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JP2007112885A - 熱可塑性エラストマー組成物 - Google Patents

熱可塑性エラストマー組成物 Download PDF

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JP2007112885A JP2005305070A JP2005305070A JP2007112885A JP 2007112885 A JP2007112885 A JP 2007112885A JP 2005305070 A JP2005305070 A JP 2005305070A JP 2005305070 A JP2005305070 A JP 2005305070A JP 2007112885 A JP2007112885 A JP 2007112885A
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浩一 半田
Subiantoro
スビアントロ
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Takeshi Okubo
毅 大久保
Keigi Tan
佳義 単
Akira Yamauchi
明 山内
Manabu Nagashima
学 永島
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Abstract

【課題】圧縮永久ひずみおよび導電性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】
熱可塑性エラストマー100質量部に対し、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、0.1〜30質量部含有してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物である。
【選択図】図4

Description

本発明は、新規な熱可塑性エラストマー組成物に関するものである。詳しく述べると、本発明は、圧縮永久ひずみ特性に優れ、繰り返しの変形応力を加えた後においても優れた電気的特性を発揮することのできる熱可塑性エラストマー組成物に関するものである。
近年、テレビ、パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤー、携帯電話等のいわゆる娯楽用電化製品においては、高機能・多機能化とともに、軽薄短小化が望まれており、このような製品の実現化の上で、導電性ないし制電性を有するフレキシブルなシートの開発が望まれている。
熱可塑性エラストマーは加硫工程が不要であり、通常の熱可塑性樹脂の成形機で加工が可能なため、従来より、自動車部品、家電部品を始めとする様々な分野で利用されているが、このような熱可塑性エラストマーに所期の導電性ないし制電性を付与することができれば、上記したような製品の実現化に大きく寄与することができる。
熱可塑性エラストマーに導電性ないし制電性を付与するために、従来より、導電性の高いフィラー等を配合することは提唱されている。導電性フィラーとしては、金属繊維及び金属粉末、カーボンブラック、炭素繊維などが一般に用いられているが、金属繊維及び金属粉末を導電性フィラーとして用いた場合、耐食性に劣り、また機械的強度が得にくいという欠点がある。一方、炭素繊維を導電性フィラーとして使用する場合、一般の補強用炭素繊維では、所望の強度、弾性率はある程度の量を配合することにより達成することができるが、導電性に関しては十分なものとはならず、所期の導電性を得ようとすると高充填を必要とするため、元の樹脂本来の物性を低下させてしまう。なお、炭素繊維では、繊維径が細かい方が同量の繊維を加えた場合にマトリックス樹脂と繊維との間の接触面積が大きくなるため導電性付与効果に優れることが期待される。
さらに、近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が開発されており、これを熱可塑性エラストマー中に配合しようとする試みも行われている(例えば、特許文献1参照。)。
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。従って、熱可塑性エラストマー中に、このような微細炭素繊維を均一かつ安定に分散配合することにより、前記したような物性を生かすことができれば、有望な導電性ないし制電性材料となり得る。
しかしながら、一方で、このような微細炭素繊維は、生成時点で既に塊になってしまい、これをそのまま使用すると、マトリックス中において分散が進まず性能不良をきたすおそれがある。従って、樹脂等のマトリックスに導電性等の所定の特性を発揮させようとする場合には、かなりの添加量を必要とするものであった。
また、熱可塑性エラストマーからなる製品ないし部材は、その特性上、繰返し、引っ張り、曲げ等の変形応力を受けることとなるが、エラストマー中に分散された微細炭素繊維は、その形状が繊維状で単純な構造体であるため、変形応力を受けた際にマトリックス内で容易に移動してしまい、エラストマーの圧縮永久ひずみを改善することができないばかりか、繰り返し使用後の電気的特性が初期の電気的特性と大きく異なるものとなる虞れが高く改善が望まれるところであった。
特許掲載公報第2863192号
従って、本発明は、圧縮永久ひずみを改善し、繰り返しの変形応力を加えた後においても優れた電気的特性を発揮することのできる熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とするものである。
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討の結果、その添加量が少なくても十分な機械的特性、熱的特性および電気的特性を発揮させるためには、可能な限り微細な炭素繊維を用い、さらにこれら炭素繊維が一本一本ばらばらになることなく互いに強固に結合し、疎な構造体としてマトリックスに保持されるものであること、また炭素繊維自体の一本一本が極力欠陥の少ないものであることが有効であること、さらにこのような三次元的構造体とすると、エラストマーのマトリックス内においてある種のスパイクないしアンカー効果を発揮し、変形応力を加えた際においてマトリックス内で移動することなく、マトリックスの変形に追従して弾性変形するため、繰り返し使用後の電気的特性が初期の電気的特性と変動することなく、またエラストマーの圧縮永久ひずみを改善させ得ることを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち、上記課題を解決する本発明は、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、0.1〜30質量部含有してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物である。
上記課題を解決する本発明はまた、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、少なくとも一部が架橋されてなるゴム成分0〜100質量部を含有し、これら熱可塑性エラストマーとゴム成分の合計量100質量に対し、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、0.1〜30質量部含有してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物である。
本発明においては、前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることが望ましい。
本発明はまた、前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである熱可塑性エラストマー組成物を示すものである。
本発明はまた、上記熱可塑性エラストマー組成物を用いて形成されたことを特徴とする導電性シートを示すものである。
本発明においては、炭素繊維構造体が、上記したように3次元ネットワーク状に配された微細径の炭素繊維が、前記炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって互いに強固に結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を有するものであるために、熱可塑性エラストマー中に配合された際、当該炭素繊維構造体は、疎な構造を残したまま高い分散性をもって分散し得、少量の添加量においても、マトリックス中に、微細な炭素繊維を均一な広がりをもって配置することができる。このように、本発明に係る射出成形用組成物においては、液状硬化性樹脂組成物全体に微細な炭素繊維が均一に分散分布されているため、例えば、電気的特性に関しては、マトリックス全体に良好な導電性パスが形成され、導電性向上させることができ、また機械的特性、熱特性等に関しても、マトリックス全体に微細炭素繊維からなるフィラーが満遍なく配されることで、特性向上が図れることとなるものである。また、上記したように微細炭素繊維は、マトリックス中にある種のスパイクないしアンカー効果を発揮して安定に存在するため、繰り返し使用後の電気的特性が初期の電気的特性と変動することなく、またエラストマーの圧縮永久ひずみを向上させることができる。
