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JP2007234585A - リチウムイオン二次電池用負極材料およびその製造方法、リチウムイオン二次電池用負極ならびにリチウムイオン二次電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用負極材料およびその製造方法、リチウムイオン二次電池用負極ならびにリチウムイオン二次電池 Download PDF

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JP2007234585A JP2007013775A JP2007013775A JP2007234585A JP 2007234585 A JP2007234585 A JP 2007234585A JP 2007013775 A JP2007013775 A JP 2007013775A JP 2007013775 A JP2007013775 A JP 2007013775A JP 2007234585 A JP2007234585 A JP 2007234585A
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Abstract

【課題】リチウムイオン二次電池用負極材料として用いて、放電容量が高く、優れたサイクル特性と初期充放電効率が得られる負極材料およびその製造方法を提供する。また、得られた負極材料を用いてなる、放電容量が高く、優れたサイクル特性と初期充放電効率を有するリチウムイオン二次電池用負極およびこの二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】前記負極材料は、黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層を介して、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層を設けたことを特徴とする。ここで、前記リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層において、前記炭素原子が前記黒鉛質物側に偏在していることが好ましい。
また、前記リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池は、前記負極を用いることを特徴とする。
【選択図】図1

Description

リチウムイオン二次電池は、他の二次電池に比べて高い電圧、高いエネルギー密度を有するので、電子機器の電源として広く普及している。近年、電子機器の小型化あるいは高性能化が急速に進み、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度をさらに向上させる要望がますます高まっている。
現在、リチウムイオン二次電池は、正極にLiCoO、負極に黒鉛を用いたものが一般的である。しかし、黒鉛負極は、充放電の可逆性に優れるものの、その放電容量はすでに層間化合物(LiC6)の理論値(372mAh/g)に近い値まで到達している。そこで、電池のエネルギー密度をさらに高めるためには、黒鉛より放電容量の大きい負極材料を開発する必要がある。
金属リチウムは負極材料として最大の放電容量を有する。しかし、充電時にリチウムがデンドライト状に析出して負極が劣化するため、電池の充放電サイクルが短くなるという問題がある。また、デンドライト状に析出したリチウムがセパレータを貫通して正極に達し、電池が短絡する可能性もある。
そのため、金属リチウムに代わる負極材料として、リチウムと合金を形成する、金属または金属化合物が検討されてきた。これらの合金負極は、金属リチウムには及ばないものの黒鉛を遥かにしのぐ放電容量をもつ。しかし、合金化に伴う体積膨張により活物質の粉化・剥離が発生し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性は未だに実用レベルに至っていない。
前述のような合金負極の欠点を解決するため、リチウムと合金化する、金属または金属化合物と、黒鉛材料および/または炭素材料との複合化による負極の開発が検討されている。
体積膨張に伴う金属の粉化・剥離を抑制するためには、金属と黒鉛材料および/または炭素材料界面の密着性を向上させることが有効である。しかし、金属と黒鉛材料を単純に混合するだけでは充分な密着性を得ることができず、充放電を繰り返すと金属が黒鉛から遊離し、サイクル特性が低下するという問題がある。
このような問題に対して、特許文献1(特開平11−279785号公報)には、粒子状黒鉛表面に、有機材料と金属化合物とに由来する被覆層を形成した複合炭素材料を電極として用いる技術が開示されている。この複合炭素材料において、有機材料に由来する被覆層は、黒鉛と金属の結合剤としての役割を担っている。
また、特許文献2(特開2004−185975号公報)には、黒鉛粒子表面に、リチウムと合金化可能な金属をメカノケミカル処理で固定化し、さらにその表面に炭素層を形成してなる3層構造の複合炭素材料を電極として用いる技術が開示されている。この複合炭素材料において、メカノケミカル処理は、黒鉛と金属の密着性を向上させる目的で実施されている。
また、特許文献3、4などには、リチウムと合金化可能な金属を集電体上に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などのPVD(Physical Vapor Deposition)法やCVD(Chemical Vapor Deposition) 法で薄膜を形成する技術が開示されている。
特開平11−279785号公報 特開2004−185975号公報 WO01/031720号公報 特開2004−127561号公報
しかし、上記特許文献1に記載の複合炭素材料であっても、充放電に伴う金属の膨張・収縮により被覆層が破壊されると、黒鉛と金属の界面には何ら密着性が確保されていないため両者の遊離を免れず、充放電効率やサイクル特性が低下してしまう。
また、上記特許文献2に記載の複合炭素材料については、メカノケミカル処理は機械的にせん断力をかけて黒鉛と金属を一体化するものであり、金属の膨張・収縮に伴う金属と黒鉛の遊離を完全に抑制できるほどの界面密着性を持たない。それゆえ、この複合炭素材料であっても、充放電に伴う金属の膨張・収縮により被覆層が破壊されると、やはり充放電効率やサイクル特性が低下してしまう。また、最表層に炭素層を有しているので充放電容量が低いという問題もある。
また、特許文献3、4に記載の方法でも、黒鉛と金属の界面には何ら密着性が確保されていないため、充放電に伴い金属が膨張・収縮を繰り返すと界面に亀裂を生じ、両者の遊離を免れず、充放電効率やサイクル特性が低下してしまう。
