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JP2004017088A - 多層盛溶接方法及び多層盛自動溶接装置 - Google Patents

多層盛溶接方法及び多層盛自動溶接装置 Download PDF

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JP2004017088A JP2002175174A JP2002175174A JP2004017088A JP 2004017088 A JP2004017088 A JP 2004017088A JP 2002175174 A JP2002175174 A JP 2002175174A JP 2002175174 A JP2002175174 A JP 2002175174A JP 2004017088 A JP2004017088 A JP 2004017088A
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Abstract

【課題】ギャップ変化や溶接線の蛇行など寸法精度の悪い開先継手の溶接構造物を対象に、完全溶け込みで欠陥のない良好な溶接を得るのに好適な多層盛溶接方法及び多層盛自動溶接装置を提供する。
【解決手段】高電流の1パルスで1溶滴を移行させるパルス溶接波形と、初層溶接で出力すべきギャップ幅範囲別の複数の平均電流と充填層及び仕上層での他の平均電流とを設定し、初層溶接時は、開先部のギャップ幅,開先中心の左右上下位置ずれの検出情報に基づいて、ギャップ幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、ギャップ幅に関係のある溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの条件パラメータを算出して増減し、溶接線左右及び上下方向のトーチ位置ずれを修正する。
【選択図】 図6

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、寸法精度の悪い開先継手の厚板構造物の自動溶接に係わり、特に、多層盛溶接方法及び多層盛自動溶接装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
厚板構造物の多くは大型で長尺であり、加工コストの安いガス切断加工による開先継手が用いられている。開先継手には片面溶接が可能なV形やレ形もあるが、溶接歪みや残留応力などの低減に有効な両面溶接用のX開先継手が多く、そのX開先の角度は約50〜70度と広い。
【0003】
ガス切断加工の開先継手は、寸法精度が悪く、開先部のギャップ変化が大きく、開先表面に段差があり、溶接線も蛇行し易い形状となっている。長尺の開先継手内にギャップのない接触部分を設ければ、溶接ワークの組立作業が容易となるが、溶接時に溶け込み不足となり易い。このようなギャップ変化の大きい開先継手の溶接は、一般に自動溶接が難しく、従来から手動溶接が多く行われており、溶接作業に多くの時間を要している。手動溶接には、一般にワイヤ溶融式の直流アーク溶接法が用いられ、スパッタの発生が伴う溶接作業となる。厚板長尺で角度の広いX開先継手は、表側から多層盛溶接を行った後に、裏側より表側の初層ビード面まで裏ハツリ加工(ガウジングやグラインダ加工)をして、裏側から完全溶け込み溶接の多層盛溶接をするため、一連の溶接作業に多大な時間を要すると共に、溶接で消費するワイヤ量も増大してコスト高となっている。
【0004】
したがって、溶接の工数を低減し合理化するためには、開先を狭くし、裏ハツリを省略し、溶接の効率を高め、及び溶接を自動化する必要がある。まず、開先を狭くし、裏ハツリを省略できるようにするためには、深溶け込み溶接が可能な新たな溶接法の導入が必要である。その際に、溶け込み不足と入熱過多による溶接割れ(高温割れ)や溶け落ちを防止するために、適正な溶接施工技術を確立する必要がある。溶接を自動化するには、開先部のギャップ幅や開先面積などの開先形状寸法や溶接線の位置ずれの検出が可能なセンサが必要になる。ギャップ変化や開先面積変化に対応可能な溶接条件制御やトーチ位置制御の技術を確立する必要がある。この他、自動溶接を長時間保持するためには、トーチノズルへのスパッタ付着によるシールド低下を防止しなければならず、スパッタの発生が少ない溶接法が求められている。
【0005】
一方、高い電流・電圧と低い電流・電圧を交互に出力させるワイヤ溶融式のパルスアーク溶接法は、通常の直流アーク溶接法と比べて、スパッタの発生が少なく、また、高溶着な溶接が可能であることから、自動車部品など薄板の溶接に多く適用されており、最近では厚板の溶接構造物にも適用されつつある。しかし、市販されているパルスMAG/MIG溶接電源の大半は、パルス電流の出力値が高々500A程度であり、600Aを越えるような高電流のパルス溶接電源は極めて少ない。また、溶接母材の板厚や継手形状やワイヤの材質及び径によって、適用可能なパルス溶接波形及び溶接条件が異なるため、実際にスパッタが少なく、溶接欠陥がない溶接を実現するためには、対象製品の継手に合った適正なパルス溶接波形及び溶接施工条件を確立しなければならない。
【0006】
自動溶接の従来技術として、一般に据付け型の溶接ロボットがある。溶接パス毎にティーチングしてプレイバック溶接するのは、手間と時間がかかるので、1品物の溶接には不向きである。また、溶接ロボットの可動範囲を超える大物製品や工場外の現地で組立溶接が必要な構造物の溶接は、実際にはできない。他の自動溶接の従来技術として、例えば、特公平4−75114号公報の自動アーク溶接法では、溶接中にギャップ幅を検出しながら、そのギャップ幅の大きさに対応して溶接電流Iaを
「Ia=Io−k・G」
の関係式で増減制御し、また、この溶接電流Iaの大きさに応じてワイヤ送り速度Wfを
「Wf=A・Ia+B・Ia
の関係式で可変制御し、溶接電圧Eを
「E=El+Ea+Er」
の関係式でそれぞれ可変制御している。
【0007】
特公平4−75115号公報には、溶接電流Ia及びワイヤ送り速度Wfの変化に対応して、ビード高さが一定に保たれるように、溶接速度Vpを
「Vp=Wf/[(α・Wfo/Vpo)+β・(Io−Ia)]」
の関係式で可変制御している。
【0008】
また、特開平3−47680号公報の開先倣い制御装置では、開先内の形状を検出するレーザー変位センサと、開先左右端位置及びワイヤ先端位置の情報を検出するITVカメラと、これらの情報から溶接トーチの位置を演算する手段とを備え、左右方向の位置ずれを演算しトーチ位置を制御している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特公平4−75114号公報及び特公平4−75115号公報の自動アーク溶接法は、ギャップ幅の変化に対して溶け込みを所望の目標値に保って自動溶接することが可能な1つの方法として有効と考えられる。しかし、実際に溶接電流(平均)を微小(数アンペア単位)に可変制御することは困難であり、また、溶接電圧及びワイヤ送り速度の微小制御も同様に難しく、過敏な制御で逆効果の動きとなって溶接を乱す可能性がある。また、対象板厚が10mm程度のステンレス鋼で、開先角度も広く、表側1パスと裏側1パスの溶接であるため、充填層や仕上層溶接が必要な厚板継手の多パス溶接、材質が異なる継手の溶接には適用することは困難である。フラックス入りワイヤによる溶接では、ビード表面全体に形成されるフラックスの除去作業が必要となる。また、フラックス入りワイヤとソリッドワイヤとでは、ワイヤ溶融特性及び適正溶接条件が異なるばかりでなく、母材材質や継手形状やワイヤ材質などが異なると、それに適した溶接条件を新たに見出す必要がある。さらに、この自動アーク溶接法では、高速回転アーク溶接法が用いられており、通常の直流アーク溶接や高い電流と低い電流を交互に出力させるパルスアーク溶接と異なるものである。
【0010】
特開平3−47680号公報の開先倣い制御装置は、トーチずれ量を演算して左右方向のトーチ位置制御を行うことが可能な1つの装置として有効と考えられる。しかしながら、レーザ変位センサの場合は、開先内を走査するための回転ミラー機構や揺動機構を必要とし、装置が大型になるばかりなく、溶接速度が速くなると、検出する開先断面形状の歪みによって誤差が生じるおそれがある。また、光の強烈なアーク溶接画像と微光の開先切断画像を両立させるための特殊なフィルタや装置が必要となる。この開先倣い制御装置では、溶接中の電流・電圧,溶接速度などの条件パラメータ制御はなく、上下方向のトーチ位置制御についても記載されていない。
【0011】
一方、特開平5−138354号公報の溶接自動倣い装置では、レーザスリット光による開先切断画像及び溶接トーチを含む溶融池のアーク溶接画像を同時に撮像するITVカメラと、このITVカメラの検出画像情報よりトーチ左右位置ずれ,ビード高さ,溶接断面積を求める演算手段とを設けて、トーチ左右位置を制御し、トーチ下端位置を制御し、溶接速度を制御している。しかし、開先部にギャップ変化がある開先継手に対しては、ギャップ幅の大きさに対応した高い溶接電流と低い溶接電流を出力する制御やウィービング幅を増減する制御を同時に行わないと、溶け込み不足,溶け落ち,アンダーカットが発生し良好な溶接ビードが得られない可能性が高い。また、開先が深いまたは広い継手の多層多パス盛溶接の場合は、撮像する画像の視野範囲を大きくする必要がある。その視野範囲の拡大に伴って、検出すべき位置や溶接断面積や形状の検出精度が著しく低下し、トーチ位置制御及び速度制御に大きな誤差が生じる可能性がある。開先底部の溶接から開先上部の溶接を行う過程で、アーク溶接画像が上昇していくので、レーザスリット光による開先切断画像がアーク溶接画像と重なり合って見えなくなって検出不可能となるおそれがある。
【0012】
本発明者らは、特開平10−216940号公報において、多層盛溶接方法及び多層盛溶接装置を提案したが、片面溶接が可能なV形やレ形の開先継手を主な対象としており、X開先継手ではなかった。したがって、X開先継手のギャップの幅が問題になることはなく、X開先継手に特有な溶け落ちや溶け込み不足の現象に悩まされることも相対的に少なかった。その結果、初層の溶接及び仕上層の溶接を充填層の溶接と区別し、特別に配慮する必要性も少なかった。したがって、特開平10−216940号公報の多層盛溶接装置は、X開先継手に関しては「自動」溶接装置にはならず、作業員が制御する必要があった。
