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JP2007319990A - 球状黒鉛鋳鉄の切削加工方法、球状黒鉛鋳鉄、摺動部材及び油圧機器 - Google Patents

球状黒鉛鋳鉄の切削加工方法、球状黒鉛鋳鉄、摺動部材及び油圧機器 Download PDF

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JP2007319990A
JP2007319990A JP2006153415A JP2006153415A JP2007319990A JP 2007319990 A JP2007319990 A JP 2007319990A JP 2006153415 A JP2006153415 A JP 2006153415A JP 2006153415 A JP2006153415 A JP 2006153415A JP 2007319990 A JP2007319990 A JP 2007319990A
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spheroidal graphite
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Satoru Kubota
哲 窪田
Shoji Yamaguchi
祥司 山口
Shigeyuki Sakurai
茂行 櫻井
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Hitachi Construction Machinery Co Ltd
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Abstract

【課題】特殊な工具を用いることなく少ない工程で球状黒鉛鋳鉄表面の黒鉛を基地組織の塑性流動によって被覆することができる球状黒鉛鋳鉄の切削加工方法、この切削加工方法により加工された表面を持つ球状黒鉛鋳鉄、この球状黒鉛鋳鉄を用いた摺動部材及び油圧機器を提供する。
【解決手段】主切れ刃10及び副切れ刃11を有する少なくとも1つの工具5を球状黒鉛鋳鉄である被加工材7の表面に切り込ませ、工具5と被加工材7とを相対的に移動させて被加工材7の表面改質を行う切削加工方法であって、工具5と被加工材7との相対的な移動速度を600m/min以上として被加工材7の表面の黒鉛19を周囲の基地組織を流動させて形成した塑性流動層20で被覆することを特徴とする。
【選択図】 図4

Description

本発明は、球状黒鉛鋳鉄の表面改質を行うための切削加工方法、表面改質された球状黒鉛鋳鉄、その球状黒鉛鋳鉄を利用した摺動部材及び油圧機器に関する。
球状黒鉛鋳鉄を油圧機器の各種部品や部材として使用する場合、耐摩耗性、耐焼付き性、耐食性等が要求される。そのため、球状黒鉛鋳鉄部材の耐摩耗性、耐焼付き性、耐食性等を向上させるために、例えば、表面硬化熱処理、めっき、物理的蒸着、化学的蒸着、溶射、塗装など様々な表面処理が行われてきた。
また、球状黒鉛鋳鉄は組織中に球状の黒鉛を有するため、切削加工すると切削表面に多数の黒鉛が露出したり黒鉛が脱落して凹みが形成されたりし易い。球状黒鉛鋳鉄の内部には鋳巣が存在することもあるため、切削加工により内部の鋳巣が露出した部分も凹みとなる。これらの凹みは球状黒鉛部材の表面粗さを大きくする(表面が粗くなる)原因となる。
球状黒鉛鋳鉄の表面に露出した黒鉛については、表面処理被膜が完全に形成されない、あるいは被膜の密着力が弱いといった問題が生じる。例えば、めっき液と黒鉛は反応しないため、めっき被膜が形成されず、ピンホールなどの欠陥となって腐食進行の起点となり得る。また、黒鉛が酸素等と反応して気泡を発生し、これが被膜の膨れや剥離につながり機能上・外観品質上の問題となる。表面の凹み部分も被膜の厚み制御が困難になる等の問題を生じる。
加えて、球状黒鉛鋳鉄の表面を改質する他の方法として、砥石あるいは切削工具等を用いて塑性流動を起こさせる方法があり、切削工具(フライスカッタ)を用いて基地組織を塑性流動させる例が特許文献1等に開示されている。球状黒鉛鋳鉄のような比較的靭性の高い材料では、砥石を用いて研磨すると加工面の黒鉛は周囲の基地組織が塑性流動することによって被覆されるため、切削加工に比べて表面粗さが小さくなる。
