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JP2008100301A - ダイヤモンド被覆切削インサート及び切削工具 - Google Patents

ダイヤモンド被覆切削インサート及び切削工具 Download PDF

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JP2008100301A JP2006283115A JP2006283115A JP2008100301A JP 2008100301 A JP2008100301 A JP 2008100301A JP 2006283115 A JP2006283115 A JP 2006283115A JP 2006283115 A JP2006283115 A JP 2006283115A JP 2008100301 A JP2008100301 A JP 2008100301A
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秀晃 行待
Yuuko Moribe
裕江 森部
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Abstract

【課題】耐剥離性に優れたダイヤモンド薄膜を切削インサート母材に被覆した、耐久性の高いダイヤモンド被覆切削インサート1、およびこのダイヤモンド被覆切削インサート1を備えた切削工具2の提供。
【解決手段】被覆膜を形成したダイヤモンド被覆切削インサート1であり、この被覆膜のラマンスペクトル分析において1140±30cm−1、1330±10cm−1、1480±50cm−1および1580±20cm−1にピークが存在し、1480±50cm−1におけるピークの強度が1580±20cm−1におけるピークの強度より大であるラマンスペクトルを持つダイヤモンド被覆切削インサート1、およびこのダイヤモンド被覆切削インサート1を備えた切削工具2。
【選択図】図1

Description

この発明はダイヤモンド被覆切削インサート及び切削工具に関し、詳しくは、優れた耐久性を持つダイヤモンド被覆切削インサート及びこのダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具に関する。
切削用工具は図2に例示する外径加工用切削工具2のように、ホルダー3と呼ばれる支持体の先端に使い捨ての刃先である切削インサート1(スローアウェイチップ、刃先交換チップなどとも言う。)を取り付けた構造が多い。この切削インサートには被削材の種類、加工工程、切削速度などによって各種の材料が使用されている。例えば、超硬合金、サーメット、セラミックス、窒化ホウ素、さらにはこれらの表面に高硬度、耐摩耗性の被膜を被覆した材料が用いられている。しかし、切削インサート材料に対しては、近年益々その要求性能が過酷化しており、さらなる高性能化、低コスト化も求められている。このような状況下で、ダイヤモンド薄膜で被覆した切削インサートは優れた耐摩耗性及び耐久性を有すると考えられているので、アルミニウム合金の加工用材料として注目されている。
ダイヤモンドは、切削インサート材料として汎用されてきたアルミナ、窒化珪素、超硬合金等に比べて高い硬度を有し、また熱伝導率も高いことからダイヤモンドを切削インサートの素材とする開発が進められてきた。ところが、超高圧・高温下で焼結して合成されたダイヤモンド焼結体を用いたダイヤモンド焼結体インサートは、高価であり、またダイヤモンドよりも高硬度の物質がないので、焼結後の切削インサートへの加工が困難なため形状的にも制約があった。そこで、マイクロ波や熱フィラメント等で励起状態にした炭素含有ガスを原料ガスとして用いた化学的気相合成法(CVD法という。)によって、ダイヤモンドを主体とした硬質薄膜(以下、単にダイヤモンド薄膜と呼ぶことがある。)を母材上に形成したダイヤモンド被覆切削インサートが多数開発されている。この方法によれば、複雑形状の工具母材に対しても容易且つ安価にダイヤモンド薄膜を形成できるので、この技術を応用してダイヤモンド被覆工具の研究開発が活発に進められている。最近では、ダイヤモンド薄膜の形成方法や形成されたダイヤモンド薄膜の形態を特定して切削工具材料としての性能を向上させることが試みられている。
