1350〜1550℃とすることが好ましい。焼成時間は、焼成温度、焼成雰囲気等に応じて適宜設定することができる。
焼成雰囲気については、真空雰囲気の場合は10〜10−4Pa程度とし、好ましくは10−1〜10−4Paとすれば良い。真空焼結後にジルコニア焼結体が還元されて白色〜乳白色でない場合(例えば、淡黄色あるいは灰色の場合)は、酸素を含む雰囲気中900〜1400℃の温度でアニールすることで目的の焼結体が得られる。
また、高酸素雰囲気とする場合は、酸素濃度を50%以上とし、好ましくは90%以上とする。酸素以外のガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスでよいが、残量気孔をスムースに排除できるという点ではHeガスとすることがさらに好ましい。高酸素雰囲気の場合は、酸素ガス50〜100%及び窒素又は不活性ガス0〜50%とすることが好ましい。高酸素雰囲気の場合の圧力は限定的ではないが、大気圧以下(常圧以下)とすれば良く、特に0.1〜1気圧程度の圧力範囲内とすることが好ましい。
本発明では真空又は高酸素雰囲気下で焼成を行うが、ジルコニア圧粉体が焼結過程で緻密化(気孔の排除)を行うときに本材料系では極めて有効である。特に酸素ガスは焼結過程においてジルコニア圧粉体中の空隙(気孔)に進入・置換し、中期・末期焼結で焼結体中から容易に排除できるので、最終的に焼結体中の総気孔量を激減させることが可能となったものと推定している。透光性セラミックス合成においては、例えばアルミナの場合水素ガスを用いる、あるいはHIPを利用することは一般的に知られている。ジルコニア焼結体の場合、安定化ジルコニア焼結体においてはTiO等の焼結助剤を用いて透光性を得る例は報告されているが、立方晶構造を有するジルコニアであっても優れた透光性を有する焼結体を得ることは容易ではない。正方晶に属する部分安定化ジルコニアはさらに透光化が困難であるため、HIP又はHPの高圧焼結技術を用いて気孔を強制排除すること、すなわち材料内部の破壊起点と光散乱源を低減することにより、機械的強度と透過性とを確保することが行なわれている。ところが、材料技術を熟慮すれば高圧焼結によってジルコニアの強度自体に変化が生じることは考え難く、ジルコニア焼結体がもつ気孔等の組織欠陥が減少することが高強度化と高透光化に対する本質的な理由と考えられる。従って、材料の組織欠陥を減少させるための新たな手段(従来の高圧焼結でなく、性能と経済性を両立させる常圧焼結技術)を提供することで、歯科用ジルコニア焼結体として実用性の高い性能を付与できるという点に違いがある。より好ましくは、本発明では、単に酸素等を使うだけではなく、まず焼結に適する一次粒子を選択し、アクリル系バインダーを使って(又は合成樹脂系バインダーを使用せずに)原料粉末の造粒過程で可塑性の高い顆粒を形成することで、気孔径が小さく、その分布がシャープな圧粉体をつくり、これを用いることを前提とする。CIP成型後の圧粉体中に5μm以上の気孔が気孔全体の5%以上になると焼結後のジルコニア焼結体中に比較的大きな残留気孔が存在し、機械的強度が低下するので、圧粉体中に占める5μm以上の気孔は全体気孔量の5%以下、好ましくは2%以下に制御しなければならない。気孔サイズと分布が制御された圧粉体を前記の真空中又は好ましくは一定濃度以上の酸素雰囲気中で焼成することで、気孔の少ないジルコニア焼結体が得られ、その特性はこれまで要望された歯科用途に適合するものとなる。焼成前の圧粉体の気孔に酸素が存在する状態(酸素ガスの導入により気孔部は酸素ガスが充填)となれば、酸素ガスは焼結途中で容易にガスを外部に排除することができる。ジルコニア(特に立方晶構造のジルコニア)はそれと接した酸素ガスを容易に固体内に取り込む性質があるために固体電解質材料として利用されているが、この性質を利用してジルコニア内部に存在する残留気孔(酸素ガス)を除去して、ジルコニア焼結体材料内部の組織欠陥を激減させ、機械的強度低下を防止し、かつ、透光性を高めるという技術思想は本発明以外には見当たらない。