JP2004315927A - 高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板およびその使用方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車部品の構造部材に使用されるような強度が必要とされる部材に関し、特に高温成形後の硬化能に優れた鋼板およびその使用方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
地球環境問題に端を発する自動車の燃費向上対策の一つとして車体の軽量化が進められており、自動車に使用される鋼板をできるだけ高強度化することが必要となる。しかし、自動車の軽量化のために一般に鋼板を高強度化していくと伸びやr値が低下し、成形性が劣化していく。
【0003】
このような課題を解決するために、温間で成形し、その際の熱を利用して強度上昇を図る技術が特許文献1に開示されている。この技術では、鋼中成分を適切に制御し、200〜850℃の温度域で保持・成形加工し、この温度域での析出強化を利用して強度を上昇させることを狙っている。
また特許文献2では、プレス成形精度を向上させる目的で温間プレス時での降伏強度を低く、常温での降伏強度を高くする高強度鋼板が提案されている。
しかしながら、これらの技術では得られる強度に限度がある可能性がある。
一方、より高強度を得る目的で、成形後に高温のオーステナイト単相域に加熱し、その後の冷却過程で硬質の相に変態させる技術が特許文献3に開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−234153号公報
【特許文献2】
特開2000−87183号公報
【特許文献3】
特開2000−38640号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、これまでに開示されている技術を用い、高温成形後に高強度となる高温プレスに適した鋼板を製造することは困難である。また、加熱時に鋼板表面に生成するスケールは、高温プレス時に鋼板表面あるいは金型表面の疵発生原因の一つとなる。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、熱間成形後にHv400以上の高い硬度を得ることができる、高温成形後の硬化能および衝撃特性に優れた鋼板およびその使用方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を要旨とする。
(1) Raで0.1〜1μmの表面粗度を有することを特徴とする高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板。
(2) 質量%で、
C :0.2〜0.35%、 Si:1%以下、
Mn:0.3〜1.5%、 Al:0.01〜0.1%、
Ti:0.001〜0.04%、 B :0.0005〜0.005%、
N :0.001〜0.01%、 P :0.03%以下、
S :0.02%以下、 O :0.015%以下、
残部がFeおよび不可避の不純物および/または付随的成分よりなり、下記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板。
(3) 付随的成分として、質量%でさらに、
Cr:0.01〜1%、 Mo:0.005〜1%、
Nb:0.005〜0.5%、 V :0.01〜0.5%、
Ni:0.005〜1%、 Cu:0.01〜1%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板。
(4) 前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の鋼板をAc3 変態点以上のオーステナイト領域に加熱後、Ar3 変態点以上の温度で成形加工を開始し、加工と同時に金型で抜熱することにより急速冷却し、マルテンサイト変態させて硬化させることを特徴とする高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板の使用方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明においては、特定の化学組成を有する熱延素材あるいは冷延素材を用いるが、その熱延素材あるいは冷延素材を製造する手段は特に限定されない。