ダイヤモンド被覆工具としては、例えば特許文献1には、炭化タングステン基超硬合金基体の表面に形成された硬質炭素質膜のレーザラマンスペクトルにおいて、ダイヤモンド結晶を示すピークの両側にピークのある波形を持つ薄膜で被覆した切削工具が開示されている。また、特許文献2には、切削工具母材の表面の刃先先端部に被覆したダイヤモンド薄膜のラマンスペクトルにおける、ダイヤモンド結晶を示すピークと非ダイヤモンド成分を示すピークとの強度比を特定した高性能の切削工具を開示している。その他にも、ダイヤモンドコーティング工業刃物の製造方法(特許文献3)、プラズマCVD製膜のダイヤモンド状炭素被膜の超硬合金製切削工具(特許文献4)、表面に被覆した硬質炭素膜のラマンスペクトルにおける、ダイヤモンド結晶を示すピークと他のもうひとつのピークとの強度比を特定した高性能の摺動部材(特許文献5)など多くのダイヤモンド薄膜関連技術が開発されている。
特公昭62−6747号公報 特開平5−123098号公報 特開2004−76106号公報 特開5−342834号公報 特開平4−354871号公報
上述のように、母材にダイヤモンド薄膜を形成したダイヤモンド被覆切削インサートは、高硬度、高熱伝導率という優れた切削工具として利用されている。しかし、従来のダイヤモンド被覆切削インサートは、薄膜の内部応力が大きく、しかも母材との密着強度が弱いことに加え、靭性が低い為に切削等の加工中に一瞬にして膜が剥離若しくは破壊されることがあるという欠点があった。そこで、ダイヤモンド粒子の結合力をさらに高め、ダイヤモンド薄膜の欠損や剥離を防ぎ、高速切削時等の耐摩耗性をさらに向上させることが求められていた。
この発明の課題は、耐剥離性に優れたダイヤモンド薄膜を切削インサート用の母材に被覆することによって、耐久性の高いダイヤモンド被覆切削インサート及び切削工具を提供することである。
上述のように、ダイヤモンド被覆切削インサートにおける問題点は、切削等の加工を行っている最中に薄膜が剥離することである。この剥離原因については、ダイヤモンド薄膜と母材との熱膨張率の違いに基づく応力、特にダイヤモンド薄膜内の熱膨張による圧縮応力が大きいためであると考えられる。そこで、発明者らは、ダイヤモンド薄膜内部の圧縮応力を緩和する方法を検討した。その結果、ダイヤモンド薄膜中のダイヤモンド結晶粒子をナノサイズにまで微粒化すること、及びダイヤモンド薄膜中に非晶質ダイヤモンドとグラファイトとが存在するとこれらがダイヤモンド粒子のバインダ的な役割を果たすことにより、ダイヤモンド薄膜の耐摩耗性を損なうことなく、ダイヤモンド薄膜の内部に生じる圧縮応力が緩和されることを見いだした。そしてこのようなダイヤモンド薄膜で被覆したダイヤモンド被覆切削インサートは、極めて長寿命となることを見いだした。この発明者らは上記の知見に基づき、前記課題を解決するための以下の手段を見いだした。
前記課題を解決するための手段として、
請求項1は、被覆膜を形成したダイヤモンド被覆切削インサートであり、この被覆膜のラマンスペクトル分析において1140±30cm−1、1330±10cm−1、1480±50cm−1及び1580±20cm−1にピークが存在し、1480±50cm−1におけるピークの強度が1580±20cm−1におけるピークの強度より大であるラマンスペクトルを持つダイヤモンド被覆切削インサートであり、
請求項2は、前記被覆膜が気相合成法により形成されて成る前記請求項1に記載のダイヤモンド被覆切削インサートであり、
請求項3は、被覆膜の膜厚が3〜30μmである請求項1又は2に記載のダイヤモンド被覆切削インサートであり、
請求項4は、被覆膜により被覆される母材表面が炭窒化チタンを主成分とするβ相を含有する炭化タングステン超硬合金である請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆切削インサートであり、
請求項5は、被覆膜が膜厚よりも小さいダイヤモンド微粒子の積み重なった構造である請求項1〜4のいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆切削インサートであり、
請求項6は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具である。
