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JP2009105336A - 膜の製造方法、有機電子素子の製造方法及びナフタロシアニン膜 - Google Patents

膜の製造方法、有機電子素子の製造方法及びナフタロシアニン膜 Download PDF

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JP2009105336A JP2007278009A JP2007278009A JP2009105336A JP 2009105336 A JP2009105336 A JP 2009105336A JP 2007278009 A JP2007278009 A JP 2007278009A JP 2007278009 A JP2007278009 A JP 2007278009A JP 2009105336 A JP2009105336 A JP 2009105336A
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敦子 平尾
Shinji Aramaki
晋司 荒牧
Yoshimasa Sakai
良正 酒井
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Abstract

【課題】ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜の製造方法、及び、それを用いた電界効果トランジスタ又は光電変換素子等の有機電子素子の製造方法、並びに、移動度に優れたナフタロシアニン膜を提供する。
【解決手段】膜の製造の際に、特定の化学式で表される前駆体化合物の逆ディールスアルダー反応によって、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに変換し、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜を製造する。
【選択図】なし

Description

本発明は、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜および有機電子素子の製造方法、並びに、ナフタロシアニン膜の製造方法に関する。
ナフタロシアニンをはじめ、ポルフィリン及びアザポルフィリンのなかには半導体的性質を有するものがある。これを利用して、電界効果トランジスタ(FET)や太陽電池等の電子素子がこれまで報告されている。例えば、非特許文献1には、ナフタロシアニンを用いた太陽電池の例が報告されている。
また一方で、特許文献1には、前駆体からフタロシアニン及びナフタロシアニンを誘導する例が記載されている。
J. Mater. Chem. 5巻、1819(1995) 特開2003−327588号公報
しかしながら、非特許文献1記載のナフタロシアニンを用いた太陽電池において、その特性は、フタロシアニンを用いたものに比べると低いものであった。この原因の一つとして考えられるのは、ナフタロシアニンは分子間相互作用が非常に強いため、溶媒への溶解性が低く、かつ昇華精製や真空蒸着も難しいために、高純度の材料を得て、高品質の膜を製膜するのが難しいためであると考えられる。
また、特許文献1記載の技術では、製膜は可能であるものと考えられるものの、水を含有する溶媒を用いて製膜を行なう技術であるという課題がある。一般に有機電子素子において水の存在は素子の劣化を引き起こすことが多く、有機電子素子の製造には不向きである。
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜を製造できる膜の製造方法及びそれを用いた有機電子素子の製造方法、並びに、移動度に優れたナフタロシアニン膜を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、特定の前駆体化合物を変換してポルフィリン又はアザポルフィリンを得るようにすれば、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜及びナフタロシアニン膜が得られること、並びに、これを利用すれば良好な有機電子素子を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜の製造方法であって、下記構造式(I)で表わされる前駆体化合物の逆ディールスアルダー反応を行なう変換工程を有することを特徴とする膜の製造方法に存する(請求項1)。
Figure 2009105336
(式(I)において、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数10以下の置換されていても良い炭化水素基を表わし、QはCHまたはNを表わし、Mは水素原子または金属原子を表わし、nはそれぞれ独立に0以上2以下の整数を表わす。)
このとき、本発明の膜の製造方法は、有機溶媒に前記前駆体化合物が溶解した溶液を成膜する成膜工程を有し、前記成膜工程の後で前記変換工程を行なうことが好ましい(請求項2)。
また、前記変換工程においては加熱によって前記逆ディールスアルダー反応を進行させることが好ましい(請求項3)。
本発明の別の要旨は、有機半導体膜を備えた有機電子素子の製造方法であって、前記有機半導体膜を本発明の膜の製造方法によって製造することを特徴とする有機電子素子の製造方法に存する(請求項4)。
このとき、前記有機電子素子は、電界効果トランジスタ又は光電変換素子であることが好ましい(請求項5)。
本発明の更に別の要旨は、ナフタロシアニンからなり、移動度が1×10-5cm2/Vs以上であることを特徴とするナフタロシアニン膜に存する(請求項6)。
本発明によれば、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜の製造方法、並びに、それを用いた有機電子素子の製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、移動度に優れるナフタロシアニン膜を提供できる。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下に記載する例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
[1.膜の製造方法]
本発明の膜の製造方法は、下記構造式(I)で表わされる前駆体化合物を、逆ディールスアルダー反応によってポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに変換し、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜を製造するものである。
通常は、前駆体化合物が有機溶媒に対して高い溶解性を有することを利用して、まず前駆体化合物を有機溶媒に溶解させた溶液(以下、適宜「前駆体溶液」という)を用意し、前駆体溶液を成膜してから、前記の変換を行なうようにする。
[1−1.前駆体溶液の用意]
[1−1−1.前駆体化合物]
本発明に係る前駆体化合物は、下記構造式(I)で表わされるものである。
Figure 2009105336
構造式(I)において、R1及びR2は、それぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭化水素基を表わす。ただし、当該炭化水素基の炭素数は、通常10以下であり、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。R1及びR2の炭素数が大きすぎると逆ディールスアルダー反応によって脱離した化合物が膜中に残留する事が懸念される。
さらに、当該炭化水素基は直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよく、環状でもよい。さらに、隣り合うR1とR2とは連結して環を形成していてもよい。
前記炭化水素基の例を挙げると、メチル基、エチル基、プロピル等が挙げられるが、中でもメチル基が好ましい。
また、前記炭化水素基は置換基を有していてもよい。置換基の例を挙げると、炭素数6以下のアルキル基を有するアルコキシ基、カルボキシル基、アシル基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基及びハロゲン原子等が挙げられる。なお、炭化水素基は、1種の置換基を単独又は複数有していてもよく、2種以上の置換基を任意の組み合わせ及び比率で有していてもよい。
構造式(I)において、QはCH又はNを表わす。本発明に係る前駆体化合物は、QがCHである場合はポルフィリンとなり、QがNである場合はアザポルフィリンとなる。
構造式(I)において、Mは水素原子または金属原子を表わす。この際、金属原子としては、例えば、Cu、Zn、Mg、Co、Fe、Ni等の2価の金属のほか、AlCl、SnCl2、TiO等の3価、4価の金属に別の原子あるいは原子団が結合して2価になった金属原子団等が挙げられる。
構造式(I)において、nはそれぞれ独立に、0以上2以下の整数を表わす。
以下、本発明に係る前駆体化合物の好適な例を挙げる。ただし、本発明に係る前駆体化合物は、以下の例示物に限定されるものではない。
Figure 2009105336
前駆体溶液中において、本発明に係る前駆体化合物の濃度は特に制限されないが、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、また、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。本発明に係る前駆体化合物の濃度が低すぎると適正な膜厚を得るのが困難となる傾向があるためである。
本発明に係る前駆体化合物の合成方法は、特に制限は無い。例えば、前記構造式(I)においてR1及びR2がいずれもメチル基であり、Qが窒素原子であり、Mが水素原子であり、nが1であるものは、以下のステップ1からステップ7により合成できる。なお、特に断りが無い限り、Etとはエチル基を表わし、THFとはテトラヒドロフランを表わし、Buとはブチル基を表わし、DDQとは2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノンを表わす。
・ステップ1:
Figure 2009105336