圧粉体の気孔に置換させるガス種として酸素以外に真空、He、水素等が理論的に考えられるが、本発明の実験にて確認したところ、酸素と真空のみが本発明の用途に適合することが確認された。焼結中の雰囲気が真空である場合は(また、酸素を100%とした場合は、透過率が最大になることは無論のこと、三点曲げ強度のバラツキが酸素50%程度のものに比べて1/2〜1/3程度まで低減される等の付加的機能発現が確認されており、品質保証や品質管理の観点でも優れた効果を発揮する。この理由は、酸素以外の雰囲気ガスはジルコニア焼結体中の気孔排除に有効でなく、材料中に組織欠陥(気孔)が残ることによるものと考えられる。
<実施の形態1>
図1には、本発明において、CIP処理により得られた圧粉体中の気孔径分布を示す。試料調製及び測定方法は後述する実施例及び比較例の説明文に記載された方法に従い、一般的な水銀圧入法にて測定した。本発明により作製した圧粉体(Good type)の気孔サイズは0.2〜0.02μmの部分に集中しており、5μmを超える粗大な気孔は検出されなかった。この圧粉体を焼結すると、焼結体中には粗大な気孔はほとんどなく、機械的強度と透光性に優れたジルコニア焼結体を得ることができる。一方、従来技術で作製された圧粉体(Bad type)も同様に気孔サイズは0.2〜0.01μmの部分に集中していたが、5〜10μmを超える粗大な気孔も存在している。この圧粉体を焼結するとジルコニア焼結体内部には粗大な残留気孔が存在し、透光性と強度の不足する焼結体になっていた。
<実施の形態2>
図2には、本発明品と従来技術で作製した3.3モル%Y添加ジルコニア焼結体(厚さ200μmの薄片試料)を透過型光学顕微鏡で観察した結果を示す。本発明品である試料A及びDにおいては測定視野内に残留気候は認められない。試料B及びDも本発明品であるが数〜5μm以内の残留気孔が存在しているものの、その残留気孔量は0.3%以下となっている。試料E及びFは従来技術で作製したものであるが、ジルコニア焼結体中に10〜50μmの粗大気孔が比較的多く観察され、また10〜数μmの比較的小さな気孔が多数検出された。また、
作製した試料A〜Dの厚さ3mm試料の透過率はそれぞれ12、10、10、11、8及び7%であった。一方、三点曲げ強度については、試料A〜Dは950MPa以上を示していたのに対し、本発明の範囲内でない試料E及びFの曲げ強度は510及び360MPaという低いものであった。
<実施の形態3>
図3の3-(a)は本発明の3.5モル%Y添加ジルコニア焼結体と従来技術の2.6モル%Y添加ジルコニア焼結体を直径17mm×厚さ8mmのタブレット状に加工(両面は研削研摩の状態)し、サンプルに下方から白色LEDを照射したときの状態を示す。いずれの焼結体も市販ジルコニア粉末を用いたが、本発明品はアクリルバインダーを用いて造粒している。金型成型後、196MPaの圧力にてCIP成型、本発明は100%酸素雰囲気中1400℃で5時間、従来品は空気中1320℃で3時間焼結してジルコニア焼結体を作製した。図3の結果からも明らかなように、本発明品はLED光を容易に通過させることができ、サンプル全体が明るく輝いていることがわかる。これに対し、従来技術の材料ではほとんど光透過が不可能であり、表面が散乱により白化しているだけである。3-(b)は本発明の技術を使い、CAD−CAMシステムで歯冠形状(前歯及び奥歯)にした圧粉体を前記と同様の条件で焼結したものである。写真上は自然光下で観察したものであるが、神経の存在する自然歯に類似する審美性がある。また、写真下は下部よりハロゲンランプ光を照射したものであるが、人工歯冠内部から外部に光を通していることが明白であり、本発明品の光学的特長が容易に確認できる。
<実施の形態4>
