近年デジタル技術の進展に伴い、大容量のデータを処理、保存する傾向が推進される中で電子機器が一段と高度化し、使用される半導体装置もその半導体素子の微細化が急速に進んできている。それに伴ってダイナミックRAM ( Random Access Memory )の高集積化を実現するために、従来の珪素酸化物または窒化物の代わりに高誘電率を有する誘電体(以下、高誘電体と呼ぶ)を記憶容量素子の容量膜として用いる技術が広く研究開発されている。
さらに従来にない低電圧動作かつ高速書き込み読み出し可能な不揮発性RAMの実用化を目指し、自発分極特性を有する強誘電体に関する研究開発が盛んに行われている。
不揮発性RAMに用いる強誘電体薄膜としては、記憶データの書き換え耐性に優れ、低電圧動作可能なビスマス層状構造強誘電体が有望である。一般にビスマス層状構造は以下の化学式(1)で表される。
(化1)
(Bi2O2) (Am-1BmO3m+1) (1)
m: 1〜5の整数
A: 1〜3価の金属
B: 4〜6価の金属
この構造は、酸化ビスマス層Bi2O2とペロブスカイト層Am-1BmO3m+1が交互に積層した構造になっている。
ビスマス層状構造をもつ一群の材料の中で、不揮発性メモリ用途には特にSBTと呼ばれる材料がよく用いられている。SBTは、化学式(1)式においてm = 2、Aが2価のSr、Bが5価のTaであり、以下の化学式(2)で表される(以下、通常型と呼ぶ)。
(化2)
(Bi2O2 ) (SrTa2O7) (2)
また上記通常型のSBTの積層構造は図10にその断面模式図を示したように、酸化ビスマス層201とm=2のペロブスカイト層202が交互に積層した構造をもっている。
酸化ビスマス層201(化学式Bi2O2)は、図11にその結晶構造の模式図を示したように、四角錐がつながって平面的に広がった構造をもつ。四角錐の頂点にはビスマス203が存在し、底面の各頂点には酸素204が存在する。尚、図11には、酸素原子など、図10の酸化ビスマス層201とペロブスカイト層202の境界に存在する原子も図示している。その他の結晶構造模式図も同様である。
またm=2のペロブスカイト層202(化学式SrTa2O7)は図12にその結晶構造の模式図を示したように、酸素八面体が縦に2つ重なって2次元的に広がった層状構造である。酸素八面体の中心であるBサイトには、タンタル205が存在し、八面体の各頂点に酸素204が存在する。また酸素八面体で囲まれて生じる空間であるAサイトにはストロンチウム206が存在する。尚、Aサイト、Bサイトは上記化学式(1)のAとBにも対応している。
SBTは更に自発分極量の向上や、自発分極量がキャパシタサイズ微細化に伴い減少するのを防ぐことなどの改良が試みられている。
SBTの自発分極を向上する方法として、次の2つの結晶構造が提案されている。
[1]混合積層化超格子型(例えば、下記特許文献1参照)
該発明では幅広く層状構造全体について記述されているが、ここでは本発明の趣旨に沿って具体的にSBTに対して適用した場合について述べる。
混合積層化超格子は図13にその断面模式図を示したように、酸化ビスマス層201の間に、m = 2のペロブスカイト層202 あるいはm = 1のペロブスカイト層207のいずれかが次のような範囲の存在確率で存在する。m = 1のペロブスカイト層207の存在確率をδ (0 < δ <1)とすると、m = 2のペロブスカイト層202の存在確率は1-δとなる。
m = 1のペロブスカイト層207はTaO4で表され、図14にその結晶構造の模式図を示したようにタンタル205を中心とした酸素八面体の単層が2次元的に広がった層状構造である。なお厳密に価数計算すると化学式はTaO7/2となり、図14の構造を形成するためには酸素の数が不足する。不足した酸素の部分は空孔になる。
混合積層化超格子の特徴は前記通常構造に比べて低融点のビスマス量が多く存在するため、結晶粒を大きく成長させやすく、自発分極特性を向上(自発分極量を大きくできるなど)させることができることである。
[2]AサイトBi置換型(例えば、下記特許文献2参照)
次の化学式(3)で表される組成のSBTである。
(化3)
(Bi2O2) [(Sr1-xBix)Ta2O7] (3)
ここで0<x<1である。
積層構造は図10の断面模式図を転用して説明するならば、酸化ビスマス層201とm=2のペロブスカイト層202が交互に積層した構造をもっている。酸化ビスマス層201は化学式Bi2O2で表され、通常型と同じ図11の結晶構造をもつ。またm=2のペロブスカイト層202は化学式(Sr1-xBix)Ta2O7で表される(但し0<x<1)。Aサイトは、確率1−xでSr、確率xでBiが占める。通常型ではAサイトがすべてSrで占められているのに対し、xの分だけBiに置換されていることになる。
最近の研究ではAサイトにおいて空孔が発生していることが確認されている。その理由は、2価のSrに対して3価のBiで一部が置換されているので、電荷中性則を満たすため空孔が発生するためである。この場合、式(3)は以下の化学式(4)のようになる。
(化4)
(Bi2O2) [(Sr1-xBi2x/3)Ta2O7] (4)
(但し0<x<1)
この場合、m=2のペロブスカイト層202は化学式(Sr1-xBi2x/3)Ta2O7で表され、Aサイトは、確率1−xでSr、確率2x/3でBi、確率x/3で空孔が占める。
AサイトBi置換型の特徴は、Aサイトを占めているSr2+に対してイオン半径の小さいBi3+が置換されるため、格子の歪みが大きくなり自発分極量が大きくなることである。