この発明のダイヤモンド被覆切削インサートにおいては、被覆膜を形成するダイヤモンド粒子はナノサイズの微粒子であり、前記ダイヤモンド粒子相互を非晶質ダイヤモンド粒子及びグラファイトが結合していると考えられる。そのため、被覆膜における表面近くの個々の粒子が剥離したとしても、被覆膜の表面に生じたクラックが一気に母材に到ることがなく、したがって母材表面から被覆膜が直ちに剥離することがなく、耐剥離性及び耐摩耗性の高い、長寿命のダイヤモンド被覆切削インサート及び切削工具が得られる。特に、高速切削のような高温条件での切削でも、被覆膜内部のダイヤモンド粒子間や被覆膜と母材との間での熱応力が小さく、ダイヤモンド粒子の耐剥離性に優れ、ダイヤモンド被覆切削インサート及び切削工具の耐久性をさらに向上させることができる。
この発明のダイヤモンド被覆切削インサートは、切削インサートの形状をした母材の表面に気相合成法により被覆膜を形成してなる。そして、この被覆膜は、ラマンスペクトル分析において、少なくとも1140±30cm−1、1330±10cm−1、1480±50cm−1及び1580±20cm−1にピークが存在するスペクトルを示す。さらに、この被覆膜は、1480±50cm−1におけるピークの強度Iが1580±20cm−1におけるピークの強度Iより大であるラマンスペクトルを示す。通常、1330±10cm−1に現れるピークがダイヤモンド結晶を示す。そしてこのダイヤモンド結晶がナノサイズの微粒子であることが、1140±30cm−1のピークにより示される。この発明におけるラマンスペクトルで1480±50cm−1のピークは非晶質ダイヤモンドの存在を示し、1580±20cm−1に現れるピークは、グラファイトの存在を示す。
この発明のダイヤモンド被覆切削インサートにおける被覆膜の厚さは、通常の場合、1〜40μmであり、好ましくは3〜30μmであり、さらに好ましくは5〜30μmである。すなわち、この発明のダイヤモンド被覆切削インサートの被覆膜におけるダイヤモンド粒子は、被覆膜の膜厚よりも非常に小さいので、図3及び図5に示すように多層のダイヤモンド粒子層として被覆膜を形成している。言い換えれば、膜厚のおよそ1/5〜1/1000となっているナノサイズのダイヤモンド粒子が石垣状に積み重なって被覆膜が形成されている。このような被覆膜で被覆された切削インサートは、切削工具としての使用中に個々のダイヤモンド粒子の剥離が起こっても、一つひとつの粒子ごとに剥離するだけで、被覆膜の最深部、すなわち母材表面までは剥離が進み難い。また、個々のダイヤモンド粒子が小さいので、高温においてもダイヤモンド粒子の変形量が小さく、被覆膜中でのダイヤモンド粒子とその周りの非晶質ダイヤモンド及びグラファイトとの熱応力は小さくなる。ここで非晶質ダイヤモンドとは、ダイヤモンドの等方性を有する炭素原子の三次元骨格が崩れて不規則に形成されて成り、炭素原子の未結合手は水素が結合することにより安定化している物質である。一方、ミクロンサイズである大粒径のダイヤモンド粒子で3〜30μmの膜厚の被覆膜を形成してなるダイヤモンド被覆切削インサートは、図6により模式的に示されるように、ミクロンサイズの大粒径のダイヤモンド粒子でほぼ一層の被覆層を形成しているので、ひとつのダイヤモンド粒子が剥離すると、その部分の被覆膜が欠損して母材表面が露出してしまう。母材はダイヤモンドで形成された被覆膜に較べて耐摩耗性が小さいので、切削工具としての寿命は母材表面が露出した時点で終了する。
さらに、この発明においては、ダイヤモンド被膜は、ラマンスペクトルの1480±50cm−1におけるピークの強度Iが1580±20cm−1におけるピークの強度Iより大である。この発明のダイヤモンド被覆切削インサートにおけるダイヤモンド被膜は、1500〜1600cm−1付近に明らかなピークがふたつあり、これらのピークの強度比が重要である。すなわち、ラマンスペクトルの1480±50cm−1におけるピークの強度Iと、1580±20cm−1におけるピークの強度Iとの比、I/Iが1以上、好ましくは1〜1.4である。この発明におけるラマンスペクトルで1480±50cm−1に現れるピークは、非晶質ダイヤモンドを示し、1580±20cm−1に現れるピークがグラファイトを示す。I/Iが1以上であることは、この発明において被覆膜中のグラファイトの含量が非晶質ダイヤモンドの含量に対して所定値以下であることを示している。このことは、ダイヤモンド微粒子に対し非晶質ダイヤモンドのバインダ的な働きがグラファイトのバインダ的な働きよりも大きく寄与しているものと推定される。
