以下、図面を参照しながら本発明の実施例について説明する。
図1は、本発明の実施例に係る三角測距式光電センサーである距離設定型光電センサーの外観を示す斜視図である。この実施例の距離設定型光電センサーは、いわゆるアンプ分離型であり、ヘッド部11とアンプ部12が電気ケーブル13で接続された構成を有する。
アンプ部12は薄型直方体形状のケース121を有し、その前端側にはヘッド部11に接続された電気ケーブル13が接続され、後端側には上位の制御装置(PLC等)に接続された電気ケーブル14が接続されている。ケース121の下面122には、DINレール(機器取付用規格レール)に装着するための構造が備えられている。複数のアンプ部12を重ねるように並べてDINレールに取り付けることができ、その際にアンプ部12の側面に設けられたコネクタ123によって隣接するアンプ部12との電気的な接続をとることができる。
アンプ部12の上面には、検出結果である検出距離や予め設定する基準距離の数値表示等に使用される8桁(4桁×2)の7セグメントLEDを用いたディジタル表示器124と、検出距離と基準距離との比較結果を表示するための出力インジケータ(発光ダイオード)125が設けられている。また、基準距離の設定、動作モードや表示モードの切り替え等に使用される複数の押釦スイッチ126〜128が設けられている。さらに、本実施例の距離設定型光電センサーは基準距離を2個設定して記憶することができ、現在いずれの基準距離を使用しているかを示す基準距離インジケータ129が設けられている。
これらのディジタル表示器124、インジケータ125,129及び押釦スイッチ126〜128を保護するための透明樹脂製の保護カバー130が設けられ、図1では保護カバー130を開いた状態が示されている。保護カバー130はアンプ部12の後端側上部に設けられたヒンジ部で枢支されており、これを閉じた状態ではディジタル表示器124、インジケータ125,129及び押釦スイッチ126〜128を含むアンプ部12の上面パネル(表示・操作パネル)が保護カバー130で覆われるようになっている。
ヘッド部11は、略直方体の樹脂製のケース111に発光素子を含む投光部と受光素子を含む受光部、そして電子回路等が内蔵されたものである。投光部の発光素子から発した光LBがヘッド部11の前面から対象物(以下ワークという)WKに向けて投光され、ワークWKからの反射光LB’が受光部の前面から受光素子に入射する。
ケース111の背面(投光側及び受光側の面と反対側の面)の一端側(図1では下側)からはアンプ部12に接続された電気ケーブル13が引き出され、他端側(図1では上側)には判定インジケータ(ON/OFF表示灯)112が設けられている。この判定インジケータ112は、アンプ部12の出力インジケータ125と同様に、検出距離と基準距離との比較結果を表示するためのものである。例えば、検出距離が基準距離より小さい(すなわちワークWKの位置が近い)ときに判定インジケータ112が点灯し、検出距離が基準距離より大きい(すなわちワークWKの位置が遠い、又はワークWKが存在しない)ときに判定インジケータ112が消灯する。
また、ヘッド部11には投光部の光軸と受光部の光軸とが成す角度である測距角(図14における角度MA)をワークWKまでの大まかな距離に応じて調整(設定)するための測距角調整機構(測距角調整手段)が内蔵されており、その回転操作部であるトリマー113がケース111の背面に露出している。また、3個の発光ダイオード(LED)からなる測距角調整ガイドインジケータ114がケース111の背面に設けられ、トリマー113に近接するように配置されている。この測距角調整ガイドインジケータ114は、ユーザーがトリマー113を回転させて測距角の調整(設定)を行う際に調整すべき方向と最適な調整状態を表示する機能を有する。
図2は、本発明の実施例に係る距離設定型光電センサーのヘッド部の内部概略構造を示す図である。これは、図1におけるヘッド部11を左側面から透視した図に相当する。また、図3は、受光素子及び受光レンズのホルダーを示す図である。図3(a)はホルダーの側面から見た図であり、図3(b)はホルダーの背面から見た図である。図2において、ヘッド部11(ケース111)の内部空間の前面側一端部(図2では左上側)には発光素子211及び投光レンズ212を含む投光部21が内蔵されている。また前面側他端部(図2では左下側)から中央部にわたる広い空間は、受光素子200、受光レンズ201及びそれらのホルダー202を含む受光部20が占めている。
