JP2004195542A - ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ - Google Patents
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Abstract
【課 題】軟鋼, 490N/mm2 級高張力鋼, 590N/mm2 級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に、溶接ビード表面に形成されるスラグの剥離性に優れた溶接ワイヤを提供する。
【解決手段】C:0.02〜0.10質量%,Si:0.20〜1.00質量%,Mn: 1.0〜2.5 質量%,Ti:0.15〜0.30質量%,S: 0.003〜0.020 質量%,希土類元素:0.0005〜0.0100質量%,P: 0.020質量%以下,Al:0.05質量%以下,Ca:0.0010質量%以下を含有する組成の鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを使用する。
【選択図】 無
【解決手段】C:0.02〜0.10質量%,Si:0.20〜1.00質量%,Mn: 1.0〜2.5 質量%,Ti:0.15〜0.30質量%,S: 0.003〜0.020 質量%,希土類元素:0.0005〜0.0100質量%,P: 0.020質量%以下,Al:0.05質量%以下,Ca:0.0010質量%以下を含有する組成の鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤを使用する。
【選択図】 無
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟鋼, 490N/mm2 級高張力鋼, 590N/mm2 級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用される炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接ワイヤという)に関し、特に溶接ビード表面に形成されるスラグの剥離性を向上させることができる溶接ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼構造物の溶接には、シールドガスとしてCO2 ガスを使用する炭酸ガスシールドアーク溶接が最も一般的な溶接方法として広く用いられている。しかしシールドガスとしてCO2 ガスとArガスとの混合ガスを使用するMAG溶接と比べると、炭酸ガスシールドアーク溶接は溶接ビード表面に形成されるスラグ量が多くなることが知られている。特に多層溶接を行なう場合には、スラグ巻き込み等の欠陥を生じやすいので、積層溶接の作業中に頻繁にスラグを除去しなければならない。その結果、炭酸ガスシールドアーク溶接の作業効率が低下するのは避けられない。
【0003】
近年、溶接コストの削減あるいは溶接精度の改善を達成するために、溶接ロボットの導入が推進されている。半自動溶接の場合には、溶接作業者が必要に応じて随時、スラグ除去を行なうことができるが、溶接ロボットによる自動溶接では、溶接作業者がスラグ除去を行なうことは困難である。
そこで溶接ロボットを用いて自動溶接を行なう際に、自動スラグ取り装置を設置して、溶接ロボットによる多層溶接を行ないながらスラグを除去し、溶接ロボットによる炭酸ガスシールドアーク溶接の作業効率を向上する試みがなされている。しかしながら、従来から使用されている自動スラグ取り装置では必ずしも十分なスラグ除去を達成できない。スラグ除去の自動化を達成するためには、複雑かつ精密な自動スラグ取り装置が必要となり、その製作費が一層上昇することになる。
【0004】
さらに鋼構造物、 特に建築用鋼構造物の溶接では、溶接速度の向上を目的として高入熱かつ高パス間温度の溶接を採用するようになっている。このような炭酸ガスシールドアーク溶接で使用される溶接ワイヤは、高入熱かつ高パス間温度の溶接であっても溶接金属の強度と靭性を確保できるように、高合金組成を有するものが使用される。その結果、スラグ発生量も多くなり、積層溶接の作業中にスラグ除去を行なう頻度はさらに増加している。
【0005】
そこで炭酸ガスシールドアーク溶接による積層溶接において、容易にスラグを除去できる溶接ワイヤ、すなわちスラグ剥離性の優れた溶接ワイヤが種々提案されている。
たとえば特開昭61-195793 号公報には、溶接ワイヤのC,Si,Mn,P,S含有量を規定し、高Mn低Siとすることによって、スラグを薄く細かくして剥離性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この技術は自動車車体等に使用される薄鋼板の重ね隅肉溶接に適用するものである。そのため、積層溶接あるいは 260A以上の高電流での溶接においては、スラグの剥離性向上の効果は十分に発揮されないという問題があった。
【0006】
特開平2-241691号公報には、溶接ワイヤのC,Si,Mnに加えて、Se+TeあるいはTi+Zrの含有量を規定することによって、スラグ生成量を増加させ、溶接ビード表面のスラグ被覆率を増加させ、スラグの剥離性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この技術は1パス溶接では効果があるものの、積層溶接においてはスラグの剥離性向上の効果は十分に発揮されないという問題があった。
【0007】
