JP2004225132A - 深絞り性に優れた高強度冷延鋼板及びめっき鋼板、加工性に優れた鋼管、並びに、それらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.025〜0.25%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.01〜3.0%、P:0.001〜0.15%、S:0.05%以下、N:0.0005〜0.010%、Al:0.008%未満、B:0.0005〜0.010%を満たす範囲で含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライトの1種または2種以上を体積率で2%以上含有し、平均r値が1.1以上であることを特徴とする深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、自動車のパネル類、足廻り、メンバー、フレームなどに用いられる鋼板と鋼管、及び、その製造方法に関するものである。
【0002】
本発明の鋼板は、表面処理をしない冷延鋼板と、防錆のために溶融亜鉛めっき、電気めっきなどの表面処理を施したものの両方を含む。亜鉛めっきとは、純亜鉛のほか、主成分が亜鉛である合金のめっきも含む。また、本発明の鋼管はハイドロフォーム成形用の鋼管素材としても好適である。
【0003】
本発明によれば、成形性に優れた高強度鋼板と鋼管を安価に得ることができるため、地球環境保全に貢献し得るものと考えられる。
【0004】
【従来の技術】
自動車の軽量化ニーズに伴い、鋼板の高強度化が望まれている。鋼板を高強度化することで、板厚減少による軽量化や衝突時の安全性向上が可能となる。
【0005】
しかしながら、高強度で成形性特に深絞り性が優れた鋼板を得ようとすると、従来では、例えば、特許文献1に開示されているように、C量を著しく減じた極低炭素アルミキルド鋼にSi、Mn、Pなどを添加して強化することが必須であった。
【0006】
C量を低減するためには製鋼工程で真空脱ガスを行わねばならず、製造過程でCO2を多量に発生することになり、地球環境保全の観点で必ずしも最良なものとは言い難い。
【0007】
これに対して、C量が比較的多く、かつ深絞り性の良好な鋼板についても開示されている。例えば、特許文献2、3などに開示されている。しかしながら、これらはアルミキルド鋼の箱焼鈍が前提となっており、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっきプロセスなどに比較すると生産性に劣る。
【0008】
また、箱焼鈍では、高温焼鈍が困難であること、また、一般に強制冷却装置が備わっていないのでオーステナイト相やマルテンサイト相などを得ることが困難で、組織強化を活用しにくい。したがって、合金添加量の割には強度が低い点も問題である。
【0009】
Al量に関しては、特許文献1及び特許文献2に開示された発明は、いずれも、NをAlNとして固定するために、0.02%以上添加することを必須とするものである。
【0010】
また、特許文献3に記載された発明は、Alを0.005〜0.100%含有するものであるが、その目的は、特許文献1、2開示の発明と同様に、NをAlNとして固定するためであり、Al量を0.008%未満としてAlNの析出を抑制して、B添加によりr値の向上を図るという本発明の技術的思想とは何れも異なる。
【0011】
【特許文献1】
特開昭56−139654号公報
【特許文献2】
特公昭57−47746号公報
【特許文献3】
特公平1−37456号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、C量の比較的多い鋼において、成形性の良好な高強度鋼板と鋼管を高いコストをかけることなく、また、地球環境に過度の負荷をかけることなく,良好な深絞り性を有する鋼板、及び、良好な加工性を有する鋼管、並びに、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記のような課題を解決すべく鋭意検討を進めたところ、C量が比較的多くても深絞り性の良好な鋼板、鋼管を得ることが可能であることを発見した。しかも従来のような箱焼鈍プロセスに頼る必要もない。
【0014】
すなわち、Alを低減してB及びNを微量添加した鋼種を用いることにより、最終焼鈍を生産性の良い連続ラインで実施しても、冷延焼鈍後の深絞り性を向上させることが可能であることを見出したものである。
【0015】
この理由は必ずしも明らかではないが、次のように考えられる。
【0016】
一般にC量の比較的多い鋼では、冷延時にせん断歪が導入されやすい。このため、これを焼鈍すると、せん断歪の多い箇所から優先的に再結晶が生じる。このとき、再結晶粒の結晶方位は深絞り性に好ましくない場合が多く、このためC量が多い鋼では、r値が1.0以下となってしまうものと考えられる。
