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JP2006239666A - 乳化分散剤及びこれを用いた乳化分散方法並びに乳化物 - Google Patents

乳化分散剤及びこれを用いた乳化分散方法並びに乳化物 Download PDF

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Abstract

【課題】 機能性油剤と水、または機能性顆粒と水などの界面に対して、熱安定性や経時安定性に優れた乳化分散系を形成すること、また、機能性油剤の所要HLB又は機能性顆粒の表面状態に関わりなく、乳化分散させることが可能な乳化技術を提供する。
【解決手段】 自己組織能を有する両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体を主成分とする乳化分散剤、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤を用いる。自己組織能を有する両親媒性物質としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体のうちエチレンオキシドの平均付加モル数が5〜15である誘導体、ジアルキルジメチルアンモニウムのうちアルキル鎖長が8〜22のアルキルまたはアルケニルのハロゲン塩、リン脂質並びにリン脂質誘導体から作成される粒子を用いる。エマルション表面に水相〜乳化分散剤相〜油相の三相構造を形成し、熱安定性、経時安定性に優れた乳化物を形成できる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、被乳化物の種類を問わない経時安定性に優れた乳化分散剤及びこれを用いた乳化分散法並びに乳化物に関する。
従来、機能性油性基剤または機能性顆粒を水に乳化分散させる場合には、機能性油性基剤の所要HLBや顆粒表面の性質に応じて界面活性剤を選択し、乳化分散を行っていた。また、乳化剤として用いられる界面活性剤の所要HLB値は、O/W型エマルションを作る場合とW/O型エマルションを作る場合とのそれぞれに応じて使い分ける必要があり、しかも、熱安定性や経時安定性が十分でないため、多種多様な界面活性剤を混合して用いていた(非特許文献1〜4等参照)。
"Emulsion Science" Edited by P. Sherman, Academic Press Inc. (1969) "MicroemulsionsーTheory and Practiceー Edited by Leon M. price, Academic Press Inc. (1977) 「乳化・可溶化の技術」 辻 薦, 工学図書出版 (1976) 「機能性界面活性剤の開発技術」 シー・エム・シー出版 (1998)
しかしながら、界面活性剤は、生分解性が低く、泡立ちの原因となるので、環境汚染などの深刻な問題となっている。また、機能性油性基剤の乳化製剤の調製法として、HLB法、転相乳化法、転相温度乳化法、ゲル乳化法等の物理化学的な乳化方法が一般に行われているが、いずれも油/水界面の界面エネルギーを低下させ、熱力学的に系を安定化させる作用をエマルション調製の基本としているので、最適な乳化剤を選択するために非常に煩雑かつ多大な労力を有しており、まして、多種類の油が混在していると、安定に乳化させることは殆ど不可能であった。
そこで、この発明においては、機能性油性基剤と水、または機能性顆粒と水などの界面に対して、熱安定性や経時安定性に優れた乳化分散系を形成すること、また、機能性油性基剤の所要HLB値又は機能性顆粒の表面状態に関わりなく、乳化分散させることが可能な乳化分散剤、及び、これを用いた乳化分散法並びに乳化物を提供することを主たる課題としている。
従来の界面活性剤を用いた乳化法では、油と水との界面に界面活性剤が吸着し、その界面エネルギーを低下させることを乳化・分散法の基本としていたので、その界面張力を低下させるために多量の乳化剤を必要とするものであった。これに対して、本発明者らは、新規な乳化技術を開発するために鋭意研究を重ねた結果、油/両親媒性化合物/水系の中で独立相として存在する両親媒性化合物のナノ粒子をファンデルワールス力によって油性基剤表面に付着させることで乳化を行なう三相乳化法を見出し、また、このような乳化法によれば、油性成分の所要HLB値によらず、油性成分/水界面の界面張力の大きさが乳化剤のナノ粒子の付着に重要であることを知見した。さらに、本発明者らは、この三相乳化エマルションは通常のO/W型やW/O型などの二相乳化エマルションに比べて非常に高い安定性を示すことを見い出し、これらの知見に基づき本発明を完成したものである。
即ち、前記課題を達成するために、この発明に係る乳化分散剤は、自己組織能を有する両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体を主成分とすることを特徴としている(請求項1)。