上述の通り、従来技術では、黒鉛とリチウムと合金化可能な金属や金属化合物の密着性を強化し、初期充放電効率やサイクル特性を向上させることが困難であるという問題を有している。
本発明は、上記のような状況を鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決してリチウムイオン二次電池用負極材料として用いて、放電容量が高く、優れたサイクル特性と初期充放電効率が得られる負極材料およびその製造方法を提供することを目的とする。また、得られた負極材料を用いてなる、放電容量が高く、優れたサイクル特性と初期充放電効率を有するリチウムイオン二次電池用負極およびこの二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明は以下のような特徴を有する。
[1]黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層を介して、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層を設けたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
[2]上記[1]において、前記リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層において、前記炭素原子が前記黒鉛質物側に偏在していることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
[3]上記[1]または[2]において、前記黒鉛質物が、その表面に微小な凹凸を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
[4]黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な金属をスパッタリング法で付着させてリチウムイオン二次電池用負極材料を製造する際に、
炭化水素ガスの存在下でリチウムと合金化可能な金属を付着させた後、
さらに、炭化水素ガスの非存在下でリチウムと合金化可能な金属を付着させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
[5]上記[4]において、黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、炭化水素ガスの存在下でリチウムと合金化可能な金属をスパッタリング法で付着させる際に、
前記炭化水素ガスの濃度を連続的および/または段階的に減少させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
[6]黒鉛質物と、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物とにメカノケミカル処理を施して、前記黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、前記リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物を付着させた後、900〜1300℃の温度範囲で熱処理することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
なお、上記[4]、[5]、[6]に記載の方法によって、[1]、[2]、[3]に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を得ることができる。
[7]上記[1]乃至[3]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
[8]負極として、上記[7]に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いると、黒鉛の理論容量を超える優れた放電容量が得られ、同時に優れた初期充放電効率とサイクル特性を示すリチウムイオン二次電池を得ることができる。そのため、本発明の負極材料を用いてなるリチウムイオン二次電池は、近年の電池の高エネルギー密度化に対する要望を満たし、搭載する機器の小型化および高性能化に有効である。
以下、本発明をより具体的に説明する。
[リチウムイオン二次電池用負極材料]
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、単に「負極材料」とも称す。)は、黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層(界面層)を介して、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層(最表層)を設けた負極材料である。ここで、前記リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層においては、この化合物層に含まれる炭素原子を前記黒鉛質物側に偏在させることが好ましい。
前記負極材料においては、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物が黒鉛質物と界面層を介して化学的に結合しているため両者の接着性が優れ、充放電によるこの金属の剥離、脱落を抑制することができ、初期充放電効率やサイクル特性が向上する。また、界面の接着強度向上に伴い負極材料内の導電性が向上するため、初期充放電効率やサイクル特性が向上する。
本発明の負極材料全体に占める前記リチウムと合金化可能な金属の質量割合は3〜70%、特に5〜50%であることが好ましい。前記金属は単体または化合物として、最表層においてはそれ自身単独で存在し、界面層においては炭素原子と共存する。前記金属の質量割合が3%未満の場合には、放電容量向上効果が小さくなることがある。一方、質量割合が70%超の場合には、サイクル特性が低下することがある。
質量割合は公知の元素定量分析やX線回折法(XRD)などによる金属種の定性分析から換算して得ることができる。
前記金属および/または金属化合物の層の平均厚みは概ね1nm〜2μm、好ましくは10nm〜1μmの範囲である。前記平均厚みは負極材料の断面を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することによって測定することができる。
本発明の負極材料全体に占める、界面層(前記リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層)中の前記金属の質量割合は、負極材料中の全金属量のうちの0.5〜30%、特に1〜10%であることが好ましい。質量割合が0.5%未満の場合には界面の接着強度が不足するため、サイクル特性が低下することがある。一方、質量割合が30%超の場合には放電容量向上効果が小さくなることがある。
