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JP2004238761A - 炭素繊維束および繊維強化複合材料 - Google Patents

炭素繊維束および繊維強化複合材料 Download PDF

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JP2004238761A
JP2004238761A JP2003029282A JP2003029282A JP2004238761A JP 2004238761 A JP2004238761 A JP 2004238761A JP 2003029282 A JP2003029282 A JP 2003029282A JP 2003029282 A JP2003029282 A JP 2003029282A JP 2004238761 A JP2004238761 A JP 2004238761A
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carbon fiber
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carbon
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Masashi Tokuda
政志 徳田
Katsumi Yamasaki
勝巳 山▲さき▼
Makoto Endo
真 遠藤
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Toray Industries Inc
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Abstract

【課題】圧縮強度、引張強度、引張弾性率など繊維方向の特性とマトリックス樹脂との間の適度な接着性とに優れた炭素繊維を提供すること、およびその炭素繊維を用いた繊維強化複合材料を提供することにある。
【解決手段】ストランド弾性率YM(GPa)と結晶サイズLc(オングストローム)の関係において(式1)、および(式2)を満足する炭素繊維束である。
YM > −0.092Lc +13.619Lc+27.6(式1)
14≦Lc≦17 (式2)
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素繊維束、黒鉛化繊維束、および繊維強化複合材料に関する。さらに詳しくは、マトリックス樹脂との接着性が良好でかつ圧縮強度等の機械特性に優れた炭素繊維束、黒鉛化繊維束であり、更には該炭素繊維束および黒鉛化繊維束を用いた繊維強化複合材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維は他の繊維に比べて優れた比強度および比弾性率を有すため、その優れた機械特性を利用して樹脂との複合材料の補強繊維として工業的に広く利用されている。近年、炭素繊維複合材料の優位性はますます高まり、特にスポーツ、航空宇宙用途においてはこの炭素繊維複合材料に対する高性能化要求が強い。
【0003】
炭素繊維の優れた機械特性を複合材料物性に反映させるためには、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着力を適正に設計する必要がある。そのために炭素繊維を酸やアルカリの電解質溶液で電解表面処理して炭素繊維表面に官能基を付与することが一般的に行われており、O/Cが0.2〜0.5の炭素繊維を窒素中加熱処理した後、表面酸化処理する方法(例えば特許文献1参照)、炭素繊維をアルカリ水溶液(PH>8)、続いて酸性水溶液(PH<6)中で洗浄し、中和するまで水洗した後、サイジングする方法(例えば特許文献2参照)、炭素繊維をアルカリ性水溶液中で電解処理した後、水洗(≧40℃)またはアルカリ洗浄する表面処理方法(例えば特許文献3参照)、異なるアンモニウムイオン濃度での2段電解処理(例えば特許文献4、5参照)、炭素繊維をアンモニウムイオン存在下、アルカリ(PH≧7)電解処理した後、超音波処理する方法(例えば特許文献6参照)などが多数提案されている。このような炭素繊維の電解表面処理による表面官能基付与は、炭素繊維の結晶サイズが小さいほど効果が高く、より高密度に官能基を付与できるため、さらなる高性能化のためには炭素繊維の結晶サイズをより下げることが望まれる。しかしながら炭素繊維の結晶サイズを小さくするためには、炭化、黒鉛化温度を低くすることが効果的であるが、炭化、黒鉛化温度を下げると目標の弾性率が得られないという問題があった。また、結晶サイズが一定以上小さくなると前記アルカリ電解処理時に大量の黒鉛酸化物が溶出し、繊維表面に多く付着するためかえってマトリックス樹脂との接着性が悪化するという問題があった。
【0004】
以上のことから炭素繊維の圧縮強度、引張強度、引張弾性率など繊維方向の特性と炭素繊維とマトリックス樹脂との間の適度な接着性とを両立するのは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−132675号公報(全頁)
【0006】
【特許文献2】特開昭61−152873号公報(全頁)
【0007】
【特許文献3】特開昭62−268873号公報(全頁)
【0008】
【特許文献4】特開昭62−276075号公報(全頁)
【0009】
【特許文献5】特開平02−084525号公報(全頁)
