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JP2008269913A - アルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法 - Google Patents

アルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】多孔性ニッケル焼結基板の表面に、緻密で導電性の高いコバルト酸化物層を形成し、焼結基板の耐酸化性を向上させて導電性を確保し、寿命性能の優れたアルカリ蓄電池用水酸化ニッケル電極を安定に提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法は、多孔性ニッケル焼結基板を硝酸コバルト水溶液中に浸漬した後で乾燥する第1の工程と、第1の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をアルカリ水溶液中に浸漬することにより硝酸コバルトを水酸化コバルトに変える第2の工程と、第2の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をスチーム加熱することにより水酸化コバルトをコバルト酸化物に変える第3の工程と、第3の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板を酸性ニッケル塩含浸液に浸漬してニッケル塩を定着させる第4の工程とを含み、第1の工程において硝酸コバルト水溶液中にアルカリカチオンを含ませることを特徴とする。
【選択図】なし

Description

本発明はアルカリ蓄電池用焼結式ニッケル正極の製造方法に関し、より詳しくはニッケル焼結基板の改良に関するものである。
アルカリ蓄電池は、リチウムイオン二次電池と比べて苛烈な充放電に耐えうることができるので、電気自動車の補助電源や電動工具の主電源として普及している。とりわけ活物質の利用率や導電性が高い焼結式のニッケル正極は、放電特性やサイクル特性を向上させる観点から広く用いられている。
焼結式のニッケル正極は、活物質保持体である多孔性ニッケル焼結基板を、硝酸ニッケルなどの酸性ニッケル塩含浸液に浸漬し、多孔性ニッケル焼結基板中の細孔中にニッケル塩を含浸した後、乾燥工程で焼結基板にニッケル塩を定着させ、ついでこのニッケル焼結基板をアルカリ液中に浸漬してニッケル塩を水酸化ニッケルに置換し、活物質化するという活物質の充填操作を複数回繰り返すのが一般的である。
多孔性ニッケル焼結基板への活物質の充填操作を複数回繰り返すのは、1回の活物質充填操作では所望の活物質充填量が得られないからであり、複数回繰り返して行うことで所望の活物質充填量が確保できる。活物質の充填効率を上げ、1回の充填操作で基板へ充填される活物質量を増やすために、一般的には高濃度の酸性ニッケル塩含浸液を用いる。具体的には比重1.7〜1.8g/ml程度の硝酸ニッケル水溶液などを用いるのだが、常温では硝酸ニッケル水溶液の比重を1.7〜1.8g/mlとすることはできないため、加温して用いるのが一般的である。
しかしながら高濃度でpHが低い酸性ニッケル塩含浸液は腐食性が強いので、活物質の充填操作の際に多孔性ニッケル焼結基板を長時間浸漬すると腐食が進み、機械的強度が低下するとともに集電性が低下する。この多孔性ニッケル焼結基板からなるニッケル正極は脆弱なので、これを用いたアルカリ蓄電池を繰り返し充放電すると、ニッケル正極が膨潤して寿命特性が低下するという課題があった。
この課題を解消するために、多孔性ニッケル焼結基板の表面に水酸化コバルトを生成させ、次いでこの基板をアルカリと酸素の共存化で加熱することによって水酸化コバルトをオキシ水酸化コバルトもしくは四三酸化コバルトに変化させて多孔性ニッケル焼結基板の表面を被覆せしめた後、酸性ニッケル塩の含浸を行う方法(例えば特許文献1)が提案されている。さらに特許文献1の方法では電解液に対する防食効果が不十分であれば、まず多孔性ニッケル焼結基板をコバルトが主成分である酸性塩含浸液に浸漬・乾燥して多孔性ニッケル焼結基板の表面にコバルト化合物を固体状態で付着し、次いでアルカリ性のコバルト水溶液に浸漬することによって前工程における付着の欠損部(ピンホール)を覆った後、加熱を行ってコバルト錯イオン(HCoO2-)を酸化析出させて多孔性ニッケル焼結基板の表面を被覆する方法(例えば特許文献2)が有効であると考えられる。
特開昭63−216268号公報 特開平05−089876号公報
しかしながら特許文献2の方法を用いても、多孔性ニッケル焼結基板を高温度、高濃度の含浸液からの腐食抑制の効果は見られるものの、充放電のサイクルを繰り返すことによ
り局所的に焼結基板と活物質との導電性の低下が起こり、電池の寿命性能が低下する場合があった。