【0013】
本発明の目的は、ギャップ変化や溶接線の蛇行など寸法精度の悪い開先継手の厚板構造物を対象に、ギャップ幅やビード幅の大きさに対応した溶接条件パラメータを可変制御し、トーチ位置ずれを修正制御し、完全溶け込みで高温割れなど溶接欠陥のない良好な溶接を実行するに好適な多層盛溶接方法及び多層盛自動溶接装置を提供することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために、溶接すべき一対の厚板長尺部材を突合わせた継手部の溶接線内に複数の仮付け部分を有し、突合わせ部にギャップがある開先継手に対して、前記開先継手の溶接線方向に設置されたガイドレール上を走行し、ワイヤ溶融式の溶接トーチとトーチ駆動機構と開先部のギャップ幅,仮付けの有無,開先中心の左右及び上下位置ずれ量の少なくとも1つ以上を検出するセンサとを搭載した自走式の溶接台車と、パルス溶接電源と、溶接制御装置とを用いて多層盛溶接する多層盛溶接方法において、パルス溶接電源から出力すべき高電流の1パルスで1溶滴が低電流のベース時間前半に移行可能なパルス溶接波形を設定し、初層のパルス溶接で用いるギャップ幅範囲別の複数の平均電流群または電流群及び平均電圧群を条件テーブルに設定し、初層溶接を実行する時は、仮付けのない開先部分から検出したギャップ幅を用い、開先中心の左右及び上下位置ずれの検出情報に基づいて、ギャップ幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、前記ギャップ幅に関係する溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを各々算出して増減し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正制御する多層盛溶接方法を提案する。
【0015】
特に、初層溶接動作時には、仮付けのない開先部分から検出したギャップ幅を正常値とし、仮付けのある開先部分から検出したギャップ幅は異常値と見なして削除し、または前記異常値の削除後に、前回検出した正常値のギャップ幅に変換して正常値と見なし、このギャップ幅の検出情報に基づいて、初層の溶接条件パラメータを各々算出して増減制御するとよい。
【0016】
また、充填層のパルス溶接で用いるビード幅範囲別または開先肩幅別の複数の平均電流群または電流群及び平均電圧群または所定値の平均電流を条件テーブルに設定し、前記充填層の溶接を実行する時には、仮付けのない部分とある部分とで変化している残存の開先面積と、ビード幅または開先肩幅またはビード幅及び開先肩幅とを用い、開先中心の左右及び位置ずれ,上下位置ずれの検出情報に基づいて、ビード幅または開先肩幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、または所定値の平均電流及び平均電圧を出力させ、充填層で溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを各々算出して増減し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正制御する多層盛溶接方法とすることもできる。
【0017】
仕上層のパルス溶接で用いる開先肩幅別の複数の平均電流群または電流群及び平均電圧群を条件テーブルに設定し、前記初層または充填層の溶接後に仕上層の溶接を実行する時には、センサの検出動作を停止して、前層溶接で検出及び制御に用いた検出記録データを再度用い、前記開先肩幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、仕上層で溶接すべき残存の溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを各々算出して増減し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正制御する多層盛溶接方法とすることもできる。特に、前記充填層と仕上層または仕上層の溶接を実行する時には、さらに開先表面の段差の検出情報を用い、前記段差の高い開先側の方向にトーチ位置を所定量シフト,ウィービングの停止時間を所定値長くするとよい。
【0018】
また、前記厚板長尺部材の開先継手は、完全溶け込み溶接が必要なX開先継手であって、表側と裏側の各初層溶接は、深溶け込みが必要なギャップのない部分では、裏ビードの形成可能な高めの平均電流を出力させ、開先両壁面の溶融が必要なギャップ変化のある部分では、前記ギャップ幅が大きくなるに従って平均電流を予め定めた値ずつ減少するように出力させ、溶着面積の増加に必要な溶接速度を減少する制御と、溶接トーチのウィービング幅を増加する制御とを実行し、前記初層溶接後の充填層の溶接では、開先肩幅が大きくなるに従って平均電流を予め定めた値ずつ増加するように出力させまたは所定値の平均電流を出力させ、仕上層の溶接では、開先肩幅が大きくなるに従って平均電流を予め定めた値ずつ増加するように出力させ、前記充填層及び仕上層別にそれぞれ溶接すべき残存の溶着面積の増減計算に対応した溶接速度の増減制御と、溶接トーチのウィービング幅を増加する制御と、開先表面の段差が高い開先側のウィービング停止時間を予め定めた値だけ長くする制御とを実行する多層盛溶接方法とすることもできる。特に、開先角度の狭いX開先継手または開先角度の広いX開先継手の各溶接を選択可能とし、前記X開先継手の表側の初層溶接と、裏側の初層溶接と、初層溶接後の充填層の溶接と、仕上層の溶接とで各々出力すべきギャップ範囲別,開先幅範囲別の複数の平均電流群を溶接条件テーブルにそれぞれ設けるとよい。
【0019】
上記いずれの多層盛溶接方法においても、開先部の断面形状画像を処理する画像処理装置に接続している光切断式センサを溶接トーチ前方の開先上面に設置し、溶接前に溶接開始点でトーチ先端のワイヤ位置決めとセンサ座標の基準原点とを合わせ、初層と充填層の溶接動作時には、前記画像処理装置と一対の光切断式センサとにより、溶接トーチより先行する位置でほぼ一定時間間隔で取得する断面形状画像を処理し、ギャップ幅,ビード幅,開先肩幅,開先深さ,角度,開先面積,開先表面の段差,開先中心の左右位置ずれ,上下位置ずれの値をそれぞれ検出し、検出したデータを溶接制御装置側で分類,異常値の削除及び平均化の処理をして用い、仕上層の溶接動作時には、センサの検出動作を停止して、前層溶接で検出した記録データを再度用い、初層と充填層及び仕上層の溶接パス毎に溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを算出して増減制御し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれを修正制御するとよい。
【0020】
また、本発明は、上記目的を達成するために、溶接すべき一対の厚板長尺部材を突合わせた継手部の溶接線内に複数の仮付け部分があるまたは溶接線が蛇行するまたはギャップ幅や開先断面積が変化することもある開先継手に対して、前記開先継手の溶接線方向に設置されたガイドレール上を走行し、ワイヤ溶融式の溶接トーチとトーチ駆動機構と開先部のギャップ幅,開先中心の左右及び上下位置ずれ量などを検出するセンサとを搭載した自走式の溶接台車と、少なくとも高電流の1パルスで1溶滴を移行させるための直流パルス溶接波形が設定可能であって、パルス電流値またはこのパルス電流を出力させるパルス電圧値とパルス時間の調整設定が可能であると共に、ベース時間及びワイヤ送り速度の可変制御によってパルス溶接の平均電流,平均電圧の増減制御が可能なパルス溶接電源と、前記センサから得られる断面形状画像を処理して開先中心の左右位置ずれ,上下位置ずれ,ギャップ幅,ビード幅,開先肩幅,開先深さ,角度,開先面積及び開先表面の段差を検出する画像処理装置と、開先角度が狭い開先継手と広い開先継手の各溶接を選択可能とし、前記開先継手の初層と充填層及び仕上層の各溶接別に使用する平均電流や平均電圧,溶接中の各計算処理で使用する溶接データを格納するデータファイルと、溶接及び検出動作中に前記画像処理装置からリアルタイムで取得する検出データを分類,異常値の削除及び平均化の処理をする検出データ処理手段と、溶接トーチの左右位置ずれ及び上下位置ずれの修正量,ワイヤ送り速度と溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅や停止時間などの溶接条件パラメータの増減量をそれぞれ算出して、トーチ位置の修正制御,溶接条件パラメータの適正制御を溶接台車及びパルス溶接電源にそれぞれ実行させる溶接処理手段とを有する溶接制御装置とからなる多層盛自動溶接装置を提案する。
【0021】
また、溶接前にトーチ位置決めとセンサ座標の原点合わせの設定状況及び結果を表示し、溶接線長さの設定情報を表示し、溶接中にリアルタイムで変化するトーチ現在位置,出力中の溶接条件,検出データの情報を表示し、装置異常や溶接異常が生じた時に警告を表示する画面表示手段を溶接制御装置に設けるとよい。
【0022】
すなわち、本発明の多層盛溶接方法では、厚板長尺部材の開先部にギャップ変化や段差や溶接線の蛇行が伴う溶接構造物を対象に、高電流の1パルスで1溶滴が移行可能なパルス溶接波形と、溶接パス毎に画像処理装置と一対の光切断式センサで検出する開先部のギャップ幅,ビード幅,開先肩幅,開先面積,開先表面の段差,開先中心の左右位置ずれ,上下位置ずれの検出情報とに基づいて、ギャップ幅や開先肩幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を出力すると共に、溶接条件パラメータの適正制御,トーチ位置の修正制御を溶接パス毎に実行するので、スパッタの発生が少ないパルス溶接が可能となる。また、開先部にギャップ変化や段差や仮付けや溶接線の曲がりがある長尺部材の開先継手であっても、溶接開始点から終点まで良好な溶接ビードが形成でき、初層から仕上層までの多層盛溶接を自動で実行でき、工数を低減し、溶接品質を高めることができる。特に、完全溶け込み溶接が必要なX開先継手であっても、表側及び裏側の初層溶接で、深溶け込みが必要なギャップのない部分では、裏ビードの形成可能な高めの平均電流を出力させてパルス溶接するので、欠陥のない深溶け込みの初層ビード断面を得ることができる。また、開先両壁面の溶融が必要なギャップ変化のある部分では、前記ギャップ幅が大きくなるに従って平均電流を予め定めた値ずつ減少するように出力させ、溶着面積の増加に必要な溶接速度を減少させる制御と、溶接トーチのウィービング幅を増加させる制御とをするので、アーク力が抑制されて溶け落ちやアンダーカットの発生を抑制でき、ギャップ変化のある部分も平滑で良好な溶接ビードを得ることができる。同時に、位置ずれに対するトーチ位置を修正制御し、溶接線の曲がりがある長尺部材の開先継手でも溶接線左右及び上下方向のトーチ位置ずれが解消でき、溶接ビードの形成不良を防止できる。