ステップ1では、出発物質(ジエン体)をフマル酸ジエチルと混合し、反応させる。これにより、ディールスアルダー反応が進行して、中間生成物1を得る。
この反応において、反応温度は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると反応時間が長くなる傾向があり、高すぎると副生成物が多くなり純度や収率が低下する傾向がある。
また、反応時間は、通常10分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上、また、通常30時間以下、好ましくは20時間以下、より好ましくは15時間以下である。反応時間が短すぎると低収率となる傾向があり、長すぎても低収率となる傾向がある。
・ステップ2:
Figure 2009105336
ステップ2では、ステップ1で得られた中間生成物1を還元し、中間生成物2を得る。具体的な還元の方法に制限は無いが、例えば、LiAlH4を用いて還元を行なえばよい。
また、還元反応は通常は溶媒中で行なうが、当該溶媒としてはエーテル系溶媒が好ましく、例えば、THFを使用することができる。なお、溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
この反応において、反応温度は、通常0℃以上、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは80℃以下である。反応温度が低すぎると低収率となる傾向があり、高すぎると爆発する可能性がある。
また、反応時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、また、通常30時間以下、好ましくは20時間以下、より好ましくは14時間以下である。反応時間が短すぎると低収率となる傾向があり、長すぎると副反応を伴う傾向がある。
・ステップ3:
Figure 2009105336
ステップ3では、ステップ2で得られた中間生成物2の水酸基を塩素で置換する。具体的な置換の方法に制限は無いが、例えばSOCl2を用いればよい。
また、この反応は通常は溶媒中で行なうが、当該溶媒にも制限は無く、例えば、ピリジンを使用することができる。なお、溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
この反応において、反応温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上、また、通常120℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。反応温度が低すぎると低収率となる傾向があり、高すぎると副反応を伴う傾向がある。
また、反応時間は、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上、また、通常20時間以下、好ましくは15時間以下、より好ましくは10時間以下である。反応時間が短すぎると低収率となる傾向があり、長すぎると副反応を伴う傾向がある。
・ステップ4:
Figure 2009105336
ステップ4では、ステップ3で得られた中間生成物3に脱離反応を進行させて、中間生成物4を得る。具体的な脱離の方法に制限は無いが、例えばt−BuOKを用いればよい。
また、この反応は通常は溶媒中で行なうが、当該溶媒にも制限は無く、例えば、THFを使用することができる。なお、溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
この反応において、反応温度は、通常30℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは90℃以下である。反応温度が低すぎると低収率となる傾向があり、高すぎると分解物が生成する傾向がある。
また、反応時間は、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは80時間以下、より好ましくは60時間以下である。反応時間が短すぎると低収率となる傾向があり、長すぎると副生成物が生成しやすくなる傾向がある。
・ステップ5:
Figure 2009105336
ステップ5では、ステップ4で得られた中間生成物4とジシアノアセチレンとを反応させて、中間生成物5を得る。
この反応は通常は溶媒中で行なうが、当該溶媒にも制限は無く、例えば、CHCl3を使用することができる。なお、溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
この反応において、反応温度は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、通常80℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下である。
また、反応時間は、通常2時間以上、好ましくは6時間以上、より好ましくは10時間以上、また、通常50時間以下、好ましくは40時間以下、より好ましくは24時間以下である。反応時間が短すぎると低収率となる傾向があり、長すぎても低収率となる傾向がある。
・ステップ6:
Figure 2009105336
ステップ6では、ステップ5で得られた中間生成物5に脱水素化反応を進行させて、中間生成物6を得る。具体的な脱水素化の方法に制限は無いが、例えばDDQを用いればよい。
また、この反応は通常は溶媒中で行なうが、当該溶媒にも制限は無く、例えば、CHCl3とジオキサンの混合溶媒を用いればよい。なお、溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
この反応において、反応温度は、通常30℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上、また、通常140℃以下、好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下である。反応温度が低すぎると低収率となる傾向があり、高すぎると分解が進行する傾向がある。
また、反応時間は、通常10時間以上、好ましくは20時間以上、より好ましくは30時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは80時間以下、より好ましくは60時間以下である。反応時間が短すぎると低収率となる傾向があり、長すぎると分解が進行する傾向がある。
・ステップ7:
Figure 2009105336
ステップ7では、ステップ6で得られた中間生成物6同士を反応させて、前駆体化合物を得る。この際、例えばLiOBu等の触媒を用いる。
また、この反応は通常は溶媒中で行なうが、当該溶媒にも制限は無く、例えば、n−BuOHを用いればよい。なお、溶媒は1種のみを使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
この反応において、反応温度は、通常60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。反応温度が低すぎると未反応となる傾向があり、高すぎると副反応が起こる傾向がある。
また、反応時間は、通常2時間以上、好ましくは4時間以上、より好ましくは6時間以上、また、通常24時間以下、好ましくは18時間以下、より好ましくは12時間以下である。反応時間が短すぎると低収率となる傾向があり、長すぎると分解が起こる傾向がある
なお、上記の合成方法においては、各ステップ間において、適宜、精製、乾燥、濃縮等の操作を行なうようにしてもよい。
[1−1−2.溶媒]
本発明に係る前駆体化合物は、有機溶媒に対して良好な溶解性を示す。したがって、本発明は特許文献1記載の技術のように水を用いる必要がなく、有機電子素子用の膜の製造に非常に適している。
前駆体溶液を調製するために用いる有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、ベンゼン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類;ピリジン、キノリン等の含窒素有機溶媒類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;などが挙げられる。
なお、溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
[1−2.成膜工程]
前駆体溶液を用意した後、当該前駆体溶液を成膜する。目的とする膜は何らかの基板の表面に形成されることが多いため、通常は、基板表面の所望の部位に前駆体溶液の膜を成膜する。通常は成膜後速やかに溶媒が蒸発し、溶媒を含まない前駆体膜が得られる。
成膜の方法に制限は無いが、操作が簡単であるため、通常は塗布法により成膜する。塗布法の中でも好適な手法の例を挙げると、キャスティング、スピンコーティング、ディップティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法;インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の印刷法;マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法などが挙げられる。なお、これらの成膜手法は、1種のみで実施してもよく、2種以上を任意に組み合わせて実施してもよい。
成膜工程における雰囲気は、本発明の利点を著しく損なわない限り任意である。ただし、半導体に対して雰囲気中の酸素及び水が予期せぬ影響を及ぼすことを防止するため、例えば窒素等の不活性雰囲気において行なうことが好ましい。なお、雰囲気ガスとして使用する不活性ガスは1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
成膜工程における温度条件は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、また、通常50℃以下、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。温度が低すぎると溶解している前駆体化合物が析出する懸念があり、高すぎると前駆体化合物の分解が進行して膜質の悪化及び特性の劣化が生じる傾向がある。