また混合積層化超格子型と同様、通常型に比べて低融点のBiの量が多く存在するため、結晶粒を大きく成長させやすく、自発分極特性を向上(自発分極量を大きくできるなど)させることができる。
以上の従来例の2つの方法では、自発分極を大きくする方法を示している。
一方、自発分極量がキャパシタサイズ微細化に伴い減少するのを防ぐ方法として、次の2つの提案がされている。
[3]シード結晶化(例えば、下記特許文献3参照)
下部電極表面に設けたシードを結晶化の起点として下部電極表面上に大きな強誘電体結晶を生成し、この結晶より小さな上部電極を形成して結晶粒界の非常に少ない薄膜キャパシタを実現している。
[4]加工後結晶化(例えば、下記特許文献4参照)
アモルファス相またはフルオライト相からなる前駆体膜上に上部電極を堆積後エッチングによりキャパシタ形状に加工してから熱処理してペロブスカイトに相変化させて誘電体膜を形成する方法が示されている。この方法によれば、予めペロブスカイトに結晶化した誘電体膜上に上部電極を堆積してキャパシタ加工する場合に発生するキャパシタ側壁での金属の析出や導電性酸化物生成に起因したキャパシタ面積微細化に伴う課題を解決している。
これらの従来例ではリーク電流や耐圧低下の抑制に効果があり、また自発分極量がキャパシタサイズ微細化に伴い減少するのを防ぐことも期待できると思われた。
特表平11−509683号公報
特開平9−213905号公報
特開平2001−6864号公報
特開平11−121696号公報
本発明の強誘電体膜は、基板上に形成された絶縁膜上と前記絶縁膜中に一部が露出するように埋め込まれた導電体上とに跨って形成された強誘電体膜であって、前記強誘電体膜の結晶粒径が前記絶縁膜上および導電体上においてほぼ均一に形成されている。従って、強誘電体キャパシタの分極特性の劣化を防止した強誘電体が提供できる。
また、本発明の強誘電体膜において、前記強誘電体膜が酸化ビスマス層とペロブスカイト層とが交互に積層したビスマス層状構造であることが好ましい。かかる構造の強誘電体膜とすることにより、信頼性の高い強誘電体キャパシタを提供し得る。
また、本発明の強誘電体膜において、前記酸化ビスマス層はBi2O2構造であり、前記ペロブスカイト層は( A 1-xBi 2x/3 ) m-1B m O 3m+1(0 < x < 1)構造であり、前記( A 1-xBi 2x/3 ) m-1B m O 3m+1構造において、Aは2価の金属よりなり、Bは5価の金属よりなり、mの値は確率δ (0 < δ < 1)で m = 1、確率1-δでm = 2となることが好ましい。
この構成によれば、析出物の生じないビスマス層状構造強誘電体単相の強誘電体を得ることが可能になり、残留分極2Prが大きく、容量素子のリーク電流の増加や耐圧の低下による不良を防止できる強誘電体膜とすることができ好ましい。
尚、上記のような組成の強誘電体膜を製造する場合には、目標とする存在確率δの数値を決め、その確率δの数値を前記化学式に代入して計算される各金属成分の割合に応じた原料組成(常誘電性前駆体と強誘電性前駆体の使用割合も加味した全体の組成における各金属成分の割合に応じた原料組成)を用いて前駆体膜を形成し熱処理すれば、目標とする存在確率のm = 1のペロブスカイト層とm = 2のペロブスカイト層を有する強誘電体を形成できる。他の場合においても同様である。
また、本発明の強誘電体膜においては、前記AがSrであり、前記BがTa1-yNby(0 ≦ y ≦ 1)であることが好ましい。
この構成によれば、疲労特性に優れた強誘電体膜とすることができるため、書き換え耐性に優れた容量素子を実現できる。
また、本発明の強誘電体膜において、前記δが0.01 < δ < 0.3、前記xが0.01 < x < 0.3の範囲内にあることが好ましい。
この構成によれば、残留分極2Prがより大きい強誘電体膜とすることができ好ましい。
また、本発明の強誘電体容量素子は、基板上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜中に一部が露出するように埋め込まれた下部電極と、前記絶縁膜上および下部電極上に跨って形成された強誘電体膜と、前記強誘電体膜上に形成された上部電極とを備え、前記強誘電体膜の結晶粒径が前記絶縁膜上および下部電極上においてほぼ均一に形成されている。
従って、分極特性の劣化を防止した強誘電体容量素子を提供でき、電子機器の小型化やより大容量のデータを処理ないし保存可能な電子機器の製造に寄与できる。
また、本発明の強誘電体容量素子において、前記強誘電体と接する部分の前記下部電極の結晶粒径がほぼ均一に形成されていることが、これらの上に形成される強誘電体膜の結晶粒径をより均一なものとすることができ好ましい。
また、本発明の強誘電体容量素子において、前記強誘電体と接する部分の前記上部電極の結晶粒径がほぼ均一に形成されていることが、上部電極の下側に形成される強誘電体膜の結晶粒径をより均一なものとすることができ好ましい。
また、本発明の強誘電体容量素子において、前記強誘電体膜の膜厚が100nm以下であり、前記下部電極により規定される容量規定口の大きさが50×50μm2以下であることが、分極特性の劣化の防止された、信頼性の高い、より小型化やより大容量のデータを処理ないし保存可能な電子機器の製造に適用でき好ましい。
また、本発明の強誘電体容量素子において、前記強誘電体容量素子が1.8Vパルス波スイッチングによって、少なくとも15μC/cm2の残留分極量を生じる強誘電体容量素子であることが、高信頼性の容量素子とすることができ好ましい。
