JP2010180457A - 耐食導電材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐食導電性に優れる耐食導電材を効率的に製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の耐食導電材の製造方法は、純チタン(Ti)またはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、ニッケル(Ni)を主成分とするNiメッキ液中に浸漬して該Ti系基材の表面にNiメッキ層を形成するメッキ工程と、該メッキ工程後のTi系基材に880℃以下で窒化処理を施す窒化工程と、を備えてなり、前記Ti系基材の少なくとも一部の表面に耐食性または導電性の少なくとも一方に優れる耐食導電性皮膜が形成された耐食導電材が得られることを特徴とする。
【選択図】 図2
【解決手段】本発明の耐食導電材の製造方法は、純チタン(Ti)またはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、ニッケル(Ni)を主成分とするNiメッキ液中に浸漬して該Ti系基材の表面にNiメッキ層を形成するメッキ工程と、該メッキ工程後のTi系基材に880℃以下で窒化処理を施す窒化工程と、を備えてなり、前記Ti系基材の少なくとも一部の表面に耐食性または導電性の少なくとも一方に優れる耐食導電性皮膜が形成された耐食導電材が得られることを特徴とする。
【選択図】 図2
Description
本発明は、チタン(Ti)をベースとした耐食性または導電性に優れる耐食導電性皮膜を表面に有する耐食導電材の製造方法に関する。
固体高分子型燃料電池用の金属セパレータ等に代表されるように、最近では、耐食性と導電性とを高次元で両立できる部材が求められている。もっとも、種々のことが要求される工業レベルで、それらを両立させる耐食導電性のある部材(耐食導電材)を得ることは容易ではない。
例えば、Ti系またはステンレス系の金属材料は、表面に強固で安定な不働態皮膜を形成して優れた耐食性を発揮する。しかし、その不働態皮膜は安定な絶縁性化合物からなるため、通常は非常に抵抗が大きく導電性に乏しい。そこで、実用性のある耐食導電材を得るために、下記特許文献にあるような種々の提案がされている。
特許文献1は、Ti材に熱処理を施してFe濃化相を形成し、そのTi材の耐食性を向上させることを提案している。もっとも、特許文献1にはそのTi材の導電性に関する開示がない。また、そのようなFe濃化相を形成するには複雑な加工熱処理が必要となる。
特許文献2は、Ti系基材中にTiB系ホウ化物粒子を晶出させたセパレータを提案している。このセパレータは、基材上の不働態皮膜によって耐食性が確保されると共に表面に晶出したホウ化物によって導電性が発現される。もっとも、ホウ化物は非常に硬いため、そのセパレータは圧延性および成形性に劣る。勿論、ホウ化物の分散量を減らせば、成形性や圧延性は改善されるものの導電性が低下する。また、ホウ化物が脱離した部分から腐食が進行する恐れもあり得る。
特許文献3は、Ti系基材の表面に金属窒化物層を形成したセパレータを提案している。このセパレータを本発明者が試験したところ、確かに電解腐食試験前における接触抵抗は低減されるものの、電解腐食試験後の接触抵抗が大きく増加することがわかった。
特許文献4は、ステンレス鋼またはチタン合金等からなる基材に化学的に非常に安定な貴金属めっき層を設けたセパレータを提案している。しかし、このような貴金属の使用は高コストである。また、貴金属の使用量を低減すると、密着性の悪化やめっき層の剥離などのおそれがある。さらに、基材がAl等の場合、めっき層のピンホール部分で局部電池が形成され、基材に孔食などの局部腐食が生じるおそれもある。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、耐食性または導電性の少なくとも一方が安定して得られる耐食導電性皮膜を備える耐食導電材を効率的に製造できる製造方法を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Ni−Pメッキを施したTi系基材に窒化処理をすることで、安定した高い耐食性および導電性をもつ耐食導電性皮膜を形成することに成功した。さらに本発明者は、Ni−Bメッキを施した基材に窒化処理をしても、上記の皮膜と同等の耐食導電性を示す新たな耐食導電性皮膜を得ることに成功した。