【0017】
Alを低減してB及びNを微量添加すれば、再結晶初期の深絞り成形に好ましくない方位の核生成及び成長を抑制し、深絞り成形に好ましい方位の再結晶粒の核生成及び成長を促すものと考えられる。
【0018】
本発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、C:0.025〜0.25%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.01〜3.0%、P:0.001〜0.15%、S:0.05%以下、N:0.0005〜0.010%、Al:0.008%未満、B:0.0005〜0.010%を満たす範囲で含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライトの1種又は2種以上を体積率で2%以上含有し、平均r値が1.1以上であることを特徴とする深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0019】
(2)圧延方向に対して直角方向のr値をrC、圧延方向のr値をrLとしたときに、rC≧rLであることを特徴とする前記(1)に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0020】
(3)Mn及びCを、Mn+11×C>1.5を満たす範囲で含有することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0021】
(4)鋼板1/2板厚における板面の{111}、及び、{100}のX線反射面ランダム強度比が、それぞれ、2.0以上、及び、3.0以下であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0022】
(5)Zr、Ce、Mgの1種又は2種以上を合計で0.0001〜0.5質量%含むことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0023】
(6)Ti、Nb、Vの1種又は2種以上を合計で0.001〜0.2質量%含むことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0024】
(7)Sn、Cr、Cu、Ni、Co、W、Moの1種又は2種以上を合計で0.001〜2.5質量%含むことを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0025】
(8)Caを0.0001〜0.01質量%含むことを特徴とする前記(1)〜(7)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
【0026】
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板を製造する方法であって、前記(1)、(3)、(5)〜(8)のいずれかに記載の化学成分を有し、かつ、少なくとも板厚の1/4〜3/4においては、ベイナイト相及びマルテンサイト相のうち1種又は2種の体積率が合計で70%以上である組織を有する熱延鋼板に、圧下率25%以上95%以下の冷間圧延を施し、再結晶温度以上1000℃以下で連続焼鈍することを特徴する深絞り性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
【0027】
(10)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板を製造する方法であって、前記(1)、(3)、(5)〜(8)のいずれかに記載の化学成分を有する鋼を熱間圧延して、(Ar3−50)℃以上で熱間圧延を完了し、熱延仕上げ温度から550℃までを平均冷却速度30℃/s以上で冷却し、550℃以下の温度で巻き取り、次いで、冷間圧延、連続焼鈍を施すことを特徴する深絞り性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
【0028】
(11)前記(9)又は(10)に記載の連続焼鈍に引き続き、亜鉛めっきを施すことを特徴とする深絞り性に優れた高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0029】
(12)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の鋼板からなる鋼管であることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼管。