本発明はこの課題を解決することを目的になされたもので、多孔性ニッケル焼結基板の表面に、緻密で導電性の高いコバルト酸化物層を形成し、焼結基板の耐酸化性を向上させるとともに焼結基板と活物質との導電性の低下を抑制させ、寿命性能の優れたアルカリ蓄電池用水酸化ニッケル電極を安定に提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明のアルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法は、多孔性ニッケル焼結基板を硝酸コバルト水溶液中に浸漬した後で乾燥する第1の工程と、第1の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をアルカリ水溶液中に浸漬することにより硝酸コバルトを水酸化コバルトに変える第2の工程と、第2の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をスチーム加熱することにより水酸化コバルトをコバルト酸化物に変える第3の工程と、第3の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板を酸性ニッケル塩含浸液に浸漬してニッケル塩を定着させる第4の工程とを含み、第1の工程において、硝酸コバルト水溶液中にアルカリカチオンを含ませることを特徴とする。
発明者らが鋭意検討した結果、導電性の高い高次のコバルト酸化物を効率よく得るためには、水酸化コバルト粒子の表面に適量のアルカリ水溶液を持たせてファニキュラ(Funicular)状態にし、高温下で固体・液体・気体の三相界面を形成させるとともに、水酸化コバルトがコバルト錯イオンとして溶出した際にアルカリカチオンを十分に存在させる必要があることを判明した。本発明の場合、第1の工程においてコバルト水溶液中にアルカリカチオンを含有させ、これをコバルト塩とともに定着させることにより、第3の工程において溶出したコバルト錯イオンの近傍にアルカリカチオンが均一かつ豊富に存在することになり、この工程を経た後の多孔性ニッケル焼結基板の表面を、導電性が高く均一な高次コバルト酸化物で効率よく被覆できる。これによって生産設備に過度な負担を掛けることなく、特許文献1や2などの従来技術よりも寿命特性の良いアルカリ蓄電池を提供できると考えられる。
本発明によれば、多孔性ニッケル焼結基板の表面を、アルカリカチオンを含有した高次コバルト酸化物で均一に被覆できるので、この基板の耐酸化性を高めつつ、この基板と活物質との導電性も高められるようになり、結果としてアルカリ蓄電池の寿命特性を向上できる。
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、詳細に説明する。
第1の発明は、多孔性ニッケル焼結基板を硝酸コバルト水溶液中に浸漬した後で乾燥する第1の工程と、第1の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をアルカリ水溶液中に浸漬することにより硝酸コバルトを水酸化コバルトに変える第2の工程と、第2の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をスチーム加熱することにより前記水酸化コバルトをコバルト酸化物に変える第3の工程と、第3の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板を酸性ニッケル塩含浸液に浸漬してニッケル塩を定着させる第4の工程とを含み、第1の工程において、硝酸コバルト水溶液中にアルカリカチオンを含ませることを特徴とするアルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法に関する。
第3の工程において、水酸化コバルトがアルカリ水溶液に溶解せずに酸化した場合には結晶性が高く導電性が低いオキシ水酸化コバルトが生成し、酸化条件が不十分な場合には
導電性に乏しい四三酸化コバルトが生成する。しかし水酸化コバルトがアルカリ水溶液にコバルト錯イオンとして溶出して酸素と反応した場合(Co(OH)2+OH-→HCoO2 -+H2O、HCoO2 -+1/4O2+1/2H2O→CoOOH+OH-)、結晶性が低く導電性の高いオキシ水酸化コバルトが生成する。ここで多量のアルカリカチオンを含有できるようにすれば、さらに導電性が高い高次のオキシ水酸化コバルトが生成する。
この効果を得るべく、第2の工程でアルカリカチオンを多く含ませようとすれば、硝酸塩を水酸化物に変える際に用いるアルカリ水溶液を高濃度にする必要が生じる。また第3の工程でアルカリカチオンを多く含ませようとすれば、スチーム加熱を高温にするなど厳しい条件を強いる必要が生じる。これらいずれの選択も、生産設備のメンテナンスを含めて生産性コストを上げる懸念がある。
ここで水酸化コバルト粒子の表面に適量のアルカリ水溶液を持たせFunicular状態にし、高温下で固体・液体・気体の三相界面を形成させるとともに、水酸化コバルトがコバルト錯イオンとして溶出した際にアルカリカチオンを十分に存在させることにより、導電性の高い高次のコバルト酸化物が効率よく得られることがわかった。