【0023】
充填層のパルス溶接で用いるビード幅範囲別または開先肩幅別の複数の平均電流群または電流群及び平均電圧群または所定値の平均電流を条件テーブルに設定し、前記初層後の充填層の溶接を実行する時には、仮付けのない部分とある部分とで変化している残存の開先面積とビード幅または開先肩幅またはビード幅及び開先肩幅とを用いて、ビード幅または開先肩幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、充填層で溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを各々算出して増減制御するので、開先幅の狭い部分も広い部分も同一のパス数で溶接できる。また、仕上層の溶接を実行する時には、センサの検出動作を停止して、前層溶接で検出及び制御に用いた検出記録データを再度用い、開先肩幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、仕上層で溶接すべき残存の溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅や停止時間などの溶接条件パラメータを各々算出して増減し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正制御するので、センサによる検出が困難な時でも、開先幅の狭い部分も広い部分も、また仮付けのある部分もない部分も同一のパス数で溶接できるばかりでなく、溶接線の曲がりやレールずれに対する左右及び上下方向のトーチ位置ずれが解消でき、溶着融合不良やアンダーカットのない平滑でほぼ均等な余盛高さの溶接ビードを得ることができる
さらに、本発明の多層盛自動溶接装置では、少なくとも高電流の1パルスで1溶滴を移行させるための直流パルス溶接波形が設定可能であって、パルス電流値または前記パルス電流を出力させるパルス電圧値とパルス時間の調整設定が可能であり、ベース時間及びワイヤ送り速度の可変制御によってパルス溶接の平均電流,平均電圧の増減制御が可能なパルス溶接電源を用いている。パルス溶接する時は、例えば、鋼材用の1.2mm 径のソリッドワイヤに給電するパルス電流値Ipを高めの550〜650A、そのパルス時間Tpを短めの1.8〜1.2msの範囲に設定し、高電流の1パルスで1溶滴が低電流のベース時間Tb前半に移行可能なパルス波形とし、ベース時間及びワイヤ送り速度の可変制御による平均電流Iaの増減制御を実行すると、小電流領域(平均)から大電流領域まで安定なアーク及び溶滴移行が得られ、スパッタの発生が少ない良好なパルス溶接が可能となり、アーク溶接時間,スパッタ除去作業,トーチノズル清掃回数を大幅に軽減できる。
【0024】
光切断式センサは、開先断面形状の画像を処理する画像処理装置と一対であって、少なくとも開先面を直角に切断する垂直方向にスリット光を照射するレーザ投光器と、干渉フィルタを介してスリット光の反射像を撮像する受光器とをセンサ筐体内に装備している。その光切断式センサは、溶接トーチより先行する開先上面で断面形状画像の撮像が可能であると共に、溶接台車に搭載されている左右及び上下方向に移動可能な溶接トーチと独立させた位置の溶接台車本体に設けると、溶接線左右方向に揺動させる溶接トーチの動きに影響を受けることなく、開先上面の位置で揺れのない断面形状画像を正常に抽出できる。また、この断面形状画像を処理して開先中心の左右位置ずれ,上下位置ずれ,ギャップ幅,ビード幅,開先肩幅,開先深さ,角度,開先面積及び開先表面の段差などを検出する検出手段を画像処理装置に設けると、検出情報が得られ、その検出情報を制御装置側で取得して分類,異常値の削除及び平均化などの処理をして溶接の制御に用いることが可能となる。検出データ処理手段と、溶接条件の出力や計算処理で使用する溶接データファイルと、位置ずれの修正量や溶接条件パラメータの増減量を算出して制御する溶接処理手段を溶接制御装置に設けると、検出データの分類及び平均処理と溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくすためのトーチ位置の修正制御と溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅や停止時間などの溶接条件パラメータの適正制御が可能となり、開先部にギャップ変化や段差や溶接線の曲がりがある長尺部材の開先継手であっても、溶接開始点から終点まで平滑で欠陥のない良好な溶接ビードが形成でき、初層から仕上層までの多層盛溶接が自動で実行でき、溶接を合理化し、工数を低減し、溶接品質を高めることができる。
【0025】
溶接対象の任意寸法の開先継手に対して、溶接前にその開先形状寸法や溶接の基準条件の入力情報を基にして、多層盛溶接で必要なパス数やパス毎のトーチ位置及び溶接条件を演算及び演算結果の画面表示をすると、任意寸法の多層盛溶接の計画や演算結果の事前把握が可能となり、確定後の演算結果の溶接データを用いて溶接パス毎のトーチ位置及び溶接条件の指令や基本的な溶接動作が可能となる。トーチ位置決めとセンサ座標原点合わせの設定及び結果表示の画面を設けると、溶接前に必要な初層溶接開始点でのトーチ(ワイヤ先端)位置決めとその位置座標の取得及び記憶,センサ座標原点合わせを容易に実行できる。溶接線長さを設定表示させると、溶接の開始点から終了点に到達した位置で溶接動作を終了させることができる。溶接実行中の情報をリアルタイムで表示する画面を設けると、制御されているトーチ現在位置,出力中の溶接条件,検出データを表示画面で視認できる。装置異常や溶接異常が生じた時にその警告表示をすると、溶接動作の強制終了処理、異常回避の操作などを容易に実行でき、装置の操作性及び使い勝手を高めることができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
次に、図1〜図21を参照して、本発明による多層盛溶接方法及び多層盛自動溶接装置の実施形態を説明する。図1は、本発明による多層盛溶接方法を採用した多層盛自動溶接装置の一実施形態の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示した多層盛自動溶接装置における溶接制御装置11の内容構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図1において、一対の厚板長尺部材を突合わせた溶接ワーク1a,1bは、多層盛溶接が必要なX開先継手である。溶接ワーク1a,1bは、コストが安いガス切断加工法により、事前に開先面を加工し、その開先面同士を突合わせてX開先継手を組立てている。このため、加工面の寸法精度や組立てが悪く、溶接すべき継手の長手方向には、開先部2にギャップ変化がある部分とない部分が混在しており、溶接線も曲がりが生じている。長手方向の溶接ワーク1a上に設置されたガイドレール3は、溶接台車4の走行を案内する。自走式の溶接台車4には、ワイヤ溶融式の溶接トーチ6と、ワイヤリール7に巻かれている溶接ワイヤ5を溶接トーチ6先端へ送給するワイヤ送り機構8と、溶接トーチ6を左右・上下方向に任意移動できるトーチ駆動機構9と、開先部2の断面形状を撮像する光切断式センサ10とを搭載している。
【0028】
光切断式センサ10は、溶接トーチ6より所定距離だけ先行する独立した位置の溶接台車4本体に設置しているため、溶接線左右に揺動(ウィービング動作)させる溶接トーチ6の動きに影響を受けることなく、開先上面の位置で揺れのない開先部の断面形状画像を正しく抽出できる。画像処理置22は、この断面形状画像を取込み画像処理し、自動溶接の制御で必要な開先中心の左右位置ずれ,上下位置ずれ,開先部2のギャップ幅またはビード幅,開先肩幅,角度,開先面積,開先表面の段差などの情報を検出する。溶接制御装置11は、溶接台車4の駆動を制御し、パルス溶接電源12aの出力を制御し、光切断式センサ10と一対の画像処理装置22に検出を指令して検出データを情報処理し、溶接トーチ6位置及び溶接条件を制御し、構成機器を統括管理する。
【0029】
パルス溶接電源12aは、溶接ワイヤ溶融のための高いパルス電流と低いベース電流を交互に繰り返し出力する定電流制御方式または定電圧制御方式または両方併用制御方式のパルス溶接電源であり、溶接トーチ6先端に送給するワイヤ5と溶接ワーク1a,1bとの間に給電する。パルス溶接電源12aは、少なくとも高電流の1パルスで1溶滴を移行させるための直流パルス溶接波形が設定可能であり、パルス電流値またはこのパルス電流を出力させるパルス電圧値とパルス時間の調整設定が可能である。また、パルス溶接の平均電流の出力制御は、ベース時間及びワイヤ送り速度の可変制御によりなされる。
【0030】
溶接中のシールドガスは、パルス溶接電源12a及びトーチケーブル介してガスボンベ16から供給される。ガスボンベ16は、鋼材溶接の場合、Arガスを主成分とする10〜30%程度のCO ガス入りの混合ガスボンベである。Ar+CO 混合ガスの代わりに、例えば数%のO を加えたAr+CO+Oの混合ガスやAr+O の混合ガスを使用することも可能である。配線ケーブル13は、パルス溶接電源12aと溶接トーチ6及びワイヤ送り機構8を接続しており、配線ケーブル14a,14bは、溶接制御装置11と溶接台車4,光切断式センサ10,パルス溶接電源12aを接続している。
【0031】
