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JP2008062229A - ポリフッ化ビニリデン多孔膜およびその製造方法 - Google Patents

ポリフッ化ビニリデン多孔膜およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン多孔膜およびその製造方法を提供すること
【解決手段】 ポリフッ化ビニリデン多孔膜において、IR測定により得られる763cm−1の吸光度(A763)及び840cm−1の吸光度(A840)から下式(1)によって計算されるRの値が1.5以上であることを特徴とするポリフッ化ビニリデン多孔膜。
=A763/A840(1)
【選択図】 図1

Description

本発明は、浄水処理、飲料水製造、工業用水製造、排水処理などの水処理に好適な耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン多孔膜およびその製造方法に関する。
近年、選択透過性を有する分離膜を用いた分離手段の技術がめざましく進展している。このような分離操作の技術は、例えば飲料水、超純水および医薬品の製造工程、醸造製品の除菌・仕上げ、排水処理など様々な分野において、分離手段、洗浄手段および殺菌手段等を含む一連の浄化システムとして実用化されている。これらの用途分野において、水のファイン化(高度処理)や安全性向上、精度向上などが高いレベルで要求されていることから分離膜の利用が普及している。
分離膜に求められる重要な特性としては、化学的強度(耐薬品性)、分離精度、透過性能、物理的強度が挙げられる。
中でも、化学的強度は重要である。例えば、浄水処理では透過水の殺菌や膜のバイオファウリング防止の目的で、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を膜モジュール部分へ添加したり、膜の目詰まり物質除去の目的で、酸、アルカリ、界面活性剤などで洗浄する場合、膜自体が劣化する可能性がある。
膜の劣化は、膜の機械的強度の低下を招き、機械的強度の低下は、膜破断や割れ、ピンホールのような欠点を生じ、原水が処理水に混入する事故を招く。そこで、比較的近年では、化学的強度(耐薬品性)と物理的強度を併せもつフッ素系樹脂を用いた分離膜、例えば、ポリフッ化ビニリデン系分離膜が、使用されるようになってきた。
特許文献1には化学的強度(オゾン酸化耐性)に優れる膜として、DSC(示差走査熱量測定)により得られるピーク温度のうち、その最高温度が160℃以上を示すポリフッ化ビニリデン系樹脂多孔質膜が開示されている。これは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶化度に関する情報を耐薬品性の指標としている。本発明者らは、同じポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いた膜でDSCにより得られる最高ピーク温度が160℃以上を示すいくつかの膜を用いて化学的強度(耐薬品性)を評価したところ、耐薬品性が異なる知見を得た。その原因について、更に検討した結果、ポリフッ化ビニリデン多孔膜の耐薬品性は、結晶化度のみならず、結晶構造も大きく寄与していることを見出し、更に鋭意検討した結果本発明に至った。
この発明に関連する先行技術文献としては次のものがある。
特開2000−218267号公報 特開2005−200623 特開昭60−97001 特開平3−215535 特開2003−138422 特開2005−146230 特開2005−194461
本発明の目的は、従来技術の上述した問題点に鑑み、耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン多孔膜およびその製造方法を提供することにある。
上記課題は、下記(1)、(2)によって解決される。
(1)IR測定により得られる763cm−1の吸光度(A763)及び840cm−1の吸光度(A840)から下式(1)によって計算されるRの値が1.5以上であることを特徴とするポリフッ化ビニリデン多孔膜。
=A763/A840(1)
(2)ポリフッ化ビニリデン樹脂多孔膜が、寸法が固定されない状態で、160℃以下で熱処理することを特徴とする請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン多孔膜の製造方法。
本発明の耐薬品性に優れたポリフッ化ビニリデン多孔膜によれば、造水時の安全性が向上し、多孔膜の長寿命化を図ることが可能となる。