本発明者はこのような経緯を踏まえて、それらの成果を発展させることで、本発明の耐食導電材の製造方法を完成させるに至った。
《耐食導電材の製造方法(Niメッキ法)》
(1)すなわち本発明の耐食導電材の製造方法は、純チタン(Ti)またはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、ニッケル(Ni)を主成分とするNiメッキ液中に浸漬して該Ti系基材の表面にNiメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ工程後のTi系基材に880℃以下で窒化処理を施す窒化工程と、
を備えてなり、前記Ti系基材の少なくとも一部の表面に耐食性または導電性の少なくとも一方に優れる耐食導電性皮膜が形成された耐食導電材が得られることを特徴とする。
(1)すなわち本発明の耐食導電材の製造方法は、純チタン(Ti)またはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、ニッケル(Ni)を主成分とするNiメッキ液中に浸漬して該Ti系基材の表面にNiメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ工程後のTi系基材に880℃以下で窒化処理を施す窒化工程と、
を備えてなり、前記Ti系基材の少なくとも一部の表面に耐食性または導電性の少なくとも一方に優れる耐食導電性皮膜が形成された耐食導電材が得られることを特徴とする。
このNiメッキ法によると、後に具体的に説明する優れた耐食導電性を発揮する耐食導電性皮膜をもつ耐食導電材や固体高分子型燃料電池用セパレータなどを、比較的容易に安定して得ることができる。なお、本明細書では上記の耐食導電材の製造方法をNiメッキ法とよぶ。
(2)上記Niメッキ法により、優れた耐食導電性皮膜が比較的容易に形成される理由やメカニズム等は、現在のところ調査研究中であり、その詳細は必ずしも定かではない。但し、本発明者が調査研究したところでは、Pを含むNi−Pメッキ(Ni−P−Feメッキを含む)、Bを含むNi−Bメッキが、特性や実用性等の点で、上記のNiメッキとして有効であることが解っている。
また、窒化処理工程における処理温度をTi系材料のα−β固相変態温度以下、具体的には880℃以下とすることで、優れた特性を示すとともにTi系基材の表面に良好に形成された耐食導電性皮膜をもつ耐食導電材が得られる。
〈耐食導電材〉
(1)本発明は、耐食導電材の製造方法としてのみならず、基材の表面上にその耐食導電性皮膜を設けた耐食導電材としても把握される。
(1)本発明は、耐食導電材の製造方法としてのみならず、基材の表面上にその耐食導電性皮膜を設けた耐食導電材としても把握される。
すなわち、本発明は、基材と、該基材の少なくとも一部の表面に形成された上記の耐食導電性皮膜とからなることを特徴とする耐食導電材であってもよい。
ここで基材は、材質、形状、大きさ等を問わない。例えば、所定形状をした部材であってもよいし、これから加工、成形等される素材、粉末などでもよい。従って、本発明でいう耐食導電材は、耐食導電性皮膜を有する部材のみならず、素材または原料となるような材料自体をも含み得る。
(2)ところで、本発明の製造方法により得られる耐食導電材は、耐食性と導電性とを同時に高次元で満足させ得るが、その場合には限らず、耐食性または導電性の一方のみに特化している場合であっても良い。例えば、高耐食性のみ要求される部材等にも高導電性のみ要求される部材等にも、上記の耐食導電材は好適である。上記の耐食導電材を利用することで、従来よりも安価な純度の低いTi系原料を用いることができたり、製造コストの削減等を図れたりする。そして部材の要求仕様に応じて、耐食導電性皮膜の組成や形成方法を適宜変更して、その耐食性または導電性のいずれか一方を他方に優先して高めることも可能である。