図2において、操作盤15aは、自動運転に必要な初期設定,開先部2の形状寸法,基本溶接条件を入力設定する。画面表示装置15bは、溶接データファイル作成時の入力と演算結果とを表示し、自動溶接時に必要な溶接トーチ位置,溶接条件,センサの検出情報を表示し、その他、自動運転時に必要な情報を表示する。統括制御装置17はパソコンなどからなり、任意形状寸法の開先部2の多層盛溶接に必要なパス毎の溶接位置や溶接条件を予め決定して登録しておく溶接データファイル18bを自動作成する溶接演算プログラム18aと、溶接データファイル18bと画像処理装置22より取得する検出データとに基づき、溶接パス毎の制御及び多層盛溶接を自動実行する自動運転プログラム19と、自動溶接で必要な溶接位置演算制御部20a,溶接条件演算制御部20b,溶接中のデータを記録する制御データ記録ファイル21a,検出データ記録ファイル21bなどを備えている。操作ペンダント24bは、各軸駆動装置24aを介して、溶接台車4や溶接トーチ6の移動操作,溶接条件の設定修正の操作に用いられ、溶接前に溶接トーチ6を開始点へ移動させてトーチ(ワイヤ)位置決めし、溶接中に不具合が生じた時にトーチ位置や溶接条件の割込み修正,溶接停止などができるようにする。
【0032】
図3は本発明の多層盛溶接方法において、スパッタの発生を抑制するためのパルスアーク溶接の電圧・電流波形及びワイヤ先端の溶滴移行の概要を示す図である。横軸の時間に対する縦軸には、定速送りのワイヤ,パルス電圧の波形,パルス電流の波形,ワイヤ溶滴の形成と移行の概要を示している。
【0033】
本発明においては、定速送りのワイヤに同期させて、パルス溶接電源12aより高いパルス電流Ip・電圧Vpと低いベース電流Ib・電圧Vbを交互に出力させるか、または直流の低いベース電流Ib・電圧Vbに高電流のパルス電流
Ip・電圧Vpのパルス波形を重畳して出力させる。このパルス電流Ip・電圧Vpの期間Tp中に、溶融させたワイヤ5先端に溶滴26を形成させ、パルス期間Tp終了後のベース電流Ib・電圧Vbの期間Tb前半に、ワイヤ溶滴26を母材29側の溶融プール27へ離脱移行させる1パルスで1溶滴移行が可能な適正パルス溶接波形を出力させる。ワイヤ溶滴26の移行時に短絡移行が生じない程度のアーク25長を保持するように溶接平均電圧Eaを出力させてパルスアーク溶接するので、スパッタの発生を防止でき、良好な溶接ビードを形成できる。
【0034】
なお、アーク25長が短かすぎてワイヤ先端の溶滴26が短絡移行(アーク消滅)してアーク再点弧する時や、ピーク時間が長すぎてアーク力の強いパルス電流Ipの期間Tp中に溶滴26が離脱移行する時には、溶滴26の一部がスパッタ28となって飛散する。そのスパッタの一部がトーチノズルに付着して堆積すると、ガスシールドの低下による溶接欠陥の発生に至る。
【0035】
角度の狭いX開先継手の溶接では、特にギャップのない部分で裏側まで溶融する深溶け込みと溶接割れ防止が必要であるために、パルス電流Ip値の出力が高い溶接波形を採用している。例えば、鋼材用の1.2mm 径のソリッドワイヤに給電すべきパルス電流Ipを高めの550〜650A、そのパルス時間Tpを短めの1.8〜1.2msの範囲に設定して、高電流の1パルスで1溶滴をベース時間前半に移行可能としている。パルス電流Ip値が550A未満の溶接電源では深溶け込み溶接が得られなかった。また、650Aを遥かに越えるような溶接電源はトランス容量が増大することになるので好ましくない。パルスアーク溶接での平均電圧Eaと平均電流Iaは、
「Ea=(Vp・Tp+Vb・Tb)/(Tp+Tb)」
「Ia=(Ip・Tp+Ib・Tb)/(Tp+Tb)」
で示される。
【0036】
平均電流Iaは主にベース時間Tbを増減させて可変制御する。ワイヤ送り速度Wfは、その平均電流Iaとほぼ比例関係にあるので、同調させて増減し、その溶接中にワイヤ溶滴26が短絡移行しない程度のアーク長25を保持するように平均電圧Eaを調整すればよい。また、定電圧制御方式のパルス溶接電源を使用する場合は、パルス電圧Vp及びベース電圧Vbの設定によって上記のパルス電流Ia及びベース電流Ibを出力させればよい。このように制御すると、小電流(平均)領域から大電流領域までスパッタのないパルス溶接を良好に実行できる。ここでは、矩形波のパルス波形で説明したが、台形波状,鋸形波状のパルス波形でもよい。
【0037】
図4は、鋼材板厚T=32mmのX開先継手で、角度が60度と35度における多層盛溶接を示す図である。角度が60度と広い従来開先の場合(1)は、表側4パス裏側4パス溶接であるのに対して、角度を35度に狭くして開先面積を小さくすると、図4(2)に示すようにパス数の少ない表側3パス裏側3パス溶接が可能となる。図中に記載の番号は溶接のパス番号であり、記号のTは板厚、Hは表側の開先深さ、h1は1パス目溶接の初層ビード高さである。
【0038】
図5は、図4(2)に示した多層盛溶接における下向き姿勢での各パス毎の溶接手順を示す図である。(1)は表側初層の1パス目溶接S1、(2)は充填層で2パス目溶接S2、(3)は仕上層で3パス目溶接S3である。また、(4)は溶接ワークを反転した後の裏側初層の4パス目溶接S4、(5)は充填層で5パス目溶接S5、(6)は裏側最後の仕上層で6パス目溶接のビード断面をそれぞれ示している。立て向き上進姿勢や横向き姿勢の場合には、溶接ワークの反転作業が不要となり、下向き姿勢溶接の時より平均電流・電圧を減少させて充填層及び仕上層を溶接することになる。
【0039】
図6は、本発明の溶接方法で初層溶接の条件を制御する状況を示す図である。上段は開先部ギャップ検出画像、そのギャップ幅の大きさ(G=0,G=5mm)に対応したパルス電流波形,溶接ビード断面を中央に示し、下段にはギャップ幅Gに対応した平均電流Iaと溶接速度Vpと平均電圧Eaとワイヤ送り速度とウィービング幅Uwとの関係を示している。すなわち、深溶け込みが必要なギャップのない部分及びその近傍では、平均電流Iaが高い約300Aを出力させると共に、それに比例関係にある適正な平均電圧Eaを出力させる。平均電流Iaが高いと、ワイヤ送り速度(溶融速度)Wfが速くなるために、溶接速度Vpを速くして溶接すべき溶着面積(ワイヤ溶着面積)を減少させる。ギャップ幅が大きくなるに従って、平均電流Iaを階段状に予め定めた値(例えば20〜40A程度)ずつ減少させてアーク力を弱めると共に、それに適した平均電圧Ea及びワイヤ送り速度Wfを出力させ、ウィービング幅を増加させる。溶接速度Vpについては、ギャップ幅が大きくなるに従って溶接すべき溶着面積S1(溶着量)を増加させる必要があるため、溶接速度Vpをギャップ幅に応じて減少させる。
【0040】
図7及び図8は、本発明の溶接方法で充填層及び仕上層の溶接条件を制御する状況を示す図である。初層溶接後の充填層の溶接では、残存している開先面積
As,ビード幅Bs,開先肩幅Wsの検出情報を用いる。平均電流Iaは初層溶接時より低めであり、ギャップ幅と関係のある開先肩幅Ws(ギャップなし時のWo+G)が大きくなるに従って、階段状に予め定めた値(例えば20〜40A程度)ずつ増加させ、ウィービング幅も増加させている。その平均電流Iaと比例関係にある適正な平均電圧及びワイヤ送り速度を出力させ、融合不良の防止と開先両壁の溶融を促進している。溶接速度は、開先面積及び開先肩幅の大きさによって増減する溶着面積に対応するように増減させている。
【0041】
一方、仕上層の溶接では、センサによる開先形状検出が困難となるため、その検出動作を停止して、前層溶接で検出した記録データを再度用い、溶接すべき残存の溶着面積,平均電流,溶接速度,ウィービング幅などの溶接条件パラメータをそれぞれ算出して増減出力している。さらに開先表面の段差ksの情報を用いて、この段差ksの高い開先側の方向にウィービングの停止時間を長く、トーチ位置を所定量シフトさせるとよい。このように増減制御することにより、開先面積や開先肩幅が変化するまたは開先表面に段差のある開先継手であっても、開先上面の余盛高さがほぼ均等で溶け込みが良好でアンダーカットのない溶接ビード断面を得ることができる。
【0042】
図9は、図3に示したパルス溶接及び図6〜図8に示したパス毎の多層盛溶接とにおける平均電流Iaとワイヤ送り速度Wf及び平均電圧Eaとの関係を示す図である。両者の間には比例増加する関係の特性を有しており、下記の(1)式及び(2)式で表わせられる。k,kはワイヤ定数、k,kは電圧定数である。
【0043】
ワイヤ送り速度:Wf=k・Ia+k            …(1)
平均電圧:   Ea=k・Ia+k            …(2)
図10は、角度が35度で狭いX開先継手(板厚:32mm)における初層溶接で重要な開先部のギャップ幅Gと平均電流Iaとの関係を示す図である。図10の○印の部分が溶け込みの良好な適正領域であり、ギャップ幅が大きくなるに従って、その適正領域は、概ね階段状に低電流側へ移行する結果となっている。特に、ギャップのない(G=0)部分の溶接では、約300A前後の平均電流で裏側まで溶け込む溶接が可能である。しかし、約330Aを越える高電流領域ではワイヤ溶融量の増加によって溶接ビードが高く(ビードの高さと幅の比が大きい)なり、また、溶接速度を増減させても溶接による高温割れ(◆印)が発生し易い。約270A未満の電流領域ではアーク力及び溶接入熱の不足によって裏側まで溶かすことができずに溶け込み不足(▲印)となる。ギャップ幅1mm以上の領域では、高温割れの問題がなくなるが、平均電流及び溶接入熱が高すぎると溶け落ち(●印)やアンダーカットが生じる。その平均電流及び溶接入熱が低すぎると溶け込み不足(▲印)が生じることになる。したがって、溶け良好な適正領域は両者の中間に存在することが分かり、開先角度が30〜40度のX開先継手で適用可能である。ギャップ幅が広い部分での溶け落ちを確実に防止する一つの手段として、裏側の開先継手内にセラミックス性の裏当て材を設ければよい。
【0044】
図11は、ギャップなしのX開先継手で溶接速度Vpと平均電流を変化させて初層溶接をした結果を示す図である。溶け込みの良好な適正領域は、溶接速度Vpが500mm/min 前後及び幾分遅い領域、平均電流Iaが270A≦Ia≦330Aの範囲の部分に存在することが分かった。
【0045】
