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JP5012783B2 - 有機電子デバイス及びその作製方法 - Google Patents

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Description

本発明は、有機デバイスに利用できる有機材料及びデバイス作製プロセスに関し、ディスプレー、集積回路、センサー等のデバイスを作製する方法に関する。
電界効果トランジスタは、バイポーラトランジスタと並んで重要なスイッチ、増幅素子として広く利用されている。これまでシリコンを用いた素子が広く用いられている。電界効果トランジスタは、半導体材料にソースとドレイン電極、絶縁体層を介してゲート電極を設けた構造を有する。基本的には、p型あるいはn型の一方のキャリアが電荷を輸送し、モノポーラ素子の代表的なものである。
特にMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)構造と呼ばれる二酸化珪素(SiO2)を絶縁体に用いたものは、メモリー素子、ゲート素子等に広く用いられている。また、半導体にアモルファスシリコンを用いるものは、ガラス等の基板上に半導体層を形成して薄膜トランジスタとして製造することが可能であり、これを各セルのスイッチング素子に利用したアクティブマトリクス液晶ディスプレーに広く利用されている。
このような電界効果トランジスターの動作特性は、用いられる半導体のキャリア移動度μ、電導度σ、絶縁層の静電容量Ci、素子の構成(ソース・ドレイン電極間距離L及び幅W、絶縁層の膜厚d等)により決まるが、この中で、半導体材料の特性としては、高い移動度(μ)を有するものが良好な特性を示すことになる。
半導体材料の中でも、Siに代表される無機半導体は、製造時に300℃以上の高温で処理する必要があり、基板にプラスチック基板やフィルムを用いることが難しく、かつ製造に多くのエネルギーを必要とする。また、真空での素子作製プロセスは、製造ラインに高価な設備を必要とし高コストになる。これに対して、有機物を用いたトランジスタは、そのほとんどは無機半導体より低温プロセスで製造できるため、プラスチック基板やフィルムを用いることができ、軽量で壊れにくい素子を作製することができる。また、溶液の塗布や印刷法を用いた素子作製が可能なものもあり、大面積の素子を低コストで製造することが可能である。さらに、材料のバリエーションが豊富であり、分子構造を変化させることにより容易に材料特性を根本的に変化させることが可能であるため、異なる機能を組み合わせることで、無機半導体では不可能な機能、素子を実現することも可能である。
このような有機物を利用したトランジスタは、これまで幾つかデモンストレーションされている。例えば、特開昭61−202467に示されたような、導電性高分子、共役高分子を利用したもの、特許2984370で示された低分子化合物を利用したものが挙げられる。共役高分子の例では、共役高分子を半導体としてそのまま用いるもの、電場によりイオン(ドーパント)を出し入れしてスイッチングを行うもの等が試みられている。しかしながら、高分子材料であるために、精製が困難なこと、製膜時に構造の不完全部分に由来する欠陥が生じてしまうこと、酸化電位が下がり酸化されやすくなりやすいこと等から、十分に高性能でかつ安定性の良好な材料は見出されていない。
一方、低分子化合物の例では、ペンタセン等の芳香族縮合炭化水素やチオフェン環が4個以上連結したオリゴチオフェン類で、蒸着によりa−Si並の移動度を示す有機トランジスタが示されている。低分子化合物では、高分子に比較して、定まった構造の化合物を合成し、かつ精製法も昇華精製や再結晶、カラムクロマト等色々利用できるため、安定な材料になる。一方で、蒸着による製膜法は製造コストが塗布よりも高くなり、有機物の特徴を十分に生かしたものになりにくい。また一般に低分子化合物を溶液からの塗布による製膜を行うと、結晶化による粒状の構造になるため、均一な膜が得られにくく、製膜性に問題がある場合が多い。
近年、低分子化合物の単結晶を用いたトランジスタで、色々な物理現象が観測されている。例えば、電流注入によるレーザーの発振、超伝導、量子ホール効果等が挙げられる。しかしながら、有機物の単結晶は、大きな結晶を成長させること自体難しい上、非常に柔らかい為、それを切削、研磨して素子化に供することも極めて難しい。
低分子化合物の中ではフタロシアニン類の有機デバイスへの応用が多く検討されてきた。例えば、電界効果トランジスタへの応用としては、特開平11−251601号、特開2000−174277、Appl.Phys.Lett.69巻(1996)p3086に記載されている。フタロシアニン類は一般に溶媒に不溶であり、これらの素子を作製するには、真空蒸着法により製膜する必要がある。
一方、低分子化合物を用いた、溶液プロセスで塗布後、半導体に変換する方法で、電界効果トランジスタを作製する方法については、ペンタセンあるいは類似の芳香族炭化水素の系がScience 270巻(1995)p972、Optical Materials 12巻(1999)p189、J.Appl.Phys.79巻(1996)p2136に報告されている。報告されている移動度はペンタセンで0.2であるが、実際に素子に応用されてデモンストレーションされたのは移動度が10-2cm2/Vsのものである。この前駆体からはテトラクロロベンゼン分子が脱離するので、沸点が高く系外に取り除くことが難しい事に加え、その毒性が懸念される。
また、ビシクロ構造を有する前駆体についてはAdvanced Materials 11巻(1999)p480に記載されている。この中には、下記式で示すようにビシクロ化合物からエチレンが脱離してペンタセンに変換される方法が開示されているが、エチレンの脱離が起こりにくいことが指摘されており、前駆体としては不十分であるとの記述がある。これは、ビシクロ環の両末端側がナフタレン環に縮合しているため、脱エチレン化反応の際の共役部分の構造変化が大きく、ペンタセンへの変換率が低いことが原因と考えられる。