また、球状黒鉛鋳鉄の表面付近の黒鉛を除去する方法として、脱炭熱処理、溶融塩中の電解、ショットブラストなどの方法も知られている。
特開2004−202562号公報
しかしながら、切削加工は加工能率が良い反面、研削加工と比較すると表面粗さが大きくなる。特に被加工材料が球状黒鉛鋳鉄である場合は、黒鉛が脱落することによる凹みが作られ易く、表面粗さはさらに大きくなる傾向にある。また、砥石を用いて研削する方法では、砥石の目詰まりや脱落等の問題があって切り込み量を大きくすることができないため加工能率は切削加工に劣る。
また、上記特許文献1の記載技術は、フライスカッタが負の軸方向すくい角を有していることで黒鉛の周囲にある基地組織を塑性流動させるものであり、切削加工するものではないため切り込み量を大きく確保することができない。したがって、工具(チップ)の形状が負のすくい角を持った特殊なものに限定され、このような工具に限定されるため通常の切削加工ほどの切り込み深さも確保できない。
また、脱炭熱処理、溶融塩中の電解、ショットブラスト等といった球状黒鉛鋳鉄の表面付近の黒鉛を除去する従来方法では、処理に長時間を要するのみならず、それぞれ脱炭剤、溶融塩、ショット球等の必要費用も少なからずかかる。さらに、脱炭後は球状黒鉛鋳鉄の表面に存在していた部分が凹みとなって表面粗さが大きくなるのみならず、黒鉛の抜け後が空孔として残ることでヤング率や疲労強度の低下など機械的性質の面でも問題が残る。
本発明の目的は、特殊な工具を用いることなく少ない工程で球状黒鉛鋳鉄表面の黒鉛を基地組織の塑性流動によって被覆することができる球状黒鉛鋳鉄の切削加工方法、この切削加工方法により加工された表面を持つ球状黒鉛鋳鉄、この球状黒鉛鋳鉄を用いた摺動部材及び油圧機器を提供することにある。
(1)上記目的を達成するために、本発明は、主切れ刃及び副切れ刃を有する少なくとも1つの工具を球状黒鉛鋳鉄の表面に切り込ませ、前記工具と球状黒鉛鋳鉄とを相対的に移動させて球状黒鉛鋳鉄の表面改質を行う切削加工方法で、前記工具と球状黒鉛鋳鉄との相対的な移動速度を600m/min以上として球状黒鉛鋳鉄表面の黒鉛を周囲の基地組織で被覆する。
(2)上記目的を達成するために、本発明は、主切れ刃及び副切れ刃を有する少なくとも1つの工具を球状黒鉛鋳鉄の表面に切り込ませ、前記工具と球状黒鉛鋳鉄とを相対的に移動させて球状黒鉛鋳鉄の表面改質を行う切削加工方法で、前記工具として主切れ刃のすくい角が0度以上のものを用いて前記工具と球状黒鉛鋳鉄との相対的な移動速度を600m/min以上3000m/min以下とし、主切れ刃により球状黒鉛鋳鉄の表面を切削加工しつつ、副切れ刃により球状黒鉛鋳鉄表面の基地組織を塑性流動させて黒鉛を周囲の基地組織で被覆する。
(3)上記(1)又は(2)の切削加工方法によって表面の黒鉛が周囲の基地組織に被覆された加工面を持つ球状黒鉛鋳鉄を形成する。
(4)上記(3)の球状黒鉛鋳鉄の前記加工面を被摺動部材との摺動面とした摺動部材を構成する。
(5)上記(4)の摺動部材を構成部材に有する油圧機器を構成する。
本発明によれば、特殊な工具を用いる必要がなく切削工程のみで球状黒鉛鋳鉄表面の黒鉛を基地組織の塑性流動によって被覆することができる。
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
本実施の形態に係る切削加工方法は、主切れ刃及び副切れ刃を有する少なくとも1つの工具(切削チップや切れ刃一体型のバイト等)を被加工材である球状黒鉛鋳鉄の表面に切り込ませ、切り込ませた工具と球状黒鉛鋳鉄とを相対的に移動させて球状黒鉛鋳鉄の表面改質を行うものであって、主切れ刃のすくい角が0度以上の工具を用いて工具と球状黒鉛鋳鉄との相対的な移動速度を600m/min以上とし、主切れ刃により球状黒鉛鋳鉄の表面を切削加工しつつ、副切れ刃により球状黒鉛鋳鉄表面の基地組織を塑性流動させて黒鉛を周囲の基地組織で被覆する球状黒鉛鋳鉄の切削加工方法である。