ここで、閉鎖小胞体は、平均粒子径を、エマルション形成時に8nm〜500nm、分散剤調整時に200nm〜800nmとすることが好ましい(請求項2)。また、上述のような自己組織能を有する両親媒性物質としては、例えば、下記の一般式(化1)で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体のうちエチレンオキシドの平均付加モル数(E)が5〜15である誘導体や(請求項3)、一般式(化2)で表されるようなジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体を採用するとよい(請求項5)。また、リン脂質並びにリン脂質誘導体から作成される粒子を用いてもよい(請求項6)
ここで、ポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体にあっては、イオン性界面活性剤をモル分率で0.1≦Xs≦0.33の範囲でさらに付加し、閉鎖小胞体をイオン化(カチオン化もアニオン化)してもよい(請求項4)。
上述した乳化分散剤を用いた乳化分散方法としては、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との比を1〜1000として接触、混和させることが好ましい(請求項7)。
また、上記課題を達成するために、この発明に係る乳化分散剤としては、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とするものであってもよい(請求項8)。
ここで、バイオポリマーとしては、微生物産生による多糖類、リン脂質、ポリエステル類や、生物由来の澱粉等の多糖類、キトサンよりなる群から選ばれた1又は2以上のものが考えられる(請求項9)。例えば微生物産生の多糖類として、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸などの単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するものがあげられる。特定の構造の多糖類を産生する幾つかの微生物種が知られているが、いずれの多糖類でもまた混合物になっていてもよい。
更に 生物由来の澱粉としては、馬鈴薯、もち米粉、タピオカ粉、昆布粉等があるが、これに限定されるものではなく単体もしくは複合構造で両親媒性を示すものであればよい。
このような乳化分散剤を用いた乳化分散方法としては、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との比を50〜2000として接触、混和させることが好ましい(請求項10)。
尚、上述した乳化分散剤を製造する方法としては、自己組織能を有する両親媒性物質を閉鎖小胞体に分散させる工程、又は、自己組織能を有する両親媒性物質を単粒子化させる工程と、閉鎖小胞体に分散又は単粒子化された両親媒性物質を所定温度以下の水に滴下し微細化する工程とを含むことが好ましい(請求項11)。自己組織能を有する両親媒性物質を閉鎖小胞体に分散させる工程、又は、単粒子化させる工程は、使用する材料によってさまざまな工夫が必要であるが、ひまし油誘導体では60℃以下の水に、攪拌しながら滴下することで達成される。
上述した乳化分散剤と油脂とを接触し混和させて得られる乳化物(請求項12)は、油と水との界面に乳化分散剤相が形成されるので、合一が起こりにくく、油脂の種類に依存することなく、極めて熱安定性、経時安定性に優れている。
以上述べたように、この発明に係る乳化分散剤を用いることで、機能性油性基剤と水、または機能性顆粒と水などの界面に対して、熱安定性や経時安定性に優れた乳化分散系を形成することが可能となる。このため、従来の炭化水素系界面活性剤では安定した乳化物を形成することが困難であったが、本発明の乳化分散剤を用いれば、長期間に亘り、幅広い温度領域で乳化安定化を図ることが可能となる。
また、一種類の乳化分散剤を用いて、被乳化油剤の所要HLB値又は機能性顆粒の表面状態に関係なく、油脂成分を乳化分散させることが可能となるので、炭化水素系油剤やシリコン系油剤の乳化も可能となる。このため、乳化剤を選択する煩わしさや労力を最小限にすることができ、また、多種類の混在している油を同時に乳化させることも可能となる。
さらに、乳化に必要な乳化分散剤の濃度は、従来型の界面活性剤の1/10〜1/1000で済むので、環境に与える負荷を著しく低減できる。
以下、この発明の最良の実施形態を説明する。
図1において、従来型の界面活性剤による乳化法と今回採用した三相乳化法の概念図が示されている。
