JP2005179703A - 伸び、及び伸びフランジ性に優れた高強度鋼板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 結晶粒内に、第2相組織として、平均粒径が500nm以下の残留オーステナイト及び/又はマルテンサイトを、全組織に対する占積率で3〜20%含有する高強度鋼板である。
【選択図】 なし
Description
(i)上記第2相組織のサイズをナノレベルまで微細化させ、マトリックス(母相組織)と第2相組織との界面における応力集中を低減すれば、当該第2相組織は破壊の起点として作用しなくなること;
(ii)しかも、この様なナノサイズの第2相組織は、脆弱なマトリックス界面(粒界)ではなく、マトリックス内(結晶粒内)に生成させれば良い
という知見のもと、「如何にして、ナノレベルの第2相組織を安定して結晶粒内に分散させることができるか」という観点に基づき、更に検討を重ねてきた。その結果、上記知見を具現化する為には、予め、結晶粒内に、数nm〜数百nmサイズで、オーステナイト安定化元素/炭素/マルテンサイト安定化元素の偏析部(濃化域)を導入しておけば良く、その後の熱処理工程で、当該偏析部が消失しない様に留意して熱処理を行えば、伸び、特に伸びフランジ性が顕著に優れた高強度鋼板が得られることを見出した。
(a)鋼中にCu、Ni等のオーステナイト安定化元素を添加することにより、結晶粒内に、当該オーステナイト安定化元素を微細に偏析(濃化)させた後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズの残留オーステナイト(更にマルテンサイト)を結晶粒内に含有するTRIP鋼板を製造する方法;
(b)ベイナイト(特に下部ベイナイト);若しくは球状セメンタイトの活用により、結晶粒内に、ナノレベルで炭素の濃化域を導入した後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズの残留オーステナイト(更にマルテンサイト)を結晶粒内に含有するTRIP鋼板を製造する方法;
(c)鋼中にマルテンサイト生成促進元素を添加することにより、結晶粒内に、当該マルテンサイト生成促進元素を微細に偏析(濃化)させた後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズのマルテンサイトを結晶粒内に含むDP鋼板を製造する方法
等の方法を採用すれば良いことに到達し、本発明を完成した。
(I)DP鋼板(母相組織がベイナイトまたはフェライト)の場合は、第2相組織はマルテンサイトとなり;
(II)TRIP鋼板(母相組織が焼戻マルテンサイト若しくはベイナイトの単独組織;または、焼戻マルテンサイトとフェライト若しくはベイナイトとフェライトの混合組織)の場合は、第2相組織は、残留オーステナイト、または残留オーステナイトとマルテンサイト
となる。尚、本発明における組織(母相及び第2相)は、実質的に上述した組織で形成されているのが好ましいが、製造工程で不可避的に残存する他の組織(パーライト、母相組織が焼戻マルテンサイトである場合におけるベイナイト、母相組織がベイナイトである場合における焼戻マルテンサイトなど)や析出物の混入を排除するものではない。
Cは、強度の確保に有用であり、特にTRIP鋼板の場合は、所定の残留オーステナイトを確保する為に必須の元素である。好ましくはC量を0.08%以上、より好ましくは0.10%以上とする。一方、Cが過剰になると、その効果が飽和するのみならず、鋳造段階で中心偏析による欠陥が生じ易くなる。従ってC量は0.6%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下とする。なおC量が0.3%を超えると溶接性が低下する様になる。溶接性も考慮するならば、C量は0.3%以下、好ましくは0.28%以下、さらに好ましくは0.25%以下とすることが推奨される。
Siはフェライト相中の固溶C量を減少させ、伸び等の延性向上に寄与すると共に、固溶強化元素としても有用な元素である。一方、TRIP鋼板では、Siは残留オーステナイトの生成に寄与する元素である。好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.2%以上である。但し、3.5%を超えて添加すると、割れが生じる恐れがあり、加工性も劣化する様になる。好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、更により好ましくは2.0%以下である。
