JP2004269994A - 生体適合性Co基合金及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【構成】Cr:26〜30質量%,Mo:6〜12質量%,C:0.3質量%以下を含み、水焼入れ後の熱処理でε単相組織になっている生体用Co基合金である。所定組成に調整されたCo基合金を温度域1000〜1250℃で均熱した後、水焼入れし、次いで700〜1000℃の温度域で熱処理するとき、延性能が極めて高いε単相組織に調整される。冷間加工後に再結晶焼鈍すると、耐磨耗性,疲労強度の向上に有効な微細粒からなる再結晶組織になる。また、再結晶焼鈍によって延性能が回復するので再度の冷間加工、更には再結晶焼鈍,冷間加工の繰返しによって目標形状に成形できる。
【選択図】 図5
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、耐食性,耐磨耗性,加工性に優れ、人口骨材の補綴材料として好適な生体適合性Co基合金及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
生体用Co−Cr合金には、鋳造用(HS−21),加工用(HS−25)VitalliumやCo−Ni−Cr−Mo(MP35N)が使用されている。
鋳造用Vitallium(HS−21)は、5〜7質量%のMoを含む高Cr(30質量%)のCo合金であり、Vitalliumのなかで最も耐食性に優れており、孔食,隙間腐食,粒界腐食,応力腐食割れ等は使用上ほとんど問題ないとされている。しかし、鋳造合金として避けられない弱点、具体的には引け巣,気泡,偏析等の内部欠陥があり、疲労強度(250MPa)が低い。
【0003】
加工用Vitallium(HS−25)は、Moに代えてWを含み、Crの一部をNiに置き換えた合金であり、鋳造材の弱点である引け巣や偏析をなくするように改良されている。加工用Vitalliumは、焼きなましステンレス鋼以上の展延性が溶体化処理で付与され、加工ステンレスと同程度の強度が冷間加工で付与される。耐食性はステンレス鋼より優れているが、長期のインプラント用としては十分とはいえず、ボーンプレート,ワイヤー等の短期固定用に使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
加工用Vitalliumの耐食性,耐磨耗性は、Moの増量によって改善される。実際、Moを10質量%まで増量した高Mo−Vitalliumは、当初組成の合金に比較して優れた耐食性,耐磨耗性を呈することが報告されている。しかし、Moの増量に伴いVitalliumの塑性加工性が劣化するので、高Mo−Vitalliumの微細組織を塑性加工法で制御することが困難である。
【0005】
鋳造用Vitalliumでは、熱履歴の調整によって内部欠陥を克服する方法が検討されている。一般に、鋳造合金に生じているヒケ巣や気泡は鍛造で圧潰され、デンドライト組織も破壊されるので、後続する再結晶焼鈍によって均一な組織になる。しかし、鋳造直後の冷間加工性に劣るため1250℃以上の高温鍛造で再結晶組織を形成することを余儀なくされ、再結晶組織を結晶粒径100μm以下にすることが困難である。一般に疲労強度,耐磨耗性等の力学特性は結晶粒を微細化するほど向上するが、従来の鋳造用Vitalliumでは結晶粒の微細制御が困難なことから、十分な力学特性を付与できていない。
【0006】
ところで、再結晶を利用して結晶粒を100μm以下に制御するには、冷間加工後に再結晶温度以上の高温で熱処理することが効果的である。冷間での加工率が高いほど熱処理によって微細粒が生成しやすいので、微細粒、特に10μm以下の微細粒を得るためには、冷間における塑性変形能に優れていることが必要になる。しかし、冷間での塑性変形能に乏しい従来の生体用Co基合金では再結晶を利用した微細化に限界があり、1250℃以上での高温鍛造で形成される100μmの粒径が限界であった。因みに、実用の生体用Co基合金はCo−29質量%−6質量%Moの組成をもっているが、1250℃以上の高温鍛造によって平均結晶粒径が100μm以上の再結晶組織になっている。
【0007】
高温鍛造後の結晶構造は、面心立方のγ単相であり、場合によっては最密六方晶のε相を含んだ2相組織になる。γ単相又はε+γ二相組織の生体用Co基合金は、室温延性に劣り、高加工率で冷間加工すると亀裂等の加工欠陥が発生しやすい。加工欠陥は、最終製品において疲労強度等の力学特性を劣化させる原因である。