図12はX開先の深さHが16mm、角度θが35度の継手溶接におけるギャップ幅Gと開先面積[As=H・tan(θ/2)+H・G]、初層の溶着面積S1及びビード高さの関係を示す図である。溶着面積S1を増大させる制御をすると、図4(2)及び図5に示したように初層のビード高さh1を約8.5±1mm 範囲に形成できる。この初層溶接後に残存する面積は、図7及び図8に示した充填層と仕上層の溶接とで開先表面まで均等に盛り上げることができる。
【0046】
したがって、ここでは、ギャップが0(Go)の時の基準面積Soと、センサ側から順次取得する検出データを分類してそれぞれ平均化処理したギャップ幅Gs値またはギャップ幅Gsと開先角度θs両方の値を用いて、溶接すべき溶着面積S1を(3)式かまたは(4)式より求めるようにしている。k はギャップ重み定数、k は角度重み定数、θoは標準角度である。また、その溶着面積S1に必要な溶接速度Vp(mm/min)は、平均電流Iaと相関関係のあるワイヤ送り速度Wf(mm/min)及びワイヤ径d(mm)とから求めることができ、(5)式で示される。ηはワイヤ溶着定数である。
【0047】
初層の溶着面積:
S1=So+k・(Gs−Go)               …(3)
S1=So+k・(Gs−Go)+k・tan(θs−θo)   …(4)
溶接速度:
Vp=(10・d・π・η・Wf)/(4・S1)      …(5)
この他に、ギャップ幅が1mm以上の領域では開先面両壁の溶融促進と溶け落ち防止を図る必要があるため、溶接トーチを溶接線方向の左右に揺動させるウィービング制御をしている。ギャップ幅Gsの大きさ及び溶接速度Vpに対応したウィービング幅Uwやウィービング周波数fwの増減制御[例えばUw=Gs−k10,fw=Vp/(60・Pu)]をする。k10はウィービングの幅定数、Puは一往復のピッチである。このようにしてギャップ幅の大きさに対応させて溶接条件パラメータの制御をすると、図6〜図8の各中央にそれぞれ示した溶接ビード断面のように良好な溶接部を得ることができる。
【0048】
図13は、開先角度が30〜40度のX開先継手の多層盛溶接を対象に、表側の初層溶接と裏側の初層溶接、表側と裏側の充填層及び仕上層の溶接でそれぞれ出力する平均電流Iaの溶接条件テーブルの一実施例を示す図であり、図6〜図8に示した初層,充填層及び仕上層の各溶接の条件制御に用いている。裏側の初層溶接を行う時には、表側溶接が完了済みで溶け落ちの可能性がないので、ギャップの広い部分でも高めの平均電流を出力させて能率良く確実な完全溶け込みを得るようにしている。表側と裏側の初層溶接では、それぞれギャップ幅範囲別に設定した各々の平均電流を選択して出力させ、その平均電流Iaに適したワイヤ送り速度Wf及び平均電圧Eaを前記の(1)(2)式で計算する。
【0049】
また、表側または裏側の充填層,仕上層の各溶接を行う時には、ギャップと関係のある開先肩幅範囲別の平均電流Iaを選択して出力させる。一定値の平均電流を出力させるように設定することも可能である。そして、溶接中にほぼ一定時間間隔でセンサ側より検出される開先面積(残存面積)Asと開先肩幅Wsまたはビード幅Bsまたは前記開先肩幅及びビード幅とを用いて、溶接すべき残存の溶着面積Sp,溶接速度Vp,ウィービング幅Uwなどを算出して増減制御する。同時に、開先表面の段差ksを用いて、段差の高い開先側の方向にトーチ位置をシフト,ウィービングの停止時間を長くするとよい。
【0050】
ここでは、溶接パスプラン演算で求めたギャップ0時の充填層及び仕上層での基準面積SGo及び最小開先肩幅Wmin と、検出データの開先肩幅Wsを平均化
Ws=(Ws1+Ws2+…+Wsa)/a
した値を用いて、開先肩幅の変化に対応した溶接すべき溶着面積Spを(6)式で求めている。k はビード幅重み定数である。或いは開先面積Asと開先肩幅Wsの検出値を用いて、残されている溶接面積[As+k・(Ws+k)]を残りのパス数(p−n)で割算する(7)式によって開先面積の変化に対応した溶着面積Spを求めることができる。k は余盛り高さ、k は仕上ビード幅定数である。この時の溶接速度Vpは(8)式で求められる。
【0051】
充填/仕上層の溶着面積:Sp=SGo+k・(Ws−Wmin) …(6)
Sp=[As+k・(Ws+k)]/(P−n)   …(7)
溶接速度:Vp=(10・d・π・η・Wf)/(4・Sp) …(8)
このように計算処理して、溶接条件パラメータをリアルタイムで制御すると、図5に示した溶接パス毎のビード断面のように、良好な溶接部を得ることができる。溶接条件テーブルには、各々の平均電流とその電流に適した各平均電圧Eaの両方を編集可能な溶接条件テーブルにして、開先部のギャップや開先肩幅の検出情報に基づいて切り換え出力できるようにしてもよい。このように溶接条件テーブルを事前に準備すると、図6〜図8に示したように溶接条件パラメータを可変制御できる。
【0052】
一方、対象製品によっては、X開先継手の開先角度を狭くするができずに、これまでと同様の広い開先角度のままで自動溶接したい要求もあり、これに対応できるようにする必要がある。図14は、開先角度が55〜65度のX開先継手の多層盛溶接を対象に、表側の初層溶接と裏側の初層溶接、表側と裏側の充填層及び仕上層の溶接でギャップ幅範囲別及び開先肩幅範囲別に各々出力する平均電流Iaの溶接条件テーブルの一実施例を示す図である。開先角度が広いX開先継手の場合は、狭いX開先継手の初層溶接の時と比べて溶融し易いので、ギャップ幅範囲別に低めの平均電流を設定している。充填層と仕上層の各溶接で用いる開先肩幅範囲別の平均電流は、図14に示した開先角度の狭い溶接の時と同程度の値を設定している。これらの各値は必要に応じて変更できるようにすればよい。このような溶接条件テーブルを用いると、開先角度の広いX開先継手の多層盛溶接が可能となる。
【0053】
図15は、鋼材板厚T=20mm、開先角度が60度のX開先継手で、表側2パス及び裏側2パスが必要な多層盛溶接における初層溶接の条件を制御する状況を示す図である。上段は開先部のギャップG,開先肩幅Ws,開先面積As,段差ksなどの検出画像、中央にはギャップ幅の大きさ(G=0,G=5mm)に対応したパルス電流波形,溶接ビード断面を示し、下段にはギャップ幅Gに対応した平均電流Iaと溶接速度Vpと平均電圧Eaとワイヤ送り速度Wf及びウィービング幅Uwとの関係を示している。初層で溶接すべき溶着断面積S1は、ギャップが0(Go)の時の基準面積Soを調整した(3)式で求め、また、ワイヤ送り速度Wfと平均電圧Ea及び溶接速度Vpは、(1)(2)(5)式でそれぞれ求めて増減させている。
【0054】
初層と仕上層とからなる2パス溶接の場合、初層後の仕上層で溶接すべき残存の溶着面積S2は、充填層がないため、初層溶接時に検出し記録した開先面積Asと開先肩幅Wsとより算出する溶接面積[As+k・(Ws+k)]から、既に溶接済みの溶着面積S1を除いた値となり、(9)式で求められる。また、その時の溶接速度Vpは(10)で求められる。
【0055】
充填層のない仕上層の溶着面積:
S2=[As+k・(Ws+k)]−S1          …(9)
溶接速度:Vp=(10・d・π・η・Wf)/(4・S2)…(10)
この仕上層の溶接を実行する時には、センサの検出動作を停止して、前層の初層溶接で検出及び制御に用いた検出記録データを再度用い、図14に示した開先肩幅範囲別の平均電流Wsを出力させ、溶接すべき残存の溶着面積S2,溶接速度Vp,ウィービング幅Uw(例えばUw=Ws−K12)などを算出して増減制御する。同時に、開先表面の段差ksを用いて、段差の高い開先側の方向にトーチ位置をシフトさせ、ウィービングの停止時間を長くするとよい。
【0056】
裏側の初層と仕上層の2パス溶接も、表側の溶接の時と同様に算出して増減制御すればよい。また、開先角度が狭いX開先継手の2パス溶接の場合も同様に算出して増減制御すればよい。このように計算処理して、溶接条件パラメータをリアルタイムで制御すると、ギャップ変化や段差があっても、また、角度の広い開先の溶接や角度の狭い開先の溶接であっても、同一の所定パス数で開先表面にアンダーカットのない完全溶け込みの溶接ビード断面を得ることができる。
【0057】
一方、板厚などの寸法が異なる各々のX開先継手に対しても自動溶接ができるようにする必要があるため、ここでは、入力すべき開先寸法と図13及び図14に示した平均電流の条件テーブルに基づいて、溶接開始点での基準となる溶接パス数やパス毎のトーチ及び溶接条件を溶接演算プログラム18aによって演算するようにしている。図16は、溶接データ演算結果の表示例を示す図である。その演算方法は省略するが、溶接パス毎のトーチ位置の目標値,溶接条件,積層ビードの幅や高さが分かるようになっている。
【0058】
次に、本発明の溶接制御で使用する光切断式センサによる検出方法の概要について説明する。図17は、光切断式センサ10と関連機器の構成を示す斜視図である。光切断式センサ10は、溶接トーチ6より先行する開先部2の上部位置にあり、その開先部2を直角に切断する垂直方向にスリット状の光31bを照射するレーザ投光器31aと、その反射像を干渉フィルタ32bを介して撮像するカメラ32aを備えている。干渉フィルタ32bは特定波長のレーザ光のみを抽出する。23は投光受光制御器であり、レーザ投光器31aとカメラ32aを制御すると共に、撮像された光切断画像を画像処理装置22に送信する。画像処理装置22は、自動溶接を行う時に必要な開先中心の左右位置ずれΔYs,上下位置ずれΔZs,開先肩幅Ws,開先面積As,開先表面の段差ks,ギャップGs,ビード幅Bsなどの検出情報を抽出する溶接検出プログラムを内蔵しており、統括制御装置17からの検出指令と検出結果の報告要求に応答する。光切断式センサ10の筐体部分は、過熱を防止する水冷構造、支障のある微粒子の侵入を防止するガス流出構造になっており、溶接トーチ6と独立した位置の溶接台車4に固定されている。
【0059】