MnもSiと同様、固溶強化元素として有用であり、冷却過程における変態を抑制してオーステナイト相を安定化する為に必要な元素である。また、TRIP鋼板の場合は、Siと同様、残留オーステナイトの生成に寄与する元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、0.7%以上添加することが必要である。好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上である。但し、4%を超えて添加すると上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下である。
これらの元素は強度−延性バランスを高く保持したまま、高強度化を実現するのに有効な元素であり、特にTRIP鋼板では、オーステナイト安定化元素として有用である。上記元素は単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。特にTRIP鋼板の場合、Ni及び/又はCuの使用が推奨され、Ni:0.1%以上、及び/又はCu:0.1%以上添加することが好ましい。一方、これらの元素を過剰に添加すると、熱延時に割れが生じる等生産性が劣化することから、これら元素の合計を10%以下(好ましくは、Ni:2%以下、及び/又はCu:2%以下)に抑えるのが良い。
Crは強度向上に寄与する元素であり、この様な作用を有効に発揮させる為には、Cr:0.1%以上(より好ましくは0.2%以上)、添加することが好ましい。しかしながら、Crを過剰に添加しても効果が飽和してしまい、延性が劣化する。また、TRIP鋼板の場合、Crを過剰に添加すると炭化物を生成し、残留オーステナイトの生成が低下する。かかる観点からすれば、Crを1%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは0.8%以下である。
Alは、脱酸に寄与する元素であるが、2.0%を超えると連鋳による割れが生じてしまう。より好ましくは1.0%以下である。
これらの元素はいずれも、析出強化作用を有している。この様な作用を有効に発揮させる為には、上記元素の少なくとも一種(1種でも良いし、2種以上併用しても良い)を、合計で0.01%以上(より好ましくは0.05%以上)添加することが推奨される。但し、上記元素の合計量が0.1%を超えると炭化物が生成し、所望のγR量が得られない。より好ましくは、合計で0.08%以下である。
(a)オーステナイト安定化元素の活用
この方法はまず、鋼中にオーステナイト安定化元素(具体的にはCo、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、及びPdよりなる群から選択される少なくとも一種)を添加することにより、これら元素が過飽和に固溶したマトリックスを生成させた後、次いで、所定の時効処理により、当該オーステナイト安定化元素を金属相または炭化物相として析出させ、ナノサイズ(数nm〜数百nm)の偏析部(濃化域)を導入した(a−1)後、最後に、当該偏析部が消失しない様に留意しながら所定の熱処理(前述した特許文献2〜5に記載の方法)を施す(a−2)ことにより、所望の第2相組織を含むTRIP鋼板を製造する方法である。本発明法において、上述した特許文献2〜5に記載の方法と大きく異なる点は、本発明では熱延前に、予め、オーステナイト安定化元素が過飽和に固溶したマトリックスを生成させ、当該オーステナイト安定化元素がナノサイズで析出した偏析部(濃化域)を導入する工程[具体的には、後記する溶体化処理、(必要に応じて)焼入れ処理、及び時効処理]を付加した点である。
まず、上述した化学成分(但し、オーステナイト安定化元素を必須成分とする)を含む鋼材を溶体化処理する。この溶体化処理(ソーキング)は、Mn等による中心偏析を防止し、鋼中成分を全て均一に溶解させる手段として極めて有用であり、最終的にオーステナイト安定化元素の偏析にも寄与し得る為、重要な工程である。
以上の処理を行なった後は、所定の熱延処理により、オーステナイト安定化元素がナノサイズで偏析(濃化)したオーステナイトを生成させ、必要に応じて冷延処理を行なうことにより、ベイナイトまたはフェライトを母相組織とし、目的とする第2相組織を兼ね備えたTRIP鋼板が得られる。更に上記工程の後、所定の焼鈍を行うことにより、焼戻マルテンサイト(フェライトを含んでいても良い)を母相組織とし、目的とする第2相組織を兼ね備えたTRIP鋼板が得られる。いずれの場合においても、前記(a)の方法により、マトリックス中に形成されたオーステナイト安定化元素の偏析部(濃化域)は、その後の熱処理によって拡散して消失しない様に、特に熱延温度等を制御して熱処理している為、所望のTRIP鋼板を得ることができる。
(i)熱延処理
この熱延処理は、マルテンサイト(焼戻されていないマルテンサイト)を得ると共に、オーステナイト安定化元素の偏析部(濃化部)が導入されたオーステナイトを得ることを目的として実施される。
次に、上記鋼板をA1点以上の温度で加熱する。これにより、オーステナイト安定化元素の偏析部のみが逆変態によってオーステナイト化し、当該偏析部を除く部分は、マルテンサイト(焼戻マルテンサイト)のまま維持される。