また、本発明の強誘電体膜の製造方法は、基板上に形成された絶縁膜上と前記絶縁膜中にその表面の少なくとも一部が露出するように埋め込まれた導電体上とに跨って強誘電体膜を形成する強誘電体膜の製造方法であって、前記基板上に所定の形状にパターニングされた導電体を形成する工程と、前記基板上に前記導電体を被覆するように絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜の所定の領域を除去して前記導電膜の表面の少なくとも一部を露出させる工程と、前記絶縁膜上および露出した導電体上に、強誘電性前駆体と前記強誘電体膜の構成金属元素の少なくとも一部の金属元素を含む常誘電性前駆体とを混合して前駆体膜を形成する工程と、前記前駆体膜を結晶化して前記強誘電体膜を形成する工程とを備えている。
常誘電性前駆体は強誘電性前駆体よりも低温で結晶化を開始する。このため、結晶過程で常誘電性前駆体を混合した強誘電性前駆体膜中で常誘電性前駆体が微細な結晶を形成し、これらが結晶核となり強誘電性前駆体が結晶化する結果、下地の影響を受けることなく強誘電体を結晶化させることが出来る。従って、この方法によって形成した強誘電体膜の結晶粒径は、前記強誘電体が接する絶縁膜上および下部電極などの導電体上においてほぼ均一に形成することができる。
原料に用いる常誘電性前駆体としては、最終目標とする組成の強誘電体膜を構成する金属元素の少なくとも一部の金属元素を含む常誘電性前駆体を使用することが好ましい。
本発明の前記強誘電体膜の製造方法で常誘電性前駆体と強誘電性前駆体の使用割合としては、常誘電性前駆体と強誘電性前駆体の合計量に対して、常誘電性前駆体の割合が0.01〜30モル%程度が好ましく、より好ましくは、10〜20モル%である。
また、本発明の強誘電体膜の製造方法においては、前記常誘電性前駆体を添加した強誘電性前駆の溶液を前記絶縁膜上および導電体上に塗布する工程と、前記基板に熱処理を加えて前記強誘電体膜を結晶化する工程とを備えていることが好ましい。
また、本発明の強誘電体容量素子の製造方法は、基板上に形成された絶縁膜上と前記絶縁膜中にその表面の少なくとも一部が露出するように埋め込まれた下部電極上とに跨って形成された強誘電体膜を具備する容量素子の製造方法であって、前記基板上に下部電極を形成する工程と、前記基板上に前記下部電極を被覆するように第1の絶縁膜を形成する工程と、前記第1の絶縁膜の所定の領域を除去して前記下部電極の表面の少なくとも一部を露出させる工程と、前記第1の絶縁膜上および露出した下部電極上に、強誘電性前駆体と前記強誘電体膜の構成金属元素の少なくとも一部の金属元素を含む常誘電性前駆体とを混合して前駆体膜を形成する工程と、前記前駆体膜上に上部電極を形成する工程と、前記上部電極上に第2の絶縁膜を形成する工程と、前記前駆体膜を結晶化して前記強誘電体膜を形成する工程とを備えている。従って、上述したように、この方法によって形成した強誘電体膜の結晶粒径は、前記強誘電体が接する絶縁膜上および下部電極などの導電体上においてほぼ均一に形成うることができ、分極特性の劣化の防止された、信頼性の高い強誘電体容量素子を製造することができる。
また前記本発明の強誘電体容量素子の製造方法においては、前記前駆体膜上に上部電極を形成した後、前記前駆体膜を結晶化して前記強誘電体膜を形成することが好ましく、強誘電体膜の結晶化の際に、その上側にも上部電極が形成されていることにより、強誘電体膜の結晶化の際の表面側のラフネスを抑え、表面が粗くなるのを防止でき、分極特性の劣化の防止された、より信頼性の高い強誘電体容量素子を製造することができ好ましい。
また前記本発明の強誘電体容量素子の製造方法においては、前記上部電極上に前記第2の絶縁膜を形成した後、前記前駆体膜を結晶化して前記強誘電体膜を形成することが好ましく、熱処理が均一に作用し、強誘電体膜の結晶粒径の均一化がさらに進行して好ましい。すなわち、第2の絶縁膜なしで上部電極が露出したままの状態で熱処理すると、上部電極は金属なので熱を反射するが、第2の絶縁膜で被覆しておくと、上部電極上に相当する部分も熱を吸収しやすくなり、熱処理が均一に作用し、結晶粒径の均一化がさらに進行して、分極特性の劣化の防止された、より信頼性の高い強誘電体容量素子を製造することができ好ましい。
また、本発明の強誘電体膜の製造方法においては、前記強誘電体膜を、酸化ビスマス層とペロブスカイト層とが交互に積層してなるビスマス層状構造から形成することが信頼性の高い強誘電体キャパシタを提供し得る点から好ましい。
また、本発明の強誘電体膜の製造方法においては、前記酸化ビスマス層はBi2O2構造であり、前記ペロブスカイト層は( A 1-xBi 2x/3 ) m-1B m O 3m+1(0 < x < 1)構造であり、前記( A 1-xBi 2x/3 ) m-1B m O 3m+1構造において、Aは2価の金属よりなり、Bは5価の金属よりなり、mの値は確率δ (0 < δ < 1)で m = 1、確率1-δでm = 2となることが、析出物の生じないビスマス層状構造強誘電体単相の強誘電体を得ることが可能になり、残留分極2Prが大きく、容量素子のリーク電流の増加や耐圧の低下による不良を防止できる強誘電体膜とすることができ好ましい。
また、本発明の強誘電体膜の製造方法においては、前記AがSrであり、前記BがTa1-yNby(0 ≦ y ≦ 1)であることが、疲労特性に優れた強誘電体膜とすることができるため、書き換え耐性に優れた容量素子を実現でき好ましい。
