サイボウズ株式会社が主催する「Cybozu Days 2024」。同イベントでは、全国の
kintoneユーザーの中から選ばれたファイナリストたちが活用事例を発表する「kintone hive tokyo vol.20/kintone AWARD」が行われました。
本記事では、関西地区代表の株式会社ワイドループ取締役の川咲亮司氏が登壇したセッションの模様をお届けします。穴だらけの基幹システムをkintoneでリプレイスし、業務効率化・生産性向上を実現するまでの経緯とは。
業務効率化・生産性向上を実現したワイドループ川咲亮司氏
川咲亮司氏(以下、川咲):どうも、ワイドループです。よろしくお願いします。今日は、「僕とkintoneの最優記」というテーマでお話しします。まずは、しばし自己紹介にお付き合いください。
私、川咲亮司は1982年、大阪生まれ大阪育ちで、現在42歳です。4歳の頃にトラックにはねられて頭蓋骨を骨折します。そして、翌年両親が離婚し、私は親父に引き取られます。
12歳の頃、競馬の騎手に憧れ、本気で騎手を目指すも、身長と体重の制限に苦労し、15歳でその夢を断念します。しかし、競馬界で働きたいという熱が下がらず、競走馬の担当員、いわゆる厩務員(きゅうむいん)という仕事に就きます。
その後、厩務員を退職し専門学校へ入学します。そして、在学中に知人と起業するんですが、その知人が資本金を持って逃走。私は24歳で謎の借金を抱えて、新たな社会人生活をスタートしました。
地元・大阪で就活し、Webコンサル会社へ就職しました。プライベートでは結婚があり、今度は30歳で抹茶スイーツのECショップの店長に転職しました。しかし、ECショップが軌道に乗らず、翌年事業ごと撤退。私は退職を余儀なくされます。
さらに転職を重ねます。今度は創業98年の老舗メーカーにWeb担当者として入社後、人事総務、経営企画の管理職となり、順風満帆にキャリアアップしていきました。
しかし、プライベートでネガティブイベントが発動。オーマイゴッド。このハートが弱ったタイミングで、今の社長からヘッドハンティングのお声がかかります。私は社長の罠にまんまとはまり、ワイドループへ転職。しかし、この転職により、川咲の風向きが変わります。
入社後、プライベートでは再婚し、入社5年後に役員へ就任。さらに、2024年6月、kintone hive osakaで優勝し、今日はこんなすばらしい舞台に立たせていただいております。
そう、ワイドループへの転職は、川咲のハッピーインパクトのトリガーだったんです。「kintoneがぜんぜん出てけえへん」と思っていますよね。はい、大丈夫です。みんな思ってます。
基幹システムをkintoneでリプレイス
川咲:続きまして、ワイドループという会社についてお話ししたいと思います。みなさん、スーパーやドラッグストアで、こういった3面が囲われた「カゴ台車」と呼ばれるものを見かけたことがありませんか? あるいは、倉庫や工場の外に積まれているパレット。それから、こういったモノを保管するための大小のラック。
これらを総称して「物流機器」、英語では「マテリアルハンドリング」、略して「マテハン」と呼んだりするんですが、弊社はこれらが不要になったお客さまから、これを買い取ってきて中古で販売する、いわゆるリユースビジネスをなりわいとしております。商品は「中古でマテハン」というWebサイトで、すべて販売しております。
そしてここで、みなさんにもう1人紹介したいと思います。弊社のゆるキャラ、「中古でマテハンくん」でございます。この個性的なルックスから、社内外で大不人気。彼の公式Instagramもございますので、もしよろしければフォローいただければ彼も喜びます。
さて、ここからが本題です。我々がkintoneでやったこと、それは基幹システムをkintoneでリプレイスしました。事例としては、少しスケールの大きいお話になるかと思います。
まずはリプレイス前の、古のシステムをご覧ください。当時、販売管理システムPというパッケージソフトを、基幹システムとして使っていました。その範ちゅうとしては、営業は見積書や発注書の作成。買取チームでは、買取の案件管理。また、買い取ってきた商品のマスタ登録。それから経理のほうでは、各種伝票の管理をしていました。
そして、弊社の商品が売れた場合、その情報をLINE・FAX・メールと、各営業が日々使い慣れたツールを使って、センターへ情報を伝達していました。その情報を受け取ったセンターは、各センターのルールで、Excelを使って案件を管理していました。
基幹システムがもたらしていた3つの不思議
川咲:これだけ聞くと、「システムをまるっと入れ替えないといけないほど大きな問題はないんじゃないか?」と思われますよね。しかし、このパッケージソフトが、当社に不思議なことをもたらしていました。今日はその印象深い、ミステリアスな3つのお話をいたします。
まず1つ目、「過大評価される備考欄」。商品を販売していると、売上が立てば、その仕入れも発生しますよね。そして、これらが何らかのかたちでひも付いている。これが正しい姿だと思います。