従来の界面活性剤による乳化法においては、図1(a)に示されるように、界面活性剤は同一分子内に性質の異なる親水基と親油基を持つため、油の粒子に対しては、界面活性剤の親油基が油に相溶し、また、親水基は油粒子の外側に配向した状態で並んでいるので水になじみやすくなり、水媒体中に均一に混ざり合い、O/W型エマルションを生成する。また、水の粒子に対しては、界面活性剤の親水基が配向し、親油基が外側に向いた状態で並んで油になじみやすくなり、油媒体中に均一に混ざり合い、W/O型エマルションが生成する。
しかしながら、従来型のこのような乳化法によると、界面活性剤が油表面に吸着し、単分子膜状の乳化膜を形成しているために、界面活性剤の種類により界面の物性が変化する不都合がある。また、図2(a)に示されるように、油滴の熱衝突による合一によって油滴のサイズは次第に大きくなり、遂には油と界面活性剤水溶液とに分離する。これを防ぐためには、マイクロエマルションを形成させる必要があり、これには、多量の界面活性剤を用いなければならない不都合がある。
そこで、本件においては、図1(b)に示されるように、油や水の粒子に対して乳化剤相のナノ粒子を付着させ、これにより、水相―乳化分散剤相―油相の三相構造を形成し、従来の界面活性剤と異なって相溶性による界面エネルギーの低下をさせることなく、図2(b)に示されるように、熱衝突による合一を起こりにくくして乳化物の長期安定化を図っている。また、このような機構に基づき、少量の乳化分散剤によってエマルションを形成することが可能な新規な乳化法(三相乳化法)を採用するようにしている。
このような三相乳化を実現するための乳化分散剤としては、自己組織能を有する両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体(ベシクル)を主成分とする乳化分散剤や、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤が考えられている。
ここで、両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体は、平均粒子径を8nm〜500nmとすることが好ましい。粒子径を8nmより小さくすると、ファンデルワールス力に起因する吸引作用が小さくなり、閉鎖小胞体が油滴の表面に付着しにくくなるからであり、また、粒子径を500nmよりも大きくすると、安定したエマルションを維持できなくなるためである。図3に粒子径8nmを表すTEMの写真を示す。また、粒子径が500nmより大きくなると、針状粒子が生じるようになり、安定したエマルションを形成できなくなる。図4に平均粒子径390.0nmの場合(500nm以下の場合:図中(A)側)と平均粒子径2087.8nmの場合(500nmより大きい場合:図中(B)側)の散乱強度分布とTEMの写真を示す。
閉鎖小胞体の粒子径をエマルション形成時にこの範囲にするには分散剤の調整時には200nm〜800nmにあってもよい。これはエマルション形成の工程で閉鎖小胞体が細粒化されるためである。この工程で閉鎖小胞体が破壊されていないことは図5のXRDピークを観察することで確認できる。図中、Xは乳化剤に対する油相のモル分率を示す。
このような閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質としては、下記の一般式(化3)で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体もしくは一般式(化4)で表されるようなジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体を採用するとよい。
硬化ひまし油の誘導体としては、エチレンオキシドの平均付加モル数(E)が5〜15である誘導体が使用可能である。エチレンオキシドの平均付加モル数を5〜20に変動させた例を表1に示す。5〜15の範囲は安定しているが、20では短時間のエマルション形成は可能だが、安定に保つことができない。付着力を高めるために、これによって得られる閉鎖小胞体をイオン化してもよい。このようなイオン化ベシクルを形成するにあたり、イオン性界面活性剤として、カチオン化のためにはアルキルまたはアルケニルトリメチルアンモニウム塩(炭素鎖長12〜22)、好ましくは、炭素鎖長16のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(Hexadecyltrimethylammonium Bromide:以下、CTABという)、アニオン化のためにはアルキル硫酸エステル塩(CnSO4 - M+ 炭素鎖長8〜22、M:アルカリ金属、アルカリ土族、アンモニウム塩など)、アルキルスルホン酸塩(CnSO3 - M+ 炭素鎖長8〜22、M:アルカリ金属、アルカリ土族、アンモニウム塩など)などを用いると良い。イオン化の方法は、例えばHCO−10とCTABとをエタノール溶媒を用いて混合し、しかる後にエタノールを除去してHCO−10とCTABとの混合物質を形成し、その後、この混合物質にHCO−10が10wt%になるように蒸留水を加えて攪拌し、恒温槽で熟成させるとよい。HCO−10とCTABとの混合ベシクル中のCTABのモル分率(Xs)は、Xs<0.1にすると、混合ベシクルのカチオン性が一定に保てなくなり、0.33<Xsにすると、安定した混合ベシクルを得られなくなるので、カチオン化するためには、0.1≦Xs≦0.33の範囲にすることが好ましい。