図4〜図6には、本発明の透光性ジルコニア焼結体を作製するのに適した焼結装置の一例を示す。これらは、焼結装置の概要の一例であり、特にこれらに限定されるものではない。
図4の焼結装置(焼結装置A)は、1)ヒーター1を炉外に備えた焼成炉9、2)焼成炉9内に設置された試料台5、3)焼成炉9内を密封するためのフランジ8、4)焼成炉9内を減圧するためのロータリーポンプ(真空ポンプ)2及び5)焼成炉9内にガスを導入するためのガスボンベ4を有する。焼成炉9は、例えばアルミナ製焼成炉等のセラミック製焼成炉を好適に用いることができる。また、焼成炉の形状も限定されず、例えば図4のようなチューブ状のほか、直方体等のいずれであっても良い。焼結装置Aでは、ロータリーポンプ2及びガスボンベ4は、配管12及びバルブ13を介して焼成炉9に接続されている。図4に示すように、焼成炉9のガスを排気するための排気口及び配管はフランジを介して設置しても良い。さらに、ガスボンベ4と焼成炉9との間に流量計3を設けることもできる。ヒーター1は、焼成炉9内を加熱できる限りはその形状、配置箇所、個数等は特に限定されない。ヒーター1として使用する発熱体の種類は限定的ではないが、例えばモリブデンシリサイド(MoSi系)、ケラマックス(LaCrO系),シリコニット(SiC)、カーボン(C)等を好適に使用することができる。これらの発熱体は市販品を使用することもできる。また、ヒーター1は、そのまま配置しても良いが、熱効率を高めるために断熱材7で覆われていることが好ましい。
所定形状に成型したジルコニア圧粉体を焼成炉9内に入れ、ロータリーポンプ2で内部を減圧(又は真空)にする。真空系を遮断した後、雰囲気ガス(例えば、100%酸素ガス又は50%酸素+50%Heガス等)を徐々に焼成炉9内に導入することで雰囲気を調整することができる。最初にロータリーポンプで減圧することなしに直接雰囲気ガスを導入することでも差支えないが、前述したようにいったん焼成炉内を減圧した後に雰囲気ガスを導入した方が、焼結後のジルコニア焼結体の透過率をより高くすることができる。この理由は圧粉体内部にある開孔気孔に存在するガス成分を除去し、導入ガスをこの部分に置換できやすいので気孔の除去がスムースとなるものと考えられる。とりわけ、100%酸素ガスを導入した条件で焼結したジルコニア焼結体の透光性は非常に優れている。
そして、前記の導入ガスを定量的に流しつつ、PID制御が可能なプログラム制御を行いながら、特に焼成収縮の始まる900℃以上の温度域では例えば20〜200℃/hr程度の速度で昇温させることにより緻密化を促進させ、最終的に機械的強度、透光性及び耐水熱劣化性の三要素においてバランスのとれた焼結体を得ることができる。従来の透光性ジルコニア焼結体を得るには、(1)常圧焼結→(2)HIP焼結→(3)アニール(酸化処理により脱色)の三段階の処理が必要であり、長い納期と高いコスト(初期費用(高価な装置費)とランニングコスト(3度の焼結実施))が必要とされている。この点に関し、この装置では従来技術に比べ1/10以下の装置費用と1回の焼成プロセスで十分なため、経済的にも大きな効果を生むことは言うまでもない。
図5の焼結装置(焼結装置B)は、1)ヒーター1を炉内に備えた焼成炉(電気炉)9、2)焼成炉9内に設置された試料台5、3)焼成炉9内を密封するためのフランジ8、4)焼成炉9内を減圧するためのロータリーポンプ(真空ポンプ)2及び5)焼成炉9内にガスを導入するためのガスボンベ4を有する。焼成炉9は、例えばアルミナ製焼成炉等のセラミック製焼成炉を好適に用いることができる。焼結装置Bでは、ロータリーポンプ2及びガスボンベ4は、配管12及びバルブ13を介して焼成炉9に接続されている。図5に示すように、焼成炉9のガスを排気するための排気口及び配管を設置することもできる。さらに、ガスボンベ4と焼成炉9との間に流量計3を設けることもできる。ヒーター1は、焼成炉9内を加熱できる限りはその形状、配置箇所、個数等は特に限定されない。焼結装置Bでは、ボックスタイプの焼成炉9を有するため、焼結装置Aよりも安く、大量の材料を一度に処理できる。焼結装置A又は焼結装置Bのいずれの装置を利用するかは、要求される材料の性等により適宜選択すれば良い。