【0010】
【特許文献6】特許第2592294号公報(全頁)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、上記従来技術では達成し得なかった圧縮強度、引張強度、引張弾性率など繊維方向の特性とマトリックス樹脂との間の適度な接着性を両立する炭素繊維を提供し、更には圧縮強度等の繊維方向の機械特性と、層間剪断強度等の繊維に対して横方向の機械特性がに優れる繊維強化複合材料を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するために、次の構成を有する。すなわち、ストランド弾性率YM(GPa)と結晶サイズLc(オングストローム)の関係において下記(式1)および(式2)を満足する炭素繊維束である。
【0013】
YM > −0.092Lc +13.619Lc+27.6(式1)
14≦Lc≦17 (式2)
またアクリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下の加熱処理によりギ酸溶解度が2%以下の耐炎繊維束とした後、かかる耐炎化繊維束を1300℃を超えない温度で炭化する炭素繊維束の製造方法である。
【0014】
また、前記炭素繊維束を1950〜3000℃の不活性雰囲気下で加熱処理する黒鉛化繊維束の製造方法である。
【0015】
さらには前記炭素繊維束と樹脂硬化物からなる繊維強化複合材料である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の炭素繊維は、ストランド弾性率YM(GPa)と結晶サイズLc(オングストローム)の関係において下記(式1)、および(式2)を満足する炭素繊維束である。
【0017】
YM > −0.092Lc +13.619Lc+27.6(式1)
14≦Lc≦17 (式2)
ここで、弾性率YMが(式1)の右辺以下の値となると得られる繊維強化複合材料の機械強度が低く好ましくない。弾性率YMは高いほど好ましいが、接着性とのバランスを考慮すると500GPa程度であれば本発明の目的としては十分であり、好ましくは200〜300GPa、より好ましくは230〜270GPaである。また、結晶サイズLcが17オングストロームを超えると得られる炭素繊維の圧縮強度が低下する、好ましくは16.8オングストローム以下、より好ましくは16.5オングストローム以下である。一方かかる結晶サイズは小さい程、炭素繊維の圧縮強度が高く好ましいが、小さくなりすぎると炭素繊維のその他の特性、例えば電気抵抗が悪化するため結晶サイズの下限は14オングストロームである。好ましくは15オングストローム以上である。
【0018】
ここでストランド弾性率YM(GPa)はJIS−R−7601に規定する樹脂含浸ストランド試験法で測定することができる。ここで試験片としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−シクロヘキサン−カルボキシレート/三フッ化ホウ素モノエチレンアミン/アセトン=100/3/4(重量部対比)からなる樹脂組成物を炭素繊維に含浸し、得られた樹脂含浸ストランドを130℃で35分間加熱して硬化させたものを用いることができる。また、結晶サイズLcは広角X線回折装置で測定することができる。
【0019】
本発明の炭素繊維束は水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液中(以下、TEAH水溶液と略す)に浸漬せしめて得られる抽出液のUV吸光度が1以下であることが好ましい。
【0020】
ここで、かかる抽出液のUV吸光度とは、炭素繊維の表面状態を反映する指標であり、炭素繊維表面に残存する黒鉛酸化物が少ないほど低い値となり好ましく、該UV吸光度が1を超えると炭素繊維と樹脂との接着性が低下する場合がある。尚、TEAH水溶液としてはTEAHを20重量%含む水溶液(例えば、三洋化成社製EAH20など)を用いることができる。炭素繊維束をかかるTEAH水溶液中に浸漬し、40±2℃に保たれた恒温槽内で2Hzの振動を4時間与えることにより得られた抽出液について、UV吸光度(波長254nm)を求めるものである。UV吸光度測定には、自記分光光度計が用いられるが、自記分光光度計としては例えば、島津製作所(株)製スペクトロフォトメーター(UV−240)を挙げることができる。また、前記恒温槽としては例えばADVANTEC社製 SHAKING BASS TS−300を用いることができる。また、サイジング等が付着している炭素繊維束について測定する場合にはアセトン等の有機溶媒で除去した後に測定する。
【0021】
本発明の炭素繊維束を構成する単繊維は、原子間力顕微鏡により測定される表面積比が1.00〜1.03で、実質的に繊維表面が平滑な炭素繊維であることが好ましい。より好ましくは1.00〜1.02であり、さらに好ましくは1.00〜1.01である。かかる表面積比は炭素繊維表面の実表面積と投影面積との比で、表面の粗さの度合いを表しており、表面積比が1に近づくほど平滑であることを示している。ここで、実表面積および投影面積は原子間力顕微鏡を用いて例えば後述する方法で測定することができる。投影面積というのは繊維断面積の曲率を考慮した3次曲面への投影面積である。表面積比は炭素繊維の表面に凹凸が全くない場合に1.00となる。表面積比が1.03を越えるとストランド引張強度が低下する場合がある。また単繊維の断面形状は実質的に円形あることが好ましい。また、本発明の炭素繊維束を構成する単繊維の直径は6μm以上であることが好ましい。より好ましくは7μm以上であり、さらに好ましくは8μm以上である。単繊維の直径が大きいほど生産性が良好であり挫屈により毛羽が発生しにくく好ましいが、炭素繊維直径が大きくなるほど断面方向の結晶性が不均一なる傾向があるので10μm程度もあれば十分である。
