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新・暮らしの経済手帖 ~時評編~

わたしたちの暮らしを大切にするための経済解説サイトを目指して開設しました。こちらは時評編で基礎知識編もあります。

石破政権は日本を中国と無理心中させる気か?

このブログでは今年初の投稿となります。昨年末に書いた記事と内容が重複しますが、石破政権のひどい外交姿勢がこの国の安全保障と経済を不安定化させ、再び雇用を悪化させたり軍事独裁国家に蹂躙されるような事態を招く危険性を指摘したいと思います。

 

なお国民民主党が公約として掲げた手取り収入を増やすための減税政策の実現性については「基礎知識編」ブログで軽く書きまとめておきましたのでご覧ください。

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本題に入ります。

間もなく任期が終了となりますが、アメリカのバイデン大統領が今年1月3日に日本の製鉄メーカーである日本製鉄がアメリカの製鉄メーカーであるUSスチール(以下USS)の買収を行うことを禁止する行政命令を出しました。この取引は買収される側のUSSの経営陣だけではなく労組や地元からも歓迎されていたもので、日鉄側は雇用創出のための巨額追加投資など誠意を持ってかなり良い条件を出しています。バイデン大統領は「安全保障上の理由」で買収阻止命令を出しましたが、USSのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は、「北京の中国共産党指導者たちは路上で小躍りして(喜んで)いる」とコメントし、「政治的腐敗と戦う」と痛烈に非難しています。他にもペンシルベニア州選出のダン・ミューザー下院議員(共和党)が「バイデン氏は日本を中国と混同している」と皮肉りました。アメリカと同盟国であるはずの日本の企業に対して行われたこの命令に違和感を持った人がかなり多いことを示します。

しかしながらバイデン現大統領だけではなく、トランプ次期大統領もまた日本製鉄によるUSS買収に賛成していません。氏はSNS上で「関税によってUSスチールの収益力と企業価値がはるかに高まるという今、なぜUSスチールを売却したがるのか?」と述べています。

両氏の狙いや真意についてはよくわからず不思議に感じられるのですが、筆者はこの言動や行動の奥に「アメリカは日本を同盟国として信用していない」という裏メッセージを込めているのではないかと憶測しています。日本を中国と並ぶ仮想敵国として見做しはじめたというのは考えすぎでしょうか?だとしたらその元凶は日本の石破政権にあると筆者は思います。

石破総理の外交についてはマスコミ等でも猛烈な批判がなされていますが、トランプ氏がアメリカ新大統領に選出された後から今に至るまで直接面談するには至っていません。イタリアのメローニ首相やアルゼンチンのミレイ大統領などは既にトランプ氏と面談できています。石破氏とは電話での短い会話しかしていません。その一方で石破総理や岩屋毅外相、森山裕幹事長らは中国の習近平主席や李強首相、王毅共産党政治局員兼外相などと会談しており、中国人向けの査証(ビザ)発給要件の大幅緩和まで表明しております。トランプ次期政権は強硬な反中派をメンバーに揃えて組閣を進めているところへ、石破政権の態度は完全に媚中で喧嘩を売っているも同然です。バイデン大統領だけではなくトランプ次期大統領の目から見たら日本と中国は同列の仮想敵国に映ることでしょう。

トランプ新政権については関税を武器に自国の要求をのませる手法で世界各国との外交を推し進めていくことでしょう。中国に対しては最大60%の関税を課すことをトランプ氏はほのめかしています。さらには「中国が台湾に侵攻すれば150%から200%の関税を課す」と発言しました。いまの石破政権の外交態度ですと、日本に対しても容赦ない関税攻撃を仕掛けてくる可能性が大きいです。そうなったら日本の輸出産業は大打撃を受け、雇用が著しく悪化する危険が出てきます。

石破政権が擦り寄っている中国については不動産バブルの崩壊や習近平政権の経済政策失政によって若者は就職できず、慢性的デフレ不況状態に突入しつつあります。1990年代以降の日本と同じ道、いやそれ以上ひどい状況に陥ることでしょう。おまけに中国は習近平政権以降ますます軍事独裁色をどんどん強めていっており、日本人だけではなく多くの外国人が理不尽な理由で逮捕拘束され死刑判決を下されてしまっています。これでは安心して企業進出なんかできません。そんな国に靡いていっても奪われることはあれ、得るものは何ひとつないに決まっています。互恵関係なんてありえません。石破政権のセンスのなさにただただ絶望するだけです。