Figure 0005012783
特開昭61−202467号公報 特許第2984370号公報 特開平11−251601号公報 特開2000−174277号公報 Appl.Phys.Lett.69巻(1996)p3086 Science 270巻(1995)p972、Optical Materials 12巻(1999)p189、 J.Appl.Phys.79巻(1996)p2136 Advanced Materials 11巻(1999)p480
上述したように有機トランジスタは無機半導体に無い有効な特徴を有しているが、容易なプロセスで素子の作製が可能で実用的な特性を有したものは未だ実現されていない。従って、高性能で安定性の高い材料を用いた有機電子デバイスを、容易なプロセスで作製する方法が要求されていた。
以上の事に鑑み、種々検討を行った結果、従来とは異なる特定の環状構造のビシクロ化合物を前駆体として用いることにより、基板上への製膜が容易で、且つ、その膜に加熱等の外部作用を加えることにより、脱エチレン化反応が効率的に進行し、得られる化合物の純度が高く、且つ高い特性を示すことを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は、下記一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布することにより膜を製膜し、次いで該ビシクロ化合物からエチレン誘導体を脱離させることにより基板上で変換された一般式(Ia)又は(IIa)で表される化合物を有機半導体として用いてなる光起電力を利用する有機電子デバイスであって、該一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物が下記構造式で示されるポルフィリン化合物又はフタロシアニン化合物の一種であることを特徴とする有機電子デバイス、及び該有機電子デバイスの作製方法に存する。
Figure 0005012783
(式(I)、(II)、(Ia)及び(IIa)中、R1〜R8は水素原子又は1価の有機基を表し、R1〜R2は互いに結合して環を形成することはなく、また、Q1、Q2は2価の有機基、Q3、Q4は1価の有機基を表し、R3とR5、R4とR6、Q1とQ2 又は3とQ4はそれぞれ結合して環を形成していてもよい)
Figure 0005012783
Figure 0005012783
本発明の光起電力を利用する有機電子デバイスでは、本発明方法による特定の前駆体から容易な作製方法により得られる高純度で、且つ高特性な化合物が用いられるので極めて有用である。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(ビシクロ化合物)
本発明のビシクロ化合物とは、ビシクロ構造を有する下記一般式(I)又は(II)で表されるものである。
Figure 0005012783
上記式(I)及び(II)中、R1〜R8は水素原子又は1価の有機基を表し、R1〜R2は互いに結合して環を形成することはないものである。この有機基としては、置換していてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、炭素数10以下のアルコールとのエステル、ハロゲン原子等が挙げられる。中でも望ましいのは、R34C=CR56の構造のエチレン誘導体が、常圧200℃で気体あるいは液体、さらに望ましくは常温常圧で気体のものである。また、R3とR5又はR4とR6は各々互いに環を形成した有機基であってもよい。
また、Q1、Q2は2価の有機基、Q3、Q4は1価の有機基を表し、Q1とQ2 又はQ3とQ4はそれぞれの対で結合して環を形成した有機基であってもよい。1価の有機基の例としては、水素原子、水酸基、炭素数10以下の置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、メルカプト基、アシル基、さらには、カルボキシル基及びその炭素数10以下のアルコールとのエステル、ホルミル基、カルバモイル基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のようなハロゲン原子、炭素数10以下のアルキル基で置換されていてもよいアミノ基、ニトロ基等が挙げられる。また、Q1とQ2 又は3とQ4が結合した環を形成する有機基の例としては、Q1=CH−CH=Q2、あるいはQ3−CH=CH−Q4の形成する環が、ピロール環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等の芳香族炭化水素、ピリジン環、キノリン環、フラン環、チオフェン環等の複素環、シクロヘキセンのような、非芳香族環状炭化水素、さらにはこれらの縮合した多環化合物、例えばポルフィリン環、フタロシアニン環等が挙げられる。上記式(I)又は(II)の構造は、本発明のビシクロ化合物の1分子内に1個でも複数個存在してもよい。まず、ビシクロ環部分の好ましい例を挙げる。ここで、Qa、Qbは、式(I)、(II)のQ1、Q2あるいはQ3、Q4を表す。
Figure 0005012783
本発明のビシクロ化合物の好ましい例を挙げる。ここでは、ビシクロ環部分は、無置換体を例示しているが、上記で示した置換基を有する構造のものも使用することができる。また、以下にすべて対称性の良い分子構造を主に例示しているが、部分的な構造の組み合わせによる非対称構造も使用できる。もちろん本発明の化合物はこれらの例示化合物に限定されるわけではない。また、図中、Mは2価の金属を表し、例えばCu、Zn、Mg、Ni、Co、Fe等の単一金属元素の他、3価以上の金属と他の元素が結合して2価になっている原子団、例えば、AlCl、TiO、FeCl、SiCl2等も含まれる。
Figure 0005012783
Figure 0005012783
Figure 0005012783
Figure 0005012783
Figure 0005012783
(ビシクロ化合物の合成方法)
本発明のビシクロ化合物は、Diels-Alder反応を用いて合成することができる。例えば、次のような合成ルートを例として挙げることができる。