また本発明は熱間成形加工を実施するが、これはAc3 変態点以上のオーステナイト領域に加熱後、Ac3 変態点以上の温度で成形加工(例えばプレス加工)を開始し、加工と同時に金型で抜熱することにより急速冷却し、マルテンサイト変態させて硬化させる加工をいう。
【0008】
次に鋼板の表面粗度について説明する。
冷間成形加工の場合は、鋼板表面の潤滑剤保持効果を得るためにある程度表面粗度が粗い方が好ましく、また熱間成形加工の場合は、炉に挿入された材料は主に熱源からの輻射により加熱され、材料表面から反射される熱量を低減し熱を効果的に吸収させるために、材料表面が鏡面状態よりはある程度表面粗度が粗い方が好ましいため、表面粗度の指標であるRaを0.1μm以上とした。しかし、熱間成形加工の場合は、表面粗度Raが1μmを超えると製品の熱間成形加工時に疵が発生しやすくなる。このため、表面粗度Raを0.1〜1μmの範囲に規定した。尚、好ましくは0.1〜0.8μmの範囲であり、更に好ましくは0.1〜0.5μmの範囲である。
【0009】
鋼板表面粗度の異なる熱延鋼板を製造するためには、ロール表面粗度が異なる熱間圧延用ロールを使用して熱間圧延するとよい。また鋼板表面粗度の異なる冷延鋼板を製造するためには、ロール表面粗度が異なる冷間圧延用ロールを使用して、熱延鋼板を冷間圧延するとよい。
【0010】
次に、鋼板の化学成分について説明する。
Cは、基地中に固溶あるいは炭化物として析出し、鋼の強度を増加させる元素であり、またセメンタイト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト等の硬質な第2相として析出し、高強度化と一様伸びの向上に寄与する。強度向上のために0.2%以上のCが必要であるが、C含有量が0.35%を超えると加工性や溶接性が劣化するため、0.2〜0.35%の範囲が望ましい。
【0011】
Siは、固溶強化型の合金元素であり、強度を確保するために必要であるが、1%を超えると表面スケールの問題が生じるため、1%以下が望ましい。
また鋼板表面にメッキ処理を行う場合は、Siの添加量が多いとメッキ性が劣化するため、上限を0.5%とすることが好ましい。また、Siの含有量が多いと衝撃特性や延性が低下するため、Si添加量は0.5%以下とすることが好ましい。
なお、Si含有量を低減するとシャルピー吸収エネルギーは向上し、同時に延性脆性遷移温度も低温化させることができるため、衝撃特性は向上する。このためSi含有量を0.15%未満に制限することがより好ましい。
【0012】
Mnは、強度および焼入れ性を向上させる元素であり、0.3%未満では焼入れ時の強度を十分に得られず、また1.5%を超えて添加しても効果が飽和するため、0.3〜1.5%の範囲が望ましい。
【0013】
Alは、溶鋼の脱酸材として使われる必要な元素であり、またNを固定する元素でもあり、その量は結晶粒径や機械的性質に大きな影響を及ぼす。このような効果を有するためには0.01%以上の含有量が必要であるが、0.1%を超えると非金属介在物が多くなり製品に表面疵が発生しやすくなる。このためAlは0.01〜0.1%の範囲が望ましい。
【0014】
Tiは、B添加による焼入れ性を安定かつ効果的に向上させるために作用するが、0.001%未満およびTi/47.88−N/14.01≧0式を満足しない範囲では効果が期待できず、0.04%超ではTiの窒化物が多く生成して、靭性が劣化する傾向があるため、Tiは0.001〜0.04%の範囲が望ましい。
【0015】
Bは、微量添加で鋼材の焼入れ性を大幅に向上させる元素であり、また粒界強化およびM23(C、B)6 などとして析出強化の効果もある。添加量が0.0005%未満では焼入れ性に効果が期待できず、また0.005%を超えると粗大なB含有相を生成する傾向があり、また脆化が起こりやすくなる。このためBは0.0005〜0.005%の範囲が望ましい。
【0016】
Nは、窒化物または炭窒化物を析出させ、強度を高める重要な元素の一つである。0.001%以上の添加により効果を発揮するが、0.01%を超えると窒化物の粗大化および固溶Nによる時効硬化により、靭性が劣化する傾向がみられる。このためNは0.001〜0.01%の範囲が望ましい。