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、後述するような所定構造を有する3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体を、熱可塑性エラストマー中、あるいは少なくとも一部が架橋されたゴム成分を含む熱可塑性エラストマー中に含有してなることを特徴とするものである。
本発明において用いられる炭素繊維構造体は、例えば、図3に示すSEM写真または図4(a)および(b)に示すTEM写真に見られるように、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有することを特徴とする炭素繊維構造体である。
炭素繊維構造体を構成する炭素繊維の外径を、15〜100nmの範囲のものとするのは、外径が15nm未満であると、後述するように炭素繊維の断面が多角形状とならず、一方、炭素繊維の物性上直径が小さいほど単位量あたりの本数が増えるとともに、炭素繊維の軸方向への長さも長くなり、高い導電性が得られるため、100nmを越える外径を有することは、樹脂等のマトリックスへ改質剤、添加剤として配される炭素繊維構造体として適当でないためである。なお、炭素繊維の外径としては特に、20〜70nmの範囲内にあることが、より望ましい。この外径範囲のもので、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層したもの、すなわち多層であるものは、曲がりにくく、弾性、すなわち変形後も元の形状に戻ろうとする性質が付与されるため、炭素繊維構造体が一旦圧縮された後においても、樹脂等のマトリックスに配された後において、疎な構造を採りやすくなる。
なお、2400℃以上でアニール処理すると、積層したグラフェンシートの面間隔が狭まり真密度が1.89g/cmから2.1g/cmに増加するとともに、炭素繊維の軸直交断面が多角形状となり、この構造の炭素繊維は、積層方向および炭素繊維を構成する筒状のグラフェンシートの面方向の両方において緻密で欠陥の少ないものとなるため、曲げ剛性(EI)が向上する。
加えて、該微細炭素繊維は、その外径が軸方向に沿って変化するものであることが望ましい。このように炭素繊維の外径が軸方向に沿って一定でなく、変化するものであると、エラストマーのマトリックス中において当該炭素繊維に一種のアンカー効果が生じるものと思われ、マトリックス中における移動が生じにくく分散安定性が高まるものとなる。
そして本発明に係る炭素繊維構造体においては、このような所定外径を有する微細炭素繊維が3次元ネットワーク状に存在するが、これら炭素繊維は、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているものである。このように、微細炭素繊維同士が単に絡合しているものではなく、粒状部において相互に強固に結合されているものであることから、エラストマーのマトリックス中に配した場合に当該構造体が炭素繊維単体として分散されることなく、嵩高な構造体のままマトリックス中に分散配合されることができる。また、本発明に係る炭素繊維構造体においては、当該炭素繊維の成長過程において形成された粒状部によって炭素繊維同士が互いに結合されていることから、その構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであり、例えば、一定圧縮密度において測定した電気抵抗値は、微細炭素繊維の単なる絡合体、あるいは微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等の値と比較して、非常に低い値を示し、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成できることができる。
当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、当該粒状部における炭素間結合は十分に発達したものとなり、正確には明らかではないが、sp結合およびsp結合の混合状態を含むと思われる。そして、生成後(後述する中間体および第一中間体)においては、粒状部と繊維部とが、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合せたような構造をもって連続しており、その後の高温熱処理後においては、図4(a)および(b)に示されるように、粒状部を構成するグラフェン層の少なくとも一部は、当該粒状部より延出する微細炭素繊維を構成するグラフェン層に連続するものとなる。本発明に係る炭素繊維構造体において、粒状部と微細炭素繊維との間は、上記したような粒状部を構成するグラフェン層が微細炭素繊維を構成するグラフェン層と連続していることに象徴されるように、炭素結晶構造的な結合によって(少なくともその一部が)繋がっているものであって、これによって粒状部と微細炭素繊維との間の強固な結合が形成されているものである。
なお、本願明細書において、粒状部から炭素繊維が「延出する」するとは、粒状部と炭素繊維とが他の結着剤(炭素質のものを含む)によって、単に見かけ上で繋がっているような状態をさすものではなく、上記したように炭素結晶構造的な結合によって繋がっている状態を主として意味するものである。
また、当該粒状部は、上述するように炭素繊維の成長過程において形成されるが、その痕跡として粒状部の内部には、少なくとも1つの触媒粒子、あるいはその触媒粒子がその後の熱処理工程において揮発除去されて生じる空孔を有している。この空孔(ないし触媒粒子)は、粒状部より延出している各微細炭素繊維の内部に形成される中空部とは、本質的に独立したものである(なお、ごく一部に、偶発的に中空部と連続してしまったものも観察される。)。
この触媒粒子ないし空孔の数としては特に限定されるものではないが、粒状部1つ当りに1〜1000個程度、より望ましくは3〜500個程度存在する。このような範囲の数の触媒粒子の存在下で粒状部が形成されたことによって、後述するような所望の大きさの粒状部とすることができる。
また、この粒状部中に存在する触媒粒子ないし空孔の1つ当りの大きさとしては、例えば、1〜100nm、より好ましくは2〜40nm、さらに好ましくは3〜15nmである。
さらに、特に限定されるわけではないが、この粒状部の粒径は、図2に示すように、前記微細炭素繊維の外径よりも大きいことが望ましい。具体的には、例えば、前記微細炭素繊維の外径の1.3〜250倍、より好ましくは1.5〜100倍、さらに好ましくは2.0〜25倍である。なお、前記値は平均値である。このように炭素繊維相互の結合点である粒状部の粒径が微細炭素繊維外径の1.3倍以上と十分に大きなものであると、当該粒状部より延出する炭素繊維に対して高い結合力がもたらされ、樹脂等のマトリックス中に当該炭素繊維構造体を配した場合に、ある程度のせん弾力を加えた場合であっても、3次元ネットワーク構造を保持したままマトリックス中に分散させることができる。一方、粒状部の大きさが微細炭素繊維の外径の250倍を超える極端に大きなものとなると、炭素繊維構造体の繊維状の特性が損なわれる虞れがあり、例えば、各種マトリックス中への添加剤、配合剤として適当なものとならない虞れがあるために望ましくない。なお、本明細書でいう「粒状部の粒径」とは、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして測定した値である。
その粒状部の具体的な粒径は、炭素繊維構造体の大きさ、炭素繊維構造体中の微細炭素繊維の外径にも左右されるが、例えば、平均値で20〜5000nm、より好ましくは25〜2000nm、さらに好ましくは30〜500nm程度である。
さらにこの粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであるため、比較的球状に近い形状を有しており、その円形度は、平均値で0.2〜<1、好ましくは0.5〜0.99、より好ましくは0.7〜0.98程度である。
加えて、この粒状部は、前記したように炭素繊維の成長過程において形成されるものであって、例えば、微細炭素繊維同士の接合点を当該炭素繊維合成後に炭素質物質ないしその炭化物によって付着させてなる構造体等と比較して、当該粒状部における、炭素繊維同士の結合は非常に強固なものであり、炭素繊維構造体における炭素繊維の破断が生じるような条件下においても、この粒状部(結合部)は安定に保持される。具体的には例えば、後述する実施例において示すように、当該炭素繊維構造体を液状媒体中に分散させ、これに一定出力で所定周波数の超音波をかけて、炭素繊維の平均長がほぼ半減する程度の負荷条件としても、該粒状部の平均粒径の変化率は、10%未満、より好ましくは5%未満であって、粒状部、すなわち、繊維同士の結合部は、安定に保持されているものである。
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、面積基準の円相当平均径が50〜100μm、より好ましくは60〜90μm程度程度であることが望ましい。ここで面積基準の円相当平均径とは、炭素繊維構造体の外形を電子顕微鏡などを用いて撮影し、この撮影画像において、各炭素繊維構造体の輪郭を、適当な画像解析ソフトウェア、例えばWinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化したものである。
