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JP2010260935A - 複合粒子を含む粉体及びその製造方法 - Google Patents

複合粒子を含む粉体及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高温条件下でもヘマタイト結晶の成長が起こりにくい複合粒子を含む粉体を提供するとともに、高温条件下での変色が起こりにくく、多様な色彩と光沢を有する顔料を提供する。
【解決手段】鉄元素を含有する溶融無機ガラス中に結晶性核粒子であるコランダム粒子を分散させ、引き続き冷却して固化させてから粉砕して、コランダム粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶が無機ガラス中に分散している複合粒子を含む粉体を製造する。このとき、コランダム粒子の表面にヘマタイト結晶がエピタキシャル成長によって形成される。
【選択図】図1

Description

本発明は、ヘマタイト結晶を含む粉体及びその製造方法に関する。またそのような粉体からなる顔料に関する。
酸化鉄を着色成分とする無機顔料は、通常は暗赤色を呈するが、使用原料、形状や製造法などの相違から黄味赤色、橙色、赤色、黒味赤色など様々な色を呈する顔料が作られており、道路面表示、道路標識の表示、建材、乗り物、陶磁器などの着色材として塗料などに配合され、使用されている。また高級感を訴える用途などには光沢を有する顔料も使用されている。様々な色彩を有する塗料は、複数の顔料をその性状に応じて配合して調製する必要があり、製造上も、管理上も煩雑となっている。したがって、一種類の顔料のみを用いることで様々な色彩を表現できることが求められている。
特許文献1及び特許文献2には、板状の酸化鉄粒子の表面をアルミナで被覆した、黄味赤色から黒味赤色に至る様々な色を有する顔料が開示されている。これらの文献には、酸化鉄被覆板状粒子層の厚みとアルミニウム化合物被膜層の厚みとを調整して光の干渉を利用することにより、橙色から青赤色までの彩度の高い色調を有し、しかも安定性に優れた赤色系顔料が得られると記載されている。
しかし、これらの方法には次のような欠点がある。まず、多彩な色彩を光の干渉により発現するために、酸化鉄板状粒子層とアルミニウム層の厚みを数百ナノメートルのオーダーで調整する必要があるが、中和反応により板状粒子層上に沈殿させてから熱収縮率を見込んで加熱するために、沈殿させる物質量を制御する必要があり、相当に複雑で精巧な制御を必要とする。また、沈殿を加熱して結晶化するときに結晶核が多数できるので多結晶質となり、光の散乱がおき、色調に悪影響を及ぼす。顔料の製造方法はいずれも水分散系での中和反応による沈積法であり、廃液処理が大きな負担となる。さらに、焼成は900℃以下で行っているが、これ以上の高温では焼成後に黒色に近い暗赤色に容易に変色し、焼成前の色彩を保つことができない。従って900℃以上の高温焼成を行うと焼成前の色彩を有する製品を提供することができない。
特許文献3には、ヘマタイト型構造を有する核とスピネル型構造を有する外層とから構成されるアルミニウム含有酸化鉄からなる小板状二層顔料が記載されている。当該顔料は、多数の色合いに調整することの可能なものであるとされている。しかしながら、水性懸濁液中で還元剤を作用させてから濾過、乾燥させて製造する必要があり、廃液処理の問題を有している。特許文献4には、鉄化合物とアルミニウム化合物の混合物にクエン酸及びエチレングリコールを添加してゲルを生成させてから熱分解させて焼成するアルミニウム置換ヘマタイトの製造方法が記載されている。こうして得られるアルミニウム置換ヘマタイトは、高温加熱しても粒子成長が起こりにくく、安定して鮮明な色を示すとされている。しかしながら、水や有機物を比較的大量に使用して、それを乾燥あるいは分解除去しなければならず、エネルギー的にもコスト的にも問題を有していた。
特許文献5には、シリカ系粒子を核とし、その表面にヘマタイト粒子層が形成されている赤色複合顔料が記載されていて、ヘマタイト粒径を小さく保って赤色を呈しながらも、シリカと複合させることによって複合粒子としての粒径を大きくして分散性を改善している。シリカ系粒子とヘマタイト粒子をメカノケミカル反応によって結合させて乾式で製造することもできるし、アルカリ水溶液中においてシリカ系粒子とヘマタイト粒子を攪拌して湿式で製造することもできる。しかしながら、こうして得られる複合顔料は、高温下での結晶成長を抑制することができず、高温で使用する用途では色調の変化が避けられなかった。