受光部20は、ケース111に対して枢支軸AXを中心に所定の角度範囲内で回動自在に枢支されている。この枢支構造は、樹脂成形品であるホルダー202の略中央部から突出する軸部(図3の202d)がケース111の側面111aに形成された軸受孔(図示せず)に係合することによって実現されている。ホルダー202の下側にはケース側面と平行な(枢支軸AXに垂直な)ホルダー側接触面202aが形成されている。ケース111の下面111bから側面111aと平行に延びるように設けられた固定側接触部111cの面(固定側接触面)がホルダー側接触面202aと面接触する。同様に、ホルダー202の上側にもケース側面と平行なホルダー側接触面202bが形成されている。このホルダー側接触面202bに面接触する固定側接触面を有する固定側接触部材111dが固定螺子111eによってケース111の側面111aに固定されている。ホルダー202に設けられたホルダー側接触面202a、202bが、ケース111の固定側接触部111c及びケース111に固定された固定側接触部材111dに設けられた固定側接触面と面接触することによって、摩擦力でホルダー202の回動姿勢を保持するように構成されている。
上記のようなホルダー202を枢支軸AX周りに回動させる調整操作部として、送り螺子131とナット部材132とが設けられている。これらを含む調整操作部の動作を図2から図4を参照して説明する。図4は、送り螺子131の軸方向に移動してホルダー202を回動させるナット部材132の斜視図である。
送り螺子131は一端側に回転操作部113を備え、これは図1に示したケース111の背面に露出しているトリマー113に相当する。送り螺子131の軸方向中央部には雄螺子131aが形成され、この雄螺子131aに螺合する雌螺子132aがナット部材132に形成されている。送り螺子131は、ケース111の側面111aに立設された一対の送り螺子支持部111f、111gに設けられた支持孔に挿通されるようにして保持されている。また、送り螺子131と平行に、送り螺子支持部111f、111gの間に架け渡されるようにして傾き防止ロッド133が設けられている。傾き防止ロッド133は、ナット部材132に雌螺子132aの孔と平行に形成された貫通孔132bに挿通されている。送り螺子131、ナット部材132、及び傾き防止ロッド133は金属製である。
図2に示すように、ナット部材132の下端部はケース前面側(図2では左側)に向かって直角に折れ曲がり、その先端部にはホルダー202の枢支軸AXと平行に突出する円柱状の係合突起132cが設けられている。他方、ホルダー202のホルダー側接触面202bからケース背面側(図2では右側)に続く部分(ケース側面に平行な面)には、ナット部材132の係合突起132cに係合する係合溝202cが形成されている。
上記のような調整操作部の構造によって、ホルダー202を枢支軸AX周りに回動させる手動調整を行うことができる。すなわち、トリマー113を矢印線で示すように回転操作すると、送り螺子131の回転に伴ってナット部材132が矢印線で示すように前後方向(図2では左右方向)に移動する。その結果、ナット部材132の係合突起132cがホルダー202の係合溝202cに沿って移動しながらホルダー202に枢支軸AX周りの回転力を与える。このように、ユーザーがトリマー113を回転操作すると、ホルダー202の回動姿勢(角度)が変化するので、受光部20の角度、ひいては測距角(図14における角度MA)を変更設定することができる。
なお、ナット部材132の雌螺子と螺合する送り螺子131の雄螺子131aは、送り螺子131の軸方向中央部のみに形成されている。つまり、ナット部材132が可動範囲の端部(送り螺子131の軸方向両端部)まで移動すると、ナット部材132の雌螺子132aが送り螺子131の雄螺子131aから外れるように構成されている。したがって、この状態でトリマー113の回転操作を続けても送り螺子131は空回り状態となり、これによって各部材の機械的な損傷が防がれる。
また、送り螺子131に外嵌するように一対のコイルバネ(弾性部材)134が設けられ、これらがナット部材132を送り螺子131の軸方向両端側から中央に向けて付勢している。したがって、送り螺子131が空回りする状態から逆方向にトリマー113を回転操作すれば、再びナット部材132の雌螺子が送り螺子131の雄螺子131aに螺合し、ナット部材132が送り螺子131の軸方向に移動するようになる。
上記のような測距角調整機構の構造により、ユーザーはトリマー113を回転操作して、受光素子200、受光レンズ201及びホルダー202を含む受光部20の角度姿勢、ひいては測距角(図14における角度MA)を調整することができる。測距角MAはワークWKまでの大まかな距離に応じて調整(設定)される。具体的な調整手順の例については後述する。
