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JP2006265768A - アクリル系炭素繊維製造用凝固糸条及びプリカーサー、プリカーサーの製造方法、並びに、プリカーサーの染料吸着量の測定方法 - Google Patents

アクリル系炭素繊維製造用凝固糸条及びプリカーサー、プリカーサーの製造方法、並びに、プリカーサーの染料吸着量の測定方法 Download PDF

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JP2006265768A JP2005085362A JP2005085362A JP2006265768A JP 2006265768 A JP2006265768 A JP 2006265768A JP 2005085362 A JP2005085362 A JP 2005085362A JP 2005085362 A JP2005085362 A JP 2005085362A JP 2006265768 A JP2006265768 A JP 2006265768A
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Hidekazu Yoshikawa
秀和 吉川
Taro Oyama
太郎 尾山
Harumitsu Enomoto
晴光 榎本
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Teijin Ltd
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Toho Tenax Co Ltd
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Abstract

【課題】 緻密性及びボイドが適正に評価されたアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法を提供する。
【解決手段】 無機塩水溶液を溶剤として使用し、アクリロニトリル単位95質量%以上から成る重合体を含有する紡糸原液を、凝固浴温度−5〜10℃で乾湿式紡糸して凝固糸条を得、前記凝固糸条を水洗、乾燥、延伸処理するアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーを製造するに際し、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記凝固糸条を浸漬させ、凝固糸条に染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた凝固糸条の染料吸着量が25mg/g以下である凝固糸条を用いる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、高強度のアクリル系炭素繊維製造用凝固糸条及びプリカーサー、プリカーサーの製造方法、並びに、プリカーサーの染料吸着量の測定方法に関する。
従来、炭素繊維製造用のプリカーサー(前駆体繊維)を用い、これに耐炎化処理を施して耐炎化繊維を得ること、更にこの耐炎化繊維に炭素化処理を施して高性能炭素繊維を得ることは広く知られている。また、この方法は工業的にも実施されている。
特に、近年炭素繊維の用途はスポーツ・レジャー用品から航空宇宙分野、特に航空機の一次構造材にまで展開されている。さらに、炭素繊維の高い比強度、比弾性の特性を生かして製品の軽量化を図ることにより省エネルギー化を図り、これにより排出CO2の削減に寄与することを目的として各産業界は炭素繊維の新しい利用方法に注目し、また研究を進めている。
このような状況下において、炭素繊維にも更なる高強度化、低製造コスト化等の課題の解決が要請されている。
炭素繊維は、一般に原料繊維であるプリカーサーとしてはアクリル系繊維が用いられる。このアクリル系繊維から炭素繊維を製造する場合、アクリル系繊維を200〜300℃の酸化性雰囲気下で延伸又は収縮を行いながら酸化処理(耐炎化処理)を行った後、300℃以上、場合により1000℃以上の不活性ガス雰囲気中で炭素化して炭素繊維を製造する。
炭素繊維の高強度化については、一方の技術として耐炎化処理、炭素化処理等の焼成技術や、後処理技術に関する技術が多く提案されている。他方、アクリル系繊維等のプリカーサーの改良に関する技術についても多く提案されている。そして、高強度化の一つの手段として、プリカーサーの緻密性を高くすることが提案されている。
プリカーサーの緻密性を高くするには、ボイドの少ないプリカーサーが必要である。緻密でボイドの少ないプリカーサーを得る方法として、凝固浴温度を規定し、紡糸して、プリカーサーを作製する方法が考えられる。また、得られたプリカーサーは、比重、ヨウ素吸着等の測定により緻密さを判断する方法が考えられる。
