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第二十九話 ちょっと燃え尽きました

いつもの半分ぐらいの文章量。

 

「…………まったく、無茶をする」


 相棒である少年の身体を背負いながらレアルはボヤいた。


 魔術に吹き飛ばされた竜とそれに乗る彼女だったが、幸いにも無事だった。空中で大きくバランスを崩し、振り落とされないようにするのが精一杯だったが、そうであっても一部始終を見届ける程度はできた。


 もっとも至近距離で爆破の影響を受けた竜は、カンナの造った氷の防壁のお陰で事なきを得たが、そうであっても少なくない傷を負っていた。休めば回復する程度であったが、逆を言えば安静にしていなければならないほどの負傷。労いの礼を言い既に帰還させていた。


 ただ、送還の術式で消える直前まで、カンナを気遣う表情を浮かべていた癒し系の竜の様子を思い返し、彼女は小さく笑った。


 あの竜は本当に人見知りが激しく、主の命であっても彼女以外を自らの背に乗せるのを激しく嫌う。『種族』の習性もあるが、個体の性質も相まり、可愛らしい外見とは裏腹に非常に癖の強い竜なのだ。


 だというのに、あの異世界から来た少年には驚くほどの懐き具合だ。こちらは生まれた時からの付き合いだというのに、思わず嫉妬してしまいそうになるほどの打ち解けの早さだ。


「それを言うなら私もそうか」


 竜のことばかりではない。


 レアル自身も、当の本人が驚くほどの信頼を彼に寄せていた。


 いつからこうなったのかは彼女には分からない。気が付けばそうなっていた、としか言いようがない。不思議ではあるが、嫌な気分ではない。


 己が普通の感性を持った女性ならば、話は分かる。


 カンナと出会ったのは、策略に絡め取られた上で捕らわれた牢獄の中だ。


 これがただの『お姫様』であるのなら、先に待つだろう仕打ちに不安を抱き、悲壮に暮れていたところだ。そして、そこに颯爽と『彼』が現れて救出されたのならば、一目惚れも自然だ。


 ところが、レアルの場合はそういった女性的な感性はとっくの昔に捨て去ってしまっていた。女性としての最低限の恥じらいこそ残ってはいたが、男所帯の中で長年揉まれ続けてきたせいで色恋沙汰に対する関心が殆ど失せてしまっていた。そこら辺はキスカも同じだが、こちらはいい男がいれば恋仲になりたいな、とぐらいは思っている。


 さて、レアルが投獄されている間に抱いていたのは、悲しみなどとなまっちょろいものではなく『殺意』であった。一重二重の策を弄し、自らを捕らえたあの腹黒い姫に対する純度の高い怒りと憎しみ。もし今この瞬間に目の前にいれば、迷わず剣を振り下ろして両断する自信があった。


 そんな怒り満点の状況で助けの手が伸ばされたとて、感謝の念は抱いても恋愛感情が入り込む余地など皆無。下手をしたら差し伸べられた手すらも払いのけてしまうほどに、彼女の心は荒れていた。


 だが、彼の言葉を聞いている内に、荒れ狂っていた彼女の心がいつしか凪いでいた。


 最初はエルフ族の持つ長い耳に驚かれた。何でも彼の住まう異世界には人族以外の人間が存在していないらしい。少し後に彼が召喚された『勇者』候補であると聞かされ、そこから腹黒姫への激しい憤りや、彼自身が『処分』されてしまいそうな危機的状況と、それを脱するための手助けの願い出。


 初対面の人間に聞かせるには警戒心が低い申し出だ。


 そのことを問いただしてみれば、帰ってきた答えが。


「や、敵の敵は味方でしょうよ。それに、あんた良い人っぽいし」


 ただのお人好しの戯れ言にも聞こえた。ただ不思議と、彼の言葉がすんなりと受け入れられた。この男は信頼できると、穏やかに感じられたのだ。


 今になって思えば、あれは彼なりにかなり勇気の必要な言葉だったと分かる。彼は一見して勢いだけで行動しているように見えるが、中々に聡い。人の機微や場の雰囲気の察知に長けている。我は強い方だろうが、状況によってはその我を引っ込めて利を取ったり、あるいは至った結果をうまい具合に自らの糧にしてしまう。現にコレまでも、衝動的な行為に至っても後にしっかりと採算を回収している。転んでもただでは起きないとは、彼の行動を言うのだろう。