また、本発明の強誘電体膜の製造方法において、前記δが0.01 < δ < 0.3、前記xが0.01 < x < 0.3の範囲内にあることが、残留分極2Prがより大きい強誘電体膜とすることができ好ましい。
以上、本発明によれば、強誘電体分極のキャパシタ面積依存性をほぼ完全に抑制でき、容量素子の微細化による不良を防止できる強誘電体並びにそれを用いた容量素子、並びにこれらの製造方法が提供できる。
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は本実施形態の容量素子の構造断面図である。シリコン等の半導体などの基板101上にソースおよびドレイン領域102、ゲート103よりなるトランジスタ104が形成されている。トランジスタ104を覆って、B(ホウ素)およびP(リン)を添加したSiO2等の酸化膜(通称BPSG:ボロンリンガラス)よりなる絶縁膜105が形成されている。絶縁膜105にはタングステンよりなるコンタクトプラグ106が形成されている。絶縁膜105上にはコンタクトプラグ106を覆うように下部電極108が形成されている。下部電極108はコンタクトプラグ106を通じてトランジスタ104のソースおよびドレイン領域102に電気的に接続されている。下部電極108の構成は上層よりPt / IrO2 / Ir / TiAlNで、膜厚はそれぞれ100 nm / 50 nm / 50 nm / 100nmである。正方形の下部電極108の面積は、この例では0.4×0.4μm2(設計値)とした。絶縁膜105上で下部電極108が存在する以外の領域には、例えばSiO2などの酸化膜よりなる埋め込み絶縁膜107が形成されている。埋め込み絶縁膜としては、特に限定するものではないがオゾンとTEOS(テトラエチルオルソシリケート)のプラズマCVD法により製造したSiO2膜等が用いられている。下部電極108全面とその周囲の埋め込み絶縁膜107上の一部には、膜厚100nmの強誘電体膜109が形成されている。強誘電体膜109上にはPtよりなる膜厚50nmの上部電極110が形成されている。正方形の上部電極110の面積は、この例では0.44×0.44μm2とした。下部電極108、強誘電体膜109、上部電極110より容量素子111が構成される。トランジスタ104がアクセス・トランジスタ、容量素子111がデータ蓄積容量素子となることで不揮発性メモリが形成される。この図示した例では下部電極の面の大きさが容量規定口の大きさとなる例である。
強誘電体膜109は図2の断面模式図に示す積層構造をもつ。すなわち酸化ビスマス層121の間に、m = 2のペロブスカイト層122 あるいはm = 1のペロブスカイト層127のいずれかが存在する。m = 1のペロブスカイト層127の存在確率をδ (0 < δ <1)とすると、m = 2のペロブスカイト層122の存在確率は1-δとなる。δは0.01 < δ < 0.3が望ましい。尚、目標とする存在確率の数値を決めれば、その確率の数値を前記化学式に代入して計算される各金属成分の割合に応じた原料組成(常誘電性前駆体と強誘電性前駆体の使用割合も加味した全体の組成における各金属成分の割合に応じた原料組成)を用いて熱処理すれば、目標とする存在確率のm = 1のペロブスカイト層127とm = 2のペロブスカイト層122を有する強誘電体を形成できる。他の場合においても同様である。
m = 1のペロブスカイト層127は(1)式のBがTaの場合、化学式TaO4で表され、その結晶構造の模式図を図3に示したようにタンタル125を中心とした酸素八面体の単層が2次元的に広がった層状構造である。図3において、124は酸素を示す。
m = 2のペロブスカイト層122は(4)式の場合の如く化学式( Sr 1-x Bi 2x/3 ) Ta2O7で表され(但し0 < x <1)、その結晶構造の模式図である図4に示すようにタンタル125を中心とした酸素八面体が縦に2つ重なって2次元的に広がった層状構造である。酸素八面体の中心であるBサイトには、タンタル125が存在し、八面体の各頂点に酸素124が存在する。また酸素八面体で囲まれて生じる空間であるAサイト 128は、確率1−xでSr、確率2x/3でBi、確率x/3で空孔が占める。xは0.01 < x < 0.3が望ましい。
上記で説明した強誘電体は前記[1]の混合積層超格子型のm = 2のペロブスカイト層が、前記[2]のAサイトBi置換型で示した(4)式で示されるペロブスカイト層に置き換えられていて、前記[1]と[2]の両方の特徴を有するものである。なおSrの代わりにCa、Baを用いてもよく、Sr、Ca、Baを任意の比率で混ぜて用いても良い。またTaのかわりにNb、Vを用いてもよく、Ta、Nb、Vを任意の比率で混ぜて用いても良い。通常、Ta1-yNby (0 ≦ y ≦ 1)がよく用いられる。
この構造の強誘電体の第1の特徴は、前述した通常構造の強誘電体と比較して低融点のBi比が多くなっているため、強誘電体薄膜を形成したときに強誘電体の結晶のグレインサイズが大きくなり自発分極量を増大させることができる。
以下、上記のような強誘電体を形成する際にその原料となる前駆体に例えば常誘電体BiTaO4の原料に相当する前駆体を混合した強誘電性前駆体膜を用いて、基板上に下部電極が埋め込まれた絶縁膜上に形成された強誘電体膜の結晶粒径を下地の前記下部電極や前記絶縁膜上にかかわらずほぼ均一にする方法について説明する。