Figure 0005012783
(上記式中、A1、A2はニトロ基やベンゼンスルホン酸基、ハロゲン原子、カルボン酸およびそのエステルから選ばれる脱離基を表す。)
また、下記式のように、アセチレン誘導体のDiels-Alder反応を用いて直接合成できる。
Figure 0005012783
これらのビシクロ構造を保持したまま、更に他の化合物に誘導することができる。上述した本発明のビシクロ化合物中、ビシクロ化合物がピロール環に結合した、下記構造のポルフィリン化合物(a)は、エチレンが脱離して高性能な有機半導体ベンゾポルフィリン(b)に変化するため、好ましい例として挙げられる。このポルフィリン化合物は平面構造でないため、溶媒への溶解性が高くかつ結晶化もしにくいため、溶液から塗布することにより、アモルファスまたはアモルファスに近い良好な膜を与える。この膜を加熱処理して脱エチレン反応させることにより、平面性の高いテトラベンゾポルフィリン膜を得ることが出来る。無置換、無金属体のポルフィリン化合物の場合には、以下のような化学反応が進行する。この反応は100℃以上、好ましくは150℃以上に加熱することにより定量的に進行する。また、脱離する分子がエチレン分子であるため、系内に残りにくく、毒性、安全性の面でも問題ない。
Figure 0005012783
(a) (b)
このポルフィリン化合物(ビシクロ化合物)の合成法としては、例えば次のようなルートが挙げられる。
Figure 0005012783
このポルフィリン化合物(ビシクロ化合物)の金属錯体は、ポルフィリン化合物と金属塩を溶解する有機溶媒中で混合することにより得られる。金属塩は有機溶媒に溶解するものであればどのようなものでも用いることが出来るが、酢酸塩はその代表的な例である。溶媒は金属塩とビシクロ化合物を溶解するものであればよいが、好ましい例としては、クロロホルム、アルコール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン及びこれらの混合溶媒が挙げられる。
(ビシクロ化合物からエチレン誘導体が脱離することにより得られる化合物)
上述したビシクロ化合物は、加熱等の外部の作用により、基板上で下記式のようなエチレン誘導体が脱離する反応が起こり、π共役した平面構造を有する化合物(Ia)又は(IIa)に変換される。

Figure 0005012783
電子デバイスに応用するために必要な移動度は、制御する電流の大きさやスイッチング速度、素子の構造から決められるものである。本発明の方法により基板上に製膜された有機半導体膜を使用することで、キャリア移動度として1×10-5cm2/Vs以上、好ましくは1×10-3cm2/Vs以上の有機デバイスを提供することができる。以下に基板上に製膜された好ましい化合物の例を挙げる。ここでは、無金属体の構造を例示しているが、以下の例に対応する金属塩や、更に置換基を有する化合物であっても同様に好ましい例として使用することができる。また、対称性の良い分子構造を主に例示しているが、部分的な構造の組み合わせによる非対称構造であっても使用できる。もちろん本発明ではこれらの例示化合物に限定されるわけではない。
Figure 0005012783
本発明の電子デバイスとは、本発明のビシクロ化合物から得られる物質を有機半導体として用い、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流や生じる電圧を、電気、光、磁気、又は化学物質等により制御するデバイス、あるいは、印加した電圧や電流により、光や電場、磁場を発生させる装置である。例えば、電圧や電流の印加により電流や電圧を制御する素子、磁場の印加による電圧や電流を制御する素子、化学物質を作用させて電圧や電流を制御する素子が挙げられる。この制御としては、整流、スイッチング、増幅、発振が挙げられる。現在シリコン等で実現されている対応するデバイスとしては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子、化学センサー等、あるいはこれらの素子の組み合わせや集積化したデバイスが挙げられる。また、光により起電力を生じる太陽電池や、光電流を生じるフォトダイオード、フォトトランジスター等の光素子も挙げることができる。さらに、本発明のビシクロ化合物を用いてられる膜、有機半導体として用いない電子デバイスも挙げられる。これは、導電率を分子構造あるいはドーピング等で制御し、配線にもちいたりコンデンサーやFET中の絶縁層に用いたりすることもできる。
(1)電子デバイスのより具体的な例は、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley−Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。
(2) 電界効果トランジスタ
本発明の有機デバイスの例としては、好ましくは電界効果トランジスタ(FET)が挙げられる。これは、例えば、図1に示す構造を有する素子である。ここで、1が半導体層、2が絶縁体層、3と4がソース及びドレイン電極、5がゲート電極、6が基板である。
電極には白金、金、アルミニウム、クロム、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム等の金属の他、InO2、SnO2、ITO等の導電性の酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン等の導電性高分子及びそれに塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等のドーパントを添加したもの、カーボンブラックや金属粒子を分散した導電性の複合材料等の導電性を有する材料が用いられる。