【0030】
(13)前記(9)〜(11)のいずれかに記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板又は高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法にしたがって製造した鋼板を接合して鋼管とすることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼管の製造方法。
にある。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0032】
C:高強度化と良成形性を両立させるのに有効な元素であるため、積極的に添加する。0.025質量%以上の添加とするが、良好なr値や溶接性を得るためには過度の添加は好ましいものではなく、上限を0.25質量%とする。0.05〜0.17質量%が望ましい範囲である。より好ましくは、0.08〜0.16質量%である。
【0033】
Si:安価に機械的強度を高めることが可能であり、要求される強度レベルに応じて添加する。また、Siは熱延板中に存在する炭化物の量を低減したり、炭化物の大きさを微細にすることを通じて、r値を高める効果を有する。
【0034】
一方で、過剰の添加は、メッキのぬれ性や加工性の劣化を招くだけでなく、熱延板組織の主相をベイナイトやマルテンサイトとすることが困難となるので、上限を3.0質量%とし、2.5質量%以下とすることが好ましい。
【0035】
下限を0.001%としたのは、これ未満とするのが製鋼技術上困難なためである。r値を向上せしめる観点からは、0.4〜2.3質量%が、より好ましい範囲である。
【0036】
Mn:高強度化に有効であるばかりでなく、熱延組織をベイナイトやマルテンサイトを主相とする組織とするのに有効な元素である。一方で、過度の添加は、r値を劣化させるので、3.0質量%を上限とする。0.01質量%未満にするには製鋼コストが上昇し、また、Sに起因する熱間圧延割れを誘発するので、0.01質量%を下限とする。0.8〜2.4質量%が良好な深絞り性を得るために好ましい範囲である。
【0037】
P:高強度化に有効な元素であるので、0.001質量%以上添加する。0.15質量%超を添加すると、溶接性や溶接部の疲労強度、さらには耐2次加工脆性が劣化するので、0.15質量%を上限とする。好ましくは0.06質量%が上限である。また、特に良好な溶接部の疲労強度が求められる場合には、0.015質量%が上限となる。
【0038】
S:不純物であり、低いほど好ましく、熱間割れを防止するために、0.05質量%以下とし、0.03質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.015質量%以下である。また、Mn量との関係において、Mn/S>10であることが好ましい。
【0039】
N:Bと結合して再結晶初期の核生成及び成長を制御する重要な元素である。多すぎると熱延時に析出して、再結晶初期段階での結晶方位制御作用が損なわれ、さらには耐常温時効性を劣化させるため、上限を0.010質量%とする。
【0040】
また、Nを0.0005質量%未満とすると、前述の結晶方位制御が困難となるばかりか、製鋼コストの大幅な増加を招くため、0.0005質量%を下限とする。0.0015〜0.0050質量%が、深絞り性に対してより好ましい範囲である。
【0041】
Al:Alの成分範囲は本発明の特徴である。すなわち、本発明においては、Alを添加しないか、もしくは、含有量を極微量にとどめることが、良加工性を得るためには極めて重要であることを見出した。
【0042】
この理由は定かではないが、Al量が多すぎるとNと結合してAlNが析出して、後述のBの効果を抑制するためと考えられる。
【0043】
Alは、通常、脱酸元素として用いられるが、前述の理由により、加工性を低下させたり、また、アルミナ(Al2O3)クラスター起因のキズが発生しやすくなり、これを抑制するためには、Alを極力低減することが好ましく、上限を0.008質量%未満とする。
【0044】
また、下限は特に規定はしないが、精錬時に不可避的に混入するレベルを考慮し、0.0001質量%とすることが好ましい。加工性及び安定製造性の点で、好ましい上限は0.005質量%未満である。
【0045】
B:Bは、本発明において重要な元素であり、焼鈍時の加熱速度や冷間圧延率等の製造条件によらず安定的に良好なr値を得るために、0.0005質量%以上添加する。ただし、過度に添加すると加工性を低下させたり、再結晶温度の高温化を招くため、上限を0.010質量%とする。好ましくは0.0008〜0.0035質量%である。
【0046】
