JP4697389B2 - 高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 - Google Patents
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Description
組成式:(Ti1-X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.75を示す)、
を満足するTiとAlの複合窒化物[以下、(Ti,Al)Nで示す]層からなる耐摩耗硬質層を硬質被覆層として1〜10μmの平均層厚で物理蒸着してなる被覆超硬工具が知られており、前記(Ti,Al)N層が、構成成分であるAlによって高温硬さと耐熱性、同Tiによって高温強度を具備することから、前記被覆超硬工具を各種の鋼や鋳鉄などの連続切削や断続切削加工に用いた場合にすぐれた切削性能を発揮することも知られている。
(1)例えば図1(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造のアークイオンプレーティング装置(以下、AIP装置と略記する)とスパッタリング装置(以下、SP装置と略記する)が共存の蒸着装置、すなわち装置中央部に超硬基体装着用回転テーブルを設け、前記回転テーブルを挟んで、一方側に前記AIP装置のカソード電極(蒸発源)として所定の組成を有するTi−Al合金、他方側に前記SP装置のカソード電極(蒸発源)としてCr硼化物(以下、CrB2で示す)粉末の焼結体(以下、CrB2焼結体という)を対向配置した蒸着装置を用い、この装置の前記回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部に沿って複数の超硬基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される耐摩耗硬質層の層厚均一化を図る目的で超硬基体自体も自転させながら、基本的に、まず前記Ti−Al合金のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記超硬基体の表面に(Ti,Al)N層を0.8〜5μmの平均層厚で耐摩耗硬質層として蒸着形成し、さらに前記蒸着装置内の雰囲気を、窒素雰囲気に代って、実質的にAr雰囲気とすると共に、前記SP装置のカソード電極(蒸発源)として配置したCrB2焼結体のスパッタリングを開始し、前記(Ti,Al)N層に重ねて表面層として0.8〜5μmの平均層厚でCrB2層を蒸着形成すると、この結果の被覆超硬工具は、特に著しい高熱発生を伴なう各種のTi系合金や高Si含有Al−Si系合金などの硬質難削材の高速切削で、上記(Ti,Al)N層からなる耐摩耗硬質層が、すぐれた高温耐酸化性を有する前記CrB2層からなる表面層によって切削時の高温酸化雰囲気から保護され、摩耗促進の原因となる雰囲気酸化が著しく抑制されることから、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること、
(2)上記の耐摩耗硬質層形成後に、前記耐摩耗硬質層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間のアーク放電を継続したまま、装置内に窒素ガスに代えてArと窒素の混合ガスを導入し、同時に前記SP装置のカソード電極(蒸発源)として配置したCrB 2 焼結体にスパッタを発生させ、この状態で所定時間保持して、密着接合層としてTiとAlとCrの複合硼窒化物[以下、(Ti,Al,Cr)BN]で示す]層を0.1〜0.5μmの平均層厚で形成すると、上記の既に蒸着形成された耐摩耗硬質層としての(Ti,Al)N層と、この後で蒸着形成される表面層としてのCrB 2 層との間にすぐれた密着接合性が確保されること、
以上(1)および(2)に示される研究結果を得たのである。
(a)耐摩耗硬質層として、上記AIP装置を用いて蒸着形成され、
組成式:(Ti1-X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.75を示す)、
を満足し、0.8〜5μmの平均層厚を有する(Ti,Al)N層、
(b)密着接合層として、上記AIP装置とSP装置を同時に用いて蒸着形成された、0.1〜0.5μmの平均層厚を有する(Ti,Al,Cr)BN層、
(c)表面層として、上記SP装置を用いて蒸着形成された、0.8〜5μmの平均層厚を有するCrB2層、
以上(a)〜(c)からなる硬質被覆層で構成してなる、高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆超硬工具に特徴を有するものである。
耐摩耗硬質層を構成する(Ti,Al)N層におけるAl成分には高温硬さと耐熱性を向上させ、一方同Ti成分には、高温強度を向上させる作用があるが、Alの割合を示すX値がTiとの合量に占める割合(原子比、以下同じ)で0.40未満になると、相対的にTiの割合が多くなり過ぎて、高速切削に要求されるすぐれた高温硬さと耐熱性を確保することができなくなり、摩耗進行が急激に促進するようになり、一方Alの割合を示すX値が同0.75を越えると、相対的にTiの割合が少なくなり過ぎて、高温強度が急激に低下し、この結果切刃部にチッピング(微少欠け)などが発生し易くなることから、X値を0.40〜0.75と定めた。
その平均層厚が0.8μm未満では、自身のもつすぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するには不十分であり、一方その平均層厚が5μmを越えると、上記の硬質難削材の高速切削では切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.8〜5μmと定めた。
硬質被覆層は、上記の通り耐摩耗硬質層のもつすぐれた高温硬さおよび耐熱性と、表面層であるCrB2層のもつすぐれた高温耐酸化性との共存によって、高い発熱を伴なう硬質難削材の高速切削ですぐれた耐摩耗性を発揮するようになるものであるが、前記CrB2層の平均層厚が0.8μm未満では、上記耐摩耗硬質層を切削時における高温酸化雰囲気から使用寿命に至るまで保護するには不十分であり、一方その平均層厚が5μmを越えると切刃部にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を0.8〜5μmと定めた。
(b)まず、装置内を排気して0.1Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって超硬基体表面を前記Ti−Al合金によってボンバード洗浄し、
(c)装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して3Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する超硬基体に−100Vの直流バイアス電圧を印加し、かつカソード電極の前記Ti−Al合金とアノード電極との間に100Aの電流を流してアーク放電を発生させ、もって前記超硬基体の表面に、表3に示される目標組成および目標層厚の(Ti,Al)N層を硬質被覆層の耐摩耗硬質層として蒸着形成し、