絶縁体層に用いられる材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルホン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等のポリマー及びこれらを組み合わせた共重合体、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化チタン等の酸化物、窒化珪素等の窒化膜、SrTiO3、BaTiO3等の強誘電性酸化物膜、あるいは、上記酸化物や窒化物、強誘電性酸化物等の粒子を分散させたポリマー膜等が挙げられる。一般に絶縁膜の静電容量が大きくなるほどゲート電圧を低電圧で駆動できることになるので、有利になる。これには、誘電率の大きな絶縁材料を用いるか、絶縁体層の厚さを薄くする事で対応する。絶縁体層は、塗布(スピンコーティングやブレードコーティング)、蒸着、スパッタ、スクリーン印刷やインクジェット等の印刷法、アルミ上のアルマイトの様に金属上に酸化膜を形成する方法等、材料特性に合わせた方法で作製することが出来る。
(3)SIT
静電誘導トランジスタ(SIT)と呼ばれる有機デバイスも挙げることができる。これはFETではソースとドレイン電極が基板上に並べて配置され、電流の流れる方向がゲートにより誘起される電場に垂直方向であるのに対し、SITではソースとドレイン間にゲートがグリッド上に配置され、電流の方向がゲートにより誘起される電場に平行方向であるようなものである。図2にその模式図を示す。3がソース電極、4がドレイン電極であり、5がゲート電極、1が半導体である。このSIT構造では、キャリアの流れは面上に広がり、かつ電極間距離を小さくできる為、大電流でかつ高速のスイッチングを行うことが可能になり、そのような動作の必要な応用に対しては望ましいものである。
5のゲート電極は電極間をキャリアが通り抜けていく網目あるいはストライプ状の構造をしており、膜厚としては、10nm〜10μm、好ましくは20nm〜1μmであり、ゲートの網目の間隔は、ソースとドレイン間の距離(素子の厚さ)よりも小さい事が望ましい。また、ゲート電極には金属は導電性高分子等の導電性材料の薄膜の島状構造を利用することもできる。例えば、50nm以下の半透明のアルミの電極はこのような用途に用いることができる。
このゲート電極からのキャリアの出入りを抑えるために、電極と半導体の間に、絶縁層あるいは障壁があることが必要である。その為に、電極材料に障壁を作る金属、例えばアルミニウムを選んでショットキー障壁を形成させることもできる。また、電極周りに絶縁膜を形成するために絶縁層をパターニングすることも利用できる。
(4)ダイオード
そのほかの例として、ダイオード素子が挙げられる。これは、非対称な構造をした図3に示される2端子素子である。その一つの例としては、仕事関数の異なる2つの金属電極(7及び8)でポルフィリン材料(9)を挟んだ構造のものである。この少なくとも一方はポルフィリン材料との間でエネルギー障壁を形成する必要がある。p−型の半導体との間でエネルギー障壁を形成する金属としては、アルミニウムがよく用いられるが、仕事関数が半導体と電極で異なるものであれば、エネルギー障壁を形成する。そのような素子に電圧を印加すると、極性を逆転した場合で流れる電流が異なり、整流作用が見られる。また、本発明のポルフィリン材料(9)と、仕事関数の大きく異なる他の半導体材料(10)を接触させることにより、ダイオード素子を作製することも可能である。この場合の電極7、8は同じでも異なっていてもよい。組み合わせる材料としては、例えば、ペリレン顔料やフタロシアニン材料、フラーレン、共役高分子等が挙げられる。このようなダイオード素子の応用としては、整流素子、フォトダイオード、太陽電池への応用が挙げられる。
(5)抵抗等
対称な2端子素子の作製も可能である。電極間の抵抗を調整して抵抗器として用いたり、抵抗を大きくして電極間の電気容量を調整してコンデンサーとして用いることも可能である。また、光照射で誘起される電気伝導を用いて、フォトダイオード等の光検出素子への応用も可能である。このようなダイオード素子や抵抗素子は、本発明の高移動度を示す有機半導体材料を用いることにより、抵抗値等のデバイスパラメータを広く制御できるメリットがあり、集積化に都合がよい。
(デバイスの作製方法)
(1)基板処理
本発明の有機デバイスは、基板上に作製するが、その基板を処理することにより特性を向上させることができる。これは基板の親水性/疎水性を調整して、製膜の際に得られる膜質を向上させること、特に基板と半導体層の界面部分の特性を改良することがその原因と推定される。このような基板処理としては、ヘキサメチルジシラザン、シクロヘキセン、オクタデシルトリクロロシラン等の疎水化処理、塩酸や硫酸、酢酸等の酸や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のアルカリ処理、オゾン処理、フッ素化処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理、ラングミュアブロジェット膜の形成処理、その他の絶縁体や半導体の薄膜の形成処理が挙げられる。
(2)膜厚
本発明の有機デバイスには、基板上に形成された上記式(Ia)及び/又は式(IIa)の化合物が用いられる。この化合物が膜状で形成された場合の膜厚は、先に例示した横型の電界効果トランジスタの場合、素子の特性は必要な膜厚以上であれば膜厚には依存しない。膜厚が厚くなると漏れ電流が増加してくることが多い。従って好ましい膜厚は、1nmから10μmの範囲であるが、より好ましくは10nmから500nmが望ましい。また、基板上に均一な膜の状態でなく、ビシクロ化合物を含む溶液が液滴として付着した場合でも、その付着物の厚さが上記範囲であるのが好ましい。また、本発明のビシクロ化合物が単独で使用できることはもちろんであるが、他の化合物との混合で用いることもできるし、さらには他の層との積層構造で用いることも出来る。
(3)塗布
本発明のビシクロ化合物は、溶媒に溶解して塗布することによって素子を作製することが出来る。特にビシクロ化合物から脱エチレン反応で変換される分子が溶媒に難溶なものが、塗布法で膜形成するのに有用である。ビシクロ構造は立体的にかさ高いため、結晶性が悪く、この構造を有する分子は溶解性が良好でかつ溶液から塗布した際に、結晶性の低い、あるいは無定型の膜が得やすい性質を有することが多い。加熱により脱エチレン反応でベンゼン環に変化すると、平面性の良好な分子構造になるために、結晶性の良好な分子に変化する。従って、このビシクロ化合物からの化学変化を利用することにより、塗布法という簡便な方法により結晶性の良好な有機半導体膜を得ることが出来る。
