JP2006070003A - 細胞増殖促進組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 CentaureinまたはJaceinを活性成分として含む細胞増殖促進剤、及び前記促進剤を含む創傷治療組成物に関する。
【選択図】 なし
Description
一方、センダングサ属植物であるビデンス・ピローサ(Bidens pilosa)には、インビボでの創傷治癒促進効果が報告されている(特許文献1参照)。
即ち、本発明は、下記式で表されるCentaurein(R1=H、R2=CH3)またはJacein(R1=CH3、R2=H)を活性成分として含む繊維芽細胞増殖促進剤、に関する。
上記細胞増殖促進剤において、繊維芽細胞が、ヒト皮膚繊維芽細胞であることが好ましい。
また、本発明は、上記繊維芽細胞増殖促進剤を含む、創傷治療組成物、に関する。
〔繊維芽細胞増殖促進剤〕
本発明の繊維芽細胞増殖促進剤は、下記式で表されるCentaurein(R1=H、R2=CH3)またはJacein(R1=CH3、R2=H)を、繊維芽細胞増殖促進活性を有する成分として含む。また、化学式中、“glc”はグルコースを意味する。
Centaurein(quercetqagetin 3,6,4'-trimethyl ether 7-O-β-D-glucoside)及びJacein(quercetqagetin 3,6,3'-trimethyl ether 7-O-β-D-glucoside)は、C3またはC6にメトキシ基を有し、C7に糖を有する点に特徴を有する。Centaurein及びJaceinは、水和物、溶媒和物、各種塩形態であってもよい。
Centaurein及びJaceinは繊維芽細胞に対して、強い増殖促進作用を示す。繊維芽細胞は、特にヒト皮膚繊維芽細胞において効果が著しい。
本発明の細胞増殖促進剤は、いずれの形態であってもよく、水溶液等の溶液、または粉末、錠剤等の形態であってもよい。錠剤等に成型する場合には従来知られている医薬上許容される担体、倍散剤、崩壊剤、滑沢剤等を用いることができる。いずれの薬剤形態も、製薬分野における当業技術に基づき、当業者が適宜作成することができる。
組成物の投与経路は、様々な経路が可能である。擦り傷、切り傷、肌荒れ等を含む、皮膚等の創傷治療に用いる場合には、外用剤として用いることが効果があり好ましい。
本発明の細胞増殖促進剤を含む創傷治療組成物は、ヒトを含む動物の各種創傷治療に用いることができる。本明細書において、創傷とは、器官組織の表面に欠損を生じた状態をいい、外傷、皮膚における擦り傷、切り傷、いわゆる肌荒れ等を含む。
本発明の創傷治療組成物は、いずれの形態であってもよく、水溶液等の溶液、または粉末、錠剤等の形態であってもよい。錠剤等に成型する場合には従来知られている医薬上許容される担体、倍散剤、崩壊剤、滑沢剤等を用いることができる。いずれの薬剤形態も、製薬分野における当業技術に基づき、当業者が適宜作成することができる。
組成物の投与経路は、様々な経路が可能である。擦り傷、切り傷、肌荒れ等を含む、皮膚等の創傷治療に用いる場合には、外用剤として用いることが効果があり好ましい。
1.プロテインキナーゼ関与による細胞増殖シグナル伝達経路について
リガンドと結合した受容体が特定の酵素の活性化により細胞内へシグナルを伝える場合、その多くはプロテインキナーゼが基質タンパク質をリン酸化し、活性化あるいは不活性化してシグナルを次に伝える(秋山徹、他、“シグナル伝達がわかる”、羊土者、pp.18-62(2001))。
Centaurein及びJaceinのこのような細胞増殖促進作用が、どのような細胞内シグナル伝達経路を介して発現するのかについて検討するため、特にCentaureinについて、シグナル伝達経路に関与する様々なプロテインキナーゼに対する阻害剤を用い、細胞増殖及びプロテインキナーゼのタンパク質発現変化を指標として、シグナル伝達経路を検討した。
実験の詳細は後述するが、ヒト皮膚繊維芽細胞(HSF)にプロテインキナーゼC(PKC)の阻害剤であるカルホスチンC(Calphostin C)を50%阻害濃度(IC50)で加えて、Centaurein処理したところ、Centaurein単独処理により示された細胞増殖促進作用が、阻害された(図5B)。また、Centaureinの処理においてプロテインキナーゼCのリン酸化が認められ、この活性化はカルホスチンCによって抑制された(図6B)。
細胞内外からの増殖刺激の多くは、MAPキナーゼカスケードを経て、タンパク質のリン酸化を調節しながら細胞質から核内へと増殖シグナルを伝達する。
従って、細胞増殖、分化に関与するMAPキナーゼ、ERK1/2(p44/42)についてその活性化酵素MEKの阻害剤(PD98059)を用いて、Centaurein処理における細胞増殖ならびにタンパク質発現への影響を検討した。
ヒト繊維芽細胞の増殖は、Centaureinの処理により促進されたが、活性化酵素MEKの阻害剤であるPD98059の同時処理により、抑制された(図7B)。また、Centaurein処理によるERK1/2のリン酸化は、カルホスチンCとPD98059によってそれぞれ阻害された(図8B)。
これらのことから、Centaurein及びJaceinの細胞増殖促進作用は、プロテインキナーゼCとERKの活性が関与しているものと考えられる。