界面層(前記リチウムと合金化可能な金属原子と炭素原子とを有する化合物層)中の炭素原子濃度は黒鉛質物側に偏在しているのが好ましい。このことにより界面層と前記黒鉛質物との接着性が向上するため、充放電にともなう金属の脱落をより抑制することができ、サイクル特性が向上する。
炭素濃度分布は、負極材料の粒子断面を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)で元素マッピングすることによって確認することができる。また、グロー放電発光分析(GDS)で深さ方向の元素分布を測定することによっても確認することができる。
前記負極材料は、平均粒子径が1〜50μmであることが好ましい。平均粒子径が1μm未満の場合は、負極を形成するときの負極合剤ペーストの調整が難しくなるほか、黒鉛質物の活性なエッジが露出しやすくなり、初期充放電効率が低下することがある。平均粒子径が50μm超の場合には、負極の活物質層の厚みを調整することが難しくなる。より好ましい平均粒子径は3〜40μmである。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布計によって測定することができる。
前記負極材料は、リチウムと合金化可能な金属と黒鉛質物を必須の構成成分とするが、これに加えて、異種の炭素質物、黒鉛質物、無機質物、金属を含んでいてもよい。具体的には、異種の炭素質物、黒鉛質物、無機質物、金属との混合物、造粒物、被覆物、積層物であってもよい。また、液相、気相、固相における各種化学的処理、熱処理、酸化処理、物理的処理などを施したものであってもよい。この場合も負極材料全体として平均粒子径が1〜50μmであることが好ましい。
本発明の負極材料が、優れたサイクル特性を発現する理由は明らかではないが、前記リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層と黒鉛質物との接着強度が、前記リチウムと合金化可能な金属原子と炭素原子とを有する化合物層により向上しているため、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の膨張収縮に伴う前記金属および/または金属化合物の剥離や脱落が抑制されることが寄与しているものと考えられる。
[黒鉛質物]
上記負極材料を構成する黒鉛質物は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵・放出できるものであればよく、特に限定されない。
前記黒鉛質物として、その一部または全部が黒鉛質で形成されているもの、例えば、タール、ピッチ類を最終的に1500℃以上で熱処理してなる人造黒鉛が挙げられる。具体的には、易黒鉛化性炭素材料と言われる石油系、石炭系のタール、ピッチ類を原料として重縮合させたメソフェーズ焼成体、メソフェーズ小球体、メソフェーズ炭素繊維或いはコークス類を好ましくは1500℃以上、より好ましくは2800〜3300℃で黒鉛化処理して得たものを用いることができる。
前記黒鉛質物の形状は特に限定されず、鱗片状、塊状、球状、繊維状などのいずれであってもよいが、塊状あるいは球状であることが好ましい。また、前記黒鉛質物は表面に微小な凹凸を有することが好ましい。前記凹凸は、例えばカーボンブラックなどの微小黒鉛粒子を、それより粒径の大きな黒鉛粒子を母粒子として、母粒子の表面にメカノケミカル処理などの機械的処理によって付着することで形成することができる。この場合、凹凸を形成する微小黒鉛粒子の平均粒子径は10nm〜1μm、母粒子の平均粒子径は1〜50μmであることが好ましい。表面に凹凸が存在すると、金属の膨張時の応力が緩和されるため、初期充放電効率やサイクル特性が向上する。また凸部では粒子間接点が確保されるため導電性が向上し、やはり初期充放電効率やサイクル特性が向上する。
前記黒鉛質物は高い放電容量を得る観点から、結晶性の高いものが好ましい。結晶性の指標としては、X線広角回折による(002)面の平均格子面間隔d002で0.34nm以下が好ましく、0.337nm以下が特に好ましい。
なお、格子面間隔の測定は、CuKα線をX線源、高純度シリコンを標準物質に使用して、黒鉛質物の(002)面の回折ピークを測定し、そのピークの位置よりd002を算出する方法を用いることができる。算出方法としては、学振法(日本学術振興会第117委員会が定めた測定法)に従うものであり、具体的には、「大谷杉郎著、「炭素繊維」、近代編集社、1986年、第733〜742頁」などに記載された方法によって測定した値を用いることができる。
また、前記黒鉛質物の比表面積は0.1〜50m/g、特に0.3〜5m/gの範囲であることが好ましい。比表面積が0.1m/g未満の場合には、必然的に前記リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の単位面積当たりの付着量が多くなり、前記金属および/または金属化合物の充電時の割れや粉化を生じることがある。比表面積が50m/g超の場合には、前記金属および/または金属化合物の単位面積当たりの付着量が少なくなるものの、黒鉛質物の活性なエッジ面の露出割合が増え、初期充放電効率が低下したり、負極を形成するときの負極合剤ペーストの調整が難しくなる。なお、前記比表面積は、窒素ガスの吸着によるBET法により測定した値を用いた。
前記黒鉛質物は異種の炭素質物や黒鉛質物を含むものであってもよい。この場合、黒鉛質物全体の結晶性の平均値が、X線広角回折による(002)面の平均格子面間隔d002で0.34nm以下であることが好ましい。具体的には、異種の炭素質物や黒鉛質物との混合物、造粒物、被覆物、積層物であってもよく、特に炭素質物を被覆したものが好ましい。また、液相、気相、固相における各種化学的処理、熱処理、酸化処理、物理的処理などを施したものであってもよい。
[リチウムと合金化可能な金属、金属化合物]
上記負極材料を構成するリチウムと合金化可能な金属としては、Al、Pb、Zn、Sn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Ag、Si、B、Au、Pt、Pd、Sb、Ge、Niなどを挙げることができ、好ましくはSi、Snであり、特に好ましくはSiである。また、前記リチウムと合金化可能な金属としては、この金属の2種以上の合金であってもよい。
前記合金中には、前記金属以外の元素が含有されていてもよく、酸化物や窒化物などの金属化合物を形成していてもよい。また、前記金属及び金属化合物は、そのものが非晶質、または非晶質のものを含むことが好ましい。非晶質であると充電時の膨張が軽減されるからである。
[リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層]
リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層(界面層)に存在する金属種としては、Al、Pb、Zn、Sn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Ag、Si、B、Au、Pt、Pd、Sb、Ge、Niなどを挙げることができ、好ましくはSi、Snであり、特に好ましくはSiである。また、前記リチウムと合金化可能な金属としては、この金属の2種以上の合金であってもよい。
接着性をより向上させるため、界面層の金属原子は、リチウムと合金化可能な金属、金属化合物の層(最表層)に存在する金属原子と同じものが好ましい。
リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層(界面層)における金属の質量割合は特に制限されないが、リチウムと合金化可能な金属、金属化合物の層(最表層)に存在する金属の1〜30%が好ましい。質量割合が1%未満である場合は、充分な接着効果が得られず、サイクル特性が低下することがある。また、30%超の場合は、放電容量向上効果が小さいことがある。
[負極材料の製造方法]
本発明の負極材料の製造方法としては、黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層を介して、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層を有する構造が得られる方法であればいかなる方法を用いてもよいが、本発明の効果を最大限に発現する方法を以下に例示する。
前記リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層を黒鉛質物表面に形成させる方法は、気相法を用いることが好ましい。気相法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法などのPVD(Physical Vapor Deposition)法や、常圧CVD(Chemical Vapor Deposition) 法、減圧CVD法、プラズマCVD法、MO(Magneto-optic)CVD法、光CVDなどのCVD法が挙げられる。これらの中でも、スパッタリング法が最も好ましい。スパッタリング法としては、直流スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、高周波スパッタリング法、反応性スパッタリング法、バイアススパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などを用いることができる。
前記スパッタリング法は、カソード側に金属のターゲットを設置し、一般に1〜10−2Pa程度の不活性ガス雰囲気中で電極間にグロー放電を起こし、不活性ガスをイオン化させ、ターゲットの金属を叩き出して、アノード側に設置した黒鉛質物にターゲット金属を被覆する方法である。この場合、黒鉛質物を機械的に攪拌する、または超音波などの振動を与えることによって黒鉛質物に動きを与え、黒鉛質物の表面に均一に金属を被覆することが有効である。金属は複数の金属を用いてもよい。すなわち、複数の金属をターゲットとして同時にスパッタリングして、合金を合成してもよいし、複数の金属を順に積層してもよい。
また、前記リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層は、前記スパッタリングの際、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどの炭化水素を含んだガスを、機内に導入することで形成させることができる。前記炭化水素の混合量は特に限定されないが、イオン源として導入した不活性ガスに対して、圧力で50%以下であることが好ましい。なお、好ましい圧力の下限値は1%である。
このとき、前記炭化水素の流量を調節しながら機内に導入することで、前記化合物層中の炭素原子の濃度分布を制御できる。例えば、炭化水素の流量を連続的および/または段階的に減少させることにより、炭素原子を前記黒鉛質粒子側に偏在させることができる。
ここで、炭化水素の流量を連続的に減少させるとは、所定の減少速度で炭化水素の流量を減少させることを意味し、減少速度は途中で変更しても構わない。また、炭化水素の流量を段階的に減少させるとは、一定流量で炭化水素を流した後、所定量だけ炭化水素の流量を少なくし、この流量を所定時間流すことを意味する。炭化水素の流量の減少は、連続的にのみでも、段階的にのみでも、これらを組み合わせても構わない。

最後に、炭化水素ガスの非存在下で、リチウムと合金化可能な金属をスパッタリング法で付着させることにより、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料を得ることができる。ここで、炭化水素ガスの非存在下とは、炭化水素ガス濃度が0.1vol%以下を言う。
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料は、黒鉛質物と、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物とにメカノケミカル処理を施して、前記黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、前記リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物を付着させた後、900〜1300℃の温度範囲で熱処理することで得ることができる。
ここで、メカノケミカル処理とは、被処理物に圧縮、剪断、衝突、摩擦などの機械的エネルギーを付与する方法である。このような操作が可能な装置としては、例えば、GRANUREX(フロイント産業(株)製)、ニューグラマシン((株)セイシン企業製)、アグロマスター(ホソカワミクロン(株)製)などの造粒機、ロールミル、ハイブリダイゼーションシステム((株)奈良機械製作所製)、メカノマイクロシステム((株)奈良機械製作所製)、メカノフュージョシステム(ホソカワミクロン(株))などの圧縮剪断式加工装置などが挙げられる。