【0022】
さらに本発明の炭素繊維は、その表面にサイジング剤が0.5〜1.5重量%付着してなることが好ましい。サイジング剤付着量をかかる範囲とすることでハンドリング性や耐擦過性という点で好ましい。より好ましくは0.6〜1.2重量%、さらに好ましくは0.6〜1.0重量%である。サイジング剤の組成としては特に限定されないが、多官能の脂肪族エポキシ樹脂を主剤とするサイジングが好ましい。そのメカニズムは明確でないが、脂肪族エポキシ樹脂のように柔軟な主鎖を持つサイジング剤がより樹脂との接着を向上する効果が大きいので好ましい。また、1分子中に存在するエポキシ環は多い方が官能基密度が高くなり、接着性がより向上するので好ましい。3官能が好ましく、より好ましくは3官能以上のエポキシ樹脂である。3官能の例としては、例えばポリグリセリンポリグリシジルエーテル、4官能の例としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテルなどを例示することができる。また、サイジング剤には水溶性ポリウレタン、不飽和ポリエステル、またはポリエチレングリコール等脂肪族エポキシ樹脂以外の化合物を含ませることもできる。
【0023】
次に本発明の炭素繊維束の製造方法について詳細に説明する。
【0024】
本発明の製造方法は、アクリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下の加熱処理によりギ酸溶解度が2%以下の耐炎繊維束とした後、かかる耐炎化繊維束を1300℃を超えない温度で炭化するものである。
【0025】
耐炎繊維束のギ酸溶解度は、耐炎化繊維の中で酸化されていない部分がギ酸に溶出する特徴を利用したパラメーターである。測定方法の詳しい説明は後記するが、ここで耐炎化繊維束のギ酸溶解度が2%を超えると酸化不十分な部分が多いため、後の炭化工程で毛羽や糸切れを起こしやすく、優れた強度を発現することが出来ない。また断面方向の結晶性が不均一となり加重負荷断面積の減少から弾性率を十分に発現することが困難となる。このため、ギ酸溶解度は2%以下となるように耐炎化処理をすることが重要である。かかるギ酸溶解度は小さいほど好ましいが、ギ酸溶解度が1%未満の耐炎化繊維束では生産性が著しく低下することがあるため、好ましくは1〜2%、より好ましくは1.2〜1.8%、さらに好ましくは1.2〜1.5%である。
【0026】
また、本発明の炭素繊維の製造に用いる耐炎化繊維束の比重は1.3〜1.4とすることが好ましい。より好ましくは1.35〜1.4である。比重が1.4を超えると、以後の焼成過程で単繊維中に欠陥が発生することがあり、炭素繊維束の物性が低下する場合があり、1.3に満たないと耐炎化反応が不充分で、以後の焼成工程で毛羽が発生する場合がある。このような比重1.3〜1.4の耐炎化繊維束を得るには、後述するような前駆体繊維束を酸化性雰囲気中200〜300℃の範囲で、緊張又は延伸する条件が好ましく使用される。処理雰囲気については、空気、酸素、二酸化窒素、塩化水素などの酸化性雰囲気を使用できるが、経済性の面から空気が好ましい。
【0027】
本発明の製造方法において、炭化処理の際に、不活性雰囲気中での処理温度が1300℃を超えると結晶サイズが大きくなり請求項1記載の式から外れることがあり、1280℃以下がより好ましく、1260℃以下がさらに好ましい。また、製造効率等を踏まえると1000℃以上で炭化処理することが好ましく、1200℃以上がより好ましく、1220℃以上がさらに好ましい。
【0028】
また、ボイドなどの炭素繊維の内部における欠陥の少ない、緻密性の高い炭素繊維を得るために、350〜500℃及び1000〜1200℃における昇温速度は、300℃/分以下とするのが好ましく、生産性と機械特性のバランスを考慮すると100〜150℃/分がより好ましい。また、炭素繊維の緻密性を向上させるためには、350〜500℃及び1000〜1200℃における昇温の際に、毛羽を発生しない範囲で好ましくは1〜10%、より好ましくは1〜5%延伸するのが良い。
【0029】
また、炭化処理に先立ち、不活性雰囲気中300〜800℃で加熱するいわゆる前炭化処理を行ってもよい。かかる前炭化処理の処理温度に達するまでの昇温速度は50〜150℃/分とするのが炭化収率の点で好ましい。
【0030】
このようにして得られた炭素繊維は、酸性又はアルカリ性の電解液中での電解酸化処理や、気相又は液相での酸化処理によって、複合材料における炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることができる。
【0031】