図6の焼結装置(焼結装置C)は、真空焼成を行うのに適した装置である。焼結装置Cでは、1)ヒーター1を炉内に備えた真空チャンバー11、2)真空チャンバー11内に設置された試料台5、3)真空チャンバー11内を減圧するためのロータリーポンプ(真空ポンプ)2及びターボ分子ポンプ10を有する。焼結装置Bでは、真空チャンバー11は、水冷式(水冷式真空チャンバー)であることが好ましい。ヒーター1は、焼成炉9内を加熱できる限りはその形状、配置箇所、個数等は特に限定されない。ヒーター1としては、タングステン、モリブデン、白金等の金属系ヒーター又はカーボン系ヒーターを好適に使用することができる。ヒーターの種類によってはロータリーポンプだけでも良いが、ヒーター寿命と材料の性能向上の目的でロータリーポンプに加え、拡散ポンプ、分子ターボポンプ等を併用しても差支えない。真空焼成装置によっても、前記雰囲気制御タイプの焼成炉と同等又はそれ以上の効果を発揮することができる。
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
実施例1
原料粉末として、市販の部分安定化ジルコニア粉末(安定剤としてイットリアを3.05モル%含有、平均一次粒子径30nm、BET比表面積は6.9m/g)を用いた。この原料粉末300gにエタノール450mL及び市販のアクリル系バインダー(製品名 「KS910」日本化薬(株)製)15gを配合して12時間ジルコニアボールにて混合・粉砕処理を行った。得られたスラリーをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して平均粒径40μmの顆粒を得た。この顆粒を用いて金型を用いてプレス成型し、10mm×15mm×70mmの素地を得た。その素地を真空パックした後、196MPaの圧力にてCIP成型した後、大気中700℃で3時間脱脂処理して材料内部の有機物を取り除いた。次いで、酸素濃度100%の雰囲気中1370℃で焼成した。このようにしてジルコニア焼結体(試験体)を得た。
実施例2〜42及び比較例1〜12
製造条件を表1〜9に示すように変更したほかは、実施例1と同様にしてジルコニア焼結体を作製した。表1〜表7に示したものは本発明であり、表8〜表9は比較例である。なお、その他の変更点は下記の通りである。
実施例25〜26は、実施例15をベースとして、CIPの圧力をそれぞれ50及び500MPaとしたときのものである。
実施例27〜32は、ラボベースで作製したジルコニア原料を使って焼結体を作製したものであり、市販原料との主な違いとしては一次粒子サイズとその粒度変動に伴う比表面積の値である。
実施例33〜38は、市販のジルコニア原料と市販のイットリア原料を用いて、固相焼結で作製したジルコニア焼結体の特性を示している。
実施例39〜42は、市販の部分安定化ジルコニア原料を用いて、イットリア含有量が4.2〜5.5モル%の範囲のジルコニア焼結体の特性を示す。本実施例品の作製に際しては、実施例1〜38に使用されたアクリル系バインダーは除外し、ジルコニア粉末とエタノールのみによりスラリーを形成し、このスラリーをスプレードライヤーにて噴霧乾燥して合成樹脂成分を含まない顆粒を作製した。その後の製造プロセスは、実施例1〜38と同様とした。
比較例1〜2は、市販粉末でなく、ラボベースで作製した3モル%Y含有ジルコニア粉末を用いた。比較例3〜4では、酸素濃度が50%以下(比較例3は焼結温度も1620℃と発明範囲外で焼結)で焼結を行なった。
比較例10〜11は、CIP成型圧力をそれぞれ30及び600MPaとし、比較例11では酸素濃度を5%として焼結を行なった。