特に、本発明のビシクロ化合物中でも、加熱処理によりベンゾポルフィリンと呼ばれるピロール環にベンゼン環が縮合している化合物に変換するものが、有機半導体として高特性を有するので、特に望ましい。塗布の方法としては、溶液をたらすだけのキャスティング、スピンコーティング、ディップティング、ブレードコーティング、ワイヤバーコーティング、スプレーコーティング等のコーティング法や、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法等、さらにはこれらの手法を複数組み合わせた方法を用いることができる。さらに、塗布に類似の技術として、水面上に形成した単分子膜を基板に移し積層するラングミュア・ブロジェット法、融液状態の液晶を2枚の基板で挟んだり毛管現象で基板間に導入する方法等も挙げられる。
(4)蒸着
本発明の式(Ia)又は(IIa)の化合物は、真空プロセスにより基板上に製膜して有機デバイスを作製することも出来る。この場合には、ビシクロ化合物をルツボや金属のボートに入れて真空中で加熱し、基板に付着させる真空蒸着法を用いることが出来る。この際、真空度としては、1×10-3Torr以下、好ましくは1×10-5Torr以下が望ましい。真空度と蒸着源であるビシクロ化合物の加熱温度の条件を調節することにより、種々の方法を採用できる。例えば、ビシクロ化合物を蒸着源でまず脱エチレン反応させた後に蒸着する事もできるし、この反応温度より低温でビシクロ化合物のまま蒸着した後に、基板上に製膜された膜の加熱処理を行い、脱エチレン反応により有機半導体膜に変換することもできる。このような本発明の方法を採用することにより、式(Ia)又は式(IIa)の化合物として高純度のものを得ることが可能となる。また、基板温度でデバイスの特性が変化するので、最適な基板温度を選択する必要があるが、0℃から200℃の範囲が好ましい。また、蒸着速度は0.01Å/秒以上100Å/秒以下、好ましくは0.1Å/秒以上10Å/秒以下が用いられる。材料を蒸発させる方法としては、加熱の他、加速したアルゴン等のイオンを衝突させるスパッタ法も用いることが出来る。
(5) 加熱処理
ビシクロ化合物の脱エチレン反応は、100℃以上、好ましくは150℃以上での加熱処理により引き起こされる。また、上限は400℃以下、好ましくは300℃以下であり、高温ほど反応時間は短く低温ほど反応時間を長く取る必要がある。用途によっては、部分的に変換して特性を調整することも可能である。この際には、低温あるいは短時間での処理で行われる。また、加熱には、ヒーターを用いて伝熱による加熱の他、炭酸ガスレーザーや赤外線ランプ、あるいはこのビシクロ化合物の吸収する波長の光を照射する事も利用できる。この際、ビシクロ化合物の近傍に光を吸収する層を設け、光をこの層で吸収させることにより、加熱することも可能である。
(6)膜の後処理
作製された膜は、後処理により特性を改良することが可能である。例えば、加熱処理により、製膜時に生じた膜中の歪みを緩和することができ、特性の向上や安定化を図ることができる。さらに、酸素や水素等の酸化性あるいは還元性の気体や液体にさらすことにより、酸化あるいは還元による特性変化を誘起することもできる。これは例えば膜中のキャリア密度の増加あるいは減少の目的で利用することができる。
(7)ドーピング処理
また、ドーピングと呼ばれる微量の元素や原子団、分子、高分子を加えることにより、特性を変化させて望ましいものにすることができる。例えば、酸素、水素、塩酸、硫酸、スルホン酸等の酸、PF6、AsF5、FeCl3等のルイス酸、ヨウ素等のハロゲン原子、ナトリウム、カリウム等の金属原子等をドーピングする事が挙げられる。これは、これらのガスに接触させたり、溶液に浸したり、電気化学的なドーピング処理をすることにより達成できる。これらのドーピングは膜の形成後でなくても、材料合成時に添加したり、溶液からの作製プロセスでは、その溶液に添加したり、前駆体膜の段階で添加することができる。また蒸着時に添加する材料を共蒸着したり、膜形成時の雰囲気に混合したり、さらにはイオンを真空中で加速して膜に衝突させてドーピングすることも可能である。これらのドーピングの効果は、キャリア密度の増加あるいは減少による電気伝導度の変化、キャリアの極性の変化(p型、n型)、フェルミ準位の変化等が挙げられ、半導体デバイスでは良く利用されているものである。ドーピング処理は同様に本発明の有機デバイスでも利用することができる。
(8)基板、電極、絶縁膜、パッシベーション等の材料
本発明のデバイスの基板としては、ポリマーの板、フィルム、ガラス、あるいは金属をコーティングにより絶縁膜を形成したもの、ポリマーと無機材料の複合材等を用いることができる。電子デバイス作製の為の電極や配線には、金、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、白金、等の金属、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン等の導電性高分子及びそのドーピングされた材料、シリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素等の半導体及びそのドーピングされた材料、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料を用いることができる。これらを形成する方法も、真空蒸着法、スパッタ法、塗布法、印刷法、ゾルゲル法等を用いることができる。また、そのパターニング方法も、フォトレジストのパターニングとエッチング液や反応性のプラズマでのエッチングを組み合わせたフォトリソグラフィー法、インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷等の印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法等のソフトリソグラフィーの手法及びこれらの手法の複数の組み合わせた手法を利用することができる。また、レーザーや電子線等のエネルギー線を照射して材料を除去したり、材料の導電性を変化させる事により、直接パターンを作製することも利用できる。