本発明の鋼板の組織は、以下のとおりである。すなわち、ベイナイト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライトの1種又は2種以上を、合計で、少なくとも2%含有する組織であることが好ましい。5%以上がさらに好ましい。残部はフェライトで構成されることが望ましい。ベイナイト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライトは、鋼の機械的強度を高めるのに有効だからである。
【0047】
また、よく知られているように、ベイナイトはバーリング加工性や穴広げ性を向上させ、オーステナイトはn値や伸びを向上させ、マルテンサイトはYR(降伏強度/引張強度)を低くする効果を有するので、製品板に対する要求特性に応じて、適宜、上記の各相の体積率を変化させればよい。
【0048】
ただし、その体積率が2%未満では、あまり明確な効果が期待できない。例えば、バーリング特性を向上させるためには、90%以上のベイナイトと10%以下のフェライトからなる組織が好ましく、また、伸びを向上させるためには、5%以上の残留オーステナイトと95%以下のフェライトからなる組織が好ましい。
【0049】
なお、ここでのベイナイトとは、上部ベイナイトや下部ベイナイトのほか、アシキュラーフェライトやベイニティックフェライトを含む。パ−ライトは、特に加工性を向上させるものではないが、不可避的に得られる場合があり、また、箱焼鈍をして得られる炭化物と区別する意味であえて規定した。組織を判定する際には、析出物や炭化物は除外することとする。
【0050】
組織の体積率は、光学顕微鏡組織より、任意の500点を選択して組織を判断する、いわゆるポイントカウント法で測定することが好ましい。但し、オーステナイトについては、組織からの判断が困難であるため、X線回折により結晶構造から判断することが好ましい。
【0051】
本発明によって得られる鋼板の平均r値は1.1以上である。より好ましくは、平均r値が、1.2超である。なお、平均r値は、(rL+2×rD+rC)/4で与えられる。ここで、rLは圧延方向のr値、rDは圧延方向と45度のr値、rCは圧延方向に対して直角方向のr値である。
【0052】
r値は、JIS13号B又はJIS5号B試験片を用いた引張試験を行い、10%又は15%引張後の標点間距離の変化と板幅変化からr値の定義にしたがって算出すればよい。均一伸びが10%に満たない場合には、3%以上で均一伸び以下の引張変形を与えて評価すればよい。
【0053】
また、一般的にL方向に比べてC方向の加工性が悪いが、rC≧rLであれば、加工性の異方性を低減できるため、好ましい。
【0054】
Mn量及びC量は、Mn+11×C>1.5を満たすように含有することが好ましい。この条件を満足することで、熱延組織をベイナイトやマルテンサイトを主相とする組織にしやすいためである。より好ましくは、Mn+11×C>2.0である。
【0055】
本発明によって得られる鋼板は、少なくとも板厚中心における板面のX線反射面ランダム強度比が、{111}面、及び、{100}面について、それぞれ、2.0以上、及び3.0以下であることが好ましい。より好ましくは、それぞれ、2.0以上、及び、2.0以下である。
【0056】
ランダム強度比とは、ランダムサンプルのX線強度を基準としたときの相対的な強度である。板厚中心とは、板厚の3/8〜5/8の範囲を指し、測定は、この範囲の任意の面で行えばよい。級数展開法によって計算された3次元集合組織のφ2=45°断面上の(111)[1−10]、(111)[1−21]、及び、(554)[−2−25]の強度は、それぞれ、2.0以上、2.5以上、及び、2.5以上であることが望ましい。
【0057】
なお、本発明においては、{110}面のX線強度が0.1以上となる場合があり、このとき、上記のφ2=45°断面において(110)[001]の強度が1.0以上となることがある。このためrCがrLに対して大きくなることが多い。
【0058】
Zr、Ce及びMgは脱酸元素として有効である。一方、過剰の添加は、酸化物、硫化物や窒化物の多量の晶出や析出を招き、清浄度が劣化して、延性を低下させてしまう上、メッキ性を損なう。したがって、必要に応じて、これらの1種又は2種以上の合計を、0.0001〜0.5質量%添加することが好ましい。
【0059】
Ti、Nb、Vも必要に応じて添加する。これらは、Bと同様に、熱延組織をベイナイトやマルテンサイト組織とすることを介してr値を向上させるほか、炭化物、窒化物もしくは炭窒化物を形成することによって、鋼材を高強度化したり、穴広げ性などの加工性を向上するのにも有効であるので、これらの1種又は2種以上を、合計で0.001質量%以上添加する。
【0060】