凝固浴温度の規定、比重の測定による緻密なプリカーサーを得る方法としては、凝固浴温度15℃以下において、紡糸を行い、高比重のプリカーサーを作製する方法が考えられる。しかし、この場合でも炭素繊維強度は4000MPa以上は得られておらず、比重等との相関関係があまり見られない。
プリカーサーの緻密性とボイドを評価する方法としては、ヨウ素吸着量による評価方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1では、繊維を60℃ヨウ素溶液に浸し、吸着させ、未処理品との明度差を測定する。表面付近のボイドにヨウ素が吸着する事により、表層付近の緻密性を観察している。炭素繊維製造用アクリル系繊維として明度差(ΔL)を20以下に規定している。
この評価方法は、ヨウ素を繊維に吸着させ、未処理品との明度差を測定し、繊維表層付近の緻密性を観察する方法である。
しかしながら、この評価方法はヨウ素吸着の前後差を観察しているものであり、基準が無い。また、ボイドのサイズ等も規定されていないので実際のサイズが解らない。
明度差は、未処理品との差なので、リファレンスが固定されていない。特許文献2を参照すると、基準が無いこと以外にオイル等の影響も考えられる。
特許文献3には、繊維に水銀を充填して、空孔率(%)と平均細孔(Å)を測定[水銀注入法によるボイド(空孔)測定]する炭素繊維前駆体繊維の製造方法が開示されている。
この方法では、先ず繊維を液体窒素により凍結乾燥し、水銀を充填してボイドを測定する。この測定時、空孔率(%)と平均細孔(Å)を測定し規定する。即ち、繊維には孔がどれ位の占有割合あって、平均でどの位の半径であるかを規定する。
しかし、ボイドの大きさは平均でしか解らないので、実際にどの程度の大きさのボイドが、どれ位あるのかは解らない。
また、一般的に知られている緻密性の評価方法として、比重、膨潤度、X線小角散乱測定等がある。
比重は、繊維の緻密性の一つの指標ではあるが、ボイドについては比重からは何も言えない。
凝固糸等の膨潤度については、ボイドとの関係がはっきりしておらず、参考とは成り得ない。
X線小角散乱測定においては、繊維の緻密性を観察するために、散乱強度によりボイド量と平均粒径等を測定している。しかし、実際の量は解らない。
X線小角散乱と相関性を示す指標として明度差(特許文献1)があるが、ボイドサイズ等は解らない。
以上のように、様々なプリカーサー性能が測定されているが、炭素繊維の強度向上につながる直接的な性能は得られていない。即ち、何れも高強度の炭素繊維を提供するプリカーサーを得るための評価方法としては、不十分である。
このように、従来用いている評価方法は、繊維の緻密性を正確に把握するには十分なものではない。そのため、従来の評価方法を採用するプリカーサーの製造方法によっては、十分に緻密性が高く、高強度の炭素繊維を提供するプリカーサーを得ることは困難である。このような問題点から、高強度の炭素繊維を提供するためのプリカーサー評価方法が望まれている。
特開昭63−35821号公報 (第3頁) 特開昭58−214518号公報 (第2頁) 特開平4−257313号公報 (特許請求の範囲、第3頁)
本発明者は、上記問題を解決するため検討を重ねているうちに、酸性可染染料を硫酸水溶液に溶解した染料溶液は、プリカーサーを浸漬させ、プリカーサーに染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた値が、プリカーサーの緻密性を評価する指標として適していることを見出した。
即ち、上記測定により求められたプリカーサーの緻密性評価指標は、プリカーサーを耐炎化処理、炭素化処理して得られる炭素繊維での欠陥となり、強度低下の大きな原因となる、プリカーサー段階で存在するボイド量を評価する指標として適していることを見出した。この緻密性評価指標が所定範囲のプリカーサーから得られる炭素繊維は高強度であることを見出し、本発明を完成するに到った。
よって、本発明の目的とするところは、上記問題を解決し、高強度のアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの緻密性を適正に評価する方法、アクリル系炭素繊維製造用凝固糸条及びプリカーサー、並びに、前記プリカーサーの製造方法を提供することにある。
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
〔1〕 アクリル系炭素繊維製造用凝固糸条であって、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記凝固糸条を浸漬させ、凝固糸条に染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた凝固糸条の染料吸着量が25mg/g以下であるアクリル系炭素繊維製造用凝固糸条。
〔2〕 アクリル系炭素繊維製造用プリカーサーであって、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記プリカーサーを浸漬させ、プリカーサーに染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めたプリカーサーの染料吸着量が0.30mg/g以下であるアクリル系炭素繊維製造用プリカーサー。
