1881年に服部金太郎氏によって服部時計店として創業したセイコーは、自社工場である精工舎の名称が由来の「SEIKO」の名を冠した最初の腕時計を1924年に発売しています。つまり、2024年は「SEIKO」ブランドの誕生からちょうど100年目。
ということで、同社は目下、100周年を記念するアイテムを展開中です。今回、取り上げるモデルは、その第4弾として2024年6月8日に発売された、今、いちばん注目したいセイコーダイバーズです。
今回紹介するセイコー「プロスペックス ダイバースキューバ メカニカルダイバーズ1965 ヘリテージ」のブラック文字板&ブラックベゼルタイプ「SBDC197」。公式サイト価格は176,000円(税込)
「メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ」はスポーツ&アウトドアに対応する機能を備えた腕時計ブランド「プロスペックス」のダイバーズモデルのコレクション「ダイバースキューバ」にカテゴライズされます。セイコーダイバーズの伝統を受け継ぎつつ、今作のモデル名からも察するとおり、1965年に同社が発売した国産初のダイバーズ(以下「1965 メカニカルダイバーズ」)に範を求め、かつ洗練したスタイルと現代的なスペックを身に着けた自動巻きモデルです。
ちなみに、新作モデルはカラーバリエーションとして3色が同時発売されたのですが、以下では、1965年の国産初ダイバーズと同色との理由から、ブラック文字板×ブラックベゼルタイプ「SBDC197」を核に解説していきます。なお、ほかの2色は、本稿後半で紹介します。
今作の「SBDC197」を語るうえで欠かせないのが、前述の「1965 メカニカルダイバーズ」と2020年に発売された「プロスペックス ダイバースキューバ メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ SBDC101」(以下「SBDC101」)の存在です。それでは時計の針を1965年に巻き戻しましょう。
長い歴史の中で数多くの「日本初」や「世界初」のモニュメントを打ち立ててきたセイコーですが、「1965 メカニカルダイバーズ」の開発も、そうした偉業のひとつです。ダイバーズと言えば、海外ブランド品にごく少数が存在するのみだった1965年当時、150m防水を実現して国産初のダイバーズとして登場した自動巻きモデルは一躍、若者たちの憧れの的に。また、高い信頼性により、翌年1966年には南極地域観測隊の支給品にも採用されました。
こちらが時計マニアの間で「150mダイバーズ」と通称されている「1965 メカニカルダイバーズ」。新作「SBDC197」は、このレガシーな銘品のデザインに範を置き、讃を贈るモデルです
そして55年の時を経た2020年6月19日、その歴史的な傑作ダイバーズをオリジナルデザインとするスペックアップモデル「SBDC101」が発売されました。このときも時計好きやセイコーのファンの間で大変な話題となりました。今なお、その人気ぶりは衰えていません。
2020年6月の発売以来、高い人気を堅持している「セイコー プロスペックス ダイバースキューバ メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ SBDC101」。公式サイト価格は167,200円(税込)
「1965 メカニカルダイバーズ」のエッセンスをしっかりと継ぎながらも、巧みにモダナイズが図られた「SBDC101」では、防水性能が元祖の150mから200m空気潜水用防水に進化しています。また、搭載の自動巻きキャリバー「6R35」がパワーリザーブ約70時間であるなど、今時の使用に適した実用性を備えています。
こちらが新登場の「SBDC197」。一見して先行モデルの「SBDC101」に酷似しているのですが……
ところで今作「SBDC197」と先行の「SBDC101」を見比べて、「すごく似ている」との印象を抱かれた人は少なくないことでしょう。ともに「メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ」と謳われた両者ですが、ご覧のとおり、「SBDC197」は先行の「SBDC101」をデザインベースにしているのは事実なのです。とはいえ、両者のスペックを比べてみれば、いくつかの点で異なることがわかります。ということで、それら相違点をあげてみましょう。