本発明の電子デバイスは、外気の影響を最小限にするために、保護膜を形成することができる。これには、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリビニルアルコール等のポリマー膜、酸化珪素、窒化珪素、酸化アルミニウム等の無機酸化膜や窒化膜等が挙げられる。ポリマー膜は、溶液の塗布乾燥する方法、モノマーを塗布あるいは蒸着して重合する方法が挙げられ、さらに架橋処理や多層膜を形成することも可能である。無機物の膜の形成には、スパッタ法、蒸着法等の真空プロセスでの形成方法や、ゾルゲル法に代表される溶液プロセスでの形成方法も用いることができる。
(デバイスの応用分野)
(1)アクティブマトリクス
本発明の有機デバイスは、ディスプレーのアクティブマトリクスのスイッチング素子として利用することが出来る。これは、ゲートに印加される電圧でソースとドレイン間の電流をスイッチング出来ることを利用して、ある表示素子に電圧を印加あるいは電流を供給する時のみスイッチを入れ、その他の時間は回路を切断する事により、高速、高コントラストな表示を行うものである。
適用される表示素子としては、液晶表示素子、高分子分散型液晶表示素子、電気泳動表示素子、エレクトロルミネッセント素子、エレクトロクロミック素子等が挙げられる。特に、本発明の有機電子デバイスでは、低温プロセスでの素子作製が可能であり、プラスチック基板、プラスチックフィルムや紙等の、高温処理に耐えない基板を用いることができるというメリットがある。また、塗布あるいは印刷プロセスでの素子作製が可能であることから、大面積のディスプレーへの応用に適している。また、従来のアクティブマトリクスの代替としても、省エネルギープロセス、低コストプロセスの可能な素子として有利である。
(2)IC
また、トランジスタを集積することにより、デジタル素子やアナログ素子が実現できる。これらの例としては、AND、OR、NAND、NOT等の論理回路、メモリー素子、発振素子、増幅素子、等が挙げられる。さらにこれらを組み合わせることにより、ICカードやICタグを作製することが出来る。
(3)センサー
有機半導体は、ガスや化学物質、温度等の外部の刺激により、特性が大きく変化するので、それらのセンサーへの応用も考えられる。例えば本発明の有機デバイスの特性が、気体や液体との接触により変化する量を測定することにより、定性的あるいは定量的にそれに含まれている化学物質を検出することが可能である。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
(1)合成例1
次のような合成ルートでビシクロ化合物(1)を合成した。
Figure 0005012783
チオフェノール53.5mlと水酸化カリウム51.25gをエタノール600mlに溶解させた。この溶液に、シス−1,2−ジクロロエチレン19.4mlをゆっくりと滴下した。その後室温で30分撹拌し、さらに80−90℃で23時間加熱撹拌した。溶液を減圧下濃縮し、これに水を加えて、クロロホルムで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下濃縮することにより、シス−1,2−フェニルチオエチレンが得られた。
このシス−1,2−フェニルチオエチレンとジフェニルジセレニド750mgを塩化メチレン100mlに溶解した。その溶液を氷浴で冷却し、30%過酸化水素水175mlをゆっくり加えた。室温で一晩激しく撹拌して析出する結晶をろ別し、クロロホルムに溶解した後、水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥して、減圧下、濃縮した。さらにこれをクロロホルム500mlに溶解し、氷浴で冷却しながらm−クロロ過安息香酸84gをゆっくり加え、室温で一晩撹拌した。析出した固体をセライトろ過し、有機層を水、飽和重曹水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下濃縮した。この固体を、エーテルでリンスして、シス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレン67.06gが得られた(収率87%)。無色結晶、mp100−101℃。
このシス体と触媒量のヨウ素を塩化メチレンに溶解し、太陽光を照射することにより固体として析出するものをろ過してトランス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレンを得た。無色結晶、mp219.5℃。トランス−1,2−ジフェニルスルフォニルエチレン29.33gをトルエン200mlに溶解し、ついで1,3−シクロヘキサジエン11.4mlを加え、21時間乾留した後、再結晶することにより、5,6−ジフェニルスルホニル−ビシクロ−[2,2,2]オクタ−2−エン35.66g(収率96.5%)が得られた。
この7.76gを反応容器に入れ、窒素置換し、無水テトラヒドロフラン(THF)50mlを加えて溶解させた。そこにイソシアノ酢酸エチル2.43mlを加え、反応溶液を氷浴で冷却し、t−BuOK/THFの1M溶液50mlをゆっくりと滴下した。その後反応溶液を室温に戻し、一晩撹拌した。1N塩酸でクエンチし、クロロホルムで抽出し、水、飽和食塩水で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧下濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィーで精製することにより、4,7−ジヒドロ−4,7−エタノ−2H−イソインドール−1−カルボン酸エチル3.49g(収率80.4%)が得られた。無色結晶、mp129−130℃ 。