常誘電性前駆体は強誘電性前駆体よりも低温で結晶化を開始する。このため、結晶過程で常誘電性前駆体を混合した強誘電性前駆体膜中で常誘電性前駆体が微細な結晶を形成し、これらが結晶核となり強誘電性前駆体が結晶化する結果、下地の影響を受けることなく強誘電体を結晶化させることが出来る。この方法によって形成した強誘電体結晶粒径の一例を従来例との比較で図5に示した。結晶粒径測定では、形成した強誘電体膜が露出するように強誘電体容量素子の上部電極の一部を除去してから、その表面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察した像を用いて、ドイツのイメージメトロジィApS社(Image Metrology ApS社)のスキャニングプローブイメージプロセッサ (The Scanning Probe Image Processor)(以下、SPIPと呼ぶ)プログラムのグレイン分析(Grain Analysis)機能を用いた。SEM写真で観測された従来例の強誘電体膜の結晶粒径は下部電極108上では50nm〜150nmであり、埋め込み絶縁膜107上では40nm〜110nmであることが観察された。すなわち、下部電極108上に比較して埋め込み絶縁膜107上では結晶粒径が小さくなり、かつ下部電極108上と埋め込み絶縁膜107上のともに結晶粒径のばらつきが大きい。
一方本発明の実施の形態によって形成した強誘電体膜のSEM写真で観測される結晶粒径は下部電極108上では100nm〜160nm、埋め込み絶縁膜107上では100nm〜160nmと下部電極108上と埋め込み絶縁膜107上に関係なく、ほぼ均一であることがわかった。
図5に上述した従来例と本発明の実施の形態によって形成した場合の強誘電体膜の結晶のグレインサイズのバラツキをSPIPプログラムのグレイン分析(Grain Analysis)機能により解析した結果の分布図を示した。従来例で解析された約240個の結晶グレインサイズと本発明の実施の形態例で観察された約120個の結晶グレインサイズとについて図5では縦軸に度数のパーセント表示で比較した。本発明の実施の形態例のごとく、結晶粒径は主として100nm以上であり、ばらつきの幅も100nm以下であることが好ましい。
本実施形態の強誘電体膜の結晶構造では組成ずれに対する寛容性が大きいので、常誘電性前駆体を添加して用いても、常誘電体が析出することはない。また、結晶粒径がほぼ均一な強誘電体膜上に形成される上部電極もまた結晶粒径がほぼ均一になり、ストレスマイグレーションに強い信頼性を高くできる。
尚、強誘電体膜は、次のようにして製膜した。各成分元素の2−エチルヘキサン酸塩を原料とした。すなわち、2−エチルヘキサン酸Sr、2−エチルヘキサン酸Bi、2−エチルヘキサン酸Taを各金属成分の元素数比で1:(1.99/0.81):(1.9/0.81)の割合で混合して用いて、全体をn−オクタンを溶媒として2−エチルヘキサン酸Sr基準で0.08mol/lに薄めて有機金属熱分解法により強誘電体膜を形成した。上記の原料組成の使用割合は、常誘電体としてBi2TaO11/4を10mol%用いると仮定した時の常誘電性前駆体も含めての組成割合である。
以上の様に強誘電体膜を形成するために常誘電性前駆体を含む強誘電性前駆体混合溶液を使用した。そして後述する第3の実施形態で説明するのと同様の方法により、Ptと酸素バリア層(IrO/Ir/TiAlN)からなる下部電極(表面側がPt)上に埋め込み絶縁膜[ここではオゾンとTEOS(テトラエチルオルソシリケート)を用いたSA-CVD方法(減圧化学蒸着法)で成膜したSiO2膜]を厚み450nmに成膜し、CMP(化学・機械研磨法)を用いて下部電極の表面Ptを露出させて、厚み300nmとし、この下部電極(表面側がPt)上と埋め込み絶縁膜上にまたがって上記組成の常誘電性前駆体と強誘電性前駆体の混合溶液をスピンコート法にて塗布し(図8(c)参照)、溶媒が揮発する温度程度(150〜300℃)でウエハベークし、厚み150nmの強誘電性前駆体膜を形成する。その後結晶成長の基点となる核を形成するためのRTP(急速熱処理法:Rapid thermal processing)を用いて仮焼結を行う。強誘電体材料の種類により核を形成する温度は異なるが、SBT材料はおおよそ650℃程度、1分間程度である。その上に上部電極となるPtからなる導電膜をスパッタ法で前記厚みに成膜したものである。なお、前駆体膜を高温で熱処理し、結晶化させて、強誘電体膜からなる容量絶縁膜を形成する。SBT材料はおおよそ650℃〜800℃程度であるがここではおおよそ800℃で1分間熱処理し。厚み100nmの強誘電体膜を形成した。
尚、得られた前記強誘電体膜は、Bi2O2構造の酸化ビスマス層とペロブスカイト層(m = 1のTaO4とm = 2の( Sr 1-x Bi 2x/3 ) Ta2O7)が交互に積層してなるビスマス層状構造から形成されておりm =1のペロブスカイト層の存在確率は確率δ=0.1であり、従ってm =2のペロブスカイト層の存在確率は0.9であり、また、m = 2のペロブスカイト層のxの値は0.1のものが得られた。
なお、前記図5で説明した従来例の強誘電体膜は、SrBi2Ta2O7であり、常誘電性前駆体を添加していない。すなわち、原料組成で表せば、2−エチルヘキサン酸Sr、2−エチルヘキサン酸Bi、2−エチルヘキサン酸Taを各金属成分の元素数比で1:2:2の割合で混合して用いたものである。この場合も、全体をn−オクタンを溶媒として2−エチルヘキサン酸Sr基準で0.08mol/lに薄めて使用した。その他の点は、上記と同様である。