メカノケミカル処理後に、900〜1300℃の温度範囲で熱処理する。この熱処理により、黒鉛質物と、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物との間に、リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層を介することができる。熱処理の温度を調整することにより、前記化合物層中の炭素原子を前記黒鉛質物側に偏在させることもできる。熱処理温度が900℃未満では、黒鉛質物と、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物との反応が不十分になるおそれがあり、1300℃より高いと、反応が進みすぎて金属炭化物の存在量が増加し、容量が低下するおそれがある。
このようにして得られた負極材料は、目的に応じて、さらに異種の炭素質物、黒鉛質物、無機質物などを混合、被覆、付着させることもできる。例えば、本発明の負極材料に、さらにCVD法によって、炭素質物を薄膜で被覆したり、炭素質物前駆体を液相で付着させ、焼成することもできる。
[負極]
リチウムイオン二次電池の負極を構成する負極材料として、上述した本発明の負極材料以外に公知の負極材料や導電性材料を混合して用いることができる。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェーズ小球体の黒鉛質物、メソフェーズ炭素繊維の黒鉛質物、メソフェーズ焼成体の黒鉛質物などの各種負極材料や、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維などの導電性材料を混合して用いることができる。
リチウムイオン二次電池の負極の作製は、通常の負極の成形方法に準じて行うことができるが、化学的、電気化学的に安定な負極を得ることができる成形方法であれば何ら制限されない。
また、負極の作製時には、前記負極材料に結合剤を加えた負極合剤を用いることができる。結合剤としては、電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものを用いることが好ましく、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴム、さらにはカルボキシメチルセルロースなどが用いられる。また、これらを併用することもできる。結合剤は、通常、負極合剤の全量中1〜20質量%程度の量で用いるのが好ましい。
負極の作製の具体例として、前記負極材料の粒子を結合剤と混合することによって負極合剤を調製し、この負極合剤を、通常、集電体の片面または両面に塗布することで負極合剤層を形成する方法が挙げられる。
負極の作製には、負極作製用の通常の溶媒を用いることができる。負極合剤を溶媒中に分散させ、ペースト状にした後、集電体に塗布、乾燥すれば、負極合剤層が均一かつ強固に集電体に接着される。より具体的には、例えば、前記負極材料の粒子とポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂粉末またはスチレンブタジエンゴムなどの水分散粘結剤、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性粘結剤とを、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアルデヒドまたは水、アルコールなどの溶媒と混合してスラリーとした後、ニーダーなどで混練し、ペーストを調製する。このペーストを集電材の片面または両面に塗布し、乾燥すれば、負極合剤層が均一かつ強固に接着した負極が得られる。前記負極合剤層の膜厚は10〜200μm、好ましくは30〜100μmである。
また、前記負極材料の粒子と、結合剤としてのポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末とを乾式混合し、金型内でホットプレス成形して負極を作製することもできる。ただし、乾式混合では、十分な負極の強度を得るために多くの結合剤を必要とし、結合剤が過多の場合は、リチウムイオン二次電池の放電容量や急速充放電効率が低下することがある。
前記負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行うと、負極合剤層と集電体との接着強度をさらに高めることができる。
前記負極に用いる集電体の形状は特に限定されないが、箔状またはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状等のものが好ましい。また、前記集電体の材質としては、銅、ステンレス、ニッケルなどが好ましい。また、集電体の厚みは、箔状の場合、5〜20μm程度とすることが好ましい。
また、本発明は、前記リチウムイオン二次電池用負極を用いて形成されるリチウムイオン二次電池でもある。
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記負極を用いること以外は特に限定されず、他の電池構成要素については、一般的なリチウムイオン二次電池の要素に準じる。
[正極]
本発明のリチウムイオン二次電池に使用される正極材(正極活物質)としては、リチウム化合物が用いられるが、充分な量のリチウムを吸蔵/脱離し得るものを選択することが好ましい。例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物、その他のリチウム含有化合物、一般式MMo8−Y(式中Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表されるシュブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などを用いることができる。前記バナジウム酸化物としては、V、V13、V、Vで示されるものなどを用いることができる。
前記リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。複合酸化物は単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM1 1-X2 2(式中Xは0≦X≦1の範囲の数値であり、M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素である)またはLiM1 1-Y2 Y4(式中Yは0≦Y≦1の範囲の数値であり、M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素である)で示される。式中M1、M2で示される遷移金属はCo、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどである。好ましくはCo、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Alなどである。具体例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi0.9Co0.12、LiNi0.5Co0.52などを挙げることができる。