〔3〕 無機塩水溶液を溶剤として使用し、アクリロニトリル単位95質量%以上、イタコン酸単位0.5〜2.0質量%から成る極限粘度1.5〜2.0の重合体を3〜15質量%含有する曳糸性が2cm以上の紡糸原液を、凝固浴温度−5〜10℃、巻取り速度/吐出線速度の比0.3〜2.0で乾湿式又は湿式紡糸して凝固糸条を得、前記凝固糸条を水洗、乾燥、延伸処理するアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法であって、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記凝固糸条を浸漬させ、凝固糸条に染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた凝固糸条の染料吸着量が25mg/g以下であるアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法。
〔4〕 重合体が共重合体であり、共重合可能なコモノマーとして、イタコン酸と、アクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルとを使用する〔3〕に記載のアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法。
〔5〕 アクリル系炭素繊維製造用プリカーサーを、アニオン性官能基を有する染料の染色溶液に浸漬させ、プリカーサーに染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めたプリカーサーの染料吸着量により、プリカーサーの良・不良を判断するアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの染料吸着量の測定方法。
本発明によれば、炭素繊維製造用プリカーサーの緻密性評価指標として、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記プリカーサーを浸漬させ、プリカーサーに染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた染料吸着量を用いているので、測定誤差が出にくい。ボイドの大きさ・量が規定できる等の利点がある。
上記染料吸着量による繊維の緻密性評価方法は、湿式繊維にも適用可能なので、プリカーサー原料の凝固糸条の緻密性を適正に評価でき、本発明の炭素繊維製造用プリカーサーを容易に製造することができる。
また、上記染料吸着量とプリカーサーの緻密性が大きく相関しているので、上記染料吸着量で規定された本発明のプリカーサーを炭素繊維製造用原料として用いることにより高強度炭素繊維を得ることができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、無機塩水溶液を溶剤として使用し、アクリロニトリル単位95質量%以上から成る重合体を含有する紡糸原液を、乾湿式紡糸して凝固糸条を得、前記凝固糸条を水洗、乾燥、延伸処理して得られるアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーであって、アニオン性官能基、分子量593を有する酸性可染染料の溶液等の染色溶液に、前記プリカーサーを浸漬させ、プリカーサーに染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた染料吸着量が0.30mg/g以下、好ましくは0.28mg/g以下であるアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーである。
染料吸着量が0.30mg/gを超える場合は、プリカーサーの緻密性が低下し、このプリカーサーを原料として得られる炭素繊維の強度が低下するので好ましくない。
次いで、染料吸着量による繊維の緻密性評価方法を詳細に説明する。
本発明における染料吸着量による繊維の緻密性評価に用いる酸性可染染料は、アニオン性官能基、分子量593を有する。この酸性可染染料は、繊維に存在するボイドに対して相関の高い物理的な吸着を示し、その吸着量とプリカーサーの緻密性とは大きく相関する。
酸性可染染料が有するアニオン性官能基としては、SO3Naが好ましい。
酸性可染染料の吸着量は、その分子会合体以上の大きさのボイドの量による。そのため、酸性可染染料の吸着量は、プリカーサーの緻密性を評価するのに適している。また、酸性可染染料の分子量は593であり、この分子サイズより大きいボイドに吸着される。そして、プリカーサーにおける酸性可染染料の吸着量は、得られる炭素繊維の強度向上につながる直接的な性能を示すプリカーサーの緻密性として適正に評価できる。
上記酸性可染染料を用いてプリカーサーにおける酸性可染染料の吸着量は例えば以下の順番で測定することができる。
a.吸着用染色溶液(染料液)の調製及び検量線作成