本実施の形態に係る切削加工方法を適用することができる球状黒鉛鋳鉄の組織に特別な制約はないが、基地組織にフェライトを有する球状黒鉛鋳鉄(例えばFCD400、FCD450、FCD600等)は基地組織の塑性流動が起こり易く、本切削方法の適用対象として特に好適である。また、切削加工の種類も、例えば旋削加工、フライス加工、中ぐり加工、穴あけ加工(ドリル加工)、エンドミル(ボールエンドミルを含む)加工等について本切削加工方法は適用可能である。
図1は本発明の切削加工方法を実施するための加工機械の一例を簡略的に表した模式図、図2は切削加工時における切削点近傍の拡大図である。
先に述べたように本切削加工方法は種々の切削加工で適用可能なものであるが、図1では一例としてフライス加工機を図示している。ホルダ30に複数の工具5を取り付けたフライスカッタ6を、その中心軸C周りにR方向に回転させ、球状黒鉛鋳鉄である被加工材7に所定の切り込み深さ分Hだけ工具5が干渉する高さ位置までフライスカッタ6を降下させた状態で、被加工材7が固定されたテーブル8をフライスカッタ6に向かうX方向に移動させてテーブル8の被加工材固定面9と平行な被加工材7の上面を平削する。
但し、フライス加工であっても図1に示した例のように被加工材における加工機テーブルと平行な面を平削する場合に限らず、中心軸がテーブルの被加工材固定面と平行な姿勢でフライスカッタを回転させテーブルの被加工材固定面と直交する側面を平削する場合もあるし、テーブルの中心軸が被加工材固定面に対して所定角度傾斜した姿勢でフライスカッタを回転させ、テーブルの被加工材固定面と所定角度傾斜した加工面を被加工材に形成する場合もある。また、フライスカッタに相対してテーブルが移動する場合に限らず、フライスカッタが移動する場合もあるし、移動方向によってテーブルが移動するかフライスカッタが移動するかが異なる場合もある。いわゆる五面加工機等を用いても本実施の形態の切削加工方法は実施可能である。
フライス加工の場合、被加工材と工具との相対移動速度は、フライスカッタの回転中心から工具の取り付け位置までの距離(フライスカッタの径に依存する)及びフライスカッタの回転速度、すなわち工具の周速に主に依存するが、厳密にはさらに送り量も関係する。
工具5は、少なくとも切れ刃部分が、例えば超硬合金、セラミックス、立方晶窒化硼素あるいはそれらの化合物又は混合物からなるものが適用でき、必要な場合、硬質被膜で表面を被覆したものも適用できる。また、工具はホルダ30と一体になっているものでも、ホルダ30にネジで取り付けたりロウ付けしたりして固定されるものでも良い。
なお、図1では工具5が複数設けられた場合を例に挙げて説明したが、工具5を1つだけ設ける場合も考えられる。特にフライス加工では複数の工具を設けることが一般的だが、旋削や中ぐり加工では1つのホルダに工具が1つだけ取り付く場合も多い。ドリルでは、先端にチップ等の切れ刃が複数取り付けられる場合もあるが、切れ刃としての工具は複数の切れ刃が螺旋状又は放射状に形成される場合もある。エンドミルも一般に螺旋状又は放射状に複数の切れ刃が形成されている場合が多い。
また、工具5の切れ刃のすくい角αは0°以上である。切削点Oを原点にとり、切削点Oを通り被加工材7の被加工面13に直交する方向に延びる面Lに対して切削方向(図2中の矢印参照)と反対方向を正にとった場合、すくい角αが正となる。つまり、図2に示したように、工具5の主切れ刃10の切れ刃部分のすくい面12は、刃先に近付くにつれて切削方向前方側に傾斜している。これにより工具5はフライスカッタ6の回転に伴って図2に示す切削方向に移動し、球状黒鉛鋳鉄である被加工材7を切削する。また、工具5は少なくとも1つの副切れ刃(図2では副切れ刃11)を有している。
また、切り込み深さHは0.2mmから5mmとすることができる。切り込み深さHの設定が0.2mm未満では被加工材7の表面や工具5やそのホルダの塑性変形により切削加工自体が難しく、一般に5mm以上では切削抵抗が著しく高くなるため加工機械の負荷が大きくなってしまう。
また、工具5と被加工材7の相対移動方向とほぼ直交する方向への一刃当たりの移動量つまり送り量は、目的とする表面粗さの程度にもよるが、例えば0.01mmから1.0mm程度が一つの好適な範囲として例示できる。0.01mm未満では加工距離、つまり被加工面の切削加工完了までの球状黒鉛鋳鉄に対する工具の総移動距離が長くなり加工効率が悪く、工具5の損傷も招き易い。一方、1.0mmを超えると切削抵抗の増大により加工機械の負荷が大きくなり、表面粗さも大きくなってしまう。