また、前記リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、塩類などを出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600〜1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。なお、出発原料は酸化物および塩類に限定されず、水酸化物などであってもよい。
本発明のリチウムイオン二次電池においては、正極活物質は前記のリチウム化合物を単独で使用しても、2種類以上併用して使用してもよい。また、正極中に炭酸リチウムなどの炭酸アルカリ塩を添加することもできる。
正極は、例えば、前記リチウム化合物と結合剤、および正極に導電性を付与するための導電剤よりなる正極合剤を、集電体の片面または両面に塗布して正極合剤層を形成して作製される。結合剤としては、負極の作製に使用されるものと同じものが使用可能である。導電剤としては、黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料が使用される。
正極も負極と同様に、正極合剤を溶剤中に分散させペースト状にし、このペースト状の正極合剤を集電体に塗布、乾燥して正極合剤層を形成してもよく、正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧等の圧着を行ってもよい。これにより正極合剤層が均一且つ強固に集電体に接着される。
集電体の形状は特に限定されないが、箔状またはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状等のものが好ましい。また、前記集電体の材質としては、アルミニウム、ステンレス、ニッケルなどが好ましい。また、集電体の厚みは、箔状の場合、10〜40μm程度とすることが好ましい。
[非水電解質]
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解質としては、通常の非水電解液に使用される電解質塩である、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C65)、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO3、LiN(CF3CH2OSO22、LiN(CF3CF2OSO22、LiN(HCF2CF2CH2OSO22、LiN((CF32CHOSO22、LiB[{C63(CF32}]4、LiAlCl4 、LiSiF6などのリチウム塩を用いることができる。酸化安定性の点からは、特に、LiPF6、LiBF4が好ましい。
電解液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/lが好ましく、0.5〜3.0mol/lがより好ましい。
前記非水電解質は液状の非水電解質としてもよく、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質としてもよい。前者の場合、非水電解質電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池として構成され、後者の場合は、非水電解質電池は高分子固体電解質、高分子ゲル電解質電池などの高分子電解質電池として構成される。
非水電解質液を調製するための溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート、1、1−または1、2−ジメトキシエタン、1、2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、1、3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル、スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒などを用いることができる。
前記非水電解質を高分子固体電解質または高分子ゲル電解質などの高分子電解質とする場合には、マトリックスとして可塑剤(非水電解液)でゲル化された高分子を用いることが好ましい。前記マトリックスを構成する高分子としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物などを用いることが特に好ましい。
前記高分子固体電解質または高分子ゲル電解質には、可塑剤が配合されるが、この可塑剤としては、前記の電解質塩や非水溶媒が使用可能である。高分子ゲル電解質の場合、可塑剤である非水電解液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/lが好ましく、0.5〜2.0mol/lがより好ましい。
前記高分子固体電解質の作製方法は特に限定されないが、例えば、マトリックスを構成する高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、加熱して高分子化合物を溶融する方法、有機溶剤に高分子化合物、リチウム塩、および非水溶媒(可塑剤)を溶解させた後、混合用有機溶剤を蒸発させる方法、重合性モノマー、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、混合物に紫外線、電子線または分子線などを照射して、重合性モノマーを重合させ、ポリマーを得る方法などを挙げることができる。
ここで、前記固体電解質中の非水溶媒(可塑剤)の割合は10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。10質量%未満であると導電率が低くなり、90質量%を超えると機械的強度が弱くなり、成膜しにくくなる。
[セパレータ]
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータを使用することもできる。
セパレータの材質は特に限定されるものではないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などを用いることができる。前記セパレータの材質としては、合成樹脂製微多孔膜が好適であるが、なかでもポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜等が好適である。
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した構成の、黒鉛質物を含有する負極、正極および非水電解質を、例えば、負極、非水電解質、正極の順で積層し、電池の外装材内に収容することで構成される。さらに、負極と正極の外側に非水電解質を配するようにしてもよい。