この場合は、まず、上記鋼板を、前述の(i)と同様にして加熱した後、Ms点以上Bs点以下の温度まで、フェライト変態及びパーライト変態を避けながら急冷し、当該温度で所定のオーステンパ処理(ベイナイト変態)を行なうことにより、ベイナイトが生成すると共に、オーステナイト安定化元素の偏析部はオーステナイトのまま維持される。
この方法は、前記(a)の「オーステナイト安定化元素を活用する方法」とは異なり、鋼中にオーステナイト安定化元素を添加する代わりに、熱延前に、前組織として予め、微細な炭化物を内部に含むベイナイトを導入しておき、これらの組織を活用することにより、結晶粒内に、炭素の濃化域を導入した後、所定の熱処理を施すことにより、目的とする残留オーステナイト等の第2相組織を含むTRIP鋼板を製造するというものである。この方法は、オーステナイトが、炭素の偏析部(濃化域)の生成によって安定化するという特性を利用したものであり、熱延処理の前に、予め、炭素の濃化域を導入しておけば良い。
(c)マルテンサイト生成促進元素の活用
この方法は、鋼中にマルテンサイト生成促進元素を添加することにより、結晶粒内に、当該マルテンサイト生成促進元素を微細に偏析(濃化)させた後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズのマルテンサイトを結晶粒内に含むDP鋼板を製造する方法である。上記方法は、前述した(a)の方法において、鋼材として、オーステナイト安定化元素を添加した鋼材を使用する代わりに、マルテンサイト生成促進元素を添加した鋼材を使用すること以外、実質的に前述した(a)の方法を採用することができる。即ち、所定の溶体化処理、必要に応じて焼入れ処理、及び時効処理を施すことにより、マトリックス内に、マルテンサイト生成促進元素の偏析部(濃化域)を導入した後、次いで、通常採用されている方法によってDP鋼板を製造するに当たっては、当該偏析部が拡散しない様に、加熱速度等の加熱条件等に特に留意しながら、所望のDP鋼板を製造すればよい。
表1に示すNo.1の鋼材を溶製し、1350℃で10時間溶体化処理した後、鋼材表面を研削し、熱間圧延(加熱温度1200℃、仕上温度850℃、巻取温度約600℃)により、2mm厚の熱延鋼板を得た後、冷間圧延によって1.5mm厚の冷延鋼板を得た。次に、この冷延鋼板を、950℃で5分間加熱した後、水焼き入れし、その後、450℃で240分間時効処理した。更に上記鋼板を、950℃で5分間加熱した後水焼き入れし、赤外線加熱炉にて800℃まで急速加熱した後、当該温度にて10秒間保持してから、空冷することによりNo.1の鋼板を得た。
上記No.1において、オーステナイト安定化元素であるCu及びNiを添加しなかったこと以外はNo.1と同様の製造方法により、No.2の鋼板を得た。
上記No.1において、鋼中のCを0.30%としたこと以外はNo.1と同様の製造方法により、No.3の鋼板を得た。
No.4(No.1の比較例)
上記No.1において、時効処理を省略したこと、及び赤外線加熱炉による加熱以降の工程を、「赤外線加熱炉にて800℃まで急速加熱した後、当該温度にて5分間保持し、更に400℃で3分間保持した」こと以外は、No.1と同様の製造方法により、No.4の鋼板を得た。
上記No.1の鋼材を用い、No.1と同様の方法により、時効処理までの操作を実施した。その後、上記鋼板を950℃で5分間加熱した後、500℃(ベイナイト生成温度域)まで冷却し、当該温度で3分間保持してから、空冷することによりNo.5の鋼板を得た。
上記No.5において、オーステナイト安定化元素であるCu及びNiを添加しなかったこと以外はNo.5と同様の製造方法により、No.6の鋼板を得た。
No.1において、鋼中のCが0.08%であること以外はNo.1と同じ組成の鋼材を用い、No.1と同様の製造方法により、No.7の鋼板を得た。
Claims (3)
- 結晶粒内に、第2相組織として、平均粒径が500nm以下の残留オーステナイト及び/又はマルテンサイトを、全組織に対する占積率で3〜20%含有することを特徴とする伸び、及び伸びフランジ性に優れた高強度鋼板。
- 前記第2相組織は、オーステナイト安定化元素を含有しており、該第2相組織に占めるオーステナイト安定化元素の含有率は、鋼板全体に占めるオーステナイト安定化元素の含有率に比べて20質量%以上高いものである請求項1に記載の高強度鋼板。
- 前記オーステナイト安定化元素は、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、及びPdよりなる群から選択される少なくとも一種である請求項2に記載の高強度鋼板。
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