図18は溶接前に行うトーチ位置(ワイヤ先端位置)座標の原点とセンサ座標の原点の位置基準合わせを示す図である。溶接台車4を駆動して溶接トーチ6を溶接開始点に移動し、図18(2)に示したようにワイヤ5先端を開先部2の中央部にあるギャップGの中心位置(●点)に合わせ、そのワイヤ位置を溶接位置座標の原点(Yp=0,Zp=0)とする。センサ側では、図18(1)に示したように光切断式センサ10の設置位置で撮像される開先断面の線画像33を画像処理装置22で処理し、ギャップGsの中央位置(●点)を検出し、その検出位置をセンサ座標の原点(Ys=0,Zs=0)として、左右及び上下方向のトーチ位置ずれを(ΔYs=0,ΔZs=0)する。初層溶接の時には、開先肩幅の中心位置を他のセンサ座標の原点(Ys=0,Zs=0)として使用することも可能である。溶接の終了位置については、開始点からの溶接線長さ(溶接距離)を入力設定することで、所定の位置で溶接動作を終了させることができる。他の方法として、例えば溶接の終了位置を検知する検知スイッチを溶接台車側かガイドレール側か溶接母材側に設置すると、所定の位置で溶接動作を終了させることができる。
【0060】
図19は、画像処理装置22と一対の光切断式センサ10で検出する内容を示す図である。光切断式センサ10で撮像される開先断面の線画像(33a〜f)を画像処理装置22に取込んで検出項目を抽出する。例えば、開先肩幅Wsは、左右上面の線画像33f,33aと左右の開先斜面の線画像33d,33bが各々交わる交点(d点とc点を結ぶ長さ)の距離で求められる。c点とd点の高さ変化が左右の段差ksであり、このc点とd点の距離を2等分した中点が左右方向の開先中心である。開先斜面の角度が左右異なるまたは加工精度が悪い場合に、開先継手の上部と底部とで中心ずれが生じることになる。それを避けるために、溶接部に近い位置で開先中心を求めている。すなわち、開先の右斜面の線画像33dと開先底部のビード面の線画像33eとが交わる交点(b点)より1mm程度上の位置に水平線35を描き、その水平線35と左右の開先斜面の線画像33d,33bとが交わる交点(j点とi点を結ぶ長さ)の距離を2等分した中点位置(f点)を開先中心とすることで、中心ずれをなくすことができる。この中点位置f点と初期設定時の原点位置(Ys=0)との偏差(水平方向の距離)を左右位置ずれΔYsとしている。一方、開先底部の上下位置ずれΔZsについては、開先底部の最も深い位置(e点)を求め、または開先の左斜面の線画像33bと左底面の線画像33cとが交わる交点a点を通る他の水平線と前記f点の垂直線とが交わる交点位置(e点近傍)を求めた後に、初期設定時の原点位置(Zs=0)との偏差(垂直方向の距離)を計測して上下位置ずれΔZsとしている。上下位置ずれΔZsは、前層のビード高さを加算した合計量に相当する値である。また、開先面積As(溶接残存面積)は、まだ溶接が残っている部分の開先内の総面積を計測している。
【0061】
図20は、溶接すべき開先内に仮付けのある部分とない部分との検出画像を示す図である。図20(1)に示した仮付け49のない開先部では、線画像が2本に分かれており、正常なギャップGsをして検出できる。これに対して図20(2)に示した仮付け49のある開先部では、開先深さHsが幾分小さく、前記線画像が底部で一体となっているため、仮付け部49のビード幅(広い)をギャップGsと誤って検出する可能性が高い。なお、この仮付け部のビード幅をギャップとして処理して制御に用いると、溶接速度を減少させて溶着面積が増加する不具合な結果となるおそれがある。
【0062】
仮付けの有無判別は、線画像の相違または開先深さの相違によって識別することができる。ここでは、この仮付けの有無判別により仮付け49のない開先部分から検出したギャップ幅Gsを正常値とし、仮付け49のある開先部分から検出したギャップ幅Gsは異常値と見なして削除している。この異常値の削除後に、その前段階で検出した正常値のギャップGs幅に変換している。このように処理すると、正常なギャップ幅の検出ができ、仮付け部分の溶接を正常に制御することができる。
【0063】
図21は、本発明の自動溶接装置の操作盤に表示する画面構成の一実施例を示す図である。(1)は多層盛溶接運転メニュー選択の初期画面51、(2)は溶接パスプラニングでの継手選択及びパスプラン作成画面52、(3)はトーチ基準位置取込み画面53、(4)はセンサ基準位置自動設定画面54、(5)は溶接線長さ設定画面55、(6)は自動溶接運転画面56を示している。装置起動時の初期画面51には、幾つかのメニュー表示の選択画面があり、所定の番号指定によって、図21(2)〜(6)に示した各々の画面に移行でき、また、初期画面に戻ることもできるようになっている。操作手順の概要は以下の通りである。まず、1番の溶接パスプラニングを指定すると、同図(2)の画面52になり、継手選択(X開先,V開先),溶接パスプラン新規作成実行,溶接データ登録ファイル開示が行えるようになっている。例えば、溶接パスプラン新規作成実行では、選択した継手用の溶接演算プログラム18aが起動し、その開先寸法の入力と図13,図14に示した平均電流の条件テーブルを基にして、基準となる溶接パス数やパス毎のトーチ及び溶接条件を自動演算する。その演算結果を図16に示したように表示し、溶接データファイルが作成される。既に登録済みの溶接データファイルを指定(ファイル番号)して呼び出し開示することもできるようになっている。2番指定のトーチ基準位置取込み画面53では、溶接台車を溶接開始点へ移動させて、図18(2)に示したように開先内でトーチ位置(ワイヤ先端位置)決めをした後に、トーチ位置取込みを実行すると、溶接制御装置11側でそのトーチ位置(Xo,Yo,Zo)を取得して結果を表示する。その後に、3番指定のセンサ基準位置自動設定画面54で実行を指定すると、光切断式センサ10を溶接開始点へ自動で誘導すると共に、画像処理装置22側へ検出指令を出して、図18(1)に示したように開先部のギャップ幅中心と開先肩幅中心でのセンサ基準位置(Ys=0,Zs=0)とを合せる。4番指定の溶接線長さ設定画面55で、溶接の開始点から終了点までの溶接距離Xを入力設定する。この距離設定によって溶接の終了点で自動停止できる。溶接スタートエンド条件設定やその他必要な設定をした後に、5番指定で自動溶接運転画面56となる。この自動溶接運転画面56では、継手や溶接パス数と溶接すべき現在パス番号の表示,電流や電圧などの出力すべき溶接条件の表示,検出データとトーチ現在位置の表示をする。また、溶接パスの指定と実行の他に、溶接の一時停止や溶接再開も行え、装置異常や溶接異常の発生時には、一時停止をしてその異常の内容表示や警告表示をする。このような操作画面及び表示画面を設けることで、自動溶接運転が可能となるばかりでなく、リアルタイムで変化している溶接及び検出の状況を画面で見ることができる。また、異常の内容表示や警告表示をすることで、異常回避の操作などを容易にし、装置の操作性及び使い勝手を高められる。
【0064】
図22は、本発明の多層盛溶接方法における検出動作及び溶接制御動作の実行手順の概要を示す図である。図21(6)に示した自動溶接運転画面56で溶接実行を指定すると、実施される内容である。最初に溶接台車4を初期位置62へ移動させ、光切断式センサ10と一対の画像処理装置22に検出指令を出し、位置ずれや開先形状寸法を検出させると共に、溶接トーチより先行する位置で取得した検出データの分類及び平均化処理、トーチ位置の修正計算や溶接条件パラメータの補正計算の処理67を実行する。溶接トーチ6が溶接開始位置64へ到達した地点で、パルス溶接電源12a側へ指令して溶接開始65となる。予め定めた溶接スタート条件でアークを発生させた後に、定常の溶接条件に移行する。溶接台車4にはトーチ現在位置要求と結果報告68をさせている。また、トーチ位置修正及び溶接条件補正の位置69,71に到達する毎に、溶接線左右及び上下方向の位置ずれ量ΔYm,ΔZmの修正指令70とウィービング条件の補正指令72bは溶接台車4に送信し、平均電流Ia及び平均電圧Eaの補正指令はパルス溶接電源12aに送信する。したがって、検出指令66からトーチ位置の修正計算や溶接条件パラメータの補正計算67し、それを制御70,72b,72cする一連の動作は、ほぼ一定時間間隔で溶接終了位置75aに到達するまで繰り返す75b。溶接終了位置75aに到達すると、予め定めた溶接エンド条件で溶接終端処理76aをした後に、溶接トーチ6を回避位置へ移動77する。指定数の溶接パスが完了していなければ、溶接パス更新61の箇所まで戻り77b,再び初期位置62に移動する。溶接パス完了ならば77c,エンド78に至る。
【0065】
このように構成すると、多層盛溶接の自動運転で必要な検出動作及び溶接制御動作を確実に実行できる。ここでは省略しているが、溶接の不具合が認められた時にはオペレータの判断で、トーチ位置ずれの割込み修正,溶接条件パラメータの割込み修正ができるようにしてある。また、溶接の一時停止とその溶接再開もできるので、溶接不具合を回避することが可能になる。
【0066】
次に、本発明の多層盛溶接におけるトーチ位置の制御方法について説明する。図23は、溶接線の位置ずれとその位置ずれ検出の概要を示す図である。図23(1)は初層溶接で目標値とすべき溶接位置(Y1=0,Z1=0)と溶接ワイヤ5(トーチ)位置ずれΔYm,ΔZmの関係を示し、図23(2)は光切断式センサによる位置ずれ(ΔYs,ΔZs)、ギャップ幅Gsの検出を示し、図23(3)はガイドレール3上を走行する溶接台車4と修正すべき溶接線左右の位置ずれΔYmの関係を示す。溶接トーチを位置決めした後に、溶接開始点(●点)から溶接台車4が走行する過程で、図18(3)に示したように開先継手の曲がりやガイドレール3の設置ずれなどによって溶接トーチ6が開先中心の溶接線36からずれることになる。このような開先継手の溶接を良好に自動で行うためには、位置ずれ(ΔYs,ΔZs)の検出情報を用いて、この位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正する制御が必要となる。
【0067】
図24は、図23に示した溶接線左右方向のトーチ位置ずれを適正に修正する方法の制御ブロックを示す図である。一連の制御動作は、溶接線方向に走行しながらパルス溶接をする溶接トーチ6及び溶接台車4の制御と、光切断式センサ10と一対の画像処理装置22から検出データ群の取得と、その検出データの分類や平均化の処理や位置ずれ計算38a,38b,修正値の計算40と、位置修正の制御指令41,トーチ現在位置43の把握などの手順からなり、溶接トーチ6が溶接終了位置に到達するまで繰り返される。修正位置でない時には、他の計算処理44も実行している。検出データの処理としては、ほぼ一定時間間隔(1〜2秒程度)で取得する検出データ群の中から左右方向の位置ずれΔYsの値を抽出する。その位置ずれの検出データ値は、ばらついているおそれがあるので、順次取得した値(ΔYs1,ΔYs2,…ΔYsa)を所定数(例えばa=3点から5点)を集めて平均化の処理を(11)式で実行する。