本発明者は、強度,耐磨耗性等の特性を改善するためMoを増量した生体用Co基合金について種々調査・検討した。その結果、急冷鋳造,高温鍛造でマトリックスを微細化するとき、生体用Co基合金の耐磨耗性が改善されることを見出し、特開平14−363675号公報として紹介した。先に紹介した方法では、急冷鋳造で析出物の成長を抑制し、1000〜1300℃の高温鍛造で鋳造組織を破壊することにより、平均結晶粒径50μm以下のマトリックスに第二相が微細分散した組織に調整している。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、特開平14−363675号公報で紹介したCo基合金に熱処理が及ぼす影響を調査・研究する過程で見出された知見をベースとし、水焼入れ後の熱処理でε単相にするとき延性能が極めて高くなることを利用し、耐磨耗性,疲労強度が飛躍的に改善された生体適合性Co基合金を提供することを目的とする。
本発明の生体適合性Co基合金は、Cr:26〜30質量%,Mo:6〜12質量%,C:0.3質量%以下,残部が実質的にCoの組成をもち、水焼入れ後の熱処理でε単相組織になっている。
【0009】
所定組成に調整されたCo基合金を温度域1000〜1250℃で均熱した後、水焼入れし、次いで700〜1000℃の温度域で熱処理するとき、延性能が極めて高い単相組織に調整される。ε単相のCo基合金を冷間加工すると、加工欠陥なく所定形状に成形でき、後続の再結晶焼鈍時に再結晶核となる歪みや転位が多量に導入される。
冷間加工後のCo基合金を再結晶焼鈍すると、多数の歪みや転位を起点に再結晶が進行するため、耐磨耗性,疲労強度の向上に有効な微細粒からなる再結晶組織になる。また、再結晶焼鈍によって延性能が回復するので再度の冷間加工、更には再結晶焼鈍,冷間加工の繰返しによって目標形状に成形できる。
【0010】
【作用】
本発明で使用するCo基合金は、Cr:26〜30質量%,Mo:6〜12質量%,C:0〜0.3質量%,残部が実質的にCoの組成をもち、Moの増量によって耐食性,耐磨耗性を改善している。耐食性及び耐磨耗性に及ぼすMoの効果は、Mo:6質量%以上で顕著になるが、12質量%で飽和し、過剰量のMo含有は塑性加工性に悪影響を及ぼす。Crは耐食性を確保する上で26質量%以上が必要であるが、30質量%を超える過剰量は塑性加工性に悪影響を及ぼす。Cは必要に応じて添加される成分であり、Cを添加する場合には耐磨耗性,塑性加工性の観点から上限を0.3質量%に設定する。
【0011】
所定組成に調整したCo基合金を真空溶解し、鋳造した後、1000〜1250℃の温度域で均熱することにより偏析等の鋳造欠陥を解消する。1000℃未満の温度域はγ相不安定領域であり、ε相への変態が懸念される。また、偏析元素の拡散による組成の均質化は高温ほど促進されるので、均熱温度の下限を1000℃に設定した。しかし、1250℃を超える高温では、拡散促進に与える効果が温度上昇に見合ったほど向上せず、却って熱エネルギーの損失が大きくなる。
均熱後のCo基合金を水焼入れするとγ単相組織になり、更に700〜1000℃の温度域で熱処理するとε単相になる。均熱後の冷却速度が水焼入れより遅いと、γ母相にε単相が析出した組織となり、延性能,耐食性が低下する。ε単相を得る上で熱処理温度を700℃以上に設定する必要があり、700℃未満の熱処理温度では脆化,耐食性劣化の原因となるσ相が析出する虞がある。しかし、1000℃を超える温度はγ相領域であるので、熱処理温度の上限を1000℃に設定した。
【0012】
Mo:8質量%以上のCo基合金は、1000℃以下の温度域でb.c.c結晶構造のMo固溶体(α相)を析出させることがある。析出したα相が粗大粒子として分散すると延性能が低下するので、α相が析出する系では微細に分散させることが必要である。
温度域700〜1000℃の熱処理でε単相にしたCo基合金は、延性能が極めて高く、高加工率で冷間加工しても加工欠陥の発生なく所定形状に成形される。冷間加工で再結晶時の核となる転位や歪みがCo基合金に多量導入され、冷間加工後に700〜1000℃の温度域で再結晶焼鈍すると多数の核を起点として再結晶が進行し、粒径2〜3μm程度に細粒化された再結晶組織に調整される。その結果、Co基合金の耐磨耗性,疲労強度が飛躍的に向上する。
【0013】
【実施例1】
Cr:29質量%,Mo:6質量%,残部Coの組成をもつCo基合金600gを高周波真空溶解炉で溶解し、1550℃の溶湯を水冷式銅製金型に流し込み、30秒で400℃以下の温度になる冷却速度(2300℃/分)で急冷鋳造した。得られた鋳塊に、(a)〜(c)の熱処理を施した。
(a) 1250℃に2時間保持→冷却速度70℃/分で750℃まで冷却→750℃に24時間保持→水焼入れ
(b) 1250℃に24時間保持→水焼入れ
(c) 1250℃に24時間保持→炉冷
【0014】
熱処理されたCo基合金をX線回折したところ、熱処理(a)が施されたCo基合金では最密六方晶の(1011)の明瞭なピークが観察され、ε単相組織になっていることが確認された(図2)。