成膜工程における圧力条件は、真空から常圧、さらには加圧条件下で行うことができる。通常の好ましい範囲は、10-5Paから100MPaであるが、生産性の面から、より好ましくは10-3Pa以上、さらに好ましくは10-1Pa以上、特に好ましくは10kPa以上、また、より好ましくは10MPa以下の範囲である。
[1−3.変換工程]
成膜工程で前駆体溶液の膜を成膜した後、当該膜内の前駆体化合物に逆ディールスアルダー反応を行なわせる。これにより、前駆体化合物は半導体であるポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに変換され、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜を得ることができる。
前記の逆ディールスアルダー反応は、前駆体化合物からエチレンを脱離させる反応である。この際、逆ディールスアルダー反応とともに、前駆体化合物の端部に存在する
Figure 2009105336
の脱離反応も進行し、前駆体化合物は以下の構造式で示すポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに変換されることになる。
Figure 2009105336
(上記構造式中、QはCHまたはNを表わし、Mは水素原子または金属原子を表わし、nはそれぞれ独立に0以上2以下の整数を表わす。)
逆ディールスアルダー反応を進行させるには、前駆体化合物を加熱すればよい。このため、変換工程においては、成膜工程で形成された前駆体の膜を加熱する。
加熱により前駆体化合物からポルフィリン及び/又はアザポルフィリンへの変換を行なう場合、加熱手段としては、例えば、ホットプレート、オーブン、熱ローラー、レーザー、マイクロ波、光(赤外光)などを用いることが可能である。なお、加熱手段は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
変換工程のおける加熱の程度は、通常100℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは160℃以上、また、通常450℃以下、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下である。温度が低すぎると変換に長時間要する傾向があり、高すぎると組み合わせる材料の耐熱性が問題になる傾向がある。
変換工程における加熱時間は、使用する加熱手段に応じて様々であり、1ナノ秒から1日程度まで広く選択できる。例えばレーザーにより加熱を行なう場合は通常1ナノ秒以上1秒以下であり、加熱された気体、液体、固体への接触により加熱を行なう場合は通常1ミリ秒以上1日以下、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分以下である。加熱時間が短すぎると良好な結晶性の膜になりにくい傾向があり、長すぎると生産性が悪くなる傾向がある。
変換工程における雰囲気は、本発明の利点を著しく損なわない限り任意である。ただし、半導体に対して雰囲気中の酸素及び水が予期せぬ影響を及ぼすことを防止するため、例えば窒素等の不活性雰囲気において行なうことが好ましい。なお、雰囲気ガスとして使用する不活性ガスは1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、得られる膜の特性を向上させる観点からは、形成されるポルフィリン及び/又はアザポルフィリンの結晶が成長することが好ましい。前記結晶成長を促進させるために、例えば加熱処理や溶媒処理を行なうことが好ましい。
変換工程では、前駆体化合物からポルフィリン及び/又はアザポルフィリンへの変換の進行の程度をモニターすることが好ましい。モニターの手段に制限は無く、例えば、顕微鏡等による外見の変化の観察、色(吸収スペクトル)の観察、IR及びラマン等の振動スペクトルの測定、X線回折の測定などの手段を用いることができる。
[1−5.得られる膜の物性]
上記の変換工程により、前駆体化合物が変換したポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する本発明に係る膜を得ることができる。得られる膜は、通常はポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含むことにより半導体として機能する半導体膜である。
本発明に係る膜の移動度は、蒸着法などの従来の製法により製造したポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜よりも高い。具体的な移動度の程度はポルフィリン及びアザポルフィリンの種類及び膜の組成等に応じて様々であるが、例えば本発明の膜の製造方法によってナフタロシアニンからなる膜(即ち、ナフタロシアニン膜)を製造した場合には、当該膜の移動度は、通常1×10-5cm2/Vs以上、好ましくは1×10-4cm2/Vs以上、より好ましくは1×10-3cm2/Vs以上である。
本発明の膜の製造方法によって製造された膜の移動度が従来よりも高くなる理由は定かではないが、前駆体から誘導されるため、従来方法よりも高純度の半導体膜が得られるためであると推察される。
なお、膜の移動度は、電界効果トランジスタのIV特性やタイムオブフライト法により測定できる。
本発明に係る膜の厚さは、その用途に応じて任意に設定すればよいが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。膜が薄すぎると均一な膜が得にくく、半導体特性が悪化する傾向があり、厚すぎると積層素子では直列抵抗が増したり、十分に光が活性部分に到達しなくなったり、横型のトランジスタ素子等では、オンオフ比が悪くなったり、さらには大量の材料を用いてコスト高になる傾向がある。
[1−6.膜の製造に関するその他の事項]
本発明の膜の製造方法においては、目的とする膜が得られる限り、上述した以外の操作を行なうようにしてもよい。
例えば、前駆体溶液には、本発明の効果を著しく損なわない限り、本発明に係る前駆体化合物及び溶媒以外の成分を含有させてもよい。その例を挙げると、例えば、本発明に係るポルフィリン及び/又はアザポルフィリン以外の半導体並びにその前駆体、半導体特性を制御する電子受容体や供与体等のドーパント、製膜性を制御するための添加剤、酸化防止剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、例えば、成膜工程及び変換工程の工程前、工程中及び工程後のいずれかの時点において、成膜工程及び変換工程以外の工程を行なうようにしてもよい。その具体例を挙げると、成膜工程で得られた前駆体溶液の膜から変換工程前に溶媒を乾燥・除去する乾燥工程、変換工程によって製造された膜の洗浄を行なう洗浄工程などが挙げられる。
[2.有機電子素子の適用]
ポルフィリン及びアザポルフィリンは、平面性の高いπ共役系の分子であるため、半導体として用いることができる。ここで、半導体とは、電荷を運搬できる材料であり、不純物のドーピング、印加する電場、光の照射等によって半導体中のキャリア密度を制御することにより、種々の機能を発現するものである。その用途の例としては、整流素子、トランジスタ、光電流、光起電力等が挙げられる。これらの半導体のうち、有機物からなる半導体を有機半導体という。ポルフィリン及びアザポルフィリンも有機半導体に当たる。
半導体としての性質を利用して、本発明の膜の製造方法で製造される膜は、有機半導体膜を備えた有機電子素子に適用することができる。即ち、ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含む有機半導体膜を備えた有機電子素子の製造工程において、有機半導体膜の製造を本発明の膜の製造方法によって行なうことが可能である。
ここで、有機電子素子の構成の例を挙げると、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、もしくは化学物質等により制御する素子;印加した電圧又は電流により、光、電場、磁場等を発生させる素子;電圧又は電流の印加により電流又は電圧を制御する素子;磁場の印加により電圧又は電流を制御する素子;化学物質を作用させて電圧又は電流を制御する素子などが挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振等が挙げられる。
具体的な品名で有機電子素子の例を挙げると、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。
また、ポルフィリン及びアザポルフィリンは強い光吸収帯を有する。これを利用して、ポルフィリン及びアザポルフィリンを光機能材料として用いることもできる。この場合、膜の適用対象となる有機電子素子の例としては、吸収された光により電荷分離を引き起こし機能する素子が挙げられる。これらの具体例としては、光により起電力を生じる太陽電池、光電流を生じる光電変換素子(フォトダイオード)、フォトトランジスタ等を挙げることができる。このうち太陽電池は、半導体と金属又は他の半導体との接合部分に生じる内部電界を利用して、光による電荷分離を引き起こし、これを外部に取り出すものである。また、光の吸収により生じた励起状態を利用して、ラジカル発生剤を増感したり、直接励起状態からラジカルを発生させたりすることにより、光ラジカル発生等にも応用できる。
なお、電子デバイスのより具体的な例は、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley-Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
中でも、本発明に係る膜は、有機電子素子のうちでも電界効果トランジスタ(FET)及び光電変換素子に好ましく適用できる。以下、これらのFET及び光電変換素子の実施形態について詳しく説明する。ただし、本発明に係る半導体を適用しうるFET及び光電変換素子は以下の実施形態のものに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更して実施できる。
[2−1.電界効果トランジスタ]
図1のA〜Dは、それぞれFETの実施形態を模式的に示す断面図である。図1においては、符号1が半導体膜、符号2が絶縁体層、符号3及び符号4がソース電極及びドレイン電極、符号5がゲート電極、符号6が基板をそれぞれ示す。
・絶縁層2