尚、上記本発明の実施の形態例1における、下部電極の強誘電体膜に接する側の結晶粒径、並びに上部電極の強誘電体膜に接する側の結晶粒径はいずれも100〜200nmでありほぼ均一であった。また、1.8Vパルス波スイッチングによる残留分極量2Prは、16μC/cm2であり、比較の従来例の2Prは、10μC/cm2であった。
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について図面を用いて説明する。
本実施形態の効果を組成条件の観点から確認するため、実際に容量素子を試作し評価を行った。第1の実施形態と同じく強誘電体の成膜は有機金属熱分解法を用いた。組成の条件変更は、溶液への構成金属の仕込み量を変えることで行った。容量素子については、第1の実施形態に示した方法で同様に作成した。
図6に強誘電体の組成依存性を示す。なお、図6ではタンタル元素比を2に固定し、ストロンチウム、ビスマス元素比率を変化させている。直線aは混合積層化超格子型、直線bはAサイトBi置換型の化学量論比組成を表す。本発明の実施例の結晶構造は、この例では領域Bで形成される。なお、領域Aは直線aより上部で決定される組成領域であり、領域Cは直線bより下部で決定される組成領域である。これらの組成の強誘電体は、前述したと同様に、それぞれの金属成分を含む原料を、当該金属成分の化学量論比となる割合で用いて製造し得る。一例を示すと、図6における直線a上の右端位置の組成、すなわちBiが2.4、Srが0.8、Taが2の元素割合の強誘電体にするには、2−エチルヘキサン酸Taを2の割合(金属元素数の割合、以下同様)に対して、例えば2−エチルヘキサン酸Srを0.8、2−エチルヘキサン酸Biを2.4の割合で用いて、有機金属熱分解法によりSr0.8Bi2.4Ta2Oyを得ることができる。尚、yは化学当量論比の酸素の量である(以下同様である。尚、ここではy=9.4)。同様にして直線b上の下端位置の組成、すなわちBiが2.2、Srが0.7、Taが2の元素割合の強誘電体にするには、2−エチルヘキサン酸Taを2の割合に対して、例えば2−エチルヘキサン酸Srを0.7、2−エチルヘキサン酸Biを2.2の割合で用いて、有機金属熱分解法によりSr0.7Bi2.2Ta2Oyを得ることができる(ここではy=9)。また、領域Bの右下隅の組成の強誘電体を形成するには、2−エチルヘキサン酸Taを2の割合に対して、例えば2−エチルヘキサン酸Srを0.7、2−エチルヘキサン酸Biを2.4の割合で用いて、有機金属熱分解法によりSr0.7Bi2.4Ta2Oyを得る事ができる(ここではy=9.3)。そのほか領域Bで種々の範囲の強誘電体組成にするには前述のδが0.01<δ<0.3、xが0.01<x<0.3の範囲で前記原料組成割合を設定することが好ましい。
次に本実施形態の効果を容量素子の面積の観点から確認するため、容量素子の面積を変えて試作し評価を行った。尚、強誘電体の成膜は有機金属熱分解法を用い、得られる強誘電体膜を構成する金属元素の組成を少し変更した点を除いて、前記第1の実施の形態に説明したとほぼ同様の方法を採用した。すなわちTaの代わりに元素数比でTaが0.96、Nbが0.04の割合でNbを更に用いる以外は、前記第1の実施の形態に説明したとほぼ同様の方法を採用した。原料としては、第1の実施の形態と同様に、各成分元素(金属元素)の2−エチルヘキサン酸塩を用いた。具体的には2−エチルヘキサン酸Sr、2−エチルヘキサン酸Bi、2−エチルヘキサン酸Ta、2−エチルヘキサン酸Nbを各金属成分の元素数比で1:(1.99/0.81):[(1.9×0.96)/0.81]:[(1.9×0.04)/0.81]の割合で混合して用いて、全体をn−オクタンを溶媒として2−エチルヘキサン酸Sr基準で0.08mol/lに薄めて有機金属熱分解法により強誘電体膜を形成した。上記の原料組成の使用割合は、常誘電体としてBi2Ta0.96Nb0.04O4を10mol%用いると仮定した時の常誘電性前駆体も含めての組成割合である。
以上のような常誘電性前駆体を含む強誘電性前駆体との混合溶液を使用して、サンプルTA24-16を作成した。尚、得られた前記強誘電体膜は、Bi2O2構造の酸化ビスマス層とペロブスカイト層(m = 1のTa0.96Nb0.04O4とm = 2の( Sr 1-x Bi 2x/3 ) Ta1.92Nb0.08O7)が交互に積層してなるビスマス層状構造から形成されておりm =1のペロブスカイト層の存在確率は確率δ=14/57であり、従ってm =2のペロブスカイト層の存在確率は43/57あり、また、m = 2のペロブスカイト層のxの値は3/43のものが得られた。
図7に残留分極量2Pr (μC/cm2)の電極サイズ依存性を示す。電極は下部電極も上部電極も正方形の電極とした。図7の横軸のキャパシタ下部電極の1辺の長さ(μm)は、かかる正方形の電極の1辺の長さを示している。尚、上部電極の1辺の長さは、下部電極の1辺の長さより10%長いものを用いた。従来例の強誘電体組成としてSrBi2 Ta1.92Nb0.08O9を使用して作成したサンプルTA24-04 Bi (常誘電体に相当するTa0.96Nb0.04O4に相当する常誘電性前駆体原料を添加しなかったものに相当)に比較して、結晶グレインサイズが電極外周周辺でも均一に形成されたことにより、0.4×0.4μm2の微細なキャパシタでも劣化のない特性を示している。本実施形態において形成した強誘電体の結晶粒径以上の大きさを有するように形成すれば例えば1.6×1.6μm2以下の微細なキャパシタでも所望の特性が得られ、かつ、面積が小さくなるので容量素子の微細化に好適である。