吸着用染色溶液(染料液)の調製及び検量線作成は以下の順番で行う。
(1) 酸性可染染料(Suminol Fast Blue R/住友化学工業株式会社製;分子量…593、アニオン性官能基…SO3Na、溶液色…紫色)5g、硫酸ナトリウム5g、濃硫酸5gを純水に溶解し、全量を1リッターとする。
(2) この溶液を50倍に希釈し、吸着測定に使用する(0.1mg/cm3)。
(3) 0.01〜0.1mg/cm3の濃度に調製した溶液を用い、分光光度計にて、580nmにおける吸光度(ABS)を測定し、検量線を作成する。
b.測定方法
・プリカーサーの場合
(1) プリカーサーを1g程度採取し、上記で調製した0.1mg/cm3染色溶液を25cm3添加し、25℃で5分間静置する。
(2) プリカーサーを取り出し、残液を分光光度計にて測定し、検量線より残液中の未吸着質量(mg)を求める。
(3) 取り出したプリカーサーを80℃で1時間乾燥させ、乾燥質量を測定する。
(4) 吸着量を以下の式
吸着量(mg/g)=(0.1−未吸着質量)×25/プリカーサー乾燥質量
にて求める。
・凝固糸条の場合
(1) 凝固糸条を採取し、15℃純水で洗浄して脱溶剤を行う。
(2) 凝固糸条は、水を多く含んでいるので、乾燥後の質量が0.5g程度になるように取り分け、遠心分離器にて1000rpm−2分間処理し、素早く取り出す。
(3) 上記で調製した1/50染色溶液を250cm3添加し、25℃で5分間静置する。
(4) 凝固糸条を取り出し、残液を分光光度計にて測定し、検量線より残液中の未吸着質量(mg)を求める。
(5) 取り出した凝固糸条を80℃で1時間乾燥させ、乾燥質量を測定する。
(6) 吸着量を以下の式
吸着量(mg/g)=(0.1−未吸着質量)×250/凝固糸条乾燥質量
にて求める。
高強度の炭素繊維は緻密なプリカーサーより得られ、上記の規定した吸着量が0.30mg/g以下のプリカーサーからは高強度炭素繊維が得られる。
また、上記本発明のプリカーサーは、以下の方法で製造することができる。
先ず、アクリロニトリル95質量%以上、イタコン酸0.5〜2.0質量%を構成成分とするアクリル系重合体の無機塩水溶液を溶剤とした重合体溶液(紡糸原液)を乾湿式紡糸して、酸性可染染料の吸着量が25mg/g以下の凝固糸条とした後、水洗、乾燥、延伸する事により、酸性可染染料の吸着量が0.30mg/g以下のプリカーサーを製造する。
上記紡糸原液の溶剤としては、塩化亜鉛濃厚水溶液などの濃厚無機塩水溶液が好ましい。アクリル系重合体としては、アクリロニトリル単独重合体、及びアクリロニトリル95質量%以上の共重合体を用いることができる。該共重合体の場合は、イタコン酸を0.5〜2.0質量%の範囲で含有することが必須であり、更に、他のコモノマーとして、アクリル酸エステルや、メタクリル酸エステルが挙げられる。
重合方法は、溶液重合法、乳化重合法等、公知の重合法を用いる事もできるが、塩化亜鉛水溶液などの無機塩水溶液を用いた溶液重合法がより好ましい。
これらのアクリル系重合体の極限粘度[η]は1.5〜2.0のものが用いられる。
また、紡糸原液の重合体濃度(紡糸原液濃度)は、3〜15質量%の範囲内である。3質量%よりも低くなると、繊維の緻密性が悪くなるため強伸度が低下するし、製造コスト面でも不利になるため好ましくない。15質量%を超えると、紡糸原液の粘度が高くなりすぎ紡糸性が悪くなるために好ましくない。
紡糸原液の曳糸性は2cm以上である。この曳糸性は、後述の方法で測定されるパラメータであって、紡糸原液がどのくらい伸びるかを示す指標である。
紡糸原液の粘度は100〜10000ポアズが好ましい。100ポアズ未満では凝固構造が悪化し、十分な物性を得られなくなるので好ましくない。10000ポアズを超えると、延伸性が低下し、やはり十分な物性が得られなくなるので好ましくない。
上記紡糸原液を乾湿式紡糸して、吸着量を25mg/g以下の凝固糸条となす。このような吸着量の少ない凝固糸条を得るためには、紡糸原液条件を上記のごとくすると共に、凝固浴条件を以下のごとくにコントロールする。
凝固液としては、無機塩水溶液を用いる。無機塩水溶液のうちでも塩化亜鉛水溶液などを用いる事が好ましい。また、凝固浴温度は−5℃〜10℃の範囲内で紡糸する。−5℃未満では、凝固液中の塩化亜鉛等が析出するため、紡糸安定性に欠ける。10℃より高い温度では、繊維の失透が著しく発生し、凝固糸条における吸着量が25mg/g以上となるからである。
紡糸ドラフト(延伸)は、巻取り速度/吐出線速度の比0.3〜2.0で行う。
上記の如き条件下で得られた凝固糸条は、水洗、乾燥、延伸、オイル付与等の処理が施されるが、これらの工程は、ボイドの発生を少なくし、緻密化するための条件にすることが好ましい。急激な構造変化を施すことは好ましくない。
このように条件を適性化する事により、酸性可染染料の吸着量が0.30mg/g以下のプリカーサーを得ることができる。このプリカーサーは高い緻密性を持ち、このプリカーサーからは、公知の耐炎化条件、炭素化条件で処理することにより高強度炭素繊維を得ることができる。