ここで、例えば旋削加工で平面を加工する場合、通常、テーブル又はチャックに固定した被加工材を回転させ、所定の切り込み深さが得られる位置にセットされた工具を被加工材の回転中心に向かう方向に移動させる、又は被加工材の中心から遠ざかる方向に移動させる。被加工材側を移動させることも場合によっては考えられる。旋削加工で円柱又はスリーブ状の被加工材の外径面又はスリーブ上の被加工材の内径面を加工する場合、通常、テーブル又はチャックに固定した被加工材を回転させ、所定の切り込み深さが得られる位置にセットされた工具を被加工材の回転軸に沿う方向に移動させる。被加工材側を移動させることも場合によっては考えられる。中ぐり加工で円筒状の被加工材の内径面を加工する場合も同様である。
旋削加工や中ぐり加工の場合、被加工材と工具との相対移動速度は、切削点と被加工材の回転中心からの距離及び被加工材の回転速度、すなわち切削速度に主に依存するが、厳密にはさらに送り量も関係する。旋削加工で平面加工をする場合で被加工材の回転速度が加工中に変化しないとき、被加工材の回転中心から切削点までの距離が変化することにより被加工材と工具との相対移動速度が変化する。切削速度が一定となるように切削点の位置によって被加工材の回転速度が変化するようにすることも考えられるが、加工中の被加工材の回転速度を変化させられない場合には、切削点が被加工材の回転中心に最も近いときの被加工材と工具との相対移動速度、つまり最も遅い切削速度を600m/min以上に設定する必要がある。
穴あけ加工(ドリル加工)やエンドミル加工の場合、ドリルやエンドミルを回転させ、被加工材に対してドリルを差し込んだりエンドミルを加工面に沿わせて移動させたりする。通常は被加工材に対してドリルやエンドミルが移動する場合が多いが、被加工材側を工具に対して移動させる場合も考えられる。
また、穴あけ加工(ドリル加工)やエンドミル加工の場合、被加工材と工具との相対移動速度は、工具の回転速度と工具の径、すなわち工具の切れ刃部分の周速に主に依存するが、厳密にはさらに送り量も関係する。
図3は本実施の形態の切削加工方法により切削加工中の被加工材(球状黒鉛鋳鉄)7の様子をモデル化して表した模式図、図4は本実施の形態の切削加工方法による切削加工後の被加工材(球状黒鉛鋳鉄)7の加工面をモデル化して表した模式図である。
図3及び図4に示した例は、工具5と被加工材7との相対移動速度を600m/min以上、例えば800m/minに設定して切削加工したものである。図3及び図4の例では、工具5が被加工材7に対して相対的に移動することによって球状黒鉛鋳鉄の基地組織7aの表層の組織が工具5の副切れ刃11に伴うことで塑性流動が起こり、仮に塑性流動が起こらなければ加工面に露出したであろう黒鉛19が基地組織7aの塑性流動層20により被覆されている。これにより、切削加工後、図4に示したように球状黒鉛鋳鉄の表面(加工面)は塑性流動層20に覆われ、黒鉛19が脱落したり表面に露出したりすることがない。
図5は比較例として従来方法で切削加工した後の被加工材(球状黒鉛鋳鉄)の加工面をモデル化して表した模式図である。
この比較例は、工具5と被加工材7との相対移動速度を600m/minよりも遅い速度、例えば200m/min程度の条件で切削加工したものである。この図5に例示したように、工具5の相対移動速度が200m/min程度の条件で球状黒鉛鋳鉄を切削加工した場合、被加工材7の表層には工具5の副切れ刃11による塑性流動が誘起されず、加工面には、切削された黒鉛19が露出した箇所や、切削時の衝撃により一部が脱落した黒鉛19が露出した箇所、或いは切削時に黒鉛19が脱落して凹み18が生じた箇所等が散見されるのが通常である。
なお、図5は従来方法で加工した球状黒鉛鋳鉄の断面に生じ易い代表的な現象を抽出して並べたモデルであり、実際に得られた加工面を忠実に模式化したものではない。
ここで、図2に示したような工具を用いて球状黒鉛鋳鉄の加工面に良好な塑性流動層を形成させるための工具と被加工材との相対移動速度の範囲について検討する。
図6は工具と被加工材との相対移動速度による加工面の表面高さ曲線の違いを示したものである。