以上の説明を定性的に、模式図的に説明すれば、図5に示すように、この発明における被覆膜は、ナノサイズの微粒子のダイヤモンド結晶粒子が積み重なった状態を呈しており、そのダイヤモンド結晶粒子同士は、グラファイトと非晶質ダイヤモンドとにより結合されている。ダイヤモンド結晶粒子同士を結合しているグラファイトと非晶質ダイヤモンドとの含有比率は、それぞれの成分を表わすピークの強度の比により特定することができる。
この発明に係るダイヤモンド被覆切削インサートにおいて、切削インサートの母材は切削インサートに使用可能である限りその材料及び種類等につき特に限定されるものでない。前記母材としては、例えば超硬合金、アルミナセラミックス、CBN、窒化珪素、サイアロン等が挙げられる。その中でも、超硬合金、さらに炭窒化チタンを主成分とするβ相を表面に有する炭化タングステン超硬合金を母材とすると、母材と被覆膜との結合が強固になり特に好ましい。このβ相は、炭化タングステン中に固溶した、例えばTi、Ta及びNb等が炭窒化物として析出したものであり、化学式でTi(C、N)と表記でき、例えばβ相を超硬合金の表面に析出させることによりセラミック材料の表面改質が可能である。この発明のダイヤモンド被覆切削インサートは、切削可能である限りどのような形状でもよく、従来から使用されている各種のスローアウェイチップの形状を取り得る。なお、この発明のダイヤモンド被覆切削インサートにおいて、被覆膜の厚さは前記したように通常は数十ミクロン以下であって母材の大きさに較べて無視できるほど薄いので、ダイヤモンド被覆切削インサートの形状は母材の形状で実質的に決定される。
この発明に係るダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具の種類は、どのようなものでもよく、例えば溝入れ工具、ねじ切り工具、外径加工用工具、内径加工用工具、面取り工具、エンドミル,ミニチュアドリル等が挙げられる。通常は、上記工具は、スローアウェイチップと呼ばれるチップを備えたチップ交換式の工具である。この発明の切削工具は、従来のダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具に比べて耐久性を著しく向上させることができる。
母材の表面に被覆膜を形成する方法については、気相合成法である限り特に限定されない。この発明における被覆膜の形成方法としては、マイクロ波プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、高周波プラズマCVD法などの各種化学蒸着法を挙げることができる。また、場合によってはアークイオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法などの各種物理蒸着法も、被覆膜の形成方法として利用可能である。また被覆膜の形成に用いる原料ガスとしては、炭素原子を含む化合物のガスであればよく、メタン、エタン、プロパン等の炭化水素系ガスの他、メタノール、エタノール等のアルコール系ガス、或は一酸化炭素等の酸化炭素系ガスを用いることもできる。一般的には、メタンガスが好適に用いられ、メタン等の炭素含有ガスを水素で希釈した混合ガスが用いられる。さらに、この発明のダイヤモンド被覆切削インサートの形成においては、上記混合ガス中にアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガスを添加することが好ましい。
この発明における被覆膜の形成においては、熱フィラメント法が好適に利用できる。図7は、この発明における被覆膜形成に使用する熱フィラメント法化学蒸着装置19の説明図である。11はこの装置のチャンバー、12はその排気管、13はチャンバー11内に導入するメタンと水素等の混合ガス導入管である。14はチャンバー11内に於ける台座、15は台座14上に載置された被覆用の母材である。16は母材15の上方に配置される熱フィラメント、17は熱フィラメント16の支持柱兼用の電極である。18は電源である。