▼「SBDC101」から「SBDC197」にかけて変更したポイント
・ムーブメントが「6R35」から「6R55」に変更。いずれも自動巻き
・パワーリザーブが約70時間から約72時間に延長
・日付表示窓が3時位置から、4時と5時の間に移動し、窓枠が角形から丸窓に
・ケースサイズが、40.5(横)×47.6(縦)×13.2(厚さ)mmから40(横)×46.4(縦)×13(厚さ)mmにコンパクト化
・総重量が約180gから約168gに軽量化
・防水性能が200m空気潜水用防水から、300m空気潜水用防水に
・「SBDC101」はチャコールグレー文字板、「SBDC197」はブラック文字板
・ブレスレットの駒ピッチが9.6mmから8.0mmに
・公式サイト価格が「SBDC101」は167,200円(税込)、「SBDC197」は176,000円(税込)
細部を見ればほかにも相違点はあるものの、主な違いは以上です。もしも購入に際して、どちらを選ぼうかと迷ったら、上記を参考にしてもよいでしょう。ということで、上記一覧に沿いながら、以下より、「SBDC197」について検証していきます。
同社のダイバーズでは初採用となる自動巻きキャリバー「6R55」は、最大巻き上げ時の駆動期間が約72時間に及びます。すなわち、これは約3日間相当のロングパワーリザーブ。たとえば、金曜夜の帰宅後から放置したままにしても、月曜の朝も余裕で動作しているばかりか、その日の日中も動き続けているのですから、これは非常にありがたいのです。
日付表示窓が4時と5時の間に。6時位置の「AUTOMATIC 3 DAYS」「DIVER'S 300m」の記載も誇らしい
元祖「1965 メカニカルダイバーズ」と先行の「SBDC101」はともに、日付表示は3時位置に設けられていました。しかし、「SBDC197」では4時と5時の間に移され、数字が縁なし丸窓の中に控えめに示されることとなり、結果、日付なしモデルのごとき簡素でシンメトリーなフェイスに仕上がりました。代わって、3時のインデックスはフルサイズに。これにより、ISO6425(※)の「判読性」の項「暗い所でも25cmの距離から目視によって(中略)明瞭に確認できなければならない」に十分に対応するものとなったのです。
キャリバー「6R55」の採用によって得られたメリットはほかに、コンパクト化と軽量化があげられます。キャリバー「6R35」搭載の「SBDC101」に比してケースサイズが0.5(横)×1.2(縦)×0.2(厚さ)mmコンパクトになり、総重量も約12g軽くなったのです。わずかな違いではあるものの、実は、装着した際の手元の印象や着け心地に影響する要素だけに、これも見逃せない変更ポイントと言えるでしょう。
※:ダイバーズウォッチに対する国際規格で、ダイバーの命を守るための規定
ケースバックの中心に刻印されたメダリオン。セイコーの現行ダイバーズの多くに取り入れられている、この“波のモチーフ”が、確かな防水性能を証しています
スペックの防水性能の項を確認しますと、「300m空気潜水用防水」と記載されていることがわかります。空気潜水用防水とは「圧縮空気を呼吸気体として用いる浅海潜水において、最低100mの潜水に耐える性能」のこと。セイコーではこれに沿い、空気ボンベを使用する潜水に使用可能な100m防水、ないし200m防水のダイバーズに「空気潜水用防水」の表示を付しているのですが、「SBDC197」に関しては、それらを凌ぐ、空気潜水用防水における最高性能が備わっているわけです。
ちなみに、空気ボンベを使うダイビングは、ベテランでも最大水深が40〜57m、一般では30mほどなので、300m空気潜水用防水がオーバースペックなのは確か。しかし、それだけ「SBDC197」における防水性能の信頼性がすこぶる高いことが理解できます。
陽光が不十分な水中においては、夜光はダイバーズに必須のスペックです。本モデルも極太の針やインデックスなどに塗布されたルミブライトにより、深海にいてもハッキリと時間が読み取れるはずです
