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にいがたショートストーリープロジェクト2025

にいがたショートストーリープロジェクトに投稿された作品を掲載しています

にいがたショートストーリープロジェクト2025

《 あなたの綴る短編小説、掌編小説を広く募集します 》

条件は一つ。作品に“新潟のエッセンス”を加えること。
舞台が新潟。新潟出身の主人公。新潟の名物や名産を盛り込むなど、
ちょっとでいいので“新潟のエッセンス”を入れてください。

素敵な作品は書籍化し、朗読イベントや読み聞かせを行い、
多くの方々の目に、耳に届けていきます。

www.wavecreation.jp

このブログでは、にいがたショートストーリープロジェクト2025に投稿された作品を公開しています。

私の祖父母の話 月長貴石 著

 さながら揺籠の様だった。まるで眠りへと誘う穏やかな子守唄を耳にして、安らかな眠りへと落ちて行くかの様だった。睡眠は眠りと安らぎの両方を齎らす、人間には不可決の行為だった。まるで人間には元からそうである筈であったと言わんばかりに、夢を見る機能がある。

 私が新潟のお祖父(じい)ちゃんとお祖母(ばあ)ちゃんの家に遊びに行った時に嗅ぐ匂いは、東京に存在しているどの建物にも存在しない。私がお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会いに行く、と聞いた時に、真っ先に浮かぶのは、その匂いの事だった。まるで、古い木が燻された様な匂いでもあるし、こんがりと焦がした麩菓子の様な匂いでもあった。古い木がそういった匂いを発するのだと気付いたのは、随分と大人になった後の事だった。仕事で、古い歴史ある日本屋を訪れる機会があって、そこで、郷土料理や古い郷土の歴史を聴いたりして、資料に纏め、記事に起こす、ライターの仕事を行なっていた時の事だった。茅葺き屋根の古い昭和時代の戦争をも生き延びた、日本家屋だった。厳かな木の柱が邸全体を支えているのかと思うと、どこか奥ゆかしい屋敷の奥に広がる古い囲炉裏だとか、そこに掛かっている鉤棒の先に揺れる、鉄瓶の薬缶だとか、そこで燻された木灰のどこか薬草をすり潰した後の様な匂いだとか、そういった全ての歴史を感じる物のどれもが、素晴らしい時間を刻んできた、生き物の様に思えてならなかった。更に、囲炉裏には、私達の為に、お茶が淹れられてあって、古い木目が浮き出た框の上に、人数分の湯呑みが並べられていた。暖かい新茶の茶葉が、手にした湯呑みの中で揺れた。これは、茶柱だ、と考えていたら、その邸の主人が、丁寧にこの古い歴史的な日本家屋の説明を開始してくれたのだった。

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学生のときに見ていた風景 ネコすぎ 著

 僕の一人娘が大学を卒業して、就職した夜。温めのふろに入りながら僕は、新潟大学の学生だった時にはできたけど、今はもうできないだろうなと思うことを、つらつらと考えていた。

 娘の入社した会社は、きっと良い会社だろう。だって、娘が選んだ会社だからね。最近は転職する若者も普通だというから、何度転職してもよい。辛いことがあっても、悲しいことがあっても、生きていてくれさえいれば良い。人生はそれで充分だ。働く会社や場所などはどこでもよい、どこにいても生きていてさえいれば、良いこともある。もちろんスパイスとして嫌なことも多いのだが。そんな心配をしている僕は、親バカだろうか。バブル期に就職した僕には、与えられるアドバイスは何もない。

 僕が社会人一年生だったころは、まだ大学にかつての同級生タケちゃんが在学しており、大学に遊びに行くことも多々あった。乗ってきた車が急に故障した際、タケちゃんの前で、新潟大学駅前の車屋さんに礼儀正しい修理のアポ電話をかけたら、『本当に社会人になったんだな』と尊敬された。『学生とは違うのだよ』と言って、タケちゃんの前では鼻が高かった。しかし、学生から見れば上かもしれないが、一般的には低レベルな社会人だった。

 社会人になって寂しかったのは、『次の日に会社に行かないといけないから早く帰るわ』『終電逃すわけにいかないから』とかいう言動。いつの間にかつまらない人間になった気がした。『思いっきり遊び、思いっきり働く』という理想はどこに行ったのだ。『好きなことをして生きていく』そんな人生を送るはずではなかったのか。そう自分に言い聞かせても、むなしさだけが胸の中に積もっていく。

