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McLaren GTS
控えめなデザインがトレンド
“こってり”ブームの後には必ず“あっさり”時代がやってくるものだ。ハイパーカーの空力モンスター化が進めば進むほど、スーパーカーには実用性と程よいスタイリングが求められるようになる。そういう意味では時代がようやくマクラーレンGTに追いついてきた、といえなくもない。
スーパーカー界を代表するあっさり味「マクラーレン GT」がデビューしたのは2019年のことだった。「MP4-12C」を思い出させる控えめなルックス、持ち上げられた水平ノーズやエンジン上のラゲッジスペース、そして何より普段乗りしたくなるドライブフィールは、ツウ好みの実用スーパーカー「アウディ R8 V10」に迫るものがあった。いや、その類稀なるグランドツーリング性能はR8をも上回り、それでいてサーキット性能においても他のマクラーレンロードカーに迫る実力を誇っていた。あっさり風味とはいえ、味とコクはしっかりあったというわけだ。
もっとも時代はまだド派手ウェルカムな頃で、GTの洗練された実用性を正当に評価し理解する人もまだまだ少なかったように思われる。けれども五年が経って状況は変わりつつある。「フェラーリ 296」や「ランボルギーニ テメラリオ」など派手さを控えたデザインのスーパーカーが増えてきたし、ユーザーサイドでも悪目立ちしないデザインを好ましく思う層が増えつつあるような気もする。
柔軟性の高いスーパーカー
そして今年、当のマクラーレン GTはというと「GTS」へのマイナーチェンジが実施された。外観の軽い化粧直しとエンジンパワーアップ、内外装色の変更などが主な項目だが、フロントリフターの改良といったGTらしい実用面での変更もあった。そもそも完成度の高いモデルだったので、変更といってもさほど大規模なものではない。
それゆえ、実際に乗ってみてもGTからの進化をすぐさま感じ取れるような場面は、少なくとも一般道ではなかった。相変わらず走りは軽快で、中間加速は驚くほどスムースで力強く、それでいてハンドリングは他のスポーツモデルに勝るとも劣らない。GTの長所は何ひとつ変わっていなかった。
今回はあえて京都や奈良の観光地を走り回ってみたけれど、フツウならスーパーカーなどで出向きたくない時期と場所であったにもかかわらず、「行ってみよう」と思わせるあたり、やはり柔軟性の高いスーパーカーなのだと感心する。とにかく走り出せばなんとかなりそう、という感覚は、ふつうのスーパーカーでは決して感じない類のものだからだ。
自在に操っている感覚
GTSの、そして実はマクラーレン製スーパーカー全ての、日常域における最大の魅力は、微速域から前輪と腕の距離がとても近く感じられることだ。なんなら全身とフロントアクスルが近く、鼻先までの一体感が他のミドシップカーとは段違いである。そのうえ、カーボンモノコックボディのおかげでエンジンの反応も実際に背負っているようなダイレクトさで、要するにドライバー前後の距離が非常にコンパクトにまとまっている。だから、すれ違うこともちょっと億劫に思われるような街中の狭い道でも、GTSであれば怖気付くことなくガンガン入っていけるし、すれ違いもさほど気にならない。要するにとても扱いやすい。
これほど自在に操っている感覚に満ちたスーパーカーはマクラーレンの他にない。街中の低い速度域でもすでにそうなのだから、郊外路からワインディングロード、そして高速道路と高速域に近づけば近づくほど、一体感はより凝縮し、密着感へと変わっていく。ワインディングロードを流していると、もはやカーボンモノコックボディに4輪をつけただけで走っているほどコンパクトなドライブフィールだった。
やはりツウ好み
反応の早くなったフロントリフターも嬉しい。ちょっとした段差でもすぐに使える。実をいうとそもそもノーズ下辺は通常よりも高い位置で水平に切られているから段差を越える行為そのものは不得意ではない。けれどもリフターがあればさらに安心で、ロードサイドへの寄り道も精神的にラクだった。
ゆっくり走っていても楽しいのがスーパーカーである。ならば、ゆっくり走ることを得意とするモデルがあってもいい。もちろん、いざとなればその性能は一級品で。マクラーレンGTSは間違いなく、そういうスーパーカーであり、やはりツウ好みであった。
PHOTO/マクラーレン・オートモーティブ・アジア
SPECIFICATIONS
マクラーレン GTS
ボディサイズ:全長4683 全幅2045 全高1213mm
ホイールベース:2675mm
車両重量:1466kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3994cc
最高出力:586kW(635PS)/7500rpm
最大トルク:630Nm(64.2kgm)/6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:前225/35R20 後295/30R21
車両本体価格:2870万円