図2に戻って、ヘッド部11のケース111の内部において、右辺(背面側)及び上辺から中央部にかけて略三角形状の破線の輪郭で示すように、プリント配線板141が収容されている。このプリント配線板141には、発光素子211等の駆動回路や受光素子200の出力信号の処理回路等が実装されている。発光素子211及び受光素子200とプリント配線板141との電気接続は、それぞれフレキシブル配線板142及び143を用いて行われている。特に、受光素子200とプリント配線板141との電気接続のためのフレキシブル配線板143は図示のように折り曲げられている。これは、測距角の調整に伴って受光素子200の位置がプリント配線板141に対して移動するので、この変位をフレキシブル配線板143の折り曲げ部が吸収できるようにするためである。
また、図2では省略しているが、図1に示した判定インジケータ112のLEDが右上コーナー部に装着され、プリント配線板141に電気接続される。同様に図1に示した調整ガイドインジケータ114を構成する3個のLEDが別の小さいプリント配線板(図示せず)に実装され、プリント配線板141に電気接続される。
次に、距離設定型光電センサーの全体の回路構成について説明する。図5は本発明の実施例に係る距離設定型光電センサーの回路構成を示すブロック図である。ヘッド部11に内蔵された受光部20の受光素子200として、本実施例の距離設定型光電センサーでは二分割PD(二分割フォトダイオード)が用いられている。二分割PDは、PSD(位置検出半導体素子)やCCD(固体撮像素子)に比べて安価であることが大きなメリットである。
図6は、二分割PDから得られる受光信号について説明するための図である。二分割PDである受光素子200は受光面が2つに(図6では上下に)分割されており、各分割受光面から個別の受光量信号(N及びF)が得られる。一方の分割受光面をN側(接近側)受光面といい、他方の分割受光面をF側(離間側)受光面という。また、受光スポット位置(又は受光量分布の重心位置)を模式的に示すために、灰色に塗りつぶした円で受光スポットSPを表している。
図6(b)に示すように受光スポットSPがN側受光面とF側受光面との境界に位置するときに両方の分割受光面から同等の受光量信号が得られる(N=F)。また、図6(a)に示すように受光スポットSPがN側受光面に偏ると、N側受光面から得られる受光量NがF側受光面から得られる受光量Fより大きくなる(N>F)。逆に図6(c)に示すように受光スポットSPがF側受光面に偏ると、F側受光面から得られる受光量FがN側受光面から得られる受光量Nより大きくなる(N<F)。したがって、N側受光面から得られる受光量NとF側受光面から得られる受光量Fとの差N−Fを用いて、受光スポット位置(又は受光量分布の重心位置)、すなわちワークWKまでの距離に関係する量を求めることが可能である。なお、以下の説明において、N側受光面から出力された受光量信号をNで示し、F側受光面から得られる受光量信号をFで表す場合があり、あるいは、N側受光面から得られた受光量(に相当する電圧又はディジタル変換値)をNで表し、F側受光面から得られた受光量をFで表すこともある。N−Fについても、受光量差信号を表す場合もあるし、受光量差(に相当する電圧又はディジタル変換値)を表す場合もある。
図5のブロック図に示すように、受光素子200のN側受光面及びF側受光面から出力された受光量信号N及びFはそれぞれの増幅器23及び24を経てアナログ演算部25に入力される。そして、アナログ演算部25から2つの受光量の差を表す信号(受光量差信号という)N−Fと受光量信号Fとが出力される。これらの信号は信号切替部26に入力される。信号切替部26は、アンプ部12からの切替制御信号にしたがって、受光量信号Fと受光量差信号N−Fを交互に(時分割で)電気ケーブル13に送り出す。信号切替部26に与えられる切替制御信号は、発光素子211等の駆動制御信号に重畳されてアンプ部12から電気ケーブル13を介して送られ、信号分離部27で分離される。
ヘッド部11には、レーザーダイオード等で構成された発光素子211の他に、前述の判定インジケータ112及び調整ガイドインジケータ114の各LEDが内蔵されている。これらの駆動回路28が設けられ、アンプ部12からの駆動制御信号にしたがって駆動回路28が発光素子211と判定インジケータ112及び調整ガイドインジケータ114の各LEDをオン・オフ駆動する。
アンプ部12では、ヘッド部11から電気ケーブル13を介して送られた受光量信号F及び受光量差信号N−Fを信号増幅部31で増幅し、AD変換部32でディジタル値に変換して主制御部33に入力する。主制御部33は、ディジタル値となった受光量F及び受光量差N−Fから他方の受光量Nを復元する。主制御部33は更に、受光量差N−Fを両受光量の和N+Fで除算する正規化演算処理を行う。この正規化演算処理は、受光素子200として用いた二分割PDによる距離検出性能の直線性を得るために行われ、また、主としてワークWKの色の違いによる受光量の変動をキャンセルするために行われる。本実施例の距離設定型光電センサーは、正規化演算処理後の値を用いてワークWKまでの距離又は変位を検出する第1動作モードと、正規化演算前の受光量差N−Fを用いてワークWKの変位を検出する第2動作モードとを備えている。第1動作モードのメリットはワークWKの色の違いに起因する検出精度への悪影響を受けにくくなることであり、第2動作モードのメリットは高い検出分解能が維持されること、つまり、ワークWKまでの距離の変化が僅かであっても判別できることである。この動作モードの切り替えについては後で詳しく説明する。