特に、短時間で酸化処理することができ、酸化処理の度合の制御が容易なことから電解酸化処理が好ましい。使用する電解液は、酸性、アルカリ性、いずれでも良く、また、酸性の電解液に溶存させた電解質の具体例としては、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、ホウ酸、炭酸などの無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、マレイン酸などの有機酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウムなどが挙げられるが、中でも、強酸性を示す硫酸、硝酸が好ましく使用できる。アルカリ性の電解液に溶存させた電解質の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウムなどの水酸化物、アンモニア、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機塩類、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウムなどの有機塩類、さらに、これらのカリウム塩、バリウム塩又は他の金属塩、及びアンモニウム塩、水酸化テトラエチルアンモニウム又はヒドラジンなどの有機化合物などが挙げられるが、樹脂の硬化障害を防止する観点から、アルカリ金属を含まない炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム類が好ましく使用できる。黒鉛酸化物を除去するためにはアルカリ電解処理が好ましく、かかるアルカリ電解処理と前述の脂肪族多官能エポキシ系サイジング剤を組み合わせると接着性がより向上するので好ましい。
【0032】
電解に使用する総電気量については、電解酸化処理される炭素繊維の炭化度の応じて最適化することが好ましい。炭素繊維の表層におかる結晶度を適正に保持するためには、かかる総電気量を、5〜1000クーロン/gとするのが良く、好ましくは10〜500クーロン/gとするのが良い。
【0033】
次に電解酸化処理の後、炭素繊維束を70〜95℃以上の温水浴でローラーを介しながら4秒以上洗浄することが好ましい。温水温度が70℃以下であると繊維表面に残存する黒鉛酸化物を洗浄することが困難であり、95℃以上では生産管理上安全面に問題がある。さらに好ましい条件としては90〜95℃である。この後、炭素繊維束を水洗、及び乾燥するのが好ましい。このとき、乾燥温度が低すぎると、炭素繊維の表層に残存する黒鉛酸化物がマトリックス樹脂との接着性を阻害するため、なるべく高温で乾燥し黒鉛酸化物を蒸発させることが必要であり、この乾燥温度については250〜350℃が好ましく、さらに好ましくは280〜320℃が良い。
【0034】
本発明の炭素繊維を製造する前駆体繊維のアクリル系共重合体組成としては、アクリロニトリルが90重量%以上で、他の共重合成分として、耐炎化反応をより迅速に進める耐炎化促進成分、および繊維の欠陥となるボイドを発生させないための緻密化促進成分で構成されていれば特に限定されるものではないが、その他に耐炎化時に繊維内部に酸素が透過し易く二重構造の発生を防止する酸素透過促進成分を共重合することがより好ましい。
【0035】
耐炎化促進成分としては、不飽和カルボン酸が好ましい。具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸などが挙げられるが、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。
不飽和カルボン酸の共重合量は0.3〜5重量%が好ましい。
【0036】
緻密化促進成分としては、共重合体の親水性を上げる効果を有することが重要であり、具体例としては、カルボキシル基、スルホ基、アミノ基、アミド基等の親水性の官能基を有するビニル化合物が挙げられるが、カルボキシル基を有するビニル化合物は、耐炎化促進成分と共通する化合物であり、特に好ましい。カルボキシル基を有する緻密化促進成分の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸、メサコン酸などが挙げられるが、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。更に、重合後の共重合体のカルボキシル基を塩基で中和することによって、共重合体の親水性を上げることが好ましい。それにより繊維の緻密性が大幅に向上する。中和する量は、カルボキシル基の全量を中和しても良いし、親水性付与に必要最小限の分だけ中和しても良い。中和する塩基の具体例としては、薬品コストや取り扱い安さ、炭素繊維特性への悪影響などを考慮すると、アンモニアが特に好ましく適用される。酸素透過促進成分としては、重合性不飽和カルボン酸のエステルが好ましく、特にノルマルプロピルエステル、ノルマルブチルエステル、イソブチルエステル、セカンダリーブチルエステル、炭素数が5以上であるアルキルのエステルより選ばれたエステルのようにバルキーな側鎖を有するエステルが好ましい。具体例としては、アクリル酸ノルマルプロピル、メタクリル酸ノルマルブチル等が好ましい。アクリル共重合体は、乳化重合、隗状重合あるいは溶液重合等の公知の方法によって重合することができ、紡糸原液はジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、硝酸あるいはロダンソーダー水溶液などにより調製することができる。尚、紡糸原液中のAN共重合体の濃度は、好ましくは15〜20重量%である。AN共重合体の濃度が13重量%未満の場合は、乾湿式紡糸法により得られる繊維の表面に、フィブリルに起因する凹凸の発生が顕在化し、得られる炭素繊維の強度特性が低下することがある。
【0037】
本発明において、アクリル系繊維を製造するに当たり、紡糸原液は円形孔口金から一旦気体雰囲気中に吐出し、2〜10mmのエアーギャプを通過させて凝固浴中に導いて糸条となし、凝固浴中に設置された折り返しガイドを介して、糸条を凝固浴から外に引き取る乾湿式紡糸法が適用される。