また、閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質としては、リン脂質やリン脂質誘導体等を採用してもよい。リン脂質としては、下記の一般式(化5)で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC (1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長14のDMPC (1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline )が採用可能である。
また、下記の一般式(化6)で示される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol) のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩又はNH4塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol) のNa塩又はNH4塩を採用してもよい。
さらに、リン脂質として卵黄レシチンまたは大豆レシチンなどを採用してもよい。
尚、被乳化油性成分を上記閉鎖小胞体により形成される乳化分散剤を用いて乳化分散する場合には、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との重量比を4〜200として接触、混和させるとよい。
これに対して、単粒子化されたバイオポリマーとしては、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸などの単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するものがあげられる。特定の構造の多糖類を産生する微生物種としてはアルカリゲネス属、キサントモナス属、アースロバクター属、バチルス属、ハンゼヌラ属やブルナリア属が知られており、いずれの多糖類を用いても、また混合物になっていてもよい。バイオポリマーに代えてゼラチンやブロックコポリマーを用いてもよい。
単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤を用いて被乳化油性成分を乳化分散する場合には、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との重量比を50〜2000として接触、混和させるとよい。
尚、上述した乳化分散剤を製造する方法としては、自己組織能を有する両親媒性物質を閉鎖小胞体に分散させる(ベシクル化する)工程、あるいは単粒子化させる工程(ステップI)が必要である。これは、使用する材料によってさまざまな工夫が必要であるが、単粒子化又はベシクル化するためには、図6に示されるように、両親媒性物質を水分散及び/又は水膨潤させる工程(ステップI−1)、80℃程度に加温調整する工程(ステップI−2)、水素結合を破壊するために尿素などの切断剤を添加する工程(ステップI−3)、pHを5以下迄に調整する工程(ステップI−4)のいずれか、又は、組み合わせによって達成される。特に、ひまし油誘導体においては、60℃以下の水に、攪拌しながら滴下することで達成される。
その後、所定の温度以下(60℃以下)の水中に滴下して設定濃度に調整する工程(ステップII)、粒子を微細化するために攪拌する工程(ステップIII)を経て乳化分散剤を生成する。攪拌は、高速攪拌(〜16000rpm)であることが望ましいが、実験装置であれば1,200rpmぐらい迄の攪拌で短時間に処理できる。また、水中滴下と粒子の微細化の工程は、同時に実施した方がよい。バイオポリマーなどは網目構造を壊して単粒子化させるために工程が複雑になるが、これらはそれぞれの実施例の中で個別に記載する(実施例6、実施例8、実施例9、実施例10)。
以下において、両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体を主成分とする乳化分散剤の実施例と、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤の実施例を示す。
(乳化分散剤として硬化ひまし油によるベシクルを用いた場合)
硬化ひまし油によるベシクルとして、ポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体のうち、エチレンオキシド(EO)の平均付加モル数(E)が10である誘導体(以下、HCO−10という;分子量1380g/mol)を使用した。
