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NATROMのブログ

ニセ医学への注意喚起を中心に内科医が医療情報を発信します。

喉の痛みにハチミツは効くか?

この記事の要約。

・ハチミツが咳に効くというエビデンスはわりとある。
・ハチミツが喉の痛みに効くかどうかはエビデンス不足。
・ハチミツを含む民間療法を普通の風邪に使用するのは悪くないと個人的には考える。
ハチミツは1歳未満の乳児には禁忌。乳児ボツリヌス症のリスクがあるため。


大根のハチミツ漬けが喉によいという話が話題に

「はちみつにダイコンを漬けたものが喉によい」という話題がSNSで注目されている。もとのポストは現時点で2.8万リポスト、関連する反応を集めた■「ダイコンをハチミツで漬けると喉によい」と聞くが民間療法に頼るのは文明人じゃないと考えた…だが臨床試験をしたら劇的に効いた話 - Togetter [トゥギャッター]は180以上のブックマークを集めている。

言うまでもないが、述べられているのはn=1の体験談であって臨床試験ではない。


ハチミツは咳をやわらげるようだ

ハチミツが急性咳嗽に効くというエビデンスはわりとある。急性咳嗽とは3週間以内の咳のことで、普通の風邪を引いたときの咳と思っていただければよい。複数のランダム化比較試験が行われているし、系統的レビューもある。たとえば以下は、1歳以上の小児を対象としたランダム化比較試験10件を対象とした系統的レビューである。


■Honey for acute cough in children - a systematic review - PubMed


ハチミツは、プラセボ/無治療や咳止め薬と比較して、咳の頻度の減少や睡眠の質の改善をもたらすようである。「ようである」と歯切れが悪いのは、参照した研究にはランダム化のプロセスの不備や介入からの逸脱といったバイアスがあることと、ハチミツの効果が示されなかった臨床試験もあることからだ。ハチミツは一般的な処方薬のように成分が規格化されているわけではないので、使用するハチミツの種類によって効果がばらつくのかもしれない。

とはいえ、とくに小児に対しては鎮咳薬が使いにくいこともあって、いくつかのガイドラインではハチミツが推奨されている。ただし、乳児の腸内細菌は未発達であり乳児ボツリヌス症のリスクがあるため1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけない。用量・用法に決まったものはないが、小児に対しては就寝前に2.5mL投与が目安とされている。投与後に歯を磨いたほうだいいだろう。

ハチミツの喉の痛みに対する効果はエビデンスに乏しい

ハチミツの咳に対する効果には一定のエビデンスがあるが、元のポストは咳ではなく喉への効果を論じている。ハチミツの喉の痛みに対する効果について調べてみたがあまりはっきりしない。上気道感染症の症状緩和に対する蜂蜜の有効性についての系統的レビューおよびメタ解析*1から孫引きで2017年の"Role of honey as adjuvant therapy in patients with sore throat"(喉の痛みを訴える患者における補助療法としてのハチミツの役割)という論文を見つけた。医学論文を検索する代表的なデータベースのPubMedでは検索できない。喉の痛みを訴える成人患者200名を対象として、介入群100名には抗菌薬を含む標準ケア+1日2回大さじ1杯のハチミツ、対照群100名にはハチミツを除く同じ薬剤を投与したところ、介入群では、対照群と比較して喉の痛みの症状の緩和が早く、患者の満足度も高いとサマリーにはある。ただし、有意差はなさそう*2。有意差検定をせずに"Honey is effective…“(ハチミツは効果的)などと要約に書いても掲載してもらえるぐらいの雑誌なのであろう。なお、大根については、咳、喉の痛みの両方について、文献を発見できなかった。

エビデンスに乏しくても効果があると思えば使ってもよい

たとえエビデンスに乏しくても、喉の痛みといった軽度の上気道症状に対し、ハチミツ、あるいは、大根のハチミツ漬けといったハチミツを含む民間療法を使用するのは選択肢の一つである。安価で安全であるのがよい。もしかしたらプラセボ効果しかないかもしれないが、そうだとしても、それで症状が緩和されるのであればよいではないか。すぐに病院を受診するよりもまず民間療法を試すほうが理にかなっているとも言える。普通の風邪は、薬を使っても使わなくても、自然に治る。病院に受診していただいても対症療法ぐらいしかできない。それもすごく効果があるわけではなく、ないよりましという程度であり、まれではあるが副作用も生じうる。病院を受診するための時間やお金、受診中にほかの感染症をうつされるリスク等も考慮すると、普通の風邪で病院を受診する必要はない。もちろん、普通の風邪でないかもしれないという懸念があったり、症状が重かったり長引いたりすれば病院を受診していただきたい。