なお、Quercetinに代表される多くのフラボノイドは、チロシンキナーゼ(PTK)やプロテインキナーゼC(PKC)、MAPキナーゼなどの酵素活性を阻害して、細胞増殖や遊走、血管新生、細胞周期を抑制するとの報告があり、本発明者らも、Quercetinによるヒト皮膚繊維芽細胞の増殖抑制を確認している(データ未掲載)。Centaurein及びJaceinは、Quercetinと同じ骨格を有するが、C3またはC6にメトキシ基を有し、C7に糖を有するなど構造上異なっている。このような構造の違いにより、細胞増殖抑制/促進というように全く異なる作用を示すことは驚くべきことである。
インビトロ創傷治癒モデルにおいて、Centaureinによる細胞欠損部位への細胞遊走と創部周辺の細胞増殖が認められた(図9B)。また、前記細胞遊走及び細胞増殖作用は、カルホスチンC及びPD98059により阻害された(図9C)。
本発明において、Centaurein及びJaceinは、センダングサ属植物であるビデンス・ピローサ(Bidens pilosa)から抽出された例を説明するが、いずれの天然物からの抽出、精製品または、合成品であってもよいことは当然である。
本発明においてビデンス・ピローサは以下に掲げるものを包含する。
Bidens pilosa L. var. minor (Blume)Sherff (シロバナセンダングサ、シロノセンダングサ、コシロノセンダングサ、コセンダングサ、咸豊草)
Bidens pilosa L. var. bisetosa Ohtani et S.Suzuki(アワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L. f. decumbens Scherff (ハイアワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L. var. radiata Scherff (タチアワユキセンダングサ、ハイアワユキセンダングサを含むこともある)
Bidens pilosa L. var. radiata Schultz Bipontinus (シロノセンダングサ、オオバナノセンダングサ)
Bidens biternata Lour. Merrill et Sherff(センダングサ)
Bidens bipinnata L.(コバノセンダングサ、センダングサ)
Bidens cernua L.(ヤナギタウコギ)
Bidens frondosa L.(アメリカセンダングサ、セイタカタウコギ)
Bidens maximowicziana Oett(羽叶鬼針草)
Bidens parviflora Willd(ホソバノセンダングサ)
Bidens radiata Thuill. var. pinnatifida (Turcz.)Kitamura(エゾノタウコギ)
Bidens tripartita L.(タウコギ)
上記センダングサ属植物の使用部位は、根、地上部(茎、葉、花等)又は全草何れの部位を用いてもよい。特に、葉及び茎の部分を使用することが効力の点において好ましい。
また、本発明の細胞増殖促進剤またはこれを含む組成物にはさらに酸化防止の目的で他の成分または植物を加えてもよい。
〔センダングサ属植物の抽出方法〕
本発明の組成物に含まれるセンダングサ属植物抽出物を得る方法の一つの実施態様を示すと、上述したようにセンダングサ属植物を乾燥したもの又は蒸気で蒸した後乾燥したものに対して、乾燥または蒸気で蒸した後乾燥し、常温又は加温下に、溶媒を添加して抽出する。抽出方法としては例えば、浸漬して静置、またはソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出物を得ることもできる。
抽出時の温度は、通常、室温〜沸点程度で行うことができる。また、抽出時間は、温度や溶媒にもよるが、室温〜沸点程度で抽出を行う場合には、1〜300時間程度の範囲にわたって行うことができる。
ゲニステイン(Genistein)(CALBIOCHEM)
KT5720(CALBIOCHEM)
KT5823(CALBIOCHEM)
カルホスチンC(Calphostin C)(CALBIOCHEM)
PD 98059(CALBIOCHEM)
ダルベッコ改変イーグル培地(低グルコース)(Dulbecco's modified eagle medium (low glucose))(GIBCO)
ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum)(GIBCO)
透析ウシ胎仔血清(dialyzed fetal bovine serum)(GIBCO)
0.25% トリプシン(Trypsin)−0.02%EDTA-PBS (GIBCO)
L-グルタミン(L-Glutamine)(GIBCO)
ペニシリン/ストレプトマイシン(Penicillin/Streptomycin)(GIBCO)
MEM非必須アミノ酸溶液(MEM Non-Essential-Amino-Acid Solution) 10 mM (GIBCO)
組織培養皿(Tissue culture dish)(35 mm, 100 mm, 96 ウェル)(FALCON)
細胞計測キット−8(Cell Counting Kit-8)(株式会社 同仁化学研究所)
アクリルアミド(Acrylamide)(BIO-RAD)
過硫酸アンモニウム(Ammonium persulfate)(GIBCO)
ニトロセルロース転写メンブレン(Nitrocellulose transfer membrane)(Schleicher & Schuell)
スキムミルク(雪印)
ツウィーン-20(Tween-20)(関東化学)
TEMED(Sigma)
ウシ血清アルブミンフラクションV(Bovine serum albumin fraction V)(Sigma)