 ただこれは彼の本質では無いのだろうと。彼のその行動は、経験に裏打ちされた処世術なのだと思う。


 根拠は今のこの状況。カンナがこの場にいるのが証拠だ。


 彼はある意味で純粋。自分自身に嘘を付けないのだ。口では損得を述べながらも、本気で困っている人がいればどうしても放っておけない。だからこそに彼はレアルに手を差し伸べ、麓の村で少女を助けに向かい、ファイマの護衛を引き受けたのだ。


 その無垢な行動が、彼の魅力なのかもしれない。この信頼感の根元なのかもしれない。


「『人誑し』とは、こいつのことを指しているのかもしれんな」


 いつか聞いた大精霊の言葉が蘇った。もしかすれば、あの精霊の言う『純色の魂』とはこれのことかもしれない。


「…………にしても、派手にやったな」


 背後を振り向くと、超巨大な氷槌と、それが半ばまで埋まり激しく荒れた大地だ。渓谷の道の真ん中に突き刺さっており、明らかに通行の迷惑になっている。


 状況が状況であったため、やりすぎとは言い切れないが、そうであっても少々思うところはある。この光景を造った本人に後日問いただせば、頭を抱えるだろう未来を想像するのは難くない。


「それに、この髪の色も驚くだろうな」


 意識を失い双眸を閉じている彼の髪の毛は、それまでの『黒』ではなく、混じりっけのない『白』に変質していた。髪だけではなく、眉毛や睫も変色しているところを見れば、おそらく全身にこの変化は行き渡っているだろう。


 戦争等で精神に極度の負荷が掛かるとこのような現象が起きると聞いたことがある。まるで一日で数十年の時を過ごしたかのようだと。だいたいは恐怖や絶望のような負の感情で引き起こされるらしいが、彼の場合は精霊術の極度行使が原因だ。


 ーーーーレアルの推測は、大体が正しく、ある意味では間違いだった。


 カンナの髪が変色した原因は間違いなく精神に多大な負荷がかかり、それが肉体へ影響が出たからだ。 


 けれども、精神を圧迫した感情は、決して恐怖や絶望などではない。


 通常の人間ならば極限状況に置かれ、かつ生命の危機に陥らなければ決して外れることのない心のリミッターを、意志の力で解放したのだ。


 あるいは、確かにあの状況は極限状態の一種とも捉えられる。一手でも誤りがあれば、カンナもレアルもーー果てはファイマ達もこの場に生き残ることは出来なかった。これは生命の危機的状況に当てはまる。


 だが、カンナはそんな中にあって自らの思考を手放さなかった。がむしゃらに見えるような行動であっても、常に目的が先に見据えてあった。そうでありながらも、最後の最後に自らの意志で精神の限界を超越し、結果が彼の身体の変化だった。


 言うなれば、理性の力を持って、本能の限界を引っ張り出したのだ。


 この場に大精霊の美女がいれば、最大限の称賛をカンナに注いで違いない。それこそが、彼女がカンナを選んだ最たる根拠だったからだ。


 そしてこれが、後に英雄となる少年の一歩目の軌跡だったのかもしれない。いまはただ、銀髪の美女に背負われるがままであった。 


 

人の心象を詳しく描写するのって難しいっすね。レアルさんがまだデレる気配を見せてくれません。メインヒロインのはずなのに!果たしてカンナは彼女のスイカ(級のアレ)をゲットできるのでしょうか!? というか、ゲットするまで無事に書き切れるかが僅かに不安。


とりあえず三章はこれで終わり。そして、大まかな一区切りです。四章からはまた別の舞台に映ります。プロットは構想中で、更新はちょい遅れるかもしれません。とりあえず、また新しいヒロインが出てくるのは確定です。

四章の前に、正当派勇者ご一行の「一方その頃」てきな話を持ってきます。

以上!


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