【0038】
前記凝固浴は、好ましくはジメチルスルホキシド20〜45重量%水溶液、さらに好ましくは25〜35重量%がよい。すなわち、濃度が45%以下の場合、繊維断面の外接円径(a)と内接円径(b)の比a/bが1.1以下となり円形になる。
【0039】
凝固浴の温度は、−5〜25℃が好ましく、0〜20℃がより好ましく、5〜10℃がさらに好ましい。
【0040】
本発明において、凝固糸を引き取り、水洗後、浴延伸するに際し、各浴の温度差を7℃以下の多段昇温浴とし、1.5〜4.0倍に延伸する。また、延伸浴では、入り側ローラーによる熱圧着のため、単繊維間接着が生じやすいため、入り側ローラーを、延伸浴外に出すのが効果的である。また、単繊維間接着の前段階の疑似接着を解除するために、浴中に振動ガイドを設けて、搬送される糸条に振動を与えることも有効である。その際の振動数は、5〜100Hzが好ましく、振幅については0.1〜10mmが好ましい。
【0041】
本発明において、浴中延伸後の糸条は、焼成工程での単繊維間接着を有効に防止するために1〜10重量%の油剤が付与される。一般的にはシリコーン系油剤を付与した後、ホットドラムなどで乾燥することで、糸条、すなわち繊維の乾燥緻密化が達成される。ここでの乾燥温度、乾燥時間などは、適宜変更することができる。前記シリコーン系油剤は、油剤成分に、アミノ変性シリコーンが含まれることが好ましく、さらに該シリコーンに加えて、エポキシ変性シリコーンやアルキレンオキサイド変性シリコーンが含まれることがより好ましい。アミノ変性シリコーンについては、モノアミン型でもポリアミン型でも良い。また、アミノ基は側鎖に導入されていても良く、分子鎖末端に導入されていても良いが、分子鎖の末端のみが変性されているときは、充分な変性量が確保できないことがある。さらには、アミノ基は、側鎖、分子鎖末端両方に導入されていても良い。
【0042】
その後、乾燥緻密化後の糸条は、加圧スチーム雰囲気中の高温環境で、10〜100倍に延伸しながら熱処理する。かかる熱処理により、シリコーンの架橋反応、及びまたは、糸条表面において油剤が拡がりのびる現象、いわゆる油剤の拡展、が促進され、単繊維間接着に由来する表面欠陥の発生を防ぐ効果が大きくなり、より望ましい繊度、結晶配向度を有するアクリル系前駆体繊維を得ることができる。アクリル系前駆体繊維束の単繊維数は生産効率と物性の両立から3000〜48000本/束が好ましく、6000〜24000本/束がより好ましく、6000〜18000本/束がさらに好ましく、6000〜12000本/束が特に好ましい。
【0043】
前記したような好ましい方法で製造された前駆体繊維束は、焼成することにより、高い性能を有する炭素繊維とすることができる。
【0044】
上記本発明の製造方法によって得られた炭素繊維は、複合材のILSS、圧縮強度、等の基本特性を向上させることができる。
【0045】
また、本発明の上記炭素繊維束を、不活性雰囲気下で1950〜3000℃で黒鉛化処理することによって圧縮強度に優れた黒鉛化繊維を得ることが可能となる。
【0046】
本発明の炭素繊維複合材料に用いるマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれであってもよく、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。本発明の炭素繊維複合材料は、プリプレグやシートモールディングコンパウンド(SMC)、あるいはチョップトファイバー等に一旦加工した後にハンドレイアップ法、プレス成型法、オートクレーブ法等により製造することができる。また、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等により成形することもできる。
【0047】
【実施例】
以下実施例により、本発明を具体的に説明する。実施例においては、各物性値は次に示す方法により測定した。
<吸光度の測定方法>
炭素繊維束5gを200ccのビーカーに入れ、TEAH20%水溶液(三洋化成社製EAH20)を注ぎ、このとき炭素繊維束がTEAH20%水溶液に馴染むよう浸積させた。続いてこのビーカーを水の入った恒温槽(ADVANTEC社製 SHAKING BASS TS−300)に浸し、槽内水温40℃±2℃、2Hzの振動を与えながら4時間抽出処理を行った。このあと、ビーカーから炭素繊維束を取り出し、得られた抽出液の吸光度を自記分光光度計により測定した。抽出液は透過幅10mmの角石英セルに入れ、対象液に精製水を用いた。自記分光光度計としては島津社製スペクトロフォトメーター(UV−240)を用い、測定波長を254nmとして測定した。
<耐炎化繊維のギ酸溶解度>
試料として耐炎化繊維束(約2.5g)をかせ巻きにして秤量瓶に入れ、120℃×2hr乾燥後、絶乾重量を測定した。次に共栓付き三角フラスコにギ酸(100cc)を注ぎ込み栓をして、三角フラスコを恒温槽にセット、ギ酸液が25℃になるよう振とうしながら温調し、フラスコ内へ試料を投入した。25℃×100分間処理し、三角フラスコから取り出した試料を水洗した後、90℃の熱水中で更に洗浄した。その後、試料を秤量瓶に入れ120℃×2hr乾燥後、絶乾重量を測定した。ギ酸溶解度は下記式により求めた。
【0048】
ギ酸溶解度(%)=(処理前絶乾重量−処理後絶乾重量)÷処理前絶乾重量×100
<炭素繊維束の引張強度、引張弾性率>