絶縁体層2は任意の絶縁体で形成できる。絶縁体としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、窒化珪素等の窒化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の強誘電性酸化物、上記酸化物、窒化物、強誘電性酸化物等の粒子を分散させたポリマー等が挙げられる。なお、絶縁体は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
一般に絶縁体層2の静電容量が大きくなるほどゲート電圧を低電圧で駆動できることになるので、有利になる。これには、誘電率の大きな絶縁体を用いるか、絶縁体層2の厚さを薄くする事で対応することができる。
絶縁体層2は、例えば、塗布(スピンコーティング、ブレードコーティング等)、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷、インクジェット等の印刷法、アルミ上のアルマイトの様に金属上に酸化膜を形成する方法など、材料特性に合わせた方法で作製することができる。
・ソース電極3、ドレイン電極4及びゲート電極5
ソース電極3、ドレイン電極4及びゲート電極5の各電極に制限はない。電極材料の例を挙げると、白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属の他、InO2、SnO2、ITO等の導電性の酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子、及び、それに塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウムカリウム等の金属原子等のドーパントを添加したもの、カーボンブラックや金属粒子を分散した導電性の複合材料等の、導電性材料が用いられる。なお、これらの導電性材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
・基板6
FETは、通常は基板6上に作製する。基板6としては任意のものを用いることができ、例えば、ポリマーの板、フィルム、ガラス、あるいは金属をコーティングにより絶縁膜を形成したもの、ポリマーと無機材料の複合材等を用いることができる。
さらに、基板6には基板処理を施すことにより、FETの特性を向上させることができる。これは基板6の親水性/疎水性を調整して、成膜の際に得られる膜質を向上させること、特に基板6と半導体膜1との界面部分の特性を改良することがその原因と推定される。このような基板処理としては、例えばヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等による疎水化処理、塩酸、硫酸、酢酸等による酸処理、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等によるアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素及びアルゴン等によるプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理などが挙げられる。
・半導体膜1
本発明に係るFETにおいては、半導体膜1を、本発明の膜の製造方法により製造する。FETにおいて半導体膜1は、基板6上に直接又は他の層を介して半導体を膜状に形成したものである。よって、半導体膜1は、通常、前駆体溶液を基板6上に、直接又は他の層を介して成膜し(成膜工程)、その後、加熱により前駆体化合物をポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに変換すること(変換工程)により製造できる。
半導体膜1は、1層のみに形成してもよいが、2層以上の膜が積層された膜として形成してもよい。半導体膜1を2層以上の膜を積層して形成する場合には、そのうちの全ての層を本発明の膜の製造方法で製造してもよいが、一部の層のみを本発明の膜の製造方法で製造してもよい。また、半導体膜1を2層以上の膜を積層して形成する場合、各層を構成する半導体は同じでもよく、異なっていてもよい。
半導体膜1の膜厚に制限は無く、例えば横型のFETの場合、理想的には、素子の特性は必要な膜厚以上であれば膜厚には依存しない。ただし、膜厚が厚くなりすぎると漏れ電流が増加してくることが多いため、半導体膜1の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは500nm以下である。
半導体膜1の形状については、当該膜厚が一定である均一な膜として製造することが好ましい。また、当該膜厚が不均一である場合でも、その膜厚が上記範囲に収まる程度の不均一さであることが好ましい。例えば、前駆体溶液が液滴として付着した場合であっても、その付着により生じ凸部の厚さが上記範囲に収まることが好ましい。
[2−2.光電変換素子]
太陽電池に代表される光電変換素子は、少なくとも一対の電極間に挟まれ、光を吸収して正、負の電荷を生成する活性層を備えて構成される。活性層と電極の間には、光を吸収して電荷を生成する機能は無い(あるいは非常に小さい)が、生成した電荷を効率よく輸送したりブロックしたりして光電変換特性を向上させたり、電極との接合を安定化させたりする機能を有する層(電極界面層)を有することが望ましい。また、通常は、電極及び半導体膜を支持するため、基板を備えている。
・基板
基板は、任意の材料により形成することが可能である。基板の材料の例を挙げると、ガラス、サファイア、チタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン等の有機材料;紙、合成紙等の紙材料;ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート或いはラミネートしたもの等の複合材料などが挙げられる。なお、基板の材料は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、基板の形状及び寸法に制限はなく、任意に設定することができる。
さらに、基板には、ガスバリヤー性の付与や表面状態の制御のために、別の層を積層してもよい。
・電極
電極は、導電性を有する任意の材料により形成することが可能である。電極の材料の例を挙げると、白金、金、銀、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属あるいはそれらの合金;酸化インジウムや酸化錫等の金属酸化物、あるいはその合金(ITO);ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子;前記導電性高分子に、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子などのドーパントを添加したもの;金属粒子、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ等の導電性粒子をポリマーバインダー等のマトリクスに分散した導電性の複合材料などが挙げられる。なお、電極の材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、太陽電池において、電極は少なくとも一対(2個)設けられ、この一対の電極の間に半導体膜(後述する活性層及び電極界面層)が設けられる。この際、一対の電極のうち、少なくとも一方は透明(即ち、発電のために半導体膜が吸収する光を透過させる)であることが好ましい。透明な電極の材料を挙げると、例えば、ITO、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の酸化物;金属薄膜などが挙げられる。また、この際、光の透過率の具体的範囲に制限は無いが、太陽電池の発電効率を考慮すると、80%以上が好ましい。なお、光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能できる。
電極は、半導体膜内に生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものである。したがって、電極には、正孔及び電子を捕集するのに適した電極材料を用いることが好ましい。正孔の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、Au、ITO等の高い仕事関数を有する材料が挙げられる。一方、電子の捕集に適した電極の材料を挙げると、例えば、Al、Mg、Caのような低い仕事関数を有する材料が挙げられる。
なお、電極の形成方法に制限はない。例えば、真空蒸着、スパッタ等のドライプロセスにより形成することができる。また、例えば、導電性インク等を用いたウェットプロセスにより形成することもできる。この際、導電性インクとしては任意のものを使用することができ、例えば、導電性高分子、金属粒子分散液等を用いることができる。
さらに、電極は2層以上積層あるいは2種以上の材料を混合してもよく、表面処理により特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。
・活性層
活性層は、半導体を含有する層であり、半導体膜の一つである。本発明の膜の製造方法を光電変換素子に適用する場合、本発明の膜の製造方法によってこの活性層を製造するか、後述する電極界面層を製造する。
活性層は、単一の膜のみによって構成されていてもよく、2以上の膜によって構成されていても良い。活性層の具体的な構成は、その太陽電池のタイプにより様々である。活性層の構成の例を挙げると、バルクヘテロ接合型、積層型(ヘテロpn接合型)、ショットキー型、ハイブリッド型、あるいはそれらを組み合わせて複合化した構成が挙げられる。
活性層に用いる半導体は、光を吸収して電気に変換するため、有効に光を吸収するものが望ましい。特にそれが太陽電池の場合には、太陽光のスペクトルを有効に利用するために400nmから1μm程度の波長までの光を吸収するものが望ましい。本発明の膜の製造方法により得られる半導体膜は上記の波長の光を吸収しうるポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含むため、有効に太陽光を利用することができる。
以下、活性層のタイプ別に説明する。
