光記録媒体にレーザ光を照射し、光記録媒体に光学的に情報を記録し、かつ、光記録媒体に記録された情報を再生する光ディスク装置(光学式情報記録再生装置)が普及している。光学式情報記録再生装置における記録密度は、光ヘッド装置が光記録媒体上に形成する集光スポットの径の2乗に反比例する。すなわち、集光スポットの径が小さいほど記録密度は高くなる。集光スポットの径は、光ヘッド装置における光源の波長に比例し、対物レンズの開口数に反比例する。すなわち、光源の波長が短く対物レンズの開口数が高いほど集光スポットの径は小さくなる。
記録・再生に用いられるレーザ光の光源の波長、及び、対物レンズの開口数は、記録・再生の対象となる光記録媒体によって異なる。容量650MBのCD(コンパクトディスク)規格では、光源の波長は約785nmであり、対物レンズの開口数は0.45である。また、容量4.7GBのDVD(ディジタルバーサタイルディスク)規格では、光源の波長は約660nmであり、対物レンズの開口数は0.6である。更に、近年提案ないし実用化されている、容量15GB〜20GBのHD DVD(ハイデンシティディジタルバーサタイルディスク)規格では、光源の波長は約405nmであり、対物レンズの開口数は0.65である。また、容量23.3GB〜27GBのBD(ブルーレイディスク)規格では、光源の波長は約405nmであり、対物レンズの開口数は0.85である。
ところで、光学式情報記録再生装置では、光記録媒体が対物レンズに対して傾くと、コマ収差によって集光スポットの形状が乱れ、記録再生特性が悪化する。コマ収差は、光源の波長に反比例し、対物レンズの開口数の3乗及び光記録媒体の保護層の厚さに比例する。このため、光記録媒体の保護層の厚さが同じ場合には、光源の波長が短く、対物レンズの開口数が高いほど、記録再生特性に対する光記録媒体の傾きのマージンは狭くなる。この問題を回避するため、記録密度を高めるために光源の波長を短く、対物レンズの開口数を高くした規格では、光記録媒体の保護層の厚さを必要に応じて薄くし、記録再生特性に対する光記録媒体の傾きのマージンを確保している。CD規格におけるディスクの保護層の厚さは1.2mmであり、DVD規格におけるディスクの保護層の厚さは0.6mmである。また、HD DVD規格におけるディスクの保護層の厚さは0.6mmであり、BD規格におけるディスクの保護層の厚さは0.1mmである。
上記のように、光記録媒体としては種々の規格の媒体が存在するが、光ヘッド装置や光学式情報記録再生装置には、規格が異なる複数のディスクに対して記録や再生を行うことができる機能が求められている。DVD規格及びCD規格の何れのディスクに対しても記録・再生を行うことができる光ヘッド装置は既に実用化されている。また、HD DVD規格、BD規格、DVD規格、及び、CD規格の何れのディスクに対しても記録・再生を行うことができる光ヘッド装置も提案されている。
複数規格のディスクを記録・再生するための光ヘッド装置で、対物レンズが単一の波長及び保護層の厚さに対して球面収差を打ち消すように光学系が設計されていると、設計とは異なる波長及び保護層の厚さの規格のディスクに対しては球面収差が残留し、その規格のディスクに対しては、正しく記録・再生を行うことができない。このため、複数規格のディスクに対応した光ヘッド装置では、対物レンズが複数の波長及び保護層の厚さに対して球面収差を打ち消すように光学系が設計されている。複数の波長及び保護層の厚さに対して球面収差を打ち消すための手法としては、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いる手法や、波長及び保護層の厚さに応じて対物レンズの倍率を変化させる手法、或いは、それらを組み合わせる手法がある。
DVD規格、CD規格の何れのディスクに対しても記録・再生を行うことができる従来の光ヘッド装置としては、特許文献1に記載された光ヘッド装置がある。図7は、特許文献1に記載された従来の光ヘッド装置の構成を示している。この光ヘッド装置200は、DVD規格のディスクの記録・再生に用いられる、波長約660nmの半導体レーザ201と、CD規格のディスクの記録・再生に用いられる、波長約785nmの半導体レーザ202とを備えている。半導体レーザ201又は202から出射された光は、ダイクロイックプリズム203、ビームスプリッタ205、及び、コリメータレンズ206を介して、対物レンズ207に入射する。対物レンズ207は、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズとして構成されており、入射するレーザ光をディスク208上に集光する。