内政面についても石破政権の経済政策についてもまったく芯がなく、不確実性をじりじり高めていっています。国民民主党が要求した基礎控除+給与所得控除を現行103万円から178万円に引き上げる減税案について、自民党公明党側は消極的な姿勢しか示さず123万円でおさめさせようとしてきました。それだけではなく増税路線に前のめりな立憲民主党と大連立政権を組み、消費税税率を15%まで引き上げてしまうのではないかとも囁かれています。

金融政策についても株価が暴落してしまった政権発足直後に石破総理と日銀植田総裁が会い追加利上げは慎重にやるよう申し入れたのですが、安倍政権や菅義偉政権時代のようにしっかり睨みを利かすことはしないでしょう。石破氏は総理になる前まで安倍元総理が進めていた異次元金融緩和に対し反発的な態度をみせていました。植田総裁が景気や雇用状況を顧みずじりじり利上げを進めていっても、それを止めることはしないと予想されます。トランプ氏はドル高・円安状態に対し警戒感を示しており、それを是正するよう日本側に圧力をかける可能性があります。安倍元総理であれば巧くトランプ氏に説明できていたでしょうが、石破氏や植田総裁はトランプ氏からの圧力に屈して利上げを進めてしまうかも知れません。利上げをするということは日本の民間企業に対し(雇用を含めた)投資を抑制させ、経済活動を弱めさせることです。関税強化と日銀利上げが重なったら企業活動と雇用の萎縮が進み、やっと脱出できた数十年間に渡る慢性的デフレ不況を再発させかねません。

いまの自民党はもはや保守政党ではなく左派政党になっております。この流れは岸田前政権からはじまったものですが、石破政権で決定的なものとなりました。外交・経済政策共に迷走し、国民に不安と怒りと失望を与えた民主党政権の再来といえるのが今の石破政権です。本当は高市早苗氏や旧安倍派の議員が反旗を翻し石破おろしを進めていかないと自民党という党だけではなく、日本の安全保障と経済という屋台骨が崩れていくことでしょう。

先の衆議院選挙で旧安倍派議員の多くが落選してしまっていますが、日米同盟を強化し自由主義経済を尊重する路線を自民党が復活させないと、日本の政治や経済は混迷を極め、周辺の軍事独裁国家に蹂躙されることになりかねません。そのためにも一刻も早い石破政権の退陣を求めなくてはなりません。

 


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2024年 岸田政権から石破政権へ アベノミクスの終了

半年以上もこのブログの更新をお休みしていました。2024年は今日で最後です。

日本の政権は岸田文雄政権から石破茂政権へと代わりました。

筆者は岸田政権の経済政策についてあまり高く評価してきませんでしたが、石破政権はそれよりさらにひどくなりました。まだ岸田政権は外交面で評価できる点がいくつかり、経済政策についても後述するように日銀総裁植田和男氏を指名して金融政策を利上げ方向に転換させるといった誤りをしつつも、財政政策については緊縮にしなかった点でましでした。石破現総理は南米ペルーで開かれたAPECにおいて数々の外交上の失態を積み重ね、年明けに就任するアメリカのトランプ新大統領とも未だ面談できていない有様です。氏とかなり濃厚な信頼関係を築けた安倍晋三氏とはまったく逆で、石破総理は完全に無視されているといっていい状況です。一方で中国の習近平国家主席については両手握手・・・・。保守系の人に限らずかなり多くの人がこの政権について大きな不安や不信を抱いているのではないでしょうか。

 

石破氏はかねてよりマスメディアから「総理にしたい男No1」として担ぎ上げられてきました。待ちに待った真打ち登場であるはずですが、政権発足直後に石破政権が打って出た衆議院解散総選挙で自公与党は惨敗し、過半数割れという結果です。にも関わらず石破氏は居座りです。民主党政権時代の菅直人政権を想起させます。

 

話を経済政策の方へ絞らせて頂きますが、安倍元総理が2013年より続けてきた異次元金融緩和政策等をはじめとするアベノミクスは石破政権によってついに命脈を絶たれました。現在日本においても生鮮食料品や石油、電力などのエネルギー価格が上昇してインフレに転じてきたのだから金融緩和政策を撃ち止めにして、利上げを進めていくべきだと思われている方がほとんどでしょうが、利上げが物価抑制につながる経路は企業や個人の投資抑制→賃金分配の縮小→モノやサービスの消費意欲低下→物価下落というものです。外国から輸入される食料品や資源は他国の景気過熱によって元の価格自体が高騰しています。それを日銀の金融政策でコントロールできるわけがありません。正しい政策解は値上がりした財を買うことができるよう労働者や消費者の手取り収入を増やすことにあります。石破政権の経済政策は民間企業や個人の経済活動を抑圧させる反資本主義、反自由主義、反ビジネスという性格が強く、国家社会主義的です。もし何かの経済ショックが起きたならば深刻な不況や雇用難を再発させかねません。それは格差や貧困の増大につながります。