尚、上記本発明の実施の形態例2におけるサンプルTA24-16の強誘電体膜の結晶粒径は下部電極上では100nm〜160nm、埋め込み絶縁膜上では100nm〜160nmと下部電極上と埋め込み絶縁膜上に関係なく、ほぼ均一であった。従来例のサンプルTA24-04の強誘電体膜の結晶粒径は下部電極上では50nm〜150nmであり、埋め込み絶縁膜上では40nm〜110nmであることが観察された。すなわち、下部電極上に比較して埋め込み絶縁膜上では結晶粒径が小さくなり、かつ下部電極上と埋め込み絶縁膜上のともに結晶粒径のばらつきが大きかった。
また、下部電極の強誘電体膜に接する側の結晶粒径、並びに上部電極の強誘電体膜に接する側の結晶粒径はいずれも100〜200nmでありほぼ均一のものを用いた。
(第3の実施形態)
以下、本発明の第3の実施形態について図面を用いて説明する。
図8(a)に示すように、基板1上に絶縁膜2(具体的にはB(ホウ素),P(リン)などが添加されたSiO2、通称BPSG:ボロンリンガラス)をSA-CVD法(Sub- Atomospheric Chemical Deposition Method:準常圧化学的気相成長法)で膜厚500nm形成し、絶縁膜2中に基板と強誘電体キャパシタの下部電極を電気的に接続する第1のコンタクトプラグ3[W(タングステン)、PolySi(ポリシリコン)など。ここではWを用いた]を形成した。さらに、その上に強誘電体膜の結晶成長を促進する膜(Pt)と酸素バリア層(IrO/Ir/TiAlN)からなる導電膜をDCスパッタ法でPt層が最上層になる順で、膜厚それぞれ100 nm / 50 nm / 50 nm / 100nmに積層し、所望のマスクを用いて第1のコンタクトプラグ3が被覆されるようにパターニングして正方形の下部電極5(面積0.5×0.5μm2:設計値)を形成した。
次に図8(b)に示すように、下部電極5上に埋め込み絶縁膜13a(具体的には、オゾンとTEOSを用いたSA-CVD方法で成膜したSiO2膜)を成膜し、CMP(化学・機械研磨法)を用いて下部電極5の表面を露出させた。この時の下部電極5と埋め込み絶縁膜13aの厚さは300nmとした。
次に図8(c)に示すように、第2の実施の形態例と同一の組成の原料前駆体組成、すなわち2−エチルヘキサン酸Sr、2−エチルヘキサン酸Bi、2−エチルヘキサン酸Ta、2−エチルヘキサン酸Nbを各金属成分の元素数比で1:(1.99/0.81):[(1.9×0.96)/0.81]:[(1.9×0.04)/0.81]の割合で混合して用いて、全体をn−オクタンを溶媒として2−エチルヘキサン酸Sr基準で0.08mol/lに薄めた。かくして常誘電性前駆体が添加された強誘電性前駆体溶液をスピンコート法にて塗布し、溶媒が揮発する温度程度(150〜300℃)でウエハベークし、厚み150nmの強誘電性前駆体膜12aを形成した。その後結晶成長の基点となる核を形成するためのRTP(急速熱処理法:Rapid thermal processing)を用いて仮焼結を行った。強誘電体材料の種類により核を形成する温度は異なるが、SBT系材料はおおよそ650℃程度で、1分間程度である。その上にPtからなる導電膜7aを厚み50nmにスパッタリング法で成膜した。
次に図8(d)に示すように、所望のマスクを用いて下部電極5が被覆されるようにパターニングして前駆体膜12a及び正方形の上部電極7(面積0.6×0.6μm2)を形成した。ここでは強誘電体膜及び上部電極を同じマスクでパターニングしたが、別々のマスクで行ってもかまわない。下部電極5及び上部電極7の強誘電体膜に接する側の結晶粒径はそれぞれ100nm〜200nmといずれもほぼ均一な電極を用いた。すなわち、強誘電体膜が結晶化する際にその下地や上地となる当該下部電極や上部電極の影響を受ける為、当該下部電極や上部電極の結晶粒径が均一であると、その間に形成される強誘電体の結晶粒径がなお一層均一になり、好ましい。なお、必要に応じて、少なくとも下部電極の結晶粒径が均一なものを用いても良い。
最後に、図8(e)に示すように、前駆体膜を高温で熱処理し、結晶化させて、強誘電体膜からなる容量絶縁膜12を形成した。SBT系材料はおおよそ650℃〜800℃程度で1分間である。ここでは熱処理を強誘電体膜塗布直後と容量素子パターニング後に行う実施形態としたが、強誘電体膜形成以降であれば、例えば、上部電極上に第2の絶縁膜を形成した後など、いずれかの工程に少なくとも一回熱処理工程が入っていればかまわない。尚、上部電極7の強誘電体膜に接する側の結晶粒径は上述したように100nm〜200nmとほぼ均一であることが好ましい。すなわち、強誘電体膜が結晶化する際にその上地となる当該上部電極の影響を受ける為、当該上部電極の結晶粒径が均一であると、その下の強誘電体の結晶粒径がなお一層均一になり、好ましい。
また、得られた前記強誘電体膜は、Bi2O2構造の酸化ビスマス層とペロブスカイト層(m = 1のTa0.96Nb0.04O4とm = 2の( Sr 1-x Bi 2x/3 )Ta1.92Nb0.08O7)が交互に積層してなるビスマス層状構造から形成されておりm =1のペロブスカイト層の存在確率は確率δ=14/57であり、従ってm =2のペロブスカイト層の存在確率は43/57であり、また、m = 2のペロブスカイト層のxの値は3/43のものが得られた。
以上により、絶縁膜に埋め込まれた下部電極とその外周絶縁膜上での強誘電体の結晶粒径は、それぞれ100nm〜160nmと100nm〜160nmであり結晶粒径がほぼ均一な強誘電体膜を持つ容量素子を形成することができ、得られた容量素子の残留分極量2Prは、18.8μC/cm2であり、キャパシタ面積が微細化されても強誘電体の分極特性の劣化を防止することできる。