ディスク208が、DVD規格のディスクであれば、半導体レーザ201が点灯され、半導体レーザ201からの出射光は、ダイクロイックプリズム203をほとんど全て透過し、ビームスプリッタ205で約50%が反射して、コリメータレンズ206で平行光化され、対物レンズ207により、ディスク208上に集光される。ディスク208からの反射光は、対物レンズ207、コリメータレンズ206を逆向きに通り、ビームスプリッタ205を約50%が透過し、光検出器204で受光される。
ディスク208がCD規格のディスクの場合には、半導体レーザ202が用いられる。半導体レーザ202からの出射光は、ダイクロイックプリズム203でほとんど全て反射し、ビームスプリッタ205で約50%が反射し、コリメータレンズ206で平行光化され、対物レンズ207により、ディスク208上に集光される。ディスク208からの反射光は、DVD規格の場合と同様に、対物レンズ207、コリメータレンズ206を逆向きに通り、ビームスプリッタ205を約50%が透過し、光検出器204で受光される。
屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズが、ある波長及び保護層の厚さに対して球面収差を打ち消すための条件は、波長をλ、屈折レンズによる球面収差をSAR(λ)、回折レンズによる球面収差をSAD(λ)、保護層による球面収差をSAP(λ)として、
SAR(λ)+SAD(λ)+SAP(λ)=0 (1)
で与えられる。屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズは、屈折と回折との2つの自由度を有するため、2つの波長に対し、対物レンズの倍率を変化させることなく上記式1を満たすように光学系を設計することができる。図7に示す構成では、λ=660nm、λ=785nmの2つの波長に対し、対物レンズ207の倍率が共に0の状態(対物レンズ207へ平行光が入射する状態)で式1を満たすように光学系が設計される。これは、対物レンズの倍率が0の状態では、対物レンズがトラックサーボの動作を行うためにディスクの半径方向へシフトしても、光学系に収差が発生しないためである。
DVD規格、CD規格に加えて、HD DVD規格或いはBD規格のディスクに対しても記録・再生を行うことができる光ヘッド装置においても、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いることができる。このような光ヘッド装置では、λ=405nm、λ=660nm、及び、λ=785nmの3つの波長に対して、上記式1を満たすように光学系を設計する必要がある。この場合、3つの波長のうちの2つに対しては、対物レンズの倍率を変化させることなく式1を満たすように光学系を設計することができる。しかし、もう1つの波長に対しては、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いるだけでは自由度が不足し、対物レンズの倍率を変化させずに式1を満たすように光学系を設計することはできない。
そこで、3つの波長に対応した光ヘッド装置では、対物レンズの倍率を変化させて、3つの波長について、式1を満たすように光学系を設計する。例えば、λ=405nm、λ=660nmの2つの波長に対しては、対物レンズの倍率が共に0の状態で式1を満たすように光学系を設計し、λ=785nmの波長に対しては、対物レンズの倍率が負の状態(対物レンズへ発散光が入射する状態)で式1を満たすように光学系を設計する。この場合、λ=785nmの波長に対しては、対物レンズの倍率が0でないため、対物レンズがトラックサーボの動作を行うためにディスクの半径方向へシフトすると、光学系に収差が発生することになるが、λ=405nm、λ=660nmの2つの波長に対しては、対物レンズの倍率が0であるため、対物レンズがトラックサーボの動作を行うためにディスクの半径方向へシフトしても、光学系に収差が発生しない。
再公表特許WO01/026103号公報
ここで、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いた光ヘッド装置では、ディスクに対して記録・再生を行う際に用いられる所望の回折光以外に、不要な回折光が発生する。図8に、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズにて発生する回折光を示す。例えば、1次回折光が所望の回折光であるとすると、0次回折光や2次回折光が不要な回折光となる。また、2次回折光が所望の回折光であるとすると、1次回折光や3次回折光が不要な回折光となる。所望の回折光より次数が低い不要な回折光は、所望の回折光より回折角が小さいため、対物レンズ207から遠い位置に集光する。これとは逆に、所望の回折光より次数が高い不要な回折光は、所望の回折光より回折角が大きいため、対物レンズ207に近い位置に集光する。