非特許文献1では、本発明者らによる備前焼模様「緋襷」の材料科学的研究がなされていて、備前焼を焼成する際に稲藁に触れている部分で赤色に発色する現象の仕組みが明らかにされている。それによれば、備前焼の焼成中に、稲藁に含まれるカリウムの影響によって表面にガラス相が形成され、その中でコランダム粒子が形成され、引き続きそのコランダム粒子上でヘマタイト結晶がエピタキシャル成長していることが確認されている。
特開平1−263157号公報 特開平6−100794号公報 特開昭63−317559号公報 特開2004−43208号公報 特開昭63−20367号公報
草野圭弘、山口一裕、福原実、土井章、「備前焼模様「緋(火)襷」の材料科学的研究」、粉体および粉末冶金、第54巻、第2号、p.75−80、2007年
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高温条件下でもヘマタイト結晶の成長が起こりにくい複合粒子を含む粉体を提供することを目的とするものである。また、廃液の発生しない乾式法によって上記粉体を容易に製造する方法を提供することを目的とするものである。さらに、高温条件下での変色が起こりにくく、多様な色彩と光沢を有する顔料を提供することを目的とするものである。
上記課題は、結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶が無機ガラス中に分散している複合粒子を含む粉体を提供することにより解決される。このとき、結晶性核粒子が酸化アルミニウム粒子であることが好ましい。結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶がエピタキシャル成長によって形成されたものであることも好ましい。また、無機ガラス中に含まれるナトリウム元素の含有量が、2〜20重量%であることも好ましい。また上記課題は、結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶からなる粒子を含む粉体を提供することによっても解決される。本発明の好適な実施態様は上記粉体からなる顔料である。
また上記課題は、鉄元素を含有する溶融無機ガラス中に結晶性核粒子を分散させ、引き続き冷却して固化させてから粉砕する、上記粉体の製造方法を提供することによっても解決される。このとき、ヘマタイト結晶が形成される前の溶融無機ガラス中に含まれる鉄元素の含有量が、0.5〜20重量%であることが好ましい。
本発明の粉体は、高温条件下でもヘマタイト結晶の成長が起こりにくい。したがって、顔料として用いる場合には、高温条件下で変色が起こりにくく、多様な色彩と光沢を有する顔料を提供することができる。また、本発明の粉体の製造方法は廃液の発生しない乾式法なので、環境負荷が小さく、製造も容易である。
実施例1において、コランダム−ヘマタイト複合体を観察した透過型電子顕微鏡写真である。
本発明の粉体は、結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶が無機ガラス中に分散している複合粒子を含むものである。このようにして得られる複合粒子では、高温条件下でもヘマタイト結晶の成長が起こりにくい。したがって、顔料として用いる場合に、高温条件下でも変色が起こりにくく、焼き付けによる着色に適している。
結晶性核粒子は、無機ガラスの軟化点よりも高い融点を有する結晶性粒子であれば特に限定されないが、好適には酸化アルミニウム粒子である。なかでも、コランダムが好適に採用される。コランダムはα−Alであり、α−Feであるヘマタイトがその表面に結晶成長しやすいからである。結晶性核粒子の平均粒子径は、通常1〜15μm程度である。
無機ガラス中に分散している複合結晶は、上記結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成されたものである。本発明の粉末の色調は、ヘマタイト結晶の寸法によって異なり、小さいヘマタイト結晶が大きくなるにしたがって、赤味黄色から、橙色、赤色、黒味赤色へと色が変化する。したがって、形成されるヘマタイト結晶の寸法を制御することによって多様な色彩を呈する粉体を得ることができる。すなわち、本発明の粉体の製造方法においては、無機ガラスの種類、無機ガラス中の鉄元素の含有量、加熱温度、冷却速度など、得られるヘマタイト結晶の寸法に影響を与える各種の条件を調整することによって様々な色調の粉体を得ることができる。そして、このようにして結晶性核粒子の表面に形成されたヘマタイト結晶は、1200℃程度までの高温に加熱しても、ほとんど寸法が変化することがなく、その結果色調が変化することもない。この点は、単なるヘマタイト結晶の集合体であるベンガラが、加熱によって結晶成長して暗色化するのと異なる点である。