複合化される樹脂等のマトリックス材の種類によっても左右されるため、全ての場合において適用されるわけではないが、この円相当平均径は、樹脂等のマトリックス中に配合された場合における当該炭素繊維構造体の最長の長さを決める要因となるものであり、概して、円相当平均径が50μm未満であると、導電性が十分に発揮されないおそれがあり、一方、100μmを越えるものであると、例えば、マトリックス中へ混練等によって配合する際に大きな粘度上昇が起こり混合分散が困難あるいは成形性が劣化する虞れがあるためである。
また本発明に係る炭素繊維構造体は、上記したように、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しているが、1つの炭素繊維構造体において、炭素繊維を結合する粒状部が複数個存在して3次元ネットワークを形成している場合、隣接する粒状部間の平均距離は、例えば、0.5μm〜300μm、より好ましくは0.5~100μm、さらに好ましくは1〜50μm程度となる。なお、この隣接する粒状部間の距離は、1つの粒状体の中心部からこれに隣接する粒状部の中心部までの距離を測定したものである。粒状体間の平均距離が、0.5μm未満であると、炭素繊維が3次元ネットワーク状に十分に発展した形態とならないため、例えば、マトリックス中に分散配合された場合に、良好な導電パスを形成し得ないものとなる虞れがあり、一方、平均距離が300μmを越えるものであると、マトリックス中に分散配合させる際に、粘性を高くさせる要因となり、炭素繊維構造体のマトリックスに対する分散性が低下する虞れがあるためである。
さらに、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、上記したように、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維が粒状部において互いに結合され、該粒状部から前記炭素繊維が複数延出する形状を呈しており、このため当該構造体は炭素繊維が疎に存在した嵩高な構造を有するが、具体的には、例えば、その嵩密度が0.0001〜0.05g/cm、より好ましくは0.001〜0.02g/cmであることが望ましい。嵩密度が0.05g/cmを超えるものであると、少量添加によって、樹脂等のマトリックスの物性を改善することが難しくなるためである。
また、本発明に係る炭素繊維構造体は、3次元ネットワーク状に存在する炭素繊維がその成長過程において形成された粒状部において互いに結合されていることから、上記したように構造体自体の電気的特性等も非常に優れたものであるが、例えば、一定圧縮密度0.8g/cmにおいて測定した粉体抵抗値が、0.02Ω・cm以下、より望ましくは、0.001〜0.010Ω・cmであることが好ましい。粉体抵抗値が0.02Ω・cmを超えるものであると、樹脂等のマトリックスに配合された際に、良好な導電パスを形成することが難しくなるためである。
また、本発明において用いられる炭素繊維構造体は、高い強度および導電性を有する上から、炭素繊維を構成するグラフェンシート中における欠陥が少ないことが望ましく、具体的には、例えば、ラマン分光分析法で測定されるI/I比が、0.2以下、より好ましくは0.1以下であることが望ましい。ここで、ラマン分光分析では、大きな単結晶の黒鉛では1580cm−1付近のピーク(Gバンド)しか現れない。結晶が有限の微小サイズであることや格子欠陥により、1360cm−1付近にピーク(Dバンド)が出現する。このため、DバンドとGバンドの強度比(R=I1360/I1580=I/I)が上記したように所定値以下であると、グラフェンシート中における欠陥量が少ないことが認められるためである。
本発明に係る前記炭素繊維構造体はまた、空気中での燃焼開始温度が750℃以上、より好ましくは800〜900℃であることが望ましい。前記したように炭素繊維構造体が欠陥が少なく、かつ炭素繊維が所期の外径を有するものであることから、このような高い熱的安定性を有するものとなる。
上記したような所期の形状を有する炭素繊維構造体は、特に限定されるものではないが、例えば、次のようにして調製することができる。
基本的には、遷移金属超微粒子を触媒として炭化水素等の有機化合物をCVD法で化学熱分解して繊維構造体(以下、中間体という)を得、これをさらに高温熱処理する。
原料有機化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素、一酸化炭素(CO)、エタノール等のアルコール類などが使用できる。特に限定されるわけではないが、本発明に係る繊維構造体を得る上においては、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることが好ましい。なお、本明細書において述べる「少なくとも2つ以上の炭素化合物」とは、必ずしも原料有機化合物として2種以上のものを使用するというものではなく、原料有機化合物としては1種のものを使用した場合であっても、繊維構造体の合成反応過程において、例えば、トルエンやキシレンの水素脱アルキル化(hydrodealkylation)などのような反応を生じて、その後の熱分解反応系においては分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物となっているような態様も含むものである。
なお、熱分解反応系において炭素源としてこのように2種以上の炭素化合物を存在させた場合、それぞれの炭素化合物の分解温度は、炭素化合物の種類のみでなく、原料ガス中の各炭素化合物のガス分圧ないしモル比によっても変動するものであるため、原料ガス中における2種以上の炭素化合物の組成比を調整することにより、炭素化合物として比較的多くの組み合わせを用いることができる。
例えば、メタン、エタン、プロパン類、ブタン類、ペンタン類、へキサン類、ヘプタン類、シクロプロパン、シクロヘキサンなどといったアルカンないしシクロアルカン、特に炭素数1〜7程度のアルカン;エチレン、プロピレン、ブチレン類、ペンテン類、ヘプテン類、シクロペンテンなどといったアルケンないしシクロオレフィン、特に炭素数1〜7程度のアルケン;アセチレン、プロピン等のアルキン、特に炭素数1〜7程度のアルキン;ベンゼン、トルエン、スチレン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、インデン、フェナントレン等の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、特に炭素数6~18程度の芳香族ないし複素芳香族炭化水素、メタノール、エタノール等のアルコール類、特に炭素数1〜7程度のアルコール類;その他、一酸化炭素、ケトン類、エーテル類等の中から選択した2種以上の炭素化合物を、所期の熱分解反応温度域において異なる分解温度を発揮できるようにガス分圧を調整し、組み合わせて用いること、および/または、所定の温度領域における滞留時間を調整することで可能であり、その混合比を最適化することで効率よく本発明に係る炭素繊維構造体を製造することができる。
このような2種以上の炭素化合物の組み合わせのうち、例えば、メタンとベンゼンとの組み合わせにおいては、メタン/ベンゼンのモル比が、>1〜600、より好ましくは1.1〜200、さらに好ましくは3〜100とすることが望ましい。なお、この値は、反応炉の入り口におけるガス組成比であり、例えば、炭素源の1つとしてトルエンを使用する場合には、反応炉内でトルエンが100%分解して、メタンおよびベンゼンが1:1で生じることを考慮して、不足分のメタンを別途供給するようにすれば良い。例えば、メタン/ベンゼンのモル比を3とする場合には、トルエン1モルに対し、メタン2モルを添加すれば良い。なお、このようなトルエンに対して添加するメタンとしては、必ずしも新鮮なメタンを別途用意する方法のみならず、当該反応炉より排出される排ガス中に含まれる未反応のメタンを循環使用することにより用いることも可能である。
このような範囲内の組成比とすることで、炭素繊維部および粒状部のいずれもが十分を発達した構造を有する炭素繊維構造体を得ることが可能となる。
なお、雰囲気ガスには、アルゴン、ヘリウム、キセノン等の不活性ガスや水素を用いることができる。
また、触媒としては、鉄、コバルト、モリブデンなどの遷移金属あるいはフェロセン、酢酸金属塩などの遷移金属化合物と硫黄あるいはチオフェン、硫化鉄などの硫黄化合物の混合物を使用する。
中間体の合成は、通常行われている炭化水素等のCVD法を用い、原料となる炭化水素および触媒の混合液を蒸発させ、水素ガス等をキャリアガスとして反応炉内に導入し、800〜1300℃の温度で熱分解する。これにより、外径が15〜100nmの繊維相互が、前記触媒の粒子を核として成長した粒状体によって結合した疎な三次元構造を有する炭素繊維構造体(中間体)が複数集まった数cmから数十センチの大きさの集合体を合成する。