また高入熱かつ高パス間温度の溶接では、スラグの発生が溶接作業を著しく阻害する要因になる。特開平10-230387 号公報や特開平11-90678号公報には、高入熱かつ高パス間温度の溶接で使用する溶接ワイヤが開示されている。しかしながら、これらの技術では、高入熱かつ高パス間温度の溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上する効果はあるものの、スラグ剥離性の向上は期待できないという問題があった。
【0008】
【特許文献1】
特開昭61-195793 号公報
【特許文献2】
特開平2-241691号公報
【特許文献3】
特開平10-230387 号公報
【特許文献4】
特開平11-90678号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、炭酸ガスシールドアーク溶接におけるスラグの剥離性向上の問題は未だ解決されていない状況にある。
そこで本発明は、軟鋼, 490N/mm2 級高張力鋼, 590N/mm2 級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に、溶接ビード表面に形成されるスラグの剥離性に優れた溶接ワイヤを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ガスシールドアーク溶接で用いられる溶接用鋼ワイヤであって、C:0.02〜0.10質量%,Si:0.20〜1.00質量%,Mn: 1.0〜2.5 質量%,Ti:0.15〜0.30質量%,S: 0.003〜0.020 質量%,希土類元素:0.0005〜0.0100質量%,P: 0.020質量%以下,Al:0.05質量%以下,Ca:0.0010質量%以下を含有する組成の鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤである。
【0011】
前記したガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤにおいては、好適態様として、鋼素線が、前記した組成に加えて、Mo: 0.5質量%以下,Cr: 0.5質量%以下,Cu: 0.6質量%以下,Ni: 1.0質量%以下,B: 0.010質量%以下およびK:0.0050質量%以下のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
なお、ここで鋼素線からなる溶接ワイヤとは、溶接用フラックスを内装せず、素材となる鋼素線を主体とするワイヤ(いわゆるソリッドワイヤ)を指す。 また本発明は、鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したソリッドワイヤにも支障なく適用できる。
【0012】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の溶接ワイヤの素材となる鋼素線の成分を限定した理由について説明する。
C:0.02〜0.10質量%
Cは、溶接金属の強度を確保するために重要な成分であるが、溶融メタルの粘性を低下させ流動性を向上させる作用を有する元素である。C含有量が0.02質量%未満では、溶接金属の強度を確保できない。一方、 0.10質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Cは0.02〜0.10質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0013】
Si:0.20〜1.00質量%
Siは、脱酸作用を有し、 溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素である。Si含有量が0.20質量%未満では、溶接を行なう際に溶滴および溶融池が揺動し、スパッタが多量に発生する。しかも溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生しやすくなる。一方、 1.00質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下するとともに、スラグ発生量が増加し、多層溶接においてスラグに起因する溶接欠陥を生じやすくなる。しかも溶融メタルが酸素不足となるので、粘性および表面張力が過剰に増加し、ビード外観が劣化する。したがって、Siは0.20〜1.00質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0014】
Mn: 1.0〜2.5 質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、 溶融メタルの脱酸のためには不可欠であるとともに、溶接金属の機械的性質を向上させる元素である。Mn含有量が 1.0質量%未満では、溶接金属中のMn量が不足して、十分な強度や靭性を得ることができない。しかも溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生しやすくなる。一方、 2.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。しかもスラグ発生量が増加し、多層溶接においてスラグに起因する溶接欠陥を生じやすくなる。したがって、Mnは 1.0〜2.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0015】
Ti:0.15〜0.30質量%