本発明のポリフッ化ビニリデン多孔膜は、IR測定により得られる763cm−1の吸光度(A763)及び840cm−1の吸光度(A840)から下式(1)によって計算されるRの値が1.5以上である。
=A763/A840(1)
ここで、A763はα型結晶構造に帰属する吸光度であり、A840はβ型結晶構造に帰属する吸光度である(例えば、特許文献2参照)。Rの値は、ポリフッ化ビニリデンの結晶領域におけるα型とβ型の割合を示している。図1に示されるような多孔膜のIRチャートから、695および780cm−1近傍のIRチャートの極小値の間に線を引き、763cm−1近傍のα型結晶構造に帰属される特性吸収ピーク高さを読み取る。併せて、810および925cm−1近傍のIRチャートの極小値の間に線を引き840cm−1近傍のβ型結晶構造に帰属される特性吸収ピーク高さを読み取り、Rを求める。
ポリフッ化ビニリデン樹脂のα型結晶構造とは、重合体分子中のある1つの主鎖炭素に結合するフッ素原子(または水素原子)に対し、一方の隣接する炭素原子に結合した水素原子(またはフッ素原子)がトランスの位置にあり、なおかつもう一方(逆側)に隣接する炭素原子に結合する水素原子(またはフッ素原子)がゴーシュの位置(60度の位置)にあり、その立体構造の連鎖が2つ以上連続して有することを特徴とするものであって、分子鎖が分子鎖がTGTG型でC−F、C−H結合の双極子能率が分子鎖に垂直方向と平行方向とにそれぞれ成分を有している。α型結晶構造を有するポリフッ化ビニリデン樹脂についてIR分析を行なうと、1212cm-1、1183cm-1および763cm-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析においては2θ=17.7度、18.3度および19.9度付近に特徴的なピークを有する。
ポリフッ化ビニリデン樹脂のβ型結晶構造とは、重合体分子中の1つの主鎖炭素に隣り合う炭素原子に結合したフッ素原子と水素原子がそれぞれトランスの立体配位(TT型構造)、つまり隣り合う炭素原子に結合するフッ素原子と水素原子が炭素−炭素結合の方向から見て180度の位置に存在することを特徴とする。TT型構造の部分がTT型の主鎖を構成する炭素−炭素結合は平面ジグザグ構造をもち、C−F、C−H結合の双極子能率が分子鎖に対して垂直方向の成分を有している。β型結晶構造についてIR分析を行なうと、1274cm-1、1163cm-1および840cm-1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析においては2θ=21度付近に特徴的なピークを有する。
本発明のポリフッ化ビニリデン多孔膜は、このα型結晶構造がβ型結晶構造よりも高い比率で存在する。α型結晶構造がβ型結晶構造よりも高い比率で存在することで耐薬品性が向上するのは次の理由によると考えられる。α型結晶構造は、β型結晶構造に比べて、水素原子とフッ素原子が非局在化しており、電荷の偏りが少ないことに基因すると推定される。すなわち、水素原子とフッ素原子が局在化し、分子内分極しているβ型結晶構造より、非極性であるα型結晶構造の存在比率が高いために、本発明のポリフッ化ビニリデン多孔膜は優れた耐薬品性を有すると推定される。
本発明のポリフッ化ビニリデン多孔膜の製造方法を示す。熱処理以外の製造方法は公知の技術を適用することが可能であり、樹脂含有溶液の製造、凝固、抽出の各工程があり、熱処理等を適宜行ってもよい。例えば特許文献3〜7に記載の方法にてポリフッ化ビニリデン多孔膜を製造することができる。
本発明の多孔膜においては、多孔膜が固定されていないフリーの状態で熱処理されることが好ましい。例えば、延伸処理後、一旦枠やカセに巻取り、その後、多孔膜をフリー状態にすることで、溶剤、凝集剤を抽出すると同時に、熱処理を行うことが可能である。固定された状態で熱処理を行うと、熱収縮等が起こって歪が生じ、多孔膜のミクロ環境における結晶構造の変化が起こる。具体的にはα型結晶構造からβ型結晶構造への転移が起こり、多孔膜中のβ型結晶構造の比率が高まり、所望の効果が得られない場合が生じる。
熱処理を行う手順としては、製膜後、抽出成分を洗浄等で除去する前に行っても良いし、除去した後に行っても良い。また、膜が束ねられた糸束状態、乾燥処理後に行っても良いし、モジュール化した後に熱処理を行っても構わない。なお、モジュール化後に熱処理する場合には熱処理による収縮を見越し、膜が引っ張られないように予めゆとりを持たせておくことが好ましい。
熱処理方法としては、熱風による乾式方法、液体に浸漬して行う湿式方法、加熱変調した金属製のロール等に多孔膜を接触させて行う方法、スチーム等の気体で行う方法又は電磁波を放射する方法などが例示でき、多孔膜が湿潤状態でも乾燥状態でもどちらでも可能である。中でも、水中で行う方法が温度制御が容易であり簡便である。低分子量のポリエチレングリコ−ル、などのようなポリフッ化ビニリデン樹脂の非溶剤を用いることも好ましく採用できる。さらに水とポリエチレングリコールの混合液体、界面活性剤水溶液など、複数成分の混合液体中で熱処理することも採用できる。