原料となる炭化水素の熱分解反応は、主として触媒粒子ないしこれを核として成長した粒状体表面において生じ、分解によって生じた炭素の再結晶化が当該触媒粒子ないし粒状体より一定方向に進むことで、繊維状に成長する。しかしながら、本発明に係る炭素繊維構造体を得る上においては、このような熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させる、例えば上記したように炭素源として分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いることで、一次元的方向にのみ炭素物質を成長させることなく、粒状体を中心として三次元的に炭素物質を成長させる。もちろん、このような三次元的な炭素繊維の成長は、熱分解速度と成長速度とのバランスにのみ依存するものではなく、触媒粒子の結晶面選択性、反応炉内における滞留時間、炉内温度分布等によっても影響を受け、また、前記熱分解反応と成長速度とのバランスは、上記したような炭素源の種類のみならず、反応温度およびガス温度等によっても影響受けるが、概して、上記したような熱分解速度よりも成長速度の方が速いと、炭素物質は繊維状に成長し、一方、成長速度よりも熱分解速度の方が速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向に成長する。従って、熱分解速度と成長速度とのバランスを意図的に変化させることで、上記したような炭素物質の成長方向を一定方向とすることなく、制御下に多方向として、本発明に係るような三次元構造を形成することができるものである。なお、生成する中間体において、繊維相互が粒状体により結合された前記したような三次元構造を容易に形成する上では、触媒等の組成、反応炉内における滞留時間、反応温度、およびガス温度等を最適化することが望ましい。
なお、本発明に係る炭素繊維構造体を効率良く製造する方法としては、上記したような分解温度の異なる2つ以上の炭素化合物を最適な混合比にて用いるアプローチ以外に、反応炉に供給される原料ガスに、その供給口近傍において乱流を生じさせるアプローチを挙げることができる。ここでいう乱流とは、激しく乱れた流れであり、渦巻いて流れるような流れをいう。
反応炉においては、原料ガスが、その供給口より反応炉内へ導入された直後において、原料混合ガス中の触媒としての遷移金属化合物の分解により金属触媒微粒子が形成されるが、これは、次のような段階を経てもたらされる。すなわち、まず、遷移金属化合物が分解され金属原子となり、次いで、複数個、例えば、約100原子程度の金属原子の衝突によりクラスター生成が起こる。この生成したクラスターの段階では、微細炭素繊維の触媒として作用せず、生成したクラスター同士が衝突により更に集合し、約3nm〜10nm程度の金属の結晶性粒子に成長して、微細炭素繊維の製造用の金属触媒微粒子として利用されることとなる。
この触媒形成過程において、上記したように激しい乱流による渦流が存在すると、ブラウン運動のみの金属原子又はクラスター同士の衝突と比してより激しい衝突が可能となり、単位時間あたりの衝突回数の増加によって金属触媒微粒子が短時間に高収率で得られ、又、渦流によって濃度、温度等が均一化されることにより粒子のサイズの揃った金属触媒微粒子を得ることができる。さらに、金属触媒微粒子が形成される過程で、渦流による激しい衝突により金属の結晶性粒子が多数集合した金属触媒微粒子の集合体を形成する。このようにして金属触媒微粒子が速やかに生成されるため、炭素化合物の分解が促進されて、十分な炭素物質が供給されることになり、前記集合体の各々の金属触媒微粒子を核として放射状に微細炭素繊維が成長し、一方で、前記したように一部の炭素化合物の熱分解速度が炭素物質の成長速度よりも速いと、炭素物質は触媒粒子の周面方向にも成長し、前記集合体の周りに粒状部を形成し、所期の三次元構造を有する炭素繊維構造体を効率よく形成する。なお、前記金属触媒微粒子の集合体中には、他の触媒微粒子よりも活性の低いないしは反応途中で失活してしまった触媒微粒子も一部に含まれていることも考えられ、集合体として凝集するより以前にこのような触媒微粒子の表面に成長していた、あるいは集合体となった後にこのような触媒微粒子を核として成長した非繊維状ないしはごく短い繊維状の炭素物質層が、集合体の周縁位置に存在することで、本発明に係る炭素繊維構造体の粒状部を形成しているものとも思われる。
反応炉の原料ガス供給口近傍において、原料ガスの流れに乱流を生じさせる具体的手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、原料ガス供給口より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得る位置に、何らかの衝突部を設ける等の手段を採ることができる。前記衝突部の形状としては、何ら限定されるものではなく、衝突部を起点として発生した渦流によって十分な乱流が反応炉内に形成されるものであれば良いが、例えば、各種形状の邪魔板、パドル、テーパ管、傘状体等を単独であるいは複数組み合わせて1ないし複数個配置するといった形態を採択することができる。
このようにして、触媒および炭化水素の混合ガスを800〜1300℃の範囲の一定温度で加熱生成して得られた中間体は、炭素原子からなるパッチ状のシート片を貼り合わせたような(生焼け状態の、不完全な)構造を有し、ラマン分光分析をすると、Dバンドが非常に大きく、欠陥が多い。また、生成した中間体は、未反応原料、非繊維状炭化物、タール分および触媒金属を含んでいる。
従って、このような中間体からこれら残留物を除去し、欠陥が少ない所期の炭素繊維構造体を得るために、適切な方法で2400〜3000℃の高温熱処理する。
すなわち、例えば、この中間体を800〜1200℃で加熱して未反応原料やタール分などの揮発分を除去した後、2400〜3000℃の高温でアニール処理することによって所期の構造体を調製し、同時に繊維に含まれる触媒金属を蒸発させて除去する。なお、この際、物質構造を保護するために不活性ガス雰囲気中に還元ガスや微量の一酸化炭素ガスを添加してもよい。
前記中間体を2400〜3000℃の範囲の温度でアニール処理すると、炭素原子からなるパッチ状のシート片は、それぞれ結合して複数のグラフェンシート状の層を形成する。
また、このような高温熱処理前もしくは処理後において、炭素繊維構造体の円相当平均径を数cmに解砕処理する工程と、解砕処理された炭素繊維構造体の円相当平均径を50〜100μmに粉砕処理する工程とを経ることで、所望の円相当平均径を有する炭素繊維構造体を得る。なお、解砕処理を経ることなく、粉砕処理を行っても良い。また、本発明に係る炭素繊維構造体を複数有する集合体を、使いやすい形、大きさ、嵩密度に造粒する処理を行っても良い。さらに好ましくは、反応時に形成された上記構造を有効に活用するために、嵩密度が低い状態(極力繊維が伸びきった状態でかつ空隙率が大きい状態)で、アニール処理するとさらに樹脂への導電性付与に効果的である。
本発明において用いられる微細炭素繊維構造体は、
A)嵩密度が低い、
B)樹脂等のマトリックスに対する分散性が良い、
C)導電性が高い、
D)熱伝導性が高い、
E)摺動性が良い、
F)化学的安定性が良い、
G)熱的安定性が高い、
などの特性がある。
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物は、上記したような微細炭素繊維構造体を熱可塑性エラストマー中、あるいは少なくとも一部が架橋されたゴム成分を含む熱可塑性エラストマー中に配合してなるものであるが、本発明において用いられる熱可塑性エラストマーとしては特に限定されるものではなく公知の各種のものを用いることができる。
具体的には、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)/ポリテトラメチレングリコール(PTMG)共重合体、PBT/ポリラクトン共重合体、PBT/ポリオレフィン共重合体などのポリエステル系の熱可塑性エラストマー樹脂;ナイロン6(N6)/PTMG共重合体、ナイロン12(N12)/PTMG共重合体などのポリアミド系の熱可塑性エラストマー樹脂;トリレンジイソシアネート(TDI)/PTMG共重合体、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)/ポリプロピレングリコール(PPG)共重合体、TDI/PPG共重合体などのポリウレタン系の熱可塑性エラストマー樹脂;シリコーン系の熱可塑性エラストマー樹脂;エチレン含有率を高くしたエチレン−プロピレン共重合体、金属カルボキシレート−ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、塩素化ポリエチレンなどのオレフィン系の熱可塑性エラストマー樹脂;スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系エラストマーおよびこれらの水素添加物といったスチレン系の熱可塑性エラストマー樹脂;1,2−ポリブタジエン樹脂やトランス−1,4−ポリブタジエンなどのポリブタジエン系の熱可塑性エラストマー樹脂;その他、ポリ塩化ビニル系の熱可塑性エラストマー、含フッ素系の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらは単独であっても、2種以上を混合して用いることができる。
また、熱可塑性エラストマーとしては、その種類によっても左右されるが、その結晶化度が15〜55%程度のものであることが望ましい。結晶化度が15%より低いと得られる組成物の圧縮永久ひずみが大きくなり、また、結晶化度が50%より高いと組成物の加工性が低下する虞れがあるためである。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、必要に応じて、前記熱可塑性エラストマー100質量部に対し、少なくとも一部が架橋されてなるゴム成分0〜100質量部、より好ましくは30〜60質量部を含有させることができる。なお、このようにゴム成分を配合することによって、熱可塑性エラストマーの圧縮永久ひずみを改善することができる。