ヘマタイト結晶の寸法は、特に限定されるものではないが、10nm〜10μm程度である。ヘマタイト結晶は、結晶性核粒子の表面にエピタキシャル成長によって形成されることが好ましい。このとき生成するヘマタイト結晶の大きさは、結晶性核粒子の大きさを超えない。つまり、ガラス粉末に加える結晶性核粒子の大きさを変化させることによって生成物の色調を制御することも可能であると推察される。
上記複合結晶が分散している無機ガラスの種類は特に限定されないが、コストや扱いやすさの面からケイ酸塩ガラスが好適に使用される。すなわち、ケイ酸(SiO)成分を主成分として、通常これを50重量%以上含み、さらに、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、三酸化二ホウ素(B)、酸化鉛(PbO)などの成分を含有するガラスが好適である。また、通常ヘマタイト結晶の成長に消費されなかった鉄イオンを含む。さらには、マンガン、コバルト、亜鉛、ニッケル、リンなど、鉄元素と置換したり、鉄元素と化合することのできる元素を加えて無機ガラスを製造してもよく、この場合、得られる顔料の色彩に多様性を付与することができる。
無機ガラスの軟化点を低下させるためには、当該無機ガラスがアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含むことが好ましい。そして、無機ガラスがナトリウム元素を含み、その含有量が2〜20重量%であることによって発色性に優れた粉体を得ることができる。ナトリウム元素の含有量が2重量%未満の場合には発色性が低下する恐れがあり、より好適には3重量%以上であり、さらに好適には5重量%以上である。一方、ナトリウム元素の含有量が20重量%を超える場合には、ガラスの耐水性が低下する恐れがあり、より好適には16重量%以下である。ナトリウム元素の代わりにカリウム元素を含有する場合には、後述の実施例3にも示されるように、発色性が低下する傾向が認められた。非特許文献1に示されるように、備前焼の火襷においては、カリウムを含有するガラス中での鮮やかな発色が認められるが、備前焼の焼成工程よりも低温かつ短時間の熱処理をした場合には、カリウム元素を含有するガラスよりもナトリウム元素を含有するガラスを用いる方が発色性が良好であることがわかった。したがって、カリウム元素の含有量は5重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがより好ましい。また、カルシウム元素の含有量が多い場合にも発色性が低下する傾向が認められた。したがって、カルシウム元素の含有量は5重量%以下であることが好ましく2重量%以下であることがより好ましい。
本発明の粉体は、結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶が無機ガラス中に分散している複合粒子を含む粉体である。無機ガラス中に分散しているので、顔料表面の凹凸が減少し、光沢を有する顔料とすることができる。また、ヘマタイト結晶が無機ガラスに被覆されているので、顔料の耐酸性や耐還元性が向上する。ガラスの重量に対する結晶性核粒子の重量の割合は、通常0.1〜5倍程度である。より好適には、0.2倍以上であり、また、2倍以下である。
一方、無機ガラス中に分散することなく、結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶そのものからなる粒子を含む粉体も本発明の実施態様である。このような粒子は、例えば、ガラス成分をフッ化水素酸など、ガラスを溶解する水溶液を用いて溶解除去することなどによって得ることができる。
本発明の粉体の製造方法は特に限定されるものではないが、好適には、鉄元素を含有する溶融無機ガラス中に結晶性核粒子を分散させ、引き続き冷却して固化させてから粉砕することによって製造される。従来のベンガラは湿式法で製造される場合が多く、その廃液処理が問題であったが、この製造方法は有害な廃液を出すことがないので、環境面からも好ましい方法である。
