JP2006224222A - 耐熱合金の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 表面被覆超硬合金製切削工具が、超硬基体の表面に、(a)いずれも(Ti,Al,B)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚がそれぞれ5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、上記薄層A及びBは、特定な組成式を満足する(Ti,Al,B)N層、からなり、(c)上記下部層は、単一相構造を有し、組成式:[Ti1-(X+Y)AlXBY]N(ただし、原子比で、Xは0.50〜0.60、Yは0.01〜0.10を示す)を満足する(Ti,Al,B)N層、からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる。
【選択図】 なし
Description
組成式:[Ti1-(X+Y) AlX BY]N(ただし、原子比で、Xは0.50〜0.65、Yは0.01〜0.10を示す)、
を満足するTiとAlとB(ボロン)の複合窒化物[以下、(Ti,Al,B)Nで示す]層からなる硬質被覆層を2〜8μmの平均層厚で蒸着形成してなる被覆超硬工具が知られており、かかる従来被覆超硬工具においては、硬質被覆層を構成する前記(Ti,Al,B)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さ、同Tiによって高温強度、さらに同B成分によって熱伝導性を具備し、特に前記B成分により抜熱効果が発揮されることから、切削時に発熱を伴うNi合金やCo合金、さらにTi合金などの耐熱合金の切削加工に用いた場合にも、すぐれた耐摩耗性を示すことも知られている。
(a)硬質被覆層を構成する(Ti,Al,B)N層において、B成分の含有割合を多くすれば熱伝導性が向上するが、上記の通り従来(Ti,Al,B)N層における1〜10原子%程度のB含有割合では、耐熱合金の高速切削加工に要求される高い熱伝導性を確保することができず、これらの要求に満足に対応させるためには前記1〜10原子%をはるかに越えた15〜35原子%のB含有が必要であり、一方15〜35原子%のB成分を含有した(Ti,Al,B)N層を硬質被覆層として実用に供するためには、所定量のTiを含有させて所定の高温強度を確保する必要があるが、この場合Al成分の含有割合はきわめて低い状態となるのが避けられず、この結果高温硬さのきわめて低いものとなること。
組成式:[Ti1-(M+N)AlMBN]N(ただし、原子比で、Mは0.25〜0.40、Nは0.01〜0.10を示す)を満足する、相対的にAl成分の含有割合を多くした(Ti,Al,B)N層、
を、それぞれの一層平均層厚を5〜20nm(ナノメーター)の薄層とした状態で、交互積層すると、この結果の(Ti,Al,B)N層は、上記薄層の交互積層構造によって、上記の高B含有の(Ti,Al,B)N層(以下、薄層Aという)のもつすぐれた熱伝導性と、前記薄層Aに比してB含有割合が低く、かつ相対的にAl含有割合が高い(Ti,Al,B)N層(以下、薄層Bという)のもつ所定の相対的に高い高温硬さを具備するようになること。
組成式:[Ti1-(X+Y)AlXBY]N(ただし、原子比で、Xは0.50〜0.65、Yは0.01〜0.10を示す)を満足する、単一相構造の(Ti,Al,B)N層、
を設けた構造にすると、この結果の硬質被覆層は、すぐれた熱伝導性に加えて、高温硬さと高温強度を備えたものとなるので、この硬質被覆層を蒸着形成してなる被覆超硬工具は、上記の高熱発生を伴う耐熱合金の高速切削加工でも、チッピングの発生なく、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮すること。
以上(a)〜(c)に示される研究結果を得たのである。
(a)いずれも(Ti,Al,B)Nからなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚が5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Ti1-(E+F)AlEBF]N(ただし、原子比で、Aは0.01〜0.10、Fは0.15〜0.35を示す)を満足する(Ti,Al,B)N層、
上記薄層Bは、
組成式:[Ti1-(M+N)AlMBN]N(ただし、原子比で、Mは0.25〜0.40、Nは0.01〜0.10を示す)を満足する(Ti,Al,B)N層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Ti1-(X+Y)AlXBY]N(ただし、原子比で、Xは0.50〜0.65、Yは0.01〜0.10を示す)を満足する(Ti,Al,B)N層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、耐熱合金の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
(a)下部層の組成式および平均層厚
上記の通り、硬質被覆層を構成する(Ti,Al,B)N層におけるAl成分には高温硬さを向上させ、一方同Ti成分には高温強度、さらに同B成分には熱伝導性を向上させる作用があり、下部層ではAl成分の含有割合を相対的に多くして、高い高温硬さを具備せしめるが、Alの含有割合を示すX値がTiとBとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.50未満では、相対的にTiの割合が多くなって、耐熱合金の高速切削加工に要求されるすぐれた高温硬さを確保することができず、摩耗進行が急激に促進するようになり、一方Alの割合を示す同X値が同0.65を越えると、相対的にTiの割合が少なくなり過ぎて、高温強度が急激に低下し、この結果チッピング(微少欠け)などが発生し易くなることから、X値を0.50〜0.65と定めた。
また、Bの割合を示すY値がTiとAlの合量に占める割合で、0.01未満では、所定の熱伝導性を確保することができず、一方同Y値が0.10を超えると、高温強度に明確な低下傾向が現れるようになることから、Y値を0.01〜0.10と定めた。
