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基調講演 ドリュー・ハウストン×西山誠慈(全2記事)

「できの悪いマネージャーになるのではと不安だった」Dropbox創業者がコーディングをやめた当時

楽天社長・三木谷浩史氏が代表理事を務める新経済連盟主催「新経済サミット2017」の中で行われた基調講演に、Dropbox共同設立者兼CEOのドリュー・ハウストン氏が登壇しました。モデレーターを務めたのはウォール・ストリート・ジャーナル西山誠慈氏。本パートでは、ハウストン氏が意識し続けているインプット方法について紹介。また、これから起業を目指す人へのメッセージを贈りました。

インプットのために意識した読書・コミュニティ・マインドセット

西山誠慈氏(以下、西山):どうやって体系的にそういった取り組みをし、学習していますか? 前回お話しした時にちょっと意外だったのは、大変な読書家だそうで、「読書は過小評価されてる」ともおっしゃっていましたね。

今でもよく本を読まれますか? 読書以外にもなにか実行されていることはありますか?

ドリュー・ハウストン氏(以下、ハウストン):いろいろなインプットを得ることが大事だと思います。読書もそのうちの1つです。私にとっては本当に価値がありました。

起業したての頃、もともと私は技術系の人間なので、プログラミングについてはくわしかったのですが、ビジネスのことはあまり知らなかったのです。それで創業者として起業して、いかに自分が知らないことが多いかに気づく。

そこでまずやったのは、Amazonへアクセスして「セールス」という言葉を入力し、上位に出てくる2〜3冊の本を買いました。さらに、マーケティングとか戦略とか財務とか、マネジメント関連の他のいろいろなキーワードでも検索して同じことをしました。

本を読んだからといって、すばらしいバスケットボール選手とか、ミュージシャンになれないのと同じで、本を読んだだけで優秀な経営者にすぐになれるわけではありません。ただ、非常に効率良い学びを得ることができます。なので、読書は常に私にとって重要な位置づけにあります。

それから2つ目に、起業に関心を持つ友人やコミュニティ仲間を見つけることです。そういったコミュニティで知り合った人たちと、将来どこかの場で遭遇したり、一緒に会社を始めたり、といったこともよくあるものです。

私の起業家としての出発点はあるスタートアップの会議でしたが、そこで出会った人たちの多くとは、今でも連絡をとりあっています。その中にはDropboxに入社した人もいますし、自分で会社を作った人たちもいます。自分と同じような状況にいる人たち、あるいは自分よりも数歩先を進んでいる人たちからは、多くを学ぶことができます。私もそうやっていろいろな人から学びを得ました。

それから最後は、マインドセットについてです。非常に難しいのですが、「居心地の悪い状態に慣れる」ということです。新しいことに挑戦するのは不安ですから、当然「そこから逃れたい」と思うわけです。私の場合だったら、例えば人前で講演するとか、経営一般とか、得意でないことはいろいろあります。

そういった自分を不安にするような状況から逃げるのではなく、真っ向から取り組む姿勢を学ばなければなりません。

5年間くらいで、多くを学習することができます。5週間ですばらしいリーダー、すばらしいマネージャーにはなれないかもしれませんが、5年もあれば、大きな進歩を遂げることができます。

強みに見えることでも、見方を変えれば弱点になりかねない

西山:まだ居心地が悪いと感じるのはどういう状況でしょうか? 今そういった不安をまさに克服しようとしているものはありますか?

ハウストン:いい質問ですね。1つ気づいたのは、誰でも弱点を持っている、ということ。それがわかっただけでもラッキーだと思います。

今でもコーチをつけていて、いろいろなコーチに助けられています。まだ駆け出しの頃、私は技術に強くて、無秩序な状態や目新しいアイデアを好んでいたのですが、あるコーチから教わったのが「強みに見えることでも、見方を変えれば弱点になりかねない」ということでした。

無秩序を好むとは、裏返せば計画を立てるのが苦手ということですし、目新しいことに飛びつく人は物事を最後までやり通すのが得意でない、という意味になる。あるいは、良好な人間関係を築きたい・周りの人に好かれたいといったタイプの人は、対立状況とか、責任を追及したりするのが苦手です。

すなわち、自分の強みであっても、そのまま弱点になりうるということ。これは、すべての人が取り組んでいかなければならない課題ですね。

西山:そうですね。コーチをつけているという点、非常に興味があるのですが、経営の専門家なのですか? どのようなコーチの方にサポートいただいているのですか?