また、アンプ部12には、表示部34が備えられている。表示部34は前述のディジタル表示器124及び出力インジケータ125を含む。上記のようにして主制御部33が求めたワークWKまでの検出距離(に相当するディジタル値)は、ディジタル表示器124に数値表示される。また、予め設定される基準距離や設定中又は検出動作中の各種記号表示もディジタル表示器124を用いて行われる。出力インジケータ125は、検出距離と基準距離との比較結果の表示に使用される。主制御部33による検出距離と基準距離との比較結果は、出力インジケータ125に表示されると共に、制御装置(PLC等)に接続された電気ケーブル14へ出力される。電気ケーブル14を介して行われる外部出力は、2個の出力インジケータ125(図1参照)に対応する2本の出力線を設けて行ってもよいし、1本の出力線のみでいずれかのインジケータ125に対応する出力を行ってもよい。
また、アンプ部12には、基準距離の設定(変更調整)を含む各種パラメータの設定や各モードの切替等を行うための設定入力部35が備えられている。設定入力部35は、図1に示したアンプ部12の上面パネルに設けられた押釦スイッチ126〜128を含む。これらの設定入力部35及び表示部34を用いた設定入力の例については後述する。また、アンプ部12には、ヘッド部制御出力部36が備えられ、これは主制御部33の指令に基づいて、ヘッド部11に対する発光素子211等の駆動制御信号を生成して電気ケーブル13へ送り出す。また、前述のように、ヘッド部11からアンプ部12へ送られる受光量信号Fと受光量差信号N−Fとを時分割で切り替えるための切替制御信号を駆動制御信号に重畳する働きも有する。
次に、主制御部33が行う受光量差の正規化演算処理について説明する。図7は、受光量差の正規化演算を説明するためのグラフである。また、図8は、受光量差の正規化演算処理の流れを示すフローチャートである。前述したように、受光素子200として使用されている二分割PDは、N側受光面とF側受光面との境界に受光スポットSPが位置するときに両方の分割受光面から同等の受光量信号が得られ、受光量差N−Fがゼロになる(図6参照)。受光スポットSPがN側受光面に偏るとN−Fは正の値になり、受光スポットSPがF側受光面に偏るとN−Fは負の値になる。この様子をグラフで表すと、図7(a)に示す実線又は破線の曲線のようになる。
図7(a)において、実線の曲線41は表面の光拡散反射率が比較的高い(例えば白色に近い)ワークWKの場合の特性であり、破線の曲線42は光拡散反射率が比較的低い(例えば黒色に近い)ワークWKの場合の特性である。いずれの場合も、受光素子200の受光面の範囲内に受光スポットが存在する範囲に相当する距離範囲Rgdのほぼ中央の距離に相当する光学設定距離Dsでは受光量差N−Fがゼロになる。この光学設定距離Dsは、受光素子200のN側受光面とF側受光面との境界に受光スポットSPが位置するときの距離に相当し、前述の測距角MAに対応して一意に決まる距離である。
しかし、光学設定距離Dsからずれた点では、同じ距離のずれであってもワークWKの表面の光拡散反射率によっての受光量差N−Fの値が異なる。また、図7(a)からわかるように、光学設定距離Dsからずれるにしたがって、受光量差N−Fの絶対値は増加した後に下降に転じる。そして、距離範囲Rgdの両端でゼロになる。つまり、受光スポットが受光素子200の受光面の両端から外れれば受光量N及びFは共にゼロになるので、受光量差N−Fの値も当然ゼロになる。これらのことから、受光量差N−Fを用いてワークWKの変位を検出することはできても、ワークWKまでの距離を表す数量として受光量差N−Fをそのまま使用することはできない。
そこで、本実施例の距離設定型光電センサーでは、主制御部33が受光量差の正規化演算処理を行う。この処理は、基本的には受光量Nと受光量Fとの和(N+F)で受光量差N−Fを除算することによって、ワークWKの表面の色等に起因する光拡散反射率の影響を除く処理である。更に、受光量N又は受光量Fがゼロに近づいたときに(N−F)/(N+F)の絶対値を強制的に1にする処理を加えている。更に係数Dを掛けて得られる値が図7(b)に図示されている。これらの処理について、図8のフローチャートに沿って以下に説明を加える。