比較例13〜14では、それぞれPVA(ポリビニルアルコール)及びPVB(ポリビニルブチラール)バインダー20%溶液を15g用いた。また、比較例13では、溶媒に蒸留水を用いてスラリーを作製し、スプレードライを行なった。
比較例7〜8では、Y濃度が本発明の範囲外となる組成の原料(単一原料又は)混合原料)を使った。特に実施例9は焼結温度も1610℃とした。
試験例1
前記の実施例及び比較例において、得られた試験体の結晶粒子サイズ、残留気孔量、気孔径10μm以上の気孔の割合、曲げ強度、水熱処理後の相変化、鉱物相及び透過率を測定した。その結果を表1〜表9に示す。
なお、これらの各表には、試験体作製の過程における原料粉末の性状、Al又はMgOの添加の有無、顆粒の平均粒径、圧粉体の平均気孔径及び気孔径5μm以上の気孔が占める割合、焼成雰囲気及び温度、焼結体の平均結晶粒径、焼結体の見掛け気孔率、焼結体中における気孔径10μm以上の気孔数、曲げ強度、水熱処理後の結晶相、焼結後の鉱物相、透過率も併せて示す。
各物性の測定方法は、次の通りである。
(1)スプレードライにより得られた顆粒の平均粒径
スプレードライした顆粒100個を任意に取り出し、光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から平均サイズ(直径)を算出した。
(2)圧粉体の平均気孔径
196MPaにてCIP成型した直径16mm×高さ10mmの圧粉体を焼成収縮のほとんど起らない700℃で仮焼成し、その圧粉体を約7mm×7mm×7mmに加工し、Micromeritics社のAutoPoreIIIを用いて水銀圧入法により細孔分布を求め、それに基づいて平均気孔径及び気孔径5μm以上の気孔が占める容積割合を求めた。
(3)焼結体の平均結晶粒径
焼結したサンプルを鏡面研摩した後、焼結温度以下でサーマルエッチングした。SEMにより10000倍にて任意に5ヶ所撮影した表面写真から、焼結体の平均結晶粒子径を算定した。
(4)焼結体の見掛け気孔率
焼結体中の気孔率測定はアルキメデス法(乾燥重量、含水重量、水中重量の測定から算出)により見掛け比重、カサ比重及び見掛け気孔率を測定した。
(5)残留気孔数
まず、焼結したジルコニア焼結体を切断加工して厚さ200μmの試験片(試験片は両面鏡面研摩)を作製し、透過顕微鏡にて材料内部に存在する残留気孔のサイズと量をカウントする。より具体的には、透過顕微鏡(倍率200倍)における2mm×2mmの測定視野のエリア内において、気孔径10μm以上の気孔数をカウントした。
(6)曲げ強度
3点曲げ強度を測定した。3点曲げ強度の測定は、万能試験機「オートゲラフDCS−2000」(島津製作所製)を用い、JIS−R−1601に基づき、幅4mm×厚さ3mm×長さ40mmの試験体をスパン長さ30mm、クロスヘッドスピード0.1mm/minの条件で実施した。それぞれの試料についてテストピースを作製し、曲げ試験を実施した。
(7)水熱処理後の単斜晶/正方晶比
オートクレーブ(水熱合成装置)を用いて、180℃で5時間処理した後の試料の粉末X線回折分析を行い、検出される単斜晶ジルコニアの最強ピーク((−1,1,1)面の回折、2θ=28°,d=3.1647)と正方晶ジルコニアの最強ピーク((1,0,1)面の回折、2θ=28°,d=2.9597)の比を求めた。
(8)焼結体の鉱物相
焼結体の鉱物相は一般的な粉末X線回折法により、3モル%以下のイットリアを含む正方晶系蛍石型結晶相(I)と5モル%以上のイットリアを含む立方晶系蛍石型結晶相(II)に分離して測定を行った。
(9)透過率
本測定には透過濃度計361T(X−rite社製)を用い、厚さ3mmに作製したジルコニア焼結体に垂直透過光束(400〜700nm(ピーク570nm)の光)を照射し、試料がない状態との比をlog(対数)で表したものを光学濃度Dとし、透過率を1÷10×100より算出した。光束幅は直径1mmの円形である。