 

考えたくないことですが、トランプ新大統領は他国からの輸入品に関税をかけることに前のめりです。さらにドル高円安に対しても良くは思っていません。いまの石破総理ですと安倍元総理のように器用に立ち回れず、トランプ政権は日本に対し高い関税を課したり、日銀の金融政策を円高方向に持っていくよう圧力をかけてくる可能性があります。そうなった場合日本の輸出産業は深刻なダメージを受け、雇用を喪失する危険性が出てきます。

 

石破政権は「悪夢の民主党政権」以上に危険なものであり、一刻も早い退陣が求められますが、自民党内にその危機意識がなく、高市早苗氏や旧安倍派(清和会)の動きも鈍いままです。この状態で台湾有事や深刻な経済ショックの発生が起きてしまうことがないよう祈るしかありません。

 

本当は減税のことなどについても詳しく触れたいところですが、別の機会にさせていただきます。

 


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殺人やテロが人々を幸福にすることはない

7月13日にアメリカのペンシルベニア州バトラーで行われていた米共和党ドナルド・トランプ前大統領の選挙集会で、トランプ氏の演説中に暗殺未遂が発生しました。トランプ氏は20歳の男からライフル銃で狙撃され、弾が氏の左耳に当たり貫通したものの、命に別状はなかった模様です。しかし演説会に参加していた観衆の数名にも被弾し、死亡者まで出しています。

筆者はこの事件をみてちょうど2年前に発生した安倍晋三元総理暗殺事件のことを思い出しました。事件発生直後に氏の暗殺によって日本国内の経済運営や外交・防衛が大きく揺らいで、結果的に多くの国民の生命や生活を脅かす事態になるのではないかということをブログ記事を書いています。

ひとりの人間の凶行が引き金となりかねない「悪夢の3年間」「亡国の8年間」 - 新・暮らしの経済手帖 ~

 metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

 

 

こうした事件が起きる度に犯人に対する激しい憤りを覚えざるえません。マスコミは犯人の過去の生い立ちを同情的に伝えたりしますが、筆者は犯人がいかなる動機でいかなる過去があったとしても、彼らに一切の憐憫の情をかけるようなことはしません。こうした人たちはどんな政治家が善政を尽くしたとしても、自分の不幸を他人のせいにすることしかせず、惨めな人生を歩んでいたことでしょう。

安倍元総理に対する評価は大きく割れますが、犯人が安倍氏を殺したことで日本国民は幸せになれたのでしょうか?筆者は安倍氏がいなくなった後、氏が抑え続けていた財務省や日銀官僚の暴走が再びはじまり、財政政策・金融政策共々緊縮路線へ戻りかけてきたように思えます。目立たないステルス増税をあれこれ仕込まれるだけではなく、社会保障歳出のカットなども進むでしょう。岸田政権は官僚の顔色を窺ってばかりで、増税の懸念を常に与え続けてきました。まだ国内景気と雇用が堅調ではありますが、米国や欧州、他のアジア各国と比較して経済力の回復が強いとはいえません。岸田総理が任命した植田和男日銀総裁も銀行などの金融機関の利益確保第一で、金利引き上げの機会を伺っています。資金調達に苦慮する中小零細企業にとって金利引き上げは死活問題になってきます。それを無視して金融引き締めが進められようとしています。

トランプ氏もまた賛否が真っ二つに分れる政治家ですが、彼が前に大統領職を務めていた4年間にアメリカは新しい戦争をさせてきませんでした。彼は過激かつ攻撃的な発言で危険な印象を持たれていましたが、そのことが逆に相手国に緊張感を与え、戦争になる直前ギリギリのところで交渉のテーブルにつかせることに成功していたのです。もし運悪くトランプ氏が暗殺されてしまったとしたら、ロシアや中東、アジア情勢がどうなってしまうでしょうか?いまの不安定な国際情勢がさらに迷走し、予期せぬ戦禍が拡がってしまう危険性があったように思います。

 