なお、本発明でいう基材は、必ずしも全体がTiベースである必要はない。被覆される表層部分にTiが存在して本発明の耐食導電性皮膜が形成される限り、基材のベース(中核部分)は、Fe(ステンレスを含む)などの他の金属でも良いし、さらには樹脂、セラミック等でも良い。
(3)上記の耐食導電材は、Ni−Pメッキ液あるいはNi−Bメッキ液を用いる後述のNiメッキ法により効率的に得ることが可能である。そこで、耐食導電材は次のようにも把握される。
(i)すなわち本発明は、純TiまたはTi合金からなるTi系基材と、該Ti系基材の少なくとも一部の表面に形成されたTi、Ni、NおよびPを含む耐食性または導電性の少なくとも一方に優れる耐食導電性皮膜と、からなることを特徴とする耐食導電材であってもよい。ただしNiは、Ni−Pメッキ層からTi系基材側へ拡散し、耐食導電性皮膜に含まれないこともある。
この耐食導電性皮膜は、皮膜全体を100質量%としたときに3〜20質量%(以下適宜単に「%」という。)のPを含むと好ましい。さらに、上記の耐食導電性皮膜はFeを含むものでもよい。
(ii)また本発明は、純TiまたはTi合金からなるTi系基材と、該Ti系基材の少なくとも一部の表面に形成されたTi、Ni、NおよびBを含む耐食性または導電性の少なくとも一方に優れる耐食導電性皮膜と、からなることを特徴とする耐食導電材であってもよい。ただしNiは、Ni−Bメッキ層からTi系基材側へ拡散し、耐食導電性皮膜に含まれないこともある。
この耐食導電性皮膜は、皮膜全体を100質量%としたときに0.1〜2質量%のBを含むと好ましい。
〈固体高分子型燃料電池およびそのセパレータ〉
本発明は、上記の耐食導電材の代表的な一形態である固体高分子型燃料電池用セパレータとしても把握される。
本発明は、上記の耐食導電材の代表的な一形態である固体高分子型燃料電池用セパレータとしても把握される。
すなわち、本発明は、中央に設けられた固体高分子電解質膜と該固体高分子電解質膜の一方側に接して設けられた燃料電極と該固体高分子電解質膜の他方側に接して設けられた酸化電極と該燃料電極および該酸化電極の外側に設けられたセパレータとからなる単位電池を積層してなり、
該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、
前記セパレータは、少なくとも一部の表面に上記の耐食導電性皮膜を有し、少なくとも該耐食導電性皮膜上で耐食性および導電性に優れることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータであると、好適である。
該セパレータと該燃料電極との間に燃料ガスを供給すると共に該セパレータと該酸化電極との間に酸化剤ガスを供給して直流電力を発生させる固体高分子型燃料電池において、
前記セパレータは、少なくとも一部の表面に上記の耐食導電性皮膜を有し、少なくとも該耐食導電性皮膜上で耐食性および導電性に優れることを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータであると、好適である。
さらに本発明は、そのセパレータを用いた固体高分子型燃料電池としても把握される。
〈付加的構成〉
本発明の耐食導電材の製造方法は、上述した構成に加えて、次に列挙する(i)〜(xi)のから任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであってもよい。
本発明の耐食導電材の製造方法は、上述した構成に加えて、次に列挙する(i)〜(xi)のから任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであってもよい。
なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。また、便宜上、耐食導電材(耐食導電性皮膜等を含む)自体とその製造方法とを区別して記載するが、下記に示したいずれの構成も、カテゴリーを越えて相互に適宜組み合わせ可能である。例えば、耐食導電性皮膜の構成元素であれば、耐食導電材にも、その製造方法にも関連することはいうまでもない。また、一見、「方法」に関する構成のように見えても、プロダクトバイプロセスとして理解すれば、「物」に関する構成ともなり得る。