【0068】
平均化:ΔYs=(ΔYs1+ΔYs2+…+ΔYsa)/a   …(11)
この平均化処理は古いデータを1つ捨てて新しいデータを1つ加えて平均化する処理を繰り返し、データのバラツキを緩和する。また、修正すべき左右方向の位置修正量ΔYmは、トーチ位置の基準値Ypと、平均化の処理をした検出データの算出値ΔYsとの偏差となり(12)式で求めることができる。
【0069】
左右位置の修正量:ΔYm=Yp−ΔYs          …(12)
なお、トーチ位置の目標値Ypは、溶接パス毎の左右位置(Y1,Y2,…
Yp)の値であり、1層1パスの多層盛溶接の場合(図4)には、表側も裏側も何れの溶接パスも開先中心が目標値となる。さらに、ここでは過剰な修正や過小な修正を避けるため、上限下限領域(k13≦ΔYm≦k14)を設けて1回当りの修正量を抑制すると、過剰な修正動作や不要な動きが防止でき、溶接の悪化を防止できる。このように溶接パス毎に所定の検出及び位置修正の計算処理を実行して左右方向のトーチ位置制御をリアルタイムですると、左右方向の位置ずれを解消できる。
【0070】
一方、上下方向のトーチ位置制御では、検出データ群の中から上下位置ずれΔZsの値を順次抽出して平均化の処理[ΔZs=(ΔZs1+ΔZs2+…ΔZsa)/a]をした検出データ値を用いる。初層溶接で検出される上下位置ずれの値はギャップ部分の位置ずれである。これに対して、充填層や仕上層の溶接で検出される上下位置ずれの値は、前層までの累計ビード高さを加算したずれ量に該当することになる。溶接パス毎のトーチ上下位置の目標値Zpは、図12に示した上下位置(Z1,Z2,…Zp)の値である。したがって、修正すべき上下方向の位置修正量ΔZmは、平均化処理した検出データ値ΔZsとトーチ上下位置の目標値Zpとの偏差となり(13)式で求められる。
【0071】
上下位置の修正量:ΔZm=ΔZs−Zp          …(13)
また、上記と同様に、1回当りの修正量を抑制するための上限下限領域
(±C3≦ΔZm≦C4)を設けると、過剰な修正動作や不要な動きが防止できる。
【0072】
このようにして上下方向のトーチ位置制御を上述した左右方向のトーチ位置制御と合せて実行すると、該当する溶接パス毎のトーチ位置ずれをなくし、良好な溶接ビードを得ることができる。溶接パス毎のトーチ位置制御や溶接条件パラメータの増減制御は、溶接開始点から終了位置に到達するまで実行すればよい。また、溶接開始部と溶接終端部のビード形状変化が検出結果に及ぼす影響を抑制するために、これらの制御を溶接開始点より所定距離(例えば10〜50mm)前進した位置から開始して、溶接終了点より所定距離(10〜50mm)手前の位置で可変制御を止める制御に切り換えてもよい。さらに、仕上層の溶接前に前層溶接で開先上面肩の一部が溶かされていて、開先形状の検出が困難な場合には、その前層溶接で検出及び制御されて記憶した検出記録データを再度使用して、溶接線左右及び上下方向のトーチ位置制御,溶接条件パラメータの増減制御をすると、自動溶接を持続できる。
【0073】
次に、多層盛溶接で必要なウィービング動作の制御方法について説明する。ギャップ幅又はビード幅Bsが変化する開先部の両壁を確実に溶融させるためには、溶接トーチを溶接線左右方向に揺動させるウィービング溶接の制御が必要である。図25はウィービング溶接の制御方法を示す図である。図26はウィービング溶接の制御ブロックを示す図である。また、図27は開先表面に段差ksがある仕上層溶接でのウィービングの左右停止時間及びトーチ位置の制御方法を示す図である。初層溶接の時は、光切断式センサと一対の画像処理装置で検出されるギャップ幅Gsの平均化処理した情報を用いて、ウィービング条件の増減を制御する。充填層溶接の時は、ビード幅Bsの検出値を平均化処理してもちいる。仕上層溶接の時には、開先肩幅Wsまたはビード幅Bs、開先表面の段差ksの検出値を平均化処理して用いる。ウィービング条件の主な制御項目は、ウィービング幅Uw,揺動速度Vu,左右の停止時間T,Tであり、溶接トーチ6が修正すべき位置41に到達した地点で、ウィービング条件の修正制御47をリアルタイムでする。ここでは溶接速度Vpを増減する制御に合せて、トーチ揺動の1往復のピッチPuが一定になるようにUw,Vuの値を計算処理46する。すなわち、該当する溶接パスで検出されるデータ45aの平均化処理をした検出値45b(ギャップGsまたはビード幅Bsまたは開先肩幅Ws)の大きさに比例してウィービング幅Uwを広くし、揺動速度Vuを速くする。各層別のウィービング幅Uwは(14)〜(16)式で求められ、揺動速度Vuは(17)式で求められる。
【0074】
初層のウィービング幅 :Uw=Gs−k10         …(14)
充填層のウィービング幅:Uw=Bs−k11         …(15)
仕上層のウィービング幅:Uw=Ws−k12又はUw=Bs−k12                               …(16)
揺動速度:Vu=2・Uw/[(60・Pu/Vp)−(T+T)]…(17)
ただし、k10,k11,k12はウィービングの幅定数である。
【0075】
仕上層の溶接で、図27(1)に示したように開先表面左側の段差が高い場合(−ks<C1の時)には、左停止時間T(s)を初期値より長く(例えばT=T+0.1)し、開先中心のトーチ位置をΔYkだけ左側へシフトさせる制御をする。反対に、図27(2)開先表面右側の段差が高い場合(+ks>C2の時)には、右停止時間T を初期値より長く(例えばT=T+0.1)し、開先中心のトーチ位置をΔYkだけ右側にシフトさせる制御をする。この仕上層前の充填層の溶接でも、段差ksの情報を用いて、段差の高い開先側の方向にトーチ位置を所定量シフト,ウィービングの停止時間を所定値長くする制御をすることもできる。
【0076】
このように所定の検出及び位置修正の計算処理を実行し、ウィービング条件の修正制御をすると、溶接パス毎にアンダーカットや融合不良のない溶接ビードが得られる。
【0077】
【発明の効果】
本発明の多層盛方法及び自動溶接装置によれば、開先部のギャップ変化や段差や溶接線の蛇行など寸法精度の悪い開先継手の溶接構造物であっても、高電流の1パルスで1溶滴を移行させるパルス溶接波形の出力と、ギャップ幅,開先肩幅,段差などの大きさに対応した平均電流,平均電圧,溶接速度,ウィービングの幅や停止時間などの条件パラメータの適正制御によって、スパッタの少ない深溶け込み溶接,溶接割れや溶け落ちやアンダーカットのない溶接品質を得ることができる。また、溶接線左右及び上下方向のトーチ位置の修正制御によって、溶接線曲がりやレール設置ずれがある長尺部材の開先継手でも、溶接始点から終点まで良好な溶接ビードをパス毎に形成でき、初層から仕上層までの多層盛溶接を自動で実行でき、溶接を合理化し、工数を低減し、溶接の品質を高めることができる。さらに、溶接前の設定や結果表示から溶接中の動作表示や異常時の警告表示などの画面表示によって、装置の操作性及び使い勝手を良くできる。本発明の多層盛方法及び自動溶接装置を発電プラントや化学プラントなど厚板溶接構造物へ適用すると、溶接の自動化,合理化,コスト削減などを達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による多層盛溶接方法を採用した多層盛自動溶接装置の一実施形態の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した多層盛自動溶接装置における溶接制装置11の内容構成の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明の多層盛溶接方法において、スパッタの発生を抑制するためのパルスアーク溶接の電圧・電流波形及びワイヤ先端の溶滴移行の概要を示す図である。
【図4】鋼材板厚T=32mmのX開先継手で、角度が60度と35度における多層盛溶接を示す図である。
【図5】図4(2)に示した多層盛溶接における下向き姿勢での各パス毎の溶接手順を示す図である。
【図6】本発明の溶接方法で初層溶接の条件を制御する状況を示す図である。
【図7】本発明の溶接方法で充填層溶接の条件を制御する状況を示す図である。
【図8】本発明の溶接方法で仕上層溶接の条件を制御する状況を示す図である。
【図9】図3に示したパルス溶接における平均電流Iaとワイヤ送り速度Wf及び平均電圧Eaとの関係を示す図である。
【図10】X開先継(角度:35度,板厚:32mm)における初層溶接で重要な開先部のギャップ幅Gと平均電流Iaとの関係を示す図である。
【図11】ギャップなしのX開先継手で溶接速度Vpと平均電流を変化させて初層溶接して結果を示す図である。
【図12】X開先の深さHが16mm、角度θが35度の継手溶接におけるギャップ幅Gと開先面積及び初層の溶着面積S1とビード高さとの関係を示す図である。
【図13】角度の狭いX開先継手における表側の初層溶接と裏側の初層溶接と表側と裏側の充填層及び仕上層の各溶接とで出力する平均電流Iaの溶接条件テーブルの一例を示す図である。
【図14】角度の広いX開先継手における表側の初層溶接と裏側の初層溶接と表側と裏側の充填層及び仕上層の各溶接とで出力する平均電流Iaの溶接条件テーブルの一例を示す図である。
【図15】角度の広いX開先継手における初層溶接の条件を制御する状況を示す図である。
【図16】溶接データ演算結果の表示例を示す図である。
【図17】光切断学式センサ10及び関連機器の構成を示す図である。
【図18】溶接前にするトーチ位置(ワイヤ先端位置)座標の原点とセンサ座標の原点の位置基準合わせを示す図である。
【図19】画像処理装置22と一対の光切断式センサ10とにより検出する内容を示す図である。
【図20】溶接すべき開先内に仮付けのある部分とない部分との検出画像を示す図である。
【図21】本発明の多層盛自動溶接装置の操作盤に表示する画面構成の一例を示す図である。