【0017】
Pは、溶接割れ性および靭性に悪影響を及ぼす元素であるため、0.03%以下が望ましい。より好ましくは0.02%以下である。また更に好ましくは0.015%以下である。
【0018】
Sは、鋼中の非金属介在物に影響し、加工性を劣化させると共に、靭性劣化、異方性および再熱割れ感受性の増大の原因となる。このためSは0.02%以下が望ましい。より好ましくは0.01%以下である。また更にSを0.005%以下に規制することにより、衝撃特性が飛躍的に向上する。
【0019】
Oは、靭性に悪影響を及ぼす酸化物の生成の原因となるとともに、疲労破壊の起点となる酸化物を生成する傾向であるため、上限を0.015%が望ましい。
【0020】
Crは、焼入れ性を向上させる元素であり、またマトリックス中へM23C6 型炭化物を析出させる効果を有し、強度を高めるとともに、炭化物を微細化する作用を有する。0.01%未満ではこれらの効果が十分期待できず、また1%を超えると降伏強度が過度に上昇する傾向にあるため、Crは0.01〜1%の範囲が望ましい。より望ましくは0.05〜1%である。
【0021】
Moは、焼入れ性を向上させる元素であり、また固溶強化をもたらす元素であるとともに、マトリックス中のM23C6 型炭化物を安定化させる元素である。0.005%未満ではこの効果が十分期待できにくく、1%を超えると降伏強度が過度に上昇し、また靭性を劣化させるため、添加する場合は0.005〜1%の範囲が望ましい。
【0022】
Nbは、炭窒化物を形成し、強度を向上させる元素であるが、0.5%を超えて添加すると降伏強度の上昇が過度に大きくなる。0.005%未満では強度向上の効果が発揮されにくいため、添加する場合は0.005〜0.5%の範囲が望ましい。
【0023】
Vは、炭窒化物を形成し、強度を向上させる元素であるが、0.5%を超えて添加すると降伏強度の上昇が過度に大きくなる傾向がある。0.01%未満では強度向上の効果が発揮されにくいため、0.01〜0.5%の範囲とするのが望ましい。
【0024】
Niは、強度および靭性を向上させる元素であるが、1%を超えて添加すると降伏強度の上昇が過度に大きくなる傾向がある。0.005%未満では強度および靭性の向上効果が発揮されにくいため、0.005〜1%の範囲が望ましい。より望ましくは0.01〜1%である。
【0025】
Cuは、強度を向上させる元素であるが、1%を超えて添加すると降伏強度の上昇が過度に大きくなる傾向がある。0.01%未満では強度向上の効果が発揮されにくいため、0.01〜1%の範囲とするのが望ましい。
【0026】
下式に従う値は、高温成形後の硬さに影響し、その値が1.0未満では必要硬さが得られないため、その下限を1.0に規定した。
【0027】
【実施例】
表1および表2の組成をもつ各種鋼スラブに鋳造した。これらのスラブを1200℃に加熱し、熱間圧延にて仕上温度850℃、巻取温度600℃で板厚4mmの熱延鋼板とした。また、一部の熱延鋼板を冷間圧延により板厚1.2mmの冷延鋼板とした。また、表1の組成をもつ熱延鋼板を表面粗度がRaで0.1〜1.6μmの冷間圧延ロールを使用し、表面粗度の異なる板厚1.2mmの冷延鋼板とした。
その後、冷延鋼板表面粗度Raを測定した後、窒素雰囲気での炉加熱によりAc3 点以上である950℃のオーステナイト領域に加熱した後、Ac3 点以上である900℃から水冷した。水焼入れした鋼板を50℃の20%塩酸溶液に浸漬し、スケールが完全に剥離するまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0028】
また、表1および表2の組成をもつ冷延鋼板を炉加熱により950℃のオーステナイト領域に加熱した後、900℃から水冷式金型を有するプレス機にてハットフォーム成形加工を行った。成形時間を約1秒とし、成形完了10秒間はプレス金型をそのままの状態にして金型による冷却を行った。また10秒後の鋼板温度を測定した。
【0029】
成形された鋼板について、冷延鋼板の圧延方向に垂直な断面をビッカース硬度計にて硬度測定を実施し、更に光学顕微鏡にて金属組織を観察し、マルテンサイト率を測定した。また、更に板厚4mmの熱延鋼板を炉加熱により950℃のオーステナイト領域に加熱した後、900℃から水冷した素材を用いて衝撃試験を実施した。それらの条件および結果を表3に示す。