図8は、主制御部33が受光量F及び受光量差N−Fから正規化演算処理を行って検出距離に相当する表示値を算出する過程を示している。まず、ステップ#101において主制御部33は、受光量Fに受光量差N−Fを加える演算によって受光量Nを求め(復元し)内部メモリに保存する。次のステップ#102において主制御部33は、受光量Nと受光量Fとの和(受光量和)N+Fを算出し、内部メモリに保存する。続くステップ#103において主制御部33は、受光量差N−Fを受光量和N+Fで除算する処理を行い、(N−F)/(N+F)を求める。この演算処理が狭義の正規化演算処理である。
更に、次のステップ#104において主制御部33は受光量N又はFがゼロ近傍のときの補正処理を行う。これは、受光量N又はFが予め定めたゼロに近い値より小さくなったときに、(N−F)/(N+F)の絶対値を強制的に1にする処理である。この処理は、受光量N又は受光量Fがゼロに近づいたときに(N−F)/(N+F)の値が不安定になり、(N−F)/(N+F)と距離との関係が一義的に定まらなくなるのを回避するために行われる。
次のステップ#105において主制御部33は、(N−F)/(N+F)に所定の係数(図7(b)におけるD)を乗算すると共に所定のオフセットを加算して検出距離に相当する表示値を算出する。例えば8桁のディジタル表示器124の上位4桁又は下位4桁を用いて検出距離を表示する場合は、0〜9999の範囲内の数値表示が可能である。そこで、(N−F)/(N+F)に適切な係数Dを乗算することによって、4桁で表示可能な数値範囲を有効に利用する。また、0を中心に正負の値をとり得るD(N−F)/(N+F)に適切なオフセット値Cを加算してC+D(N−F)/(N+F)とすることによってC(例えば5000)を中心に正の範囲内のみで変動するようになる。この算出結果C+D(N−F)/(N+F)は、検出距離を表す数値として主制御部33の内部メモリに一旦保存されると共に、表示部34のディジタル表示器124に表示される(ステップ#106)。
上記のようにして得られた正規化演算処理結果である(N−F)/(N+F)の値をグラフで表すと図7(b)のようになる。但し、図7(b)のグラフは、ステップ#105においてオフセット値Cを加算する前の値D(N−F)/(N+F)を示している。図7(b)から分かるように、距離範囲Rgdのうちの両端部を除いた範囲Rglでは、D(N−F)/(N+F)が略直線的に変化する。この両端部が、図8のステップ#104で(N−F)/(N+F)の絶対値を強制的に1にした範囲に対応している。両端部を除いた範囲Rglでは、D(N−F)/(N+F)と距離との関係が略直線的になるので、この範囲内でワークWKまでの距離をほぼ正確に検出することが可能である。また、ティーチングによって主制御部33が基準距離を自動設定することができる。ティーチングによる基準距離の設定手順の具体的な例については後で説明するが、その前に、ワークWKまでの大まかな距離に応じて調整(設定)される測距角MAの調整手順の例について説明する。
測距角MAを調整する第1の方法として、ユーザーはワークWKを測距角調整用の基準位置に置いて距離設定型光電センサーの検出動作を実行させる。そして、このときの検出距離の表示値が所定値(例えば5000)となるように、トリマー113を回転操作すればよい。例えばトリマー113を時計回りに回転操作すれば検出距離の表示値が増加し、反時計回りに回転操作すれば検出距離の表示値が減少する。検出距離の表示値が所定値(例えば5000)になれば、前述のように受光素子200のN側受光面とF側受光面との境界に受光スポットSPが位置する状態であり、これは測距角MAが適当に調整されたことを意味する。しかし、第1の方法では、ユーザーはアンプ部12のディジタル表示器124に表示される検出距離を見ながらヘッド部11のトリマー113の回転操作(調整)を行わなければならない。アンプ部12がヘッド部11から離れた場所に設置されている場合や、ヘッド部11のトリマー113の回転操作中にアンプ部12のディジタル表示器124の表示が見にくい場合はこの方法は採用しにくい。
第2の方法として、ヘッド部11の判定インジケータ112の表示を見ながらトリマー113の回転操作を行う方法がある。すなわち、基準距離を所定値(例えば5000)に設定してトリマー113の回転操作を行うと、検出距離の表示値が所定値になる前後で判定インジケータ112の点灯・消灯が反転するので、それによって測距角MAが適当に調整された状態を知ることができる。しかし、基準距離と検出距離の比較処理にはチャタリングを回避するために一定のヒステリシス(不感帯)が設けられている。したがって、トリマー113を時計回りに回転操作したときに判定インジケータ112が変化する(例えば点灯から消灯へ)タイミングとトリマー113を反時計回りに回転操作したときに判定インジケータ112が変化する(例えば消灯から点灯へ)タイミングとの間にはヒステリシス分のずれがある。このため、慣れていないユーザーの場合は判定インジケータ112の点灯・消灯の反転から測距角MAが適当に調整された状態を知ることは決して容易ではない。
