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以下の文章は、コリイ・ドクトロウの「The housing crisis considered as an income crisis」という記事を翻訳したものである。

Pluralistic

パラドックスがある。1970年、平均的な米国人が住宅を購入するのは比較的容易だった。当時の平均的な住宅価格は、平均所得の5.9倍だった。2024年の現在、多くの米国人にとって住宅購入は事実上不可能になった。ところが住宅価格は、やはり平均所得の5.9倍なのだ。

首をかしげたくなる話だ。本当に、平均的な米国の住宅は1970年と変わらず、平均的な米国の所得者に手の届く価格なのだろうか。ブレア・フィックスの最新のオープンアクセス研究レポート「米国の住宅危機:不足ではなく収奪」によれば、これは紛れもない事実だという。

https://economicsfromthetopdown.com/2024/10/23/the-american-housing-crisis-a-theft-not-a-shortage/

フィックスはさらに興味深い指摘をする。この現象は住宅価格以上に家賃で顕著に表れているという。だが、家賃の平均所得に対する比率は、1970年以降むしろわずかに低下している。数字の上では、家賃もまた「手が届く」水準にあることになる。

統計のトリックに詳しい読者なら、この矛盾の背後に潜む統計的な人為性の正体にすぐ気づいたかもしれない。中学校の数学を思い出してほしい。「平均」という言葉には複数の意味がある。一般的な意味は、複数の値を合計し、その数で割ることだ。例えば、世の中には腕が1本以下の人が少なからずいるため、人類の平均的な腕の数は2本をわずかに下回る。

これが「算術平均」だ。米国の平均賃金はかなり高く、年間73,242ドル(訳注:約1112万円)である。

https://fred.stlouisfed.org/series/A792RC0Q052SBEA/1000

ところが、大多数の米国人の年収は73,000ドルには遠く及ばない。レーガン政権以降、貧困層や極度の貧困層の数は増える一方だ。確かに、彼らのわずかな所得によって平均は押し下げられているが、それ以上に平均を大きく押し上げているグループが存在する。超富裕層だ。

フィックスによれば、米国はレーガン時代に富の再分配という実験に着手した。つまり、レーガンは国富の大部分を労働者から、最終的にほぼすべてを手中に収めることになる極めて少数の人々へと移転させる政策を実行したのだ。この層の所得を計算に入れると、平均的な米国人の所得は平均的な住宅を十分に賄えることになる。

つまり、これは「人類の腕の数の平均は2本未満」という話とは異なり、「Spiders Georg」に近い。Spiders Georgとは、Tumblrで広がった毎日1万匹のクモを食べる男のミームだ。「人は週に2匹のクモを食べる」という誤った統計は、この男性一人の食生活によって生み出されたというジョークである。

https://en.wikipedia.org/wiki/Spiders_Georg

レーガンが生み出した米国の富裕層は、住宅価格におけるSpiders Georgだ。彼らが国富の大部分を独占したことで、住宅が手の届く価格であるという統計上の幻想が生まれたのだ。

これは興味深い発見だが、フィックスはここからさらに刺激的な議論を展開する。1970年以降、平均所得に対する平均的な住宅価格が一定であるなら、住宅価格の上昇は供給不足が原因ではない。米国には十分な住宅があるが、大多数の米国人に十分な所得がない、ということになる。

もしこれが事実なら(いくつか異論があるが、それについては後述する)、米国の住宅問題に対する一般的な処方箋「もっと住宅を建てればいい」は、的外れということになる。フィックスにとっては、より安価な住宅を公的資金で補助したところで、賃金が低すぎて飢えそうな労働者にフードスタンプを配るようなものだ。もちろん、それも必要な施策ではある。誰もが住む場所を持ち、誰もが空腹を感じないようにすべきだ。だが、労働者が住居や食料を賄えないのであれば、それは供給の問題ではなく、賃金の問題だ。

フィックスは常に徹底的で、今回も「出典と方法」のページで自身の結論を丁寧に裏付けている。

https://economicsfromthetopdown.com/2024/10/23/the-american-housing-crisis-a-theft-not-a-shortage/#sources-and-methods

労働者から経営者(とその遊び人の子孫)への莫大な富の移転を元に戻すのは容易ではない。それでもフィックスは、なぜ多くの人々が頭上の屋根を維持するのに四苦八苦しているのかという議論に、住宅の供給ではなく賃金の問題に焦点を当て続けようとする。我々に必要なのは、累進課税であり、最低賃金の引き上げであり、医療費と教育費の債務からの保護だ。さらには雇用保証だってありではないか。

https://pluralistic.net/2020/06/25/canada-reads/#tcherneva

フィックスの研究は一貫して素晴らしく、このレポートも例外ではない。しかも、これらすべてを余暇の時間を使って行っているのだ。進歩的なシンクタンクが彼に助成金を出せば、もっと優れた研究が生まれるはずだ。

とはいえ、米国の住宅供給が十分だという彼の結論には疑問が残る。カリフォルニアでは300万から400万戸の住宅が不足している。これは、自分の家を持ちたいと考えるカリフォルニアの家族の数から、その地域で利用可能な住宅の数を差し引くという、比較的確実な方法で算出された数字だ。

https://en.wikipedia.org/wiki/California_housing_shortage

この食い違いをどう説明すればよいのだろう。一つの可能性として、18万1,000人以上がホームレス状態にあるため、住宅価格が人為的に低く抑えられているという見方がある。さらに数十万人が、一世帯用、時には一人用のスペースに複数の世帯が暮らす過密な住宅で生活している。もしこれらの人々が住宅市場で競争すれば、価格はさらに高騰するだろう。

求職を諦めた人々の例を考えてみよう。彼らは労働力に含まれないので、賃金を押し上げる。もし彼らが労働市場で競争すれば、賃金は押し下げられるはずだ。おそらく彼らの多くは働きたいと考えているが、統計からは除外されているのである。

これが一つの説明だ。もう一つの見方として、ここでもまた平均という概念に惑わされているのかもしれない。カリフォルニアには空き家が目立ち、過剰供給が価格を押し下げている町もある。その一方で、住みたい人の数が住宅の数をはるかに上回る場所も数多く存在する。州全体では平均的に十分な供給があるように見えても、すでに見てきたように、平均は時として真実を隠してしまう。

結局のところ、二つの真実が共存しているのだろう。賃金の問題と、地域ごとの供給の問題。その両方が存在するのだ。どちらの問題も等しく重要であり、文明社会にあっては、そのどちらも見過ごすことはできない。

Pluralistic: The housing crisis considered as an income crisis (24 Oct 2024) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow

Author: Cory Doctorow / Pluralistic (CC BY 4.0)
Publication Date: October 24, 2024
Translation: heatwave_p2p

カテゴリー: Monopoly