Tiは、脱酸剤として作用し、 さらに溶接金属の強度,靭性を増加させる元素である。しかもアークを安定させて、スパッタを減少させる効果も有する。Ti含有量が0.15質量%未満では、これらの効果が発揮されない上に、スラグ中に十分な量のTi酸化物を形成させることができないので、スラグの剥離性が向上しない。一方、 0.30質量%を超えると、炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際に溶滴が粗大となり、大粒のスパッタを発生させるとともに、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Siは0.15〜0.30質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0016】
S: 0.003〜0.020 質量%
Sは、製鋼および鋳造工程で不可避的に混入する元素である。S含有量が 0.020質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生しやすくなる。しかしながら、Sには溶接ビードと鋼材とのなじみを良くして、ビード形状を滑らかにする効果がある。S含有量を 0.003質量%未満に低減すると、溶接作業性を阻害することがある。したがって、Sは 0.003〜0.020 質量%の範囲に限定した。
【0017】
希土類元素:0.0005〜0.0100質量%
希土類元素(以下、REM という)は、周期表の3族に属する元素の総称であり、スラグの剥離性を向上させるために必要な元素であるとともに、溶接金属の高温割れを抑制する効果がある。しかしREM 含有量が0.0005質量%未満では、スラグの剥離性を向上する効果が得られず、しかも高温割れも抑制されない。一方、0.0100質量%を超えると、溶滴移行が不規則になり、スパッタの発生が著しく増大する。したがって、REM は0.0005〜0.0100質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0018】
なお本発明では、REM としてCe,La,Nd,Pr等を使用するのが好ましい。これらの元素の含有比率が変動しても、各元素の含有量の合計が0.0005〜0.0100質量%の範囲内を満足すれば、上記した効果を得ることができる。
P: 0.020質量%以下
Pは、製鋼および鋳造工程で不可避的に混入する元素であるが、Sと同様に、溶接金属の耐割れ性を低下させるので、P含有量は可能な限り低減することが好ましい。P含有量が 0.020質量%を超えると、溶接金属の耐割れ性が著しく低下する。したがって、Pは 0.020質量%以下に限定した。
【0019】
Al:0.05質量%以下
Alは、溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、横向き溶接を行なう場合にアークの安定性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。しかしAl含有量が0.05質量%を超えると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Alは0.05質量%以下に限定した。
【0020】
Ca:0.0010質量%以下
Caは、製鋼および鋳造時に溶鋼に混入したり、あるいは伸線加工時に鋼素線に混入する不純物である。Ca含有量が0.0010質量%を超えると、溶接を行なう際に溶滴の一部にアークが集中するので、アークが不安定になり、スパッタが多量に発生する。しかも不安定な短絡現象が起こり、溶接ワイヤの送給性を阻害する。したがって、Caは0.0010質量%以下に限定した。
【0021】
さらに本発明では、鋼素線の成分は、上記した組成に加えて、Mo: 0.5質量%以下,Cr: 0.5質量%以下,Cu: 0.6質量%以下,Ni: 1.0質量%以下,B: 0.010質量%以下およびK:0.0050質量%以下のうちの1種または2種以上を、溶接金属に要求される強度あるいは溶接の作業性等に応じて含有することが好ましい。 その理由について説明する。
【0022】
Mo: 0.5質量%以下
Moは、溶接金属の強度を増加させる元素であり、特に高入熱かつ高パス間温度の溶接条件で使用される場合に有効である。しかしMo含有量が 0.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Moを含有する場合は 0.5質量%以下とするのが好ましい。
【0023】
Cr: 0.5質量%以下
Crは、弱い脱酸作用を有し、溶融メタルの酸素量を調整するために不可欠の元素であるとともに、鋼素線を製造する過程におけるKの歩留りを向上させる効果を有する。しかしCr含有量が 0.5質量%を超えると、鋼素線内部に割れを生じ、溶接時にスパッタが多量に発生する。したがって、Crを含有する場合は 0.5質量%以下とするのが好ましい。
【0024】
Cu: 0.6質量%以下
Cuは、溶接ワイヤの表面に形成されるCuめっき層から主に溶接金属中に移行する元素であるが、Cuめっきを施さない場合にも溶接ワイヤ中に不可避的不純物として含有される。しかしCu含有量(すなわちCuめっき層中のCu含有量と溶接ワイヤ中のCu含有量との合計)が 0.6質量%を超えると、溶接ビードに割れが生じやすくなる。したがって、Cuを含有する場合は 0.6質量%以下とするのが好ましい。
【0025】
Ni: 1.0質量%以下