 最近は、職場環境が変わることさえ、何となく嫌な気分になる。転勤はとてもおっくうだ。今の勤め先は良い職場だよね、今住んでいる住宅も結構良いよね、そんな気弱な僕がいる。

 今は、好きな場所に住みたい、好きな仕事をしたいなんて思っても、何一つ行動には移せない。だけど、何かひとつでも大学時代のことを思い出せれば、今日も少しだけ幸せな気分になれる。

おコメ魔法少女☆雪音ちゃん!! 瑪瑙 著

 新潟市の白山公園。昼下がりの静けさを破るのは、小鳥たちのさえずりと、どこか遠くから聞こえてくる子どもたちの笑い声。その片隅、雪音(ゆきね)はふと足を止めた。古びたベンチの下に、小さなダンボール箱が置かれている。中を覗くと、ふわふわの毛並みを持つ白い猫が丸くなっていた。

「え、猫? 誰か捨てたの?」

 雪音は周囲を見回したが、人影はない。公園の木々が風にそよぎ、静かに応えるだけだった。箱の中には手書きで「この子をよろしく」と書かれた紙切れが入っている。仕方なく、猫を抱き上げた。

「こんなところに放っておけないしね……。名前どうしよう? あ、雪みたいに白いから『コメ猫』でいいかな」

 すると、猫が目を見開き、驚いたように雪音を見つめた。そして、人間の言葉で話し始めた。

「おや、まさか君が僕の声を聞けるとは。どうやら君は特別な素質を持っているようだね。」

「なっ、喋った!?」

 驚きで固まる雪音をよそに、コメ猫と名付けられた猫は悠然と続けた。

「僕の名はコメ猫。この地球の上空にある『米』の世界から来たんだ。目的はただ一つ、魔法少女を探すこと。世界の主食の均衡を守るためにね。」

「ちょ、ちょっと待って。主食? 魔法少女? 何の話?」

 コメ猫は雪音の質問を無視し、しっぽをピンと立てた。

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魚沼に沼る、魚沼る 瑪瑙 著

 東京の高校2年生・航(わたる)は、どこか虚しさを抱えながら日々を過ごしていた。中学時代から続けていたサッカーを、つい先日、辞めたばかりだった。チームメイトとの人間関係に疲れ、次第に練習へ向かう足も重くなり、とうとう退部を決断したのだ。しかし、心の中では後悔ともつかないもやもやがくすぶり続けていた。

 

 夏休みを迎えたものの、部活のない日々は驚くほど退屈だった。そんな航を見かねた母親が、「おばあちゃんのところに行ってみたら?」と言い出した。おばあちゃんの家は、新潟県魚沼市にある。航が最後に訪れたのは小学生の頃だったから、かれこれ10年近く行っていない。

 

 「田舎で何もないし……」と渋った航に、母はぽつりと「少し気分転換になるかもしれないよ」と言った。特にやりたいこともなかった航は、その言葉に押されるように新潟行きを決めた。

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War in The Heart of Niigata:越後の三つの旗 瑪瑙 著

 2028年、新潟県はその歴史に残る決断を下した。県域を3つに分割し、新たに「上越県」「中越県」「下越県」を誕生させたのだ。新潟県は縦に長い県の一つとして知られ、地域ごとに文化や生活スタイルが異なっていた。分割の理由は複雑だが、県民の声が最終的な決断を後押しした。

 

 まず、新潟市を中心とする下越地方では、バスセンターのカレーや、新潟港を拠点とした独自の文化が根付いていた。しかし、これらは中越や上越地方の人々にはあまり馴染みがなかった。むしろ長岡市や上越市には独自の商業圏があり、日常生活を送る上で新潟市に行く必要性を感じない人々も多かった。

 

 さらに、県民の間では「新潟県は何地方なのか」という議論が繰り返されていた。関東地方、東北地方、中部地方、――どれにも属しているかいまいち分からない。その曖昧さは、県民自身にすら漠然とした違和感を抱かせていた。

 

 そしてもう一つ、関東への憧れが上越と中越の分割を強く後押しした。上越地方や中越地方は、地理的に群馬県と近く、関東地方との結びつきが強かったのだ。これらの地域の人々にとって、関東地方に属することは経済的、文化的な利便性を高める選択だった。

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