(i)前記Niメッキ液はPを含むNi−Pメッキ液であり、Niメッキ層はNi−Pメッキ層である。このNi−Pメッキ液中のP濃度は0.5〜20質量%さらには1〜10質量%である。例えば、Ni−Pメッキ液にPを次亜リン酸ナトリウムの形で0.01〜0.2mol/lで加えるとよい。
(ii)前記Ni−Pメッキ層は、メッキ層全体を100質量%としたときに7〜20質量%のPを含む。
(iii)前記Ni−Pメッキ液は、さらにFeを含むNi−P−Feメッキ液である。
(iv)前記Ni−Pメッキ層は、Ni−P−Feメッキ層である。
(v)前記Niメッキ液は、さらにBを含むNi−Bメッキ液であり、前記Niメッキ層は、Ni−Bメッキ層である。このNi−Bメッキ液中のB濃度は0.1〜1質量%である。
(vi)前記Ni−Bメッキ層は、メッキ層全体を100質量%としたときに0.1〜2質量%のBを含む。
(vii)前記メッキ工程は、無電解メッキにより行われる。
(viii)前記窒化工程は、Nを含む窒化ガス中に前記Ti系基材を保持するガス窒化工程である。
(ix)前記窒化ガスは、窒素(N2)ガスまたはアンモニア(NH3)ガスを含む。
(x)前記窒化ガスは、N2ガスおよび水素(H2)ガスを含む。
(xi)前記窒化工程は、窒素プラズマ中に前記Ti系基材を保持するイオン窒化工程である。
〈その他〉
(1)本明細書でいう「耐食導電材」は前述したように、その形態を問わない。製品形状またはそれに近い形状の部材のみならず、例えば、インゴット状、棒状、管状、板状等の素材であっても良いし、さらには粉末等の原料的なものであってもよい。
(1)本明細書でいう「耐食導電材」は前述したように、その形態を問わない。製品形状またはそれに近い形状の部材のみならず、例えば、インゴット状、棒状、管状、板状等の素材であっても良いし、さらには粉末等の原料的なものであってもよい。
(2)非常に薄い耐食導電性皮膜の組成を厳密に特定することは困難である。敢えて特定するのであれば、Ti、NiおよびNを含む皮膜であって、少なくとも耐食性または導電性の少なくとも一方を発現するものであれば足りる。ただし、前述のように、Niは、Niメッキ層からTi系基材側へ拡散し、耐食導電性皮膜に含まれないこともある。
もっとも、耐食導電性皮膜は、上記の元素以外にも、その耐食導電性皮膜の特性を改善し、または劣化させない改質元素などの任意元素を多少含んでもよい。例えば、このような元素として、Cr、Mn、Co、B、Al、希土類元素(Sc、Y、ラインタノイド、アクチノイド)などがある。
また、耐食導電性皮膜は、改質元素以外に「不可避不純物」の含有も許容し得る。不可避不純物は、コスト的または技術的な理由等により除去することが困難な元素である。このような不可避不純物は、基材などに元々含まれる場合の他、耐食導電性皮膜の形成時に不可避に混入等し得る。不可避不純物として、例えば、Li、Na、Mg、K、Ca、V、Ni、Cu、O、Cl等がある。
但し、本発明の場合、耐食導電性皮膜が形成される基材から観れば不可避不純物であっても、耐食導電性皮膜自体から観ると不可避不純物でないもの、または耐食導電性皮膜の特性改善に有効なもの、さらには耐食導電性皮膜の必須構成元素となるものも存在する。例えば、Ti系基材の不純物であるFeなどは、本発明の耐食導電性皮膜から観ると必須構成元素となり得る。
耐食導電性皮膜全体を100質量%としたときに、改質元素は80%以下さらには70%以下であるとよい。また、不可避不純物は15%未満さらには10%未満であるとよい。なお、ここでいう割合は不可避不純物の合計量である。
通常、不可避不純物の割合は必須構成元素の割合よりも少ない場合が多い。もっとも、不可避不純物は、耐食導電性皮膜の耐食性または導電性の向上を阻害するものだけには限られず、耐食導電性皮膜の特性を劣化させないが向上もさせない、害の少ない元素も不可避不純物に含まれる。このような元素が不可避不純物である場合、その存在割合が比較的多くなる場合もあり得る。また、不可避不純物が多種、少量である場合、その存在割合は検出機器の精度や特性にも影響され易い。例えば、XPSデータにより算出した場合、不可避不純物量が多くなることもある。
