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手塚治虫 1985年頃のインタビュー(全1記事)

手塚治虫氏 「ヒューマニズムなんてのは、砂糖みたいなもんだ」 自作品を語る

渋谷陽一氏が1985年頃に行なったという、手塚治虫氏へのインタビューの一部を書き起こし。世間で「手塚ヒューマニズム」と呼ばれるものについて、自身の思いを述べました。

渋谷陽一氏(以下、渋谷):その、倫理観というんですか、道徳観というんですか、(手塚治虫氏は)それを決めちゃった人なんですよね。

手塚治虫氏(以下、手塚):いやいや、そんなことないでしょう。やっぱり安保が決めたんでしょう。

渋谷:そんなことないですよ。ヒューマニズムというのは、基本的に、僕らの中に手塚治虫的な非常に苦いヒューマニズムと言うんですかね、そういうのですごく影響を受けていますよね。

手塚:そのヒューマニズムっていうのはね……手塚ヒューマニズムって、よく昔の人が言ってるのはね、本当にもう、耳ふさぎたいんですよね。

渋谷:すみません(笑)。

手塚:ヒューマニズムっていうのは、僕にとって砂糖なんですよ。オブラートなんです。もっと僕の本音を読んでほしいわけ。くさいんだよ、ヒューマニズムっていうのは。僕としては自分からさらけ出してね、どろどろしたもん書きたいんだけど、それが出来ないってところが、商売人っていうのはダメなんだね。

渋谷:本当にオブラートなんですかね?

手塚:僕は、つげ義春とか……まあ大友君は6世代の方だから別なんで、これはまた違うと思うんだけど、つげ君とか水木氏ね、それから滝田ゆう、この辺は本音だけで書いているから、うらやましくてしょうがない。全くこれ、歯に物を着せないでしょ。白土氏のほうがまだ商売人ですよ。

渋谷:かもしれませんね。

手塚:あれは、『忍者武芸帳』でも何べんも描いているわけですよね。つまり一番最初に、紙芝居で描いてね、それから『忍者武芸帳』やって、『カムイ外伝』やって『カムイ伝』でしょ。だんだんオブラートが入ってきているんですね。ね、だんだん面白くなくなっている。でも僕、紙芝居の『忍者武芸帳』見たいんだな。あれこそ、本当に生活に追われて、七転八倒して描いて、脂汗のたまものだと思うんですよ。そういうものが、僕にはないんだ。出てないわけ。それを出したいんですよ。

渋谷:本当に出てないんでしょうかね?

手塚:出たとしたらね、本当に初期の、僕の1万円何某の原稿料もらうためにね、赤本単行本屋に通ってせっせと原稿を描いた、あのころにいくつかあるかもわからないですがね。妥協しないもの描きたいんだよね。

渋谷:例えば描かざる一編があるとするならば、それは手塚さんの頭の中で、どういうものとして?

手塚:それは、どんなものでもなるんですよ。なる要素はあるわけ。例えば今描いている『アドルフ』にしてもね、『陽だまりの樹』にしても『火の鳥』にしても、それをやろうと思えばできるんです。ただ、怖いんだ。それでもう手塚おしまいじゃないか、ていうような感じがすごくあるわけ。やっぱり手塚プロと女房と子供、食わしていますからね。今の50才代の手塚治虫としては、それは清水の舞台から飛び降りる気持ちになっちゃうんですよ。だから僕があと30年若ければね、それをバーンとぶつけてアメリカなんかに逃げちゃったりね。

渋谷:(笑)。

手塚:20年ぐらい帰ってこないっていう形ならば、僕はやらないとも限らない。

※画像は手塚治虫作『ブラック・ジャック』

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