【0030】
表1に示した本発明例No.1〜10は、冷延鋼板の表面粗度Raが1μm以下であり、加熱・焼入れ後のスケール除去の酸洗時間も短い。
これに対し、表1に示した比較例No.11〜19および表2に示した比較例No.20〜35は、冷延鋼板の表面粗度Raが1μmを超えており、加熱・焼入れ後のスケール除去の酸洗時間は本発明例と比較して長い。
【0031】
表3に示した本発明例No.4〜10、および表面粗度Raが本発明の範囲を外れているが化学成分が本発明の範囲を満足している比較例No.11〜19は、マルテンサイト率を90%以上とすることで高温成形後の硬さがHv420以上であり、自動車の構造部材として必要な特性を満足し、形状凍結性も良い。
それに比較し、化学成分が本発明の範囲を外れた比較例No.20〜35では、焼入れ硬さ、衝撃特性および形状凍結性が劣化している。
【0032】
また、本発明例No.4〜10、および化学成分が本発明の範囲を満足している比較例No.12、14、15、16、18、19は、衝撃特性が優れている例である。比較例No.20、24、26、27、29、31、34は、式Ti/47.88−N/14.01≧0を満足していないため、焼入れ性が不足し、焼入れ硬さを満足していない例である。
【0033】
比較例No.20、22、23、28、29、30、34は、式(0.06+0.4×%C)×(1+0.64×%Si)×(1+4.1×%Mn)×(1+2.33×%Cr)×(1+3.14×%Mo)×{1+1.5×(0.9−%C)×%B2 }≧1.0を満足していないため、焼入れ性が不足し、焼入れ硬さを満足していない例である。
比較例No.21は、C量が規定値を超えているために靭性が低下した例であり、比較例No.22はSi量が、比較例No.24はMn量が、それぞれ規定値を超えているために、衝撃特性が低下した例である。比較例No.27はAl量が規定値を超えているために、アルミナおよび粗大なAlNが多く生成し衝撃特性が低下した例である。
【0034】
比較例No.30は、Ti量が規定値を超えているために靭性が低下した例であり、比較例No.32は、B量が規定値を超えているため粗大なB含有相を生成したために脆化し、衝撃特性が劣化した例である。比較例No.34は、N量が規定値を超えているために粗大な窒化物が多く生成し、衝撃特性が劣化した例である。
比較例No.25はP量が、比較例No.26はS量が、それぞれ規定値を超えているために、衝撃特性が劣化した例である。比較例No.35は、O量が規定値を超えているために酸化物が多く生成し、衝撃特性が劣化した例である。
比較例No.31は、Cr量が規定値を超えているために衝撃特性が劣化した例である。比較例No.33は、Mo量が規定値を超えているために粗大炭化物が多く生成し、靭性が低下した例である。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【発明の効果】
以上述べたように本発明鋼は、自動車部品の構造部材に使用され、高温成形後の硬化能が高く高強度となる鋼板であり、また衝撃特性および加工性にも優れており、加工工程の省略化に貢献するものであり、工業的意義は極めて大きい。
Claims (4)
- Raで0.1〜1μmの表面粗度を有することを特徴とする高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板。
- 付随的成分として、質量%でさらに、
Cr:0.01〜1%、
Mo:0.005〜1%、
Nb:0.005〜0.5%、
V :0.01〜0.5%、
Ni:0.005〜1%、
Cu:0.01〜1%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼板をAc3 変態点以上のオーステナイト領域に加熱後、Ar3 変態点以上の温度で成形加工を開始し、加工と同時に金型で抜熱することにより急速冷却し、マルテンサイト変態させて硬化させることを特徴とする高温成形後硬化能に優れた熱間成形加工用鋼板の使用方法。
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