プロテアーゼ阻害剤カクテルタブレット(Protease inhibitor cocktail tablets)(Roche)
ホスホ-PKC 抗体サンプラーキット(Phospho-PKC Antibody Sampler Kit)(Cell Signaling)
MAPK ファミリー抗体サンプラーキット(MAPK Family Antibody Sampler Kit)(Cell Signaling)
ホスホ-MAPK ファミリー抗体サンプラーキット(Phospho-MAPK Family Antibody Sampler Kit)(Cell Signaling)
抗マウスIgG HRP結合F(ab')2フラグメント(Anti mouse IgG HRP-linked F(ab')2 fragment)(Amersham Biosciences)
抗ウサギIgG HRP結合F(ab')2フラグメント(Anti rabbit Ig,HRP-linked F(ab')2 fragment)(Amersham Biosciences)
カレイドスコープ予備染色標準(Kaleidoscope Prestained Standards)(BIO-RAD)
精密プラスプロテイン標準(Precision Plus ProteinTM Standard)(BIO-RAD)
ECLTM(Amersham Biosciences)
ECL アドバンス(ECL AdvanceTM)(Amersham Biosciences)
DBX 現像液及び補充液(DBX Developer and Replenisher)(KODAK)
DBX 定着剤及び補充駅(DBX Fixer and Replenisher)(KODAK)
診断用フィルム(Diagnostic Film)(X-OMAT AR)(Kodak)
高感度フィルム(HyperfilmTM)(Amersham Biosciences)
ミニ トランス−ブロットセル(Mini Trans-Blot(登録商標)Cell)(BIO-RAD)
ミニ-プロテアンIIセル(Mini-PROTEAN(登録商標) II Cell)(BIO-RAD)
ミクロBCAたんぱく質アッセイ試薬キット(Micro BCATM protein Assay Reagent Kit)(PIERCE)
Na2HP04, NaCl, KCl, HCl, NaOH, グリセロール, メタノール, エタノール, トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン), NaHC03, Na2C03, BPB, NaF, Na3V04, Nonidet P-40, デオキシコール酸ナトリウム, モリブデンナトリウムは和光純薬工業株式会社製の特級またはそれに準じたものを用いた。
メトラー天秤(AG245)(メトラー・トレド株式会社)
オート高圧滅菌パーソナルクレーブ(HA240MIV)(株式会社 平山製作所)
遠心機(CT-110)(株式会社 佐久間製作所)
pHメーター(HM-20S)(東亜電波工業株式会社)
分光光度計(UV-190)(株式会社 島津製作所)
CO2インキュベーター(十慈化学工業株式会社)
クリーンベンチ(NS-18BW)(十慈化学工業株式会社)
位相差顕微鏡(IMT-2)(OLYMPUS)
蛍光位相差顕微鏡(IX 71)(OLYMPUS)
高速遠心機 himac(CR21)(株式会社 日立製作所)
ミクロプレートリーダー(Microplate reader)(MPR-A4i)(東ソー株式会社)
SDS : ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium dodecyl sulfate)
PBS : リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline)(pH 7.4)
TBS : トリス緩衝生理食塩水(Tris buffered saline)(pH 8.0)
T-TBS : 0.05% Tween-20 in TBS
DMEM : ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle medium)
FBS : ウシ胎仔血清(Fetal Bovine Serum)
HSF : ヒト皮膚繊維芽細胞(Human skin fibroblast)
PKC : プロテインキナーゼC(Protein kinase C)
PTK : プロテインチロシンキナーゼ(Protein tyrosine kinase)
PKA : プロテインキナーゼA(Protein kinase A)
PKG : プロテインキナーゼG(Protein kinase G)
MAPK : マイトジェン-活性化プロテインキナーゼ(Mitogen-activated protein kinase)
ERK : 細胞外シグナル調節キナーゼ(Extracellular signal-regulated kinase)
JNK : c-Jun N-末端 キナーゼ(c-Jun N-terminal kinase)
SAPK : ストレス-活性化プロテインキナーゼ(Stress-activated protein kinase)
MEK : MAPキナーゼ/ERK活性化キナーゼ(MAP kinase/ERK-activating kinase)
ビデンス・ピローサ : ビデンス・ピローサ熱水抽出物
ビデンス・ピローサ粉末(宮古島産タチアワユキセンダングサの地上茎葉に修治を施し、粉末状にしたもの、武蔵野免疫研究所提供)からの抽出物と細胞増殖作用の関係をもとめた。
薬物の抽出