その合計が0.2質量%を越えた場合には、母相であるフェライト粒内もしくは粒界に、多量の炭化物、窒化物もしくは炭窒化物として析出して、延性を低下させることから、添加範囲を0.001〜0.2質量%とする。より好ましくは0.01〜0.03質量%である。
【0061】
Sn、Cr、Cu、Ni、Co、W、Moは強化元素であり、必要に応じて、これらの1種又は2種以上を、合計で、必要に応じて、0.001質量%以上添加する。過剰の添加は、コストアップや延性の低下を招くことから、2.5質量%以下とした。
【0062】
Ca:介在物制御のほか脱酸に有効な元素で、適量の添加は熱間加工性を向上させるが、過剰の添加は逆に熱間脆化を助長させるため、必要に応じて、0.0001〜0.01質量%添加する。
【0063】
また、不可避的不純物として、O、Zn、Pb、As、Sbなどを、それぞれ、0.02質量%以下の範囲で含んでも、本発明の効果を失するものではない。
【0064】
冷間圧延に供する熱延板の組織は、少なくとも板厚1/4〜3/4の範囲においては、ベイナイト相及びマルテンサイト相の1種又は2種の体積率を、合計で70%以上とすることが好ましい。
【0065】
これによって、成分によって達成されるr値の向上効果を助長できる。上記体積率は80%以上が好ましく、90%で以上であればさらに好ましい。また、板厚の全範囲にわたってこのような組織を有することが好ましいことは言うまでもない。
【0066】
熱延組織をベイナイトやマルテンサイトとすることが冷延焼鈍後の深絞り性を向上させる理由は、必ずしも明らかではないが、熱延板における炭化物を微細にすること、さらには、結晶粒径を微細にする効果によるものと推測される。
【0067】
なお、ここでのベイナイトとは、上部ベイナイトや下部ベイナイトのほか、アシキュラーフェライトやベイニティックフェライトを含む。炭化物を微細化する観点からは、上部ベイナイトよりも下部ベイナイトの方が好ましいことは言うまでもない。
【0068】
また、最終組織である冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板のベイナイトも上部ベイナイトや下部ベイナイトのほか、アシキュラーフェライトやベイニティックフェライトを含むものとする。
【0069】
製造にあたっては、高炉、転炉、電炉等による溶製に続き、各種の2次製錬を行い、インゴット鋳造や連続鋳造を行い、連続鋳造の場合には、室温付近まで冷却することなく熱間圧延するCC−DRなどの製造方法を組み合わせて製造してもかまわない。鋳造インゴットや鋳造スラブを再加熱して熱間圧延を行っても良いのは言うまでもない。
【0070】
熱間圧延の加熱温度は特に限定するものではないが、後述する仕上げ温度を確保するためには、1100℃以上とすることが好ましい。
【0071】
熱間圧延の1パス以上について潤滑を施しても良い。また、粗圧延バーを互いに接合し、連続的に仕上げ熱延を行っても良い。粗圧延バーは一度巻き取って再度巻き戻してから仕上げ熱延に供してもかまわない。
【0072】
熱延の仕上げ温度は、(Ar3−50)℃以上で行うことが好ましい。さらに好ましくはAr3変態温度以上である。熱延仕上げ温度がこれよりも低いと、熱延組織をベイナイトやマルテンサイトとすることが困難となる。仕上温度の上限は特に限定しないが、均一な熱延組織を得るためには、1000℃以下とすることが好ましい。
【0073】
熱延後の冷却速度は、550℃までを平均冷却速度30℃/s以上で冷却することが好ましい。このことによって熱延組織がベイナイトやマルテンサイトを主体とした組織が得られる。一方、平均冷却速度の上限は特に限定しないが、現存する設備の能力を考慮すると、200℃/s以下とすることが好ましい。
【0074】
巻取温度は550℃以下とするのが好ましい。さらに好ましくは、400℃以下である。熱延板をベイナイトやマルテンサイトが主相の組織とし、粗大な炭化物の析出を抑制することで、冷延焼鈍後に良好なr値を得るためである。一方、巻取温度の下限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、固溶Cを低減する観点から200℃以上とすることが好ましい。
【0075】
熱間圧延後は酸洗することが望ましい。
【0076】
熱延後の冷間圧延における圧下率は、25〜95%とすることが好ましい。冷延率が25%未満又は95%超であると、r値が低くなるので,25〜95%に限定する。35〜70%がより好ましい範囲である。
【0077】
焼鈍温度は、再結晶温度以上1000℃以下とすることが好ましい。本発明における再結晶温度とは、10sの保定を伴う連続焼鈍ラインにて焼鈍を実施した際に、再結晶が開始する温度を示す。焼鈍温度が再結晶温度未満であると、良好な集合組織が発達せずr値も劣悪となりやすい。
【0078】