このHCO―10は、水への溶解性がほとんどなく、水中で自己組織化して閉鎖小胞体を形成することが判っており(「ポリ(オキシエチレン)硬化ひまし油系非イオン界面活性剤のベシクル形成性について」 油化学, 41巻, 第12号, P1191-1196, (1992)、 「ポリ(オキシエチレン)硬化ひまし油ベシクル分散溶液の熱的性質」 油化学, 41巻,第12号, P1197-1202, (1992) 参照)、平均粒子径は表2に示すように濃度によるが、水分散液の段階で200nm〜800nmである。分散液中での安定性を考慮して5〜20wt%の濃度範囲に設定した。
このような乳化分散剤を用いて通常の界面活性剤と同等以上の乳化能があるかどうかを調べるために、A−重油と水の系を用い、HCO−10の水に対する濃度を10wt%とし、水には水道水を用い、室温でホモミキサーを用いて、8000 rpmで約5分間攪拌して乳化した。その乳化状態を、A−重油の重量比を変化させて調べた。エマルションに乳化した後の硬化ひまし油(HCO-10)〜水〜A重油の各組成割合と乳化状態の結果を表3に示す。
この結果から分かるように、少量のHCO−10で70wt%までのA重油を乳化させることが可能であった。ここで、A重油と水の割合を変化させた場合の乳化状態の変化を模式的に表すと、図7に示されるように、水に対するA重油の割合を多くしていくと、(a)の希薄O/W型エマルション状態から(b)の濃厚O/W型エマルション状態となり、(c)の遷移状態を経て、(d)の沈降W/Oエマルション状態なり、A重油の割合が多くなりすぎると、(e)の逆マイクロエマルション状態と分離水相が形成される。上記No.1〜No.5は(a)ないし(b)の状態であり、No.6とNo.7は(d)の状態であり、No.8〜No.10は(e)の状態に対応する。また、特徴的なことはNo.6, 7は外観上一部重力によるコアセルベーション(クリーミング)が観察されたが、弱く撹拌することで再分散した。また、クリーミング化したものは界面活性剤で乳化したもののクリーミング状態と異なり、長期間放置しても油滴の合一は観察されなかった。
また、流動パラフィンなどの各種油剤と水の系に対し、HCO−10による乳化状態を調べるために、乳化分散剤であるHCO−10の水に対する濃度を10wt%、系全体に対する濃度を7%で固定し、水には水道水を用い、室温で通常の攪拌機により約5分間攪拌した後の乳化状態を各油剤で調べると、表4に示される結果が得られた。
この結果からわかるように、油剤の種類に依存せず、良好な乳化状態が得られた。しかも、この乳化状態は、室温で1ヶ月経ても変化せず、優れた乳化物を得ることができた。
(乳化分散剤としてジステアリルジメチルアンモニウムクロライドを用いた場合)
次に、乳化分散剤としてジステアリルジメチルアンモニウムクロライドを用いた実施例について説明する。この乳化分散剤を用いて流動パラフィンの乳化状態を調べると、表5に示されるようになった。およそ0.5wt% 以上で良好な乳化状態を得ることができた。また、シリコン油においても、表6に示されるように、良好な乳化状態を得ることができた。
(乳化分散剤としてリン脂質を用いた場合)
次に、乳化分散剤としてリン脂質を用いた実施例について説明する。
前記リン脂質(DMPC、DMPG、DPPC)を用いて油剤の種類を変化させて乳化状態を調べると、表7に示されるようになった。それぞれの油剤において、油分は0.1〜35wt%の範囲で設定し、水には水道水を用い、室温で通常の攪拌機により約5分間攪拌した。また、リン脂質の濃度は0.005〜0.5wt%の範囲で設定した。
この結果から、リン脂質(DMPC、DMPG、DPPC)による乳化の場合も油剤の種類に依存せず、少量のリン脂質で良好な乳化状態が得られた。しかも、得られた乳化物は、熱安定性に優れ、室温で1ヶ月経ても乳化状態が変化しない経時安定性に優れたものであった。
また、リン脂質として卵黄レシチンを用い、卵黄レシチンとシリコン油、卵黄レシチンとヘキサデカンについて、乳化状態を調べた。結果を表8に示す。表中、(1)は水素添加した場合、(2)は水素添加していない場合である。この場合にも、熱安定性、経時安定性に優れた乳化物を得ることができた。
(乳化分散剤として単粒子化されたバイオポリマーを用いた場合)
次に、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤の実施例を示す。
バイオポリマーとしては、前述した微生物産生の内、アルカリゲネス属の産生する多糖類を用いた。この多糖類は水に分散させると網目構造を形成し、粘稠な液体となるので、網目構造を単粒子化する必要がある。そこで、バイオポリマー水溶液をバイオポリマーの粉体を所定量の水に分散させ、一日放置して膨潤させた後、80℃で30分加熱して調製し、これに尿素を添加してバイオポリマーの水素結合を破壊し、単粒子化を図った。0.1wt%までのバイオポリマーは、4mol/dm3尿素水溶液によって単粒子化させることができた。