通常、光学式情報記録再生装置では、ディスクに対して記録や再生を行う際に、初めにフォーカスサーボの引き込み動作が行われる。フォーカスサーボの引き込み動作では、対物レンズをディスクから遠ざけておき、光検出器204でディスク208からの反射光を受光しつつ、対物レンズ207を徐々にディスク208へ近づけていく。この動作では、まず、ディスク208の表面からの反射光が光検出器204で受光され、ディスクの表面に対応した和信号及びフォーカス誤差信号が検出される。次いで、ディスクの記録面からの反射光が光検出器204で受光され、ディスクの記録面に対応した和信号及びフォーカス誤差信号が検出される。このフォーカス誤差信号に基づいてフォーカスサーボをかけることにより、ディスクの記録面へのフォーカスサーボの引き込み動作が正しく行われる。
しかし、対物レンズ207に、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いた場合には、不要な回折光の影響により、フォーカスサーボの引き込み動作が必ずしも正しく行われないという問題が発生する。以下、この問題について説明する。図9に、対物レンズとディスクの位置関係を示す。フォーカスサーボの引き込み動作では、対物レンズ207を、ディスク208から遠い側の位置から、ディスク208に近づく方向へと徐々に近付けていく。これにより、図9(a)、(b)、(c)の状態が、この順で出現する。
図9(a)は、往路(光が光源側からディスク208に向かう方向)において、対物レンズ207で所望の回折光として回折された光がディスク208の表面に集光している状態を示している。この状態では、ディスク208の表面からの反射光のうち、復路において対物レンズ207で所望の回折光として回折された光が光検出器204で受光され、ディスク208の表面に対応した和信号及びフォーカス誤差信号が検出される。また、図9(c)は、対物レンズ207がディスク208へ近づいていき、往路において、対物レンズ207で所望の回折光として回折された光がディスク208の記録面に集光している状態を示している。この状態では、ディスク208の記録面からの反射光のうち、復路において対物レンズ207で所望の回折光として回折された光が光検出器204で受光され、ディスク208の記録面に対応した和信号及びフォーカス誤差信号が検出される。
図9(b)は、対物レンズ207が、同図(a)に示す状態と同図(c)に示す状態との中間の位置にあり、往路における対物レンズ207の所望の回折光の集光位置と、所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光の集光位置との中間の位置に、ディスク208の記録面がある状態を示している。この状態では、往路において対物レンズ207で所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光として回折され、ディスク208の記録面で反射され、復路において対物レンズ207で所望の回折光として回折された光、及び、往路において対物レンズ207で所望の回折光として回折され、ディスク208の記録面で反射され、復路において対物レンズ207で所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光として回折された光の双方が光検出器204で受光される。これにより、集光スポットがディスク208の表面又は記録面に集光していない状態にもかかわらず、偽の和信号及びフォーカス誤差信号が検出される。
図10(a)及び(b)は、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いた場合のフォーカス引き込み時の和信号及びフォーカス誤差信号の変化の様子を示している。対物レンズ207をディスク208から遠ざけておき、徐々にディスク208へ近付けていくと、まず、図9(a)の状態が出現し、ディスク208の表面に対応した和信号115a(図10(a))、及び、フォーカス誤差信号116a(図10(b))が検出される。次いで、図9(b)の状態が出現し、偽の和信号115b、及び、フォーカス誤差信号116bが検出される。その後、図9(c)の状態が出現し、ディスク208の記録面に対応した和信号115c及びフォーカス誤差信号116cが検出される。
フォーカス引き込みでは、図9(b)の状態に対応する偽の和信号115bのレベル及びフォーカス誤差信号116bの振幅が大きく、ディスク208の表面に対応する和信号115aのレベル及びフォーカス誤差信号116aの振幅との差が小さいと、偽の和信号115b及びフォーカス誤差信号116bの位置を、記録面の位置と誤検出することがある。この場合には、偽のフォーカス誤差信号115bに基づいて、フォーカスサーボがかかり、ディスク208の記録面へフォーカスサーボを正しく引き込むことができない。このように、回折・屈折ハイブリッド型の対物レンズを用いた光ヘッド装置では、不要な回折光により、フォーカス引き込みを正しく行うことができないことがあるということが問題となる。
