俺の夜
3度目である。昨年に引き続きGWは「ステイホーム」。東京の夜の街は酒類提供の自粛要請を受け、いよいよ窮地に追い込まれた感がある。俺のホームである新宿・歌舞伎町をそぞろ歩くと、「ランドマーク」である「ロボットレストラン」はもぬけの殻。
1年半ほど前にはインバウンド客でごった返し、煌々と光を発していた看板は取り外され、店は漆黒の闇に包まれているではないか。区役所通りに抜けると大箱のキャバクラが連なる一角があるが、ここも人まばら。夜の蝶は何処へ。
歌舞伎町の今を尋ねるべく、夜遊びガイドのO氏に電話かけると、「とある店でつかまっています」と妙なことを言う。聞けば区役所からすぐの店。テナントが多く入る老舗の巨大ビルに急行した。
わっぱをかけられ容疑者と呼ばれて……
小さなドアを開けると、ポリスルックの女のコが出てくる。「はい、確保~」俺の腕をグッと摑むと、両腕に手錠を素早くかけ、鉄格子の部屋へ押し込んだ。ヘラヘラと笑っているO氏。なんでもここは出頭した容疑者が、性悪ポリスに取り調べを受けるというコンセプトのコンカフェだという。 容疑者が出頭してきたのに『がさいれ!』という店名はいかに!? ツッコミを入れていると「ボトル入れるの? 入れないの?」とスゴまれた。要請遵守の同署は目下、酒類NG。カウンターでノンアルコールシャンパンでの「取り調べ」となった。 歌舞伎町の性悪ポリスが黙秘不能の取り調べ「オジ殺し」との異名を取るみゆのちゃんに「ステイホームなのにウロウロしてちゃダメじゃない!」とキツイお叱りを受ける俺。逃走防止にと、“わっぱ”の片方はみゆのちゃんの腕にかけられている。
「口を割らないならぁ、シャンパン銃でお仕置き!」横で聞いていたひまりちゃんが、新人警官のぴょんちゃんに「さぁ、やっちまいな!」。冷たく言い放つ。
シャンパン銃の銃口を向け、俺の口に容赦なく注き込むぴょんちゃん。その様子にバカ受けする性悪ポリス。カウンターに置かれた本物のパトランプの赤い回転光が俺の心拍数を上げた。無罪放免があまりにも惜しく、結局もう一本入れてしまった俺。ノンアルは財布に優しいのだ。
【がさいれ!】
住:東京都新宿区歌舞伎町2-10-5 G1ビル6階FC室
電:080-7552-7740
営:17~20時(平日)、15~20時(休日)
休:月
料:1時間飲み放題2500円(男性)、1500円(女性)~。ノンアルコールシャンパン5000円~
●最新情報はTwitter(@gasaile)でご確認ください
※営業時間や定休日が変更になる可能性があります。最新情報は店舗にお問い合わせください
撮影/渡辺秀之 協力/O氏(夜遊びガイド)
20年前、某エロ本出版社にいた頃、上司に飲みに誘われると、必ず最後に行き着くのがフィリピンパブであった。そこで普段は比較的無口で冴えない白髪のおじさん然とした上司が、カラオケのマイクを握るやZeebraのヒップホップナンバーをたどたどしい滑舌で歌い、フィリピン嬢にチヤホヤされ鼻の下を伸ばしていた。
若輩者だった当時の俺はそこにまったく馴染めず。「フツーのキャバクラに行きたいよなぁ」と嘆きつつ、鏡月を舐めては、二日酔いになったのを思い出す。
真っ白なアオザイとキュートな笑顔に「きゅん」
中野で別件の取材が終わり、一杯引っかけたあと、中野ブロードウェイ近くの「白線通り」を夜遊びガイドのO氏と流した。夕方というのにフィリピンパブやガールズバーのネオンに火がともっている。コロナの自粛もあって、どの店も早い時間から営業しているよう。そんな俺の昔のエピソードを話していると、O氏が突如指さす。
「フィリピンパブの下にベトナムガールズバーがありますね。上野あたりの下町にはポツポツありますけど、東京の西側では珍しい」。
「ノンラー」という笠帽子に顔を半分隠したアオザイ姿の女のコのインパクトのある看板。O氏がスナック然とした小さな店の扉を少し開けて恐る恐る覗く。すると奥から「いらっしゃいませ~!」と元気のいい声が飛んできた。
驚くほど流暢な日本語でコミュニケーションに問題なし純白のアオザイ、薄化粧。素朴な感じの女のコたち。アクリル板を挟んだカウンターに案内されると。「何飲みますか~」とかわいく聞かれる。2軒目なので、口直しに赤ワインを所望すると「みんなで一緒に飲みましょ~」と言われボトルを入れることに。
日本語も驚くほど流暢でコミュニケーションに問題はない。一番日本語が上手なハナちゃん(25歳)に聞けば、来日して6年。近所だからということでこの店で働き始めたという。「日本語で日本人とたくさん会話をしたかったから、毎日勉強になってとっても楽しい」