湿式方式における浸漬液体の選定によっては、製膜原液中の抽出成分の抽出除去と熱処理を同時に行うことも可能となる。
本発明の熱処理温度は、熱処理の効果が得られ、かつ化学的強度以外の多孔膜の要求特性を損なわないという観点から、70℃〜160℃の範囲で行うことが好ましい。
本発明の熱処理時間は、特に制限はないが、工程性の観点から1〜5時間の範囲が好ましい。熱処理温度を高温にすることで、処理時間を短縮することが可能である。
熱処理後は、室温などで放置し、ゆっくり放冷するのが好ましい。
これらの熱処理の方法は、ポリフッ化ビニリデン多孔膜がIR測定により得られる763cm−1の吸光度(A763)及び840cm−1の吸光度(A840)から式(1)によって計算されるRの値が1.5以上になるように熱処理条件を適宜設定する。なお、熱処理条件の設定は、予め各熱処理条件とRの値の相関を調べ工程も考慮して最適な熱処理条件を決めると良い。
上述のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜は、原液流入口や透過液流入口などを備えたケーシングに収容され膜モジュールとして使用される。膜モジュールは、膜が中空糸膜である場合には、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定して、透過液を回収できるようにしたり、平板状に中空糸膜を固定して透過液を回収できるようにする。膜が平膜状である場合には、平膜を集液管の周りに封筒状に折り畳みながらスパイラル状に巻き取り、円筒状の容器に納め、透過液を回収できるようにしたり、集液管の両面に平膜を配置して周囲を密に固定し、透過液を回収できるようにする。
そして、膜モジュールは、少なくとも原液側に加圧手段または透過液側に吸引手段を設け、水などを分離する分離装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いても良いし、水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。
この分離装置は、水処理分野であれば浄水処理、上水処理、排水処理、工業用水製造などで利用でき、河川水、湖沼水、地下水、海水、下水、排水などを被処理水とする。
また、上記フッ化ビニリデン系樹脂多孔膜は、電池の内部で正極と負極とを分離する電池用セパレーターに用いることもでき、この場合、イオンの透過性が高いことによる電池性能の向上や、破断強度が高いことによる電池の耐久性向上などの効果が期待できる。
さらに、上記の製造方法により作製したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜は、荷電基(イオン交換基)を導入して荷電膜とすると、イオンの認識性向上や、破断強度が高いことによる荷電膜の耐久性向上などの効果が期待できる。
さらにまた、上記のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜にイオン交換樹脂を含浸し、イオン交換膜として燃料電池に用いると、特に燃料にメタノールを用いる場合、イオン交換膜のメタノールによる膨潤が抑えられるので、燃料電池性能の向上が期待できる。さらに、破断強度が高いことによる燃料電池の耐久性向上なども期待できる。
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例において、各測定は以下の方法に従って行った。
各種の測定(分析)方法および装置
(1)IR分析
(1−1)測定条件
表面反射法。ポリフッ化ビニリデン中空糸膜をサンプルとして測定した。
(1−2)測定装置
日本電子社製 フーリエ変換赤外分光光度計 JIR−5500
(4)引張強度測定
(4−1)測定条件
25℃の水中で実施し、チャック間距離は20mm、引張り速度は100mm/分、標本数は10(表1中の値は平均値で記載している)とした。
(4−2)測定装置
島津製作所製 オートグラフ AGS−100G
例中の引張破断強度保持率は、上記方法により測定し、次亜塩素酸水溶液浸漬前の値を100%として記載した。
以下、本発明において用いられるポリフッ化ビニリデン樹脂多孔膜の結晶構造制御方法の例と次亜塩素酸ナトリウム耐性評価試験の例を説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