Niは、溶接金属の強度や靭性を向上させる元素である。しかしNiは高価であるから、多量に添加するのは溶接ワイヤの製造コストの上昇を招く。したがって、Niを含有する場合は 1.0質量%以下とするのが好ましい。
B: 0.010質量%以下
Bは、溶接金属の粒界フェライトの粗大化を抑制して組織を微細化し、靭性を向上させるのに有効である。しかしBは、溶接金属の耐高温割れ性を著しく劣化させ、B含有量が 0.010質量%を超えると、高温割れが生じやすくなる。したがって、Bを含有する場合は 0.010質量%以下とするのが好ましい。
【0026】
K:0.0050質量%以下
Kは、アークを広げ(すなわちアークをソフト化し)、炭酸ガスシールドアーク溶接において溶滴の移行を容易にするとともに、溶滴を微細化し、さらに溶接ワイヤの送給抵抗の変動を抑制する効果を有する。しかしK含有量が0.0050質量%を超えると、溶接を行なう際にアーク長が増加して溶接ワイヤの先端に懸垂した溶滴が不安定となり、スパッタが多量に発生する。したがって、Kを含有する場合は0.0050質量%以下とするのが好ましい。なおKは、沸点が約 760℃と低いので、鋼材を溶製する段階でKを添加すると、歩留りは著しく低い。そこで鋼素線を製造する段階で、鋼素線の表面にカリウム塩を塗布して焼鈍を施すことによって、Kを安定して含有させることができる。
【0027】
上記した鋼素線の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。たとえばOあるいはNが代表的な不可避的不純物であり、鋼材を溶製する段階や鋼素線を製造する段階で不可避的に混入する。 Oは 0.020質量%以下,Nは 0.010質量%以下に低減するのが好ましい。 特にOは、溶接に際して溶滴を微細化する効果を有するので、0.0020〜0.0200質量%とするのが一層好ましい。
【0028】
次に、本発明の溶接ワイヤの製造方法について説明する。
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を溶製する。この溶鋼の溶製方法は、特定の技術に限定せず、従来から知られている技術を使用する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼材(たとえばビレット等)を製造する。 この鋼材を加熱した後、熱間圧延を施し、さらに乾式の冷間圧延(すなわち伸線)を施して鋼素線を製造する。 熱間圧延や冷間圧延の操業条件は、特定の条件に限定せず、所望の寸法形状の鋼素線を製造する条件であれば良い。
【0029】
さらに鋼素線は、焼鈍−酸洗−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を順次施して、所定の製品すなわち溶接ワイヤとなる。
また鋼素線を焼鈍し、さらに酸洗した後、その表面にCuめっきを施して、焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を経て製造しても良い。その場合は、Cuめっき層の厚さを 0.5μm以上とすることによって、給電チップから溶接ワイヤへの給電不良が防止され、給電チップ先端部の摩耗が抑制される効果が得られる。
【0030】
このようにして製造された溶接ワイヤの表面に固形潤滑剤を塗布して、固形潤滑層を形成しても良い。さらに、炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際の溶接ワイヤの送給抵抗を軽減して、送給を安定化させるために、この固形潤滑層の表面に脂肪酸エステルまたは潤滑剤を塗布しても良い。あるいは脂肪酸エステルと潤滑剤とを混合して、固形潤滑層の表面に塗布しても良い。
【0031】
【実施例】
連続鋳造によって製造されたビレットを熱間圧延して、直径 5.5〜7.0mm の線材とした。次いで冷間圧延(すなわち伸線)によって直径 2.0〜2.8mm の鋼素線とした。
この鋼素線を、露点−2℃以下,酸素濃度 200体積ppm 以下,二酸化炭素濃度0.1体積%以下の窒素雰囲気中で焼鈍した後、鋼素線に酸洗を施し、次いで鋼素線の表面にCuめっきを施した。さらに冷間で伸線加工(湿式伸線)を施して、直径1.4mm の溶接ワイヤを製造した。なお伸線加工においては、固形潤滑剤を塗布して、伸線加工を施すことによって、十分な送給性を確保できるように調整した。
【0032】
得られた溶接ワイヤの鋼素線の成分は、表1に示す通りである。
【0033】
【表1】
【0034】
これらの溶接ワイヤを用いて、表2に示す条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を行ない、溶接継手を作製した。開先形状は図1に示す通りであり、鋼板1はJIS規格SM490Aの鋼板(厚さ25mm)を使用した。
【0035】
【表2】
【0036】
こうして炭酸ガスシールドアーク溶接が終了した後、スラグの剥離性を下記の要領で調査した。すなわち溶接が終了した後、溶接継手を反転させて振動を与えることによって剥離したスラグの重量Sd と、スラグの全体量St とを測定し、下記の (1)式からスラグ剥離率(%)を算出して、スラグ剥離率が50%以上を良(○),50%未満を不可(×)として評価した。
【0037】
スラグ剥離率(%)=100 ×Sd /St ・・・ (1)
また、これらの溶接継手から試験片を採取し、試験温度0℃でのシャルピー衝撃試験および引張試験を行なった。
その結果は表3に示す通りである。
【0038】
【表3】
【0039】