この熱フィラメント法化学蒸着装置19による母材15に対する被覆膜の形成方法の一例について説明する。ダイヤモンド粒子を含有する被覆膜を形成するときのチャンバー内の圧力は、通常1333.22Pa以上26664.4Pa以下(10Torr以上200Torr以下)である。ナノサイズのダイヤモンド微粒子を含有する被覆膜を母材表面に形成するには、このチャンバー内の圧力を高くするのが好ましく、通常の場合3999.66Pa以上15998.64Pa以下(30Torr以上120Torr以下)である。チャンバー内に配置された母材の温度は、通常、700〜1000℃である。ナノサイズのダイヤモンド微粒子を含有する被覆膜を母材表面に形成するには、母材の温度を高くするのが好ましく、通常の場合、750〜1000℃である。また、熱フィラメント16への印加電圧は10〜50V、同電流値は30〜100A、熱フィラメント電源18はAC又はDCとする。メタンと水素との組成比率はメタンが水素の1〜10vol%、好ましくは3〜7vol%とする。なお、窒素などの不活性ガスをメタン等の炭素源ガスに対し1〜20vol%、好ましくは5〜15vol%添加すると、ナノサイズのダイヤモンド粒子を含む被覆膜を形成することができて好ましい。熱フィラメント16と母材15との距離は5〜20mmとする。この実施態様においては、母材15は炭化タングステン超硬合金チップ(図1に示す四角形チップ:内接円12.7mm、厚3.18mm)とした。そして、チップ上に3〜30μmのダイヤモンド薄膜が形成されるまで被覆操作を続ければ、この発明のダイヤモンド被覆切削インサートが製造できる。
この発明のダイヤモンド被覆切削インサートにおける被覆膜のラマンスペクトル分析において、発振源としては、アルゴンレーザ(発振線457.9nm、472.7nm、488.0nm、501.7nm等)、クリプトンレーザ(発振線476.2nm、520.8nm、568.2nm、676.5nm等)等のレーザ光を利用することが望ましい。
上述したこの発明のダイヤモンド被覆切削インサートは、高温での硬度及び耐摩耗性に優れており、高硬度鋼等の高速切削用の切削工具の刃先として優れた性質を持っている。このダイヤモンド被覆切削インサートは耐熱性、耐摩耗性に優れた長寿命の切削用スローアウェイチップとして有用であり、さらに、このダイヤモンド被覆切削インサートを例えば図2に示すような切削工具用のホルダーに設置したこの発明の切削工具は優れた切削工具として各種の切削加工、特に高速切削加工に好適に使用できる。
(1)ダイヤモンド被覆切削インサートの製造 (実施例1〜5)
図1に示すような形状を有する、β炭化タングステンを含む超硬合金製の母材の表面に、図7に示す熱フィラメント法装置19で、被覆膜を形成してダイヤモンド被覆切削インサートを製造した。
被覆膜を形成する条件は以下のようにした。
チャンバ内圧:3999.66Pa(30Torr)、
母材温度:800℃、
混合ガス供給速度:500ml/分、
混合ガス組成比率(体積比率):水素/メタン/窒素=960/40/4、
フィラメント印加電圧/電流:20V/100A、
フィラメント温度:1800℃、
被覆膜形成時間:3〜30時間、
被覆膜厚さ:実施例毎に表1に示す。
実施例3で形成された被覆膜のSEM写真を図3に示した。
(比較例1、2、5、6)
前記実施例1〜5における被覆膜を形成する条件において、比較例1及び比較例2は窒素を導入せずに被覆膜を形成させ、比較例5及び比較例6は混合ガスの窒素の含量をメタンに対して8vol%として被覆膜を形成させた他は前記実施例1〜5における条件と同様にして、母材の表面に被覆膜を形成してダイヤモンド被覆切削インサートを製造した。また、比較例1及び比較例2、並びに比較例5及び比較例6の膜厚がそれぞれ相違しているのは被覆膜形成の時間の相違による。比較例2で形成された被覆膜のSEM写真を図4に示した。
(比較例3,4)
特公昭62−6747号公報に記載の実施例3と同様にしてダイヤモンド被覆切削インサートを製造した。
(2)ダイヤモンド被覆切削インサートのラマンスペクトル及び切削性能評価
実施例、比較例で製造したダイヤモンド被覆インサートのラマンスペクトル分析、及び切削剥離試験結果を表1に示した。
・ラマンスペクトル分析
アルゴンレーザ光(波長488nm)を使用してラマンスペクトルを測定した。強度は、ラマンスペクトルの1000cm−1と1800cm−1の区間で直線のベースラインを作って、これに対する高さで測定した。実施例3において母材に形成された被覆膜のラマンスペクトルを図8に示した。
・切削剥離試験
切削速度及び切り込みを一定にして切削を開始し、一定加工長ごとに切削送りを増加させていき、被覆膜の剥離が起きるまで続ける。被覆膜の剥離が起きたときの切削送りにより評価した。
被削材:アルミニウム合金(AC4A)、
チップ形状:SPGN120308 刃先処理:なし