第3の方法として、ヘッド部11の測距角調整ガイドインジケータ114の表示を見ながらトリマー113の回転操作を行う方法がある。本実施例の距離設定型光電センサーでは、前述したようにヘッド部11の背面にトリマー113と並ぶように3個の発光ダイオード(LED)からなる測距角調整ガイドインジケータ114が設けられている。図9に示すように、ヘッド部11の背面において、トリマー113の左横に3個のLED114a、114b及び114cからなる測距角調整ガイドインジケータ114が設けられている。
中央のLED114bは測距角MAが適当に調整されたとき、すなわち図6(b)に示したように受光スポットが受光素子200のN側受光面とF側受光面との境界に位置するときに点灯する。上側のLED114aは測距角MAが適当な状態より少し小さいとき、すなわち、図6(a)に示したように受光スポットがN側に偏っているときに点灯する。下側のLED114cは測距角MAが適当な状態より少し大きいとき、すなわち、図6(c)に示したように受光スポットがF側に偏っているときに点灯する。
これら3個のLED114a、114b及び114cの駆動制御は、図5を参照して説明したように、アンプ部12の主制御部33によって実行される。主制御部33は、前述のようにして入力された受光量差N−Fが正の場合はLED114aを点灯させ、受光量差N−Fがゼロの場合はLED114bを点灯させ、受光量差N−Fが負の場合はLED114cを点灯させるように駆動制御を行う。但し、受光量N及び受光量Fが共にゼロの場合は、3個のLED114a、114b及び114cはすべて消灯する。この状態は、受光スポットが受光素子200の受光面から外れていることを示している。
ユーザーが測距角MAの調整のためにトリマー113の回転操作を行うと、受光スポットが受光素子200の受光面内にあるときは、受光量差N−Fが正か負か、又はゼロであるかによって測距角調整ガイドインジケータ114の3個のLED114a、114b及び114cのいずれかが点灯する。この場合は上述の判定インジケータ112の表示のようなヒステリシスがないので、ユーザーは測距角調整ガイドインジケータ114の表示を見ながらトリマー113を回転操作することによって容易に測距角MAの調整を行うことができる。トリマー113をいずれの方向に回転操作すればよいかはLED114a又は114cのいずれが点灯しているかによって容易に分かる。また、LED114bが点灯すれば適当な測距角MAに調整されたことが分かる。
次に、アンプ部12の上面パネルに設けられた押釦スイッチ126〜128やディジタル表示器124等の機能の一部を説明する。図10に、アンプ部の押釦スイッチやディジタル表示器を含む上面パネルの平面図を示す。出力インジケータ125は、既に説明したように、主制御部33によるワークWKまでの検出距離と基準距離との比較結果が表示されるLEDである。例えば、ワークWKまでの距離が基準距離より短ければ左側の出力インジケータ125が点灯し、ワークWKまでの距離が基準距離より長ければ右側の出力インジケータ125が点灯する。なお、前述のように、出力インジケータ125の表示及び外部への出力信号のチャタリングを回避するために、ワークWKまでの距離と基準距離との比較処理には一定のヒステリシス(不感帯)が設けられている。
ディジタル表示器124は8桁の7セグメントLEDであり、上4桁の表示部124Hと下4桁の表示部124Lとに分かれている。下4桁の表示部124Lは、上4桁の表示部124Hより少し大きく、主として検出距離に相当する数値(0〜9999)の表示に使用される。上4桁の表示部124Hは、主として基準距離に相当する数値の表示に使用される。また、設定モードにおける各種記号表示や設定値等の表示が両方の表示部124H、124Lを用いて行われる。また、後述するように測距角MAが最適に設定されているか否かの記号表示、あるいは前述の受光量N、受光量F、受光量差N−F、又は受光量和N+Fの数値表示等、種々の表示のためにディジタル表示器124が使用される。
押釦スイッチ126〜128のうち、126はセットボタン、127はモードボタン、128は増減ボタンである。モードボタン127は各種設定モードや検出モードの切り替えに使用される。例えば、前述の第1動作モードと第2動作モードとの切り替えに使用される他に、簡易検出モードとフル機能モードとの切り替え、検出距離と基準距離との比較結果の表示や出力をNC(ノーマルクローズ)とするか又は(NO)ノーマルオープンとするかの切り替え、分解能(応答速度)の設定、タイマーモードのオン・オフ切り替え等に使用される。モードボタン127は短押し(例えば2秒未満)するか長押し(例えば2秒以上)するかによって異なる機能を持たせている。また、各種モードは階層構造を採っており、モードボタン127の長押し又は短押しを使い分けることによって各モード間を移動することができる。