炭素繊維束に下記組成の樹脂を含浸させ、130℃で35分間硬化させた後、JIS R7601に基づいて引張試験を行い、ストランド引張強度、ストランド弾性率を求めた。引張試験機にはインストロン(登録商標)試験機4208を使用した。
【0049】
Figure 2004238761
<コンポジット0゜圧縮強度>
炭素繊維束を一方向に引き揃え、下記組成の樹脂をコーティングして得られた樹脂目付51g/mの樹脂フィルムで両側から挟み込んでから加圧ローラで樹脂を炭素繊維に含浸し、繊維目付190g/mのプリプレグシートを作製した。このシートを繊維軸を揃えて積層し、オートクレーブを用いて温度180℃、圧力6kgf/cmで2時間処理して樹脂を硬化させ、繊維体積含有量58%、厚さ約1mmの平板を作製した。この平板をダイヤモンドカッターを用いて切断し、繊維軸方向に長さ80mm、繊維軸方向に幅12mmからなる試験片を作製した。試験片の中央部5mmを残して両端の両側に炭素繊維とエポキシ樹脂からなる厚さ約1mmのコンポジット製タブを接着して、圧縮強度測定用の試験片とした。かかる試験片を用いてASTM−D695に規定する試験方法に従って測定した。尚、実施例中の測定値はVf60%換算した値である。
*樹脂組成
(熱硬化性樹脂)
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート(登録商標)Ep828)、40重量部
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エピコート(登録商標)Ep1001)、50重量部
・フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エピコート(登録商標)Ep154)、10重量部
(熱可塑性樹脂)
・ポリビニルホルマール樹脂(ビニレック(登録商標)K)、5重量部
(添加剤)
・ジシアンジアミド(硬化剤)、3.5重量部
・3、4−ジクロロフェニル−1、1−ジメチルウレア(硬化助剤)、3重量部
<金型法コンポジットILSS(層間剪断強度)の測定>
炭素繊維のマトリックス樹脂に対する接着性の尺度として、以下の方法によりILSS(層間剪断強度)を測定した。金枠に巻き取った炭素繊維束を、炭素繊維の体積含有率(Vf)が60%になるように凹凸かみ合わせの溝幅6mmの凹側金型に入れ樹脂を流し込んだ後、加熱しながら真空脱泡した。脱泡後、厚さ2.5mmのスペーサーを挟んで凹凸金型をかみ合わせて、プレス機にセットし、加圧しながら加熱して樹脂を硬化させ、幅6mm、厚さ2.5mmの平板を作製し、かかる平板を、長さ18mmに切断し、試験片とした。
【0050】
Figure 2004238761
上記、試験片を用い、加圧くさび(上部圧子)の曲率半径を3.18mmとし、支点(下部圧子)の曲率半径を1.59mmとし、支持スパンを試験片の厚みの4倍とした以外はASTM D 2344−76に準拠してショートビーム法による層間剪断強度を測定した。剪断強度は次式により求めた。試験数はn=6とし、その平均値を層間剪断強度とした。試験機にはインストロン(登録商標)試験機4208を用いた。
剪断強度(MPa)=3×荷重(KN)/(4×厚み(mm)×幅(mm))×1000
<炭素繊維の表面積比>
測定試料としては、炭素繊維を長さ数mm程度に切断したものを用いた。測定試料を銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において3次元表面形状の像を得た。原子間力顕微鏡としてはDigital Instruments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムを使用した。測定条件は下記条件とした。
・走査モード:タッピングモード
・探針:Siカンチレバー一体型探針(オリンパス光学工業製 OMCL−AC120TS)
・走査範囲:2.5μm×2.5μm
・走査速度:0.4Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中
各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、前記装置に付属のサフトウエア(NanoScope IIIバージョン4.22r2)によりデータ処理し、1次Flattenフィルタ、Lowpassフィルタ、3次Plane Fitフィルタを用いてフィルタリングし、得られた像全体を対象として実表面積と投影面積を算出した。なお、投影面積については、繊維断面の曲率を考慮し近似した3次曲面への投影面積としたものを用い、表面積比は次式で求めた。
【0051】
表面積比=実表面積/投影面積
各試料について、任意に選んだ単繊維5本について上記の測定を行い、最大値、最小値を除いた3つの値の相加平均値を最終的な表面積比とした。
<広角X線回折による炭素繊維網面の結晶サイズLc>
A.測定試料の作製
試料とする炭素繊維を適当な長さに切り出し、金型とコロジオン・アルコール溶液を用いて固め、角柱を作り測定試料とした。
B.測定条件
X線源:CuKα(Niフィルター使用)
出力 :40kV、20mA
C.結晶サイズLcの測定
透過法により得られた面指数(002)のピークの半値幅から、次のScherrerの式を用いて計算した。
【0052】
Lc(hkl)=Kλ /βcosθ
ここで、
Lc(hkl):微結晶の(hkl)面に垂直な方向の平均の大きさ
K:1.0、λ:X線の波長、β:(β −β 1/2
β:見かけの半値幅(測定値)、β:1.05×10−2rad.
