JP2004307351A - 慢性閉塞性肺疾患治療薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその塩の具体的な疾患に対する治療可能性の解明と新規治療薬の創製
【解決手段】N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症抑制剤、換気機能低下改善剤、低酸素血症治療剤及び/又は慢性呼吸不全への進行抑制剤。
【解決手段】N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症抑制剤、換気機能低下改善剤、低酸素血症治療剤及び/又は慢性呼吸不全への進行抑制剤。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬、とりわけ慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症抑制剤、換気機能低下改善剤、低酸素血症治療剤及び/又は慢性呼吸不全への進行抑制剤に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミド又はその塩(以下「本発明の有効成分」と省略)は、エンドセリンETA受容体に対するエンドセリン−1(ET−1)の結合抑制作用、及びET−1誘発性の血管収縮・昇圧に対する抑制作用が知られており、心血管系疾患を初めとする、エンドセリンが関与する種々の疾患の処置に用いることができることが示唆されている(例えば、特許文献1参照)。
また、本発明の有効成分は、前立腺癌等のエンドセリン誘発性疾患の疼痛緩和剤、造骨性病変の改善剤及び/又は造骨に伴う疼痛緩和剤、前立腺癌の骨転移による造骨性病変の改善剤及び/又は前立腺癌の骨転移に伴う疼痛緩和剤、前立腺癌の癌細胞増殖抑制剤、或いは前立腺癌の進展抑制剤として有用であることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、本発明の有効成分は、慢性心不全患者の特定症状の改善剤、とりわけ慢性心不全患者の運動耐容能改善剤、心筋梗塞後の慢性心不全患者の生存期間延長剤、慢性心不全患者の左心室の拡張機能及び収縮機能の低下改善剤、或いは慢性心不全患者の心筋梗塞後の心筋リモデリング抑制剤として有用であることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
また、本発明の有効成分は、糖尿病患者の血圧上昇、早期腎症併発後の血中脂質上昇、早期腎症併発後の腎機能障害、早期腎症併発後の尿中アルブミン排泄増加、早期腎症併発後の糸球体過濾過、慢性腎不全移行後の腎機能障害、或いは、慢性腎不全移行後の尿中タンパク排泄増加といった症状の改善に有用であることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
また、本発明の有効成分は、排出障害治療剤、とりわけ、前立腺癌、前立腺肥大症、前立腺炎等によるET誘発性の下部尿路収縮抑制剤として有用であることが知られている(例えば、特許文献5参照)。
ET−1は肺血管の内皮細胞や気道上皮細胞で産出され、ETA受容体を介して肺血管平滑筋の収縮や増殖を引き起こすと共に、気道平滑筋の増殖・肥大(肥厚)を誘発する。また直接的または肥満細胞からの収縮物質遊離を介する間接的な機序により、気道平滑筋を収縮させることが知られている。慢性閉塞性肺疾患患者では血中ET−1濃度が上昇しており、血中ET−1濃度は肺動脈圧と正相関し動脈酸素分圧とは逆相関する。従って、内因性のET−1が慢性閉塞性肺疾患から慢性呼吸不全への病態進行に関与している可能性が示唆されていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
国際公開第97/22595号パンフレット
【特許文献2】
国際公開第01/60370号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第02/64143号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第02/80924号パンフレット
【特許文献5】
国際公開第02/83142号パンフレット
【非特許文献1】
フェル、「ジャーナル・オブ・クリニカル・パソロジー」1995年、第48巻、p.519−524
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は新規な治療薬の創製を目的として、本発明の有効成分の更に具体的な疾患に対する治療可能性について鋭意検討を行った。
【課題を解決する為の手段】
その結果、本発明の有効成分が、慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症の抑制、換気機能低下の改善、低酸素血症の治療及び/又は慢性呼吸不全への進行の抑制に有効であることを見い出し、発明を完成させた。
慢性閉塞性肺疾患の臨床を反映した肺気腫および慢性気管支炎のモデル動物に本発明の化合物を連続経口投与した結果、肺気腫ならびに慢性気管支炎の肺呼吸抵抗の上昇、肺コンプライアンスの低下を有意に改善させることを見出した。また、低下した動脈酸素分圧も著明に改善すること、肺の器質的変化も抑制させることを見出した。
平滑筋細胞の収縮・増殖を引き起こすET−1の血中濃度が慢性閉塞性肺疾患患者で高値であることから、内因性のET−1が慢性閉塞性肺疾患から慢性呼吸不全への病態進行に関与している可能性は示唆されていたが、ETA受容体拮抗薬の慢性投与が慢性閉塞性肺疾患において低下した呼吸機能を改善できるか、また肺・血管の器質的変化を抑制し肺血管床の維持が期待できるかについての知見はなかった。
現在用いられているβ2刺激薬や抗コリン薬等の気管支拡張剤は、一時的な換気機能改善効果しか有さず、進行性の慢性閉塞性肺疾患に対して対症療法の位置付けでしかない。今回の知見は、本発明の有効成分が慢性閉塞性肺疾患の治療または進行を抑制する有用な新規薬剤となる可能性を強く示唆するものであり、本薬による治療は慢性的な換気障害・換気血流比不均等の改善に加え、肺・血管の器質的変化(リモデリング)をも抑制し、肺血管床の維持と肺高血圧の進展防止に有効であることから、臨床上の終末像である肺性心への移行を最終的にくい止めることができる点で、病因により近いアプローチであるといえる。
【0006】
即ち、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症の抑制剤に関する。
また、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の換気機能低下改善剤に関する。
また、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の慢性呼吸不全への進行抑制剤に関する。
また、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者及び/又は成人呼吸窮迫症候群患者の低酸素血症治療剤に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