(3)本明細書でいう「耐食性」は、酸雰囲気下でも腐食しない耐酸性、酸素雰囲気下でも酸化されない耐酸化性など、少なくともいずれか一つの特性で優れていればよい。「導電性」は、皮膜自体の電気抵抗が小さい場合、他の導電材と接触したときに問題となる接触抵抗が小さい場合など、少なくともいずれか一つの特性で優れていればよい。
また、特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組合わせて、「a〜b」のような範囲を構成し得ることを断っておく。
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。
なお、本明細書ではNiメッキ法について主に述べるが、その基本となる耐食導電性皮膜、耐食導電材、さらには耐食導電材の適用例等についても詳述し、それらを踏まえて本発明のNiメッキ法の内容を明らかにする。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
〈耐食導電材の製造方法または耐食導電性皮膜の形成方法〉
(1)メッキ工程
メッキ工程では、Niを主成分とするNiメッキ液中にTi系基材を浸漬し、該基材の表面にNiメッキ層を形成する。メッキは電解メッキでも無電解メッキでもよいが、複雑形状をもつ基材の表面であっても一様の厚さにメッキでき被覆能力に優れた無電解メッキがより望ましい。メッキ層の厚さは耐食導電性皮膜の厚さに応じて適宜調整されるが、0.1〜5μmが好ましい。Niメッキ液として、Ni−Pメッキ液、Ni−P−Feメッキ液さらにはNi−Bメッキ液などを用いるとよい。これらのメッキ液を用いる無電解メッキは、容易に行い得る。ただし、Niメッキ層を構成する元素は、必ずしもメッキ液から供給される必要はない。Ni以外の元素は、基材側などから供給されてもよい。
(1)メッキ工程
メッキ工程では、Niを主成分とするNiメッキ液中にTi系基材を浸漬し、該基材の表面にNiメッキ層を形成する。メッキは電解メッキでも無電解メッキでもよいが、複雑形状をもつ基材の表面であっても一様の厚さにメッキでき被覆能力に優れた無電解メッキがより望ましい。メッキ層の厚さは耐食導電性皮膜の厚さに応じて適宜調整されるが、0.1〜5μmが好ましい。Niメッキ液として、Ni−Pメッキ液、Ni−P−Feメッキ液さらにはNi−Bメッキ液などを用いるとよい。これらのメッキ液を用いる無電解メッキは、容易に行い得る。ただし、Niメッキ層を構成する元素は、必ずしもメッキ液から供給される必要はない。Ni以外の元素は、基材側などから供給されてもよい。
(2)窒化工程
窒化工程により、耐食導電性皮膜中へNが導入される。その結果、化学的に安定な窒化物が形成され耐食導電性が確保される。また、窒化工程以前で耐食導電性皮膜中に導入されたOが還元等により除去される。
窒化工程により、耐食導電性皮膜中へNが導入される。その結果、化学的に安定な窒化物が形成され耐食導電性が確保される。また、窒化工程以前で耐食導電性皮膜中に導入されたOが還元等により除去される。
この窒化方法には、ガス窒化(ガス軟窒化を含む)、イオン窒化(プラズマ窒化)、塩浴窒化(塩浴軟窒化(タフトライド)を含む)等がある。特に本発明においては、比較的低い処理温度で窒化が可能なガス窒化またはイオン窒化が好ましい。ガス窒化は、比較的容易な装置または工程で、耐食導電性皮膜へNの導入が可能である。また、イオン窒化は、短時間で耐食導電性皮膜へNが導入される。
ガス窒化は、N2ガス、NH3ガスまたはそれらのうちの一種以上を含む混合ガスなどで満たされた高温雰囲気下に、上述した前処理後の基材を保持することで行われる。なお、それら窒化ガス自体は流動していてもよい。特にNH3ガスを用いるガス窒化は、純N2ガスを用いるガス窒化よりも窒化力が強いため、処理温度が880℃以下であっても十分に窒化される。また、NH3ガスを用いる場合には、基材が収容される炉内に単純にNH3ガスを流して予め炉内にあったガス(空気)と置換させるだけで窒化雰囲気を形成することができるため、炉内を真空に排気する必要が無く低廉なプロセスである。混合ガスとしては、N2ガスとH2ガスとの混合ガスが挙げられ、処理温度が880℃以下であっても十分に窒化される。