図6では、工具と被加工材との相対移動速度を150m/min、200m/min、400m/min、600m/min、800m/minと上昇させていき、その表面高さを表面粗さ測定器等によって測定した結果であり、各曲線は加工面の表面形状(表面の凹凸形状)を表している。表面形状の測定方向は工具の切削方向と直交する向きである。
図6に示したように、工具と被加工材との相対移動速度が150m/min、200m/min、400m/min程度のとき、球状黒鉛鋳鉄からなる被加工材の加工面に黒鉛の脱落や欠損が原因とみられる極端に低い局所的な凹み部分(図6中に○で囲んだ部分)が生じる。しかし、凹み部分が生じる条件の中でも、150m/min、200m/min、400m/minと工具と被加工材の相対移動速度が上昇するにつれて凹み部分の深さは浅くなっていくのが判る。
さらに昇速して被加工材に対する工具の移動速度が600m/min程度になると、僅かに表面の粗さは残るものの極端に低い凹み部分が局所的に発生するということがなくなり、黒鉛の脱落や欠損の発生が抑制されている。これは加工面の広い範囲が基地組織の塑性流動層に覆われたことによる結果とみられる。そして、さらに800m/minまで工具の被加工材に対する相対移動速度が上昇すると、被加工材の加工面の形状は、工具の一刃当たりの切削方向と直交する方向への移動量(送りピッチ)により形成される規則的な形状が支配的であることを確認することができる。工具の被加工材に対する移動速度が800m/minの条件下では、特別な凹みも見受けられず概ね一様な表面形状が得られ、加工面のほぼ全面が基地組織の塑性流動層に覆われたものとみられる。
このように、黒鉛の脱落や欠損が原因とみられる加工面の局所的な凹みの発生は、工具の被加工材に対する相対移動速度を上げていくと、600m/min位から抑制され始める。つまり、工具と被加工材との相対的な移動速度を600m/min以上に設定することにより、基地組織の塑性流動層の形成が安定し始めることから塑性流動層に概ね覆われた加工面を得ることができる。
また、工具の被加工材に対する相対速度が600m/minの条件下では、400m/min以下の条件下における加工面に比して局所的な凹みこそ見受けられないが、加工面の高さに多少のばらつきが見られる。それに対して、工具の被加工材に対する相対速度が800m/minの条件下では、局所的な凹みが見受けられないのは勿論のこと、加工面の高さのばらつきもほとんどなく、良好な塑性流動層が形成される。したがって、安定した塑性流動層を確実に得るという点では、工具と被加工材との相対的な移動速度を800m/min以上に設定することが好ましい。
なお、上記のように工具と被加工材との相対的な移動速度が600m/min以上の領域では良好な塑性流動層が得られるが、一般的な加工機械や工具を用いた場合、工具と被加工材との相対的な移動速度が3000m/minを超えると切削動力や工具損傷が著しくなるため切削加工自体が困難となる。したがって、工具と被加工材との相対的な移動速度の上限値は3000m/minに設定することができる。
また、図7に示したように、例えばフライスカッタに負のすくい角βを持つ工具1を取り付けた場合を考える。この工具1のようにすくい角が0°より小さいと、被加工材2の表層組織を塑性流動させる効果が得られ易く、被加工材2の表面に存在する鋳巣などの凹み欠陥の周辺の材料を塑性流動層で被覆して凹みをなくすことができる。
しかしながら、図7に示した工具1では、被加工材2の表層組織を塑性流動させることには適しているが、切れ味が悪くなりほとんど被加工材2を切削することはできない。当然ながら、切り込み量を大きく確保することもできない。
本実施の形態の場合、上記した600m/min以上(好ましくは800〜3000m/min)に工具の被加工材に対する移動速度を設定することで、正のすくい角を有する通常の工具を用い、必要量な切り込み深さ分の切削加工を行うのと同時に良好な塑性流動層を被加工材の表面に形成させることができる。したがって、図7に例示したような特別な形状の切削工具や砥石を使用しなくても、通常の工具を用いた切削加工によって良好な塑性流動層を得ることができ、研削加工で得られる研磨面と同等の加工面を得ることができる。また、良好な仕上げ面荒さが要求されるような加工面の加工工程において研削加工工程を省略することができ、研削加工機や砥石等のコストや加工時間を削減することもできるとともに、本実施の形態の切削加工方法による加工面を摺動面として用いることにより、摺動部材やそれを用いた機器の長寿命化、高機能化を図ることができる。