鉄元素を含有する溶融無機ガラスの組成は、既に説明した粉体に含まれる無機ガラスと比べ、鉄元素の含有量が相違する。ヘマタイト結晶が形成される前の溶融無機ガラス中に含まれる鉄元素の含有量は0.5〜20重量%であることが好ましい。鉄元素の含有量が0.5重量%未満である場合、発色性が低下するおそれがあり、より好適には1重量%以上であり、さらに好適には2重量%以上である。一方、鉄元素の含有量が20重量%を超える場合、結晶性核粒子の周囲にヘマタイト結晶が重層的に形成されるおそれがあり、より好適には15重量%以下であり、さらに好適には10重量%以下である。一般に、鉄元素の含有量が大きくなるにしたがって濃色になるので、鉄元素の含有量を調整することによって色調を調整することが可能である。
鉄元素を含有する溶融無機ガラスの製造方法は特に限定されず、ケイ素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ホウ素、鉛などの元素を含有する酸化物や塩などのガラス原料に鉄元素を含有する酸化物や塩を混合して加熱溶融することによって調製することができる。用いられる鉄元素を含有する化合物としては、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)などが例示される。これらの中でも、経済性や混合しやすさの点から酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)及び硫酸鉄(III)が好ましい。また、発色性の観点からは、硫酸鉄(II)及び硫酸鉄(III)が好ましい。加熱溶融温度は、通常1100〜1500℃程度である。こうして得られたガラスを一旦冷却してから粉砕し、結晶性核粒子と混合してから、再度加熱溶融させることによって、鉄元素を含有する溶融無機ガラス中に結晶性核粒子を分散させることができる。また、原料として既製のガラスを使用することもでき、既製のガラスに含まれる鉄元素の含有量に応じて鉄元素の不足量を補充して、既製ガラスの粉末をコランダムと加熱してもよい。この場合には廃棄ガラスの再利用となるので、環境面からも利点を有する。
また、上記ガラス原料に、鉄元素を含有する酸化物や塩とともに結晶性核粒子も混合してから、1回だけ加熱溶融させることによって、直接鉄元素を含有する溶融無機ガラス中に結晶性核粒子を分散させることもできる。この方法で製造する場合には、発色性が若干低下する場合があるが、加熱操作が1回で済むので、予めガラス粉末を製造する方法に比べて、エネルギー的に有利である。このようにして製造する場合、結晶性核粒子の一部が溶融して無機ガラスの成分となり、残りの部分が溶融せずにヘマタイト結晶との複合体を形成するようにしても構わない。
鉄元素を含有する溶融無機ガラス中に結晶性核粒子を分散させる際の最高温度は、好適には800〜1400℃である。最高温度が800℃未満の場合、発色性が低下するおそれがあり、より好適には950℃以上であり、さらに好適には1100℃以上である。一方、最高温度が1400℃を超える場合、ガラス成分の劣化が生じるおそれがあり、より好適には1350℃以下であり、さらに好適には1300℃以下である。この温度に、通常0.1〜24時間程度保持してから冷却する。
鉄元素を含有し、結晶性核粒子が分散した溶融無機ガラスを冷却する際の冷却速度が遅い方が、濃く発色する。このことから、高温での溶融状態ではヘマタイトの結晶はほとんど析出せず、より低温においてヘマタイトの結晶成長に有利な温度範囲があるようである。冷却速度は、好適には50℃/分以下であり、より好適には30℃/分以下であり、さらに好適には10℃/分以下であり、最適には5℃/分以下である。生産効率を考慮すると、冷却速度は通常0.1℃/分以上である。冷却速度を調整することによって色調を調整することが可能である。
以上のようにして冷却して得られた固化物を粉砕することによって本発明の粉体が得られる。粉砕方法は特に限定されず、公知の粉砕方法を採用することができる。また、粒度も特に限定されず、用途に応じて適当な粒径に調整される。
本発明の粉体は、顔料として好適に使用される。製造条件を調整することによって、赤味黄色から、橙色、赤色、黒味赤色へと多彩な色彩を容易に得ることができ、しかも有害な重金属を含まないので、安全性の高い着色剤として、道路、建材、橋梁、自動車等各種の用途に広く用いることができる。例えば、従来はクロムや鉛などの有害重金属を含む顔料が広く用いられている道路の黄色(オレンジ)線用の顔料などとして特に有用である。また、前述のように、本発明の粉体は、1200℃程度までの高温に加熱しても、ほとんど色調が変化することがないので、例えば900℃以上、さらには1000℃以上の高温に加熱される顔料として好適である。したがって、通常、タイル、煉瓦、陶磁器など、高温での焼成工程を要する着色セラミックス用途などに特に好適に用いられる。さらには、ヘマタイト結晶の寸法の制御が可能であることから、電子材料や磁性材料としても有望である。