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いた光ヘッド装置で、不要な回折光の影響を受けずに、フォーカスサーボの引き込み動作を正しく行うことができる光ヘッド装置、及び、そのような光ヘッド装置を有する光ディスク装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の光ヘッド装置は、規格が異なる複数種類の光記録媒体に対応した複数個の光源と、回折格子が形成された屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズであって、前記複数個の光源のうちで選択された1つの光源から出射された出射光を、光記録媒体上に集光すると共に、前記光記録媒体からの反射光を前記出射光とは逆向きに透過する対物レンズと、前記光記録媒体からの反射光を前記対物レンズを介して受光する光検出器とを備え、前記回折格子における、前記光記録媒体に対して記録又は再生を行う際に用いられる所望の回折光の回折効率をηT、該所望の回折光より1つだけ次数が低い回折光の回折効率をηFとし、前記光記録媒体の記録面の反射率をRr、前記光記録媒体の表面の反射率をRsとしたとき、
(ηF/ηT)<(Rs/2Rr)
が成り立つことを特徴とする。
本発明の光ヘッド装置では、対物レンズに、回折格子が形成された屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用い、回折格子における所望の回折光の回折効率をηT、所望の回折光よりも1つだけ次数が低い回折光の回折効率をηF、光記憶媒体の記憶面の反射率をRr、表面の反射率をRsとして、(ηF/ηT)<(Rs/2Rr)が成立するように、回折格子を形成する。このようにすることで、不要な回折光が光記録媒体の記録面で反射して光検出器で受光される際の受光量を、所望の回折光が光記録媒体の表面で反射して光検出器で検出される際の受光量よりも少なくすることができる。このため、不要な回折光による偽の和信号及びフォーカス誤差信号を、誤って記録面での和信号及びフォーカス誤差信号と認識する事態を避けることができ、不要な回折光の影響を排除して、フォーカスサーボの引き込み動作を正しく行うことができる。
本発明の光ヘッド装置では、前記回折格子はブレーズ化されており、前記回折格子のブレーズ波長が、前記複数種類の光記録媒体に対応した複数種類の光の波長のそれぞれについて、前記(ηF/ηT)<(Rs/2Rr)を満たすように定められている構成を採用できる。ブレーズ化された回折格子では、光記録媒体の記録・再生に用いられる各波長での回折効率は、ブレーズ波長、及び、回折光の次数に依存して変化することになるが、光記録媒体の記録・再生に用いる回折光の所望の次数、及び、回折格子のブレーズ波長を、適切に設定することにより、全ての波長にて、(ηF/ηT)<(Rs/2Rr)を満たすように回折格子を形成することができ、サーボ引き込みを正しく行うことができる。
本発明の光ヘッド装置では、前記複数個の光源が、第1の波長の光を出射する第1の光源と、第2の波長の光を出射する第2の光源と、第3の波長の光を出射する第3の光源とを有する構成を採用できる。例えば、第1の光源は、HD DVDやBlu−Rayの規格の光記録媒体の記録・再生に用いられる波長約405nmの光源、第2の光源は、DVD規格の光記録媒体の記録・再生に用いられる波長約660nmの光源、第3の光源は、CD規格の光記録媒体の記録・再生に用いられる波長約780nmの光源として構成できる。
本発明の光ディスク装置は、上記本発明の光ヘッド装置と、前記複数個の光源を選択的に駆動する第1の回路系と、前記光検出器の出力から、再生信号、及び、前記光記憶媒体に形成された記録マークと集光スポットとの位置ずれを表す誤差信号を生成する第2の回路系と、前記対物レンズを、前記誤差信号に基づいて駆動する第3の回路系とを有することを特徴とする。
本発明の光ヘッド装置及び光ディスク装置では、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズに形成された回折格子における所望の回折光の回折効率をηT、所望の回折光よりも1つだけ次数が低い回折光の回折効率をηFとし、光記憶媒体の記憶面の反射率をRr、表面の反射率をRsとして、(ηF/ηT)<(Rs/2Rr)が成立するように、回折格子を形成する。このようにすることで、不要な回折光による偽の和信号のレベル、及び、フォーカス誤差信号の振幅を、それぞれ光記録媒体の表面に対応した和信号のレベル、及び、フォーカス誤差信号の振幅よりも小さくすることができる。これにより、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いながらも、不要な回折光による偽の和信号及びフォーカス誤差信号を、誤って記録面での和信号及びフォーカス誤差信号と認識する事態を避けることができ、不要な回折光の影響を排除して、フォーカスサーボの引き込み動作を正しく行うことができる。