と健気なことを言う。そんなハナちゃんが「いちばん日本語がうまい。若いから頭がいいね~」と紹介したインちゃん(21歳)は来日して2年。日本が大好きでコロナ前は北海道や沖縄など日本各地を旅していたそう。そんな彼女に日本人男性は好きかと問うと、
「お酒の場でも紳士的だから日本男性は好き。ベトナムの男は働かないし、ケンカが好き」と驚愕のエピソードが披露された。隣のアメちゃん(22歳)も、
「ベトナム人男性は酔うと、絶対男同士で殴り合いになる(笑)」と爆笑しつつ首肯する。
男性優位社会といわれるベトナムでの女性の苦労が忍ばれる。
「はじめてのチュウ」にほっこり、癒やされる
そんな女のコたちが日本語を最も早く覚える手段のひとつがカラオケ。字幕があり漢字にもふりがながふってあるからいい教材だという。そうした彼女たちの十八番が「はじめてのチュウ」。モノマネしつつ唄う女のコに見惚れていると、ほっこりするのはなぜか。
日本人のキャバやガールズバーにはいない素朴で、素直で屈託がない女のコ。おじさんにも興味津々、いろいろと質問して、答えるたびに驚いてくれるのは何気に嬉しい……。
かつての上司と同じ年頃になってわかったこの心境。中年は構ってほしいのだと。
【パラダイス】
住:東京都中野区中野5-55-16
電:03-5942-9293
営:19~翌3時(現在は16~21時)
料:2000円~(60分/ウイスキー飲み放題)、持ち込み1000円、カラオケ歌い放題1000円、ボトルキープ5000円~
協力/O氏(夜遊びガイド) 撮影/渡辺秀之
緊急事態宣言もふた月目。夜、ふらりと繁華街に飲みに行くことも叶わず、逆に「もう酒飲まなくてもいいんじゃないか」と思えるようになってきた俺がいる。
浜松町の片隅で看板女優が待ってます
夕方、山手線の浜松町で電車を降り、いつもと違う道をトボトボ、編集部に向かっていると、妙な建物を発見。白くチープな外観は、良く言えば「手作り感」、悪く言えば「掘っ立て小屋感」。「東京果樹園」とカラフルに筆書きされた看板に、ビニールの屋根の木造テラス、間口は広いが奥行きのなさすぎる店舗。
八百屋なのか? と思って近づくと「レモンサワー」と書かれた黄色い提灯が揺れている。素通しのガラスから見えるのはカウンターと白木の板のお品書き。レモンや文旦がカウンターに並んでいる。ジューススタンド? 近づいていくと、ガラスの奥から女のコが手招きしているではないか。
笑顔で迎えてくれたのは、ここを切り盛りする店長の逢澤みちるさん。聞けば、果汁を生搾りするサワーを中心とした立ち飲みで、オープンしてもうすぐ2年がたつという。編集部の目と鼻の先にありながら全く気づかなかったなんて……。再開発が盛んな浜松町でも、同店のある場所は浜松町の片隅、屋形船の乗り場がある船宿街。マニア好きのする立地である。
実はメディア初登場そこにはワケが……己の勘の悪さを嘆いていると、「マスコミ取材には一切応じてこなかったので、知られていないのも当然です。自分たちの力だけでお店を作って、宣伝も自分たちでやるという信念で……」
なんとこの手作り感溢れる外観や内装は、店長以下、従業員の女のコたちが作ったものだという。
「元は八百屋さんだった物件を自分たちでリノベーションしました」
まるで学園祭の模擬店のようなノリ。店長以下、女のコたちは自分たちの“仕事”に誇らしげ。さっそく名物というレモンサワー(500円)を所望する。ハンドジューサーに広島県瀬戸内産のレモンをセット、ギュウっと搾る。玄人好きする宝焼酎を強めの炭酸で割ったレモンサワーが届いた。
フルーティな生搾りサワーと美女のトークで飲みすぎて……グッと飲むと実にフルーティ。しっかり酒も効いていて、安居酒屋にある人工的な酸味とは大違い。これは飲みすぎてしまいそう。
「私を含め、女のコ全員が女優なんです。自分たちの舞台や映画の宣伝もしています。稽古帰りにここに出勤して帰るコもいます」
店の客として来て居心地のよさに思わず働いてしまったという酒井比那さんが2杯目のサワーを作ってくれた。女のコたちの舞台等の話を聞きながら飲む酒は、格別。会社を抜け出して通おう。 【東京果樹園生搾りBAR Koi Koi】住:東京都港区浜松町2-12-6
電:080-3214-8864
営:18:00~24:00(現在は17:00~20:00)
休:土・日・祝
料:生搾りサワー500円~、瓶ビール500円(お通しチャージ500円)
●果物はここから豊洲に移転した「元八百屋」から仕入れる(@koikoi_bar)
撮影/渡辺秀之