バルクヘテロ接合型は、単一の活性層内に、p型の半導体とn型の半導体とを含んで構成されている。そして、p型の半導体とn型の半導体とが相分離した相分離構造となっていて、当該相の界面でキャリア分離が起こり、各相において正電荷(正孔)と負電荷(電子)とが電極まで輸送されるものである。なお、p型及びn型半導体は、いずれも1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ここで相分離構造とは、相を構成する材料(例えば、ポルフィリン、アザポルフィリン及びその他の半導体等)が分子レベルで均一に混合しておらず、それぞれの材料が凝集状態をとっている構造であり、その凝集状態の間に界面を有するものである。活性層が相分離構造を有していることにより、光照射によりキャリア分離が起こり、正孔と電子とが生じた後で、それらが再結合することなく電極にたどりつく確率を高くすることが期待できる。
なお、相分離構造は、光学顕微鏡、あるいは電子顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)等の局所的な構造を調べる手法で観察したり、X線回折で、凝集部分に由来する回折を観察したりして確認することができる。
バルクへテロ型の活性層において、p型及びn型の半導体の比率に制限はなく、用いる材料の特性や、用途などに応じて任意である。ただし、p型及びn型の半導体との使用比率は、「p型半導体/n型半導体」で表わされる体積比(重量/密度の比)で、通常1/99以上、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上、また、通常99/1以下、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下である。特に、相分離により電荷を輸送できるように連続相を形成することが好ましく、これを実現するためには、それぞれの相の体積が極端に違わない方が好ましい。このため、前記体積比は、更に好ましくは30/70以上、特に好ましくは40/60以上、また、更に好ましくは70/30以下、特に好ましくは60/40以下である。p型及びn型の半導体の一方の量が少なすぎると島状に孤立した相になりやすい。
積層型(pn接合型)は、活性層が2以上の膜から構成されていて、少なくとも一つの膜がp型の半導体を含有して形成され、他の膜がn型の半導体を含有して形成されているものである。そして、当該p型の半導体を含有する膜とn型の半導体を含有する膜との境界にはp型の半導体とn型の半導体との相界面が形成されて、当該相界面でキャリア分離が起こるようになっている。
また、バルクヘテロ接合型と積層型とを組み合わせることも可能である。例えば、2層のpn接合型素子のp型半導体膜とn型半導体膜との間にバルクヘテロ型の活性層を挿入した構成が可能である。この場合、積層した膜間に形成される相界面、及び、バルクヘテロ型の活性層内におけるp型の半導体とn型の半導体との相界面の両方でキャリア分離が生じるようになっている。或いは、積層した膜間において一方のキャリアをブロックして、電気取り出し効率を向上させることも期待される。なお、活性層を構成する各層中のp型半導体及びn型半導体は、それぞれ、同じでもよく異なっていてもよい。
ショットキー型は、電極近傍にショットキー障壁が形成され、この部分の内部電場でキャリア分離を行なうものである。電極としてショットキー障壁を形成するものを用いれば、その半導体膜の構成に制限は無い。ショットキー型における半導体膜の具体的な構成としては、p型又はn型の半導体のみにより形成された膜であってもよいが、前記のバルクヘテロ接合型、積層型及び両者を組み合わせた型のいずれかを採用すると、特に高い特性(例えば、変換効率など)が期待でき、好ましい。
ハイブリッド型は、活性層が無機物質及び有機物質を共に含有して形成されるものである。この際、ハイブリッド型の半導体膜が含有する無機物質及び有機物質は半導体特性を有していないものでもよいが、半導体特性を有しているもの(即ち、無機半導体及び有機半導体)を使用することが好ましい。例えば、無機半導体としてはチタニア、酸化亜鉛等が挙げられ、有機半導体としてはペリレン顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料等が挙げられる。
また、いずれの型の活性層でも、それを構成する少なくとも一層が本発明の半導体膜の製造方法により製造される。よって、これらの活性層で用いられるp型及びn型の半導体の少なくとも一つが、前駆体化合物を変換して得られるポルフィリン及び/又はアザポルフィリンであることが好ましい。前駆体化合物を変換して得られるポルフィリン及びアザポルフィリンは通常はp型半導体である。また、これと組み合わせるn型半導体としては、例えば、C60、C70及びその誘導体(PCBMやPCBNB)、ペリレン半導体、フッ素化された芳香族及び複素環、キノキサリノポルフィリン、キノキサリノフタロシアニン等が挙げられる。
いずれの型の活性層であっても、層の厚さに特に制限はないが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下の寸法で形成する。活性層の厚さが薄すぎると光を十分に吸収できずに効率が低下する傾向があり、厚すぎると分離したキャリアの輸送中の損失により効率が低下する傾向がある。このため、活性層は最適な膜厚を、半導体の特性に応じて設計することが望ましい。
・電極界面層
活性層と電極との間には、電気特性の改良のために電極界面層を設ける事が望ましい。この電極界面層は、半導体膜を用いることもできる。通常は、活性層と正孔を捕集する電極との間には、電子をブロックして正孔のみ伝導する層(正極界面層)を形成し、活性層と電子を捕集する電極との間には、正孔をブロックして電子のみ伝導する層(負極界面層)を形成する。
正極界面層の材料(正極界面層材料)としては、活性層で生成した正孔を効率よく正極へ輸送できるものが好ましい。そのためには、正極界面層材料は、正孔移動度が高いこと、導電率が高いこと、活性層から正極界面層への正孔注入障壁が小さいこと、などの性質を有することが好ましい。
さらに、正極界面層を通して活性層に光を取り込む場合には、正極界面層材料として透明な材料を用いる。通常は光のうちでも可視光を活性層に取り込むことになるため、透明な正極界面層材料としては、当該正極界面層を透過する可視光の透過率が、通常60%以上、中でも80%以上となるものを用いることが好ましい。
また、有機光電変換素子の製造コストの抑制、大面積化などを実現するためには、正極界面層材料として、有機半導体を用い、正極界面層をp型有機半導体膜として形成することが好ましい。
このような観点から、正極界面層材料の好適な例を挙げると、ポルフィリン又はアザポルフィリン(フタロシアニン化合物も含まれる)が挙げられる。これらの化合物は、中心金属を有していてもよいし、無金属のものでもよい。その具体例を挙げると、29H,31H−フタロシアニン、銅(II)フタロシアニン、亜鉛(II)フタロシアニン、チタンフタロシアニンオキシド、銅(II)4,4',4'',4'''−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン等のフタロシアニン化合物;テトラベンゾポルフィリン、テトラベンゾ銅ポルフィリン、テトラベンゾ亜鉛ポルフィリン等のポルフィリン;などが挙げられる。
また、ポルフィリン及びフタロシアニン化合物以外の好ましい正極界面層材料の例としては、正孔輸送性高分子にドーパントを混合した系が挙げられる。この場合、正孔輸送性高分子の例としては、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどが挙げられる。一方、ドーパントの例としては、ヨウ素;ポリ(スチレンスルホン酸)、カンファースルホン酸等の酸;PF5、AsF5、FeCl3等のルイス酸;などが挙げられる。
なお、正極界面層材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正極界面層の厚みに制限はない。ただし、通常3nm以上、中でも10nm以上、また、通常200nm以下、中でも100nm以下とすることが好ましい。正極界面層が厚すぎると透過率が低下したり、直列抵抗が増大したりする可能性があり、薄すぎると不均一な膜となる可能性がある。また、光電変換素子を負極側から光を取り込む構成とした場合には、正極界面層をこのような範囲の厚みに構成することにより、負極より入射した光が活性層で吸収されずに透過した場合、正極で反射されて再び活性層に戻ることによる光干渉効果を活用することが可能である。
一方、負極界面層の材料(負極界面層材料)としては、活性層で生成した電子を効率よく負極へ輸送できるものが好ましい。そのためには、負極界面層材料は、電子移動度が高いこと、導電率が高いこと、活性層から負極界面層への電子注入障壁が小さいこと、などの性質を有することが好ましい。
さらに、負極界面層を通して活性層に光を取り込む場合には、負極界面層材料として透明な材料を用いる。通常は光のうちでも可視光を活性層に取り込むことになるため、透明な負極界面層材料としては、当該負極界面層を透過する可視光の透過率が、通常60%以上、中でも80%以上となるものを用いることが好ましい。
また、有機光電変換素子の製造コストの抑制、大面積化などを実現するためには、負極界面層材料として、有機半導体を用い、負極界面層をn型有機半導体膜として形成することが好ましい。
さらに負極界面層に求められる役割は、活性層で光を吸収して生成する励起子(エキシトン)が負極により消光されるのを防ぐことにある。そのためには、電子供与体及び電子受容体が有する光学的ギャップより大きい光学的ギャップを、負極界面層材料が有することが好ましい。
このような観点から、負極界面層材料の好適な例を挙げると、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体等の電子輸送性を示す有機化合物;TiO2等の無機半導体などが挙げられる。なお、負極界面層材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
負極界面層の厚みに制限はない。ただし、通常2nm以上、中でも5nm以上、また、通常200nm以下、中でも100nm以下とすることが好ましい。負極界面層が厚すぎると透過率が低下したり、直列抵抗が増大したりする可能性があり、薄すぎると不均一な膜となる可能性がある。また、光電変換素子を正極側から光を取り込む構成とした場合には、負極界面層をこのような範囲の厚みに構成することにより、正極より入射した光が活性層で吸収されずに透過した場合、負極で反射されて再び活性層に戻ることによる光干渉効果を活用することが可能である。