得られた結晶0.109gをTHF15mlに溶解したものを、0.144gのLiAlH4を0℃で撹拌しながら滴下し、0℃で2時間撹拌した。反応液を飽水25mLに注入し、クロロホルム50mLで3回抽出した。抽出液を合わせたものにp−トルエンスルホン酸0.010gを添加し、12時間室温で撹拌した。p−クロラニル0.150gを添加し、室温で12時間撹拌後反応液を水に注入した。有機相を分離し、炭酸水素ナトリウム水溶液250mLで5回、水250mLで1回、飽和食塩水100mLで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を蒸留して除いた残渣をカラムクロマトグラフィー(クロロホルム、アルミナ)で精製し、0.094gの目的ビシクロ構造を含むポルフィリン化合物(1)を得た。
MALDI−TOFマススペクトルの負イオンモードでm/Z=622(M-)の主ピークを観測した。この化合物の熱分析結果(DTA−TG)を図4に示す。146℃から198℃の温度範囲で重量の減少および発熱が見られる。この重量減(約18%)はビシクロ化合物からエチレン分子が4個脱離し、テトラベンゾポルフィリンに変化する事に対応している。
ポルフィリン化合物(1)のクロロホルム溶液を金蒸着膜の上にたらして溶媒を乾燥した膜のIRスペクトルを図5に示す。この膜を210℃で2分間加熱した膜のIRスペクトルを図6に示す。エチレン分子の脱離に伴う分子構造変化を反映したIRスペクトルの変化が見られ、膜の加熱によりテトラベンゾポルフィリンが生成していることが分かる。
ビシクロ化合物(1)を210℃10分加熱したものを、MALDI−TOF法でビシクロ化合物と同様に負イオンモードでマススペクトルを測定した。すると、m/Z=510(M-)のテトラベンゾポルフィリンの分子イオンピークが観測され、加熱によるテトラベンゾポルフィリンへの変換が確認された。またこの加熱したもののIRスペクトルは、上記基板上で測定した加熱後のIRスペクトルにほぼ一致した事から、加熱により精製しているものがテトラベンゾポルフィリンであることが確認された。ビシクロ化合物(1)のクロロホルム溶液を石英ガラス基板の上にスピンコートして溶媒を乾燥した膜と、この膜を210℃で10分間加熱した膜の紫外−可視吸収スペクトルを比較したものを図7に示す。これは、ビシクロ化合物からテトラベンゾポルフィリン(690nm)への変化が、ポルフィリンの吸収スペクトルのQバンドの強度増大及び長波長シフトとして観測されている。
(2)合成例2
合成例1のビシクロ化合物(1)0.02gと酢酸亜鉛2水和物0.1gをクロロホルム30mLとメタノール3mLの混合溶媒中3時間室温で撹拌した。反応液を水100mLで2回、飽和食塩水40mLで1回洗浄し、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を濃縮して得られる固体をクロロホルム−メタノールの混合溶媒で再結晶して、0.022gのビシクロ化合物(1)の亜鉛錯体が得られた。さらに、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(日本分析工業JAIGEL−1H、2H、クロロホルム)により、単一ピークのみ分取して精製した。マススペクトルを測定し、分子ピークを確認した。
(3)実施例1
300nmの酸化膜を形成したN型のシリコン基板(Sbドープ、抵抗率0.02Ωcm以下、住友金属工業社製)上に、フォトリソグラフィーで長さ(L)10μm、幅(W)250μmのギャップを有する金電極(ソース、ドレイン電極)を形成した。また、この電極と異なる位置の酸化膜をフッ酸/フッ化アンムニウム液でエッチングし、むき出しになったSi部分に金を蒸着し、これをシリコン基板(ゲート電極)に電圧を印加するための電極とした。
合成例1で得られたビシクロ化合物(1)2mgをクロロホルム1mLに溶解し、これをソースおよびドレイン電極間にたらして溶媒を蒸発させる事を数回繰り返し、良好な膜を得た。この膜のX線回折を観測すると、鋭いピークは全く観測されなかった。また、クロスニコルの顕微鏡下で膜を観測すると、一面が暗い像が得られ、等方的な膜であった。従って、得られた膜は、非晶質であることが分かる。
この基板を、210℃で10分間加熱した。得られた膜のX線回折を観測すると、鋭いピークが見られた。また、クロスニコルの顕微鏡下で膜を観測すると、色のついたドメイン構造が見られた。従って、得られた膜は、結晶質であることが分かる。これは、ビシクロ化合物がテトラベンゾポルフィリンに変化して結晶質になった為である。また、得られた膜は溶媒への溶解度が低くなっており、有機溶媒に難溶であった。こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。その測定結果を図8に示す。この図から、有効移動度を計算すると、1×10-3cm2/Vsであった。
(4)実施例2
溶媒としてクロロベンゼンを用いて、実施例1と同様にビシクロ化合物の膜を作製し、加熱によりベンゾポルフィリンに変換した。こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。有効移動度を計算すると、1.6×10-2cm2/Vsであった。
(5)実施例3
アルミニウムを蒸着したスライドグラス上に、オキシジアニリンとベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物をジメチルホルムアミドにモル比1:1で溶解した液をスピンコートし、250℃で加熱処理して、500nmのポリイミド膜を作製した。この膜の上に実施例1と同様にビシクロ化合物の膜を作製し、加熱によりベンゾポルフィリンに変換した。
この上に、25μmの径のタングステンワイヤーをギャップ部分に用いて作製したシャドーマスクを通して金を蒸着し、幅(W)250μm、長さ(L)25μmのギャップを有するソース及びドレイン電極を作製した。こうして得られた電界効果トランジスタの特性を、アジレントテクノロジー社製半導体パラメータアナライザー4155Cを用いて測定した。有効移動度を計算すると、3.7×10-2cm2/Vsであった。