なお、本実施形態では添加する常誘電性前駆体として常誘電体Bi2Ta0.96Nb0.04O4に相当する常誘電性前駆体を使用した例を説明したが、他のBiを含んだ常誘電体、例えばBi2TaO4、Bi2O3やBi2NbO4に相当する常誘電性前駆体を用いてもかまわない。
(第4の実施形態)
以下、本発明の第4の実施形態について図面を用いて説明する。
図9(a)に示すように、基板1(ここでは、基板直径8インチのシリコン半導体基板を用いた)上に絶縁膜2(具体的にはB(ホウ素),P(リン)などが添加されたSiO2、通称BPSG:ボロンリンガラス)をSA-CVD法で膜厚450nm形成し、絶縁膜2中に基板と強誘電体キャパシタの下部電極を電気的に接続する第1のコンタクトプラグ3[W(タングステン)、PolySi(ポリシリコン)など。ここではWを用いた]を形成した。さらに、その上に強誘電体膜の結晶成長を促進する膜(Pt)と酸素バリア層(IrO/Ir/TiAlN)からなる導電膜をDCスパッタ法でPt層が最上層になる順で、膜厚それぞれ100 nm / 50 nm / 50 nm / 100nmに積層し、所望のマスクを用いて第1のコンタクトプラグ3が被覆されるようにパターニングして正方形の下部電極5(面積0.4×0.4μm2:設計値)を形成した。
次に図9(b)に示すように、下部電極5上に埋め込み絶縁膜13a(具体的には、オゾンとTEOSを用いたSA-CVD方法で成膜したSiO2膜)を成膜し、CMP(化学・機械研磨法)を用いて下部電極5の表面を露出させた。この時の下部電極5と埋め込み絶縁膜13aの厚さは300nmとした。
次に図9(c)に示すように、第1の実施の形態例と同一の組成の原料前駆体組成、すなわち2−エチルヘキサン酸Sr、2−エチルヘキサン酸Bi、2−エチルヘキサン酸Taを各金属成分の元素数比で1:(1.99/0.81):(1.9/0.81)の割合で混合して用いて、全体をn−オクタンを溶媒として2−エチルヘキサン酸Sr基準で0.08mol/lに薄めた。かくして常誘電性前駆体が添加された強誘電性前駆体溶液をスピンコート法にて塗布し、溶媒が揮発する温度程度(150〜300℃)でウエハベークし、厚み150nmの強誘電性前駆体膜12aを形成した。その後結晶成長の基点となる核を形成するためのRTP(急速熱処理法:Rapid thermal processing)を用いて仮焼結を行った。強誘電体材料の種類により核を形成する温度は異なるが、SBT材料はおおよそ650℃程度で、1分間程度である。その上にPtからなる導電膜7aを厚み50nmにスパッタリング法で成膜した。
次に図9(d)に示すように、所望のマスクを用いて下部電極5が被覆されるようにパターニングして前駆体膜12a及び正方形の上部電極7(面積0.45×0.45μm2)を形成した。ここでは前駆体膜及び上部電極を同じマスクでパターニングしたが、別々のマスクで行ってもかまわない。下部電極5及び上部電極7の強誘電体膜に接する側の結晶粒径はそれぞれ100nm〜200nmといずれもほぼ均一のものとした。
次に図9(e)に示すように、第2の絶縁膜14a(具体的には、オゾンとTEOSを用いたSA-CVD法で成膜したSiO2膜)を上部電極7が被覆されるように厚み約150nmの厚さで形成した。
次に図9(f)に示すように、所望のマスクを用いて第2の絶縁膜14aが被覆されるようにパターニングして第2の絶縁膜14及び埋め込み絶縁膜13を所定のパターンに形成した。ここでは第2の絶縁膜及び埋め込み絶縁膜を同じマスクでパターニングしたが、別々のマスクで行ってもかまわない。
最後に、図9(e)に示すように、前駆体膜を高温で熱処理し、結晶化させて、強誘電体膜からなる容量絶縁膜12を形成した。SBT材料の熱処理はおおよそ650℃〜800℃程度で1分間程度である。ここでは熱処理を第2の絶縁膜で強誘電体容量素子を被覆してから行う実施形態としたので、熱処理が均一に作用し、結晶粒径の均一化がさらに進行した。すなわち、第2の絶縁膜なしの上部電極が露出したままの状態で熱処理すると、上部電極は金属なので熱を反射するが、第2の絶縁膜で被覆しておくと、上部電極上に相当する部分も熱を吸収しやすくなり、熱処理が均一に作用し、結晶粒径の均一化がさらに進行して好ましい。
尚、得られた前記強誘電体膜は、Bi2O2構造の酸化ビスマス層とペロブスカイト層(m = 1のTaO4とm = 2の( Sr 1-x Bi 2x/3 )Ta2O7)が交互に積層してなるビスマス層状構造から形成されておりm =1のペロブスカイト層の存在確率は確率δ=0.1であり、従ってm =2のペロブスカイト層の存在確率は0.9であり、また、m = 2のペロブスカイト層のxの値は0.1のものが得られた。
以上により、絶縁膜に埋め込まれた下部電極とその外周絶縁膜上での強誘電体の結晶粒径は、それぞれ100nm〜160nmと100nm〜160nmであり、結晶粒径がほぼ均一な強誘電体膜を持つ容量素子を形成することができ、得られた容量素子の残留分極量2Prは、16μC/cm2であり、キャパシタ面積が微細化しても強誘電体の分極特性の劣化を防止することできる。
なお、本実施形態では添加する常誘電性前駆体として常誘電体BiTaO4に相当する常誘電性前駆体を使用して説明したが、他のBiを含んだ常誘電体、例えばBi2O3やBiNbO4に相当する常誘電性前駆体を用いてもかまわない。