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態の光ヘッド装置の構成を示している。光ヘッド装置100は、半導体レーザ101、コリメータレンズ102、回折光学素子103、偏光ビームスプリッタ104、凹レンズ105a、凸レンズ105b、1/4波長板106、開口制御素子107、対物レンズ108、円筒レンズ110、凸レンズ111、及び、光検出器112を備える。本実施形態では、記録・再生の対象となるディスク109として、HD DVD規格/BD規格、DVD規格、及び、CD規格のディスクを考える。
半導体レーザ101は、複数種類の規格のディスクの記録・再生に対応して、波長約405nmの半導体レーザ101a、波長約660nmの半導体レーザ101b、及び、波長約785nmの半導体レーザ101cを有する。また、コリメータレンズ102、回折光学素子103、及び、偏光ビームスプリッタ104は、3つの半導体レーザ101a、101b、101cに対応して、それぞれ、コリメータレンズ102a、102b、102c、回折光学素子103a、103b、103c、及び、偏光ビームスプリッタ104a、104b、104cを有する。
光ヘッド装置100では、3つの半導体レーザ101a、101b、101cのうちで、記録・再生の対称となるディスク109の規格に対応した波長の半導体レーザが点灯される。半導体レーザ101を出射した光は、コリメータレンズ102で平行光化され、回折光学素子103で、透過光、及び、±1次回折光の3つの光に分割される。これらの光は、偏光ビームスプリッタ104にS偏光として入射し、ほとんど全て反射して、凹レンズ105a側に進行方向を変える。凹レンズ105a及び凸レンズ105bを透過した光は、1/4波長板106で直線偏光から円偏光に変換され、開口制御素子107を透過して、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズ108により、ディスク109上に集光される。
ディスク109からの反射光は、対物レンズ108、開口制御素子107を、往路とは逆向きに通り、1/4波長板106で、円偏光から、往路における直線偏光の偏光方向と直交した方向の直線偏光に変換される。1/4波長板106で直線偏光に変換された反射光は、凸レンズ105b及び凹レンズ105aを透過し、偏光ビームスプリッタ104にP偏光として入射して、ほとんど全てが透過し、円筒レンズ110及び凸レンズ111を介して、光検出器112で受光される。
本実施形態の光ヘッド装置100では、λ=405nm、λ=660nmの2つの波長に対しては、対物レンズ108の倍率が共に0の状態(対物レンズ108へ共に平行光が入射する状態)で式1を満たすように光学系が設計されている。また、λ=785nmの波長に対しては、対物レンズ108の倍率が負の状態(対物レンズ108へ発散光が入射する状態)で式1を満たすように光学系が設計されている。対物レンズ108の倍率の変化には、凹レンズ105a及び凸レンズ105bで構成されるエキスパンダレンズが用いられる。
例えば、ディスク109がHD DVD規格又はVD規格のディスクであれば、凹レンズ105aと凸レンズ105bとの間の間隔を、半導体レーザ101aから出射して凹レンズ105aに平行光として入射する波長405nnの光が、凸レンズ105bから平行光として出射し、対物レンズ108に入射するように制御する。また、ディスク109がDVD規格のディスクであれば、凹レンズ105aと凸レンズ105bとの間の間隔を、半導体レーザ101bから出射して凹レンズ105aに平行等として入射する波長660nmの光が、凸レンズ105bから平行光として出射し、対物レンズ108に入射するように制御する。ディスク109がCD規格のディスクであれば、凹レンズ105aと凸レンズ105bとの間の間隔を、半導体レーザ101cから出射して凹レンズ105aに平行光として入射する波長785nnの光が、凸レンズ105bから適切な広がり角を持つ発散光として出射し、対物レンズ108に入射するように制御する。
対物レンズの開口数は、ディスクの規格ごとに異なっており、HD DVD規格で0.65、BD規格では0.85、DVD規格では0.6、CD規格では0.45である。光ヘッド装置100では、開口制御素子107により、記録・再生の対象となるディスク109の種別に応じて、対物レンズ108の開口数を制御する。図2は、開口制御素子を平面図で示している。開口制御素子107は、ガラス基板上に誘電体多層膜が形成された構成を有し、2つの同心円により領域117a〜117cの3つの領域に分割されている。なお、図中に点線で示す円の直径は、対物レンズ108の有効径に相当する。