他方、熱処理(b)が施されたCo基合金のX線回折スペクトル(図3)には面心立方晶の(200)のピークが検出され、(1011)を表すピーク強度が大幅に小さくなっていた。図3の回折結果は、γ相のマトリックスに極微量のε単相が分散した組織を示す。熱処理(c)が施されたCo基合金の回折結果(図4)ではε相以外にピークが検出されなかったが、光学顕微鏡を用いた組織観察でσ相と考えられる針状組織が検出された。光学顕微鏡による観察結果は、熱処理(c)によってε相マトリックスに微量のσ相が析出した組織になっていることを示す。
【0015】
Co基合金の組織が伸び延性に及ぼす影響を調査するため、熱処理(a)〜(b)が施された各Co基合金及びas−cast材,鍛造材を引張り試験した。図5の試験結果にみられるように、熱処理(a)を施したCo基合金は、延性が最も高く、特開平14−363675号公報で紹介した鍛造材に匹敵する機械特性を示した。これに対し、熱処理(b)を施したCo基合金は、γ相,ε相が共存する未再結晶組織のため低い延性能を示した。熱処理(c)を施したCo基合金は、マトリックスがε相を主体とする組織になっているが、微量のσ相析出によって延性が低下していた。
【0016】
【実施例2】
表1の組成をもつCo基合金600gを高周波真空溶解炉で溶解し、15500℃の溶湯を水冷式銅製金型に流し込み、直径30mm,長さ80mmの丸棒状鋳片を得た。
【0017】
【0018】
各鋳片を前掲条件(a)で熱処理したところ、何れもε単相の金属組織に調整された。熱処理後のCo基合金を室温,圧延率40〜60%で板厚5mmに冷間加工した。得られた冷延板の何れにも、亀裂,破断等の加工欠陥が観察されなかった。次いで、冷延板を板厚1mmまで冷間加工した後、800℃×30分の加熱で再結晶を進行させた。再結晶焼鈍後の結晶粒径を測定すると共に、耐磨耗性,疲労特性を調査した。
【0019】
結晶粒径は、インターセプト法で測定した。
磨耗試験では、4000番のラッピングフィルムで最終研磨仕上げした試験片を使用した。アルミナボールを用いたピンオンフラット型往復運動磨耗試験機により、大気雰囲気,振幅10mm,辷り距離200000mm,辷り速度8.33Hzの条件下で各試験片の摩耗状態を測定し、単位荷重当りの摩耗量を算出した。
【0020】
疲労試験では、熱処理(a)でε相にした丸棒状鋳塊を800〜900℃の中間熱処理を伴った冷間スエージすることにより得られた直径8mmの丸棒から切り出された標点部長さ60mm,直径6mmの丸棒状試験片を使用した。試験片に所定応力を繰返し加え、繰返し回数107に達しても破断しなかったときの応力を疲労限とし、該疲労限によって疲労特性を評価した。
表2の試験結果にみられるように、熱処理(a)でε単相に組織調整したCo基合金は、結晶粒径が小さく、耐磨耗性,疲労特性共に優れていた。
【0021】
【0022】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のCo基合金は、水焼入れ後の熱処理でε単相に調整されているので、延性能が極めて高く、亀裂,破断等の加工欠陥なく目標形状に冷間加工できる。また、冷間加工で導入された多数の転位や歪みが後続すつ再結晶焼鈍過程で再結晶核として働き、耐磨耗性,疲労強度の向上に有効な2〜3μm程度の微細化された組織が再結晶焼鈍で得られる。そのため、高Mo−Vitallium本来の優れた耐食性に加え、耐磨耗性,疲労強度にも優れた生体用Co基合金として使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で使用したCo基合金を熱処理したときのヒートパターン
【図2】熱処理(a)を施したCo基合金のX線回折結果
【図3】熱処理(b)を施したCo基合金のX線回折結果
【図4】熱処理(c)を施したCo基合金のX線回折結果
【図5】製造履歴がCo基合金の特性に及ぼす影響を表した応力−歪み線図
Claims (4)
- Cr:26〜30質量%,Mo:6〜12質量%,C:0.3質量%以下,残部が実質的にCoの組成をもち、水焼入れ後の熱処理でε単相組織になっていることを特徴とする生体適合性Co基合金。
- Cr:26〜30質量%,Mo:6〜12質量%,C:0.3質量%以下,残部が実質的にCoの組成をもつCo基合金を温度域1000〜1250℃で均熱した後、水焼入れし、次いで700〜1000℃の温度域で熱処理することによりε単相組織に調整することを特徴とする生体適合性Co基合金の製造方法。
- ε単相組織のCo基合金を冷間加工する請求項2記載の生体適合性Co基合金の製造方法。
- 700〜1000℃の温度域での熱処理及び冷間加工を交互に繰り返す請求項2又は3記載の生体適合性Co基合金の製造方法。
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