(d)ついで、既に蒸着形成された上記の耐摩耗硬質層としての(Ti,Al)N層と、これから蒸着形成される表面層としてのCrB2層との密着接合性を向上させる目的で、上記耐摩耗硬質層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間のアーク放電を継続したまま、装置内に窒素ガスに代えてArと窒素の混合ガス(N2:Ar=容積比で3:1)を導入して、装置内雰囲気を同じく3Paとし、同時に前記SP装置のカソード電極(蒸発源)として配置したCrB2焼結体に、3kWの出力でスパッタを発生させ、この状態を20分間保持して、密着接合層としての(Ti,Al,Cr)BN層をいずれも0.3μmの平均層厚(後述の実施例2,3の本発明被覆エンドミル1〜8および本発明被覆ドリル1〜8の硬質被覆層形成においても、密着接合層の平均層厚はいずれも0.3μmとした)で形成し、
(e)引き続いて、前記SP装置のカソード電極(蒸発源)として配置したCrB2焼結体のスパッタを同一条件(スパッタ出力:3kW)で続行しながら、前記装置内に導入するガスをArと窒素の混合ガスからArガスに代えると共に、装置内雰囲気を0.5Paとし、同時に上記耐摩耗硬質層形成用Ti−Al合金のカソード電極とアノード電極との間のアーク放電を停止し、この条件で層厚に対応した時間スパッタリングを行い、同じく表3に示される目標層厚のCrB2層を硬質被覆層の表面層として蒸着形成しすることにより、本発明被覆超硬工具としての本発明表面被覆超硬製スローアウエイチップ(以下、本発明被覆チップと云う)1〜16をそれぞれ製造した。
被削材:質量%で、Ti−6%Al−4%V合金の丸棒、
切削速度:100m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.2mm/rev.、
切削時間:5分、
の条件(切削条件Aという)でのTi系合金の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は60m/min.)、
被削材:質量%で、Al−13%Si合金の丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:2.0mm、
送り:0.15mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Bという)での高Si含有Al−Si系合金の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は180m/min.)、
被削材:質量%で、Al−18%Si合金の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.18mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件Cという)での高Si含有Al−Si系合金の乾式断続高速切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表5に示した。
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったTi系合金(質量%で、Ti−3%Al−2.5%V合金)の板材、
切削速度:100m/min.、
溝深さ(切り込み):2mm、
テーブル送り:800mm/分、
の条件でのTi系合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は50m/min.)、本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったTi系合金(質量%で、Ti−6%Al−4%V合金)の板材、
切削速度:150m/min.、
溝深さ(切り込み):4mm、
テーブル送り:960mm/分、
の条件でのTi系合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は80m/min.)、本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもった高Si含有Al−Si系合金(質量%で、Al−18%Si合金)の板材、
切削速度:300m/min.、
溝深さ(切り込み):12mm、
テーブル送り:950mm/分、
の条件での高Si含有Al−Si系合金の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は150m/min.)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表7にそれぞれ示した。
被削材−平面:100mm×250、厚さ:50mmの寸法をもったTi系合金(質量%で、Ti−3%Al−2.5%V合金)の板材、
切削速度:50m/min.、
送り:0.2mm/rev、
穴深さ:10mm、
の条件でのTi系合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)、本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもったTi系合金(質量%で、Ti−6%Al−4%V合金)の板材、
切削速度:75m/min.、
送り:0.15mm/rev、
穴深さ:15mm、
の条件でのTi系合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は40m/min.)、本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材−平面:100mm×250mm、厚さ:50mmの寸法をもった高Si含有Al−Si系合金(質量%で、Al−18%Si合金)の板材、
切削速度:120m/min.、
送り:0.4mm/rev、
穴深さ:30mm、
の条件での高Si含有Al−Si系合金の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は80m/min.)、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表8にそれぞれ示した。
Claims (1)
- 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン系サーメットからなる超硬基体の表面に、硬質被覆層を物理蒸着してなる表面被覆超硬合金製切削工具において、前記硬質被覆層を、アークイオンプレーティング装置とスパッタリング装置が共存する蒸着装置を用い、前記超硬基体側から、
(a)耐摩耗硬質層として、上記アークイオンプレーティング装置を用いて蒸着形成され、
組成式:(Ti1-X AlX )N(ただし、原子比で、Xは0.40〜0.75を示す)、
を満足し、0.8〜5μmの平均層厚を有するTiとAlの複合窒化物層、
(b)密着接合層として、上記アークイオンプレーティング装置とスパッタリング装置を同時に用いて蒸着形成された、0.1〜0.5μmの平均層厚を有するTiとAlとCrの複合硼窒化物層、
(c)表面層として、上記スパッタリング装置を用いて蒸着形成された、0.8〜5μmの平均層厚を有するCr硼化物層、
以上(a)〜(c)からなる硬質被覆層で構成したことを特徴とする、高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具。
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