しかし、当時のシステムは、販売と仕入れを管理する機能がそれぞれ独立しており、システム的に結びつけることができなかったんです。そして、それを運用でカバーしようと敷いていたルールがこちら。「それぞれの備考欄に、それぞれの管理番号を入力する」です。
これを聞いて、「ヤバッ」と思っていない方、ヤバいですよ。これはだいぶヤバい運用をしています。そうなんです。入力漏れ・入力ミスが多発しておりました。
続いて2つ目、「出荷されない予約品」。まず前提条件として、弊社の在庫のほとんどが中古品、つまり現品限りなんですね。ということは、確度が高い案件の場合には、在庫を仮押さえしておかないといけないんです。そうしないと、他の営業が売ってしまいます。
しかし、この仮押さえをやっていたことを忘れてしまうんです。案件が失注したにもかかわらず、在庫を仮押さえしたまま放置される。すると、倉庫のあちこちに、未来永劫売れるはずのない商品であふれるんです。なのに、毎月の営業会議では「在庫回転率を上げるんや!」と、アホみたいにうたわれている。まさに「Why Japanese people!」です。
バグが大量発生、決算が合わなくなる問題も
川咲:そして最後の3つ目、「上書きされる過去」。商品の売れ行きが想定より鈍いなという場合、プライスダウンするのは、至極一般的なお話かなと思います。しかし、当時のシステムは、商品マスタの販売単価を更新すると、あら素敵。過去の売上データまで、すべて新価格で更新してくれる。
これにはさすがの私も、「なんでやねん! どんなシステムやねん!!」とベタにツッコみました。しかし、パッケージソフトにカスタマイズを重ねた結果、こういったバグとも取れる問題があちこちに起こっていたんです。
すると毎年年度末、性懲りもなく、うちの社長と会計士さんが頭を悩ませるんです。そうです、決算が合わないので2人は苦労しているんです。当時のシステムの一番の問題点がここにありました。こうして私は、「このシステムが起こすファンタジーワールドからいち早く出たい」という思いで、kintoneの導入提案を決意いたしました。
旧システムに慣れ親しんだ社員を説得するための秘策
川咲:基幹システムを替える時の壁は、旧システムに慣れ親しんだ社員の抵抗です。私が入れ替え後のメリットをどれだけ伝えようとも、感情論というレガシーな武器を持って向かってくるんです。これはもう戦争です。
では、その解決方法は? 正解は対話です。それは私もわかっていますが、対話には時間がかかる。もっと手っ取り早くできへんか? 思想強めの私は、良からぬことを思いつきました。「そうや。社員をkintoneに洗脳してしまおう」。そして私は、社員を洗脳するためのアプリを3つ作りました。
洗脳アプリ1つ目。先ほど見ていただいた業務フローの中で、最も非効率な運用をしているこの部分をまず、業務改善しようということで、私は「入出荷管理アプリ」を作りました。私はこのアプリによって、社員に「kintoneって、めちゃ便利やん」という印象を刷り込んだんです。
続いて、洗脳アプリ2つ目。「業務日報アプリ」です。ルールは簡単。「毎日書こう」これだけ。フリースタイルなので、月曜日の日報は、みんな週末のプライベートのことを書きがちで、ほぼ日記です。しかし、私はこのアプリによって社員に、「kintoneって初心者にめちゃ優しい」という印象を刷り込みました。
洗脳アプリ3つ目。「39ポイントアプリ」です。これは簡単に言うと、日頃の同僚への感謝の気持ちを、kintoneを通じて、アプリでポイントとしてギブできる仕組みを作りました。もちろん、たまったポイントはギフトに交換することができます。
そして私はこのアプリで、「kintoneってめちゃええやん」と、kintoneの好感度を上げることにしたんです。この3つのアプリを使い、私は社員に「kintoneは安全だよ~」「kintoneは怖くないよ~」と、社員をkintoneに慣れさせ、洗脳することに成功したんです。
各部門へのヒアリング行脚も
川咲:そして、kintoneへの抵抗がなくなってきた隙を見て、私は一気に、kintoneによる基幹システムのリプレイスプロジェクトを推進しました。そして、このプロジェクトを進めるにあたり、まず私がやったことは、各部門へのヒアリング行脚ですね。まぁ事情聴取です。
私は各部門を渡り、どの業務の中で、どのタイミングで、この基幹システムのどの機能を使って、どんな情報を入力しているのか、すべての情報を集めました。そして、この基幹システム以外に使っているアプリ・ソフトがあれば、その情報も聞き出し、案件の発生から終わりまで、一連の流れで情報を整理いたしました。これは実際に作成した資料です。
そして、次に私がやったことは、この整理した業務フローをkintoneに置き替えた場合、「こうしたほうがいいんちゃうかな」というシミュレーションをアウトプットしました。こんな感じの資料を作りました。「こんなアプリを作って、このアプリではこんな情報を管理しよう。そしてこのタイミングでは、次にこの情報をこのアプリに伝達しよう」。そんな流れがざっと書いてあります。