このようなゴム成分を構成するゴムとしては、例えば、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含ハロゲン系ゴム、含イオウゴム、反応性の高い官能基を有する付加成分で変性したゴム等が挙げられる。
具体的には、ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2−ポリブタジエンゴム(1,2−BR)、スチレン−ブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR、NIR、NBIR)、クロロプレンゴム(CR)、または、一部水素化したNBR、SBR等が挙げられる。
オレフィン系ゴムとしては、例えば、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、イソブチレンと芳香族ビニルもしくはジエン系モノマーとの共重合体、アクリルゴム(ACM)等が挙げられる。
含ハロゲン系ゴムとしては、例えば、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR、CHC)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)等が挙げられる。
反応性の高い官能基を有する付加成分で変性したゴムとしては、例えば、エポキシ基、マレイン酸基、無水マレイン酸基等の反応性の高い置換基を有する付加成分で変性したゴムが挙げられ、より具体的には、エポキシ化天然ゴム、マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合ゴム(M−EPM)、マレイン酸変性エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(M−EPDM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)等が挙げられる。
これらのうち、特に、架橋密度を上げることが可能なジエン系ゴム、反応性の高い官能基を有する付加成分で変性したゴムを用いることが、得られる本発明のエラストマー組成物をより強固に架橋することができ、さらに永久歪を小さくすることができる理由から好ましい。
上記ゴムの架橋剤としては、イオウ系、有機過酸化物系、金属酸化物系、フェノール樹脂、キノンジオキシム等の一般的なゴム架橋剤を用いることができる。
架橋剤の含有量は、一般的に使用される範囲であれば特に限定されないが、上記ゴム成分を構成するゴム100質量部に対し、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.3〜5質量部であることがより好ましい。
また、上記ゴム成分は、上記各成分以外に、必要に応じて、加硫促進剤、加硫助剤、加硫遅延剤、配合剤を含有させてもよい。
加硫促進剤としては、アルデヒド・アンモニア系、グアニジン系、チオウレア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系等の加硫促進剤が挙げられる。
加硫助剤としては、一般的なゴム用助剤を併せて用いることができ、例えば、亜鉛華、ステアリン酸やオレイン酸およびこれらのZn塩等が挙げられる。
加硫促進剤および加硫助剤の含有量は、上記ゴム成分を構成するゴム100質量部に対
し、0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。
加硫遅延剤としては、具体的には、例えば、無水フタル酸、安息香酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸等の有機酸;N−ニトロソージフェニルアミン、N−ニトロソーフェニル−β−ナフチルアミン、N−ニトロソ−トリメチル−ジヒドロキノリンの重合体等のニトロソ化合物;トリクロルメラニン等のハロゲン化物;2−メルカプトベンツイミダゾール;サントガードPVI等が挙げられる。
加硫遅延剤の含有量は、上記ゴム成分を構成するゴム100質量部に対し、0.1〜0.3質量部であることが好ましく、0.1〜0.2質量部であることがより好ましい。
また、配合剤としては、一般的な配合剤を用いることができ、例えば、可塑剤、充填剤、チクソトロピー性付与剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着付与剤、分散剤、脱水剤、紫外線吸収剤、溶剤等が挙げられる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、微細炭素繊維構造体を熱可塑性エラストマー中、あるいは少なくとも一部が架橋されたゴム成分を含む熱可塑性エラストマー中に、前述の炭素繊維構造体を有効量含む。
その量は、熱可塑性エラストマー組成物の用途やマトリックスを形成する熱可塑性エラストマーおよびゴム成分の種類等によって異なるが、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、あるいは、少なくとも熱可塑性エラストマーとゴム成分の合計量100質量に対し、凡そ0.1〜30%である。0.1%未満では、エラストマー組成物における電気導電性、機械的強度、熱安定性等の改質が十分なものとならない虞れがあり、さらに、圧縮永久ひずみ特性が十分に向上しないものとなる虞れがある。一方、30%より多くなると、熱可塑性エラストマーの機械的強度、弾性率等が必要以上に低下してしまう虞れがある。
なお、本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、このようにフィラーとしての炭素繊維構造体の配合量が比較的低いものであっても、マトリックス中に、微細な炭素繊維を均一な広がりをもって配置することができるため、上述したように電気伝導性に優れ、かつ圧縮永久ひずみの改善された熱可塑性エラストマー組成物を形成することができる。
本発明のエラストマー組成物は、上記熱可塑性樹脂およびゴム成分および炭素繊維構造体以外に、必要に応じて、上述した架橋剤(加硫剤)、加硫促進剤、加硫助剤、加硫遅延剤および配合剤、ならびに、相溶化剤を含有させてもよい。
相溶化剤は、一般的に熱可塑性樹脂およびゴム成分の両方または片方の構造を有する共重合体あるいは熱可塑性樹脂成分またはゴム成分と反応可能なエポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基等を有した共重合体の構造をとるものとすることができ、混練される熱可塑性樹脂成分およびゴム成分の種類によって選定される。
このような相溶化剤として通常使用されるものには、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系ブロック共重合体(SEBS)およびそのマレイン酸変性物;EPDM、EPMおよびそれらのマレイン酸変性物;EPDM−スチレンまたはEPDM−アクリロニトリルグラフト共重合体およびそのマレイン酸変性物;スチレン−マレイン酸共重合体;マレイン酸またはエポキシ変性エチレン−酢酸ビニル共重合体;エチレン−エチルアクリレート;反応性フェノキシン等を挙げることができる。
このような相溶化剤を含有させることにより、上記熱可塑性樹脂中に上記ゴム成分をより小さくより均一に分散させることができる。
また、所望により添加する相溶化剤の含有量は、上記熱可塑性樹脂および上記ゴム成分の合計100質量部に対して、0.5〜20質量部であることが好ましい。相溶化剤の含有量がこの範囲であれば、熱可塑性樹脂とゴム成分との界面張力が低下し、その結果、分散層を形成しているゴム成分の粒子径が微細になり、得られる本発明のエラストマー組成物の破断強度が向上する理由から好ましい。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、公知の混練機、例えば、単軸押出機、2軸混練押出機、ニーダー、バンバリー、プラストミル、ロールなどを利用して、熱可塑性エラストマー中に炭素繊維構造体を分散配合することにより調製することができる。
なお、熱可塑性エラストマー組成物がゴム成分を含有する場合には、予め熱可塑性エラストマーとゴム成分とを溶融混練し、連続相を形成する熱可塑性エラストマー中にゴム成分を分散相として分散させた後、炭素繊維構造体を分散配合しても、あるいは、ゴム成分と炭素繊維構造体をほぼ同時に熱可塑性エラストマー中に配合し分散配合しても、また、熱可塑性エラストマー中に炭素繊維構造体を分散させた後、ゴム成分を添加し分散配合させても良い。
なお、ゴム成分の架橋は、混練下で架橋剤(必要に応じて加硫促進剤、加硫助剤等を含む)を添加することによる動的加硫により行われる。なお、熱可塑性エラストマーまたはゴム成分への架橋剤、配合剤等の添加は、上記混練中に添加してもよいが、混練の前に予め混合しておくことが、熱可塑性エラストマーへの影響が小さく、効率的にゴム成分の架橋が進行する理由から好ましい。