窒化工程は、Ti系基材のα−β固相変態温度以下の処理温度で行われる。具体的には、880℃以下さらには650〜850℃が好ましい。なお、処理温度とは、窒化処理中のTi系基材の温度である。処理温度が880℃以下であれば、Tiのα−β固相変態温度を超えないので、耐食導電性皮膜の内部残留応力が小さく、変形や剥離が少ない。また、処理温度が低温であっても耐食導電性皮膜中に十分にNが導入され、優れた耐食性または導電性が付与される。さらに、処理温度が低温であるため、耐食導電性皮膜の酸化が抑制される。また、ガス窒化であれば、処理時間は、0.05〜3時間さらには0.5〜2時間とするとよい。処理時間は、上記の範囲において、ガス組成や導入するN量により適宜調整される。
なお、望ましくは、窒化工程に限らず全工程においてTi系基材が880℃を超える環境に曝されないようにすることは、言うまでもない。仮に熱処理工程などがあっても、880℃以下で行うのがよい。
〈用途〉
本発明の耐食導電材の製造方法は、Tiの耐食被膜の他、固体高分子型燃料電池用セパレータ、通電部材などにも利用され得る。
本発明の耐食導電材の製造方法は、Tiの耐食被膜の他、固体高分子型燃料電池用セパレータ、通電部材などにも利用され得る。
また、本発明者の研究により、窒化工程を経て得られた上記の耐食導電性皮膜は、pH4程度の腐食環境下では酸化されない(酸素が皮膜に化合しない)ことがわかっている。従って、窒化を施した耐食導電性皮膜は、優れた耐酸化性のみならず、酸化雰囲気下でも安定した導電性を発揮し得る。さらには、その耐食導電性皮膜は、高温窒素雰囲気下で酸素を放出する傾向を持つため、本発明の耐食導電材は、高温耐酸化材としても利用され得る。
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
〈試験片の製造〉
純チタン(JIS1種)からなるTi基板(Ti系基材)に、次に示す各種のNiメッキ処理を施した。
純チタン(JIS1種)からなるTi基板(Ti系基材)に、次に示す各種のNiメッキ処理を施した。
[実施例1]
(1)Ni−Pメッキ処理
Ni−Pメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約2.5μmのNi−13%Pメッキ層を形成した。Ni−Pメッキ液には、トップニコロンP−13(奥野製薬製)を用いた。
(1)Ni−Pメッキ処理
Ni−Pメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約2.5μmのNi−13%Pメッキ層を形成した。Ni−Pメッキ液には、トップニコロンP−13(奥野製薬製)を用いた。
このNi−PメッキしたTi基板へ、N2ガス雰囲気によるガス窒化を施し(ガス窒化工程)、試験片11を得た。ガス窒化は、Ni−Pメッキ層を形成したTi基板を、N2:98体積%、H2:2体積%の混合ガスの気流中に載置して、処理温度:850℃、処理時間:2時間で行った。
(2)Ni−Bメッキ処理
Ni−Bメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約2.5μmのNi−Bメッキ層を形成した。Ni−Bメッキ液には、トップケミアロイ(奥野製薬製)を用いた。
Ni−Bメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約2.5μmのNi−Bメッキ層を形成した。Ni−Bメッキ液には、トップケミアロイ(奥野製薬製)を用いた。
このNi−BメッキしたTi基板へ、N2ガス雰囲気によるガス窒化を施し(ガス窒化工程)、試験片12を得た。ガス窒化は、Ni−Bメッキ層を形成したTi基板を真空排気した熱処理炉に収容し、N2:98体積%、H2:2体積%の混合ガス雰囲気中において、処理温度:850℃、処理時間:2時間で行った。
[実施例2]
(3)Ni−P−Feメッキ処理
硝酸ニッケルと硫酸鉄と次亜リン酸ソーダを用いて、Ni−P−Feメッキ液を調製した。このメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約2.5μmのNi−P−Feメッキ層を形成した。なお、形成されたメッキ層の組成は、Fe/(Ni+Fe)が0.2であった。
(3)Ni−P−Feメッキ処理