また、本実施の形態の切削加工方法により制作された球状黒鉛鋳鉄は、加工面に黒鉛の脱落や欠損による凹みの発生がないか極力抑制されるため、凹み部分の縁部等に局所摩耗が発生することが抑制される。加えて、基地組織が塑性変形し加工硬化した高硬度の塑性流動層で加工面が被覆されるので、加工面を摺動部材の摺動面に利用する場合等において摺動面の耐摩耗性が向上する。
また、本実施の形態の切削加工方法により得られた加工面は、黒鉛の脱落による凹みが作られず表面粗さも小さいため、加工面にめっき等の表面被覆を行う際に、被膜厚みのコントロールも容易となる。
さらに、工具により切削された黒鉛が周囲の基地組織で被覆されるため、脱炭熱処理等によって加工面を表面処理するにあたって、前処理としての炭素除去工程が不要となる。例えば、ガス軟窒化処理の場合、本実施の形態で得られた加工面では黒鉛が露出せず基地組織で覆われているため、一面に硬化層を形成することができる。表面被覆の場合も、本実施の形態で得られた加工面では黒鉛が露出せず基地組織で覆われているため、表面処理被膜が形成され難いといった問題が発生しづらい。また、本実施の形態で得られた加工面の表層付近は脱炭された訳ではなく、基地組織の下に黒鉛が埋没しているため、組織中の黒鉛を利用する熱処理も問題なく実施することができる。
また、本実施の形態の切削加工方法によって切削加工した球状黒鉛鋳鉄は、その加工面を被摺動部材と接する摺動面として好適に活用することができ、摺動部材としての利用価値が高い。したがって、この種の摺動部材が構成部材として必要とされる油圧シリンダや油圧ポンプ、油圧モータ等に代表される油圧機器の製作にも大きく貢献する。その他、本実施の形態の切削加工方法で摺動面を切削加工した摺動部材を、軸受等の摺動部材に用いることも考えられる。
本実施の形態の切削加工方法で制作された摺動部材を構成部材として有する油圧機器の一例として、油圧ポンプ100の構成部材である摺動部材101に本実施の形態の切削加工方法で加工した球状黒鉛鋳鉄を用いた場合を図8に示した。図8の構成例では、摺動部材101における本実施の形態による加工面を被摺動部材102と接する摺動面101aに用いている。
先に図1及び図2に示したフライス加工機を用い、工具5の移動速度を変えて球状黒鉛鋳鉄を切削加工した。
工具5の被加工材7に対する加工速度以外の切削条件は、一刃あたりの送りが0.1mm/tooth、切り込み深さHが2mm、切削雰囲気がドライである。また、切削に用いた工具5はPVDコーティングされた超硬合金製ですくい角αが16.5°、フライスカッタ30の直径は100mmである。
図9(a)〜図9(c)は工具5の被加工材7に対する移動速度の違いによる被加工材7の加工面の表面状態の違いを比較したものである。
工具5の被加工材7に対する移動速度は、図9(a)が200m/min、図9(b)が400m/min、図9(c)が800m/minである。
図9(a)から分かるように、工具5の被加工材7に対する移動速度が200m/minの条件下では、被加工材7の加工表面に露出した黒鉛や黒鉛脱落による凹み(黒く見える箇所)が広範囲に観察される。工具5の被加工材7に対する移動速度が400m/minの条件下でも、図9(b)に示したように一部に基地組織の塑性流動が見られるものの表面に露出した黒鉛や黒鉛脱落による凹みもまだ多く観察される。
それに対し、工具5の被加工材7に対する移動速度が本発明の切削加工方法に該当する800m/minの条件下では、図9(c)に示したように加工面全体にわたって基地組織の塑性流動が見られ、表面に露出した黒鉛や黒鉛脱落による凹みは観察されない。
上記実施例1と工具5及びフライスカッタ6を変えて球状黒鉛鋳鉄を切削加工した。
本例において、工具5のすくい角αは13.0°、工具5を取り付けるフライスカッタの直径は80mmである。その他の切削条件は実施例1と同様である。
図10(a)〜図10(c)は工具5の被加工材7に対する移動速度の違いによる被加工材7の加工面の表面状態の違いを比較したものである。
工具5の被加工材7に対する移動速度は、図10(a)が200m/min、図10(b)が400m/min、図10(c)が800m/minである。