フッ化ビニリデン系樹脂としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記することがある)(ソルベイ ソレクシス株式会社製、SOLEF6010)と、溶剤としてガンマ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)と、無機粒子としてシリカ(株式会社トクヤマ製、ファインシールX−45、平均凝集粒子径4.0〜5.0μm)と、凝集剤としてグリセリン(花王株式会社製、精製グリセリン)とを、重量比でそれぞれ30:56:23:21の割合となるように混合液を調製した。
上記した混合液を、二軸混練押出機中で加熱混練(温度150℃)して、押出したストランドをペレタイザーに通すことでチップ化した。このチップを、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズルを装着した押出機(150℃)を用いて押出した。このときテトラエチレングリコールを押出物の中空部内に注入した。
紡口から空気中に押し出した中空糸状物を、3cmの空中走行距離を経て、重量パーセント濃度20%硫酸ナトリウム水溶液(温度60℃)に入れ、約100cm塩水浴中を通過させて冷却固化させた。次いで、得られた中空糸状物を95℃の流水中で180分間熱処理と溶剤(ガンマ-ブチロラクトン)、凝集剤(グリセリン)、注入液(テトラエチレングリコール)の抽出除去を行った。
このようにして得られた中空糸状物を40℃の重量パーセント濃度5%の水酸化ナトリウム水溶液中で120分浸漬して無機粒子(ファインシールX−45)を抽出除去した後に、水洗を経て、中空糸膜を得た。製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは2.5であった。
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表1に記載した。
95℃の流水中で120分間熱処理と溶剤、凝集剤、注入液の抽出除去を行った以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは2.0であった。
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表1に記載した。
比較例1
50℃の流水中で180分間熱処理と溶剤、凝集剤、注入液の抽出除去を行った以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは1.0であった。
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表1に記載した。
PVDF(株式会社クレハ製、#1000)と、溶剤としてガンマ-ブチロラクトン(三菱化学株式会社製)重量比で40:60の割合となるように混合液を調製した。
上記した混合液を、二軸混練押出機中で加熱混練(温度120℃)して、外径1.5mm、内径0.8mmの二重環構造のノズル(100℃)を用いて押出した。このとき重量パーセント濃度90%ガンマ−ブチロラクトン水溶液を押出物の中空部内に注入した。
紡口から空気中に押し出した押出成形物を、5cmの空中走行距離を経て、重量パーセント濃度80%ガンマ−ブチロラクトン水溶液(温度30℃)に入れ、約100cm浴中を通過させて冷却固化させた。次いで、得られた中空糸状物を80℃の流水中で120分間熱処理と溶剤(ガンマ-ブチロラクトン)、凝集剤(グリセリン)、注入液(テトラエチレングリコール)の抽出除去を行い、中空糸膜を得た。
製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは1.8であった。
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表1に記載した。
Figure 2008062229





実施例1の方法により製造した中空糸膜のIRチャートである。

Claims (2)

  1. ポリフッ化ビニリデン多孔膜において、IR測定により得られる763cm−1の吸光度(A763)及び840cm−1の吸光度(A840)から下式(1)によって計算されるRの値が1.5以上であることを特徴とするポリフッ化ビニリデン多孔膜。
    =A763/A840(1)
  2. ポリフッ化ビニリデン樹脂多孔膜を、寸法が固定されない状態で、160℃以下で熱処理することを特徴とする請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン多孔膜の製造方法。
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