また、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は特に限定されず、その形状、形態についても特に限定されるものではなく、用途、搭載機器、要求される充放電容量などに応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解液電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものを用いることが好ましい。
リチウムイオン二次電池が高分子固体電解質電池や高分子ゲル電解質電池の場合には、ラミネートフィルムに封入した構造とすることもできる。
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また以下の実施例および比較例では、図1に示すように、黒鉛質物を含有する作用電極(負極)2とリチウム箔よりなる対極(正極)4から構成される単極評価用のボタン型二次電池を作製して評価した。実電池は、本発明の概念に基づき、公知の方法に準じて作製することができる。
負極材料中のリチウムと合金化可能な金属の質量割合は、負極材料を灰化したのち、発光分光法による元素分析を行って、金属としての濃度に換算して求めた。
金属と黒鉛の界面層における炭素濃度分布は、負極材料の粒子断面を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)で元素マッピングすることによって確認した。さらに、元素マッピングからリチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層(最表層)と、リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層(界面層)に存在するSiを定量して、各層におけるSiの存在比を求め、その値を発光分光法で測定した全Si量に乗じることで、各層に存在するSi量を算出した。なお、前記存在比の算出は断面の20視野で行い、加算平均値を採用した。
〔実施例1〕
[負極材料の作製]
黒鉛質物として、メソフェーズ小球体(JFEケミカル(株)製、KMFC)を3000℃で6時間かけて黒鉛化したもの(平均粒径20μm)を用いた。
DC二極スパッタリング装置のアノード側ステージに前記黒鉛質物を配置し、カソード側に純度99.999質量%の単結晶シリコンターゲットを配置して、圧力0.5Pa、電圧600V、電流0.5Aの条件でスパッタリングを2時間行った後、黒鉛質物を攪拌した。スパッタリングの際には、アルゴンの圧力に対して10%の圧力のメタンを同時に導入した。メタンの導入量はスパッタリングの進行にあわせて徐々に低減し、スパッタリング終了時にゼロとなるように調整した。その後、再びアルゴンガスのみの条件でスパッタリングを4時間行い、攪拌を繰り返した。
得られた負極材料について走査型電子顕微鏡により目視観察した結果、シリコンが膜状に全体を被覆していることが分かった。
また、断面観察から、黒鉛質物とシリコン膜の間に、シリコンと炭素の化合物からなる界面層が存在するのが観察された。
さらに、粒子断面のEPMAによる元素マッピングから、シリコンと炭素の化合物層は、炭素濃度が黒鉛側からシリコン膜側に向かって徐々に減少していることを確認した。
また、最表層および界面層に存在するSi量は、それぞれ9質量%、1質量%であった。
[作用電極(負極)の作製]
上記方法により作製した負極材料に4質量%の結合剤ポリフッ化ビニリデンを混合し、さらに、溶剤N−メチルピロリドンを加え、有機溶剤系負極合剤ペーストを作製した。これを銅箔上に均一な厚さに塗布し、さらに真空中90℃で溶剤を揮発させて乾燥した。次に、この銅箔上に塗布された負極合剤をハンドプレスによって加圧した。さらに直径15.5mmの円形状に打抜くことで、集電体銅箔(厚み16μm)に密着した負極合剤層(厚み50μm)からなる作用電極(負極)を作製した。
[対極(正極)の作製]
リチウム金属箔をニッケルネットに押付け、直径15.5mmの円形状に打抜いて、ニッケルネットからなる集電体と、該集電体に密着したリチウム金属箔(厚み0.5mm)からなる対極(正極)を作製した。
[電解液、セパレータ]
エチレンカーボネート33vol%−メチルエチルカーボネート67vol%の混合溶剤に、LiPFを1mol/lとなる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。得られた非水電解液をポリプロピレン多孔質体(厚み20μm)に含浸させ、電解液が含浸したセパレータを作製した。
[評価電池の作製]
評価電池として図1に示すボタン型二次電池を作製した。
外装カップ1と外装缶3は、その周縁部において絶縁ガスケット6を介在させ、両周縁部をかしめて密閉した。その内部に外装缶3の内面から順に、ニッケルネットからなる集電体7a、リチウム箔よりなる円筒状の対極(正極)4、電解液が含浸されたセパレータ5、負極合剤からなる円盤状の作用電極(負極)2および銅箔からなる集電体7bが積層された電池系である。
前記評価電池は電解液を含浸させたセパレータ5を集電体7bに密着した作用電極2と、集電体7aに密着した対極4との間に挟んで積層した後、作用電極2を外装カップ1内に、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ、さらに、外装カップ1と外装缶3との周縁部に絶縁ガスケット6を介在させ、両周縁部をかしめて密閉して作製した。
評価電池は実電池において負極用活物質として使用可能な黒鉛質物粒子を含有する作用電極2と、リチウム金属箔とからなる対極4とから構成される電池である。
前記のように作製された評価電池について、25℃の温度下で下記のような充放電試験を行い、初期充放電効率とサイクル特性を計算した。評価結果(放電容量、初期充放電効率とサイクル特性)を下表1に示した。
[放電容量、初期充放電効率]
回路電圧が0mVに達するまで0.9mAの定電流充電を行った後、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切替え、さらに電流値が20μAになるその間の通電量から充電容量を求めた。その後、120分間休止した。次に0.9mAの電流値で回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から放電容量を求めた。これを第1サイクルとした。次式(1)から初期充放電効率を計算した。なおこの試験では、リチウムイオンを負極材料に吸蔵する過程を充電、負極材料からリチウムイオンが脱離する過程を放電とした。
初期充放電効率(%)=(第1サイクルの放電容量/第1サイクルの充電容量)×100 ・・・(1)