慢性閉塞性肺疾患とは、肺気腫と慢性気管支炎のいずれか、または混合型の閉塞性換気障害障害であり、慢性の呼吸困難を主症状とし、不可逆性の気道閉塞を主徴とする症候群である。慢性閉塞性肺疾患が進行すると慢性呼吸不全を併発し、低酸素血症を呈して予後不良となる。低酸素血症とは、動脈血中の酸素分圧(PaO2)が低い状態を指し、慢性呼吸不全、肺高血圧症、睡眠時無呼吸症候群または肺水腫(主に成人呼吸窮迫症候群)といった疾患の一症状として認められる。慢性呼吸不全とは、呼吸不全状態(PaO2;60 Torr以下)が1ヵ月以上持続する疾患である。
【0008】
本発明の医薬の有効成分は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩である。かかる塩とは、前記国際公開第97/22595号パンフレットに記載された塩が挙げられ、具体的には塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマール酸、マイレン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。特に好ましいものとしてカリウム塩が挙げられる。
また、本発明の有効成分には各種異性体の混合物及びその単離されたもの、水和物、溶媒和物の全てが含まれる。また本発明有効成分中には結晶多形を有する化合物もあり、それら結晶形の全てを包含する。
これらの化合物は前記の国際公開第97/22595号に記載された製法により、或いはそれに準じて容易に入手可能である。
【0009】
本発明の薬剤は、経口または非経口投与に適した有機又は無機の担体、賦形剤、その他の添加剤を用いて、常法に従って、経口固形製剤、経口液状製剤、または、注射剤、経鼻剤、吸入剤等の非経口製剤として調製することができる。本発明の医薬の有効成分は優れた経口吸収性を有することから、本発明の薬剤は経口製剤に適する。最も好ましいのは患者が自ら容易に服用でき且つ保存、持ち運びに便利な経口固形製剤である。
経口固形製剤としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等が用いられる。このような固形製剤においては、一つ又はそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、デンプン、コーンスターチ、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと混合される。組成物は常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)のような結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、スターチ、タルクのような潤滑剤;繊維素グリコール酸カルシウム、カルメロースカルシウムのような崩壊剤;ラクトースのような安定化剤;グルタミン酸又はアスパラギン酸のような溶解補助剤;ポリエチレングリコールのような可塑剤;酸化チタン、タルク、黄色酸化鉄のような着色剤;を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要によりショ糖、ゼラチン、寒天、ペクチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
【0010】
経口液状製剤は、製薬学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
静注、筋注、皮下注などの注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を包含する。水性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えばラクトース)、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)のような補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保管フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体、半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、ラクトースや澱粉のような賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知デバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、若しくは医学的に許容しうる担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。或いは、適当な駆出剤、例えばクロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0011】
本発明の有効成分化合物の投与量は、投与ルート、疾患の症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常経口投与の場合成人1人当たり有効成分約0.1乃至500mg/日、好ましくは1乃至250mg/日であり、これを1回〜2回に分けて投与される。
尚、本発明の薬剤は慢性閉塞性肺疾患や慢性呼吸不全の治療に用いられる他の薬剤と同時にまたは時間をおいて併用することができる。例えば、本発明の薬剤と併用することが可能である薬剤として、エピネフリン、塩酸エフェドリン、イソプレテレノール、塩酸トリメトキノール、硫酸サルブタモール、硫酸テルブタリン、塩酸ツロブテロール、フェノテロール、塩酸プロカテロール等のβ刺激薬、臭化イプラトロピウム、フルトロピウム、オキシトロピウム等の抗コリン薬、テオフィリン、コリンテオフィリン、アミノフィリン、ジプロフィリン、プロキシフィリン等のキサンチン誘導体、プロキシフィリン配合剤、ジプロフィリン配合剤、塩酸ドキサプラム等の末梢性呼吸刺激薬、ジメフェリン、アセタゾラミド、メドロキシプロゲステロン、サーファクテン、アルミトリン等の中枢性呼吸刺激薬、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン等の吸入ステロイド剤、リン酸コデイン、リン酸ベンプロペリン等の鎮咳薬、サポニン、塩酸ブロムヘキシン、カルボシステイン、塩酸アンブロキソール等の去痰薬、その他の生薬、漢方薬などが挙げられる。
【0012】
【実施例】
以下に実施例及び試験例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。尚、以下の実施例等において用いる化合物1はN−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミド・カリウム塩を意味する。
実施例1 カプセル錠
【表1】
上記成分を混合し、カプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0013】
試験例1 摘出モルモット気管標本のET−1収縮に対する抑制効果
(方法)