なお、溶融・混練条件、加硫条件、使用する架橋剤の種類およびその配合量等は、熱可塑性樹脂ないしゴム成分の種類、その配合量に応じて適宜決定すればよく、特に限定はされないが、例えば、混練温度は、上記熱可塑性エラストマーが溶融する温度以上でかつ熱分解等が生じない温度以下であれば特に限定されないが、例えば、150〜300℃であることが好ましく、180〜250℃であることがより好ましい。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、所望の形状の成形物に成形するには、溶融押し出し、プレス成形など公知の方法によって行なうことができる。
さらに、本発明において用いられる熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で公知の種々の添加剤、例えば、充填剤、補強剤、各種安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滑剤、可塑剤、溶剤等を配合することが可能である。
特に、本発明において導電性樹脂成形体を調製しようとする場合には、金属粉末、カーボン粉末等のその他の導電性フィラーを配合することが可能である。なお、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物が、このような金属粉末、カーボン粉末等の導電性フィラーを、前記した炭素繊維構造体と共に含有している場合、比較的少量の炭素繊維構造体を含有することによって、これら導電性フィラーの配合量を低減させても、従来多量の導電性フィラーを配合することによってしか得られなかった高い導電性が発揮され、導電性フィラーの配合量の増大によって生じていた硬化皮膜強度の低下、易剥離性といった問題が解消されるとともに、高価な金属の添加量を低減することによるコスト的な利点が得られる。このように高い導電性が発現する作用機序として正確なところは明らかではないが、樹脂マトリックス中において金属またはカーボン粉末といった比較的大きな導電性フィラーとより小さな炭素繊維構造体とが接触することにより生じるものであると推定される。詳しくは、導電性フィラー同士の接触の際に生じる空隙にカーボンナノ構造体が充填されることにより電気的な連鎖が形成されて高い導電性が発現されると推定されるものである。
金属粉末としては特に限定されるものではないが、例えば、銀、白金、パラジウム、銅、ニッケルなどの金属を1種あるいは混合物として用いることができる。これらの金属粉末の形状は、フレーク状、球状、樹枝状、樹塊状、不定形など導電フィラーとして使用されるものであれば特に限定されることなく使用することができる。このような金属粉末の粒径としては、特に限定されるものではないが、例えば、0.5〜15μm程度が好ましい。平均粒径が0.5μmより小さいと、金属の表面積が増加し、酸化し易くなってしまい導電性が十分に得られなくなってしまうからである。一方、平均粒径が15μmよりも大きいと、粒子同士が接触したときに多数の空隙が生じてしまい導電性が十分に得られなくなってしまう虞れがあるからである。
また導電性フィラーとなるカーボン粉末としては、特に限定されるものではないが、一般に、カーボンブラックを用いることが好ましい。カーボンブラックとしては、各種製法により得られるいずれのものも使用することは可能であるが、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等を好適なものとして例示することができる。また、原料の相違により分類されるガスブラック、オイルブラック、アセチレンブラック等もまた好適な例として例示することができる。これらの中で、特に、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックが好ましい。
上記したような金属粉末、カーボン粉末等の導電性フィラーを熱可塑性エラストマー組成物に配合する場合において、その配合量としては、金属粉末の場合、例えば、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、金属粉末100〜500質量部程度が望ましい。100質量部より少ないと、金属粒子同士の接触箇所が少ないために、十分な導電性が得られなくなってしまう虞れがあるためであり、一方、500質量部よりも多いと、相対的に樹脂成分の含有量が少なくなり、この導電性樹脂組成物で例えば、導電路等を形成しても、この導電路が剥離しやすい等の不具合が発生する虞れが高くなるためである。また、カーボンブラックの場合は、熱可塑性エラストマー100質量部に対して、カーボンブラック5〜50質量部程度が望ましい。5質量部より少ないと、十分な導電性が得られなくなってしまう虞れがあるためであり、一方、50質量部よりも多いと、相対的に樹脂成分や、後述する炭素繊維構造体の含有量が少なくなり、導電性が十分に発揮されなくなったり、この導電性樹脂組成物で例えば、導電路等を形成してもこの導電路が剥離しやすい等の不具合が発生する虞れが高くなるためである。なお、このように導電性フィラーを配合する場合における炭素繊維構造体の配合量は、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、炭素繊維構造体0.1〜30質量部程度配合することが適当である。
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物により形成される成形品は、特に限定されるものではないが、代表的には、その表面抵抗値が1013Ω/cm以下、特に10〜1012Ω/cmとなり、また、JIS K 6301の測定方法に準ずる条件にて測定した圧縮永久ひずみの改善率が3〜70%となる。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定
されるものではない。
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
<面積基準の円相当平均径>
まず、粉砕品の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。対象とされた各炭素繊維構造体の輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各繊維構造体の円相当径を計算し、これを平均化した。
<嵩密度の測定>
内径70mmで分散板付透明円筒に1g粉体を充填し、圧力0.1Mpa、容量1.3リットルの空気を分散板下部から送り粉体を吹出し、自然沈降させる。5回吹出した時点で沈降後の粉体層の高さを測定する。このとき測定箇所は6箇所とることとし、6箇所の平均を求めた後、嵩密度を算出した。
<ラマン分光分析>
堀場ジョバンイボン製LabRam800を用い、アルゴンレーザーの514nmの波長を用いて測定した。
<TG燃焼温度>
マックサイエンス製TG−DTAを用い、空気を0.1リットル/分の流速で流通させながら、10℃/分の速度で昇温し、燃焼挙動を測定した。燃焼時にTGは減量を示し、DTAは発熱ピークを示すので、発熱ピークのトップ位置を燃焼開始温度と定義した。
<X線回折>
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維構造体を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
<粉体抵抗および復元性>
CNT粉体1gを秤取り、樹脂製ダイス(内寸40リットル、10W、80Hmm)に充填圧縮し、変位および荷重を読み取る。4端子法で定電流を流して、そのときの電圧を測定し、0.9g/cmの密度まで測定したら、圧力を解除し復元後の密度を測定した。粉体抵抗については、0.5、0.8および0.9g/cmに圧縮したときの抵抗を測定することとする。
<粒状部の平均粒径、円形度、微細炭素繊維との比>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
対象とされた各炭素繊維構造体において、炭素繊維相互の結合点である粒状部を1つの粒子とみなして、その輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、これを平均化して粒状部の平均粒径とした。また、円形度(R)は、前記画像解析ソフトウェアを用いて測定した輪郭内の面積(A)と、各粒状部の実測の輪郭長さ(L)より、次式により各粒状部の円形度を求めこれを平均化した。
R=A*4π/L2
さらに、対象とされた各炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径を求め、これと前記各炭素繊維構造体の粒状部の円相当径から、各炭素繊維構造体における粒状部の大きさを微細炭素繊維との比として求め、これを平均化した。
<粒状部の間の平均距離>
面積基準の円相当平均径の測定と同様に、まず、炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真において、炭素繊維構造体の輪郭が明瞭なもののみを対象とし、炭素繊維構造体が崩れているようなものは輪郭が不明瞭であるために対象としなかった。1視野で対象とできる炭素繊維構造体(60〜80個程度)はすべて用い、3視野で約200個の炭素繊維構造体を対象とした。
対象とされた各炭素繊維構造体において、粒状部が微細炭素繊維によって結ばれている箇所を全て探し出し、このように微細炭素繊維によって結ばれる隣接する粒状部間の距離(一端の粒状体の中心部から他端の粒状体の中心部までを含めた微細炭素繊維の長さ)をそれぞれ測定し、これを平均化した。
<炭素繊維構造体の破壊試験>