本発明の場合、第1の工程においてコバルト水溶液中にアルカリカチオンを含有させ、これをコバルト塩とともに定着させることにより、第3の工程において溶出したコバルト錯イオンの近傍にアルカリカチオンが均一かつ豊富に存在することになり、この工程を経た後の多孔性ニッケル焼結基板の表面を、導電性が高く均一な高次コバルト酸化物で効率よく被覆できる。これにより、続く第4の工程における耐食性が向上するとともに、多孔性ニッケル焼結基板と活物質との導電性の低下を抑制できる。
第2の発明は、第1の発明において、第1から第3の工程を少なくとも2サイクル繰り返した後で第4の工程を行い、かつアルカリカチオンを1サイクル目のみ含ませることを特徴とする。
2サイクル目以降の第1の工程ではアルカリカチオンを実質上含ませないので、2サイクル目以降に形成される高次コバルト酸化物の導電性は、1サイクル目の第1から第3の工程において形成されたアルカリカチオンを多く含む導電性の高い高次コバルト酸化物よりも低いが、表面積は比較的小さいので溶出しにくい。一方で多孔性ニッケル焼結基板を直接に被覆する導電性の高い高次コバルト酸化物は微結晶化であり表面積が大きいので、第4の工程において多孔性ニッケル焼結基板の腐食を抑制しつつも多量の溶出を伴うことになり、多孔性ニッケル焼結基板と活物質との導電性を確保することが困難になる。この現象を回避するには、アルカリカチオンを多く含む高次コバルト酸化物の被覆量を増やす必要があるが、コストの高いコバルトを多く用いることになる。そこで1サイクル目に形成した導電性の高い高次コバルト酸化物の上に、導電性は低いが表面積の比較的小さい(すなわち溶出しにくい)高次コバルト酸化物をさらに形成することにより、1サイクル目に形成した導電性の高い高次コバルト酸化物を保護する犠牲被膜として機能する。
なお第2の発明において、2サイクル目以降の第1の工程ではアルカリカチオンを実質的に含ませないようにするが、具体的には隣接する工程からの飛沫が混入するレベルである0.01重量%以下とするのが好ましい。
第3の発明は、第1の発明において、アルカリカチオンとしてカリウムイオン、ナトリウムイオンおよびリチウムイオンのうち少なくとも1つを含ませることを特徴とする。これらのアルカリカチオンは、コバルト化合物が酸化される際にコバルト酸化物の結晶格子内に取り込まれ、結晶格子の間隔を広げて高次コバルト酸化物の導電性を高める効果が高いので好ましい。
第4の発明は、第1の発明において、第3の工程の後におけるアルカリカチオンの量をコバルトイオンに対して2.5重量%以上、20重量%以下とすることを特徴とする。この値が2.5重量%未満だと、高次コバルト酸化物へのアルカリカチオンの含有度合が低下して本発明の効果が薄れる。一方でこの値が20重量%を超えると、c軸が過度に長いオキシ水酸化コバルトが増加して活物質の充填性が低下するので好ましくない。
次に、本発明の上述以外の構成要件について詳述する。
多孔性ニッケル焼結基板は、ニッケル粉末、水、増粘剤、パンチング芯材を原材料として、乾燥、焼結の処理によって作製できる。厚みの好適範囲は400〜600μmであり、空孔体積比率の好適範囲は80〜90%である。
第1の工程に用いる硝酸コバルト水溶液中の濃度の好適範囲は0.5〜1.5mol/Lであり、乾燥温度の好適範囲は90〜110℃である。また第2の工程に用いるアルカリ水溶液としては、具体的に水酸化ナトリウムなどの水溶液が好適であり、その濃度の好適範囲は10〜30重量%であり、温度の好適範囲は60〜90℃である。さらに第4の工程で用いる酸性ニッケル塩含浸液としては、具体的に硝酸ニッケルなどの水溶液が好適であり、比重の好適範囲は1.5〜1.8g/mlである。
以下、本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
(1)多孔性ニッケル焼結基板の作製
金属ニッケル粉末に増粘剤であるカルボキシメチルセルロース、消泡剤として界面活性剤および水を添加して練合し、ニッケルペーストを作製した。このニッケルペーストを厚み60μmのニッケルめっきを施した鉄製パンチング芯材に塗着してから窒素雰囲気下、900℃〜1100℃で焼結し、空孔体積比率が84%の多孔性ニッケル焼結基板を作製した。
(2)第1の工程
上述の多孔性ニッケル焼結基板を、比重1.13の硝酸コバルト水溶液に0.04mol/Lの硝酸ナトリウムを溶かしたものに浸漬した後、100℃で30分乾燥した。
(3)第2の工程
第1の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板を、80℃、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することにより、多孔性ニッケル焼結基板の表面にナトリウムを含有した水酸化コバルトを生成させた。
(4)第3の工程