ビデンス・ピローサは1g/10mLの割合で精製水を用いて100℃で12時間抽出後、1500rpm、10分間遠心分離し、上清を熱水抽出物として。また、エタノールを用いて室温にて24時間抽出し、同様に処理してエタノール抽出物を得た。いずれの抽出物もフィルター(0.2μm)にて滅菌後使用した。
96穴マイクロタイタープレートの各ウェルにHSFを3×103 細胞/ウェルとなるよう藩種し、10%FBS DMEMを用い、37℃、5%CO2条件下で培養した。24時間後、PBSで2回洗浄し0.5% dialyzed FBS DMEMにて再び同条件下で培養することで静止期に導入した。さらに24時間後、HSFに対しビデンス・ピローサ熱水抽出物あるいはエタノール抽出物(0.01、0.1、1mg/mL)をそれぞれ添加した0.5% dialyzed FBS DMEMを処理した。エタノール抽出物のコントロールにはエタノールを1%となるよう添加した。24時間後にも同様の処理を行った。薬物処理から48時間後、細胞計測キット−8を各ウェルに10μLずつ添加し、ミクロプレートリーダーにて吸光度(測定波長450nm、対照波長650nm)を指標として細胞数を測定した。コントロール(ビデンス・ピローサ=0 mg/mL)の細胞数を100%として、ビデンス・ピローサ熱水抽出物あるいはエタノール抽出物の処理による細胞数を%に換算して表示した。なお、これらの差の検定はStudentのt-testによった(図1:データ、平均±S.E; n=6;Studentのt-test(**p<0.01、***p<0.001)。
HSFに各濃度のビデンス・ピローサ熱水抽出物を48時間処理することにより、コントロールと比較して細胞数の増加が認められた。HSFの細胞増殖率はビデンス・ピローサ熱水抽出物において処理濃度が高いほど大きく、その増殖率はコントロールを100%とすると0.1、1mg/mLでそれぞれ225、385%であった(図1−黒色バー)。一方ビデンス・ピローサエタノール抽出物(図1−白色バー)では、熱水抽出物のような細胞増殖促進作用は認められなかった。
上述したようにビデンス・ピローサの熱水抽出物がヒト皮膚繊維芽細胞の増殖を促進することが示されたので、さらに各フラクションにわけてHSFに対する増殖作用を検討した。
ビデンス・ピローサ熱水抽出物を多孔質樹脂カラム(Diaion HP-20)に通し、その通過画分をフラクションC、メタノール溶出画分をフラクションDとした。さらにフラクションDからODSカラムによりメタノールの濃度を変えて溶出し、フラクションD1からD7を得た(図2)。
薬物の調製
ビデンス・ピローサ熱水抽出物から得られた各フラクションは、精製水を溶媒に用いて、10mg/mLの溶液とし、フィルター(0.2μm)で滅菌後使用した。
96穴マイクロタイタープレートの各ウェルにHSFを3×103細胞/ウェルとなるよう播種し、10%FBSDMEMを用い37℃、5%CO2条件下で培養した。24時問後、PBSで2回洗浄し0.5% dialyzed FBS DMEMにて再び同条件下で培養することで静止期に導入した。さらに24時間後、HSFに対し、フラクションCおよびフラクションD(0.01、0.1mg/mL)あるいはフラクションD1からD6(0.1mg/mL)をそれぞれ添加した0,5% dialyzed FBS DMEMを処理した。24、48時間後にも同様の処理を行った。薬物処理から72時間後、細胞計測キット−8を各ウェルに10μLずつ添加し、ミクロプレートリーダーにて吸光度(測定波長450nm、対照波長650nm)を指標として細胞数を測定した。
フラクションCとフラクションDのHSFに対する増殖作用を比較したところ、どちらのフラクションもHSFの増殖を促進したが、フラクションDでフラクションCより強い増殖促進作用が認められた。コントロール(フラクションCまたはD=0 mg/mL)を100%として0-1mg/mL処理でのそれぞれの増殖率を比較すると、フラクションCが198%、フラクションDが398%であった。
さらに、フラクションD1からフラクションD6を0.1mg/mLの濃度で72時間HSFに処理した結果、フラクションD1からフラクションD5についてもわずかに増殖促進傾向が認められたが、ビデンス・ピローサ熱水抽出物あるいはフラクションDの処理で得られたような強い増殖促進作用は認められなかった。一方、フラクションD6の処理によりHSFの増殖は大きく促進した(図3; 1:0.5% dialyzed FBS DMEM処理、2:フラクションD1、D2、D3 0.1 mg/mLの0.5% dialyzed FBS DMEM処理、3:フラクションD4 0.1 mg/mLの0.5% dialyzed FBS DMEM処理、4:フラクションD5 0.1 mg/mLの0.5% dialyzed FBS DMEM処理、5:フラクションD6 0.1 mg/mLの0.5% dialyzed FBS DMEM処理;データ、平均±S.E; n=6;Studentのt-test(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001))。
フラクションD6には、フラボノイドのJacein及びCentaureinが主成分として含まれていた。(抽出、構造決定、標品との比較データによる。データは示していない。)(Natural Medicines 57(3), 100-104(2003)参照)。
Centaurein及びJaceinの細胞増殖促進作用について比較検討した。
薬物の調製
JaceinおよびCentaurein(明治薬科大学天然薬物学教室 奥山徹先生提供)は精製水を溶媒に1mg/mLの溶液とし、フィルター(0.2μm)で滅菌後使用した。