Hartley系雄性モルモット(350〜650g、日本SLC(株))を実験に供した。モルモットから気管を摘出し、平滑筋部分を3ヶ所含む螺旋状標本を作製した。気道上皮は、脱脂綿によって剥離した。各標本を37℃のKrebs−Henselit溶液を満たしたorgan bathに懸垂し、95 % O2−5 % CO2ガスを通気した。静止張力は1gとし、張力変化は等尺性に測定した。尚、ET−1の吸着を防止するためorgan bathには予めシリコン処理を施した。約60分間の平衡時間をおいた後、標本の収縮性を確認するために50 mM KClで収縮させ、その後以下の実験を開始した。
ET−1 (1〜1000 nM), sarafotoxin S6c (S6c; 1〜300 nM), carbachol (CCh; 0.01〜10 μM), histamine (0.01〜100 μM) あるいはleukotriene D4 (LTD4; 0.1〜300 nM) を累積的に投与した。各収縮薬による収縮反応は50 mM KCl収縮を100%として示した。各収縮薬の最大収縮力 (Emax) を濃度反応曲線から求め、最大収縮の50 %を引き起こす濃度 (EC50) を回帰分析により求めた。また化合物1 (0.1〜10 μM) を30分間処置した後、ET−1 (1〜1000 nM) を累積的に投与し得られた濃度反応曲線のEC50と、化合物1未処置のET−1の濃度反応曲線のEC50から用量比を求め、得られた用量比と用いた化合物1の濃度からSchildの方法によってpA2及び傾きを決定した。実験は全て6例で実施し、結果は平均値±標準誤差で示した。
【0014】
(結果)
▲1▼ 各収縮薬の濃度反応比較
図1に示すように、ET−1、 S6c、CCh、histamineおよびLTD4は濃度依存的に摘出モルモット気管標本を収縮させた。
気管標本におけるET−1収縮を他の収縮薬による収縮と比較すると、感受性(EC50)はCChの5倍, histamineの100倍であった。一方最大収縮(Emax)はhistamineと同等、S6cの1.6倍、LTD4の1.3倍、CCh収縮に対しては0.8倍であった。
▲2▼ ET−1収縮に対する化合物1の作用
図2に示すように、摘出モルモット気管標本において化合物1は濃度依存的にET−1収縮の濃度反応曲線を右方へシフトさせ、そのpA2は6.1 (傾き:0.61) であった。
【0015】
試験例2 二酸化硫黄(SO2)ガス曝露気管支炎モルモットの呼吸機能に対する改善効果
(方法)
Hartley系雄性モルモット(約350g、日本チャールズ・リバー(株))を実験に供した。モルモットを平均1000 ppm、3 hr/日、5日間のSO2ガス曝露を行い、最終曝露翌日に体重減少度を指標にして均等に群分けし、化合物1(0.3, 1, 3 mg/kg)を1日1回、対照薬の硫酸サルブタモール(2 mg/kg)を1日2回、5日間連続経口投与した。5日目において、各群共に薬物投与1 hr後にウレタン麻酔を行い、気管カニューレ装着後、プレチスモグラフ容器にモルモットを入れて人工呼吸を行った。肺呼吸抵抗及び肺コンプライアンスを肺機能分析装置(Buxco Electronics)にて一呼吸毎に計測した。呼吸機能測定後は生理食塩水にて肺胞洗浄(BAL)を実施し、BAL液中の細胞をスライドに塗抹後染色した。顕微鏡下に好中球数を計測し、化合物1の抗炎症作用を検討した。また、同様にSO2ガス曝露、群分けした後のモルモットの頸動脈に採血用カニューレを留置し、薬物投与5日目において無麻酔下に採血して血液ガス分圧を測定した。その後麻酔下に肺を摘出し、10%ホルマリン緩衝液を気道内に注入して固定した後、組織学的評価を行った。
結果は平均値±標準誤差で示した。呼吸機能測定は各群9〜10例、血液ガス測定は各群8〜11例、組織学的評価は各群6例で実施した。有意差検定は正常モルモットとSO2ガス曝露−溶媒投与モルモットの間で対応のないStudentのt 検定を実施し、SO2ガス曝露モルモットの薬物投与群間の比較には多重比較(Dunnett)検定を行った。また、組織学的評価の検定にはArmitageのχ2検定を用いた。それぞれ危険率 5%未満の場合を有意差と見なした。
【0016】
(結果)
▲1▼ 気管支炎モルモットの呼吸機能に対する効果
図3に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに比べ、著明に肺コンプライアンスが低下していた。また図4に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに比べ、著明に肺呼吸抵抗が上昇していた。化合物1の5日間連続投与は用量依存的にSO2曝露モルモットの肺コンプライアンスの低下、肺呼吸抵抗の上昇を抑制した。サルブタモールは肺呼吸抵抗の上昇に対し抑制傾向を示したのみであった。
従って、化合物1が気管支炎における呼吸機能低下に対する改善作用を有することが示唆された。
▲2▼ 気管支炎モルモット肺胞洗浄液中の好中球数に対する効果
図5に示すように、SO2曝露モルモットでは、肺胞洗浄(BAL)液中における炎症性血球成分である好中球の数が、正常モルモットに比べて著明に増加していた。化合物1の5日間連続投与は用量依存的にSO2曝露モルモットBAL液中の好中球数増加を抑制した。対照薬のサルブタモールはBAL液中の好中球数増加に対し抑制傾向を示したのみであった。
従って、化合物1が気管支炎における呼吸機能低下を改善する機序として、抗炎症作用も寄与していることが示唆された。
【0017】
▲3▼ 気管支炎モルモットの低酸素血症に対する効果
図6に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに比べ、動脈血中酸素分圧(PaO2)が著明に低下し、低酸素血症が生じていた。化合物1の5日間連続投与はSO2曝露モルモットのPaO2の低下を有意に改善した。対照薬のサルブタモールはPaO2の低下に対し改善傾向を示したものの有意ではなかった。
また表2に示すように、SO2曝露モルモットでは肺胞気−動脈血酸素分圧較差(A−aDO2)の開大が認められたことから、換気血流不均等がPaO2の低下の一因と考えられた。化合物1の0.3 mg/kg連続経口投与はSO2曝露モルモットのA−aDO2の開大に対し有意な改善作用を示した。一方、呼吸数の指標となる動脈血中二酸化炭素分圧(PaCO2)や血液中の赤血球容積分率であるヘマトクリット値(Hct)に対して化合物1は影響を与えなかった。
【表2】
従って、化合物1が気管支炎における動脈血酸素分圧の低下に対して過呼吸を生じさせることなく低酸素血症を抑制し、換気血流不均等を改善することが示唆された。
▲4▼ 気管支炎モルモットの肺胞内マクロファージ遊走に対する効果
表3に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに認められなかった肺胞内マクロファージの遊走が高頻度に観察され、肺胞内の異物沈着に対する反応性変化が生じていた。化合物1を5日間連続投与したSO2曝露モルモットの肺胞内マクロファージの遊走は有意に低頻度であり、化合物1による病変の改善が認められた。
【表3】
【0018】
試験例3 ブタ膵エラスターゼ(PPE)誘発肺気腫ラットの呼吸機能に対する改善効果
(方法)