表3から明らかなように、発明例と比較例の引張強さは、ほぼ同じ水準であった。吸収エネルギーは、比較例が 115〜144 Jであったのに対して、発明例では130〜165 Jであり、発明例の溶接ワイヤを用いて炭酸ガスシールドアーク溶接を行なって得られた溶接金属の方が、優れた靭性を有することが分かる。
またスラグの剥離性は、発明例が全て良(○)であったのに対して、比較例はいずれも不可(×)であった。
【0040】
【発明の効果】
本発明の溶接ワイヤを用いることによって、軟鋼, 490N/mm2 級高張力鋼あるいは 590N/mm2 級高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際に、溶接ビードの表面に形成されるスラグの剥離性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】開先形状を示す断面図である。
【符号の説明】
1 鋼板
2 当て金
3 溶接金属
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟鋼, 490N/mm2 級高張力鋼, 590N/mm2 級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に使用される炭酸ガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ(以下、溶接ワイヤという)に関し、特に溶接ビード表面に形成されるスラグの剥離性を向上させることができる溶接ワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼構造物の溶接には、シールドガスとしてCO2 ガスを使用する炭酸ガスシールドアーク溶接が最も一般的な溶接方法として広く用いられている。しかしシールドガスとしてCO2 ガスとArガスとの混合ガスを使用するMAG溶接と比べると、炭酸ガスシールドアーク溶接は溶接ビード表面に形成されるスラグ量が多くなることが知られている。特に多層溶接を行なう場合には、スラグ巻き込み等の欠陥を生じやすいので、積層溶接の作業中に頻繁にスラグを除去しなければならない。その結果、炭酸ガスシールドアーク溶接の作業効率が低下するのは避けられない。
【0003】
近年、溶接コストの削減あるいは溶接精度の改善を達成するために、溶接ロボットの導入が推進されている。半自動溶接の場合には、溶接作業者が必要に応じて随時、スラグ除去を行なうことができるが、溶接ロボットによる自動溶接では、溶接作業者がスラグ除去を行なうことは困難である。
そこで溶接ロボットを用いて自動溶接を行なう際に、自動スラグ取り装置を設置して、溶接ロボットによる多層溶接を行ないながらスラグを除去し、溶接ロボットによる炭酸ガスシールドアーク溶接の作業効率を向上する試みがなされている。しかしながら、従来から使用されている自動スラグ取り装置では必ずしも十分なスラグ除去を達成できない。スラグ除去の自動化を達成するためには、複雑かつ精密な自動スラグ取り装置が必要となり、その製作費が一層上昇することになる。
【0004】
さらに鋼構造物、 特に建築用鋼構造物の溶接では、溶接速度の向上を目的として高入熱かつ高パス間温度の溶接を採用するようになっている。このような炭酸ガスシールドアーク溶接で使用される溶接ワイヤは、高入熱かつ高パス間温度の溶接であっても溶接金属の強度と靭性を確保できるように、高合金組成を有するものが使用される。その結果、スラグ発生量も多くなり、積層溶接の作業中にスラグ除去を行なう頻度はさらに増加している。
【0005】
そこで炭酸ガスシールドアーク溶接による積層溶接において、容易にスラグを除去できる溶接ワイヤ、すなわちスラグ剥離性の優れた溶接ワイヤが種々提案されている。
たとえば特開昭61-195793 号公報には、溶接ワイヤのC,Si,Mn,P,S含有量を規定し、高Mn低Siとすることによって、スラグを薄く細かくして剥離性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この技術は自動車車体等に使用される薄鋼板の重ね隅肉溶接に適用するものである。そのため、積層溶接あるいは 260A以上の高電流での溶接においては、スラグの剥離性向上の効果は十分に発揮されないという問題があった。
【0006】
特開平2-241691号公報には、溶接ワイヤのC,Si,Mnに加えて、Se+TeあるいはTi+Zrの含有量を規定することによって、スラグ生成量を増加させ、溶接ビード表面のスラグ被覆率を増加させ、スラグの剥離性を向上させる技術が開示されている。しかしながら、この技術は1パス溶接では効果があるものの、積層溶接においてはスラグの剥離性向上の効果は十分に発揮されないという問題があった。
【0007】
また高入熱かつ高パス間温度の溶接では、スラグの発生が溶接作業を著しく阻害する要因になる。特開平10-230387 号公報や特開平11-90678号公報には、高入熱かつ高パス間温度の溶接で使用する溶接ワイヤが開示されている。しかしながら、これらの技術では、高入熱かつ高パス間温度の溶接において、溶接金属の強度と靭性を向上する効果はあるものの、スラグ剥離性の向上は期待できないという問題があった。
【0008】
【特許文献1】
特開昭61-195793 号公報
【特許文献2】
特開平2-241691号公報
【特許文献3】
特開平10-230387 号公報
【特許文献4】
特開平11-90678号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、炭酸ガスシールドアーク溶接におけるスラグの剥離性向上の問題は未だ解決されていない状況にある。