切削速度:471mm/min、 送り:f=0.1〜 mm/rev
切り込み:d=0.5mm、 切削油:あり
Figure 2008100301
表1において、ラマンピークの欄における○はピークのあることを示し、×はピークの観測されなかったことを示す。また、表1中の「ピークが一体化」は、それぞれのラマンピーク(1480±50cm−1及び1580±20cm−1)の部分にブロードな膨らみが観測され、かつその膨らみの近傍部が重なっていたのでピークを検出できなかったことを示す。
表1に示すように、この発明のダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具(実施例1〜5)は、ナノサイズのダイヤモンド粒子を含まないダイヤモンド被膜や(比較例1,2)、グラファイトとは異なる非晶質ダイヤモンドの示すラマンスペクトルピークが不明確なダイヤモンド被膜(比較例3,4)、グラファイトとは異なる非晶質ダイヤモンドの示すラマンスペクトルピークがあっても、その相対強度が小さく、この発明の範囲内に入らないダイヤモンド被膜(比較例5,6)を形成したダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具に較べて、切削送りが大きく、耐久性が高いことが分かる。また、この発明のダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具は、ナノサイズのダイヤモンド粒子で実質に形成された被覆膜の厚さが3〜30μmであると、特に切削送りが大きくなるまで使用可能で、耐久性が高くなることが分かる。
この発明のダイヤモンド被覆切削インサート及びこれを備えた切削工具は耐摩耗性、耐剥離性に優れた長寿命のスローアウェイチップ及び切削工具として例えばアルミニウム合金の加工、特に高速加工に使用できる。
図1は切削インサートの斜視図である。 図2は外径加工用ホルダーにインサートを取り付けた切削工具の正面図である。 図3はこの発明のダイヤモンド被覆切削インサートの電子顕微鏡写真である。 図4は従来のダイヤモンド被覆切削インサートの電子顕微鏡写真である。 図5はこの発明のダイヤモンド被複層の模式図である。 図6は従来のダイヤモンド被複層の模式図である。 図7は熱フィラメント法化学蒸着装置の説明図である。 図8は実施例3において母材に形成された被覆膜のラマンスペクトルチャートである。
符号の説明
1:インサート
2:切削工具
3:ホルダ
A,B:被覆膜の層厚
4:この発明の被覆膜
5:従来の被覆膜
6:ナノサイズのダイヤモンド粒子
7:ミクロンサイズのダイヤモンド粒子
8:グラファイト
9:グラファイト以外の非ダイヤモンド成分
10:母材
11:チャンバー
12:排気管
13:混合ガス導入管
14:台座
15:母材
16:熱フィラメント
17:支持柱兼用の電極
18:電源
19:熱フィラメント法化学蒸着装置

Claims (6)

  1. 被覆膜を形成したダイヤモンド被覆切削インサートであり、この被覆膜のラマンスペクトル分析において1140±30cm−1、1330±10cm−1、1480±50cm−1および1580±20cm−1にピークが存在し、1480±50cm−1におけるピーク強度が1580±20cm−1におけるピーク強度より大であるラマンスペクトルを持つダイヤモンド被覆切削インサート。
  2. 前記被覆膜が気相合成法により形成されて成る前記請求項1に記載のダイヤモンド被覆切削インサート。
  3. 被覆膜の膜厚が3〜30μmである請求項1又は2に記載のダイヤモンド被覆切削インサート。
  4. 被覆膜により被覆される母材表面が炭窒化チタンを主成分とするβ相を含有する炭化タングステン超硬合金である請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆切削インサート。
  5. 被覆膜が膜厚よりも小さいダイヤモンド微粒子の積み重なった構造である請求項1〜4のいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆切削インサート。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆切削インサートを備えた切削工具。
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