さらに、その平均層厚が2μm未満では、自身のもつすぐれた高温硬さを硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が6μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を2〜6μmと定めた。
上部層の薄層Aの(Ti,Al,B)NにおけるB成分には、上記の通り相対的にその含有割合を高くして、熱伝導性を向上させ、もって高熱発生を伴う耐熱合金の高速切削加工ですぐれた抜熱効果を発揮させ、熱塑性変形の発生を防止する作用があるが、その含有割合を示すF値がTiとAlの合量に占める割合で、0.15未満では前記作用に所望のすぐれた効果を確保することができず、一方同F値が0.35を越えると、高温強度が急激に低下し、これが上部層全体の高温強度低下の原因となり、チッピングが発生し易くなることから、F値を0.15〜0.35と定めた。
また、Alの割合を示すE値がTiとBの合量に占める割合で、0.01未満では、最低限の高温硬さを確保することができず、摩耗促進の原因となり、一方同E値が0.10を超えると、高温強度が低下し、チッピング発生の原因となることから、E値を0.01〜0.10と定めた。
上部層の薄層Bにおいては、B成分の含有割合を相対的に低くし、一方Al成分の含有割合を相対的に高く維持することで、相対的に高い高温硬さを具備せしめ、隣接する薄層Aの高温硬さ不足を補強し、もって、前記薄層Aのもつすぐれた熱伝導性と、前記薄層Bのもつ所定の高温硬さを具備した上部層を形成するものであるが、組成式におけるAlの含有割合を示すM値が0.25未満になると、Alの含有割合が少なくなり過ぎて、所定の高温硬さを確保することができず、この結果摩耗進行が促進するようになり、一方同M値が0.40を越えると、相対的にTi成分の含有割合が低下して、上部層の高温強度低下は避けられず、チッピング発生の原因となることから、M値を0.25〜0.40と定めた。
また、Bの割合を示すN値がTiとAlの合量に占める割合で、0.01未満では、上部層全体の熱伝導性低下が避けられず、一方同N値が0.10を超えると、高温強度が低下し、チッピングが発生し易くなることから、N値を0.01〜0.10と定めた。
それぞれの一層平均層厚が5nm未満ではそれぞれの薄層を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果上部層に所望のすぐれた熱伝導性、さらに所定の高温硬さを確保することができなくなり、またそれぞれの一層平均層厚が20nmを越えるとそれぞれの薄層がもつ欠点、すなわち薄層Aであれば高温硬さ不足、薄層Bであれば熱伝導性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で摩耗が急速に進行するようになることから、それぞれの一層平均層厚を5〜20nmと定めた。
その平均層厚が0.5μm未満では、自身のもつすぐれた熱伝導性、さらに所定の高温硬さを硬質被覆層に長期に亘って付与できず、工具寿命短命の原因となり、一方その平均層厚が1.5μmを越えると、チッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.5〜1.5μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Ti−Al−B合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面を前記Ti−Al−B合金によってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ前記下部層形成用Ti−Al−B合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、表3,4に示される目標組成および目標層厚の単一相構造を有する(Ti,Al,B)N層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成し、
(d)ついで装置内に導入する反応ガスとしての窒素ガスの流量を調整して2Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加した状態で、前記薄層A形成用Ti−Al−B合金のカソード電極とアノード電極との間に50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、前記超硬基体の表面に所定層厚の薄層Aを形成し、前記薄層A形成後、アーク放電を停止し、代って前記薄層B形成用Ti−Al−B合金のカソード電極とアノード電極間に同じく50〜200Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させて、所定層厚の薄層Bを形成した後、アーク放電を停止し(この場合薄層Bの形成から開始してもよい)、再び前記薄層A形成用Ti−Al−B合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Aの形成と、前記薄層B形成用Ti−Al−B合金のカソード電極とアノード電極間のアーク放電による薄層Bの形成を交互に繰り返し行い、もって前記超硬基体の表面に、層厚方向に沿って表3,4に示される目標組成および一層目標層厚の薄層Aと薄層Bの交互積層からなる上部層を同じく表3,4に示される全体目標層厚で蒸着形成することにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆超硬チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材:質量%で、Ni−19.3%Cr−18.1%Fe−5.4%Cd−4.9%Ta−3.2%Mo−0.9%Ti−0.48%Alの組成を有するNi合金の丸棒、
切削速度:65m/min.、
切り込み:1.0mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:3分、
の条件(切削条件Aという)でのNi合金の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)、