*1:■Effectiveness of honey for symptomatic relief in upper respiratory tract infections: a systematic review and meta-analysis - PubMed

*2:系統的レビューおよびメタ解析では喉の痛みに対するオッズ比は0.75、95%CI 0.43 to 1.32とあった。1をまたいでおり有意差はない

「子宮頸がん検診の感度が2.5%なわけないだろ問題」の続報

プレジデントオンラインに■血液と尿の検査だけで本当に「がん」を見つけられるのか…現役医師が指摘「複数がん早期発見検査」の落とし穴 検診としての有効性が証明されたものは一つもないを寄稿しました。その中で、『株式会社HIROTSUバイオサイエンス』のプレスリリースに言及し、子宮頸がんの感度が2.5%とされた問題について取り上げました。プレジデントオンラインの記事では、より多くの読者に理解していただくため複雑な計算を省略しましたが、ここでは補足としてその詳細を解説します。


子宮頸がん検診の感度が2.5%とするプレスリリース

「子宮頸がん検診の感度が2.5%なわけないだろ問題」とは、線虫によるがん検査『N-NOSE』を提供している『株式会社HIROTSUバイオサイエンス』による2024年9月27日付のプレスリリースのN-NOSEが既存検査よりも陽性的中率が圧倒的に高いことを示すために示した表において、子宮頸がんの感度が2.5%としてある問題のことである。


■線虫がん検査N-NOSEは新時代へ―実社会データの発表により終止符―(2024年9月27日)

2024年9月27日付株式会社HIROTSUバイオサイエンスプレスリリースより引用


感度とは、真に病気にかかっている人のうち検査で陽性の人の割合のことだ。子宮頸がん検診の感度は広く検証されており、報告によっても幅があるが、2.5%というきわめて低い報告は私の知る限りでは存在しない。たとえば、がん情報サービスのサイトには、「子宮頸部擦過細胞診のCIN3以上の病変に対する統合感度は、ASCUS以上を精密検査の対象とした場合65.8%」との記載がある。プレスリリースには「国立がん研究センターのがん登録・統計から算出した」とあるが、どのように算出したのかは提示されていない。また、子宮頸がん以外のがんについても、既知の感度とは整合しない点が認められる。

この問題についてはTAKESANさんがすでに考察しており、国立がん研究センターのがん登録・統計のプロセス指標におけるがん発見率を100倍したものが、プレスリリースの表における感度に近いことが指摘されている。



■HIROTSUバイオサイエンスの言う《感度》とは何か|TAKESAN



もちろん、発見率を100倍したものを感度とするのは誤りである。というか意味がわからない。株式会社HIROTSUバイオサイエンスが、感度とはどういうものかという疫学のごく基本すら理解していない誤りを犯したか、もしくは、多くの専門家が見落としていた大発見をしたかのどちらかだと思われる。


何の説明もなく子宮頸がんの感度が2.5%から6.7%に

その後、すでに配信されたものに一部加筆したとされるプレスリリースが2024年10月7日に公開された。10月7日付のプレスリリースでは、子宮頸がんの感度は6.7%とされている。また、「【要精検率、陽性的中率】を参照し算出」という語句が追加されている。



■「N-NOSE」は新時代へ ― 「N-NOSE」の有効性、実社会データで確定、論争に終止符 ―

2024年10月7日付株式会社HIROTSUバイオサイエンスプレスリリースより引用


他のがん種についても感度や陽性的中率が変更されている。仮に感度の算出過程に誤りがあったとしても、修正し、その旨を説明すれば大きな問題はないだろう。しかし、本プレスリリースにおいては、いったいなぜ変更されたのか、そもそも変更したという事実も説明されていない。

また、「【要精検率、陽性的中率】を参照し算出」とあるが、要精検率と陽性的中率だけからは感度は算出できない。感度は、真に病気にかかっている人の数を分母、そのうち検査で陽性の人の数を分子とすれば算出できる。要精検率と陽性的中率から検査で陽性の人の数はわかるが、真に病気にかかっている人の数はわからない。具体的な計算式を提示するなど、どのような方法で感度を算出したのかHIROTSUバイオサイエンスは説明すべきであると私は考える。