そこで本発明は、軟鋼, 490N/mm2 級高張力鋼, 590N/mm2 級高張力鋼を炭酸ガスシールドアーク溶接する際に、溶接ビード表面に形成されるスラグの剥離性に優れた溶接ワイヤを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ガスシールドアーク溶接で用いられる溶接用鋼ワイヤであって、C:0.02〜0.10質量%,Si:0.20〜1.00質量%,Mn: 1.0〜2.5 質量%,Ti:0.15〜0.30質量%,S: 0.003〜0.020 質量%,希土類元素:0.0005〜0.0100質量%,P: 0.020質量%以下,Al:0.05質量%以下,Ca:0.0010質量%以下を含有する組成の鋼素線からなるガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤである。
【0011】
前記したガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤにおいては、好適態様として、鋼素線が、前記した組成に加えて、Mo: 0.5質量%以下,Cr: 0.5質量%以下,Cu: 0.6質量%以下,Ni: 1.0質量%以下,B: 0.010質量%以下およびK:0.0050質量%以下のうちの1種または2種以上を含有することが好ましい。
なお、ここで鋼素線からなる溶接ワイヤとは、溶接用フラックスを内装せず、素材となる鋼素線を主体とするワイヤ(いわゆるソリッドワイヤ)を指す。 また本発明は、鋼素線の表面にめっきを施したり、あるいは潤滑剤を塗布したソリッドワイヤにも支障なく適用できる。
【0012】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の溶接ワイヤの素材となる鋼素線の成分を限定した理由について説明する。
C:0.02〜0.10質量%
Cは、溶接金属の強度を確保するために重要な成分であるが、溶融メタルの粘性を低下させ流動性を向上させる作用を有する元素である。C含有量が0.02質量%未満では、溶接金属の強度を確保できない。一方、 0.10質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Cは0.02〜0.10質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0013】
Si:0.20〜1.00質量%
Siは、脱酸作用を有し、 溶接金属の脱酸のためには不可欠な元素である。Si含有量が0.20質量%未満では、溶接を行なう際に溶滴および溶融池が揺動し、スパッタが多量に発生する。しかも溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生しやすくなる。一方、 1.00質量%を超えると、溶接金属の靭性が著しく低下するとともに、スラグ発生量が増加し、多層溶接においてスラグに起因する溶接欠陥を生じやすくなる。しかも溶融メタルが酸素不足となるので、粘性および表面張力が過剰に増加し、ビード外観が劣化する。したがって、Siは0.20〜1.00質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0014】
Mn: 1.0〜2.5 質量%
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有し、 溶融メタルの脱酸のためには不可欠であるとともに、溶接金属の機械的性質を向上させる元素である。Mn含有量が 1.0質量%未満では、溶接金属中のMn量が不足して、十分な強度や靭性を得ることができない。しかも溶融メタルの脱酸が不足し、溶接金属にブローホールが発生しやすくなる。一方、 2.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。しかもスラグ発生量が増加し、多層溶接においてスラグに起因する溶接欠陥を生じやすくなる。したがって、Mnは 1.0〜2.5 質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0015】
Ti:0.15〜0.30質量%
Tiは、脱酸剤として作用し、 さらに溶接金属の強度,靭性を増加させる元素である。しかもアークを安定させて、スパッタを減少させる効果も有する。Ti含有量が0.15質量%未満では、これらの効果が発揮されない上に、スラグ中に十分な量のTi酸化物を形成させることができないので、スラグの剥離性が向上しない。一方、 0.30質量%を超えると、炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際に溶滴が粗大となり、大粒のスパッタを発生させるとともに、溶接金属の靭性が著しく低下する。したがって、Siは0.15〜0.30質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0016】
S: 0.003〜0.020 質量%
Sは、製鋼および鋳造工程で不可避的に混入する元素である。S含有量が 0.020質量%を超えると、溶接金属の高温割れが発生しやすくなる。しかしながら、Sには溶接ビードと鋼材とのなじみを良くして、ビード形状を滑らかにする効果がある。S含有量を 0.003質量%未満に低減すると、溶接作業性を阻害することがある。したがって、Sは 0.003〜0.020 質量%の範囲に限定した。
【0017】