筆者は2年前からずっと言ってきたことですが、政治家を狙った殺人やテロ行為は政治家ひとりの犠牲で終わらないことです。政治家を暗殺することは飛んでいる飛行機のパイロットを射殺してしまうことと同じで、搭乗している乗客全員の命を奪うのと同じことです。政治家を殺害した犯人に対し甘い対処をすれば、再び敵国が都合の悪い自国の政治家を暗殺することで、侵略するといった行動をするでしょう。トランプ氏を狙撃した犯人はその場で射殺されたようですが、そうすることでテロリストや犯人に対して些かの利得も与えないという姿勢を示しているのです。日本の場合は逆でテロや殺人という表現を推奨してしまうような対処をしてしまいました。今後も日本の政治家はテロ国家の手によって暗殺される危険にさらされ続けるでしょう。

 

筆者は民衆の幸福や福祉を最大化させる政治システムは民主主義であり、経済システムは資本主義ならびに自由主義であると信じております。現在権威主義的な社会主義勢力が猛威を振るい、自由主義や民主主義を脅かしています。殺人やテロは政治家だけではなく罪なき民衆を巻き込み、破壊しかもたらしません。私たちはそれを肝に銘ずるべきです。

 


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ついに葬られたアベノミクスと緊縮レジームへの転換

2024年3月28日、日銀政策決定会合においてついにマイナス金利やYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)、ETF(上場投資信託)の買い入れなどを撤廃し、安倍政権=黒田日銀体制の下で2013年から始まった異次元金融緩和政策が完全に打ち切られることになりました。いつの間にかインフレ目標2%達成後もしっかりとした経済成長が確認できるまで金融緩和を継続するというオーバーシュート型コミットメントについても消失しています。金利を一時的にではなく、継続的に下げ続けるという予想を人々に与え、多くの民間企業が積極的に新しいモノやサービスの生産を行うための事業投資をしたり、消費者がローンを組んで個人の住宅ないしは自動車等の購入を促すといったこれまでの日銀の金融政策がひっくり返されてしまいました。

元々三重野康総裁時代以降の日銀は景気がひどく悪くなったときにゼロ金利政策や量的金融緩和政策を一応やるのですが、ようやく景気が持ち直してきたぐらいの段階で急ぐようにあわてて金融緩和政策の解除をやってしまい、1~2年後に再び不況に陥ってしまうという失政を繰り返しています。植田和男氏が日銀総裁になってからその悪癖が再び現れてしまいました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

今回の決定について異次元金融緩和政策を支持してきた人の中でも、一応は植田日銀総裁が金融緩和継続の意志を示していることや、いまの賃上げムードや物価の状況、為替レートをみて妥当的な判断であると見なしている方がおられますが、筆者は甘い見方だと思っています。今回の日銀の政策決定は彰かに民間の経済活動活性化や雇用の維持よりも銀行等金融機関の収益を優先する旧い日銀体質への回帰であるとみるべきでしょう。岸田政権は一応減税策を打ち出していますが、その一方で財政健全化推進本部の活発化や目立たないところでのステルス増税を企てています。

異次元金融緩和と積極的財政政策、民間の投資機会を増やす規制改革は「アベノミクス三本の矢」と位置づけられ、それは3つの政策方向性を揃えた「リフレレジーム」というべきものでしたが、この日を境に金融引き締めと増税ならびに政府支出抑制という「緊縮レジーム」への転じたのです

3月までにおいて日本の民間企業、とくに輸出関連の製造業や宿泊・飲食産業・観光業界を中心に業績が順調よく回復し、雇用も堅調です。昨年に続き賃上げムードが高まっており、今年の春闘でも満額回答が期待されています。そういう状況下で日銀はマイナス金利を解除したり、YCCの撤廃を行ったとしても影響が軽微であると判断したのでしょう。筆者は少し楽観的すぎる見通し判断ではないかと思っていますが、ここまでしっかり回復してきた景気がこのまま日銀が考えているシナリオどおりに伸び続けることを祈っています。

経済学者のポール・クルーグマン教授は過去20数年以上続けてきたデフレ不況体質から脱しようとする日本経済を地上からの重力に押し戻されないようエンジンを全力で噴射し続けるロケットに例えてきましたが、現在の状況はようやくロケットが大気圏外へ脱出しようとしている段階だと見なせます。

そういう意味で日本はいま千載一隅のチャンスを迎えており、日本経済というロケットはブラックホールのような強力な重力から解き放されてはるか宇宙に向かって飛び立てる可能性があるのです。