どのがんもなぜか有病割合が0.8%程度

TAKESANさんも指摘したように、9月27日付のプレスリリースの子宮頸がん検診の感度2.5%、特異度が97.9%、陽性適中度が1.2%という数字から、子宮頸がんの有病割合(時点保有割合)が1%程度である必要がある(表参照)。有病割合とは、ある時点において集団中における真に病気にかかっている人の割合のことである。

人口100000人、有病割合1%の集団に、感度2.5%、特異度が97.9%の検査を行った場合のシミュレーション


子宮頸がんだけでなく、肺がん、乳がん、大腸がん、胃がんも同じく有病割合が1%程度でないと、各指標を説明できない。当り前の話であるが、それぞれのがん種はそれぞれ有病割合が異なるので、何か重大な誤りが生じているとしか言いようがない。

10月7日付のプレスリリースの子宮頸がん検診の感度6.7%、特異度が97.9%、陽性適中度が2.5%という数字からは、子宮頸がんの有病割合は0.8%程度である必要がある。肺がん、乳がん、大腸がん、胃がんも同じく有病割合は0.8%程度だ。

先に述べたように要精検率と陽性的中率だけからは感度は算出できない。しかし、有病割合がわかれば、分母である真に病気にかかっている人の数もわかるので、感度は算出できる。ただ、正確な有病割合を知るのは難しい。精検を受けた人のうち真に病気にかかっている人の数はわかる。しかし、偽陰性例、つまり精検不要と判定されたが実際には病気にかかっていた人の数を数えるのは手間がかかる。検診で陰性であった人も含め全員を精密検査するか、検診で陰性だった人を追跡して一定期間中にがんと診断された人の数を数える必要がある(■がん検診の「見落とし」を数えるのは難しいを参照)。ちなみに先に挙げた「子宮頸部擦過細胞診のCIN3以上の病変に対する統合感度は、ASCUS以上を精密検査の対象とした場合65.8%」という数字は合計87000人以上の複数のコホート(追跡対象集団)を対象にして算出された。

そのような手間をかけずに、要精検率と陽性的中率に加えて独自に有病割合を適当に一律1%と定めて計算すれば、感度や陽性的中率のようなものは算出できる。当然であるが、集団によってもがん種によっても有病割合は異なるので、そうした算出方法は誤りである。また、「現実社会の一般がん罹患率が約0.8%」だからといって、有病割合を0.8%と定めるのも誤りである。罹患率(incidence rate)と有病割合(prevalence)が異なる指標であることは、どの疫学の教科書にも載っている基本的な事柄だ。


論文には子宮頸がんの感度が2.5%と書いているけど、どうするんだろ

いずれにせよ、10月7日時点においては、HIROTSUバイオサイエンスは、子宮頸がん検診の感度は2.5%ではないと認識していることになる。その場合、2024年9月に発表されたN-NOSEの性能を評価したとする論文*1に記載されている子宮頸がん検診の感度2.5%も誤りということになってしまうのではないか。

Hatakeyama et al., A non-invasive screening method using Caenorhabditis elegans for early detection of multiple cancer types: A prospective clinical study, Biochem Biophys Rep, 2024 Jul 13:39:101778.より引用


子宮頸がんほか、各がん検診の感度についての記載は、今後、訂正されるのかもしれない。もしそうなら、同時に、[as reported by the Japanese National Cancer Center Cancer Information Service “Cancer Registration/Statistics”. ]という部分も訂正されるのが望ましい。あたかも日本のがんセンターが、がん検診の感度についてデタラメな数字を報告しているような誤解を招くからだ。実際には、がんセンターが提供する「がん情報サービス」における要精検率、陽性的中率を参照して、論文筆者らが独自に算出した数字に過ぎない。私見を述べさせてもらうと、子宮頸がん検診の感度が2.5%という記載がすり抜けてしまうようでは、まともな査読は行われていないと考えざるを得ない。


「リンパ節転移があるから過剰診断ではない」は誤り

福島県において、事実上の甲状腺がん検診が続けられています。甲状腺がん検診は、がん死亡率の減少といった利益が明確ではない一方、偽陽性や過剰診断などの害があります。「過剰診断はすでに専門家らによって対策済み」という理由で過剰診断はほとんど起きていないと主張されることがありますが、誤りです。前回、■ジャガイモの水分と甲状腺がんの過剰診断にて、腫瘤径が小さく悪性を疑う所見を認めない場合は精密検査をしないといった方針で過剰診断は減るものの、それでもなお、甲状腺がんと診断された人における過剰診断の割合がかなり高いままということがありうることをご説明しました。