θ :ブラッグ角
である。
(実施例1)
アクリロニトリル99.5モル%、イタコン酸0.5モル%からなる極限粘度[η]が1.80のアクリル共重合体を20重量%含むジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)の紡糸原液を調製し、この紡糸原液に、親水性を向上させるためアンモニアガスを吹き込んだ。
【0053】
こうして得られた紡糸原液を乾湿式紡糸法により孔数3000の紡糸口金から吐出しDMSO水溶液中で凝固させ、凝固糸条を水洗後、浴延伸工程に導き、各槽の温度差を5℃の4段昇温浴で3倍まで延伸した。
【0054】
さらに繊維束を、ノニルフェノールEO付加物により乳化処理したアミノ変性シリコーン油剤濃度が2.0重量%のシリコーン系油剤浴中を通過させ、油剤を糸条重量に対して0.7重量%付与した。
【0055】
次に、180℃に温調した加熱ローラで乾燥緻密化し、加圧スチーム延伸装置で延伸倍率4倍で延伸し、単繊維繊度1.0dtex、総繊度3000dtexのアクリル系繊維を得た。
【0056】
得られたアクリル系繊維束を、耐炎化炉で250〜280℃の空気雰囲気中、延伸倍率を1.0として延伸しながら、処理速度2.5m/分で酸化処理し、比重が1.35、ギ酸溶解度が1.7%の耐炎化繊維束とした。
【0057】
更に、この耐炎化繊維を窒素雰囲気中、400〜500℃における昇温速度を100℃/分とし、650℃まで昇温、延伸倍率を1.05として延伸しながら前炭化処理し、次いで窒素雰囲気中1000〜1200℃における昇温速度を200℃/分とし、1250℃まで昇温し、延伸倍率を0.97として延伸しながら炭化処理した。続いて電気伝導度が19msの重炭酸アンモニウム水溶液を電解液として80クーロン/gで電解酸化処理し、90℃の温水浴で7秒洗浄した。その後水洗・乾燥・サイジング付与し炭素繊維束を得た。
【0058】
その結果、結晶サイズLcは17オングストロームであり、ストランド弾性率が270GPaである炭素繊維束を得た。本実施例の炭素繊維束は式(1)および(2)を満たすものであった。また、本実施例の炭素繊維束はストランド強度が5.4GPaであり、ILSSが130MPaと良好な結果であった。炭素繊維の表面積比は1.02、抽出液によるUV吸光度は0.3であった。かかる炭素繊維束を用いた繊維強化複合材料の圧縮強度は2030MPaであった。
(実施例2)
実施例1と同様の方法で得られたアクリル系前駆体繊維束を、耐炎化炉で250〜280℃の空気雰囲気中、延伸倍率を1.0として延伸しながら、処理速度2m/分で酸化処理し、比重が1.38、ギ酸溶解度が0.9%の耐炎化繊維とした。
【0059】
更に、この耐炎化繊維を窒素雰囲気中、400〜500℃における昇温速度を100℃/分とし、650℃まで昇温し、延伸倍率を1.05として延伸しながら前炭化処理し、次いで窒素雰囲気中1000〜1200℃における昇温速度を200℃/分とし、1250℃まで昇温し、延伸倍率を0.97として延伸しながら炭化処理した。続いて電気伝導度が19msに調整された重炭酸アンモニウム水溶液を電解液として80クーロン/gで電解処理し、90℃の温水浴で7秒洗浄した。その後水洗・乾燥・サイジング付与し炭素繊維束を得た。
【0060】
その結果、結晶サイズLcは16.5オングストロームであり、ストランド弾性率が260GPaである炭素繊維束を得た。本実施例の炭素繊維束は式(1)および(2)を満たすものであった。また、本実施例の炭素繊維束はストランド強度が5.4GPaであり、ILSSが134MPaと良好な結果であった。炭素繊維の表面積比は、抽出液によるUV吸光度は0.1であった。かかる炭素繊維束を用いた繊維強化複合材料の圧縮強度は2110MPaであった。
(実施例3)温水洗浄を行わない以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維束を製造した。得られた炭素繊維束を構成する炭素繊維の結晶サイズLcは17オングストローム、ストランド弾性率が270GPaであり、本実施例の炭素繊維束は式(1)および(2)を満たすものであった。また、本実施例の炭素繊維束はストランド強度も実施例1と同様5.4GPaであり良好であった。また、ILSSは126MPaと比較例2よりは良いが実施例1,2よりやや低下する傾向にあった。炭素繊維の表面積比は1.02、抽出液によるUV吸光度は0.9であった。かかる炭素繊維束を用いた繊維強化複合材料の圧縮強度は2003MPaであった。
(実施例4)温水洗浄の温度を65℃とした以外は実施例1と同様の方法で炭素繊維束を製造した。得られた炭素繊維束を構成する炭素繊維の結晶サイズLcは17オングストローム、ストランド弾性率が270GPaであり、本実施例の炭素繊維束は式(1)および(2)を満たすものであった。また、本実施例の炭素繊維束はストランド強度が5.4GPaであり良好であった。また、ILSSは128MPaであり、実施例3よりは良いが実施例1、2よりはやや低下する傾向にあった。炭素繊維の表面積比は1.02、抽出液によるUV吸光度は0.6であった。かかる炭素繊維束を用いた繊維強化複合材料の圧縮強度は2000MPaであった。