・その他の部材
光電変換素子は、上述した基板、電極、活性層及び電極界面層以外の構成部材を備えていても良い。
例えば、光電変換素子が太陽電池である場合、その太陽電池は、外気の影響を最小限にするために、保護膜を備えていても良い。保護層は、例えば、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンポリビニルアルコール共重合体、等のポリマー膜;酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜;あるいはこれらの積層膜などにより構成することができる。
なお、前記の保護膜の形成方法に制限はない。例えば、保護膜をポリマー膜とする場合には、例えば、ポリマー溶液の塗布乾燥による形成方法、モノマーを塗布或いは蒸着して重合する形成方法などが挙げられる。また、ポリマー膜の形成に際しては、さらに架橋処理を行なったり、多層膜を形成したりすることも可能である。一方、保護膜を無機酸化膜や窒化膜等の無機物膜とする場合には、例えば、スパッタ法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法などを用いることができる。
また、前記の太陽電池は、例えば紫外線を透過させない光学フィルタを備えさせることが好ましい。紫外線は一般に太陽電池の劣化を促進することが多いため、この紫外線を遮断することにより、太陽電池を長寿命化させることができるからである。
・光電変換素子の製造方法
本発明の膜の製造方法は、光電変換素子の活性層あるいは電極界面層の製造の際に適用することができる。p/n構造(前記の積層型)あるいはp/i/n構成(前記のバルクヘテロ接合型と積層型とを組み合わせた型)の光電変換素子の製造方法の一例について説明する。
まず、基板を用意し、その上に正極を形成する(正極形成工程)。正極の形成方法に制限はないが、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法などにより形成することができる。
次いで、正極上に、正極界面層を形成する(正極界面層形成工程)。正極界面層の形成方法に制限はないが、例えば、昇華性を有するp型半導体を用いる場合は真空蒸着法などにより形成することができる。また、例えば、溶媒に可溶なp型半導体を用いる場合は、スピンコートやインクジェット等の湿式塗布法などにより形成することができる。なお、正極界面層は、本発明の膜の製造方法によって製造することもできる。
その後、正極界面層上にp型半導体膜を製造する(p型半導体膜製造工程)。p型半導体膜を製造する際には、まず、本発明に係る可溶性前駆体を溶媒に溶解させて前駆体溶液を用意する。この際、可溶性前駆体は、p型半導体膜に含有させるポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに対応したものを用いる。なお、可溶性前駆体は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。用意した前駆体溶液を正極界面層上に成膜し、次いで加熱、変換を行ない、本発明に係るポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含むp型半導体膜を製造する。
光電変換素子をp/i/n型に構成する場合は、その後、p型半導体膜上に混合半導体膜(バルクヘテロ型の活性層)を製造する(混合半導体膜製造工程)。混合半導体膜製造工程では、まず、本発明に係る可溶性前駆体と、n型半導体及び/又はその前駆体とを溶解あるいは分散した前駆体溶液を準備する。この際、可溶性前駆体は、p型半導体膜に含有させるポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに対応したものを用いる。また、n型半導体の前駆体を用いる場合、p型半導体と同様に、加熱等により目的とするn型半導体を生成する前駆体を用いる。この前駆体溶液を成膜後、加熱、変換して、本発明に係るポルフィリン及び/又はアザポルフィリンとn型半導体とを含む混合半導体膜が製造される。なお、ここで用いるn型半導体は、次に述べるn型半導体膜に使用されるn型半導体と同じでも異なっていても良い。
そして、p/n構造の光電変換素子ではp型半導体膜上に、また、p/i/n構成の光電変換素子では混合半導体膜上に、n型半導体膜を形成する。n型半導体膜の形成方法に制限はないが、例えば、n型半導体を湿式塗布方法又は真空蒸着法により混合半導体膜の上に積層して形成することが好ましい。
湿式塗布方法は、n型半導体が可溶性である場合に採用できる方法である。この方法を用いる場合、次のようにして液相から塗布法でn型半導体膜を形成することが好ましい。即ち、まず、n型半導体を含む溶液を用意する。n型半導体溶液に用いる溶媒の種類は、n型半導体膜が得られる限り任意であるが、例えば、前駆体溶液に用いる溶媒と同様の溶媒などを用いることができる。なお、溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
n型半導体溶液中のn型半導体の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1g/L以上、好ましくは1g/L以上、より好ましくは5g/L以上、また、通常1000g/L以下、好ましくは500g/L以下、より好ましくは200g/L以下である。
その後、用意したn型半導体溶液をp型半導体膜又は混合半導体膜の上に塗布し、塗布層を形成させる。そして、この塗布層から溶媒を乾燥、除去することにより、n型半導体膜が形成される。
一方、真空蒸着法を用いる場合には、n型半導体を真空蒸着により積層すればよい。
また、光電変換素子をp/i/n型に構成する場合は、以下に説明する方法により、混合半導体膜とともにn型半導体膜を一連の工程で形成することも可能である。即ち、混合半導体膜製造工程において説明したのと同様にして、前駆体溶液を成膜し、必要に応じて溶媒の除去を行なう。次いで、真空蒸着により、成膜された膜(この膜は、溶媒を含んでいてもいなくてもよい)の上にn型半導体を積層し、n型半導体膜を形成する工程を行なう。その後、加熱処理を行なって熱変換により可溶性前駆体をポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに変換して、混合半導体膜を製造する。
この方法によれば、可溶性前駆体がポルフィリン及び/又はアザポルフィリンに変換されることにより結晶化が進行するが、この結晶化の際にn型半導体膜も含めて分子の再配列が生じる。このため、最終的に、混合半導体膜とn型半導体膜との境界は両方の層が相互に拡散侵入した構造となり、p型半導体とn型半導体との接触面積は大きくなり、光電変換特性が向上することが期待できる。
n型半導体膜の形成後、負極界面層を形成する。負極界面層の形成方法に制限はないが、例えば、正極界面層と同様に、真空蒸着法または湿式塗布方法により形成することができる。
その後、負極界面層上に負極を形成する。負極の形成方法に制限はないが、例えば、正極と同様に、スパッタリング法、真空蒸着法などにより形成することができる。
以上の工程により、本実施形態の有機光電変換素子を製造することができる。
上記の方法は、例えば、p型半導体としてナフタロシアニンを用い、n型半導体としてPCBM等を用いる場合に特に好適に使用できる。
ただし、上述した光電変換素子の製造方法はあくまで例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更することができる。
例えば、各層の積層順は上述したものに限定されず、上述したものとは逆の積層順に形成してもよい。
また、製造方法において、光電変換素子の少なくとも一層が本発明の半導体膜の製造方法で製造されればよいのであり、本例の場合、p型半導体膜及び混合半導体膜の一方が別の方法で形成されてもよい。
ところで、ポルフィリン及びアザポルフィリンは、分子構造の制御又はドーピング等によって、その膜の導電率を制御することが可能である。したがって、ポルフィリン及びアザポルフィリンは半導体以外の用途に用いることも可能であり、例えば、電子デバイスにおいて、その導電率を低下させて絶縁層として用いたり、その導電率を向上させて導線として用いたりすることも可能である。このような用途は、特に有機電子素子のうちでもコンデンサ及びFETに用いて好適である。
また、ポルフィリン及びアザポルフィリンは、可視〜近紫外光の波長領域に吸収帯を有することから、色素として用いることができる。この色素としての特徴を利用すれば、染色のための色素の他、インクジェットや熱転写等の記録、光ディスク等の記憶、ディスプレイ等の光学フィルター等への応用が可能である。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されず、任意に変更して実施できる。
なお、説明中、Etはエチル基を表わし、THFはテトラヒドロフランを表わし、Buはブチル基を表わし、DDQは2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノンを表わす。
[合成例1]
・反応(1): 4,4-Dimethyl-3,5-dioxa-tricyclo[5.2.2.02,6]undec-10-ene-8,9-dicarboxylic acid diethyl esterの合成
Figure 2009105336
50mlの一口フラスコに回転子を入れ、フマル酸ジエチル1.07ml(6.6mmol)とジエン体1g(6.6mmol)を加えた。
還流管を取り付けた後、110℃に加熱し一晩攪拌した。
原料がなくなっていることをNMRにより確かめた後、次の反応に用いた(無色オイル)。本反応で得られた目的物の収量は2.141gであり、収率は100%であった。
本反応で得られた目的物のNMR等の分析結果を、以下に示す。
[目的物の分析結果]
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=1.21-1.33(12H), 2.94-2.96(1H), 3.03-3.05(1H), 3.29(1H), 3.36(1H), 4.11-4.30(6H), 6.05(1H), 6.22(1H).