96穴マイクロタイタープレートの各ウェルにHSFを3×103細胞/ウェルとなるよう播種し、10%FBS DMEMを用い37℃、5%CO2条件下で培養した。24時間後、PBSで2回洗浄し0.5%dialyzed FBS DMEMにて再び同条件下で培養することで静止期に導入した。さらに24時間後、HSFに対しJacein(0.1mg/mL)あるいはCentaurein(0.01mg/mL)を添加した0.5% dialyzed FBS DMEMを処理した。薬物処理から24時間後、細胞計測キット−8を各ウェルに10μLずつ添加し、ミクロプレートリーダーにて吸光度(測定波長450nm、対照波長650nm)を指標として細胞数を測定した。
Jacein、Centaureinをそれぞれ24時間処理した結果、どちらもHSFの細胞増殖を有意に促進するという結果が得られた。本実験における薬物処理濃度はJacein 0.1mg/mL、Centaurein 0.01mg/mLであり、Centaureinの方が低濃度でその作用を発揮した(図4; 1:0.5% dialyzed FBS DMEM処理(コントロール)、2:Jacein 0.1 mg/mL、0.5% dialyzed FBS DMEM処理、3:Centaurein 0.01 mg/mL、0.5% dialyzed FBS DMEM処理;データ、平均±S.E; n=6;Studentのt-test(*p<0.05、***p<0.001) )。
(1)プロテインキナーゼ阻害剤を用いたシグナル伝達経路の検討
リガンドと結合した受容体が特定の酵素の活性化により細胞内ヘシグナルを伝える場合、その多くはプロテインキナーゼが基質タンパク質をリン酸化し、活性化あるいは不活性化してシグナルを次に伝える(秋山徹、他、“シグナル伝達がわかる"、手土杜、pp.18-62(2001))。
前実験において、ビデンス・ピローサ熱水抽出物およびフラクションD6とこれに含まれるCentaureinがヒト皮膚繊維芽細胞の増殖を促進することが示された。
本実験では、細胞内情報伝達に関与する各種プロテインキナーゼの阻害剤を用い、ビデンス・ピローサならびにCentaureinによるHSFの増殖率とタンパク質発現の変化を指標としてシグナル伝達経路を検討した。
96穴マイクロタイータープレートの各ウェルにHSFを3x103細胞/ウェルとなるよう播種し、10% FBS DMEMを用い37℃、5%CO2条件下で培養した。24時間後、PBSで2回洗浄し0.5% dialyzed FBS DMEMにて再び同条件下で培養することで静止期に導入した。さらに24時間後、HSFに対し、下記(A)あるいは(B)に示した薬物処理を行った。プロテインキナーゼ阻害剤は各濃度で30分間前処理し、コントロールには阻害剤の溶媒であるDMSOを添加した。薬物処理から48時間後、細胞計測キット−8を各ウェルに10μLずつ添加し、ミクロプレートリーダーにて吸光度(測定波長450nm、対照波長650nm)を指標として細胞数を測定した。
(図5A)
1.0.5%dialyzed FBS DMEM中0.5%DMSO(コントロール)
2.0.5%dialyzed FBS DMEM中ビデンスピローサ 1mg/mL
3.0.5%dialyzed FBS DMEM中ゲニステイン 2.6μM及びビデンスピローサ 1mg/mL
4.0.5%dialyzed FBS DMEM中KT5720 56nM及びビデンスピローサ 1mg/mL
5.0.5%dialyzed FBS DMEM中KT5823 234nM及びビデンスピローサ 1mg/mL
6.0.5%dialyzed FBS DMEM中カルホスチンC 50nM及びビデンスピローサ 1mg/mL
(図5B)
1.0.5%dialyzed FBS DMEM中0.5%DMSO(コントロール)
2.0.5%dialyzed FBS DMEM中センタウレイン 0.01mg/mL
3.0.5%dialyzed FBS DMEM中カルホスチンC 50nM及びセンタウレイン 0.01mg/mL
HSFは100mmシャーレに4×105細胞/ウェルとなるよう播種し、10% FBS DMEMを用い37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。PBSで2回洗浄後、無血清DMEMにて再び同条件下で培養することで静止期に導入した。さらに24時間後、HSFに対しビデンス・ピローサ(1mg/mL)あるいはCentaurein(0.01mg/mL)を添加した無血清DMEMを処理した。各阻害剤は30分間前処理し、コントロールには阻害剤の溶媒であるDMSOを添加した。薬物処理から15分後、HSFを氷冷PBSで2回洗浄し、100μLの氷冷RIPAバッファー[50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl, 1% Nonidet P-40, O.25%デオキシコール酸ナトリウム, プロテアーゼ阻害剤, 10mM NaF, 2mM Na3VO4, 40mM, β-グリセロホスフェート, 10mM モリブデン酸ナトリウム]に溶解した。氷上で1時間静置後、15,000rpmで5分間遠心分離することにより細胞内タンパク質溶出画分を得た。得られた細胞内タンパク質はMicro BCA kitにて定量後、2×Laemmli sample buffer[4%SDS, 25% グリセロール, 0.01%BPB, 0.12M Tris-HCl(pH6.8)]を用いて希釈した。
サンプルは100℃にて5分間煮沸し、サンプルの分子量に応じてそれぞれ7.5%、10%アクリルアミトゲルで電気泳動を行い、タンパク質を分離した。