図10(a)から分かるように、工具5の被加工材7に対する移動速度が200m/minの条件下では、被加工材7の加工表面に露出した黒鉛や黒鉛脱落による凹み(黒く見える箇所)が広範囲に観察される。工具5の被加工材7に対する移動速度が400m/minの条件下でも、図10(b)に示したように一部に基地組織の塑性流動が見られるものの表面に露出した黒鉛や黒鉛脱落による凹みもまだ多く観察される。
それに対し、工具5の被加工材7に対する移動速度が本発明の切削加工方法に該当する800m/minの条件下では、図10(c)に示したように加工面全体にわたって基地組織の塑性流動が見られ、表面に露出した黒鉛や黒鉛脱落による凹みは観察されない。
このように、本例では実施例1よりすくい角αが小さな工具5を使用したが、切削加工によって得られる表面状態と工具5の移動速度との関係は実施例1とほぼ同様の傾向であった。実施例1,2によっても、塑性流動を積極的に生じさせることにより得られる加工面の表面状態は工具の被加工材に対する相対移動速度に大きく依存することを確認することができる。
本発明の切削加工方法を実施するための加工機械の一例を簡略的に表した模式図である。 切削加工時における切削点近傍の拡大図である。 本発明の一実施の形態に係る切削加工方法により切削加工中の被加工材の様子をモデル化して表した模式図である。 本発明の一実施の形態に係る切削加工方法による切削加工後の被加工材の加工面をモデル化して表した模式図である。 比較例として従来方法で切削加工した後の被加工材の加工面をモデル化して表した模式図である。 工具と被加工材との相対移動速度による加工面の表面高さ曲線の違いを示している。 負のすくい角を持つ工具を表した図である。 本発明の一実施の形態に係る切削加工方法で制作された摺動部材を構成部材として有する油圧機器の構成例を表す断面図である。 実施例1において工具の被加工材に対する移動速度の違いによる被加工材の加工面の表面状態の違いを比較した写真である。 実施例2において工具の被加工材に対する移動速度の違いによる被加工材の加工面の表面状態の違いを比較した写真である。
符号の説明
1 工具
2 被加工材
5 工具
6 フライスカッタ
7 被加工材
7a 基地組織
8 テーブル
9 被加工材固定面
10 主切れ刃
11 副切れ刃
12 すくい面
13 被加工面
18 凹み
19 黒鉛
20 塑性流動層
30 ホルダ
100 油圧ポンプ
101 摺動部材
101a 摺動面
102 被摺動部材
C 中心軸
H 切り込み深さ分
O 切削点
R 回転方向
α すくい角
β すくい角

Claims (5)

  1. 主切れ刃及び副切れ刃を有する少なくとも1つの工具を球状黒鉛鋳鉄の表面に切り込ませ、前記工具と球状黒鉛鋳鉄とを相対的に移動させて球状黒鉛鋳鉄の表面改質を行う切削加工方法であって、
    前記工具と球状黒鉛鋳鉄との相対的な移動速度を600m/min以上として球状黒鉛鋳鉄表面の黒鉛を周囲の基地組織で被覆する
    ことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄の切削加工方法。
  2. 主切れ刃及び副切れ刃を有する少なくとも1つの工具を球状黒鉛鋳鉄の表面に切り込ませ、前記工具と球状黒鉛鋳鉄とを相対的に移動させて球状黒鉛鋳鉄の表面改質を行う切削加工方法であって、
    前記工具として主切れ刃のすくい角が0度以上のものを用いて前記工具と球状黒鉛鋳鉄との相対的な移動速度を600m/min以上3000m/min以下とし、主切れ刃により球状黒鉛鋳鉄の表面を切削加工しつつ、副切れ刃により球状黒鉛鋳鉄表面の基地組織を塑性流動させて黒鉛を周囲の基地組織で被覆する
    ことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄の切削加工方法。
  3. 請求項1又は2の切削加工方法によって表面の黒鉛が周囲の基地組織に被覆された加工面を持つ球状黒鉛鋳鉄。
  4. 請求項3の球状黒鉛鋳鉄の前記加工面を被摺動部材との摺動面とした摺動部材。
  5. 請求項4の摺動部材を構成部材に有する油圧機器。
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