Wistar系雄性ラット(6週齢、日本SLC(株))を実験に供した。塩酸ケタミン及びキシラジン麻酔下にPPE溶液を気道内投与(1 U/g)して、PPE誘発肺気腫ラットを作製した。一方、偽手術(Sham)ラットには同容量の生理食塩水を気道内投与した。PPE投与翌日に体重を指標に群分けし、化合物1(0.1, 0.3, 1 mg/kg)を1日1回、対照薬の硫酸サルブタモール(2 mg/kg)を1日2回、4週間連続経口投与した。最終投与翌日において、各群共にウレタン麻酔を行い、気管カニューレ装着後、プレチスモグラフ容器にラットを入れて人工呼吸を行った。肺呼吸抵抗及び肺コンプライアンスを肺機能分析装置(Buxco Electronics)にて一呼吸毎に計測した。呼吸機能測定後は肺を摘出し、10%ホルマリン緩衝液を気道内に注入して固定した後、肺の左葉を長軸に沿って縦断する形で切り出し、ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製した後に、画像解析装置を用いて肺気腫領域面積比率を測定した。
結果は平均値±標準誤差で示した。呼吸機能測定は各群6〜12例、組織学的評価は各群6例で実施した。有意差検定はShamラットとPPE−溶媒投与ラットの間で対応のないStudentのt 検定を実施し、PPE誘発肺気腫ラットの薬物投与群間の比較には多重比較(Dunnett)検定を行った。それぞれ危険率 5%未満の場合を有意差と見なした。
【0019】
(結果)
▲1▼ 肺気腫ラットの呼吸機能に対する効果
図7に示すように、PPE気道内投与ラットはShamラットに比べ、著明に肺コンプライアンスが低下していた。従って、本モデルでは気道又は気管内の一部に閉塞を伴った肺気腫病変が形成されていると想定された。また図8に示すように、PPE気道内投与ラットはShamラットに比べ、著明に肺呼吸抵抗が上昇していた。化合物1の4週間連続投与は用量依存的にPPE気道内投与ラットの肺コンプライアンスの低下、肺呼吸抵抗の上昇を抑制した。サルブタモールは肺コンプライアンスの低下、肺呼吸抵抗の上昇に対し抑制傾向を示したのみであった。
従って、化合物1が肺気腫における呼吸機能低下に対する改善作用を有することが示唆された。
▲2▼ 肺気腫ラットの肺気腫病変に対する効果
表4に示す通り、PPE気道内投与の結果、平均して全肺胞領域の約23%が気腫領域であった。化合物1の4週間連続投与はPPE気道内投与ラットの肺気腫領域を約45%減少させた。従って、化合物1が肺の器質的変化である気腫病変の軽減に対しても有効であることが示唆された。
【表4】
【0020】
試験例4 オレイン酸誘発肺水腫ラットの低酸素血症に対する改善効果
(方法)
Wistar系雄性ラット(約300g、日本SLC(株))を実験に供した。オレイン酸を0.1%BSA含有生理食塩水に懸濁(1:5, v/v)し、エーテル麻酔下に1 mL/kgの用量を大腿静脈内に投与した。一方、0.1%BSA含有生理食塩水のみを大腿静脈内に投与したラットを対照(Sham)とした。オレイン酸溶液投与30分前に溶媒(0.5%メチルセルロース溶液)又は化合物1(1 mg/kg)を単回経口投与した。オレイン酸溶液投与3時間後にウレタン麻酔下にて腹部大動脈より採血し、血液ガス分圧を測定した。また採血後に肺を摘出し、肺湿重量を測定した。
結果は平均値±標準誤差で示した。実験は各群10〜18例で実施した。有意差検定は対照ラットと肺水腫ラット、肺水腫ラットの溶媒投与群と化合物1投与群間で対応のないStudentのt 検定を実施し、危険率 5%未満の場合を有意差と見なした。
【0021】
(結果)
表5に示すように、オレイン酸静脈内投与ラットは対照ラットに比べ、肺重量が有意に増加し、動脈血中酸素分圧(PaO2)が有意に低下していた。化合物1の単回経口投与はオレイン酸静脈内投与ラットの肺重量増加を軽減し、PaO2低下を改善した。この時、動脈血中二酸化炭素分圧(PaCO2)や血中pHに対して化合物1は影響を与えなかった。
【表5】
従って、オレイン酸投与により血管内皮傷害と血管透過性亢進による肺水腫が惹起され、肺胞換気が抑制されることによって低酸素血症が生じること、その低酸素血症が化合物1の単回投与によって呼吸数に影響なく改善されることが示唆された。
【0022】
試験例1の結果から、化合物1がイン・ビトロにおいて、エンドセリン誘発性の気管平滑筋収縮に対して抑制効果を示すことが確認された。
試験例2の結果から、化合物1がイン・ビボにおいて、気管支炎に伴う呼吸機能低下ならびに低酸素血症に対して改善効果を示すことが確認された。また、その抑制機序として抗炎症作用や肺病変の器質的な改善作用が考えられた。
更に試験例3において、化合物1がイン・ビボにおいて、肺気腫に伴う呼吸機能低下ならびに肺気腫病変に対しても改善効果を示すことが確認された。慢性閉塞性肺疾患は慢性気管支炎と肺気腫のいずれか、または混合型の閉塞性気障害であり、不可逆性かつ難治性の慢性疾患とされている。化合物1が気管支炎ならびに肺気腫モデルのいずれに対しても呼吸機能低下改善作用を示し、肺病変を軽減させたことは、化合物1の長期投与が慢性閉塞性肺疾患の新規治療法となる可能性を強く示唆するものである。
加えて、試験例4の結果から化合物1は成人呼吸窮迫症候群等の肺水腫を伴う肺換気障害による低酸素血症に対しても改善効果を示すことが確認された。
慢性閉塞性肺疾患における慢性的な換気障害や換気血流比不均等は、肺・血管の器質的変化(リモデリング)を伴って慢性呼吸不全状態へ移行し、肺血管床の減少と肺高血圧の進展の結果、肺性心となり予後を悪化させる。低酸素血症は慢性呼吸不全の主症状として認められ、呼吸困難や労作性息切れなど患者の生活の質(QoL)の低下に関連することが知られている。試験例2、3及び4の結果は、化合物1の投与が慢性閉塞性肺疾患や成人呼吸窮迫症候群に起因する換気障害を治療出来るだけでなく、慢性呼吸不全への病態の進行も抑制する可能性を強く示唆するものであり、従来の対症療法に比べて、より病因に近いアプローチを提供出来るものと期待される。
【0023】
【図面の簡単な説明】
【図1】摘出モルモット気管標本の各収縮薬による収縮の濃度反応曲線を示す図
【図2】摘出モルモット気管標本におけるET−1収縮に対する化合物1の抑制作用を示す図
【図3】SO2曝露気管支炎モルモットの肺コンプライアンスに対する化合物1の作用を示す図
【図4】SO2曝露気管支炎モルモットの肺呼吸抵抗に対する化合物1の作用を示す図
【図5】SO2曝露気管支炎モルモットの肺胞洗浄液中の好中球数に対する化合物1の作用を示す図
【図6】SO2曝露気管支炎モルモットの動脈血中酸素分圧に対する化合物1の作用を示す図
【図7】ブタ膵エラスターゼ誘発肺気腫ラットの肺コンプライアンスに対する化合物1の作用を示す図
【図8】ブタ膵エラスターゼ誘発肺気腫ラットの肺呼吸抵抗に対する化合物1の作用を示す図
【発明の属する技術分野】
本発明は、医薬、とりわけ慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症抑制剤、換気機能低下改善剤、低酸素血症治療剤及び/又は慢性呼吸不全への進行抑制剤に係るものである。
【0002】
【従来の技術】