SDS-PAGE後、ゲルのタンパク質をメンブランフィルターに転写した。フィルターを5%スキムミルク含有T-TBS[50mM Tris-HCl(pH8.0), 0.9%NaCl, 0.05% Tween-20]でブロッキング後、5%スキムミルク含有T-TBSで1,000倍希釈した抗ホスホ-PKC(pan)抗体で処理をした。T-TBSで洗浄後、5%スキムミルク含有T-TBSで2,000倍希釈した2次抗体で処理をした。T-TBSで洗浄後、ECL(登録商標)発色試薬を処理してフィルムに感光し現像した。
HSFにチロシンキナーゼ(PTK)、プロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼG(PKG)、プロテインキナーゼC(PKC)の各阻害剤を50%阻害濃度(IC50)で処理し、ビデンス・ピローサによる増殖率の変化を検討した。その結果、PTK阻害剤(Genistein)、PKA阻害剤(KT5720)、PKG阻害剤(KT5823)では増殖の抑制は認められなかった。一方、PKC阻害剤(カルホスチンC)においてはコントロールと同程度まで増殖を抑制した。また、Centaureinについて同様にカルホスチンCを処理し検討を行った結果、HSFの増殖抑制が認められた(図5A及び図5B; データ、平均±S.E; n=6;Studentのt-test(***p<0.001(コントロールと比較)、###p<0.001(ビデンス・ピローサ(A)またはCentaurein(B)と比較)))。
ウェスタンブロット法によるタンパク質発現の検討結果から、ビデンス・ピローサあるいはCentaureinの処理においてプロテインキナーゼC(PKC)リン酸化が認められた。このPKC活性化は、カルホスチンCによって抑制された(図6A及び図6B; HSF細胞をビデンス・ピローサ(1mg/mL)(A)またはCentaurein(0.01mg/mL)(B)で、37℃、15分間処理した。また、HSF細胞をカルホスチンC(50nM)で30分間前処理したものを使用して同様に処理を行なった。)。
細胞内外からの増殖刺激の多くは、MAPキナーゼカスケードを経て、タンパク質のリン酸化を調節しながら細胞質から核内へと増殖シグナルを伝達する。
本実験では、特に増殖因子などの細胞外刺激に反応し、細胞増殖・分化に関与するMAPキナーゼ、ERK1/2(p44/42)についてその活性化酵素MEKの阻害剤(PD98059)を用いビデンス・ピローサあるいはCentaureinの処理における細胞増殖ならびにタンパク質発現への影響を検討した。
96穴マイクロタイタープレートの各ウェルにHSFを3x103細胞/ウェルとなるよう播種し、10%FBS DMEMを用い37℃、5%CO2条件下で培養した。24時間後、PBSで2回洗浄し0.5% dialyzed FBS DMEMにて再び同条件下で培養することで、静止期に導入した。さらに24時間後、HSFに対しビデンス・ピローサ(1mg/mL)を添加した0.5% dialyzed FBS DMEMを処理した。MEK阻害剤PD98059(30μM)は30分間前処理し、コントロールには阻害剤の溶媒であるDMSOを添加した。薬物処理から48時間後、細胞計測キット−8を各ウェルに10μLずつ添加し、ミクロプレートリーダーにて吸光度(測定波長450nm、対照波長650nm)を指標として細胞数を測定した。Centaurein(0.01mg/mL)についても同様の処理を行い、薬物処理から24時間後の細胞数を測定した。
HSFは100mmシャーレに4×105細胞/ウェルとなるよう播種し、10%FBS DMEMを用い37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。PBSで2回洗浄後、無血清DMEMにて再び。同条件下で培養することで静止期に導入した。さらに24時間後、HSFに対しビデンス・ピローサ(1mg/mL)あるいはCentaurein(0.01mg/mL)を添加した無血清DMEMを処理した。カルホスチンC(50μM)、PD98059(30μM)は30分問前処理し、コントロニルには阻害剤の溶媒であるDMSOを添加した。薬物処理から15分後、HSFを氷冷PBSで2回洗浄し、100μLの氷冷RIPAバッファー[50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl, 1% Nonidet P-40, 0.25%デオキシコール酸ナトリウム, プロテアーゼ阻害剤, 10mM NaF, 2 mM Na3VO4, 40 mM β-グリセロホスフェート, 10 mM モリブデン酸ナトリウム]に溶解した。氷上で1時間静置後、15,000rpmで5分間遠心分離することにより細胞内タンパク質溶出画分を得た。得られた細胞内タンパク質はMicro BCA Kitにて定量後、2×Laemmli sample buffer[4%SDS, 25%グリセロール, 0.01%BPB, 0.12 M Tris-HCl(pH6.8)]を用いて希釈した。
サンプルは100℃にて5分間煮沸し、サンプルの分子量に応じてそれぞれ7.5%、10%アクリルアミトゲルで電気泳動を行いタンパク質を分離した。
SDS-PAGE後、ゲルのタンパク質をメンブランフィルターに転写した。フィルターを5%スキムミルク含有T-TBS[50 mM Tris-HCl(pH8.0)、0.9%NaCl, 0.05% Tween-20]でブロッキング後、5%BSA含有T-TBSで1,000倍希釈した抗p44/42抗体、抗ホスホ-p44/42抗体で処理をした。T-TBSで洗浄後、5%スキムミルク含有T-TBSで2,000倍希釈した2次抗体で処理をした。T-TBSで洗浄後、ECL(登録商標)発色試薬を処理してフィルムに感光し現像した。