【図22】本発明の多層盛溶接方法における検出動作及び溶接制御動作の実行手順の概要を示す図である。
【図23】溶接線の位置ずれとその位置ずれ検出の概要を示す図である。
【図24】図23に示した溶接線左右方向のトーチ位置ずれを適正に修正する方法の制御ブロックを示す図である。
【図25】ウィービング溶接の制御方法を示す図である。
【図26】図25に示したウィービング溶接方法の制御ブロックを示す図である。
【図27】開先表面に段差ksがある仕上層溶接でのウィービングの左右停止時間とトーチ位置の制御方法を示す図である。
【符号の説明】
1a,1b…溶接ワーク、2…開先部、3…ガイドレール、4…溶接台車、5…溶接ワイヤ、6…溶接トーチ、8…ワイヤ送り機構、9…トーチ駆動機構、10…光切断式センサ、11…溶接制御装置、12a…パルス溶接電源、15a…操作盤、15b…画面表示装置、17…統括制御装置、18b…溶接データファイル、22…画像処理装置、23…投光受光制御器、24a…各軸駆動装置、25…アーク、26…ワイヤ溶滴、31a…レーザ投光器、31b…スリット光、32a…カメラ、32b…干渉フィルタ、33…開先形状の線画像。

Claims (10)

  1. 溶接すべき一対の厚板長尺部材を突合わせた継手部の溶接線内に複数の仮付け部分を有し、突合わせ部にギャップがある開先継手に対して、前記開先継手の溶接線方向に設置されたガイドレール上を走行し、ワイヤ溶融式の溶接トーチとトーチ駆動機構と開先部のギャップ幅,仮付けの有無,開先中心の左右及び上下位置ずれ量の少なくとも1つを検出するセンサとを搭載した自走式の溶接台車と、パルス溶接電源と、溶接制御装置とを用いて多層盛溶接する多層盛溶接方法において、
    初層のパルス溶接で用いるギャップ幅範囲別の複数の平均電流群または電流群及び平均電圧群を条件テーブルに設定し、
    初層溶接を実行する時は、仮付けのない開先部分から検出したギャップ幅を用い、開先中心の左右及び上下位置ずれの検出情報に基づいて、ギャップ幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、前記ギャップ幅に関係する溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを各々算出して増減し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正制御することを特徴とする多層盛溶接方法。
  2. 請求項1に記載の多層盛溶接方法において、
    初層溶接動作時には、仮付けのない開先部分から検出したギャップ幅を正常値とし、仮付けのある開先部分から検出したギャップ幅は異常値と見なして削除し、または前記異常値の削除後に、前回検出した正常値のギャップ幅に変換して正常値と見なし、このギャップ幅の検出情報に基づいて、初層の溶接条件パラメータを各々算出して増減制御することを特徴とする多層盛溶接方法。
  3. 請求項1に記載の多層盛溶接方法において、
    充填層のパルス溶接で用いるビード幅範囲別または開先肩幅別の複数の平均電流群または電流群及び平均電圧群または所定値の平均電流を条件テーブルに設定し、前記充填層の溶接を実行する時には、仮付けのない部分とある部分とで変化している残存の開先面積と、ビード幅または開先肩幅またはビード幅及び開先肩幅とを用い、開先中心の左右及び位置ずれ,上下位置ずれの検出情報に基づいて、
    ビード幅または開先肩幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、または所定値の平均電流及び平均電圧を出力させ、充填層で溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを各々算出して増減し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正制御することを特徴とする多層盛溶接方法。
  4. 請求項1に記載の多層盛溶接方法において、
    仕上層のパルス溶接で用いる開先肩幅別の複数の平均電流群または電流群及び平均電圧群を条件テーブルに設定し、前記初層または充填層の溶接後に仕上層の溶接を実行する時には、センサの検出動作を停止して、前層溶接で検出及び制御に用いた検出記録データを再度用い、
    前記開先肩幅の大きさに対応した平均電流及び平均電圧を階段状に増減出力させ、仕上層で溶接すべき残存の溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを各々算出して増減し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正制御することを特徴とする多層盛溶接方法。
  5. 請求項3または4に記載の多層盛溶接方法において、
    前記充填層と仕上層または仕上層の溶接を実行する時には、さらに開先表面の段差の検出情報を用い、前記段差の高い開先側の方向にトーチ位置を所定量シフト,ウィービングの停止時間を所定値長くすることを特徴とする多層盛溶接方法。
  6. 請求項1ないし5のいずれか一項に記載の多層盛溶接方法において、
    前記厚板長尺部材の開先継手は、完全溶け込み溶接が必要なX開先継手であって、表側と裏側の各初層溶接は、深溶け込みが必要なギャップのない部分では、裏ビードの形成可能な高めの平均電流を出力させ、開先両壁面の溶融が必要なギャップ変化のある部分では、前記ギャップ幅が大きくなるに従って平均電流を予め定めた値ずつ減少するように出力させ、溶着面積の増加に必要な溶接速度を減少する制御と、溶接トーチのウィービング幅を増加する制御とを実行し、
    前記初層溶接後の充填層の溶接では、開先肩幅が大きくなるに従って平均電流を予め定めた値ずつ増加するように出力させまたは所定値の平均電流を出力させ、仕上層の溶接では、開先肩幅が大きくなるに従って平均電流を予め定めた値ずつ増加するように出力させ、前記充填層及び仕上層別にそれぞれ溶接すべき残存の溶着面積の増減計算に対応した溶接速度の増減制御と、溶接トーチのウィービング幅を増加する制御と、開先表面の段差が高い開先側のウィービング停止時間を予め定めた値だけ長くする制御とを実行することを特徴とする多層盛溶接方法。
  7. 請求項1ないし6のいずれか一項に記載の多層盛溶接方法において、
    開先角度の狭いX開先継手または開先角度の広いX開先継手の各溶接を選択可能とし、前記X開先継手の表側の初層溶接と、裏側の初層溶接と、初層溶接後の充填層の溶接と、仕上層の溶接とで各々出力すべきギャップ範囲別,開先幅範囲別の複数の平均電流群を溶接条件テーブルにそれぞれ設けたことを特徴とする多層盛溶接方法。
  8. 請求項1ないし7のいずれか一項に記載の多層盛溶接方法において、
    開先部の断面形状画像を処理する画像処理装置に接続している光切断式センサを溶接トーチ前方の開先上面に設置し、溶接前に溶接開始点でトーチ先端のワイヤ位置決めとセンサ座標の基準原点とを合わせ、
    初層と充填層の溶接動作時には、前記画像処理装置と一対の光切断式センサとにより、溶接トーチより先行する位置でほぼ一定時間間隔で取得する断面形状画像を処理し、ギャップ幅,ビード幅,開先肩幅,開先深さ,角度,開先面積,開先表面の段差,開先中心の左右位置ずれ,上下位置ずれの値をそれぞれ検出し、検出したデータを溶接制御装置側で分類,異常値の削除及び平均化の処理をして用い、仕上層の溶接動作時には、センサの検出動作を停止して、前層溶接で検出した記録データを再度用い、
    初層と充填層及び仕上層の溶接パス毎に溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅などの溶接条件パラメータを算出して増減制御し、溶接線左右及び上下方向の位置ずれを修正制御することを特徴とする多層盛溶接方法。
  9. 溶接すべき一対の厚板長尺部材を突合わせた継手部の溶接線内に複数の仮付け部分があるまたは溶接線が蛇行するまたはギャップ幅や開先断面積が変化することもある開先継手に対して、
    前記開先継手の溶接線方向に設置されたガイドレール上を走行し、ワイヤ溶融式の溶接トーチとトーチ駆動機構と開先部のギャップ幅,開先中心の左右及び上下位置ずれ量などを検出するセンサとを搭載した自走式の溶接台車と、
    少なくとも高電流の1パルスで1溶滴を移行させるための直流パルス溶接波形が設定可能であって、パルス電流値またはこのパルス電流を出力させるパルス電圧値とパルス時間の調整設定が可能であると共に、ベース時間及びワイヤ送り速度の可変制御によってパルス溶接の平均電流,平均電圧の増減制御が可能なパルス溶接電源と、
    前記センサから得られる断面形状画像を処理して開先中心の左右位置ずれ,上下位置ずれ,ギャップ幅,ビード幅,開先肩幅,開先深さ,角度,開先面積及び開先表面の段差を検出する画像処理装置と、
    開先角度が狭い開先継手と広い開先継手の各溶接を選択可能とし、前記開先継手の初層と充填層及び仕上層の各溶接別に使用する平均電流や平均電圧,溶接中の各計算処理で使用する溶接データを格納するデータファイルと、
    溶接及び検出動作中に前記画像処理装置からリアルタイムで取得する検出データを分類,異常値の削除及び平均化の処理をする検出データ処理手段と、
    溶接トーチの左右位置ずれ及び上下位置ずれの修正量,ワイヤ送り速度と溶接すべき溶着面積,溶接速度,ウィービングの幅や停止時間などの溶接条件パラメータの増減量をそれぞれ算出して、トーチ位置の修正制御,溶接条件パラメータの適正制御を溶接台車及びパルス溶接電源にそれぞれ実行させる溶接処理手段とを有する溶接制御装置とからなる多層盛自動溶接装置。
  10. 請求項9に記載の多層盛自動溶接装置において、
    溶接前にトーチ位置決めとセンサ座標の原点合わせの設定状況及び結果を表示し、溶接線長さの設定情報を表示し、溶接中にリアルタイムで変化するトーチ現在位置,出力中の溶接条件,検出データの情報を表示し、装置異常や溶接異常が生じた時に警告を表示する画面表示手段を溶接制御装置に設けたことを特徴とする多層盛自動溶接装置。
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