単粒子化されたバイオポリマーの水分散液が油剤に対して通常の界面活性剤と同様の乳化能があるかどうかを調べるために、炭化水素油のひとつである流動パラフィンを用いてバイオポリマーの分散濃度による乳化能を調べると、表9に示されるようになり、バイオポリマー0.05wt% 水分散液で流動パラフィンを70wt%(水30wt%)まで乳化させることができた。しかも、経日させたところ、溶液の状態に変化は見られず、極めて安定だった。また、バイオポリマー0.04wt%、流動パラフィン30%一定とし、乳化するときの温度を25〜75℃まで変化させたが、調製された乳化状態は、どの温度でも安定であった。
さらに、油剤の流動パラフィン濃度を30%で一定とし、バイオポリマーの濃度を変化させてバイオポリマーの乳化能を調べると、0.04wt%から乳化できることがわかった。
次に、バイオポリマーの濃度を0.04wt%、油剤の濃度を30%で一定とし、油剤の種類を変化させて乳化状態を調べた。結果を表10に示す。ここで用いた油剤は、ヘキサデカン、シリコーン、ミリスチン酸イソプロピル、スクアラン、オリーブオイル、ホホバオイル、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、オレイン酸である。オレイン酸は経日後分離したが、他の油剤は乳化することができた。
以上の結果から、バイオポリマーには優れた乳化能があり、0.04wt%という低濃度においても乳液は安定であることが明らかとなり、バイオポリマーの単粒子が油滴の周りに付着して乳化分散剤相をつくり、エマルション表面で水相〜乳化分散剤相〜油相の三相を形成したことによるものと考えられる。
バイオポリマーとして、生物由来の澱粉を用いた場合の例を以下に示す。
澱粉種としては、馬鈴薯澱粉、餅米紛、タピオカ紛(キャッサバ芋紛)を用い、油としては、流動パラフィン、ヘキサデカンを用いた。
乳化剤の調製にあたっては、澱粉を単粒子にするために、水に澱粉を分散させ、攪拌しながら90℃まで加熱した後、室温まで冷却して良好な分散状態とし、この操作により得られた糖ポリマー分散液を用いて乳化剤とした。
また、エマルションの調製にあたっては、室温下にて、単粒子化操作後の澱粉水分散液に対して、油相を添加して攪拌によりエマルションを調製した。
結果を表11乃至13に示す。
バイオポリマーとして、キトサンを用いた場合の例を以下に示す。
油としては、流動パラフィンを用いた。
乳化剤の調製にあたっては、キトサンを単粒子にするために、水にキトサンを分散させ、pH5以下の酸性に調整した。この操作により目視的には透明になり、キトサンは単粒子化され、良好な分散液が得られた。pHを変えてエマルションを調製する場合は、此の後pH調整を行った。
また、エマルションの調製にあたっては、単粒子化操作後のキトサン分散液に対して油相を添加し、攪拌によりエマルションを調製した。
結果を表14に示す。また、pHを4,7,10に調整した結果を表15に示す。
バイオポリマーとして、生物由来の多糖類である昆布粉を用いた場合の例を以下に示す。
糖ポリマー成分としては昆布粉に含まれるフコイダンを用いた。
乳化剤の調製にあたっては、フコイダンを単粒子化するために、水に昆布の粉を分散させ、pH5以下の酸性に調整した。
また、エマルションの調製にあたっては、単粒子化操作後の昆布粉分散液に対して油相を添加し、攪拌によりエマルションを調製した。
結果を表16に示す。
以上に示した、両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体や単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤を用いた乳化法(三相乳化法)を従来の界面活性剤による乳化法と比較すると、共通して次のような特徴が認められた。
まず、従来の乳化法においては、オイルと水との界面に界面活性剤が吸着し、油/水界面の界面エネルギーを低下させることで乳化させることを基本としたが、三相乳化法においては、ナノ粒子がオイルと水との界面にファンデルワールス力により付着して乳化分散剤相を形成することを特徴とするので、被乳化油性基剤の所要HLB値に関わらず、界面エネルギーを変化させずに乳化させることが可能である。
その結果、従来の界面活性剤による乳化では、油滴の熱衝突により合一を誘起させるが、三相乳化による場合には、油滴の表面に乳化剤相としてのナノ粒子が付着しているので、衝突しても合一が極めて起こりにくく、熱的にも経時的にも安定化させることが可能であった。
また、従来の界面活性剤による乳化では、油滴の性質に応じて適切な界面活性剤を随時選択する必要があったが、三相乳化法による乳化では、一旦ナノ粒子を選定すれば、油滴の種類に関わらず同じ乳化剤を利用できるので、異種油剤エマルションの共存、混合も可能となる。
さらに、従来の乳化法では、油滴がマイクロエマルションを形成するために、多量の界面活性剤が必要であったが、三相乳化法では、僅かな濃度の乳化分散剤で乳化が可能であった。
