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にいがたショートストーリープロジェクト2025

にいがたショートストーリープロジェクトに投稿された作品を掲載しています

友達がいない風景 ネコすぎ 著

 僕の一人娘の一人暮らしが始まった、都内某大学入学式の夜。温めのふろに入りながら僕は、新潟大学の学生だった時にはできたけど、今はもうできないだろうなと思うことを、つらつらと考えていた。

 娘の入学式会場は武道館で、チアガールが出てくる立派なセレモニーがあって、学長もそこそこ知名度のある有識者だった。僕が入学した新潟大学の入学式会場は、確か新潟市体育館だった気がする。入部希望者を集うために、馬で来た馬術部。弓をもって道着を着ていた弓道部。でかい楽器を持ち込んでいたブラバン。当日は一人ぼっちで心細い気分で見ていたけど、今となっては何だか懐かしい。

 娘とは、入学式が始まる前にあったけど、すでにお友達ができたと、何人かの同級生と一緒だった。僕のときとは大違いだな。さすが、僕の全国転勤に合わせて転校が続いた過去を持つ娘。小学校1年横浜、2年青森、3年仙台と違う小学校に通わせることになったときは、さすがに僕も娘に悪い気がしていた。

 それにしても、入学式でお友達か。僕の時は、本当に友達ができるのか心配だったな。高校の時、入学式は出たのだけど翌日に入院して、高校デビューに失敗した過去が頭を横切っていた。高校生活は最悪だったけど、後悔はしていない。出来が悪かった過去も経験値をあげたイベントだと思いたい。今はそんな気分だ。

 幸いにも大学受験に一度失敗して、中学校の同級生が2年生の先輩として在学していた。大学での過ごし方やどの授業を取ればいいのかとか、具体的なアドバイスをもらえて、とてもラッキーだった。この有益な情報を元に友達も作れそう。アドバイスを受けた直後はそう思ったものだ。

 弓道部に一緒に入部見学に行った友達とはどこで知り合ったのだろうか?今となっては、詳しいことは忘れてしまっていた。タケちゃんやジュンちゃんと一緒に見学に行ったのかな。結局、その場で体験入部を申し出て、卒業するまで在籍した。友達ができるのかなという心配は杞憂だった。弓道部員は、1年生だけでも男女合わせて100人以上いたので、友達をセレクトする方が大変だった。

 今はもう新しく友達を作るのは難しい。今住んでいるマンションのお隣とさえうまくいかないのに、新しい友達なんてナンセンスな気がする。大学を卒業しても友達でいよう、なんて気分でいたけど、結構難しい。

 今は、新しい友達を作ろうなんて思うこともない。タケちゃんももういない。だけど、何かひとつでも大学時代のことを思い出せれば、今日も少しだけ幸せな気分になれる。