ビデンス・ピローサの処理により促進したHSFの増殖は、PD98059でMEKを阻害した結果有意な抑制を示した(図7A;1:0.5%DMSO及び0.5% dialyzed FBS DMEM処理(コントロール)、2:ビデンス・ピローサ1mg/mL、0.5% dialyzed FBS DMEM処理、3:PD98059 30μM及びビデンス・ピローサ1mg/mL、0.5% dialyzed FBS DMEM処理;データ、平均±S.E; n=6;Studentのt-test(***p<0.001(コントロールと比較)、###p<0.001、##p<0.01(ビデンス・ピローサ(A)と比較)))。また、強い細胞増殖促進作用を示したCentaureinについても、その増殖作用はPD98059の同時処理によって抑制を受けた(図7B1:0.5%DMSO及び0.5% dialyzed FBS DMEM処理(コントロール)、2:Centaurein 0.01mg/mL、0.5% dialyzed FBS DMEM処理、3:PD98059 30μM及びCentaurein 0.01mg/mL、0.5% dialyzed FBS DMEM処理;データ、平均±S.E; n=6;Studentのt-test(***p<0.001(コントロールと比較)、###p<0.001、##p<0.01(ビデンス・ピローサ(A)と比較)))。
プロテインキナーゼCからのERKの活性化をウェスタンブロット法にて検討した結果、ビデンス・ピローサあるいはCentaurein処理によるERK1/2のリン酸化はカルホスチンCとPD98059によってそれぞれ阻害された(図8A及び図8B; HSF細胞をビデンス・ピローサ(1mg/mL)(A)またはCentaurein(0.01mg/mL)(B)で、37℃、15分間処理した。また、HSF細胞をカルホスチンC(50nM)及び/またはPD98059(30μM)で30分間前処理したものを使用して同様に処理を行なった。)。
Centaureinによりヒト皮膚繊維芽細胞の増殖は有意に促進された。
一方、この増殖促進作用は、プロテインキナーゼC阻害剤であるカルホスチンCの同時処理によりコントロールと同定度まで抑制され、さらにMEK阻害剤であるPD98059処理によっても抑制された。また、ウェスタンブロット法によるタンパク発現変動の検討から、Centaureinは、プロテインキナーゼCならびにERK1/2のリン酸化を亢進することがわかった。まら、ERK1/2のリン酸化は、PD98059D及びカルホスチンCで抑制された。JNK/SAPKに関してはヒト皮膚繊維芽細胞における発現は認められなかった。また、p38は、ヒト皮膚繊維芽細胞で発現してるもののそのリン酸化は認められなかった(データ未掲載)。従って、CentaureinによりプロテインキナーゼCとERKを介して、ヒト皮膚繊維芽細胞の増殖を促進するものと考えられる。
創傷治癒とは、組織が何らかの要因で損傷を受けた場合の生体内での修復反応である。創傷治癒過程はその時間的経過により、出血・凝固期、炎症期、増殖期、再構築期に分けられる39)。増殖期には、炎症期で放出された細胞増殖因子によって繊維芽細胞や血管内皮細胞などが活発に増殖し、肉芽組織や新生血管を形成する。
上述したとおり、ビデンス・ピローサ熱水抽出物とフラクションD6の構成成分であるCentaureinについてこれらがヒト皮膚繊維芽細胞の増殖を促進することが示されており、ビデンス・ピローサ及びCentaureinは繊維芽細胞に対して細胞の遊走・伸展および細胞増殖において創傷治癒を促進すると推測される。そこで、本実験ではCentaureinの細胞増殖作用による創傷治癒効果を検討した。
Centaureinの細胞増殖作用による創傷治癒促進効果を、インビトロ創傷治癒モデルを用い検討した。また、このときのシグナル伝達経路について、細胞増殖と同条件下検討を行った。
インビトロ創傷治癒モデルの作製
35mmシャーレにHSFを1×104細胞/dishとなるよう播種し、10%FBS DMEMを用い37℃、5%CO2条件下でコンフルエントまで培養した。この問、2日毎に培地交換した。コンフルエント後、PBSで2回洗浄し、無血清DMEMにて再び同条件下で培養することで静止期に導入した。さらに24時間後、PBSに交換し、ピペットチップ(10μL)を用いて「×」を描くように対角線的に一定範囲の細胞を剥離し、インビトロ創傷治癒モデルとした(LiouG,I., Matragoon S., Samuel S., Behzadian M A., Tsai N.T, GuX., Roon P, Hunt D.M., HuntR.C., Caldwell R.B., Marcus D.M., Mol.Vis., 8, 483-493(2002); Javelaud D., Laboureau J., Gabison E., Verrecchia F, Mauviel A., J.Bio1.Chem., 278, 24624-24628(2003); 櫻井美典、他。日本生薬学会47年会、東京、講演要旨集、pp.106 (2000))。PBSで十分に洗浄後、ビデンス・ピローサ(1mg/mL)、フラクションD6(0.1mg/mL)、Centaurein(0.01mg/mL)をそれぞれ処理した。カルホスチンC(50nM)、PD98059(30μM)は各濃度で30分間前処理した。これらの処理から24時間後、細胞剥離により作製した溝およびその周辺細胞の状態を顕微鏡にて観察した。