(6)実施例4
合成例2で合成した亜鉛錯体を用いて実施例1と同様にしてFETを作製した。このFET特性を測定したところ、有効移動度が1.9×10-4cm2/Vsであった。
上記の実施例1〜4において、有効移動度の値は安定していた。
(7)実施例5:ダイオード、光素子の作製、評価
金電極の上に本化合物をスピンコートし、500Åに製膜した。その上に、下記ペリレン化合物を1000Å蒸着により積層した。その上にさらに半透明のアルミ電極を蒸着により作製してサンドイッチ構造にした。
Figure 0005012783
この素子は、金電極とアルミ電極に印加する電圧の方向により、金電極に正電圧を 印加した場合が負電圧を印加した場合よりも1桁以上電流が流れ、整流素子として 動作することが分かった。また、この素子にアルミ側から光を照射すると、1Vの光起電力が観測された。
本発明の電界効果トランジスタ(FET)の模式図を示す。 本発明の静電誘導トランジスタ(SIT)の模式図を示す。 本発明のダイオード素子の模式図を示す。 合成例1で得られたポルフィリン化合物の熱分析結果を示す図である。 合成例1で得られたポルフィリン化合物(1)の溶液を乾燥した膜のIRスペクトルを示す図である。 合成例1で得られた図5の膜を更に加熱した膜のIRスペクトルを示す図である。 合成例1における加熱前後の薄膜吸収スペクトルを示し図である。 実施例1においてFET特性を観測した結果を示す図である。
符号の説明
1 半導体層
2 絶縁体層
3 ソース
4 ドレイン電極
5 ゲート電極
6 基板
7、8 金属電極
9 ポルフィリン材料
10 他の半導体材料

Claims (8)

  1. 下記一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物を溶媒に溶解した溶液を基板上に塗布することにより膜を製膜し、次いで該ビシクロ化合物からエチレン誘導体を脱離させることにより基板上で変換された一般式(Ia)又は(IIa)で表される化合物を有機半導体として用いてなる光起電力を利用する有機電子デバイスであって、該一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物が下記構造式で示されるポルフィリン化合物又はフタロシアニン化合物の一種であることを特徴とする有機電子デバイス。
    Figure 0005012783
    (式(I)、(II)、(Ia)及び(IIa)中、R1〜R8は水素原子又は1価の有機基を表し、R1〜R2は互いに結合して環を形成することはなく、また、Q1、Q2は2価の有機基、Q3、Q4は1価の有機基を表し、R3とR5、R4とR6、Q1とQ2 又は3とQ4はそれぞれ結合して環を形成していてもよい)
    Figure 0005012783
    Figure 0005012783
  2. キャリア移動度が1×10-5cm2/Vs以上である請求項1に記載の有機電子デバイス。
  3. 一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物がポルフィリン化合物であり、且つ一般式(Ia)又は(IIa)で表される化合物が、下記構造式で示される化合物の一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電子デバイス。
    Figure 0005012783
  4. 下記一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物を溶媒に溶解させた溶液を基板上に塗布することにより膜を製膜し、次いで、該ビシクロ化合物からエチレン誘導体を脱離させることにより、基板上で下記一般式(Ia)又は(IIa)で表される化合物に変換させる工程を含む請求項1に記載の光起電力を利用する有機電子デバイスの作製方法であって該一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物が下記構造式で示されるポルフィリン化合物又はフタロシアニン化合物の一種であることを特徴とする有機電子デバイスの作製方法
    Figure 0005012783
    (式(I)、(II)、(Ia)及び(IIa)中、R1〜R8は水素原子又は1価の有機基を表し、R1〜R2は互いに結合して環を形成することはなく、また、Q1、Q2は2価の有機基、Q3、Q4は1価の有機基を表し、R3とR5、R4とR6、Q1とQ2 又は3とQ4はそれぞれ結合して環を形成していてもよい)
    Figure 0005012783
    Figure 0005012783
  5. ビシクロ化合物を溶媒に溶解させた溶液を基板上に塗布することにより膜を製膜し、次いで、その膜を加熱処理することにより該ビシクロ化合物からエチレン誘導体を脱離させ、基板上で一般式(Ia)又は(IIa)で表される化合物に変換させる請求項に記載の有機電子デバイスの作製方法。
  6. 一般式(I)又は(II)で表されるビシクロ化合物がポルフィリン化合物であり、且つ一般式(Ia)又は(IIa)で表される化合物が、下記構造式で示される化合物の一種であることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機電子デバイスの作製方法。
    Figure 0005012783
  7. 下記構造式(a)で表されるビシクロ化合物を溶媒に溶解させた溶液を基板上に塗布することにより膜を製膜し、次いでその膜を加熱処理することにより、基板上でビシクロ化合物からエチレンを脱離させ、下記構造式(b)で表される化合物に変換させる工程を含むことを特徴とする光起電力を利用する有機電子デバイスの作製方法。
    Figure 0005012783
  8. 請求項4〜7のいずれかの方法により作製されたことを特徴とする光起電力を利用する有機半導体デバイス。
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