希土類元素:0.0005〜0.0100質量%
希土類元素(以下、REM という)は、周期表の3族に属する元素の総称であり、スラグの剥離性を向上させるために必要な元素であるとともに、溶接金属の高温割れを抑制する効果がある。しかしREM 含有量が0.0005質量%未満では、スラグの剥離性を向上する効果が得られず、しかも高温割れも抑制されない。一方、0.0100質量%を超えると、溶滴移行が不規則になり、スパッタの発生が著しく増大する。したがって、REM は0.0005〜0.0100質量%の範囲内を満足する必要がある。
【0018】
なお本発明では、REM としてCe,La,Nd,Pr等を使用するのが好ましい。これらの元素の含有比率が変動しても、各元素の含有量の合計が0.0005〜0.0100質量%の範囲内を満足すれば、上記した効果を得ることができる。
P: 0.020質量%以下
Pは、製鋼および鋳造工程で不可避的に混入する元素であるが、Sと同様に、溶接金属の耐割れ性を低下させるので、P含有量は可能な限り低減することが好ましい。P含有量が 0.020質量%を超えると、溶接金属の耐割れ性が著しく低下する。したがって、Pは 0.020質量%以下に限定した。
【0019】
Al:0.05質量%以下
Alは、溶接金属の脱酸剤として作用するとともに、横向き溶接を行なう場合にアークの安定性を向上させる元素であり、必要に応じて添加することができる。しかしAl含有量が0.05質量%を超えると、溶接金属の靭性の低下を招く。したがって、Alは0.05質量%以下に限定した。
【0020】
Ca:0.0010質量%以下
Caは、製鋼および鋳造時に溶鋼に混入したり、あるいは伸線加工時に鋼素線に混入する不純物である。Ca含有量が0.0010質量%を超えると、溶接を行なう際に溶滴の一部にアークが集中するので、アークが不安定になり、スパッタが多量に発生する。しかも不安定な短絡現象が起こり、溶接ワイヤの送給性を阻害する。したがって、Caは0.0010質量%以下に限定した。
【0021】
さらに本発明では、鋼素線の成分は、上記した組成に加えて、Mo: 0.5質量%以下,Cr: 0.5質量%以下,Cu: 0.6質量%以下,Ni: 1.0質量%以下,B: 0.010質量%以下およびK:0.0050質量%以下のうちの1種または2種以上を、溶接金属に要求される強度あるいは溶接の作業性等に応じて含有することが好ましい。 その理由について説明する。
【0022】
Mo: 0.5質量%以下
Moは、溶接金属の強度を増加させる元素であり、特に高入熱かつ高パス間温度の溶接条件で使用される場合に有効である。しかしMo含有量が 0.5質量%を超えると、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Moを含有する場合は 0.5質量%以下とするのが好ましい。
【0023】
Cr: 0.5質量%以下
Crは、弱い脱酸作用を有し、溶融メタルの酸素量を調整するために不可欠の元素であるとともに、鋼素線を製造する過程におけるKの歩留りを向上させる効果を有する。しかしCr含有量が 0.5質量%を超えると、鋼素線内部に割れを生じ、溶接時にスパッタが多量に発生する。したがって、Crを含有する場合は 0.5質量%以下とするのが好ましい。
【0024】
Cu: 0.6質量%以下
Cuは、溶接ワイヤの表面に形成されるCuめっき層から主に溶接金属中に移行する元素であるが、Cuめっきを施さない場合にも溶接ワイヤ中に不可避的不純物として含有される。しかしCu含有量(すなわちCuめっき層中のCu含有量と溶接ワイヤ中のCu含有量との合計)が 0.6質量%を超えると、溶接ビードに割れが生じやすくなる。したがって、Cuを含有する場合は 0.6質量%以下とするのが好ましい。
【0025】
Ni: 1.0質量%以下
Niは、溶接金属の強度や靭性を向上させる元素である。しかしNiは高価であるから、多量に添加するのは溶接ワイヤの製造コストの上昇を招く。したがって、Niを含有する場合は 1.0質量%以下とするのが好ましい。
B: 0.010質量%以下
Bは、溶接金属の粒界フェライトの粗大化を抑制して組織を微細化し、靭性を向上させるのに有効である。しかしBは、溶接金属の耐高温割れ性を著しく劣化させ、B含有量が 0.010質量%を超えると、高温割れが生じやすくなる。したがって、Bを含有する場合は 0.010質量%以下とするのが好ましい。
【0026】
K:0.0050質量%以下
Kは、アークを広げ(すなわちアークをソフト化し)、炭酸ガスシールドアーク溶接において溶滴の移行を容易にするとともに、溶滴を微細化し、さらに溶接ワイヤの送給抵抗の変動を抑制する効果を有する。しかしK含有量が0.0050質量%を超えると、溶接を行なう際にアーク長が増加して溶接ワイヤの先端に懸垂した溶滴が不安定となり、スパッタが多量に発生する。したがって、Kを含有する場合は0.0050質量%以下とするのが好ましい。なおKは、沸点が約 760℃と低いので、鋼材を溶製する段階でKを添加すると、歩留りは著しく低い。そこで鋼素線を製造する段階で、鋼素線の表面にカリウム塩を塗布して焼鈍を施すことによって、Kを安定して含有させることができる。
【0027】
上記した鋼素線の成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。たとえばOあるいはNが代表的な不可避的不純物であり、鋼材を溶製する段階や鋼素線を製造する段階で不可避的に混入する。 Oは 0.020質量%以下,Nは 0.010質量%以下に低減するのが好ましい。 特にOは、溶接に際して溶滴を微細化する効果を有するので、0.0020〜0.0200質量%とするのが一層好ましい。