蓋付バイアル瓶中に入れられたトルエン100mlに、30μg/mlの割合で炭素繊維構造体を添加し、炭素繊維構造体の分散液試料を調製した。
このようにして得られた炭素繊維構造体の分散液試料に対し、発信周波数38kHz、出力150wの超音波洗浄器((株)エスエヌディ製、商品名:USK-3)を用いて、超音波を照射し、分散液試料中の炭素繊維構造体の変化を経時的に観察した。
まず超音波を照射し、30分経過後において、瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影する。得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維(少なくとも一端部が粒状部に結合している微細炭素繊維)をランダムに200本を選出し、選出された各微細炭素繊維の長さを測定し、D50平均値を求め、これを初期平均繊維長とした。
一方、得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における炭素繊維相互の結合点である粒状部をランダムに200個を選出し、選出された各粒状部をそれぞれ1つの粒子とみなしてその輪郭を、画像解析ソフトウェア WinRoof(商品名、三谷商事株式会社製)を用いてなぞり、輪郭内の面積を求め、各粒状部の円相当径を計算し、このD50平均値を求めた。そして得られたD50平均値を粒状部の初期平均径とした。
その後、一定時間毎に、前記と同様に瓶中から一定量2mlの分散液試料を抜き取り、この分散液中の炭素繊維構造体の写真をSEMで撮影し、この得られたSEM写真の炭素繊維構造体中における微細炭素繊維のD50平均長さおよび粒状部のD50平均径を前記と同様にして求めた。
そして、算出される微細炭素繊維のD50平均長さが、初期平均繊維長の約半分となった時点(本実施例においては超音波を照射し、500分経過後)における、粒状部のD50平均径を、初期平均径と対比しその変動割合(%)を調べた。
<圧縮永久ひずみ>
圧縮永久ひずみの測定は、JIS K 6301に規定されている方法に準ずる方法、即ち2枚のクロムメッキを施した平行金属板の間に25%圧縮率に相当するスペーサーと熱可塑性エラストマーの試料をはさみ、ボルト締めを行い、以下に示す所定温度にて所定時間の熱処理を行った。その後、圧縮試験型から試験片を取り出し、室温に24時間放置し、試料の厚さを測定し、次の式により圧縮永久ひずみを算出した。
圧縮永久ひずみ(%)=(試験前の試料の厚さ−試験後の試料の厚さ)×100÷(試験前の試料の厚さ−スペーサーの厚さ)
<電気抵抗値の測定>
得られたシート状試験片の導電性を、四探針低抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタGP)を用いて表面9箇所の抵抗(Ω)を測定し、平均値を算出した。
合成例1
CVD法によって、トルエンを原料として炭素繊維構造体を合成した。
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに380℃に加熱し、生成炉に供給し、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の概略構成を図8に示す。図8に示すように、生成炉1は、その上端部に、上記したようなトルエン、触媒および水素ガスからなる原料混合ガスを生成炉1内へ導入する導入ノズル2を有しているが、さらにこの導入ノズル2の外側方には、円筒状の衝突部3が設けられている。この衝突部3は、導入ノズル2の下端に位置する原料ガス供給口4より反応炉内に導出される原料ガスの流れに干渉し得るものとされている。なお、この実施例において用いられた生成炉1では、導入ノズル2の内径a、生成炉1の内径b、筒状の衝突部3の内径c、生成炉1の上端から原料混合ガス導入口4までの距離d、原料混合ガス導入口4から衝突部3の下端までの距離e、原料混合ガス導入口4から生成炉1の下端までの距離をfとすると、各々の寸法比は、おおよそa:b:c:d:e:f=1.0:3.6:1.8:3.2:2.0:21.0に形成されていた。また、反応炉への原料ガス導入速度は、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
上記のようにして合成された中間体を窒素中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.98であった。また、この第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図1、2に示す。
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明において用いられる炭素繊維構造体を得た。
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真を図3、4に示す。
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察したSEM写真を図5に、またその粒度分布を表1に示した。
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べた。結果を図6および7に示す。
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、72.8μm、嵩密度は0.0032g/cm、ラマンID/IG比値は0.090、TG燃焼温度は786℃、面間隔は3.383オングストローム、粉体抵抗値は0.0083Ω・cm、復元後の密度は0.25g/cmであった。
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、443nm(SD207nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の7.38倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.67(SD0.14)であった。
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.8μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.7μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.8%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
なお、合成例1で測定した各種物性値を、表2にまとめた。
合成例2
生成炉からの排ガスの一部を循環ガスとして使用し、この循環ガス中に含まれるメタン等の炭素化合物を、新鮮なトルエンと共に、炭素源として使用して、CVD法により微細炭素繊維を合成した。
合成は、触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。新鮮な原料ガスとして、トルエン、触媒を水素ガスとともに予熱炉にて380℃に加熱した。一方、生成炉の下端より取り出された排ガスの一部を循環ガスとし、その温度を380℃に調整した上で、前記した新鮮な原料ガスの供給路途中にて混合して、生成炉に供給した。
なお、使用した循環ガスにおける組成比は、体積基準のモル比でCH 7.5%、C 0.3%、C 0.7%、C 0.1%、CO 0.3%、N 3.5%、H 87.6%であり、新鮮な原料ガスとの混合によって、生成炉へ供給される原料ガス中におけるメタンとベンゼンとの混合モル比CH/C(なお、新鮮な原料ガス中のトルエンは予熱炉での加熱によって、CH:C=1:1に100%分解したものとして考慮した。)が、3.44となるように、混合流量を調整された。
なお、最終的な原料ガス中には、混合される循環ガス中に含まれていた、C、CおよびCOも炭素化合物として当然に含まれているが、これらの成分は、いずれもごく微量であり、実質的に炭素源としては無視できるものであった。
そして、合成例1と同様に、生成炉において、1250℃で熱分解して、炭素繊維構造体(第一中間体)を得た。
なお、この炭素繊維構造体(第一中間体)を製造する際に用いられた生成炉の構成は、円筒状の衝突部3がない以外は、図8に示す構成と同様のものであり、また反応炉への原料ガス導入速度は、合成例1と同様に、1850NL/min、圧力は1.03atmとした。
上記のようにして合成された第一中間体をアルゴン中で900℃で焼成して、タールなどの炭化水素を分離し、第二中間体を得た。この第二中間体のラマン分光測定のR値は0.83であった。また、第一中間体をトルエン中に分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したところ、そのSEMおよびTEM写真は図1、2に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
さらにこの第二中間体をアルゴン中で2600℃で高温熱処理し、得られた炭素繊維構造体の集合体を気流粉砕機にて粉砕し、本発明に係る炭素繊維構造体を得た。
得られた炭素繊維構造体をトルエン中に超音波で分散して電子顕微鏡用試料調製後に観察したSEMおよびTEM写真は、図3、4に示す合成例1のものとほぼ同様のものであった。
また、得られた炭素繊維構造体をそのまま電子顕微鏡用試料ホルダーに載置して観察し粒度分布を調べた。得られた結果を表3に示す。