セットボタン126は、ティーチングにおける検出距離の確定(記憶)や各種パラメータ(設定情報)の入力確定等に使用される。また、増減ボタン128は、前述の分解能(応答速度)の設定、タイマーモードにおける遅延時間の設定、ヒステリシスの設定等において設定値の増減変更を行う際に使用される。
基準距離インジケータ129は、2種類記憶可能な基準距離のどちらが選択されているかを示すLEDである。検出モードにおいて、選択されている基準距離と検出距離との比較が行われる。また。設定モードにおいて、選択されている基準距離について前述のNC又はNOの切り替え設定やタイマーモードのオン・オフ切り替え、遅延時間の設定等を行うことができる。
次に、ティーチングによる基準距離の自動設定の例を説明する。ティーチングは、ユーザーが対象物を適当な位置に置いたり移動させたりしながら検出距離を主制御部33に記憶させ、記憶された検出距離から基準距離を算出して設定する処理を主制御部33に実行させる作業である。ここでは、2点ティーチング及び最大感度ティーチングについて説明する。
図11は、2点ティーチングにおける主制御部33の処理の流れを例示するフローチャートである。2点ティーチングでは、ユーザーがワークWKを検出すべき位置(接近側位置)と検出すべきでない位置(離間側位置)とに置いてセットボタン126を押し、それぞれの検出距離(接近側検出距離及び離間側検出距離)を記憶させる。主制御部33は、これら2点の検出距離の中間値(又はその近傍の値)を算出し、算出結果を基準距離として設定する。
図11において、ステップ#201で主制御部33はセットボタン126の入力の監視を行っている。このとき、ワークWKは第1の位置(例えば接近側位置)に置かれている。セットボタン126が押されたことがチェックされると(ステップ#202のYes)、ステップ#203で検出距離が算出され、第1距離(例えば接近側検出距離)として記憶される。続くステップ#204で再びセットボタン126の入力の監視が行われる。このとき、ワークWKは第2の位置(例えば離間側位置)に置かれる。そして、セットボタン126が押されたことがチェックされると(ステップ#205のYes)、ステップ#206で検出距離が算出され、第2距離(例えば離間側検出距離)として記憶される。次のステップ#207で主制御部33は第1距離と第2距離との中間値を算出し、算出結果を基準距離として設定(記憶)する。
図12は、最大感度ティーチングにおける主制御部33の処理の流れを例示するフローチャートである。最大感度ティーチングでは、ユーザーがワークWKを離間側位置に置いてセットボタン126を押し、そのときの検出距離(離間側検出距離)を記憶させる。主制御部33は、この離間側検出距離より所定値だけ接近側の値を算出し、算出結果を基準距離として設定する。
図12において、ステップ#301で主制御部33はセットボタン126の入力の監視を行っている。このとき、ワークWKは離間側位置に置かれている。セットボタン126が長押しされた後に離されたことがチェックされると(ステップ#302のYes)、主制御部33はこのときの検出距離(離間側検出距離)を算出し記憶する。(ステップ#303)。更に主制御部33は、離間側検出距離より所定値だけ接近側の値を算出し、算出結果を基準距離として設定する(ステップ#304)。
上記のようにしてティーチングによって基準距離が設定された後は、例えばコンベア上を流れて来るワークWKまでの距離を所定間隔で検出し、基準距離との比較結果を出力する動作が距離設定型光電センサーによって実行される。
次に、本実施例の距離設定型光電センサーに備えられている第1動作モードと第2動作モードとの切り替えのための操作の例を図13に基づいて説明する。図13は、動作モードの切り替えに関する表示の推移を例示する図である。図13(a)の表示において、ディジタル表示器124の上位4桁124Hには基準距離(5550)が表示され、下位4桁124Lには現在のワークWKまでの検出距離(6200)が表示されている。基準距離インジケータ129は、2種類記憶可能な基準距離のうち第1の基準距離が選択されていることを示している。
図13(a)の状態からモードボタン127を長押しすると、図13(b)又は(c)に例示するように、検出距離と基準距離との比較結果の表示及び出力をノーマルオープンとするかノーマルクローズとするかの切り替え表示に移行する。図13(b)の表示例は、基準距離インジケータ129で第1の基準距離が選択されている場合であって、ディジタル表示器124の上位4桁124Hにもそれを示す記号表示(OUT1)が行われている。また、ディジタル表示器124の下位4桁124Lにノーマルオープンを示す記号表示(NO)が行われている。図13(c)の表示例は、基準距離インジケータ129で第2の基準距離が選択されている場合であって、ディジタル表示器124の上位4桁124Hにもそれを示す記号表示(OUT2)が行われている。また、ディジタル表示器124の下位4桁124Lにノーマルクローズを示す記号表示(NC)が行われている。増減ボタン128の左又は右を短押しすることにより、ノーマルオープン又はノーマルクローズが設定される。