*) 真空焼成した試料は還元され、淡黄色又は薄灰色であったので空気中1000℃で3時間熱処理したものを物性測定試料とした。
以上の通り、実施例及び比較例の対比からも明らかなように、本発明は機械的強度、光学特性、耐久性(耐水性に対するバランスが極めて高い材料であることがわかる。また、HIP処理品と比べても機械的強度の遜色はないばかりか、さらに優れた透過特性をもち、耐水性にも優れていることが容易に判断できる。
本発明によるジルコニア焼結体は、正方晶系あるいは正方晶と立方晶の混合系であるにもかかわらず、優れた機械的強度、透光性及び耐水性を兼ね備えた点に特徴があり、特性及び経済性はこれまでのHIP法で作製された同ジルコニア焼結体を凌駕するものである。得られた焼結体の特性は産業ニーズ、特に歯科用途には十分満足できるため、本分野への応用が期待される。

Claims (13)

  1. 3〜5.5モル%のイットリアを含むジルコニア焼結体であって、(1)見掛け気孔率が1%以下であり、(2)厚さ0.2mmの薄片サンプルにおいて2mm×2mmのエリア内で気孔径10μm以上の気孔が30個以下であり、(3)平均結晶粒径が0.2〜1.5μmであることを特徴とするジルコニア焼結体。
  2. 試料厚さ3.0mmにおける波長400〜700nmの範囲の透過率が7%以上である、請求項1に記載のジルコニア焼結体。
  3. 3点曲げ強度が800〜1500MPaである、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
  4. 結晶相が、(1)3モル%以下のイットリアを含む正方晶系蛍石型結晶相40〜100体積%及び(2)5モル%以上のイットリアを含む立方晶系蛍石型結晶相0〜60体積%を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
  5. ジルコニア焼結体を180℃で5時間の水熱処理を施した後の粉末X線回折における(単斜晶相の最強ピーク)/(正方晶相の最強ピーク)の比率が1以下である、請求項1〜4のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
  6. アルミニウム成分及びマグネシウム成分の少なくとも1種を酸化物換算で0.5重量%の範囲内で含む、請求項1〜5のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のジルコニア焼結体を含む歯科用材料。
  8. 請求項1〜6のいずれかに記載のジルコニア焼結体を含む歯列矯正ブラケット。
  9. イットリアを含有するジルコニア焼結体を製造する方法であって、
    (1)イットリウム及びジルコニウムを含有し、かつ、平均一次粒子径10〜100nm及びBET比表面積3〜30m/gである原料粉末又はその造粒物を成形することにより圧粉体を得る第1工程、
    (2)前記圧粉体を10〜10−4Paの真空雰囲気下又は酸素濃度50%以上の酸素含有雰囲気下において大気圧以下で1300〜1600℃で焼成する第2工程
    を含むジルコニア焼結体の製造方法。
  10. 原料粉末が、安定剤として3〜5.5モル%のイットリアを含むジルコニアの粉末であり、その純度が99%以上である、請求項9に記載の製造方法。
  11. 圧粉体が、(1)平均気孔径0.02〜0.3μmであり、(2)最大気孔径10μm以下であり、(3)全気孔容積に対して気孔径5μm以上の気孔が占める容積割合が5%以下である、請求項9又は10に記載の製造方法。
  12. 原料粉末が、さらに酸化アルミニウム及び酸化マグネシウムの少なくとも1種を0.5重量%の範囲内で含む、請求項9〜11のいずれかに記載の製造方法。
  13. 請求項9〜12のいずれかの製造方法により得られるジルコニア焼結体。
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