被削材:質量%で、Co−23.5%Cr−5.9%Mo−2.2%Ni−0.96%Fe−0.57%Si−0.42%Cの組成を有するCo合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:60m/min.、
切り込み:0.5mm、
送り:0.15mm/rev.、
切削時間:4分、
の条件(切削条件Bという)でのCo合金の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)、
被削材:質量%で、Ti−6.14%Al−3.96%Vの組成を有するTi合金の丸棒、
切削速度:80m/min.、
切り込み:1.0mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:7分、
の条件(切削条件Cという)でのTi合金の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は40m/min.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法、並びに質量%で、Co−20.3%Cr−14.8%W−10.1%Ni−1.45%Mn−0.95%Si−1.04%Fe−0.12%Cの組成を有するCo合金の板材、
切削速度:40m/min.、
溝深さ(切り込み):3mm、
テーブル送り:280mm/分、
の条件でのCo合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は25m/min.)、本発明被覆超硬エンドミル4〜6および従来被覆超硬エンドミル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法、並びに質量%で、Ti−3.02%Al−2.53%Vの組成を有するTi合金の板材、
切削速度:75m/min.、
溝深さ(切り込み):4mm、
テーブル送り:300mm/分、
の条件でのTi合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は35m/min.)、本発明被覆超硬エンドミル7,8および従来被覆超硬エンドミル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法、並びに質量%で、Ni−18.7%Cr−14.3%Co−4.51%Mo−2.53%Ti−1.98%Fe−1.18%Al−0.74%Mn−0.41%Siの組成を有するNi合金の板材、
切削速度:40m/min.、
溝深さ(切り込み):5mm、
テーブル送り:150mm/分、
の条件でのNi合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は20m/min.)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表8,9にそれぞれ示した。
被削材−平面:100mm×250、厚さ:50mmの寸法、並びに質量%で、Ti−3.02%Al−2.53%Vの組成を有するTi合金の板材、
切削速度:40m/min.、
送り:0.3mm/rev、
穴深さ:6mm、
の条件でのTi合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は20m/min.)、本発明被覆超硬ドリル4〜6および従来被覆超硬ドリル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法、並びに質量%で、Ni−18.7%Cr−14.3%Co−4.51%Mo−2.53%Ti−1.98%Fe−1.18%Al−0.74%Mn−0.41%Siの組成を有するNi合金の板材、
切削速度:45m/min.、
送り:0.2mm/rev、
穴深さ:15mm、
の条件でのNi合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は25m/min.)、本発明被覆超硬ドリル7,8および従来被覆超硬ドリル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法、並びに質量%で、Co−20.3%Cr−14.8%W−10.1%Ni−1.45%Mn−0.95%Si−1.04%Fe−0.12%Cの組成を有するCo合金の板材、
切削速度:50m/min.、
送り:0.25mm/rev、
穴深さ:30mm、
の条件でのCo合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表10,11にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された超硬基体の表面に、
(a)いずれもTiとAlとB(ボロン)の複合窒化物からなる上部層と下部層で構成し、前記上部層は0.5〜1.5μm、前記下部層は2〜6μmの平均層厚をそれぞれ有し、
(b)上記上部層は、いずれも一層平均層厚がそれぞれ5〜20nm(ナノメ−タ−)の薄層Aと薄層Bの交互積層構造を有し、
上記薄層Aは、
組成式:[Ti1-(E+F)AlEBF]N(ただし、原子比で、Eは0.01〜0.10、Fは0.15〜0.35を示す)を満足するTiとAlとBの複合窒化物層、
上記薄層Bは、
組成式:[Ti1-(M+N)AlMBN]N(ただし、原子比で、Mは0.25〜0.40、Nは0.01〜0.10を示す)を満足するTiとAlとBの複合窒化物層、からなり、
(c)上記下部層は、単一相構造を有し、
組成式:[Ti1-(X+Y)AlXBY]N(ただし、原子比で、Xは0.50〜0.60、Yは0.01〜0.10を示す)を満足するTiとAlとBの複合窒化物層、
からなる硬質被覆層を蒸着形成してなる、耐熱合金の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
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2005
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