硝酸ニッケルと硫酸鉄と次亜リン酸ソーダを用いて、Ni−P−Feメッキ液を調製した。このメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約2.5μmのNi−P−Feメッキ層を形成した。なお、形成されたメッキ層の組成は、Fe/(Ni+Fe)が0.2であった。
このNi−P−FeメッキしたTi基板を熱処理炉に収容し、アルゴン(Ar)とアンモニア(NH3)の混合ガスを熱処理炉に流して、ガス窒化を施した(ガス窒化工程)。このときのガス組成はAr:98体積%、NH3:2体積%、処理温度:850℃で行った。処理時間を30分(試験片21)、1時間(試験片22)、2時間(試験片23)として、三種類の試験片を得た。
[実施例3]
(3’)Ni−P−Feメッキ処理
硝酸ニッケルと硫酸鉄と次亜リン酸ソーダを用いて、Ni−P−Feメッキ液を調製した。このメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約1μmのNi−P−Feメッキ層を形成した。なお、形成されたメッキ層の組成は、Fe/(Ni+Fe)が0.2であった。
(3’)Ni−P−Feメッキ処理
硝酸ニッケルと硫酸鉄と次亜リン酸ソーダを用いて、Ni−P−Feメッキ液を調製した。このメッキ液に前述したTi基板を浸漬して、無電解メッキ法により表面に約1μmのNi−P−Feメッキ層を形成した。なお、形成されたメッキ層の組成は、Fe/(Ni+Fe)が0.2であった。
このNi−P−FeメッキしたTi基板へ、NH3ガス雰囲気によるガス窒化を施し(ガス窒化工程)、試験片31を得た。ガス窒化は、Ni−P−FeメッキしたTi基板を熱処理炉に収容し、アルゴン(Ar)とアンモニア(NH3)の混合ガスを熱処理炉に流して行った。このときのガスの流量はAr:200mL/分、NH3:100mL/分、処理温度:750℃、処理時間:1時間とした。
〈試験片の評価〉
上記のそれぞれの試験片の接触抵抗と、これらの試験片を腐食溶液中に浸漬した後の接触抵抗とを測定した。用いた腐食溶液は希硫酸(pH4)に5ppmF−および10ppmCl−を添加して80℃に保持したものである。印加した腐食電圧は0.26V(vs.Pt)、腐食試験時間は100時間とした。
上記のそれぞれの試験片の接触抵抗と、これらの試験片を腐食溶液中に浸漬した後の接触抵抗とを測定した。用いた腐食溶液は希硫酸(pH4)に5ppmF−および10ppmCl−を添加して80℃に保持したものである。印加した腐食電圧は0.26V(vs.Pt)、腐食試験時間は100時間とした。
接触抵抗は図1に示すようにして測定した。すなわち、各試験片Sとカーボンペーパー105とを積層状態で2枚の金メッキ銅板161、162間に挟み込み、金メッキ銅板161、162間へ、定電流DC電源107から1Aの定常電流を流した。このとき、金メッキ銅板61、62間に空気圧1.47MPaの荷重Fを印加した。この状態で60秒間保持した後に、金メッキ銅板161、162間の電位差Vを測定した。これに基づき、接触抵抗R(=V/A)を算出した。結果を図2〜図4に示す。
なお、比較例として、Ti基板を同様に1000℃、2時間窒化処理して、TiN被覆した試験片C1についても、電解腐食試験前後の接触抵抗を測定した。結果を図2に併せて示す。
各グラフから明らかなように、Niメッキ法により作製された試験片11、12、21〜23および31は、電解腐食試験を100時間程度行っても、接触抵抗は10mΩ・cm2程度しか示さず、接触抵抗の増加はほとんど見られなかった。つまり、窒化処理温度が850℃以下であっても、耐食性および導電性に優れた耐食導電性皮膜を形成することができた。一方、TiN被覆された試験片C1では、90時間後の接触抵抗は20mΩ・cm2程度にまで上昇した。
試験片21〜23は、それぞれガス窒化工程における処理時間が異なる試料である。処理時間が30分である試験片21であっても、接触抵抗の増加はほとんど無かった。また、試験片31は、Ni−P−Feメッキ層の厚さが1μmで他の試験片のメッキ層よりも薄いが、腐食による接触抵抗の増加は抑制された。
《固体高分子型燃料電池》
本発明に係る耐食導電材の一実施形態として、Ti基板の表面に耐食導電性皮膜を形成した固体高分子型燃料電池用セパレータを備える固体高分子型燃料電池を図5Aおよび図5Bに示す。