N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミド又はその塩(以下「本発明の有効成分」と省略)は、エンドセリンETA受容体に対するエンドセリン−1(ET−1)の結合抑制作用、及びET−1誘発性の血管収縮・昇圧に対する抑制作用が知られており、心血管系疾患を初めとする、エンドセリンが関与する種々の疾患の処置に用いることができることが示唆されている(例えば、特許文献1参照)。
また、本発明の有効成分は、前立腺癌等のエンドセリン誘発性疾患の疼痛緩和剤、造骨性病変の改善剤及び/又は造骨に伴う疼痛緩和剤、前立腺癌の骨転移による造骨性病変の改善剤及び/又は前立腺癌の骨転移に伴う疼痛緩和剤、前立腺癌の癌細胞増殖抑制剤、或いは前立腺癌の進展抑制剤として有用であることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
また、本発明の有効成分は、慢性心不全患者の特定症状の改善剤、とりわけ慢性心不全患者の運動耐容能改善剤、心筋梗塞後の慢性心不全患者の生存期間延長剤、慢性心不全患者の左心室の拡張機能及び収縮機能の低下改善剤、或いは慢性心不全患者の心筋梗塞後の心筋リモデリング抑制剤として有用であることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0003】
また、本発明の有効成分は、糖尿病患者の血圧上昇、早期腎症併発後の血中脂質上昇、早期腎症併発後の腎機能障害、早期腎症併発後の尿中アルブミン排泄増加、早期腎症併発後の糸球体過濾過、慢性腎不全移行後の腎機能障害、或いは、慢性腎不全移行後の尿中タンパク排泄増加といった症状の改善に有用であることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
また、本発明の有効成分は、排出障害治療剤、とりわけ、前立腺癌、前立腺肥大症、前立腺炎等によるET誘発性の下部尿路収縮抑制剤として有用であることが知られている(例えば、特許文献5参照)。
ET−1は肺血管の内皮細胞や気道上皮細胞で産出され、ETA受容体を介して肺血管平滑筋の収縮や増殖を引き起こすと共に、気道平滑筋の増殖・肥大(肥厚)を誘発する。また直接的または肥満細胞からの収縮物質遊離を介する間接的な機序により、気道平滑筋を収縮させることが知られている。慢性閉塞性肺疾患患者では血中ET−1濃度が上昇しており、血中ET−1濃度は肺動脈圧と正相関し動脈酸素分圧とは逆相関する。従って、内因性のET−1が慢性閉塞性肺疾患から慢性呼吸不全への病態進行に関与している可能性が示唆されていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
国際公開第97/22595号パンフレット
【特許文献2】
国際公開第01/60370号パンフレット
【特許文献3】
国際公開第02/64143号パンフレット
【特許文献4】
国際公開第02/80924号パンフレット
【特許文献5】
国際公開第02/83142号パンフレット
【非特許文献1】
フェル、「ジャーナル・オブ・クリニカル・パソロジー」1995年、第48巻、p.519−524
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は新規な治療薬の創製を目的として、本発明の有効成分の更に具体的な疾患に対する治療可能性について鋭意検討を行った。
【課題を解決する為の手段】
その結果、本発明の有効成分が、慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症の抑制、換気機能低下の改善、低酸素血症の治療及び/又は慢性呼吸不全への進行の抑制に有効であることを見い出し、発明を完成させた。
慢性閉塞性肺疾患の臨床を反映した肺気腫および慢性気管支炎のモデル動物に本発明の化合物を連続経口投与した結果、肺気腫ならびに慢性気管支炎の肺呼吸抵抗の上昇、肺コンプライアンスの低下を有意に改善させることを見出した。また、低下した動脈酸素分圧も著明に改善すること、肺の器質的変化も抑制させることを見出した。
平滑筋細胞の収縮・増殖を引き起こすET−1の血中濃度が慢性閉塞性肺疾患患者で高値であることから、内因性のET−1が慢性閉塞性肺疾患から慢性呼吸不全への病態進行に関与している可能性は示唆されていたが、ETA受容体拮抗薬の慢性投与が慢性閉塞性肺疾患において低下した呼吸機能を改善できるか、また肺・血管の器質的変化を抑制し肺血管床の維持が期待できるかについての知見はなかった。
現在用いられているβ2刺激薬や抗コリン薬等の気管支拡張剤は、一時的な換気機能改善効果しか有さず、進行性の慢性閉塞性肺疾患に対して対症療法の位置付けでしかない。今回の知見は、本発明の有効成分が慢性閉塞性肺疾患の治療または進行を抑制する有用な新規薬剤となる可能性を強く示唆するものであり、本薬による治療は慢性的な換気障害・換気血流比不均等の改善に加え、肺・血管の器質的変化(リモデリング)をも抑制し、肺血管床の維持と肺高血圧の進展防止に有効であることから、臨床上の終末像である肺性心への移行を最終的にくい止めることができる点で、病因により近いアプローチであるといえる。
【0006】
即ち、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症の抑制剤に関する。
また、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の換気機能低下改善剤に関する。
また、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の慢性呼吸不全への進行抑制剤に関する。
また、本発明は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者及び/又は成人呼吸窮迫症候群患者の低酸素血症治療剤に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
慢性閉塞性肺疾患とは、肺気腫と慢性気管支炎のいずれか、または混合型の閉塞性換気障害障害であり、慢性の呼吸困難を主症状とし、不可逆性の気道閉塞を主徴とする症候群である。慢性閉塞性肺疾患が進行すると慢性呼吸不全を併発し、低酸素血症を呈して予後不良となる。低酸素血症とは、動脈血中の酸素分圧(PaO2)が低い状態を指し、慢性呼吸不全、肺高血圧症、睡眠時無呼吸症候群または肺水腫(主に成人呼吸窮迫症候群)といった疾患の一症状として認められる。慢性呼吸不全とは、呼吸不全状態(PaO2;60 Torr以下)が1ヵ月以上持続する疾患である。
【0008】
本発明の医薬の有効成分は、N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩である。かかる塩とは、前記国際公開第97/22595号パンフレットに記載された塩が挙げられ、具体的には塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマール酸、マイレン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。特に好ましいものとしてカリウム塩が挙げられる。