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。また、各実施例及び比較例における凝固糸条、プリカーサー及び炭素繊維の諸物性についての評価方法は、前述の方法又は以下の方法により実施した。
A.吸着量測定
前述の方法で測定した。なお、吸着量測定は株式会社日立製作所製 U−2000型ダブルビーム分光光度計にて行った。
B.炭素繊維の強度
JIS R−7601に準じてエポキシ樹脂含浸ストランドの強度を測定し、測定回数4回の平均値で示した。
C.極限粘度
乾燥した測定試料(ポリマー)100mgを20mlのメスフラスコに採取し、0.1Nのチオシアン酸ナトリウムを含むジメチルホルムアミドを加えて完全に溶解する。得られた溶液をオストワルド粘度計を用いて 25℃で比粘度(ηsp)を測定し、次式
極限粘度[η]=[√(1+1.32ηsp)−1]/0.33
に従って極限粘度[η]を算出した。
D.曳糸性
新興通信工業株式会社製 定速度延伸装置TOM−5に直径0.5mmのステンレスワイヤーをセットし、曳き取り速度20mm/minの条件とした。測定は、紡糸原液温度を20℃とし、セットした直径0.5mmワイヤーの先端を10mm紡糸原液に浸し、上記曳き取り速度で上方へ動かし、紡糸原液が液面から曳き出され、紡糸原液が切断した点で止める。この時の紡糸原液液面から切断点までの距離を、曳糸性を示す測定長とした。
実施例1
塩化亜鉛濃厚水溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)99質量%、イタコン酸(IA)1質量%の組成からなる紡糸原液濃度6.5質量%のアクリル系共重合体溶液(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は1.9、曳糸性は2.3cmであった。
この紡糸原液を5℃、25質量%の塩化亜鉛水溶液からなる凝固浴を用いて、5mmの空間を通して乾湿式紡糸を行った。紡糸ドラフトにおいて巻取り速度/吐出線速度の比は0.8で行った。続いて水洗後、シリコーン系油剤によって処理し、乾燥緻密化、延伸を行い、本例のプリカーサーを得た。
このプリカーサーを230〜260℃に設定された熱風循環式耐炎化炉を用い、耐炎化繊維となし、引き続き不活性ガス雰囲気下、最高温度が1360℃の炭素化炉で処理を行い、炭素繊維を得た。凝固糸条及びプリカーサーの吸着量、並びにプリカーサーから製造した炭素繊維の物性を表−1に示す。
実施例2〜4
実施例1と同様に重合し、凝固浴温度を表−1に示す0℃、−5℃、10℃とし、それ以外は実施例1と同様の条件で行い、炭素繊維を得た。結果を表−1に示す。
比較例1、2
実施例1と同様に重合し、凝固浴温度を表−1に示す15℃、20℃とし、それ以外は実施例1と同様の条件で行い、炭素繊維を得た。結果を表−1に示す。
比較例3
塩化亜鉛濃厚溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)/イタコン酸(IA)=99/1組成からなる紡糸原液濃度7.7質量%のアクリル系共重合体溶液(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は1.3、曳糸性は1.0cmであった。この紡糸原液について、紡糸ドラフトにおける巻取り速度/吐出線速度の比を表−1に示す0.5で行った以外は実施例1と同様に処理し、炭素繊維を得た。結果を表−1に示す。
比較例4
塩化亜鉛濃厚溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)/イタコン酸(IA)=99/1組成からなる紡糸原液濃度6.0質量%のアクリル系共重合体溶液(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は2.3、曳糸性は0.1cmであった。この紡糸原液について、紡糸を試みたが、紡糸不可能であった。
比較例5
塩化亜鉛濃厚溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)/イタコン酸(IA)=99/1組成からなる紡糸原液濃度2.5質量%のアクリル系共重合体溶液(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は1.9、曳糸性は0.1cmであった。この紡糸原液について、紡糸を試みたが、紡糸不可能であった。
実施例5
実施例1と同様に重合し、紡糸ドラフトにおける巻取り速度/吐出線速度の比を表−1に示す1.5で行った以外は実施例1と同様に処理し、炭素繊維を得た。結果を表−1に示す。
比較例6
実施例1と同様に重合し、紡糸ドラフトにおける巻取り速度/吐出線速度の比を表−1に示す3.0で行った以外は実施例1と同様に処理し、炭素繊維を得た。結果を表−1に示す。
Figure 2006265768
表−1の結果より凝固糸条及びプリカーサーの染料吸着量(Suminol Fast Blue Rの分子会合体以上の大きさのボイドの量)が低いほど炭素繊維の強度が高い事が解る。