13C-NMR(CDCl3):δ=14.21, 14.25, 25.04, 25.37, 37.34, 37.89, 41.44, 43.19, 61.14, 61.31, 75.00, 77.45, 108.76, 129.49, 131.48, 172.83, 172.87,
IR(KBr)/ cm-1 1732(C=O)
Anal.(+1/4H2O calcd):C, 62.17(62.09); H, 7.44(7.51)
・反応(2): (9-Hydroxymethyl-4,4-dimethyl-3,5-dioxa-tricyclo[5.2.2.02,6]undec-10-en-8-yl)-methanolの合成
Figure 2009105336
原料(反応(1)での目的物)2.121g(6.54mmol)を50mlフラスコにいれアルゴン置換した後、dry−THFを17.5ml加え反応容器を0度に冷却した。
LiAlH4を0.33gゆっくり加えた後、反応容器を加熱し一晩還流させた。
0℃まで冷却し蒸留水をゆっくり加え反応をクエンチした後、吸引ろ過しクロロホルムを用いて抽出した。その後、ろ液を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた後、それを減圧下で乾燥させると目的物が得られた(無色オイル)。本反応で得られた目的物の収量は1.42gであり、収率は90%であった。
本反応で得られた目的物のNMR等の分析結果を、以下に示す。
[目的物の分析結果]
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=1.23(3H,s), 1.29(3H,s), 1.40(2H), 2.76(1H), 2.85(1H), 3.18(1H), 3.45-3.71(3H), 3.99(1H), 4.18-4.26(3H), 5.93(1H,m), 6.12(1H,m).
13C-NMR(CDCl3):δ=24.91, 25.26, 37.37, 37.63, 42.22, 42.59, 64.68, 66.44, 74.90, 78.39, 108.12, 128.69, 132.47.
IR(KBr)/ cm-1 1053, 1207, 1377, 3398(OH).
Anal.(+1/3H2O calcd):C, 63.46(63.39); H, 8.26(8.46)
・反応(3) 10,11-Bis-chloromethyl-4,4-dimethyl-3,5-dioxa-tricyclo[5.2.2.02,6]undec-8-eneの合成
Figure 2009105336
一口フラスコに原料(反応(2)での目的物)0.384gとピリジン0.32mlを入れ、0℃に冷却した。その後、塩化チオニルを0.24mlゆっくりと加えた後、65度で1時間攪拌した。その後室温で1時間攪拌した後、飽和NaHCO3水溶液を20mlゆっくり加えた。その後CHCl3を加えて、抽出操作を2度行ない、水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、減圧下濃縮することによって、目的物を得た。本反応で得られた目的物の収量は0.37gであり、収率は84%であった。
本反応で得られた目的物のNMR等の分析結果を、以下に示す。
[目的物の分析結果]
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=1.26(3H,s), 1.31(3H,s), 1.48(2*1H,m), 3.08-3.13(2H,m), 3.27- 3.31(1H,m), 3.39-3.44(2H,m), 3.64-3.68(1H,m), 4.17-4.20(1H,m), 4.35-4.37(1H,m), 6.00-6.04 (1H,m), 6.22-6.26(1H,m).
13C-NMR(CDCl3):δ=24.93, 25.30, 36.68, 38.18, 42.86, 43.26, 46.10, 47.99, 74.07, 77.92, 108.51, 128.91, 132.77.
IR(KBr)/ cm-1 717, 883, 1064, 1199, 1269, 1296, 1385.
Anal.(calcd):C, 56.33(56.39); H, 6.55(6.60);
Melting Point 84-85 ℃
・反応(4) 4,4-Dimethyl-10,11-dimethylene-3,5-dioxa-tricyclo[5.2.2.02,6]undec-8-eneの合成
Figure 2009105336
還流管を備え付けた100mlのナスフラスコに、原料(反応(3)での目的物)0.782g(2.8mmol)とt−BuOK 0.8gを入れアルゴン置換した。その後dry−THF 12.5mlを加え、反応容器を過熱し二日間還流させた。
蒸留水を冷却化で加え、反応を停止させた。次に、ヘキサンを用いて抽出操作を2度行ない、飽和食塩水及び無水硫酸ナトリウムを用い乾燥させた。これを減圧下で濃縮することにより目的物がオイル状の混合物として得られた。(無色オイル)本反応で得られた目的物の収量は0.372gであり、収率は65%であった。
本反応で得られた目的物のNMR等の分析結果を、以下に示す。
[目的物の分析結果]
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=1.26(3H,s), 1.34(3H,s), 3.49(2H,m), 4.27(2H,m), 4.95(1H,s), 5.33(1H,s), 6.16-6.18(2H,m).
13C-NMR(CDCl3):δ=25.04, 25.43, 46.91, 78.23, 106.78, 109.43, 129.96, 141.35.
IR(KBr)/ cm-1
・反応(5)
Figure 2009105336
一口フラスコに原料(反応(4)での目的物)0.322g(1.576 mmol)を入れアルゴン置換した。dicyanoacetyleneをCHCl3に溶解した1M溶液を2.4ml(2.4mmol)ゆっくり加えた。その後、室温で一晩攪拌した。
減圧下で濃縮しエーテルで洗浄した後、再結晶(ヘキサン/CHCl3)を行なうことにより目的物を得た。本反応で選れらた目的物の収量は0.292gであり、収率は66%であった。
本反応で得られた目的物のNMR等の分析結果を、以下に示す。
[目的物の分析結果]
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=1.25(3H,s), 1.33(3H,s), 3.17(4H,s), 3.57-3.60(2H,m), 4.22-4.22(2H,m), 6.32-6.34(2H,m).
13C-NMR(CDCl3):δ=25.54, 25.89, 31.55, 45.07, 78.36, 113.18, 115.17, 123.68, 130.81, 131.49.
IR(KBr)/ cm-1 725, 771, 864, 1030, 1068, 1153, 1214, 1254, 1369, 2229(CN), 2881.