実施例1(鉄元素の含有量)
炭酸ナトリウム(NaCO)2.12g、二酸化ケイ素(SiO)4.81g、酸化アルミニウム(Al)0.52gに対し、硫酸鉄(II)(FeSO)を、それぞれ0.152g、0.304g及び0.76g加えて混合し、硫酸鉄(II)の配合量の異なる3種類のガラス原料を調製した。ここで、硫酸鉄(II)は七水塩(FeSO・7HO)の形で配合したが、本実施例中における配合量としては、無水物に換算した重量を記載している。このガラス原料を大気雰囲気下、1250℃で加熱して融解してから、2時間同温に維持した後に冷却し、鉄イオンを含むガラスを合成した。合成されたガラス中の鉄元素及びナトリウム元素の含有量は、表1に示すとおりであった。これらのガラスを粉末にし、その各0.5gに対して、粒径が1〜10μmのコランダムの板状体粒子0.5gを加えてよく混合し、この混合物を大気雰囲気下、1250℃で加熱して溶融させた。このとき、ガラス粉は液相となったが、コランダム粒子は融解しないで分散していた。引き続き、溶融物を1℃/分の速度で冷却することによって、コランダム粒子の周囲にヘマタイトの結晶が生成し、コランダム−ヘマタイト複合体がガラスで被覆された固化物が得られた。
得られた固化物の外観色を観察し、マンセル表色系による色を測定した。また、得られた固化物をフッ化水素酸に浸漬してガラス成分を溶解させてから、コランダム粒子に結合したヘマタイトの寸法を透過型電子顕微鏡で観察して求めた。このとき、約10個のヘマタイト粒子について長径と短径の平均値を求め、その算術平均値を平均粒子径とした。これらの結果を表1にまとめて示す。鉄元素の含有量が1.7重量%のときの、ガラスを除去したコランダム−ヘマタイト複合体の透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。ヘマタイト粒子がコランダム粒子端面からエピタキシャル成長していることがわかる。ヘマタイト結晶の電子回折像を図1中に併せて示す。また、こうして得られた3種の固化物を粉砕して得られた粉体について、大気雰囲気下、1200℃で2時間加熱したけれども、いずれも目視では色の変化が認められなかった。この点は、同様の加熱条件によって暗色に変化するベンガラと異なっており、本発明の粉体が耐熱性に優れていることがわかる。
実施例2(冷却速度)
炭酸ナトリウム(NaCO)2.12g、二酸化ケイ素(SiO)4.81g、酸化アルミニウム(Al)0.52gに対し、硫酸鉄(II)を、0.285g加えて混合し、ガラス原料を調製した。このガラス原料を大気雰囲気下、1250℃で加熱して融解してから、2時間同温に維持した後に冷却し、鉄イオンを含むガラスを合成した。合成されたガラス中の鉄元素の含有量は1.6重量%であり、ナトリウム元素の含有量は13.7重量%であった。このガラスを粉末にし、その各0.5gに対して実施例1と同じコランダム0.5gを加えてよく混合し、この混合物を大気雰囲気下、1250℃で加熱して溶融させた。このとき、ガラス粉は液相となったが、コランダム粒子は融解しないで分散していた。引き続き、溶融物を1.0℃/分、2.0℃/分、5.0℃/分及び50℃/分の4通りの速度で冷却することによって、コランダム粒子の周囲にヘマタイトの結晶が生成し、コランダム−ヘマタイト複合体がガラスで被覆された固化物が得られた。得られた固化物の外観色を観察し、マンセル表色系による色を測定した。これらの結果を表2にまとめて示す。また、こうして得られた4種の固化物について大気雰囲気下、1200℃で2時間加熱したけれども、いずれも目視では色の変化が認められなかった。
実施例3(ガラス組成)
炭酸カリウム(KCO)2.76g、二酸化ケイ素(SiO)4.81g、酸化アルミニウム(Al)0.52gに対し、硫酸鉄(II)を、それぞれ0.152g、0.456g及び0.76g加えて混合し、硫酸鉄(II)の配合量の異なる3種類のガラス原料(カリウム入り)を調製した。このガラス原料を大気雰囲気下、1250℃で加熱して融解してから、2時間同温に維持した後に冷却し、鉄イオンを含むガラスを合成した。合成されたガラス中の鉄元素及びカリウム元素の含有量は、表3に示すとおりであった。