しかしながら筆者はそのロケットのエンジンの出力は決して高くないのではないかと危惧しています。アベノミクスにおいても企業の投資意欲や雇用を伸ばすことは十分成功したのですが、消費の方は相変わらず消極的なままです。悲観的すぎる予想かも知れませんが、日本経済というロケットがブラックホールのようなデフレ不況体質という重力に負けて失速し、落下することが考えられなくもありません。

コロナウィルスのパンデミックが収束した後にアメリカやヨーロッパの方では消費が活発化し、賃金もどんどん上昇しましたが、日本はインフレ気味になったといえどそこまでのレベルにはなっていません。景気は悪くないのですが欧米に比べると過熱気味だとはとてもいえないと思います。そうした状況の中で日銀が異次元金融緩和の手仕舞いをしてしまったのは時期早々であると筆者は判断しています。欧米や近年勢いよく経済成長を遂げてきた中進国と日本との間のインフレ・成長格差を縮めるべく、金融緩和政策や積極的財政政策をもうしばらく続けていった方がいいのではないかと考えているぐらいです。(高圧経済論というべきものです)

岸田政権は「賃金と物価の好循環の実現」を掲げており、その考え方は非常に正しいものです。しかしながら実際の政策行動はそれを阻害しかねないものとなっており、ただの”お経”で終わってしまうのではないかという予想は筆者に限らず多くの国民が抱いていることでしょう。”消費UP”を実現したいのであれば消費税の減税がいちばんの有効策であるのですが、既にレームダック化しているといわれる岸田政権にそれをやるだけの政治的胆力があるように思えません。

自民党政府の財政政策や日銀の金融政策が緊縮方向に向かったとしても、アベノミクスの遺産で何とか逃げ切れられたら幸いですが、仮に再び日本経済が失速し雇用が悪化した場合において安倍政権や黒田日銀体制が行ったような積極的金融緩和政策や積極的財政政策を施したとしても効果を大きく削がれてしまう恐れがあります。今回の日銀の決定や自民党内の財政健全化推進本部の動きは人々の間で「いま金利を下げたり財政政策を奮発していても、すぐに金利を引き上げたり増税をするつもりだろう」という予想を植えつけます。そうなると今以上に民間企業の投資・雇用意欲や人々の消費意欲を回復させることが困難になります。何度も嘘をついたり裏切り行為を続けたオオカミ少年と同じなのが日本政府とその背後にいる財務官僚や日銀です。筆者としてはこれらの組織が日本国民や企業に対し、これ以上の背信行為を積み重ね続けることをやめてほしいです。

 


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2023年を振り返って

今年2023年もあと残りわずかです。われわれはパンデミックやロシアによるウクライナ侵攻後から供給力不足を原因とするエネルギー資源や食糧などをはじめとするモノ(財)価格の高騰に悩まされ続けています。

今年を振り返る意味で年頭に書いた記事を読み返してみました。

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com

黒田東彦氏に続く日銀総裁雨宮正佳氏や中曾宏氏ではなく、植田和男氏になった点や、欧米の景気過熱・インフレの勢いが想像以上に根強く長期化してしまった点、日本における雇用や企業投資が今の時点ではまだ堅調であることなどは筆者の予想どおりではありませんでした。これは幸運なことです。しかしながら欧米の高いインフレにブレーキがかかりはじめ、来年以降にアメリFRBEUのECBなどの中央銀行が利上げを撃ち止めにしていく可能性が囁かれています。

日本についても植田日銀総裁がYCC(イールドカーブコントロール)を形骸化させたり、マイナス金利解除をほのめかすなど、金融タカ派の態度を見せ始めており、

企業の投資意欲や雇用、個人の住宅投資などに水を差す可能性が十分にあります。

また岸田現政権が現在どんどん弱体化しており、いつ倒閣してもおかしくない状況です。岸田文雄総理自身も財務官僚色が強く、「増税メガネ」と揶揄されたように緊縮財政に転じそうだと云われ続けてきましたが、もしこの政権が倒閣したらさらに財務省色・緊縮色が強い政権になる可能性が高いです。

幸いに人手不足状況がまだ続いていて、今年の春闘では使用者側も積極的な賃上げを行う回答が見受けられました。賃金が上昇することで人々が積極的に消費をし、それが財やサービスの価格上昇を可能とする状況を生む「賃金と物価上昇の好循環」が日本においても30年ぶりかに復活するかしないかのところまで現在の日本経済は達していますが、日銀や今後の政権がそれをへし折ってしまうようなことになってしまうことを筆者は警戒しています。そういう意味で今年年頭のブログ記事内容を撤回するつもりはありません。とにかく民間経済再生の速度が岸田政権発足後から進行し始めた異次元金融緩和の骨抜きや財務省寄りの緊縮財政路線への転向の動きから逃げ切ることを祈るばかりです。