[サイクル特性]
引き続き、回路電圧が0mVに達するまで4.0mAの定電流充電を行った後、回路電圧が0mVに達した時点で定電圧充電に切替え、さらに電流値が20μAになるまで充電を続けた後、120分間休止した。次に4.0mAの電流値で回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行った。この充放電を100回繰返し、得られた放電容量から、次式(2)を用いてサイクル特性を計算した。
サイクル特性(%)=(第50サイクルにおける放電容量/第1サイクルにおける放電容量)×100 ・・・(2)
〔実施例2〕
上記実施例1において、メソフェーズ小球体の黒鉛化物を下記の通り前処理する以外は、上記実施例1と同様に負極合剤の調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および電池の評価を行った。前期負極材料の特性と評価結果を同じく下表1に示した。
(前処理)
メソフェーズ小球体の黒鉛化物:98質量部に、炭素質微粒子(ケッチェンブラック、平均粒子径30nm)を3000℃で黒鉛化したもの:2質量部を加え、乾式粉体複合化装置(メカノフュージョンシステム、ホソカワミクロン(株)製)を用いて、回転ドラムの周速20m/秒、処理時間60分、回転ドラムと内部部材との距離5mmの条件で、圧縮力、剪断力を繰り返し付与し、メカノケミカル処理を施した。得られた複合材料をSEM(走査型電子顕微鏡)観察したところ、前記黒鉛粉末表面に微小黒鉛粒子が分散して付着し、表面に凹凸が形成されていることが確認できた。
〔実施例3〕
上記実施例1において、メタンの導入量を一定にした以外は、実施例1と同様に負極合剤の調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および電池の評価を行った。前記負極材料の特性と評価結果を同じく下表1に示した。
〔実施例4〕
天然黒鉛(中越黒鉛工業所製、BF15A):90質量部に、Si粉末(高純度化学研究所製、平均粒径2μm):10質量部を加え、乾式粉体複合化装置(メカノフュージョンシステム、ホソカワミクロン(株)製)を用いて、回転ドラムの周速20m/s、処理時間60分、回転ドラムと内部部材との距離5mmの条件で、圧縮力、剪断力を繰り返し付与し、メカノケミカル処理を施した。得られた複合材料をSEM観察したところ、前記黒鉛粉末表面に、Si粒子が分散して付着していることが確認できた。
その後、得られた複合材料を、さらに1100℃で10時間熱処理した。最終的に得られた複合材料の粒子断面のEPMAによる元素マッピングから、Siと黒鉛の界面にはSiC層が形成されていることが確認できた。最表層および界面層に存在するSi量は、それぞれ9質量%、1質量%であった。
上記実施例1〜4から、本発明の負極材料を用いたリチウムイオン二次電池は優れた放電容量、初期充放電効率およびサイクル特性を有していることがわかる。
〔比較例1〕
上記実施例1において、スパッタリングの際にメタンを導入しない以外は、実施例1と同様に負極合剤の調製、負極の作製、リチウムイオン二次電池の作製および電池の評価を行った。前記負極材料の特性と評価結果を同じく下表1に示した。
実施例1、2と比較例1との対比から、金属と黒鉛の界面に、黒鉛側から金属側に向かって炭素濃度が徐々に減少するような界面層が存在すると、初期充放電効率とサイクル特性が向上することが分かる。
Figure 2007234585
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料は、その特性を活かして、小型から大型までの高性能リチウムイオン二次電池に使用することができる。
本発明の負極材料の電池特性を評価するための評価電池の断面図である。
符号の説明
1 外装カップ
2 作用電極
3 外装缶
4 対極
5 電解質溶液含浸セパレータ
6 絶縁ガスケット
7a,7b 集電体

Claims (8)

  1. 黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層を介して、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物の層を設けたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
  2. 前記リチウムと合金化可能な金属原子および炭素原子を有する化合物層において、前記炭素原子が前記黒鉛質物側に偏在していることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
  3. 前記黒鉛質物が、その表面に微小な凹凸を有することを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
  4. 黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な金属をスパッタリング法で付着させてリチウムイオン二次電池用負極材料を製造する際に、
    炭化水素ガスの存在下でリチウムと合金化可能な金属を付着させた後、
    さらに、炭化水素ガスの非存在下でリチウムと合金化可能な金属を付着させることを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
  5. 黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、炭化水素ガスの存在下でリチウムと合金化可能な金属をスパッタリング法で付着させる際に、
    前記炭化水素ガスの濃度を連続的および/または段階的に減少させることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
  6. 黒鉛質物と、リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物とにメカノケミカル処理を施して、前記黒鉛質物の表面の少なくとも一部に、前記リチウムと合金化可能な金属および/または金属化合物を付着させた後、
    900〜1300℃の温度範囲で熱処理することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
  7. 請求項1乃至3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極。
  8. 負極として、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
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