第2の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板の表面が水酸化ナトリウム水溶液で濡れたままの状態で高温槽に投入し、高温槽内の温度が160℃に達するまで昇温した。160℃に達した時点で高温槽内に150℃の高温スチームを5分間投入し、高温槽内の温度を下げることなく相対湿度を18%になるまで加湿した(加湿段階)。その後、高温槽内の温度を下げることなく排気し、10分間をかけて徐々に高温槽内の相対湿度を低下させた(除湿段階)。これにより、多孔性ニッケル焼結基板の表面に生成した水酸化コバルトを高次コバルト酸化物として、緻密なナトリウムを含有したコバルト酸化物で覆われた多孔性ニッケル焼結基板を作製した。原子吸光分析(ICP)の測定結果から、コバルトイオンに対するナトリウムイオンの含有比率を測定したところ、5重量%であった。
(5)第4の工程
第3の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板を、80℃の硝酸ニッケルと硝酸コバルトの酸性混合水溶液(硝酸ニッケル:硝酸コバルト=100:1、比重1.7)に浸漬した後、100℃で乾燥することにより、多孔性ニッケル焼結基板の細孔内に硝酸ニッケルと硝酸コバルトを定着させた後、80℃、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、硝酸ニッケルと硝酸コバルトをそれぞれ水酸化物に置換した。これを80℃の温水で洗浄してアルカリ分を除去し、100℃で乾燥することにより、活物質(水酸化ニッケル)を充填し、この操作を6回繰り返し所望の充填量のニッケル正極を作製した。
(3)電池の作製
このニッケル正極を長さ260mm、高さ35mmに切断した。一方、一般式がMmNi3.55Co0.75Mn0.4Al0.3(Mmはミッシュメタルで希土類の混合物を示す)で表される水素吸蔵合金100重量部に対して、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを0.15重量%、導電剤としてカーボンブラックを0.3重量%、結着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体を0.8重量部および分散媒として水とを混合してペースを作製し、このペーストを厚み60μm、開孔率42%のニッケルめっきを施した鉄製パンチング芯材の両面に塗着し、乾燥、加圧を行い、長さ310mm、幅35mm、厚さ0.3mm、容量3000mAhの負極を作製した。上記の正極aと負極とポリプロピレン製不織布セパレータとを組み合わせて渦巻き状に巻回し、SCサイズの円筒形金属ケースに挿入し、比重1.30の水酸化カリウム水溶液に40g/lの水酸化リチウムを溶解した電解液を所定量注入した後、ケースを封口し、公称容量2.0Ahのアルカリ蓄電池を構成した。これを実施例1とする。
(実施例2〜5)
実施例1に対し、第1の工程で用いた硝酸ナトリウムの濃度を0.02mol/L(実施例2)、0.08mol/L(実施例3)、0.16mol/L(実施例4)および0.18mol/L(実施例5)と変化させ、ICPの測定結果から求めたコバルトイオンに対するナトリウムイオンの含有比率を2.5重量%(実施例2)、10.0重量%(実施例3)、20.0重量%(実施例4)および21.0重量%(実施例5)とした以外は、実施例1と同様に作製したニッケル正極を用いてアルカリ蓄電池を作製した。これを実施例2〜5とする。
(実施例6〜7)
実施例1に対し、第1の工程で用いた0.04mol/Lの硝酸ナトリウムを、0.05mol/Lの硝酸カリウム(実施例6)、0.05mol/Lの硝酸リチウム(実施例7)とし、ICPの測定結果から求めたコバルトイオンに対するカリウムイオンの含有比率を4.5重量%(実施例6)、リチウムイオンの含有比率を3.5重量%(実施例7)とした以外は、実施例1と同様に作製したニッケル正極を用いてアルカリ蓄電池を作製した。これを実施例6〜7とする。
(実施例8)
実施例1と同じ多孔性ニッケル焼結基板を、以下の順に処理した。
(1)実施例1と同様の第1〜3の工程
(2)硝酸ナトリウムを含まないこと以外は実施例1と同様の第1の工程
(3)実施例1と同様の第2〜4の工程
この多孔性ニッケル焼結基板を用いたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル正極を用いてアルカリ蓄電池を作製した。これを実施例8とする。
(比較例1)
実施例1に対し、第1の工程において硝酸ナトリウムを含まないようにしたこと以外は、実施例1と同様に作製したニッケル正極を用いてアルカリ蓄電池を作製した。これを比較例1とする。なおICPの測定結果から求めたコバルトイオンに対するナトリウムイオンの含有比率は2.0重量%であった。
以上の方法により作製した各例の電池について、20℃の雰囲気温度で電流値2.0Aで理論容量の120%まで充電し、電流値2.0Aで電池電圧が0.8Vに至るまで放電するサイクルを繰り返した。放電容量が初期放電容量の80%まで劣化した時のサイクル数を求め、比較例1のサイクル数を100とし、それぞれの電池のサイクル数を指数で示した。この結果を(表1)に示す。