(比較例1)
実施例1と同様の方法で得られたアクリル系前駆体繊維束を、耐炎化炉で250〜280℃の空気雰囲気中、延伸倍率を1.0として延伸しながら、処理速度2.2m/分で酸化処理し、比重が1.37、ギ酸溶解度が1.2%の耐炎化繊維とした。
【0061】
更に、この耐炎化繊維を窒素雰囲気中400〜500℃における昇温速度を100℃/分とし、650℃まで昇温し、延伸倍率を1.05として延伸しながら前炭化処理し、次いで窒素雰囲気中1000〜1200℃における昇温速度を200℃/分とし、1350℃まで昇温し、延伸倍率を0.97として延伸しながら炭化処理し、続いて電気伝導度が19msに調整された重炭酸アンモニウム水溶液を電解液として80クーロン/gで電解処理し、90℃の温水浴で7秒洗浄した。その後水洗・乾燥・サイジング付与し炭素繊維を得た。
【0062】
その結果、結晶サイズLcは18.5オングストロームであり、ストランド弾性率が275GPaである炭素繊維束を得た。本実施例の炭素繊維束は式(1)を満たさないものであった。本実施例の炭素繊維束はストランド強度が5.1GPaであり、ILSSが112MPaと不満足な結果であった。炭素繊維の表面積比は1.02、抽出液によるUV吸光度は0.8であった。かかる炭素繊維束を用いた繊維強化複合材料の圧縮強度は1900MPaであった。
(比較例2)
実施例1と同様の方法で得られたアクリル系前駆体繊維束を、耐炎化炉で250〜280℃の空気雰囲気中、延伸倍率を1.0として延伸しながら、処理速度4.5m/分で酸化処理し、比重が1.30、ギ酸溶解度が2.2%の耐炎化繊維とした。
【0063】
更に、この耐炎化繊維を窒素雰囲気中400〜500℃における昇温速度を100℃/分とし、650℃まで昇温し、延伸倍率を1.05として延伸しながら前炭化処理し、次いで窒素雰囲気中1000〜1200℃における昇温速度を200℃/分とし、1250℃まで昇温し、延伸倍率を0.97として延伸しながら炭化処理し、続いて電気伝導度が19msに調整された重炭酸アンモニウム水溶液を電解液として80クーロン/gで電解処理し、90℃の温水浴で7秒洗浄した。その後水洗・乾燥・サイジング付与し炭素繊維を得た。
【0064】
その結果、結晶サイズLcは16.6オングストロームであり、ストランド弾性率が258GPaである炭素繊維束を得た。本実施例の炭素繊維束は式(1)および(2)を満たすものであったが、本実施例の炭素繊維束はストランド強度が4.9GPaであり、ILSSが108MPaと不満足な結果であった。炭素繊維の表面積比は1.02、抽出液によるUV吸光度は0.8であった。かかる炭素繊維束を用いた繊維強化複合材料の圧縮強度は1912MPaであった。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、炭素繊維の圧縮強度、引張強度、引張弾性率など繊維方向の特性と炭素繊維とマトリックス樹脂との間の適度な接着性とを両立することが可能となった。また、かかる炭素繊維を強化繊維として用いることにより、機械特性、特に圧縮強度に優れた繊維強化複合材料を得ることが可能となった。

Claims (11)

  1. ストランド弾性率YM(GPa)と結晶サイズLc(オングストローム)の関係において下記(式1)および(式2)を満足する炭素繊維束。
    YM>−0.092Lc +13.619Lc+27.6 (式1)
    14≦Lc≦17 (式2)
  2. 水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液に炭素繊維束を浸漬せしめて得た抽出液のUV吸光度が1以下である請求項1記載の炭素繊維束。
  3. 繊維束を構成する単繊維の原子間力顕微鏡により測定される表面積比が1.00〜1.03、且つ単繊維直径が6μm以上である請求項1または2記載の炭素繊維束。
  4. 多官能の脂肪族エポキシ樹脂を主剤とするサイジング剤が0.5〜1.5重量%付着してなる請求項1〜3いずれか記載の炭素繊維束。
  5. アクリル系前駆体繊維束を酸化性雰囲気下の加熱処理によりギ酸溶解度が2%以下の耐炎繊維束とした後、かかる耐炎化繊維束を1300℃を超えない温度で炭化する炭素繊維束の製造方法。
  6. 耐炎化繊維束の比重を1.3〜1.4とする請求項5記載の炭素繊維束の製造方法。
  7. 炭化処理後にアルカリ電解処理し、温水で洗浄する請求項5または6記載の炭素繊維束の製造方法。
  8. 前記温水洗浄の温水温度を70〜95℃とする請求項7記載の炭素繊維束の製造方法。
  9. 乾湿式紡糸方法により得られたアクリル系前駆体繊維束を用いる請求項5〜8いずれか記載の炭素繊維束の製造方法。
  10. 請求項1〜4いずれか記載の炭素繊維束を1950〜3000℃の不活性雰囲気下で加熱処理する黒鉛化繊維束の製造方法。
  11. 請求項1〜4いずれか記載の炭素繊維束と樹脂硬化物からなる繊維強化複合材料。
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