また、炭酸ナトリウム(NaCO)1.70g、炭酸カルシウム(CaCO)0.40g、二酸化ケイ素(SiO)4.81g、酸化アルミニウム(Al)0.52gの混合物に対し、硫酸鉄(II)を、それぞれ0.152g、0.456g及び0.76g加えて混合し、硫酸鉄(II)の配合量の異なる3種類のガラス原料(ナトリウム及びカルシウム入り)を調製した。このガラス原料を大気雰囲気下、1250℃で加熱して融解してから、2時間同温に維持した後に冷却し、鉄イオンを含むガラスを合成した。合成されたガラス中の鉄元素、ナトリウム元素及びカルシウム元素の含有量は、表3に示すとおりであった。
これら6種のガラスを粉末にし、その各0.5gに対して実施例1と同じコランダム0.125gを加えてよく混合し、この混合物を大気雰囲気下、1250℃で加熱して溶融させた。このとき、ガラス粉は液相となったが、コランダム粒子は融解しないで分散していた。引き続き、溶融物を1.0℃/分の速度で冷却することによって、コランダム粒子の周囲にヘマタイトの結晶が生成し、コランダム−ヘマタイト複合体がガラスで被覆された固化物が得られた。得られた固化物の外観色を観察し、マンセル表色系による色を測定した。これらの結果を表3にまとめて示す。また、こうして得られた6種の固化物について大気雰囲気下、1200℃で2時間加熱したけれども、いずれも目視では色の変化が認められなかった。
実施例4(加熱温度)
炭酸ナトリウム(NaCO)2.12g、二酸化ケイ素(SiO)4.81g、酸化アルミニウム(Al)0.52gに対し、硫酸鉄(II)を、それぞれ0.152g、0.456g及び0.76g加えて混合し、硫酸鉄(II)の配合量の異なる3種類のガラス原料を調製した。このガラス原料を大気雰囲気下、1250℃で加熱して融解してから、2時間同温に維持した後に冷却し、鉄イオンを含むガラスを合成した。合成されたガラス中の鉄元素及びナトリウム元素の含有量は、表4に示すとおりであった。これらのガラスを粉末にし、その各0.5gに対して実施例1と同じコランダム0.125gを加えてよく混合し、この混合物を大気雰囲気下、900℃、1050℃、1100℃及び1250℃で加熱して溶融させた。このとき、ガラス粉は液相となったが、コランダム粒子は融解しないで分散していた。引き続き、溶融物を1℃/分の速度で冷却することによって、コランダム粒子の周囲にヘマタイトの結晶が生成し、コランダム−ヘマタイト複合体がガラスで被覆された固化物が得られた。
実施例5(一段階製造法)
炭酸ナトリウム(NaCO)0.131g、二酸化ケイ素(SiO)0.291g、コランダム0.528g及び硫酸鉄(II)0.050gを加えてよく混合し、この混合物を大気雰囲気下、1250℃で加熱して溶融させた。このとき、ガラス粉は液相となったが、コランダム粒子の一部は融解しないで分散していた。引き続き、溶融物を1.0℃/分の速度で冷却することによって、コランダム粒子の周囲にヘマタイトの結晶が生成し、コランダム−ヘマタイト複合体がガラスで被覆された固化物が得られた。
得られた固化物の外観色は橙色であり、マンセル表色系による色は4.06YR5.72/4.49であった。また、こうして得られた固化物について大気雰囲気下、1200℃で2時間加熱したけれども、目視では色の変化が認められなかった。実施例1のように予め鉄元素の含まれたガラスを製造してからコランダムを混合する方法に比べて、色の鮮やかさは少し劣るけれども、一度の加熱操作においても着色が可能であり、エネルギーコスト面における優位性が認められた。

Claims (8)

  1. 結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶が無機ガラス中に分散している複合粒子を含む粉体。
  2. 結晶性核粒子が酸化アルミニウム粒子である請求項1記載の粉体。
  3. 結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶がエピタキシャル成長によって形成された請求項1又は2記載の粉体。
  4. 無機ガラス中に含まれるナトリウム元素の含有量が、2〜20重量%である請求項1〜3のいずれか記載の粉体。
  5. 結晶性核粒子の表面にヘマタイト結晶が形成された複合結晶からなる粒子を含む粉体。
  6. 請求項1〜5のいずれか記載の粉体からなる顔料。
  7. 鉄元素を含有する溶融無機ガラス中に結晶性核粒子を分散させ、引き続き冷却して固化させてから粉砕する、請求項1〜5のいずれか記載の粉体の製造方法。
  8. ヘマタイト結晶が形成される前の溶融無機ガラス中に含まれる鉄元素の含有量が、0.5〜20重量%である請求項7記載の粉体の製造方法。
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