実施例6
塩化亜鉛濃厚溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MA)/イタコン酸(IA)=97/2/1組成からなる紡糸原液濃度6.5質量%のアクリル系共重合体(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は1.7、曳糸性は2.9cmであった。この紡糸原液を実施例1と同様に処理し、炭素繊維を得た。結果を表−2に示す。
実施例7
塩化亜鉛濃厚溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MA)/イタコン酸(IA)=95/4/1組成からなる紡糸原液濃度6.5質量%のアクリル系共重合体(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は1.6、曳糸性は2.7cmであった。この紡糸原液を実施例1と同様に処理し、炭素繊維を得た。結果を表−2に示す。
比較例7
塩化亜鉛濃厚溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)/アクリル酸メチル(MA)/イタコン酸(IA)=94/5/1組成からなる紡糸原液濃度6.5質量%のアクリル系共重合体(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は1.5、曳糸性は2.5cmであった。この紡糸原液を実施例1と同様に処理し、炭素繊維を得た。結果を表−2に示す。
実施例8
塩化亜鉛濃厚溶液中にて溶液重合を行い、アクリロニトリル(AN)/メタクリル酸メチル(MMA)/イタコン酸(IA)=95/4/1組成からなる紡糸原液濃度6.5質量%のアクリル系共重合体(紡糸原液)を作製した。この紡糸原液の極限粘度は1.6、曳糸性は3.0cmであった。この紡糸原液を実施例1と同様に処理し、炭素繊維を得た。結果を表−2に示す。
Figure 2006265768
表−2の結果より凝固糸条及びプリカーサーの染料吸着量(Suminol Fast Blue Rの分子会合体以上の大きさのボイドの量)が低いほど炭素繊維の強度が高い事がわかる。また、アクリロニトリル(AN)の質量%が95%より低い場合は吸着量が高く、炭素繊維強度も低くなる。

Claims (5)

  1. アクリル系炭素繊維製造用凝固糸条であって、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記凝固糸条を浸漬させ、凝固糸条に染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた凝固糸条の染料吸着量が25mg/g以下であるアクリル系炭素繊維製造用凝固糸条。
  2. アクリル系炭素繊維製造用プリカーサーであって、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記プリカーサーを浸漬させ、プリカーサーに染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めたプリカーサーの染料吸着量が0.30mg/g以下であるアクリル系炭素繊維製造用プリカーサー。
  3. 無機塩水溶液を溶剤として使用し、アクリロニトリル単位95質量%以上、イタコン酸単位0.5〜2.0質量%から成る極限粘度1.5〜2.0の重合体を3〜15質量%含有する曳糸性が2cm以上の紡糸原液を、凝固浴温度−5〜10℃、巻取り速度/吐出線速度の比0.3〜2.0で乾湿式又は湿式紡糸して凝固糸条を得、前記凝固糸条を水洗、乾燥、延伸処理するアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法であって、酸性可染染料Suminol Fast Blue R(分子量593)の溶液に、前記凝固糸条を浸漬させ、凝固糸条に染料を吸着させ、染色溶液の吸光度から求めた凝固糸条の染料吸着量が25mg/g以下であるアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法。
  4. 重合体が共重合体であり、共重合可能なコモノマーとして、イタコン酸と、アクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルとを使用する請求項3に記載のアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの製造方法。
  5. アクリル系炭素繊維製造用プリカーサーを、アニオン性官能基を有する染料の染色溶液に浸漬させ、プリカーサーに染料を吸着させ、染色溶液の吸光度の変化量から求めたプリカーサーの染料吸着量により、プリカーサーの良・不良を判断するアクリル系炭素繊維製造用プリカーサーの染料吸着量の測定方法。
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