領域117a〜117cには、互いに異なる誘電体多層膜が形成される。領域117aに形成される誘電体多層膜は、波長405nm、660nm、及び、785nmの光を全て透過させる働きを有する。領域117bに形成される誘電体多層膜は、波長405nm及び660nmの光を透過させ、波長785nmの光を反射させる働きを有する。領域117cに形成される誘電体多層膜は、波長405nmの光を透過させ、波長660nm及び785nmの光を反射させる働きを有する。
波長405nmの光は、開口制御素子107の領域117a、117b、117cを全て透過する。従って、波長405nmの光に対する対物レンズ108の開口数は、対物レンズの有効直径によって決まり、0.65又は0.85に設定される。波長660nmの光は、領域117a、117bの内部のみを透過するため、波長660nmの光に対する対物レンズ108の開口数は、領域117bの外径によって決まり、0.6に設定される。波長785nmの光は、領域117aの内部のみを透過するため、波長785nmの光に対する対物レンズ108の開口数は、領域117aの外径によって決まり、0.45に設定される。
図3は、光検出器112における受光部のパタンと受光部上の光スポットの配置とを示している。同図に示す光スポット118aは、回折光学素子103からの透過光に相当し、ディスク109の半径方向に対応する分割線、及び、接線方向に対応する分割線で4つに分割された受光部119a〜119dで受光される。光スポット118bは、回折光学素子103からの+1次回折光に相当し、ディスク109の半径方向に対応する分割線で2つに分割された受光部119e、119fで受光される。光スポット118cは回折光学素子103からの−1次回折光に相当し、ディスク109の半径方向に対応する分割線で2つに分割された受光部119g、119hで受光される。ここで、円筒レンズ110の作用により、ディスク109の半径方向に対応する方向と接線方向に対応する方向とは、受光部上では、互いに入れ替わっている。
受光部119a〜119hからの出力をそれぞれV119a〜V119hと表すと、和信号は、(V119a+V119b+V119c+V119d)の演算から得られる。また、フォーカス誤差信号は、公知の非点収差法により、(V119a+V119d)−(V119b+V119c)の演算から得られる。ディスク109が再生専用型のディスクである場合、トラック誤差信号は、公知の位相差法により、(V119a+V119d)と(V119b+V119c)との位相差から得られる。ディスク109が追記型又は書換可能型のディスクである場合には、トラック誤差信号は、公知の差動プッシュプル法により、(V119a+V119b)−(V119c+V119d)−K{(V119e+V119g)−(V119f+V119h)}(ただし、Kは定数)の演算から得られる。ディスク109に記録されたRF信号は、(V119a+V119b+V119c+V119d)の高周波成分から得られる。
屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズ108を用いた光学式情報記録再生装置で、不要な回折光の影響を受けずに、フォーカスサーボの引き込み動作を正しく行うためには、図9(b)に示す状態における和信号(図10(a)の115b)のレベルと、フォーカス誤差信号(図10(b)の116b)の振幅とが、図9(a)に示す状態における和信号(図10(a)の115a)のレベル、及び、フォーカス誤差信号(図10(b)の116a)の振幅よりもそれぞれ小さければよい。和信号及びフォーカス誤差信号は、上記のように、光検出器112で受光される光から生成され、そのレベル及び振幅は、受光量に比例した値となる。従って、図9(b)の状態での光検出器112での受光量が、図9(a)の状態での光検出器112での受光量よりも少なくなるように、光学系を設計すればよい。
所望の回折光の回折効率をηT、所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光の回折効率をηF、ディスク109の記録面の反射率をRrとすると、往路において対物レンズ108で所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光として回折され、ディスク109の記録面で反射され、復路において対物レンズ108で所望の回折光として回折された光に対する光検出器112の受光量(図9(b)の状態での受光量)は、ηF×Rr×ηTに比例する。また、往路において対物レンズ108で所望の回折光として回折され、ディスク109の記録面で反射され、復路において対物レンズ108で所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光として回折された光に対する光検出器112の受光量はη、T×Rr×ηFに比例する。