さらに高温熱処理前後において、炭素繊維構造体のX線回折およびラマン分光分析を行い、その変化を調べたところ、図6および7に示す合成例1の結果とほぼ同様のものであった。
また、得られた炭素繊維構造体の円相当平均径は、75.8μm、嵩密度は0.004g/cm、ラマンI/I比値は0.086、TG燃焼温度は807℃、面間隔は3.386オングストローム、粉体抵抗値は0.0077Ω・cm、復元後の密度は0.26g/cmであった。
さらに炭素繊維構造体における粒状部の粒径は平均で、349.5nm(SD180.1nm)であり、炭素繊維構造体における微細炭素繊維の外径の5.8倍となる大きさであった。また粒状部の円形度は、平均値で0.69(SD0.15)であった。
また、前記した手順によって炭素繊維構造体の破壊試験を行ったところ、超音波印加30分後の初期平均繊維長(D50)は、12.4μmであったが、超音波印加500分後の平均繊維長(D50)は、6.3μmとほぼ半分の長さとなり、炭素繊維構造体において微細炭素繊維に多くの切断が生じたことが示された。しかしながら、超音波印加500分後の粒状部の平均径(D50)を、超音波印加30分後の初期初期平均径(D50)と対比したところ、その変動(減少)割合は、わずか4.2%であり、測定誤差等を考慮すると、微細炭素繊維に多くの切断が生じた負荷条件下でも、切断粒状部自体はほとんど破壊されることなく、繊維相互の結合点として機能していることが明らかとなった。
なお、合成例2で測定した各種物性値を、表4にまとめた。
実施例1〜5
1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー(JSR RB 830、JSR製)100質量部に、合成例1で得られた炭素繊維構造体を0.1、1、5、10、30質量部の配合割合で配合し、ニーダーを用いて、140℃で10分間混練を行った。その後、ロールにてシート出しをし、プレス成形機により、電気抵抗値測定用の厚み2mmのシートと圧縮永久ひずみ測定用の直径28.7mm、厚み12.7mmの円筒状の試料を作製した。
得られた試料に対し、上述したような方法に基づき、圧縮永久ひずみおよび電気抵抗値の測定を行った。得られた結果を表5に示す。
なお、圧縮永久ひずみは、上述したように、JIS K 6301に規定されている方法に準ずる方法、即ち2枚のクロムメッキを施した平行金属板の間に25%圧縮率に相当するスペーサーと熱可塑性エラストマーの試料をはさみ、ボルト締めを行い、70℃で22時間の熱処理を行い、その後、圧縮試験型から試験片を取り出し、室温に24時間放置し、試料の厚さを測定し、上述した式により算出することによって測定された。
比較例1
実施例1〜5に用いた1,2−ポリブタジエンで炭素繊維構造体を配合しない材料を用いて、実施例1〜5と同様に試料を作製し、同様の測定を行った。得られた結果を表5に示す。
実施例6〜10
1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー(JSR RB 830、JSR製)100質量部に、合成例2で得られた炭素繊維構造体を0.1、1、5、10、30質量部の配合割合で配合し、ニーダーを用いて、140℃で10分間混練を行った。その後、ロールでシート出しをし、プレス成形機により、電気抵抗値測定用の厚み2mmのシートと圧縮永久ひずみ測定用の直径28.7mm、厚み12.7mmの円筒状の試料を作製した。得られた試料に対し、実施例1〜5と同様の方法により、圧縮永久ひずみおよび電気抵抗値の測定を行った。得られた結果を比較例1の結果と共に表6に示す。
実施例11〜15
1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー(JSR RB 830、JSR製)50質量部と、NBR(中高ニトリルNBR、Nipol 1042、日本ゼオン(株))50質量部に、FEFカーボンブラックを15質量部、ZnOを2.5質量部、ステアリン酸を0.5質量部、硫黄を0.2質量部、加硫促進剤CZを1.0質量部、加硫促進剤TTを1.0質量部及び合成例2で得られた炭素繊維構造体を0.1、1、5、10、30質量部の配合割合で配合し、ニーダーを用いて10分間混練した後、ロールでシート出しをし、プレス成形機により、150℃で30分間加硫成形を行い、電気抵抗値測定用の厚み2mmのシートと圧縮永久ひずみ測定用の直径28.7mm、厚み12.7mmの円筒状の試料を作製した。得られた試料に対し、上述したような方法に基づき、圧縮永久ひずみおよび電気抵抗値の測定を行った。得られた結果を表7に示す。
なお、圧縮永久ひずみの測定は、圧縮永久ひずみの試験条件を130℃で22時間に変更した以外は、実施例1〜10と同じ条件で測定した。また、電気抵抗値の測定は、1〜10と同じ条件で測定した。
比較例2
実施例11〜15に用いた1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー及びNBR配合組成物で炭素繊維構造体を配合しない材料を用いて、実施例11〜15と同様に試料を作製し、同様の測定を行った。得られた結果を表7に示す。
実施例16〜20
NBR(中高ニトリルNBR、Nipol 1042、日本ゼオン(株))100質量部に、FEFカーボンブラックを30質量部、ZnOを5質量部、ステアリン酸を1質量部、硫黄を0.4質量部、加硫促進剤CZを2.0質量部、加硫促進剤TTを2.0質量部及び合成例2で得られた炭素繊維構造体を0.1、1、5、10、30質量部の配合割合で配合し、ニーダーを用いて10分間混練した後、ロールでシート出しをし、プレス成形機により、150℃で30分間加硫成形を行い、電気抵抗値測定用の厚み2mmのシートと圧縮永久ひずみ測定用の直径28.7mm、厚み12.7mmの円筒状の試料を作製した。得られた試料に対し、実施例11〜15と同様にして、圧縮永久ひずみおよび電気抵抗値の測定を行った。得られた結果を表8に示す。
比較例3
実施例16〜20に用いたNBR配合組成物で炭素繊維構造体を配合しない材料を用いて、実施例16〜20と同様に試料を作製し、同様の測定を行った。得られた結果を表8に示す。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる炭素繊維構造体の中間体のSEM写真である。 本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる炭素繊維構造体の中間体のTEM写真である。 本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。 (a)(b)は、それぞれ本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる炭素繊維構造体のTEM写真である。 本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる炭素繊維構造体のSEM写真である。 本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のX線回折チャートである。 本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる炭素繊維構造体および該炭素繊維構造体の中間体のラマン分光分析チャートである。 本発明の実施例において炭素繊維構造体の製造に用いた生成炉の概略構成を示す図面である。
符号の説明
1 生成炉
2 導入ノズル
3 衝突部
4 原料ガス供給口
a 導入ノズルの内径
b 生成炉の内径
c 衝突部の内径
d 生成炉の上端から原料混合ガス導入口までの距離
e 原料混合ガス導入口から衝突部の下端までの距離
f 原料混合ガス導入口から生成炉の下端までの距離

Claims (5)

  1. 熱可塑性エラストマー100質量部に対し、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、0.1〜30質量部含有してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
  2. 熱可塑性エラストマー100質量部に対し、少なくとも一部が架橋されてなるゴム成分0〜100質量部を含有し、これら熱可塑性エラストマーとゴム成分の合計量100質量に対し、外径15〜100nmの炭素繊維から構成される3次元ネットワーク状の炭素繊維構造体であって、前記炭素繊維構造体は、前記炭素繊維が複数延出する態様で、当該炭素繊維を互いに結合する粒状部を有しており、かつ当該粒状部は前記炭素繊維の成長過程において形成されてなるものである炭素繊維構造体を、0.1〜30質量部含有してなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
  3. 前記炭素繊維構造体は、ラマン分光分析法で測定されるI/Iが、0.2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  4. 前記炭素繊維構造体は、炭素源として、分解温度の異なる少なくとも2つ以上の炭素化合物を用いて、生成されたものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いて形成されたことを特徴とする導電性シート。
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