Figure 2008269913
(表1)に示した結果から、第1の工程で硝酸コバルト水溶液にアルカリカチオンを混合させた各実施例の電池は、比較例1と比べて寿命特性が向上した。比較例1ではアルカリカチオンが内部まで十分取り込まれていないのに対し、各実施例では第1の工程でアルカリカチオンを硝酸コバルト水溶液中に混合しており、多孔性ニッケル焼結基板に定着されるコバルト硝酸塩の内部までアルカリカチオンが十分取り込まれた状態となるので、その後の酸化過程でアルカリカチオンを含有した高次コバルト酸化物を多く生成することができる。このアルカリカチオンを含有した高次コバルト酸化物は、結晶性が低く、微細化しているために多くの結晶子界面が形成される。導電性の高い高次コバルト酸化物としての側面と、結晶子界面が電子伝導面として機能する側面との双方が、多孔性ニッケル焼結基板の良好な導電性に寄与する一方、電解液に対する腐食抑制効果も相まって、寿命特性が向上したものと考えられる。この効果はアルカリカチオンがナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンのいずれでも同様である。
ただしアルカリカチオンの含有量が少ない実施例2は、第4の工程における耐食性が低下した影響で寿命特性がやや低下した。またアルカリカチオンの含有量が多い実施例5もまた寿命特性がやや低下したが、この現象はオキシ水酸化コバルトのc軸が過度に長くなったために活物質の充填性が低下して充填後の正極の空隙が少なくなり、電解液が十分に行き渡らなかった影響と推測される。よって第3の工程の後におけるアルカリカチオンの量は、コバルトイオンに対して2.5重量%以上、20重量%以下であるのが好ましい。
さらに実施例8では、アルカリカチオンを含有した高次コバルト酸化物の表面にアルカリカチオンの含有量の少ないコバルト酸化物層を被覆することにより、より電池特性の良好な結果が得られた。アルカリカチオンを含有したコバルト酸化物は導電性が高い反面、
結晶が微細化しているため表面積は大きくなっており、第4の工程において、耐食性効果はあるものの少なからず高温かつ高濃度の硝酸ニッケル水溶液に溶出する。実施例9のように、アルカリカチオンを含有した高次コバルト酸化物の表面に、アルカリカチオンの含有量の少ないコバルト酸化物(導電性は高くないが結晶性が高く表面積が小さい)の層を被覆することで、第4の工程でアルカリカチオンを含有した高次コバルト酸化物が溶出することを抑制でき、電池構成後も導電性の高い状態を維持することができたことで、寿命特性がさらに向上したものと考えられる。
本発明の製造方法を経たニッケル正極を用いたアルカリ蓄電池は寿命特性に優れるので、電気自動車用の補助電源や電動工具の主電源など様々な用途において有用である。

Claims (4)

  1. 多孔性ニッケル焼結基板を硝酸コバルト水溶液中に浸漬した後で乾燥する第1の工程と、第1の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をアルカリ水溶液中に浸漬することにより硝酸コバルトを水酸化コバルトに変える第2の工程と、
    第2の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板をスチーム加熱することにより前記水酸化コバルトをコバルト酸化物に変える第3の工程と、
    第3の工程を経た多孔性ニッケル焼結基板を酸性ニッケル塩含浸液に浸漬してニッケル塩を定着させる第4の工程と、
    を含むアルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法であって、
    前記第1の工程において、前記硝酸コバルト水溶液中にアルカリカチオンを含ませることを特徴とする、アルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法。
  2. 前記第1から第3の工程を少なくとも2サイクル繰り返した後で前記第4の工程を行い、かつ前記アルカリカチオンを1サイクル目のみ含ませることを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法。
  3. 前記アルカリカチオンとしてカリウムイオン、ナトリウムイオンおよびリチウムイオンのうち少なくとも1つを含ませることを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法。
  4. 前記第3の工程の後における前記アルカリカチオンの量を、コバルトイオンに対して2.5重量%以上、20重量%以下とすることを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用ニッケル正極の製造方法。
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