そしてこれらの資料を持って、今日、展示ブースで出展されているアールスリー(インスティテュート)さんを訪ね、「こんな基幹システムを作ってちょうだい」とお願いに伺いました。
社内すべての情報をkintoneで一元管理できるまでに
川咲:その後、かくかくしかじかありましたが、なんとかプロジェクトがスタートします。こちらが当時のざっくりスケジュールでございます。3月にキックオフミーティングがあり、ローンチしたのが1年後の3月になります。
本番稼働前、現行のシステムと基幹システムの並行運用を2ヶ月行いました。そして、満を持してローンチ、とはいかず、半ば強引にスタートしました。すると、正式稼働後も社内からの私への問い合わせが、2ヶ月ほど鳴り止まなかったんです。
しかし、3ヶ月経つと、ようやく問い合わせが落ち着きます。そして、一部の社員がこう言うんです。「あれ? めちゃめちゃ便利じゃね? これ」。そう、やっとkintoneの魅力に気づくんです。
しかし、弊社には御年68の翁がいます。こう言います。「前のシステムでは○○ができたのに! きんとんはできないじゃないか! なんでシステムを替えたの?」。「並行運用の時に言え! なんで今言うねん」という感じですが、唯一kintoneに抗う、孤高のレジスタンスが現れました。1人、私の洗脳にかからないのです。
そういえば、コロナワクチンを何回打っても副反応が出ないと言っていました。同じ理屈かもしれません。しかし、この抵抗勢力を駆逐するわけにはいかない。このじじい、いや、このおじいさんとなんとか手を取り合わないといけない。
そして考え抜いた結果、1つ、その解決の糸口が見つかりました。接待麻雀です。さらに言うと、飲み会からの接待麻雀。これが抜群に効果を発揮しました。20代の若手が中心になって、このおじいさんと一緒に麻雀を打つ。おじいさんからすると、孫の世代の後輩が一緒に雀卓を囲んでくれることほどハッピーなことはありません。見事、おじいさんのハートをツモることに大成功です。
1年運用してみて、各現場のオペレーションは超回っています。あとは、社長のストレスとなっている会計(決算)が合わない点の検証です。これは1年後にしかできません。やってみたんですが、完璧には合わなかったんです。
しかし、何が原因で合わないのかがクリアなので、手が打てるんです。そして私は社長に、「来期はこれで完璧に合わせられます」と伝えました。こちらが、我々がkintoneを使って構築した基幹システムの全体像です。このように現在我々は、社内すべての情報をkintoneで一元管理しています。
社内に最低1名は必要な人材
川咲:最後にまとめに入ります。まず1つ目。本気を出せば、kintoneで基幹システムまで、このように作れちゃうんです。2つ目。問題提起とロジカルな情報整理ができる人材が、社内に最低1名は必要です。これがプロジェクトのエンジンとなる人間であれば、なお良しだと思います。
そして最後の3つ目。なんだかんだで人間関係は重要です。人間関係がしっかりしていれば、極端な話、kintoneに限らず、どんなシステムでも大きな反発なく、それなりの運用には乗ると思っています。その良好な人間関係を構築するために、我々は麻雀と飲みニケーションが、たまたま起因したというお話でございました。
この3つをまとめとして、今日の発表を締めくくらせていただこうと思います。以上、「僕とkintoneの最優記」でした。ご清聴ありがとうございました。おおきに。
ロジカルな課題整理ができるようになる習慣
司会者:川咲さん、ありがとうございました。ではさっそく、質問に入らせていただきたいと思います。基幹システムとして構成されていたスライドがありましたが、さまざまなデータ連携をしていらっしゃると思います。プラグインか何かをご利用されていたんですか?
川咲:アールスリーさんのCustomineがメインですね。
司会者:Customineメインで、複数のアプリをすべてデータ連携させた。ありがとうございます。あと、もう1点おうかがいしたいんですが、最後のスライドで、「ロジカルな課題整理ができる人材が必要」とありました。まさにみなさんも、「こういった人材が社内にいるといいな」と感じられたと思うんですが、なかなかそういう人材が育成できない課題もあると思います。
川咲さんが、そういったことができるようになるまでに、何か心掛けていたことや、「こういうことをすれば、課題整理力がつくよ」ということはありますか?
川咲:そうですね。強いて言うと、「世の中を否定的に見る」ことですかね。すべての物事に粗探しをするというか、問題点を探して、自分の中で、「自分ならこうするな」という解決案も提示する。その繰り返しかなと思います。
司会者:それであれば、小さなところから始められそうですね。今ある業務オペレーションを、「これが一番最適なのかな?」というところから思考を始めるということですね。川咲さんのご登壇は以上となります。ありがとうございました。
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