また、本発明の有効成分には各種異性体の混合物及びその単離されたもの、水和物、溶媒和物の全てが含まれる。また本発明有効成分中には結晶多形を有する化合物もあり、それら結晶形の全てを包含する。
これらの化合物は前記の国際公開第97/22595号に記載された製法により、或いはそれに準じて容易に入手可能である。
【0009】
本発明の薬剤は、経口または非経口投与に適した有機又は無機の担体、賦形剤、その他の添加剤を用いて、常法に従って、経口固形製剤、経口液状製剤、または、注射剤、経鼻剤、吸入剤等の非経口製剤として調製することができる。本発明の医薬の有効成分は優れた経口吸収性を有することから、本発明の薬剤は経口製剤に適する。最も好ましいのは患者が自ら容易に服用でき且つ保存、持ち運びに便利な経口固形製剤である。
経口固形製剤としては、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等が用いられる。このような固形製剤においては、一つ又はそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、デンプン、コーンスターチ、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムと混合される。組成物は常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)のような結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、スターチ、タルクのような潤滑剤;繊維素グリコール酸カルシウム、カルメロースカルシウムのような崩壊剤;ラクトースのような安定化剤;グルタミン酸又はアスパラギン酸のような溶解補助剤;ポリエチレングリコールのような可塑剤;酸化チタン、タルク、黄色酸化鉄のような着色剤;を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要によりショ糖、ゼラチン、寒天、ペクチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートなどの糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
【0010】
経口液状製剤は、製薬学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な希釈剤以外に湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
静注、筋注、皮下注などの注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を包含する。水性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水溶性の溶液剤、懸濁剤の希釈剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤(例えばラクトース)、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸)のような補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保管フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。これらはまた無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体、半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、ラクトースや澱粉のような賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知デバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、若しくは医学的に許容しうる担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。或いは、適当な駆出剤、例えばクロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0011】
本発明の有効成分化合物の投与量は、投与ルート、疾患の症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常経口投与の場合成人1人当たり有効成分約0.1乃至500mg/日、好ましくは1乃至250mg/日であり、これを1回〜2回に分けて投与される。
尚、本発明の薬剤は慢性閉塞性肺疾患や慢性呼吸不全の治療に用いられる他の薬剤と同時にまたは時間をおいて併用することができる。例えば、本発明の薬剤と併用することが可能である薬剤として、エピネフリン、塩酸エフェドリン、イソプレテレノール、塩酸トリメトキノール、硫酸サルブタモール、硫酸テルブタリン、塩酸ツロブテロール、フェノテロール、塩酸プロカテロール等のβ刺激薬、臭化イプラトロピウム、フルトロピウム、オキシトロピウム等の抗コリン薬、テオフィリン、コリンテオフィリン、アミノフィリン、ジプロフィリン、プロキシフィリン等のキサンチン誘導体、プロキシフィリン配合剤、ジプロフィリン配合剤、塩酸ドキサプラム等の末梢性呼吸刺激薬、ジメフェリン、アセタゾラミド、メドロキシプロゲステロン、サーファクテン、アルミトリン等の中枢性呼吸刺激薬、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン等の吸入ステロイド剤、リン酸コデイン、リン酸ベンプロペリン等の鎮咳薬、サポニン、塩酸ブロムヘキシン、カルボシステイン、塩酸アンブロキソール等の去痰薬、その他の生薬、漢方薬などが挙げられる。
【0012】
【実施例】
以下に実施例及び試験例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。尚、以下の実施例等において用いる化合物1はN−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミド・カリウム塩を意味する。
実施例1 カプセル錠
【表1】
上記成分を混合し、カプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0013】
試験例1 摘出モルモット気管標本のET−1収縮に対する抑制効果
(方法)
Hartley系雄性モルモット(350〜650g、日本SLC(株))を実験に供した。モルモットから気管を摘出し、平滑筋部分を3ヶ所含む螺旋状標本を作製した。気道上皮は、脱脂綿によって剥離した。各標本を37℃のKrebs−Henselit溶液を満たしたorgan bathに懸垂し、95 % O2−5 % CO2ガスを通気した。静止張力は1gとし、張力変化は等尺性に測定した。尚、ET−1の吸着を防止するためorgan bathには予めシリコン処理を施した。約60分間の平衡時間をおいた後、標本の収縮性を確認するために50 mM KClで収縮させ、その後以下の実験を開始した。