新聞やテレビ等では相変わらず「物価を下げるために金融緩和をやめて円高に誘導すべきだ」などという論調が目立ちますが、これは為替相場だけしか見ない、あるいは買い手である消費者としての立場でしかみない偏った観点から生まれたものです。多くの国民はただモノやサービスを買って消費するだけではなく、就労や自営を行って生産活動をする側面も持っています。仮に物価が下落しても、それ以上に所得が落ち込めば生活が苦しく不安定なものになります。

パンデミック収束を境にデフレからインフレ基調の経済に転換しはじめていますが、これは働く人たちにとって大きなチャンスです。しっかり働いてもっと所得を伸ばそうという考え方を持つべきです。

現在世界的に進んでしまったインフレはパンデミック後の人手不足やウクライナ戦争などによるモノやサービスの不足から生じているものです。金利引き上げなどの金融政策引き締めや緊縮財政によって需要を抑え込むことでインフレを鎮静化すべきだという主張が目立ちますが、そうしたことでわれわれは欲しいモノやサービスが入手しやすくなるのでしょうか?いくら金融引き締めや緊縮財政をやってもモノやサービスの量自体が不足していれば多くの人々に行き渡らせることはできません。それでウナギやサンマの漁獲量や卵とか野菜の量が増えるわけではないからです。

今年・来年に限った話ではないですが、モノやサービスの安定した生産や供給を護る経済安全保障が極めて重要になってきます。それを一番阻害しているのがロシアのプーチン政権や中国の習近平政権といった軍事独裁政権と社会主義体制であるのですが、自由主義国家はそれに対峙していかねばなりません。


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悪しき日銀体質の復活

先日7月28日に行われた日銀政策決定会合において、黒田総裁時代に導入された金融緩和政策の一手法であるイールドカーブコントロール(長短金利操作)を実質形骸化させてしまうような決定が行われてしまいました。金融政策についてあまり関心を持っていない人から見たらどういうことなのかよくわからないかも知れませんが、簡単にいえばこれまで短期の金利だけではなく、中長期の金利も低く抑え込むようにしてきたものを、中長期については金利上昇を認めるような決定をしたということです。

 

イールドカーブコントロール(YCC)について以下の図式で簡単に説明しておきます。

 長期金利はこれまで上限を0.5%に設定してきましたが、今回の会合でそれを一定程度超えることを容認するとしたのです。この決定を受けて新発10年物国債の流通利回りが一時0.575%まで上昇してしまいます。

 

植田総裁については彼の就任が決まった当時に批判記事を2つ書きました。

新日銀総裁に指名される植田和男氏ってどんな人 - 新・暮らしの経済手帖 ~時評編~ (hatenablog.com)

 

 

不確実性を高めてしまった岸田政権の新日銀総裁・副総裁人事 ~コミットメントの棄損~ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

 

彼が日銀総裁に就任してから、これまでの間は黒田前総裁が続けてこられた異次元金融緩和政策を継続するという意思表明を続けてきたのですが、ついに本性を現し始めたようです。黒田総裁時代に日銀審議委員であった原田泰氏が書かれた回顧録「デフレと闘う 日銀審議委員、苦闘と試行錯誤の5年間」でも、植田氏が原田氏に対し「長期金利0%の金利のペッグ(YCC)がハイパーインフレを引き起こす。金融機関経営が厳しくなり、金融仲介機能を壊して経済を悪化させる」などというおかしな質問をしていたことが記されています。

上 原田泰「デフレと闘う 日銀審議委員、苦闘と試行錯誤の5年間」より転載

 

植田総裁がなぜYCCを撤廃したがっていたのかという理由ですが、それは銀行などの金融機関の収益がYCCによって抑えられてしまっていると考えているからでしょう。銀行などは低い金利でかき集めた預金を、高い利子がつく中長期の貸し出しで運用させることで、その金利差から収益を得ます。製造業者が原材料費を安く仕入れて、高く商品を売ることで利益を出すのと一緒です。しかしYCCの導入で中長期金利まで低く抑えられたことで、銀行の儲けが薄くなってしまいます。銀行などの金融機関関係者の多くが安倍政権・黒田日銀体制が行ってきた異次元金融緩和政策に反発してきた理由はそのためです。マスコミの多くも金融機関の利益優先の報道をし、アベノミクス潰しを行ってきました。