インビトロ創傷治癒モデルにおけるCentaureinのHSFに対する遊走・伸展、増殖作用の検討結果を図9に示した。コントロール(図9A;DMEM中、Centaurein(0.01mg/mL)処理)と比較して、Centaurein(図9B;DMEM中、カルホスチンC(50nM)及びCentaurein (0.01mg/mL)処理)を処理することで溝の幅が狭まり、さらに創部周辺の細胞の密度が高くなる変化が観察された。すなわち、CentaureinによりHSFの遊走、伸展、増殖の促進効果が認められた。一方、PKC阻害剤のカルホスチンCあるいはMEK阻害剤のPD98059を同時処理すると、以上に記した効果が抑制された(図9C;;DMEM中、PD98059(30nM)及びCentaurein (0.01mg/mL)処理)。
皮膚組織は傷や感染など外界刺激からのバリアーであり、受傷時には迅速な回復が要求される。創傷治癒は血小板の活性化に伴う血液凝固反応に始まるが、その過程において重要となるのは、周辺細胞の遊走による細胞欠損部位の被覆とそれに引き続いて起こる細胞増殖、創部の収縮、血管新生、細胞外マトリックスの合成である。特に血管新生や繊維芽細胞の遊走・増殖は細胞外マトリックスの形成に先立って起こる重要な過程となり、様々な増殖因子やサイトカインが関与する。
抗酸化作用、抗炎症作用が報告されているビデンス・ピローサは、フリーラジカルを消去し創傷治癒を促すと考えられる。また、増殖期における血管内皮細胞、繊維芽細胞の増殖は血管新生や肉芽形成にとって重要な反応となる(田村誠、蛋白質 核酸 酵素、45,1145-1151(2000))ため、ビデンス・ピローサは細胞増殖に作用し創傷治癒を改善することが考えられる。
インビトロ創傷治癒モデルにより、Centaureinはそれぞれ創部周辺細胞の増殖を促進することに加えて溝の両側からの細胞遊走が観察され、細胞欠損部位の幅が狭まった(図9C)。
細胞増殖の測定と同条件下行ったビデンス・ピローサの創傷治癒における細胞内情報伝達経路の検討から、カルホスチンC、PD98059は共にビデンス・ピローサあるいはCentaureinによる細胞欠損部位への細胞遊走と創部周辺の細胞増殖を阻害した。すなわち、プロテインキナーゼCとERKの活性化を阻害した結果、創傷治癒が抑制を受けた。血管新生に働く血管内皮細胞、血管平滑筋細胞や他の細胞でもその創傷治癒過程でプロテインキナーゼCの活性化を伴うことが報告されている(Tang S., Morgan KG,, Parker C., Ware JA., J. Biol. Chem., 272, 28704-28711 (1997); Wyatt TA.. Ito H., Veys TJ,, Spurzem JR., Am. J. Physiol., 273, L1007-1012 (1997))。細胞増殖測定ならびにタンパク発現の検討で得られた結果同様、インビトロ創傷治癒モデルにおいてもビデンス・ピローサがプロテインキナーゼCとERKの活性化を介した細胞遊走、増殖作用を有すると確認されたことから、ビデンス・ピローサは様々な細胞の遊走、増殖に促進的に働き創傷治癒を促すものと考えられる。また、細胞や増殖刺激の種類によりERKはp38やJNKによる細胞遊走やコラーゲンゲルマトリックスの収縮など創傷治癒における他のMAPキナーゼとの相互作用も示唆されている(Javelaud D., Laboureau., Gabison E., Verrecchia F, Mauviel A., J. Bio1. Chem., 278, 24624-24628(2003); Lee D.J., Rosenfeldt H. Grinnell F., Exp. Cell Res. 257, 190-l97 (2000))。ヒト皮膚繊維芽細胞では、JNKの発現は認めらなかったがp38は発現が確認された(データは示していない)。p38は、角膜上皮細胞や血管平滑筋細胞などで炎症時に、あるいは火傷などの外傷により活性化が認められるとの報告がある(Guru-Dutt Sharma, Jiucheng He, Haydee E.P. Bazan., J. Biol. Chem., 278, 21989-21997 (2003); Ju H., Nerurkar S., Sauermelch CF., Olzinski AR., Mirabile R., Zimmerman D., Lee JC., Adams J., Sisko J., Berova M., Willette RN., J. Pharmacol. Exp. Ther., 301, 15-20 (2002); Ballard-Croft C., White DJ., Maass DL., Hybki DP., Horton JW., Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol., 280, H1970-1981 (2001))。本研究ではウェスタンブロット法において、ビデンス・ピローサ増殖刺激によるp38の活性化は確認されなかったが(データは示していない)、炎症性サイトカインなどによる活性化は否定できない。よって、ヒト皮膚線維芽細胞における創傷治癒過程でp38が活性化し、ビデンス・ピローサにより活性化したERKとの相互作用が起こる可能性も、推察される。
以上の結果から、ヒト皮膚繊維芽細胞に対し増殖促進作用を示すCentaurein及びその構造類似体であるJaceinの創傷モデルにおける創傷治癒が説明される。
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