専門家らによる対策の一つに、甲状腺がんと診断してもリスクが低いと判断できる場合は直ちに手術しない「積極的経過観察(AS:active surveillance)」という方針があります。確かに手術と比べて害を減らすことはできますが、治療しないがんを抱え続けるという心理的不安や、長期にわたって検査を受け続ける必要性といった害は生じます。よって、ASという方針で過剰診断の問題が解決できるわけではありません。「絶対に手術をしないと取り決めるなら過剰診断による実害はゼロ」などという主張もありますが、がんと診断される心理的な不安について想像力が欠けています。

加えて、ASを勧められても不安から手術を選ぶ患者さんもいらっしゃいます。本来、検査を受けなければ甲状腺がんと診断されることもなく、手術を受けることもなかったはずなのに。害を上回る利益が検査にあるのなら、やむを得ない害と言えますが、すでに述べたようにがん死亡率の減少といった利益は確認されていません。「手術合併症リスクや治療に伴う副作用リスク、再発のリスクを低減する可能性」があるとも主張されていますが*1、そうした利益の存在は臨床的証拠によって示されていません。それどころか、ASを勧められたが手術を受けた症例の存在は、手術合併症リスクや治療に伴う副作用リスクを検査が逆に増やしうることを示唆しています。

福島県立医科大学の「専門家」は、ASを勧められたが手術を受けた症例の術後病理においてリンパ節転移や被膜浸潤が認められたことから、「過剰診断を裏付けるような術後病理結果は出ていない」と述べていますが*2、現在広く採用されている過剰診断の定義によれば、術後病理結果からは過剰診断かどうか判断できません*3。リンパ節転移や被膜浸潤があっても、一生涯症状が出なかったり、死亡の原因にならなかったりするものは、定義上、過剰診断です。

「リンパ節転移や被膜浸潤があるから過剰診断とは言えない」と主張するのであれば、韓国において実に15倍に増加した甲状腺がんの数十%にリンパ節転移や被膜浸潤が認められたこと*4、あるいは、ASの適応がある低リスク甲状腺がんでも即時手術を行うと30%弱にリンパ節転移が認められたという報告があることに*5、合理的な説明が必要が求められます。

甲状腺がんのASの確立に大きく貢献した隈病院のウェブサイト*6では、次のような説明がなされています。


最大径が1cm以下の甲状腺がんを「甲状腺微小がん」と呼びます。甲状腺の微小がんとは共存できるとしても、放置すれば転移の恐れがあるのではないか。これは当然の心配です。甲状腺がんの場合、微小がんであっても実際に手術をしてみると、顕微鏡で発見できるような微小がんのリンパ腺への転移が30~40%の患者から見つかります。ところが、このような転移した微細がんはほとんど成長せず、生命への影響が極めて小さいことも明らかになっています。

つまり、甲状腺の低リスク微小がんの場合は、がんそのものと共存できる場合がほとんどで、微小がんのリンパ腺への転移があったとしても、その転移したがんもほとんど成長せず、いずれの場合でも生命への影響が小さいことが明らかなのです。

「リンパ節転移や被膜浸潤があるから過剰診断ではない」という主張は世界標準の考え方と一致しません。私の把握している範囲内では、福島県立医科大学の「専門家」は、福島県で過剰診断がほとんど起きていないとする主張を英語論文として発表していません*7。一定の水準以上の医学雑誌では、「過剰診断を裏付けるような術後病理結果」といった標準的な過剰診断の定義を理解せずに記述された内容は査読を通らないでしょう。ガイドラインに従えば過剰診断や過剰治療を避けられるのであれば、苦労はありません。

「成長の早い子どもの甲状腺がんには当てはまらない」という反論が想定されますが、そのように反論する人にお尋ねします。成人と小児が異なるのであれば、現在の福島県において、成人の甲状腺がんの知見に基づいた抑制的な診断や経過観察が行われている現状をどうお考えですか?経過観察を勧められるも手術を希望された症例からも高い割合でリンパ節転移が認められているのですよ?小児の甲状腺がんの成長が早いのなら経過観察せずにすぐに手術すべきではないのですか?

私の観察範囲内では「小児の甲状腺がんは成長が早いので、成人の甲状腺がんの知見に基づいた抑制的な診断・治療は不適切だ」という意見は見当たりません。本当に福島県の子どもたちを案じているのであれば、「過剰診断ではない」という主張に都合の良い「専門家」の意見を鵜呑みにするのではなく、抑制的治療が勧められたケースで高い割合でリンパ節転移が確認されている現実に無頓着ではいられないはずだと、私は思うのですが。