さらにまた、上述した三相エマルションは、1)イクラ状の巨大油滴を安定に形成することも可能であり、2)クリーミングは比重の違いによる偏りで、連続の外相を取り除いても乳化状態に変化はなかった。また、3)水相または油相に添加物を加えても三相乳化型エマルションを形成することが可能であった。
香粧品、医薬品、食品、農薬、ペイント、燃料エマルション、土壌改良剤など機能性油性基剤や顆粒微粒子を乳化分散させた乳化製剤ならびに分散液などを利用する用途にも適用可能である。
図1は、乳化メカニズムを説明する図であり、図1(a)は従来の界面活性剤の単分子膜吸着メカニズムを説明する図、図1(b)はナノ粒子の付着メカニズムを説明する図である。 図2(a)は従来の吸着分子型での熱衝突による現象を説明する図であり、図2(b)は乳化剤相付着型での熱衝突による現象を説明する図である。 図3は、DMPC−C14TAB系乳化剤粒子のTEM写真( Xs=0.5、等モル混合)である。 図4は、DMPC−C14TAB系乳化剤粒子の平均粒子径が390.0nmの場合(A)と2097.8nmの場合(B)の散乱強度分布とTEM写真である。 図5は、水に対して0.5wt%のDMPC−TTAB混合液晶に油を添加して乳化した場合のXRDピークを観測した結果を示す図である。 図6は、乳化分散剤の製造方法を説明するブロック図である。 図7は、油相分量による乳化状態の相違を模式的に書いた図である。
即ち、前記課題を達成するために、この発明に係る乳化分散剤は、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されて油性基材表面に付着する閉鎖小胞体を主成分とすることを特徴としている。
ここで、閉鎖小胞体は、平均粒子径を、エマルション形成時に8nm〜500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲5〜20wt%において200nm〜800nmであることが好ましい。また、上述のような自己組織能を有する両親媒性物質としては、例えば、下記の一般式(化1)で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体のうちエチレンオキシドの平均付加モル数(E)が5〜15である誘導体や、一般式(化2)で表されるようなジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩の誘導体を採用するとよい。また、リン脂質並びにリン脂質誘導体から作成される粒子を用いてもよい。
ここで、ポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体にあっては、イオン性界面活性剤をモル分率で0.1≦Xs≦0.33の範囲でさらに付加し、閉鎖小胞体をイオン化(カチオン化又はアニオン化)してもよい。
尚、上述した乳化分散剤を製造する方法としては、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により閉鎖小胞体を形成する工程、又は、自己組織能を有する両親媒性物質を単粒子化させる工程と、閉鎖小胞体又は単粒子化された両親媒性物質を所定温度以下の水に滴下し微細化する工程とを含むことが好ましい。自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により閉鎖小胞体を形成する工程、又は、単粒子化させる工程は、使用する材料によってさまざまな工夫が必要であるが、ひまし油誘導体では60℃以下の水に、攪拌しながら滴下することで達成される。
このような三相乳化を実現するための乳化分散剤としては、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成されて油性基材表面に付着する閉鎖小胞体(ベシクル)を主成分とする乳化分散剤や、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とする乳化分散剤が考えられている。
ここで、両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体は、平均粒子径を、エマルション形成時に8nm〜500nmとすることが好ましい。粒子径を8nmより小さくすると、ファンデルワールス力に起因する吸引作用が小さくなり、閉鎖小胞体が油滴の表面に付着しにくくなるからであり、また、粒子径を500nmよりも大きくすると、安定したエマルションを維持できなくなるためである。図3に粒子径8nmを表すTEMの写真を示す。また、粒子径が500nmより大きくなると、針状粒子が生じるようになり、安定したエマルションを形成できなくなる。図4に平均粒子径390.0nmの場合(500nm以下の場合:図中(A)側)と平均粒子径2087.8nmの場合(500nmより大きい場合:図中(B)側)の散乱強度分布とTEMの写真を示す。