【0028】
次に、本発明の溶接ワイヤの製造方法について説明する。
転炉または電気炉等を用いて、上記した組成を有する溶鋼を溶製する。この溶鋼の溶製方法は、特定の技術に限定せず、従来から知られている技術を使用する。次いで、得られた溶鋼を、連続鋳造法や造塊法等によって鋼材(たとえばビレット等)を製造する。 この鋼材を加熱した後、熱間圧延を施し、さらに乾式の冷間圧延(すなわち伸線)を施して鋼素線を製造する。 熱間圧延や冷間圧延の操業条件は、特定の条件に限定せず、所望の寸法形状の鋼素線を製造する条件であれば良い。
【0029】
さらに鋼素線は、焼鈍−酸洗−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を順次施して、所定の製品すなわち溶接ワイヤとなる。
また鋼素線を焼鈍し、さらに酸洗した後、その表面にCuめっきを施して、焼鈍−酸洗−銅めっき−伸線加工−潤滑剤塗布の工程を経て製造しても良い。その場合は、Cuめっき層の厚さを 0.5μm以上とすることによって、給電チップから溶接ワイヤへの給電不良が防止され、給電チップ先端部の摩耗が抑制される効果が得られる。
【0030】
このようにして製造された溶接ワイヤの表面に固形潤滑剤を塗布して、固形潤滑層を形成しても良い。さらに、炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際の溶接ワイヤの送給抵抗を軽減して、送給を安定化させるために、この固形潤滑層の表面に脂肪酸エステルまたは潤滑剤を塗布しても良い。あるいは脂肪酸エステルと潤滑剤とを混合して、固形潤滑層の表面に塗布しても良い。
【0031】
【実施例】
連続鋳造によって製造されたビレットを熱間圧延して、直径 5.5〜7.0mm の線材とした。次いで冷間圧延(すなわち伸線)によって直径 2.0〜2.8mm の鋼素線とした。
この鋼素線を、露点−2℃以下,酸素濃度 200体積ppm 以下,二酸化炭素濃度0.1体積%以下の窒素雰囲気中で焼鈍した後、鋼素線に酸洗を施し、次いで鋼素線の表面にCuめっきを施した。さらに冷間で伸線加工(湿式伸線)を施して、直径1.4mm の溶接ワイヤを製造した。なお伸線加工においては、固形潤滑剤を塗布して、伸線加工を施すことによって、十分な送給性を確保できるように調整した。
【0032】
得られた溶接ワイヤの鋼素線の成分は、表1に示す通りである。
【0033】
【表1】
【0034】
これらの溶接ワイヤを用いて、表2に示す条件で炭酸ガスシールドアーク溶接を行ない、溶接継手を作製した。開先形状は図1に示す通りであり、鋼板1はJIS規格SM490Aの鋼板(厚さ25mm)を使用した。
【0035】
【表2】
【0036】
こうして炭酸ガスシールドアーク溶接が終了した後、スラグの剥離性を下記の要領で調査した。すなわち溶接が終了した後、溶接継手を反転させて振動を与えることによって剥離したスラグの重量Sd と、スラグの全体量St とを測定し、下記の (1)式からスラグ剥離率(%)を算出して、スラグ剥離率が50%以上を良(○),50%未満を不可(×)として評価した。
【0037】
スラグ剥離率(%)=100 ×Sd /St ・・・ (1)
また、これらの溶接継手から試験片を採取し、試験温度0℃でのシャルピー衝撃試験および引張試験を行なった。
その結果は表3に示す通りである。
【0038】
【表3】
【0039】
表3から明らかなように、発明例と比較例の引張強さは、ほぼ同じ水準であった。吸収エネルギーは、比較例が 115〜144 Jであったのに対して、発明例では130〜165 Jであり、発明例の溶接ワイヤを用いて炭酸ガスシールドアーク溶接を行なって得られた溶接金属の方が、優れた靭性を有することが分かる。
またスラグの剥離性は、発明例が全て良(○)であったのに対して、比較例はいずれも不可(×)であった。
【0040】
【発明の効果】
本発明の溶接ワイヤを用いることによって、軟鋼, 490N/mm2 級高張力鋼あるいは 590N/mm2 級高張力鋼の炭酸ガスシールドアーク溶接を行なう際に、溶接ビードの表面に形成されるスラグの剥離性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】開先形状を示す断面図である。
【符号の説明】
1 鋼板
2 当て金
3 溶接金属
Claims (2)
- ガスシールドアーク溶接で用いられる溶接用鋼ワイヤであって、C:0.02〜0.10質量%、Si:0.20〜1.00質量%、Mn: 1.0〜2.5 質量%、Ti:0.15〜0.30質量%、S: 0.003〜0.020 質量%、希土類元素:0.0005〜0.0100質量%、P: 0.020質量%以下、Al:0.05質量%以下、Ca:0.0010質量%以下を含有する組成の鋼素線からなることを特徴とするガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
- 前記鋼素線が、前記組成に加えて、Mo: 0.5質量%以下、Cr: 0.5質量%以下、Cu: 0.6質量%以下、Ni: 1.0質量%以下、B: 0.010質量%以下およびK:0.0050質量%以下のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用鋼ワイヤ。
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