ET−1 (1〜1000 nM), sarafotoxin S6c (S6c; 1〜300 nM), carbachol (CCh; 0.01〜10 μM), histamine (0.01〜100 μM) あるいはleukotriene D4 (LTD4; 0.1〜300 nM) を累積的に投与した。各収縮薬による収縮反応は50 mM KCl収縮を100%として示した。各収縮薬の最大収縮力 (Emax) を濃度反応曲線から求め、最大収縮の50 %を引き起こす濃度 (EC50) を回帰分析により求めた。また化合物1 (0.1〜10 μM) を30分間処置した後、ET−1 (1〜1000 nM) を累積的に投与し得られた濃度反応曲線のEC50と、化合物1未処置のET−1の濃度反応曲線のEC50から用量比を求め、得られた用量比と用いた化合物1の濃度からSchildの方法によってpA2及び傾きを決定した。実験は全て6例で実施し、結果は平均値±標準誤差で示した。
【0014】
(結果)
▲1▼ 各収縮薬の濃度反応比較
図1に示すように、ET−1、 S6c、CCh、histamineおよびLTD4は濃度依存的に摘出モルモット気管標本を収縮させた。
気管標本におけるET−1収縮を他の収縮薬による収縮と比較すると、感受性(EC50)はCChの5倍, histamineの100倍であった。一方最大収縮(Emax)はhistamineと同等、S6cの1.6倍、LTD4の1.3倍、CCh収縮に対しては0.8倍であった。
▲2▼ ET−1収縮に対する化合物1の作用
図2に示すように、摘出モルモット気管標本において化合物1は濃度依存的にET−1収縮の濃度反応曲線を右方へシフトさせ、そのpA2は6.1 (傾き:0.61) であった。
【0015】
試験例2 二酸化硫黄(SO2)ガス曝露気管支炎モルモットの呼吸機能に対する改善効果
(方法)
Hartley系雄性モルモット(約350g、日本チャールズ・リバー(株))を実験に供した。モルモットを平均1000 ppm、3 hr/日、5日間のSO2ガス曝露を行い、最終曝露翌日に体重減少度を指標にして均等に群分けし、化合物1(0.3, 1, 3 mg/kg)を1日1回、対照薬の硫酸サルブタモール(2 mg/kg)を1日2回、5日間連続経口投与した。5日目において、各群共に薬物投与1 hr後にウレタン麻酔を行い、気管カニューレ装着後、プレチスモグラフ容器にモルモットを入れて人工呼吸を行った。肺呼吸抵抗及び肺コンプライアンスを肺機能分析装置(Buxco Electronics)にて一呼吸毎に計測した。呼吸機能測定後は生理食塩水にて肺胞洗浄(BAL)を実施し、BAL液中の細胞をスライドに塗抹後染色した。顕微鏡下に好中球数を計測し、化合物1の抗炎症作用を検討した。また、同様にSO2ガス曝露、群分けした後のモルモットの頸動脈に採血用カニューレを留置し、薬物投与5日目において無麻酔下に採血して血液ガス分圧を測定した。その後麻酔下に肺を摘出し、10%ホルマリン緩衝液を気道内に注入して固定した後、組織学的評価を行った。
結果は平均値±標準誤差で示した。呼吸機能測定は各群9〜10例、血液ガス測定は各群8〜11例、組織学的評価は各群6例で実施した。有意差検定は正常モルモットとSO2ガス曝露−溶媒投与モルモットの間で対応のないStudentのt 検定を実施し、SO2ガス曝露モルモットの薬物投与群間の比較には多重比較(Dunnett)検定を行った。また、組織学的評価の検定にはArmitageのχ2検定を用いた。それぞれ危険率 5%未満の場合を有意差と見なした。
【0016】
(結果)
▲1▼ 気管支炎モルモットの呼吸機能に対する効果
図3に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに比べ、著明に肺コンプライアンスが低下していた。また図4に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに比べ、著明に肺呼吸抵抗が上昇していた。化合物1の5日間連続投与は用量依存的にSO2曝露モルモットの肺コンプライアンスの低下、肺呼吸抵抗の上昇を抑制した。サルブタモールは肺呼吸抵抗の上昇に対し抑制傾向を示したのみであった。
従って、化合物1が気管支炎における呼吸機能低下に対する改善作用を有することが示唆された。
▲2▼ 気管支炎モルモット肺胞洗浄液中の好中球数に対する効果
図5に示すように、SO2曝露モルモットでは、肺胞洗浄(BAL)液中における炎症性血球成分である好中球の数が、正常モルモットに比べて著明に増加していた。化合物1の5日間連続投与は用量依存的にSO2曝露モルモットBAL液中の好中球数増加を抑制した。対照薬のサルブタモールはBAL液中の好中球数増加に対し抑制傾向を示したのみであった。
従って、化合物1が気管支炎における呼吸機能低下を改善する機序として、抗炎症作用も寄与していることが示唆された。
【0017】
▲3▼ 気管支炎モルモットの低酸素血症に対する効果
図6に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに比べ、動脈血中酸素分圧(PaO2)が著明に低下し、低酸素血症が生じていた。化合物1の5日間連続投与はSO2曝露モルモットのPaO2の低下を有意に改善した。対照薬のサルブタモールはPaO2の低下に対し改善傾向を示したものの有意ではなかった。
また表2に示すように、SO2曝露モルモットでは肺胞気−動脈血酸素分圧較差(A−aDO2)の開大が認められたことから、換気血流不均等がPaO2の低下の一因と考えられた。化合物1の0.3 mg/kg連続経口投与はSO2曝露モルモットのA−aDO2の開大に対し有意な改善作用を示した。一方、呼吸数の指標となる動脈血中二酸化炭素分圧(PaCO2)や血液中の赤血球容積分率であるヘマトクリット値(Hct)に対して化合物1は影響を与えなかった。
【表2】
従って、化合物1が気管支炎における動脈血酸素分圧の低下に対して過呼吸を生じさせることなく低酸素血症を抑制し、換気血流不均等を改善することが示唆された。
▲4▼ 気管支炎モルモットの肺胞内マクロファージ遊走に対する効果
表3に示すように、SO2曝露モルモットは正常モルモットに認められなかった肺胞内マクロファージの遊走が高頻度に観察され、肺胞内の異物沈着に対する反応性変化が生じていた。化合物1を5日間連続投与したSO2曝露モルモットの肺胞内マクロファージの遊走は有意に低頻度であり、化合物1による病変の改善が認められた。
【表3】
【0018】
試験例3 ブタ膵エラスターゼ(PPE)誘発肺気腫ラットの呼吸機能に対する改善効果
(方法)
Wistar系雄性ラット(6週齢、日本SLC(株))を実験に供した。塩酸ケタミン及びキシラジン麻酔下にPPE溶液を気道内投与(1 U/g)して、PPE誘発肺気腫ラットを作製した。一方、偽手術(Sham)ラットには同容量の生理食塩水を気道内投与した。PPE投与翌日に体重を指標に群分けし、化合物1(0.1, 0.3, 1 mg/kg)を1日1回、対照薬の硫酸サルブタモール(2 mg/kg)を1日2回、4週間連続経口投与した。最終投与翌日において、各群共にウレタン麻酔を行い、気管カニューレ装着後、プレチスモグラフ容器にラットを入れて人工呼吸を行った。肺呼吸抵抗及び肺コンプライアンスを肺機能分析装置(Buxco Electronics)にて一呼吸毎に計測した。呼吸機能測定後は肺を摘出し、10%ホルマリン緩衝液を気道内に注入して固定した後、肺の左葉を長軸に沿って縦断する形で切り出し、ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製した後に、画像解析装置を用いて肺気腫領域面積比率を測定した。