閉鎖小胞体の粒子径をエマルション形成時にこの範囲にするには分散剤の調整時には分散液中の濃度範囲5〜20wt%において200nm〜800nmにあってもよい。これはエマルション形成の工程で閉鎖小胞体が細粒化されるためである。この工程で閉鎖小胞体が破壊されていないことは図5のXRDピークを観察することで確認できる。図中、Xは乳化剤に対する油相のモル分率を示す。
上述した乳化分散剤を用いた乳化分散方法としては、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との比を1〜1000として接触、混和させることが好ましい。
また、上記課題を達成するために、この発明に係る乳化分散剤としては、単粒子化されたバイオポリマーを主成分とし、前記単粒子の平均粒子径がエマルション形成時に8nm〜500nm、分散剤調製時に分散液中の濃度範囲0.04〜20wt%において50nm〜800nmであるものを用いてもよい。
ここで、バイオポリマーとしては、微生物産生による多糖類、リン脂質、ポリエステル類や、生物由来の澱粉等の多糖類、キトサンよりなる群から選ばれた1又は2以上のものが考えられる。例えば微生物産生の多糖類として、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸などの単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するものがあげられる。特定の構造の多糖類を産生する幾つかの微生物種が知られているが、いずれの多糖類でもまた混合物になっていてもよい。
このような乳化分散剤を用いた乳化分散方法としては、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との比を50〜2000として接触、混和させることが好ましい。
上述した乳化分散剤と油脂とを接触し混和させて得られる乳化物は、油と水との界面に乳化分散剤相が形成されるので、合一が起こりにくく、油脂の種類に依存することなく、極めて熱安定性、経時安定性に優れている。

Claims (12)

  1. 自己組織能を有する両親媒性物質により形成される閉鎖小胞体を主成分とすることを特徴とする乳化分散剤。
  2. 前記閉鎖小胞体の平均粒子径がエマルション形成時に8nm〜500nm、分散剤調整時に200nm〜800nmであることを特徴とする請求項1記載の乳化分散剤。
  3. 前記両親媒性物質は、下記の一般式(化1)で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体のうちエチレンオキシドの平均付加モル数(E)が5〜15である誘導体である請求項1又は2記載の乳化分散剤。
  4. 前記ポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体に界面活性剤をモル分率で0.1≦Xs≦0.33の範囲でさらに付加することを特徴とする請求項3記載の乳化分散剤。
  5. 前記両親媒性物質は、下記の一般式(化2)で表されるジアルキルアンモニウム誘導体、トリアルキルアンモニウム誘導体、テトラアルキルアンモニウム誘導体、ジアルケニルアンモニウム誘導体、トリアルケニルアンモニウム誘導体、又はテトラアルケニルアンモニウム誘導体のハロゲン塩である請求項1又は2記載の乳化分散剤。
  6. 前記両親媒性物質は、リン脂質並びにリン脂質誘導体から作成される粒子である請求項1又は2記載の乳化分散剤。
  7. 請求項1又は2記載の乳化分散剤を用いた乳化分散方法において、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との比を1〜1000として接触、混和させることを特徴とする乳化分散方法。
  8. 単粒子化されたバイオポリマーを主成分とすることを特徴とする乳化分散剤。
  9. 前記バイオポリマーは、微生物産生による多糖類、リン脂質、ポリエステル類や、生物由来の澱粉等の多糖類、キトサンよりなる群から選ばれた1又は2以上のものである請求項8記載の乳化分散剤。
  10. 請求項8又は9記載の乳化分散剤を用いた乳化分散方法において、被乳化油性成分と前記乳化分散剤との比を50〜2000として接触、混和させることを特徴とする乳化分散方法。
  11. 自己組織能を有する両親媒性物質を閉鎖小胞体に分散させる工程、又は、自己組織能を有する両親媒性物質を単粒子化させる工程と、閉鎖小胞体に分散又は単粒子化された両親媒性物質を所定温度以下の水に滴下し微細化する工程とを含むことを特徴とする乳化分散剤の製造方法。
  12. 請求項1〜6、及び、請求項8〜9のいずれかに記載の乳化分散剤と被乳化油性成分とを接触し混和させてなることを特徴とする乳化物。

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