図13(b)又は(c)の状態からモードボタン127を短押しすると、図13(d)又は(e)に例示するように、動作モードの切り替え表示に移行する。図13(d)は第1モードである通常(色キャンセル)モードが選択されている例を示し、ディジタル表示器124の下位4桁124Lに通常モードを示す記号表示(STD)が行われている。図13(e)は第2モードであるフォーカス(高精度)モードが選択されている例を示し、ディジタル表示器124の下位4桁124Lにフォーカスモードを示す記号表示(FCUS)が行われている。図13(d)及び(e)のいずれの場合もディジタル表示器124の上位4桁124Hには動作モード切り替えを示す記号表示(FUNC)が行われている。また、増減ボタン128の左又は右を短押しすることにより、通常モード又はフォーカスモードが設定される。
なお、通常モード(第1モード)では主制御部33は受光量差N−Fを両受光量の和N+Fで除算する前述の正規化演算処理を行い、正規化演算処理後の値を用いてワークWKまでの距離又は変位を検出する。フォーカスモード(第2モード)では、そのような正規化演算処理を行わないで受光量差N−Fそのものに基づいてワークWKまでの変位を検出する。
第1モードでは距離検出性能の直線性が所定範囲内(図7(b)のRgl)で得られるのでワークWKまでの距離(相当量)を検出することが出来ると共に、この範囲内で前述のティーチングによって主制御部33が基準距離を設定することができる。したがって、測距角MAをさほど正確に設定(調整)していなくても支障ない。また、ワークWKの色の違いによる受光量の変動がキャンセルされるので、ワークの色にかかわらず的確にワークWKまでの距離又は変位を検出することができる。
第2モードでは、正規化演算処理を行わないで受光量差N−Fをそのまま使用してワークWKの変位を求める(基準距離と比較する)ので、ワークWKの色の影響を受けやすい。また、前述の測距角MAをできるだけ正確に調整して受光素子200の受光面のできるだけ中央付近(N側及びF側受光面の境界付近)に受光スポットが来るようにする必要がある。その代わりに、高い検出分解能が維持され、ワークWKの僅かな変位でも検出できるようになるメリットがある。また、主制御部33の処理負荷が軽減され、高速連続検出が可能になる。
図13(d)及び(e)の状態から更にモードボタン127を短押しすると応答速度の切り替え表示になり、増減ボタン128を用いて応答速度の増減変更を行うことができる。更に、簡易モードとフル機能モードとの切り替え、出力タイマーの設定等を同様の操作と表示によって順次行うことができる。これらの設定の詳細説明については割愛する。
以上、本発明の実施例について適宜変形例を含めながら説明したが、本発明は上記の実施例及び変形例の構成に限らず種々の構成で実施することができる。例えば、第1モードと第2モードのうち、いずれの動作モードが設定されたかを表示する表示器として、ディジタル表示器124とは別に、又はディジタル表示器124と共に、基準距離インジケータ129のような専用のLED表示器を設けてもよい。
また、上記の実施例では受光素子200及び受光レンズ201を含む受光部20を枢支軸AX周りに回動させる機構を採用することによって測距角が変更設定可能な構成を実現しているが、この構成は他の機構によって実現することも可能である。例えば、発光素子及び投光レンズを含む投光部を枢支軸周りに回動させる機構を採用してもよい。あるいは、受光部及び投光部の両方を互いに逆方向に同じ角度だけ回動させる機構を採用してもよい。このような機構は、特に光を正反射する表面(鏡面)を有するワークの検出に適している。
また、上記の実施例ではアンプ部12に設けられた主制御部33が光電センサー全体の制御を司っているが、ヘッド部にも補助制御部(マイクロコンピュータ)を設け、一部の制御をヘッド部でできるようにしてもよい。例えば、受光量差N−Fの値に基づいて測距角調整ガイドインジケータ114の点灯制御を行う処理をヘッド部に内蔵した補助制御部が行うようにすれば、主制御部33の処理負荷やヘッド部とアンプ部との間の通信処理負荷が軽減される。
また、本発明は、ヘッド部とアンプ部が電気ケーブルで接続されたアンプ分離型の光電センサーに限らず、ヘッド部とアンプ部とが1つの筐体に内蔵されたアンプ一体型の光電センサーにも適用することができる。