 

しかしこれは貸し手の都合しか考えていないもので、資金を借りてモノ創りやサービスの提供といった事業を行う民間企業やローンで住宅とか自動車を購入する借り手の人たちの都合を無視したものです。リンクした自分のブログ記事でも既に書き述べましたが、金利の引き上げは民間企業の事業活動意欲や個人の住宅・自動車の購入や就学を阻害することになります。企業が高くなる金利を警戒して新しい事業を興すことを躊躇うようになれば、雇用も手控えるようになるでしょう。何度か申し上げてきましたが、とくに何年・何十年も継続した雇用形態となる正規社員は雇い主にとってかなり長期間給料を支払い続ける義務が生じます。一度雇ったら解雇も簡単ではありません。正規社員の雇用は企業が何十年間以上も高い収益を確保できる自信がないとできないことです。

 

かねてからここで申し上げてきたことですが、金融政策というのは民間の事業活動(モノやサービスの生産活動)や雇用の安定、そして物価の安定を計る重要なものです。ところが植田総裁の関心事は金融機関の利益に向いているようです。雇用や民間企業の経営は二の次でしょう。三重野康総裁から白川方明総裁時代までの旧きかつ悪しき日銀体質が復活してしまいました。今回のYCC見直しについては政策決定会合の前に一部マスコミからそれを行うリーク報道がなされました。事前に重要な決定事項が漏れてしまうなど中央銀行としてあってはならないことです。

 

今年の春闘で輸出系の大手企業やパンデミック収束によって業績が回復してきた飲食・ホテルなどのサービス産業を中心に賃上げの動きが活発になっていました。この調子でいけば日本は30年以上にも及んだ異常な長期経済低迷・慢性的デフレ体質から脱することを期待できていたところです。しかしながら岸田政権は財政政策面において増税や緊縮財政をほのめかすことを繰り返しており、さらに日銀側が金融緩和政策の縮小とはっきり受け止められる態度を見せてきました。

 

弱り切っていた経済活動がようやく立ち直りかけたところで、日銀が「もう金利を上げても大丈夫でしょ」といって金融緩和を解除してしまったり、政府側が増税や歳出削減などの緊縮政策をやってしまって、再び不況を招くといったことは一度や二度ではありません。バブル景気崩壊の痛手から民間企業が立ち直りかけた1997年に橋本龍太郎政権が消費税を3%から5%に増税し、景気に冷や水を浴びせます。本格的なデフレ不況に突入します。その後の不況に対処すべく日銀は1999年にコール市場金利を史上最低の0.15 %に下げ”ゼロ金利政策”と呼ばれるのですが、当時の速水優日銀総裁はそれを「異常」だとして早期の解除を明言していました。2000年にゼロ金利政策を解除したのですが、すぐにITバブル崩壊で翌年再実施。それだけでは効果が望めないので市中銀行が日銀に設けた当座預金口座に大量の資金を積み上げる量的金融緩和もはじめました。これで再び景気が上昇し、マイナス成長からようやく脱しかけたかなといったところで2006年にゼロ金利政策と量的金融緩和政策を解除してしまいます。しかしそれからしばらくして米国のサブプライムローン金融危機の影響を受けて景気が急失速し、再度のゼロ金利に戻さざるえなくなりました。

これまで日銀は前例がなかったゼロ金利政策や量的金融緩和を実施してきたのですが、少し景気が持ち直してきたところですぐ解除し、再び不況に陥って再緩和をするという繰り返しをやってきたのです。過去の日銀は一時的に金融緩和をやるけれども、早く手仕舞いさせたいという態度をみせてきたために、企業経営者たちは思い切った事業のための投資ができません。その結果として莫大な研究費がかかる次世代技術の開発が進まなくなったり、長期雇用で従業員を雇うことができなくなったのです。

 

今回の日銀が行った政策決定は過去の日銀への回帰を象徴するもので、日本経済の回復と正規雇用拡大の障害となっていた不確実性を増すことになるでしょう。安倍政権と黒田日銀総裁に導入した2%のインフレ目標というコミットメントが完全に棄損し、日銀が行う金融政策の効力や信頼性を大きく損ねることになりかねません。不況に陥ったらずっと不況に陥りっぱなし、あるいは逆に今の欧米のようにインフレになったらずっとインフレになりっぱなしといった感じで景気や雇用・物価の統治ができなくなる危険性を生んだといえましょう。厄介なことにならなければと思っております。