Anal.(calcd):C, 72.61(72.84); H, 5.82(5.75); N, 9.89(9.99)
Melting Point 216-218 ℃
・反応(6)
Figure 2009105336
一口フラスコに原料(反応(5)での目的物)0.277g(0.988mmol)を入れた後、CHCl3を40ml加え溶解させた。その後、DDQを946mg加えた後dioxaneを20ml加え、還流管を備え付けた後4日間還流させた。
1H−NMRにて原料が消失しているのを確認した後、減圧下で溶媒を除去しCHCl3と水を加えて、抽出操作を2度行ない、水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。その後、減圧下で濃縮した後、アルミナカラムクロマトグラフィー(CHCl3)にて精製し、目的物を得た。本反応で得られた目的物の収量は0.258gであり、収率は94%であった。
本反応で得られた目的物のNMR等の分析結果を、以下に示す。
[目的物の分析結果]
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ=1.27(3H, s), 1.40(3H, s), 4.28-4.33(4H), 6.50(2H, m), 7.65(2H, s).
13C-NMR(CDCl3):δ=25.29, 25.58, 45.53, 77.90, 112.97, 113.83, 115.38, 129.16, 131.61, 146.91.
IR(KBr)/ cm-1 521, 725, 837, 872, 1041, 1061, 11611, 1207, 1269, 1381, 2233(CN).
MS(FAB)
Anal.(calcd):C, 73.37(73.37); H, 5.11(5.07); N, 10.06(10.07)
Melting Point 243-245 ℃
・反応(7)
Figure 2009105336
還流管を備え付けた50mlナスフラスコに、金属リチウム0.056gを入れアルゴン置換した。dry−BuOHを8.0ml加え加熱還流した。リチウムが溶解した後で室温まで冷却し、原料(反応(6)での目的物)500mg(1.80mmol)を加えた。
一晩還流させた後、水/メタノール=1:1の溶液を約10ml加え、クロロホルムを用いて抽出操作を行なった。次に水、飽和食塩水にて洗浄操作を行ない、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥させ、減圧下で濃縮することにより粗結晶を得た。
シリカゲルカラムクロマトグラフィー((酸エチル/クロロホルム 25%)にて精製を行ない、次に再結晶(メタノール/クロロホルム)を行なうことにより、目的物(前駆体化合物)を得た。本反応で得られた目的物の収量は238mg、収率は47.3%であった。
本反応で得られた目的物のNMR等の分析結果を、以下に示す。
[目的物の分析結果]
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ= -4.46 〜 -3.66 (2H, NH), 1.25 〜 1.77 (m, 24H), 4.62 〜 5.22 (m, 16H),6.87 〜 7.35 (m, 8H), 8.35 〜 8.67 (m, 8H)
[実施例1]
300nmの酸化膜を形成したN型のシリコン基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ωcm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)10μm、幅(W)500μmのギャップを有する金電極(ソース電極、ドレイン電極)を形成した。また、この電極と異なる位置の酸化膜をフッ酸/フッ化アンムニウム液でエッチングし、むき出しになったSi部分に金を蒸着し、これをシリコン基板(ゲート電極)に電圧を印加するための電極とした。
前記の合成例1で得られたナフタロシアニン化合物(前駆体化合物)0.8mgをクロロホルム1.25gに溶解させて前駆体溶液を調製した。このナフタロシアニン化合物の成膜及び電機特性の評価は、酸素や湿度の影響を避けるために、すべて窒素雰囲気下で行なった。先に用意した前駆体溶液を上記で電極を形成した基板上に1000rpmでスピンコートして良好な膜を得た(成膜工程)。この基板を、300℃に加熱したホットプレートの上に置き、20分加熱した(変換工程)。
変換の際、示差熱熱重量同時測定装置TG−DTA6300(SIIナノテクノロジー(株)製)により膜(半導体膜)の熱重量分析(TG)、示差熱分析(DTA)及び微分熱重量分析(DTG)を測定した。結果を図2のグラフに示す。この結果、ナフタロシアニン化合物からナフタロシアニンへの熱変換温度は286℃であり、上記の300℃における加熱処理によって、下記反応式に示すナフタロシアニンへの変換が完了し、有機半導体となったことが確認された。
Figure 2009105336
こうして得られたFETの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。ソース電極とドレイン電極間に電圧Vdを印加し、ソース電極とゲート電極間に電圧Vgを印加した際に半導体膜を流れる電流Idの測定結果を図3に示す。
また、閾値電圧をVt、絶縁膜の単位面積当たりの静電容量をCi、ソース電極とドレイン電極の間隔をL、幅をW、半導体膜の移動度をμとすると、その動作は、次のように表すことができる。
Figure 2009105336
移動度μは素子の電流電圧特性から求めることができる。移動度μを求めるには式(1)或いは(2)を用いるが、式(2)の飽和電流部分のId1/2−Vgの傾きから求める方法を採用した。このプロットのId=0との切片から閾値電圧Vt、Vd=−30V印加時のVg=30Vと−50VのIdの比をオンオフ比とした。
このようにして得られた移動度μは1.9×10-2cm2/Vs、Vtは3.7V、オンオフ比は2.9×104であった。
図4は、飽和領域のドレイン電流Idsatとゲート電圧Vgとの関係を表わすグラフである。図4において、縦軸が飽和領域のドレイン電流Idsatの平方根、横軸がゲート電圧Vgを表している。縦軸の単位はアンペアの1/2乗(A1/2)、横軸の単位はVである。式(2)を用いるとこのグラフの傾きから移動度、切片からVtを求めることができる。
(比較例1)
ジシアノナフタレンを用いてフタロシアニンと同様に合成したナフタロシアニン及び銅ナフタロシアニンを真空蒸着法で製膜しようとしたが、550℃まで加熱しても蒸着できずに、製膜できなかった。
本発明は産業上の任意の分野で用いることが可能であるが、特に、太陽電池及び光センサ等の光電変換素子、FET等のトランジスタなどに用いて好適である。
A〜Dは、それぞれFETの実施形態を模式的に示す断面図である。 実施例1で行なった変換工程における半導体膜のTG、DTA及びDTGを測定した結果を表わすグラフである。 実施例1で製造したFETのソースとドレイン間に印加された電圧Vd、その際に半導体膜を流れる電流Id、及び、ソースとゲートに印加される電圧をVgの測定結果を表わすグラフである。 実施例1における飽和領域のドレイン電流Idsatとゲート電圧Vgとの関係を表わすグラフである。
符号の説明
1 半導体膜
2 絶縁体層
3 ソース電極
4 ドレイン電極
5 ゲート電極
6 基板

Claims (6)

  1. ポルフィリン及び/又はアザポルフィリンを含有する膜の製造方法であって、
    下記構造式(I)で表わされる前駆体化合物の逆ディールスアルダー反応を行なう変換工程を有する
    ことを特徴とする膜の製造方法。
    Figure 2009105336
    (式(I)において、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数10以下の置換されていても良い炭化水素基を表わし、QはCHまたはNを表わし、Mは水素原子または金属原子を表わし、nはそれぞれ独立に0以上2以下の整数を表わす。)
  2. 有機溶媒に前記前駆体化合物が溶解した溶液を成膜する成膜工程を有し、
    前記成膜工程の後で、前記変換工程を行なう
    ことを特徴とする、請求項1記載の膜の製造方法。
  3. 前記変換工程において、加熱によって前記逆ディールスアルダー反応を進行させる
    ことを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の膜の製造方法。
  4. 有機半導体膜を備えた有機電子素子の製造方法であって、
    前記有機半導体膜を請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜の製造方法によって製造する
    ことを特徴とする有機電子素子の製造方法。
  5. 前記有機電子素子が電界効果トランジスタ又は光電変換素子である
    ことを特徴とする請求項4記載の有機電子素子の製造方法。
  6. ナフタロシアニンからなり、移動度が1×10-5cm2/Vs以上である
    ことを特徴とするナフタロシアニン膜。
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