また、連続焼鈍や連続溶融亜鉛めっき工程にて焼鈍する場合には、焼鈍温度を1000℃超とすると、ヒートバックル等を誘発し、板破断などの原因となるので、1000℃を上限とする。
【0079】
焼鈍後にベイナイト、オーステナイト、マルテンサイトの第2相を得たい場合には、焼鈍温度をα+γ2相領域又はγ単相域にて加熱し、それぞれの相を得るのに適した冷却速度と過時効条件、溶融亜鉛めっきを施す場合には、めっき浴温度や、引き続く合金化温度を選択する必要があることは言うまでもない。なお、本発明では、焼鈍は連続ラインに限定しており、箱焼鈍は含まない。
【0080】
焼鈍の後、亜鉛を主体とするめっきを施しても構わない。亜鉛めっきは連続溶融亜鉛めっきラインで焼鈍とめっきを連続で行うことが好ましい。溶融亜鉛めっき浴に浸漬の後、加熱して亜鉛めっきと地鉄との合金化を促す処理を行っても良い。また、溶融亜鉛めっきのほか、亜鉛を主体とする種々の電気めっきを行っても良いことは言うまでもない。
【0081】
焼鈍後や亜鉛めっき後のスキンパスは、形状矯正や強度調整、さらには常温非時効性を確保する観点から必要に応じて行う。0.3〜5.0%が好ましい圧下率である。
【0082】
本発明で得られる鋼板の引張強度は340MPa以上である。
【0083】
このようにして製造された鋼板を接合して鋼管とすることができる。鋼板の圧延方向が管軸方向と一致することが望ましい。圧延方向以外、例えば、圧延方向と直角方向が管軸方向となるようにしても、ハイドロフォーム用として特に劣るものではないが、鋼管製造の生産性が低下するためである。
【0084】
鋼管の製造にあたっては、通常は電縫溶接を用いるが、TIG、MIG、レーザー溶接、UOや鍛接等の溶接・造管手法等を用いることもできる。これらの溶接鋼管製造において、溶接熱影響部は、必要とする特性に応じて局部的な固溶化熱処理を単独あるいは複合して、場合によっては、複数回重ねて行っても良く、本発明の効果をさらに高める。
【0085】
この熱処理は、溶接部と溶接熱影響部のみに付加することが目的であって、製造時にオンラインで、あるいはオフラインで施行できる。
【0086】
鋼管のr値については、鋼板のそれと同じ特徴を持つ。鋼管のr値の測定は、鋼管から試験片を切り出し、プレスによって平板とし、さらに引張試験片に加工して行う。
【0087】
鋼管の径や試験片の採取方向によっては、JIS13号B試験片を採取することが困難な場合があるが、その際には、JIS6号やJIS14号B試験片等の小型試験片を用いて、均一伸びの範囲内で評価する。なお、鋼管から試験片を切り出す際には、鋼管の溶接部が引張試験片の平行部内に含まれないように注意する。
【0088】
X線測定は、鋼管そのものでは測定することができないので、次のようにして行う。まず、鋼管を適当に切断して、プレス等により板状とする。これを測定板厚まで、機械研磨などによって減厚し、最終的には、1平均結晶粒径以上を目安に30〜100μm程度減厚させるよう化学研磨によって仕上げる。
【0089】
本発明の鋼管は表面粗度が小さい。すなわち、JISB0601で規定されるRaが0.8μm以下であることが好ましい。高温縮経加工によって製造された鋼管のRaが0.8μm超であるのとは対照的である。より好ましくは0.6μm以下である。
【0090】
【実施例】
表1に示す成分の各鋼を溶製して1250℃に加熱後、仕上げ温度をAr3変態温度以上とする熱間圧延を行い、表2に示す条件で冷却後、巻き取った。そのとき得られた熱延組織も表2中に示す。さらに、表2に示す条件で冷延を行い、1.0mmの鋼板を得た。次いで、焼鈍時間を60sの連続焼鈍及び鋼種によっては過時効処理(180s)を行った。焼鈍温度及び過時効温度は表2に示すとおりである。さらに0.8%のスキンパスを施した。
【0091】
得られた鋼板のr値をJIS13号B試験片で、その他の引張特性はJIS5号試験片を用いた引張試験により評価した。また、X線測定に供する試料は、機械研磨によって板厚中心付近まで減厚し、化学研磨によって仕上げることにより作製した。
【0092】
得られた鋼板を電縫溶接によって造管し、直径60mmの鋼管とした。得られた鋼管の加工性の評価は以下の方法で行った。前もって鋼管に10mmφのスクライブドサークルを転写し、内圧と軸押し量を制御して、円周方向への張り出し成形を行った。
【0093】
バースト直前での最大拡管率を示す部位(拡管率=成形後の最大周長/母管の周長)の軸方向の歪εΦと円周方向の歪εθを測定した。
【0094】
この2つの歪の比ρ=εΦ/εθと最大拡管率をプロットし、ρ=−0.5となる拡管率Reをもってハイドロフォームの成形性指標とした。引張強度と伸びの評価はJIS12号弧状試験片を用いて行った。
【0095】