ところで前述したとおり、今回の「ダイバースキューバ メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ」にはカラバリとして3色(いずれも基本スペックは同一)を取り揃えています。ほかの2色もまた、大変魅力的ですので、この項で紹介したいと思います。
近年、時計の“お約束”カラーとしてすっかり定着したブルーですが、この「SBDC195」ではそれを文字板&ベゼルトップに採用したことで、元祖モデル「1965 メカニカルダイバーズ」のオーセンティックな味わいはそのままに、グッとモダンでスタイリッシュなフェイスに。陽光が微かに届くにすぎない深海の世界を思わせる、奥行きある色調が誠に美しい……。
ブルーオーシャンを想起させる「SBDC195」は若々しく、清潔感ある姿が好ましい。公式サイト価格は176,000円(税込)
もう一作は数量限定の「SBDC199」。大都市の夜景をあやなす煌(きら)めきをテーマとし、チャコールグレーの文字板に、ブランド誕生100周年を祝うゴールドカラーの差し色が施されています。標準装備のブレスレットに加え、ペットボトル再生原料を使ったファブリックストラップが付属。日本伝統の技術「製紐(せいちゅう)」で編み込んだことで、立体的な織り柄が美しく、しなやかさや高通気性、高堅牢性も兼ね備えています。
ブランド100周年を祝す「メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ スペシャルエディションSBDC199」は、数量限定で販売。公式サイト価格は203,500円(税込)
こちらがファブリックストラップを装着した姿
では、ここで「SBDC197」を試着です。コンパクト化で実現されたケース幅40mmは、大きすぎず、小さすぎずの絶妙サイズ。スポーツモデルながらもシンプル&ベーシックデザインであることと相まって、これならビジネススタイルに合わせてもまったく違和感がありません。しかも、元祖「1965 メカニカルダイバーズ」由来の極太な針&インデックスによって視認性は上々で、ダイビングなどのスポーツシーンではもちろんのこと、日常使いにあっても頼もしいフェイスデザインです。
奇をてらった点はないけれど、それゆえにオン/オフ問わず、さまざまなスタイルに合い、日常生活に溶け込んでくれます
また、着け心地のよさも特筆したい点です。というのも、8mmの短いピッチのブレス駒で構成された新開発のブレスレットがフレキシブルに可動しながら、手首にしなやかに寄り添ってくれるからです。そして、これにコンパクトなケースが組み合わされたことで、たとえ終日装着していてもストレスフリーで使えるでしょう!
先行モデル「SBDC101」の人気ぶりは揺るがず、しかし、絶妙なサイズ感により、腕の太さを気にすることなく普段使いできるのが「SBDC197」のいいところです。加えて、ロングパワーリザーブは実用的で頼もしく、しかも、自動巻きながらお値段はカジュアルなので、機械式ダイバーズの入門編としても、かなり狙い目。また、国産初のダイバーズの血統を継ぎつつ、防水性能が300m空気潜水用防水という超絶ぶりであるなど、ちょっと人に語りたくなってしまうポイントもたくさんあります。
【SPEC】
セイコー「プロスペックス ダイバースキューバ メカニカルダイバーズ 1965 ヘリテージ SBDC197」
●駆動方式:自動巻き(手巻き付き)
●ムーブメント:キャリバー「6R55」
●パワーリザーブ:約72時間(最大巻き上げ時)
●防水性能:300m空気潜水用防水
●耐磁性能:あり
●ケース材質:ステンレス
●ケース表面処理:ダイヤシールドコーティング
●ガラス素材:カーブサファイア
●ガラス表面処理:内面無反射コーティング
●ケースサイズ:40(横)×46.4(縦)×13(厚さ)mm
●バンド材質:ステンレス
●バンド中留め:ワンプッシュダイバーエクステンダー方式
●総重量:168g
●そのほかの機能&仕様:秒針停止、逆回転防止ベゼル、夜光処理(針、インデックス、ベゼル)、ねじロック式リューズ、スクリューバックなど
写真/篠田麦也(篠田写真事務所)