ハウストン:エグゼクティブ向けのコーチングに特化したサービスがあります。我々はサンフランシスコが拠点なので、現地にはそういうコーチはたくさんいます。

我々のマネジメントチームにもコーチがついていて、コーチ側もチームを組んで対応してもらっています。経営チームの一人ひとりにつき、それぞれチームを組んだ複数のコーチがいる、という具合です。コーチングは、非常にすばらしい経験です。

これまで、いろいろなコーチについてきましたが、それにはいくつか理由があります。急速に成長している企業のCEOとして一番難しいのは、ある職務に慣れてきて、うまくこなせるようになったと思い始めた頃に、別の新しい職務や仕事が降りかかってくるわけです。

エンジニアとしてコードを書くのが得意で、初期の頃はプロダクトマネージャー役も兼ねていました。でも、こうした古い職務で発揮された強みというのは、新しい仕事に着手する際の負担になるのです。新しい仕事を始める時は、得意なこと、好きなことに関わるのを一旦ストップしなければならない。

「会社にとってこれはマイナスなんじゃないだろうか」と心配した時期もありました。私がコーディング業務をやめた時、会社にとっては優秀なエンジニアを1人失ったことになりますが、代わりに増えたのはできの悪いマネージャーだけだったわけですから。

こうしたプロセスは創業当時から繰り返されていて、今でも起きていることです。自分にとってやっていて楽しい仕事に関わりすぎると、さまざまな意思決定が遅れて、自分自身が会社のボトルネックになってしまう。

コーチングは、こうした弱みに気づくための手助けをしてくれます。また、自分の弱点を克服するために、マネジメントチームとの良好な関係を築くことも大変重要です。相手を信頼して、その人のすばらしい才能に助けてもらう。チームで分担した方が勝率は高まりますから。

最近起業した友人からのアドバイスの方が役立つ場合が多い

西山:マネジメントコーチは高額なので、誰でも雇えるわけではないと思いますが。なにかコーチのかわりになるものはありますか? 

ハウストン:コーチングはそこまで費用はかからないですよ。ベンチャー投資を受けている企業であれば、それほど大きな経費にはならないと思います。その分のお金を使う価値も十分あります。

1時間で数百ドル払ったとしても、何百万単位の会社の予算があるわけですから、そういった経費、そういった支出をすることで、より賢く会社経営の意思決定ができるというのは、非常に費用対効果も高いと思います。

また、コーチ以外にも最近起業した人、たとえば6ヶ月、1年前、あるいは5年前くらいに起業した友人というのも、非常に貴重です。20年のベテランよりも、そういった最近起業した友人からのアドバイスの方が役立つ場合が多いのです。

起業したばかりの頃に必要になるのは、「資金調達について相談できる弁護士はどうやって見つけるのか?」「オフィススペースをどう確保するか?」という情報です。25年前に会社創業した著名人などは、当然何十年も過去のことですから、そこまで細かいことは覚えていないわけです。

同じスタートアップアクセラレータに参加した人や友人などは、そういう時に必要な情報を提供してくれます。重要なのは、さまざまなタイプの人や本、情報源など、自分にとって学びを与えてくれる人やもののバリエーションを持っていることだと思います。

西山:プロフェッショナルなコーチは必ずしも必要ではなくて、お互いに切磋琢磨できるような友人もコーチのような役割をしてくれる、ということですね。これは我々にとっても心強いことだと思います。

新たな働き方を求める時代で、古いツールを使い続けるのはおかしい

少し時間がなくなってきましたが、ご質問をお受けしたいと思います。

おそらくたくさんの質問があるのかと思いますが、日本語でも英語でもけっこうですので、ぜひご挙手いただけますでしょうか? フロアのスタッフの方がマイクを持ってうかがいますので。

質問者1:すばらしいプレゼンテーションありがとうございます。

以前パリで働いていた時に、ワシントンD.C.やロンドンの同僚とのやり取りする際、Dropboxにとても助けられました。ここは東京ですので、日本の状況についてお伺いしたいと思います。

日本では今、アベノミクスの一環として働き方の改革が推進されています。考え方としては、長時間労働をカットするとか、生産性を上げるといった内容ですが。Dropboxは、こういった働き方改革にどう寄与できるのか、お考えを聞かせていただけますか?

ハウストン:私も最近それについてよく話を聞いていますが、我々としてもお役に立てるのではないかと思っています。Dropboxや、それ以外の会社も、いろいろなかたちで貢献できるチャンスだと思います。

2つ、言えることがあります。

まず1つ目ですが、個人あるいはチームとしての生産性をどう高めていくのか、より多くのことを少ない時間で実現するにはどうしたらよいか、ということです。現在、我々が使っているさまざまなツールには改善の余地はありますし、不満もあるかもしれません。それでも物理的に、紙を使って仕事をするよりはずっと効率的なわけです。

今は、明日になったら今日やっていたことがすでに古臭く見えてしまうような時代です。世の中には自動運転の車とか、ドローン、VRがこれだけ普及してきているのに、職場ではなぜか30年前から存在しているツールをまだ使い続けている。これっておかしいと思うんですよね。