また、鋼管のr値の測定は、鋼管から試験片を切り出し、プレスによって平板とし、さらに引張試験片に加工して行い、JIS13号B試験片を用いて行った。
【0096】
表3(表2の続き)及び表4より明らかなとおり、本発明例によれば、良好な加工性を得ることができる。また、熱延板の組織にベイナイトやマルテンサイトを残存させた場合には、r値がさらに向上する。しかも、フェライトの他に、適量のオーステナイトやマルテンサイトが分散した複合組織鋼とすることができた。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
【発明の効果】
本発明は、深絞り性に優れた高強度鋼板と鋼管、及び、その製造方法を提供するものであり、地球環境保全などに貢献するものである。
Claims (13)
- 質量%で、
C :0.025〜0.25%、
Si:0.001〜3.0%、
Mn:0.01〜3.0%、
P :0.001〜0.15%、
S :0.05%以下、
N :0.0005〜0.010%、
Al:0.008%未満、
B :0.0005〜0.010%
を満たす範囲で含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、金属組織がベイナイト、オーステナイト、マルテンサイト、パーライトの1種又は2種以上を体積率で2%以上含有し、平均r値が1.1以上であることを特徴とする深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。 - 圧延方向に対して直角方向のr値をrC、圧延方向のr値をrLとしたときに、rC≧rLであることを特徴とする請求項1に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- Mn及びCを、Mn+11×C>1.5を満たす範囲で含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- 鋼板1/2板厚における板面の{111}、及び、{100}のX線反射面ランダム強度比が、それぞれ、2.0以上、及び、3.0以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- Zr、Ce、Mgの1種又は2種以上を合計で0.0001〜0.5質量%含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- Ti、Nb、Vの1種又は2種以上を合計で0.001〜0.2質量%含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- Sn、Cr、Cu、Ni、Co、W、Moの1種又は2種以上を合計で0.001〜2.5質量%含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- Caを0.0001〜0.01質量%含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板を製造する方法であって、請求項1、請求項3、請求項5〜8のいずれか1項に記載の化学成分を有し、かつ、少なくとも板厚の1/4〜3/4においては、ベイナイト相及びマルテンサイト相のうち1種又は2種の体積率が合計で70%以上である組織を有する熱延鋼板に、圧下率25%以上95%以下の冷間圧延を施し、再結晶温度以上1000℃以下で連続焼鈍することを特徴する深絞り性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板を製造する方法であって、請求項1、請求項3、請求項5〜8のいずれか1項に記載の化学成分を有する鋼を熱間圧延して、(Ar3−50)℃以上で熱間圧延を完了し、熱延仕上げ温度から550℃までを平均冷却速度30℃/s以上で冷却し、550℃以下の温度で巻き取り、次いで、冷間圧延、連続焼鈍を施すことを特徴する深絞り性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
- 請求項9又は10に記載の連続焼鈍に引き続き、亜鉛めっきを施すことを特徴とする深絞り性に優れた高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度鋼板からなる鋼管であることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼管。
- 請求項9〜11のいずれか1項に記載の深絞り性に優れた高強度冷延鋼板又は高強度亜鉛めっき鋼板の製造方法にしたがって製造した鋼板を接合して鋼管とすることを特徴とする加工性に優れた高強度鋼管の製造方法。
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