一方、往路において対物レンズ108で所望の回折光として回折され、ディスク109の表面で反射され、復路において対物レンズ108で所望の回折光として回折された光に対する光検出器112の受光量(図9(a)の状態での受光量)は、ディスク109の表面の反射率をRsとすると、ηT×Rs×ηTに比例する。従って、図9(b)の状態での和信号のレベル及びフォーカス誤差信号の振幅が、それぞれ、図9(a)の状態での和信号のレベル及びフォーカス誤差信号の振幅よりも小さくなるための条件は、
ηF×Rr×ηT+ηT×Rr×ηF<ηT×Rs×ηT
で与えられる。上記式を変形すると、
(ηF/ηT)<(Rs/2Rr) (2)
と表すことができる。
波長405nmの光に対しては、HD DVD規格又はBD規格の中で、HD DVD−ROM規格におけるディスクの記録面の反射率が40%〜70%の範囲内であることから、式2におけるRrは、Rr≧0.4となる。また、ディスクの保護層の屈折率は約1.62であり、式2におけるRsは、Rs=(1.62−1)2/(1.62+1)2=0.056となる。このことから、(Rs/2Rr)は、0.056/(2×0.4)=0.07となり、下記式3が得られる。
ηF/ηT<0.07 (3)
波長660nmの光に対しては、DVD規格の中で、DVD−ROM規格におけるディスクの記録面の反射率が45%〜85%の範囲内であることから、式2におけるRrは、Rr≧0.45となる。また、ディスクの保護層の屈折率は約1.58であり、式2におけるRsは、Rs=(1.58−1)2/(1.58+1)2=0.0505となる。このことから、(Rs/2Rr)は、0.0505/(2×0.45)=0.056となり、下記式4が得られる。
ηF/ηT<0.056 (4)
波長785nmの光に対しては、CD規格の中で、CD−ROM規格におけるディスクの記録面の反射率が70%以上であることから、式2におけるRrは、Rr≧0.7となる。また、ディスクの保護層の屈折率が約1.58であることから、式2におけるRsは、Rs=(1.58−1)2/(1.58+1)2=0.0505となる。このことから、(Rs/2Rr)は、0.0505/(2×0.7)=0.036となり、下記式5が得られる。
ηF/ηT<0.036 (5)
対物レンズ108に形成されている回折格子はブレーズ化されている。回折格子におけるブレーズ波長をλ0、対物レンズ108への入射光の波長をλとし、簡単のために対物レンズ108の屈折率の波長依存性を無視すると、対物レンズ108におけるm次の回折光の回折効率は、下記式6で与えられる。
ηm(λ)=sin2[π(λ0/λ−m)]/[π(λ0/λ−m)]2 (6)
図4は、回折効率の計算結果の一例を示している。この例では、ブレーズ波長λ0は500nmに設定されている。グラフ横軸は、入射光の波長を、縦軸は回折効率を示している。式6により計算した、0次、1次、2次の回折光に対する回折効率を、グラフ(a)〜(c)に示す。ここで、波長405nm、660nm、785nmの光に対して、それぞれ1次の回折光を所望の回折光として用いるとすると、所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光は、それぞれ0次の回折光となる。この場合、波長405nmの光に対しては、グラフ(b)よりηT=0.832、グラフ(a)よりηF=0.03であるため、ηF/ηT=0.036となり、式3が成り立つ。しかしながら、波長660nmの光に対しては、ηT=0.821、ηF=0.084であるため、ηF/ηT=0.102となり、式4が成り立たない。また、波長785nmの光に対しては、ηT=0.635、ηF=0.206であるため、ηF/ηT=0.325となり、式5が成り立たない。
図5は、回折効率の計算結果の別の例を示している。この例では、ブレーズ波長λ0は、760nmに設定されている。波長405nm、660nm、785nmの光に対し、それぞれ2次、1次、1次の回折光を所望の回折光として用いるとすると、所望の回折光より1つだけ次数が低い不要な回折光は、それぞれ1次、0次、0次の回折光となる。この場合、波長405nmの光に対しては、グラフ(c)、(b)より、ηT=0.951、ηF=0.019であるため、ηF/ηT=0.02となり、式3が成り立つ。また、波長660nmの光に対しては、グラフ(b)、(a)より、ηT=0.927、ηF=0.016であるため、ηF/ηT=0.017となり、式4が成り立つ。波長785nmの光に対しては、グラフ(b)、(a)より、ηT=0.997、ηF=0.001であるため、ηF/ηT=0.001となり、式5が成り立つ。