本発明に係る耐食導電材の一実施形態として、Ti基板の表面に耐食導電性皮膜を形成した固体高分子型燃料電池用セパレータを備える固体高分子型燃料電池を図5Aおよび図5Bに示す。
固体高分子型燃料電池は、分子中にプロトン交換基をもつ固体高分子電解質膜がプロトン導電性電解質として機能することを利用したものである。具体的には図5A、図5Bに示すように、固体高分子型燃料電池Fは、固体高分子電解質膜1の両側にそれぞれ酸化電極2と燃料電極3が接合されている。さらに、それら電極の外側に、ガスケット4を介しセパレータ5が配置される。酸化電極2側のセパレータ5には空気供給口6と空気排出口7が設けられ、燃料電極3側のセパレータ5には水素供給口8と水素排出口9が設けられる。
セパレータ5には、水素g及び空気oの導通及び均一分配のため、水素g及び空気oの流動方向に延びる複数の溝10が形成されている。また、給水口11から送り込んだ冷却水wはセパレータ5の内部を循環した後、排水口12から排出させる。このセパレータ5に内蔵された水冷機構により、発電時の発熱に依る固体高分子電解質膜等の過熱が抑制される。
水素供給口8から燃料電極3とセパレータ5との間隙に送り込まれた水素gは、電子を放出したプロトンとなって固体高分子電解質膜1を透過し、酸化電極2とセパレータ5との間隙を通過する空気o中の酸素と反応して燃焼する。そして、酸化電極2と燃料電極3との間の負荷に電力が供給され得る。
一般的に燃料電池は、1セル当りの発電量が極く僅かである。このため、一対のセパレータ5、5間を1単位としたセルを複数積層することで、所望の出力(電力が確保される。もっとも、多数のセルを積層した場合、セパレータ5と各電極2、3との間の接触抵抗が大きくなり、電力損失も大きくなって、固体高分子型燃料電池Fの発電効率が低下し易い。
ここで本実施例のセパレータ5は、その表層に導電性に優れた耐食導電性皮膜を有するため、その耐食性が確保されつつも、酸化電極2および燃料電極3との間の接触抵抗が低減される。従って、本実施例に係る耐食導電材を用いれば、加工性や耐衝撃性等に優れると共に、耐食性と導電性の両立を図った固体高分子型燃料電池用セパレータが容易に得られる。
S:試験片
F:固体高分子型燃料電池
1:固体高分子電解質膜
2:燃料電極
3:酸化電極
5:セパレータ
F:固体高分子型燃料電池
1:固体高分子電解質膜
2:燃料電極
3:酸化電極
5:セパレータ
Claims (9)
- 純チタン(Ti)またはTi合金からなるTi系基材の少なくとも一部を、ニッケル(Ni)を主成分とするNiメッキ液中に浸漬して該Ti系基材の表面にNiメッキ層を形成するメッキ工程と、
該メッキ工程後のTi系基材に880℃以下で窒化処理を施す窒化工程と、
を備えてなり、前記Ti系基材の少なくとも一部の表面に耐食性または導電性の少なくとも一方に優れる耐食導電性皮膜が形成された耐食導電材が得られることを特徴とする耐食導電材の製造方法。 - 前記Niメッキ液は、さらにリン(P)を含むNi−Pメッキ液であり、
前記Niメッキ層は、Ni−Pメッキ層である請求項1に記載の耐食導電材の製造方法。 - 前記Ni−Pメッキ液は、さらに鉄(Fe)を含むNi−P−Feメッキ液であり、
前記Ni−Pメッキ層は、Ni−P−Feメッキ層である請求項2に記載の耐食導電材の製造方法。 - 前記Niメッキ液は、さらにホウ素(B)を含むNi−Bメッキ液であり、
前記Niメッキ層は、Ni−Bメッキ層である請求項1に記載の耐食導電材の製造方法。 - 前記メッキ工程は、無電解メッキにより行われる請求項1〜4のいずれかに記載の耐食導電材の製造方法。
- 前記窒化工程は、窒素(N)を含む窒化ガス中に前記Ti系基材を保持するガス窒化工程である請求項1記載の耐食導電材の製造方法。
- 前記窒化ガスは、窒素(N2)ガスまたはアンモニア(NH3)ガスを含む請求項6記載の耐食導電材の製造方法。
- 前記窒化ガスは、N2ガスおよび水素(H2)ガスを含む請求項7記載の耐食導電材の製造方法。
- 前記窒化工程は、Nを含む窒素プラズマ中に前記Ti系基材を保持するイオン窒化工程である請求項1記載の耐食導電材の製造方法。
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