今回と関連する柿埜真吾さんのブログ記事です。

 

 

metamorphoseofcapitalism.hatenablog.com


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賃上げ主導による経済成長とインフレ目標達成への道

ご無沙汰しておりました。今日から5月に入り、メーデーということで賃上げの話をしていきましょう。

第94回メーデー中央大会 ー令和5年4月29日 - Bing video

 

先月末になりますが、4月29日に岸田総理がメーデー中央大会に出席しました。現職総理がメーデーに参加するのは2014年に当時の安倍晋三総理が参加して以来9年ぶりとのことですが、この当時与党自民党保守系政治家が労働運動の場に現れたのは異例中の異例として受け止められました。

 

しかしながら安倍元総理や岸田現総理らが全国の労働者と共に、企業に対し賃上げを求める声をあげるのは、それが経済活動再活性化と持続的な成長経済の実現のために不可欠であったからです。安倍元総理が中央銀行の日銀と共に進めてきた異次元金融緩和政策をはじめとするリフレーション政策は企業の事業活動活発化と投資増大を始点に労働者への賃金分配を加速させ、それによって消費の拡大を促し、最終的に持続的かつ安定的な経済成長と物価上昇を目指すものでした。そういう意味で安倍元総理や岸田現総理がメーデーに参加することは不自然なことではありません。連合の芳野友子会長は立憲民主党共産党について労働者の厚生向上につながるような活動をやっていないと完全に見放しており、むしろ「実」のある成果を与えてきた自民党の方に近づいています。

昨年は円安(というより極端なドルの独歩高)が問題視されていましたが、その一方で輸出増加で製造業などの収益が大きく伸びております。一部の企業ですが、従業員にインフレ手当を支給するところまで現れました。(筆者が勤める会社でも特別支給がありました。)これは今回の春闘においても追い風となり、連合が4/13に公表した「2023春季生活闘争 第4回回答集計結果」によると2023年の平均賃上げ率は3.69%と30年ぶりの高さとなっています。

春闘賃上げ率は30年ぶりの高水準へ…今後の焦点は賃上げの持続性とサービス価格の上昇ペース - 記事詳細|Infoseekニュース

 

黒田東彦日銀総裁は先月4月17日にコロンビア大学で講演を行い、十分な賃上げなどが2024年度も続けば、「2%の物価安定目標が達成されるかもしれない」と話されたようです。

黒田前日銀総裁、物価目標達成に自信 コロンビア大講演 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

 

青太字で強調しておいたのですが、黒田氏の発言で重要なのは賃上げの動きは今年一回だけではなく、来年、再来年・・・・と持続的なものになるかがどうかです。それは人を雇い賃金を支払う企業だけに「もっと人を雇ってください」「賃金を上げてください」と政府側がお願いするだけではなく、適正な中央銀行による金融政策と政府の財政政策ならびに規制改革等による援護射撃をしていかねば実現できないでしょう。企業側にとって一年先が闇で、すぐ景気が悪くなってしまうかも知れないとか政府や中央銀行の経済政策態度が曖昧で、いつ利上げや緊縮財政路線に転ずるかわからないような状況ならば固定費である賃金の引き上げはできるわけがないでしょう。

 

そういう意味で表向き安倍政権・黒田総裁時代からの金融緩和路線を継続しているかのように見せつつ、本心では長期金利抑え込みをやめたがっている岸田政権や新しく日銀総裁に就任した植田和男氏の優柔不断かつ曖昧な態度や姿勢は来年以降の賃上げの足を引っ張っりかねません。

不確実性を高めてしまった岸田政権の新日銀総裁・副総裁人事 ~コミットメントの棄損~ | 新・暮らしの経済手帖 ~経済基礎知識編~ (ameblo.jp)

 

とはいえど首の皮一枚ながらも、リフレーション政策が完全に破棄されているわけではないので、岸田・植田氏は巧く逃げ切る可能性がないわけではないでしょうが、未だにかなり根深く日本社会に根付いてしまっているデフレ不況引力に負けないぐらいの金融緩和や積極財政によるロケットエンジンの噴射が必要でしょう。海外では景気や雇用が異常加熱しているといってもいいぐらいの状況になっていますが、日本はそうなっていません。アメリカや欧州は金利引き上げや緊縮財政によって景気過熱を抑えないといけませんが、日本はまだ金融緩和と積極財政を必要としています。最後のひと踏ん張りが必要です。

 

1980年代までの日本のように経済成長と毎年の昇給が当たり前の状況になっていくような状況にもっていきたいものです。

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