上記の計算例に基づいて、光ヘッド装置100では、対物レンズ108のブレーズ波長を、760nmとする。また、波長405nm、660nm、785nmの光に対して、それぞれ2次、1次、1次の回折光を所望の回折光として用いる。このようにすることで、3つの波長の何れにおいても、式2を満たす関係とすることができ、屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズ108を用いつつ、不要な回折光の影響を受けずに、フォーカスサーボの引き込み動作を正しく行うことができる。
図6に、光ヘッド装置100を含む光学式情報記録再生装置の構成を示す。光学式情報記録再生装置150は、図1に示す構成を有する光ヘッド装置100に加えて、記録信号生成回路120、半導体レーザ駆動回路121、プリアンプ122、再生信号生成回路123、誤差信号生成回路124、及び、対物レンズ駆動回路125を備える。記録信号生成回路120は、外部から入力される記録データに基づいて、半導体レーザ101a〜101cを駆動するための記録信号を生成する。半導体レーザ駆動回路121は、記録信号生成回路120が生成する記録信号に基づいて、半導体レーザ101a〜101cを駆動し、ディスク109への信号の記録を行う。
プリアンプ122は、光検出器112から入力される電流信号を電圧信号に変換する。再生信号生成回路123は、ディスク109からの信号再生時に、プリアンプ122で変換された電圧信号に基づいて、再生信号を生成し、再生データを外部へ出力する。誤差信号生成回路124は、プリアンプ122から入力される電圧信号に基づいて、対物レンズ108を駆動するためのフォーカス誤差信号及びトラック誤差信号を生成する。対物レンズ駆動回路125は、誤差信号生成回路124が生成するフォーカス誤差信号及びトラック誤差信号に基づいて、図示しないアクチュエータにより、対物レンズ108を駆動し、フォーカスサーボ及びトラックサーボの動作を実施する。なお、図示は省略するが、光学式情報記録再生装置150は、上記以外に、ディスク109を回転させるスピンドル制御回路や、光ヘッド装置100全体をディスク109に対して移動させるポジショナ制御回路等を含んでいる。
光学式情報記録再生装置150では、サーボ引き込みで、集光スポットがディスク109の表面又は記録面にあるか否かを判定する際の和信号のレベル及びフォーカス誤差信号の振幅のしきい値を、図9(a)に示す状態での和信号のレベル(図10(a)の115a)及びフォーカス誤差信号の振幅(図10(b)の116a)と、図9(b)に示す状態での和信号のレベル(図10(a)の115bに相当)及びフォーカス誤差信号の振幅(図10(b)の116bに相当)の中間に設定する。本実施形態では、光ヘッド装置100の光学系を、式2を満たすように設定しているため、図9(b)に示す状態での和信号のレベル及びフォーカス誤差信号の振幅は、図9(a)に示す状態での和信号のレベル及びフォーカス誤差信号の振幅よりも小さく、従って、図9(b)に示す状態で、偽の和信号及びフォーカス誤差信号を誤検出することがない。
また、所望の回折光がディスク109の記録面に照射されている状態(図9(c))での和信号のレベル及びフォーカス誤差信号の振幅は、図9(a)に示す状態での和信号のレベル及びフォーカス誤差信号の振幅よりも大きく、サーボ引き込み動作では、表面に対応した和信号及びフォーカス誤差信号に後続して、ディスク109の記録面に対応した和信号及びフォーカス誤差信号は検出されることになる。このように、本実施形態では、対物レンズ108に屈折・回折ハイブリッド型の対物レンズを用いながらも、誤って偽のフォーカス誤差信号に基づいてフォーカスサーボをかけることなく、ディスク109の記録面に対応したフォーカス誤差信号に基づいてフォーカスサーボをかけることができ、ディスクの記録面へのフォーカスサーボの引き込み動作を正しく行うことができる。
なお、上記実施形態では、光ディスク装置が、ディスク109に対する情報の記録と、ディスク109からの情報の再生との双方を行う光学式情報記録再生装置として構成される例について説明したが、光ヘッド装置100が搭載される光ディスク装置は、ディスクからの情報の再生のみを行う光学式情報再生装置であってもよい。この場合、半導体レーザ101は、半導体レーザ駆動回路121によって、記録信号に基づいて駆動されるのではなく、出射光のパワーが一定の値となるように駆動される。
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明の光ヘッド装置及び光ディスク装置は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正及び変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。