Dropbox Paperは、オフィスで日常的に使っているものの、より現代的なバージョンと言えますが、今後もこうしたツールをどんどん開発していきたい。先ほど申し上げた「仕事のための仕事に費やしている60パーセントの時間」をいかに低減していくかが、ポイントになってくると思います。

それから、我々が貢献できる2番目の点として、働き方の柔軟性を高められる、ということがあります。Dropbox Paperや、さっきのdot by dotの動画も良い例なのですが、バーチャルなワークスペースを作ることが可能なのです。

みなが物理的に同じ部屋に、同じ時間帯にいる必要はなくなるわけです。社員はいろいろなところから仕事ができます。会社の中にいても、社外にいても、同じバーチャル空間で集まることができるんです。

我々が使っているツールの多くは、クラウドとモバイルの普及で可能になった現代的で、より柔軟性の高いチームワークのために作られたものです。新しいプラットフォームに合わせて、新しいツールが開発されるべきです。そういった観点から、我々は会社としても業界としても、貢献できるのではないかと思います。

ITによって情報量が変わった、AIで変わるのは?

西山:それ以外のご質問はいかがでしょうか? あちらのほうに手を挙げてらっしゃる方がいますね。中央の列です。

質問者2:最近AIに大きな注目が集まっています。先ほどお話されたような、「仕事のための仕事」というのはAIを使って自動化できると思いますか?

ハウストン:絶対そうだと思います。今後起こることの中で、最もエキサイティングなことだと思います。過去数十年間の間に、ITによってなにが変わったかというと、それまで情報は簡単に手に入るものではありませんでした。その情報を複製し、誰でもアクセスしやすいようにしたのです。

今はまったく逆の状況で、情報過多になっています。みなさんほとんどは、もううんざりするほどたくさんのEメールを受信されていると思いますが、ここ20年間で、我々の情報処理のやり方というのは、ほとんど変わっていません。

情報は散らかっていて、我々自身が図書館員みたいに、いろんなものを整理して、ファイリングしたりしなければなりません。そして、いろんなところから点滅アラートが出てくるので、集中できない。

しかしこれは、機械学習のベーシックな機能で解決できることです。情報処理のタスクは、機械が最も得意とするものですから。将来は情報を整理したり、時間の優先順位をつけたり、なにかを検索したり、といった我々が行う活動の多くを機械がこなすようになるでしょう。そうならないと困るくらいです。

すべてが機械化されなくても、我々の活動の大部分が機械に支えられるようになるでしょう。最先端のAIや機械学習によって、我々の働き方に変革がもたらされると思います。

起業を目指すなら、インスピレーションを与えてくれる人々の中へ行け

西山:それでは、最後に1問だけ受けます。前列のほうです、どうぞ。

質問者3:ありがとうございます。過去のインタビューの中で「いい起業家というのは問題解決をすることに取り付かれている」とおっしゃっていました。また、「自分の強みを一番引き出せるような環境に自ら置くべきだ」というお話もされていました。

20代の私のような人間に対して、将来起業家になるための準備として、どういった環境でどういったものに集中したらいいのか、アドバイスをいただけますでしょうか?

ハウストン:私の母校はMITで数年前、卒業式のスピーチを行いました。その時も同様のテーマについて話しました。「自らの強みを引き出すような環境に身を置く」ということですが、私の例で言うと、まずいいエンジニアリングの学校に行くということでした。

MITでコンピュータサイエンスについて学んでいた時は、人生の中で前にも後にもないほど一番仕事あるいは勉強した時期だと思います。朝までずっと勉強していて、ロマンチックとは対極なかたちでの夜明けを何度も経験しました

いい大学の環境、そしてそこに集まる学生達は、自分にとっての優秀さのスタンダードをさらに押し上げるきっかけになります。私はいつも、高校でも数学で成績優秀でしたが、MITでは優秀の基準がまったく違います。お互いに切磋琢磨できるような、いい意味での競争関係、そういった環境に身を置くことによって、さらなる高みを目指すようになる。

また、そういう環境で出会う人々というのも、おもしろい仕事をされているのです。我々が初期に採用した社員にも、大学時代からの賢い友人達が多く含まれていました。

他に挙げられるのは、私はY Combinatorのプログラムにも参加していましたが、そういうところも起業家が集まり、コミュニティができる場所です。こういったカンファレンスもそうです。こういう場でネットワーキングをして、お互い学び合えるような友人を作るのも重要です。

ですから、具体的な環境というよりも、ポイントとしては「インスピレーションを与えてくれる人々に囲まれるような状況を作る」ということです。そうすることで、自らも高めることができるのではないでしょうか。

またここに戻ってくることができて、非常にうれしく思っております。ありがとうございました。

西山:まだご質問たくさんあるかと思いますが、残念ながら時間切れとなってしまいました。ぜひドリューさんのために、拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

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