結果は平均値±標準誤差で示した。呼吸機能測定は各群6〜12例、組織学的評価は各群6例で実施した。有意差検定はShamラットとPPE−溶媒投与ラットの間で対応のないStudentのt 検定を実施し、PPE誘発肺気腫ラットの薬物投与群間の比較には多重比較(Dunnett)検定を行った。それぞれ危険率 5%未満の場合を有意差と見なした。
【0019】
(結果)
▲1▼ 肺気腫ラットの呼吸機能に対する効果
図7に示すように、PPE気道内投与ラットはShamラットに比べ、著明に肺コンプライアンスが低下していた。従って、本モデルでは気道又は気管内の一部に閉塞を伴った肺気腫病変が形成されていると想定された。また図8に示すように、PPE気道内投与ラットはShamラットに比べ、著明に肺呼吸抵抗が上昇していた。化合物1の4週間連続投与は用量依存的にPPE気道内投与ラットの肺コンプライアンスの低下、肺呼吸抵抗の上昇を抑制した。サルブタモールは肺コンプライアンスの低下、肺呼吸抵抗の上昇に対し抑制傾向を示したのみであった。
従って、化合物1が肺気腫における呼吸機能低下に対する改善作用を有することが示唆された。
▲2▼ 肺気腫ラットの肺気腫病変に対する効果
表4に示す通り、PPE気道内投与の結果、平均して全肺胞領域の約23%が気腫領域であった。化合物1の4週間連続投与はPPE気道内投与ラットの肺気腫領域を約45%減少させた。従って、化合物1が肺の器質的変化である気腫病変の軽減に対しても有効であることが示唆された。
【表4】
【0020】
試験例4 オレイン酸誘発肺水腫ラットの低酸素血症に対する改善効果
(方法)
Wistar系雄性ラット(約300g、日本SLC(株))を実験に供した。オレイン酸を0.1%BSA含有生理食塩水に懸濁(1:5, v/v)し、エーテル麻酔下に1 mL/kgの用量を大腿静脈内に投与した。一方、0.1%BSA含有生理食塩水のみを大腿静脈内に投与したラットを対照(Sham)とした。オレイン酸溶液投与30分前に溶媒(0.5%メチルセルロース溶液)又は化合物1(1 mg/kg)を単回経口投与した。オレイン酸溶液投与3時間後にウレタン麻酔下にて腹部大動脈より採血し、血液ガス分圧を測定した。また採血後に肺を摘出し、肺湿重量を測定した。
結果は平均値±標準誤差で示した。実験は各群10〜18例で実施した。有意差検定は対照ラットと肺水腫ラット、肺水腫ラットの溶媒投与群と化合物1投与群間で対応のないStudentのt 検定を実施し、危険率 5%未満の場合を有意差と見なした。
【0021】
(結果)
表5に示すように、オレイン酸静脈内投与ラットは対照ラットに比べ、肺重量が有意に増加し、動脈血中酸素分圧(PaO2)が有意に低下していた。化合物1の単回経口投与はオレイン酸静脈内投与ラットの肺重量増加を軽減し、PaO2低下を改善した。この時、動脈血中二酸化炭素分圧(PaCO2)や血中pHに対して化合物1は影響を与えなかった。
【表5】
従って、オレイン酸投与により血管内皮傷害と血管透過性亢進による肺水腫が惹起され、肺胞換気が抑制されることによって低酸素血症が生じること、その低酸素血症が化合物1の単回投与によって呼吸数に影響なく改善されることが示唆された。
【0022】
試験例1の結果から、化合物1がイン・ビトロにおいて、エンドセリン誘発性の気管平滑筋収縮に対して抑制効果を示すことが確認された。
試験例2の結果から、化合物1がイン・ビボにおいて、気管支炎に伴う呼吸機能低下ならびに低酸素血症に対して改善効果を示すことが確認された。また、その抑制機序として抗炎症作用や肺病変の器質的な改善作用が考えられた。
更に試験例3において、化合物1がイン・ビボにおいて、肺気腫に伴う呼吸機能低下ならびに肺気腫病変に対しても改善効果を示すことが確認された。慢性閉塞性肺疾患は慢性気管支炎と肺気腫のいずれか、または混合型の閉塞性気障害であり、不可逆性かつ難治性の慢性疾患とされている。化合物1が気管支炎ならびに肺気腫モデルのいずれに対しても呼吸機能低下改善作用を示し、肺病変を軽減させたことは、化合物1の長期投与が慢性閉塞性肺疾患の新規治療法となる可能性を強く示唆するものである。
加えて、試験例4の結果から化合物1は成人呼吸窮迫症候群等の肺水腫を伴う肺換気障害による低酸素血症に対しても改善効果を示すことが確認された。
慢性閉塞性肺疾患における慢性的な換気障害や換気血流比不均等は、肺・血管の器質的変化(リモデリング)を伴って慢性呼吸不全状態へ移行し、肺血管床の減少と肺高血圧の進展の結果、肺性心となり予後を悪化させる。低酸素血症は慢性呼吸不全の主症状として認められ、呼吸困難や労作性息切れなど患者の生活の質(QoL)の低下に関連することが知られている。試験例2、3及び4の結果は、化合物1の投与が慢性閉塞性肺疾患や成人呼吸窮迫症候群に起因する換気障害を治療出来るだけでなく、慢性呼吸不全への病態の進行も抑制する可能性を強く示唆するものであり、従来の対症療法に比べて、より病因に近いアプローチを提供出来るものと期待される。
【0023】
【図面の簡単な説明】
【図1】摘出モルモット気管標本の各収縮薬による収縮の濃度反応曲線を示す図
【図2】摘出モルモット気管標本におけるET−1収縮に対する化合物1の抑制作用を示す図
【図3】SO2曝露気管支炎モルモットの肺コンプライアンスに対する化合物1の作用を示す図
【図4】SO2曝露気管支炎モルモットの肺呼吸抵抗に対する化合物1の作用を示す図
【図5】SO2曝露気管支炎モルモットの肺胞洗浄液中の好中球数に対する化合物1の作用を示す図
【図6】SO2曝露気管支炎モルモットの動脈血中酸素分圧に対する化合物1の作用を示す図
【図7】ブタ膵エラスターゼ誘発肺気腫ラットの肺コンプライアンスに対する化合物1の作用を示す図
【図8】ブタ膵エラスターゼ誘発肺気腫ラットの肺呼吸抵抗に対する化合物1の作用を示す図
Claims (5)
- N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の気道炎症抑制剤。
- N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の換気機能低下改善剤。
- N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の慢性呼吸不全への進行抑制剤。
- N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患患者の低酸素血症治療剤。
- N−[6−メトキシ−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−4−ピリミジニル]−2−フェニルエテンスルホンアミドまたはその製薬学的に許容される塩を有効成分として含有する成人呼吸窮迫症候群患者の低酸素血症治療剤。
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